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≪Marella≫森梟のなないろあそび。

     

<オープニング>

●時の栞フェルトフェルタ
 爽やかな新緑の息吹を含んだ初夏の雨。
 たまになら気持ちのよいそれも、何日も降り続けるのは困りものです。
 森梟のクリッタと灰色リスのプップも雨で立派なブナの樹のうろに籠もりきりになって、きらきら輝く木漏れ日や、晴れた日に水遊びで濡れた羽や毛皮をおひさまの光で乾かす幸せについてひたすら語り合う日々をすごしていました。
「おひさまが恋しいね。雨ばっかり続くととっても『あんにゅい』になっちゃうよ」
「うう。あんにゅいって、とっても退屈なんだね……」
 ごろごろごろん。樹のうろで転がりながら、一羽と一匹は顔を見合わせます。
 アンニュイは、クリッタとプップが最近覚えたばかりのお気に入りの言葉です。
 けれどそのお気に入りの言葉を口にするのも滅入ってきた、そんな頃――ようやく雨があがる日がやってきました。
 雨に綺麗さっぱり洗われた、爽やかな風がさやさや吹いてきます。
 雨にぴかぴかに磨きあげられた、優しく眩い木漏れ日がきらきらと踊ります。
 もういてもたってもいられなくて、クリッタとプップは元気よくブナの樹のうろから飛びだしました。
 そこに広がっていたのは、雨上がりで空気の澄みきった、飛びきり瑞々しい初夏の森――だったのですが。
「わあ、何これ!」
「ええと、ええと、こういうの、『からふる』って言うんだよね!」
 雨上がりの初夏の森に飛びだした彼らが見たものは、森のあちこちにできた、たくさんの水たまり。それもひとつひとつがとても大きくて、それぞれ、色とりどりの鮮やかな色をしていたのです。
「とっても不思議だけど、とっても綺麗だね!」
「もっと近くで見てみようよ!」
 一羽と一匹はわくわくしながら、色とりどりの水たまりのひとつ、今日の晴れた空みたいな青い空色の水たまりを覗きこんでみました。そうしたら、すってんころりん。ぱしゃんと水たまりに落っこちた一羽と一匹の羽毛と毛皮まで、不思議なことに空色に染まってしまったのです。
「灰色リスじゃなくて、空色リスになったねプップ!」
「きみだってそれじゃ、森梟じゃなくて空梟だよクリッタ!」
 一羽と一匹はお互い目をまんまるにして、次の瞬間には思いきり声をあげて笑いだしました。
 だって、なんだかとっても楽しかったから!
 そうして、いっぱい笑って空を見上げてみれば、そこには、七色に輝く虹がかかっていました。

 それは紫煙群塔ラッドシティの農村地域をゆったり通る街道沿い、大きな森に寄り添うよう創られた時の栞フェルトフェルタの街で語られる、森梟クリッタの物語のひとかけら。
 ――ねえ、知ってる?
 ドロークラウダで朝から降る初夏の雨が上がるお昼頃、時の栞フェルトフェルタの時計塔広場では森梟クリッタの物語で語られていたような、とびきり楽しい七色の虹が見られるってこと。
 森梟のなないろあそび。
 初夏の雨上がりに開かれる、そんな可愛い名前の市では、七色の虹のように綺麗に色とりどりに染められた糸や布に織物、そしてまぁるいカップやキャセロール鍋にたっぷり満たされる色とりどりの美味しいスープが選り取り見取り。
 ――雨上がりには森梟がやってきて、君に飛びきりの虹を見せてくれるよ。

●森梟のなないろあそび。
 初夏の雨上がりの瑞々しい風と光に彩られ、時計塔広場の市に優しい色合いのサマーストールがふうわり翻る。淡い透け感が涼やかなリネンコットンや水のような肌触りが心地好いシルクと、素材も色合いも選び放題で、いやいっそ自分で編みたい織りたい! という者のためにはリネンやコットン主体のサマーヤーンの糸玉の山が待っている。
 愛らしいパステルカラーのころんとまぁるい糸玉達を見ているだけでも心が躍るけど、可憐なローズピンクの糸に涼やかなライラックの糸を絡めて糸玉にしたファンシーヤーンなんて、それそのものが華やかな虹の珠。
 もちろん糸ばかりでなくふんわり柔らかな波の虹を見せてくれるリネンやコットンの生地も、様々な美しい模様が織りだされたシルクの織物や精緻で華麗なレースだって人気の売り物だ。
 初夏の風に軽やかに踊るカフェカーテン、ふんわり透けるシフォンと煌くパールピーズで咲かせた白薔薇のコサージュ、乙女の胸を飛びきり弾ませてくれるそれらをそのまま買ってもいいし、素材をたっぷり買い込んで、自分で作るひとときに想いを馳せるのもとっても素敵。
 糸に布に織物の虹の世界の先には、七色の虹みたいに選り取り見取りのスープの市。
 完熟トマトに鷹の爪をきかせ、赤葡萄酒で蕩けるように煮込んだ牛肉のピリ辛スープにはライスを添えて、鮮やかなのにとろりとまろやかなオレンジ色のバターチキンカレーにはナンを一緒にどうぞ。
 みじんぎりにして炒めた玉ねぎとベーコンの食感が楽しい濃厚な南瓜のポタージュにはシンプルなカンパーニュ、バジルの香りが鮮やかでじゃがいもとブロッコリーの風味が優しい冷製ポタージュは極細のパスタ、カッペリーニなんかに絡めてもきっと美味。
 蕩ける揚げ茄子とぷりぷりの海老を潜めたグリーンカレーには何を合わせようか。
 凍らせたブルーベリーを裏ごししてミルクとヨーグルトに合わせたデザートスープには? ほっこり優しい甘味が心までほっとさせてくれる紫芋のポタージュには?
 目移りしてしまうそこは美味しい色彩の渦。
 けれど流石に、青はないかな――と振り返れば、途端に瞳に青が飛び込んでくる。
 それは真白でふんわり冷たくとろりと優しい味わいのビシソワーズ。
 その上に、夏空の青みたいに鮮やかな彩りのエディブルフラワー――矢車菊の花びらがふんわり散らされた、とびきり涼やかな彩の一品。

 時の栞フェルトフェルタ。
 そこに仮住まいを持ち、日々をすごしているからには勿論噂も聴いていたけれど、
「幸せなエンディングの光景で視られるとやっぱり格別よね!」
「かくべつとくべつ! だよねー! って、きゃーゼルディアちゃん甘夏食べちゃダメー!」
 街で視たエンディングを語った陽凰姫・ゼルディア(c07051)が瑞々しい甘夏をぱくんと食べれば、雁渡の狩猟者・アンジュ(cn0037)が慌ててゼルディアの婿なゆずひよこを彼女の手に乗せた。
 甘夏の身代わりである。
 何せ乙女のお泊まり会のお菓子のために甘夏剥きの手伝いに来ているはずなのに、進捗状況は三歩進んで二歩下がる感じ。
「うん、甘夏食べたいけど……お泊まり会のために、耐えるわ!」
 ぱくんとゆずひよこを齧り、ゼルディアも改めて気合いを入れた。
 森梟クリッタの七色が映った水たまりの話をモチーフにした市、なないろあそび。

『女の子だけでたっぷりお買い物を楽しんで、そのあとうちでお泊まり会をしましょう?』

 ――と、もうみんなをお招き済みなのだ。
 乙女達だけできゃあきゃあすごす秘密の時間は、乙女達には絶対必須の栄養分。
 糸に布に織物の虹をたっぷり買い込み、美味しいスープの虹は可愛いキャセロール鍋でたっぷりお持ち帰り。そうしておうちでみんなで美味しく頂きながら、なないろあそびで見たものの話や戦利品の見せあいっこできゃあきゃあ言って、乙女の内緒話もたっぷり語って、好きなだけ夜更かしを。
「嬉しいね、楽しみだね、幸せだね」
「ほんと、飛びきり楽しくて幸せな休日になるといいな」
 幸せに笑み交わし、ゼルディアは摘み食いの誘惑に耐えつつ甘夏を手に取った。

 ――雨上がりには森梟がやってきて、君に飛びきりの虹を見せてくれるよ。


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参加者
絶対自由・クローディア(c00038)
万華響・ラヴィスローズ(c02647)
陽凰姫・ゼルディア(c07051)
浮葉・ファルス(c09817)
勿忘草・ヴリーズィ(c10269)
馥郁・アデュラリア(c35985)

<リプレイ>

●森梟のなないろあそび。
 瑞々しくきらきら踊るおひさまの光と、飛びきり乙女心をくすぐるなないろの虹に誘われて、森梟の乙女達はぴかぴかに磨きあげられた初夏の風吹くフェルトフェルタへ飛びだしました。
 雨上がりの街を彩る虹は幸せいっぱい夢いっぱい!
 次から次へ魔法みたいに現れる虹をめいっぱい抱え、乙女達が戻ってきたおうちは――。

「ゼルディア、ご招待ありがとうー!」
「あっ、リズさんずるい私もゼルさんにぎゅう!!」
「わあいわあいアンジュも混ぜて混ぜてー!!」
「きゃー! みんなみんないらっしゃいー!!」
 童話の本の表紙めいた扉が開かれると同時にぎゅっと抱きついた勿忘草・ヴリーズィ(c10269)を皮切りに、買い物中のぎゅうでは足りなかった絶対自由・クローディア(c00038)やすかさず便乗した雁渡の狩猟者・アンジュ(cn0037)にあっと言う間に埋もれた陽凰姫・ゼルディア(c07051)のおうち。
 思いきり勢いあまったらぶぎゅうに押し倒されそうになったって、
「あらあら、もてもての乙女は大変ね」
「ふふ、みんな乙女会が楽しみで仕方なかったのじゃよね」
「妾も! とーっても楽しみだったの!!」
 馥郁・アデュラリア(c35985)の柔らかな胸にぽふんと抱きとめられて、左右からいつもよりひときわ眼差しの優しい浮葉・ファルス(c09817)と満面に笑みを咲かせた万華響・ラヴィスローズ(c02647)に支えられたゼルディアの頬はこのうえない幸せにゆるみっぱなし。
 お買い物もたっぷり満喫し終えた夕暮れ時、なないろのしあわせたっぷり抱えたみんなを迎えて。――さあ、乙女達だけの秘密の時間のはじまりはじまり!
「ねえ、お姉様方のなないろあそびの出逢いを教えて?」
「そう言うラヴィ様は、コーンスープと出逢えた?」
「ばっちりなのじゃよ!」
 恋しいコーンスープを求め色とりどりの美味を渡ったラヴィスローズの難敵は、とろり冷たく優しい黄桃のフルーツスープや海老と帆立のチーズクリームシチュー。けれどもそれらの誘惑を振り切った少女のキャセロール鍋には柔らかなおひさま色したコーンスープがたっぷりと。
「わたくしの出逢いは……ほら」
 秘密の宝箱めかしてそうっとアデュラリアが蓋を開けたキャセロール鍋からは、なめらかに蕩けた南瓜に甘い玉葱と香ばしいベーコンの香りが潜む南瓜のポタージュの匂いが溢れだす。
「どっちも美味しそう……! うん、こういうのは温め返したほうがいいわよね」
「あ、ワシのも温めたいのじゃよ」
 思わず破顔したゼルディアが皆をキッチンに案内すべく身を翻したならすぐさまファルスが続いて、ぱたぱた駆ける彼女の袖をこっそりくいくい、お耳を借りての内緒話。
「あのね、ゼルディア殿」
 それは黒き己と相対する森を駆けた軌跡の、続きの話。黒き己自身と斬り結ぶゼルディアに届いたファルスの歌と気持ち、それが心強かったと彼女が言ってくれたから。
 ――ちゃんと届いたんだなぁって、とっても嬉しかったの。
「そのことも、今日のお誘いも、たくさんありがとうなのじゃよ」
「私のほうこそ……!」
 抑えようもなく溢れくる、ふんわりあったかで幸せな気持ち。
 火にかけたあったかスープのキャセロール鍋達からもふんわりあったかな幸せが溢れてきたなら、今度はテーブルの上に美味しい幸せが広がった。
「ほら、真ん丸ひよこ豆が小さなゆずひよさん達みたいなのじゃよ」
「可愛いよねひよこ豆ー!」
 暖かで豊かな赤はファルスの選んだほくほくひよこ豆と緑のアスパラガスが入ったトマトのスープ、鮮やかなのにまろやかな橙は芳醇なバターの香りの誘惑に負けたアンジュのバターチキンカレー。
 橙がかった濃厚な黄はアデュラリアの南瓜のポタージュ、炒めたみじんぎり玉葱とベーコンたっぷりのそれは食べ応えもたっぷりで、ほかほかおひさま色したラヴィスローズのも、なめらかクリーミィなコーンスープに甘いとうもろこしの粒が弾ける幸せ食感。
「ゼルさん見て見て、並べたらすごく綺麗!」
「素敵……! ヴリーズィさんのも並べたら完璧ね!」
「ほんと、綺麗なグラデーションになったね!」
 明るい緑に惹かれたクローディアのはグリーンピースのポタージュ、旬の甘さも美味しさもたっぷりぎゅっと詰まったそれの隣には、ひんやり優しい白に浮かぶ鮮やかな矢車菊の花びらの青が綺麗に映えるゼルディアのビシソワーズ、優しい色合いからほっこり甘い香りが溢れるヴリーズィの紫芋のポタージュも揃えば、飛びきり美味しいなないろの虹のできあがり!
「みんなで分けっこしようね! そしてこれ、差し入れの手作りパンだよ!」
 同じ時の栞住まいのヴリーズィが自宅に寄り道して持ってきたのは、今朝焼いたばかりのふっくら丸パン。レーズン酵母からお手製のそれは勿論皆のなないろのスープ達との相性もばっちりで、
「ほっぺ落ちちゃいそう……!」
「ほんと、とっても贅沢じゃよね……!」
 皆で分け合いっこならぬ分け愛っこしたなないろのしあわせと一緒に食べたなら、おなかだけでなく心までほっこりあったか幸せ心地。

●甘夏のなないろあそび。
 時の栞フェルトフェルタに夜の帳が下りれば、乙女会も本番花盛り。蕩けるバターと卵と小麦粉が甘いケーキに焼きあがっていく匂いがおうちいっぱいに広がる頃には、寛ぎナイトウェアに着替えた乙女達が花と咲く。
「アンジュさんアンジュさんリズさんの乙女力が半端ないよどうしよう……!」
「どきどきしちゃうんだよどうしようクローディアちゃん!」
「鉄壁街で買ったの! でもこんな機会じゃないと着ないから」
 甘やかなピーチオレンジのナイトガウンとベビードールの裾をふわり摘まんでみせたヴリーズィが皆へ振舞う紅茶に薔薇砂糖をひとひらはらり。溢れんばかりのその乙女力に狩猟者娘達がぷるぷる抱き合う様にくすくす笑み零し、優しい生成り色のキャミワンピに軽やかな緑のカーディガン、そして甘い香りを纏ったゼルディアが甘夏ケーキと御登場。
「アンジュさんに教えてもらってヴリーズィさんも一緒に作ったの。さあ召し上がれ!」
 焼きたてふわふわのケーキを頬張れば、たっぷり入った大きめごろごろの甘夏の果肉から熱々の果汁がじゅわりと溢れだした。焼きたてでなければ味わえない美味しさに、
「熱い! なのに瑞々しい……!」
「熱い甘酸っぱさがぎゅうっと染みる感じ、ね」
 今度はヴリーズィがぷるぷる、アデュラリアの頬もゆるゆるで、けれど乙女の秘密の時間のお供はまだまだ選り取り見取り。
 柔らかに切り分けられたアデュラリアのクリームチーズには香ばしい胡桃や煌くドライフルーツがたっぷりで、濃密な甘い香りに清涼感も秘めたタイムの蜂蜜をクローディアがかけたなら、もうとても手が止まりそうにない罪な魅惑。ラヴィスローズお手製の黒蜜つやつやのかりんとう、そして琥珀色の餡をとろりと纏ったみたらし団子は、
「お菓子の国の王子様に教えて頂いたの……!」
「ふふ、あの日の夢が叶ったみたいな味ね」
 黒き己と相対した森で軌跡を繋いだ乙女達の胸に、甘く優しい感慨を呼ぶ。
 胸に抱いた苦さも飛びきり愛おしい想いと融け合えれば、やがてほろ苦くも甘い、切なく後引くような気持ちに変わる。感慨に浸る乙女達に、ちょうどこんな味かしらとアデュラリアが差し出したのは、珈琲と紅茶を混ぜ合わせ、ミルクと砂糖をたっぷり融かした鴛鴦茶。
 不思議にほっとする味わいの杯が皆に行き渡ったなら、今度は美味しさ分け愛っこしながらの幸せ作り愛っこが始まった。
 ここぞとばかりにファルスが広げた差し入れは、裁縫道具にレース針。
「絶賛貸出中なのじゃよ。必要な方はお手々を挙げて欲しいのじゃ」
「「はーい!」」
 思い思いに針を取る皆の手に咲くのは昼間おそろいで買った色違いのシュシュ、敷き詰められたふかふかクッションに座って、あるいは寝そべって、おしゃべりに花を咲かせつつシュシュにも飾りを咲かせていく。
「ファルスさん! 先生って呼ばせて……!」
「わたしもお願いします! ファルス先生!」
「そう呼ばれると面映ゆいのう。けど、しっかり務めさせていただくのじゃよ」
 針上手なファルスの向かいでは肩を並べて教えを乞うクローディアとヴリーズィが真剣顔。
 白いプリーツシフォンのキャミソール纏った胸にヒュプノスの枕を抱いて、ぽふんと寝そべったなら、ラヴィスローズはゼルディアが抱くゆずひよクッションと御対面。桜色ショートパンツから伸びた脚を思わずぱたりとさせて、
「ふふ、昼間お見かけした刺繍糸やシルクは使わないのじゃね」
「ラヴィスローズさんこそ、あの綺麗な糸や翡翠色のシルクは?」
 薔薇色と黄色のシュシュに咲くのはレースにパールビーズ、昼間抱えていた戦利品はお互い誰のためのものかピンと来たから、恋する乙女達は擽ったい心地で笑み交わす。
 白シュシュにレース咲かせたアデュラリアの針先からは、藍色の濃淡が優しいファンシーヤーンで次々小花も咲く。魔法みたい、とゼルディアが感嘆零せば、
「大丈夫、皆すぐ覚えられる魔法よ? そういえばアンジュ様も買ってらしたけど――」
「木漏れ日色と水色のファンシーヤーン? あれはね、おうち用のコースター織るの!」
 ころり笑み零した彼女はアンジュが橙のシュシュを金色レースリボンで彩る様に眦緩め、涼しげな色じゃったよねと口許綻ばせたファルスは、淡桃色の夏パジャマに花模様の透かし編みカーディガン重ねた暁色の娘の肩をこっそりつんつん。
「良ければ織物を教えてくれるかのう?」
「うん! 卓上織り機もってきてるよ後でやってみるー? クローディアちゃんも!」
「!! やる! 触ってみたい……!!」
 淡い金銀の糸で彩る緑のシュシュから上げたクローディアの顔がぱっと輝いた。
 お買い物中に内緒で囁いたとおり、あの春彼女がその織り機で織ってくれた桜のショールは大事な宝物。そして一日千秋の思いで待ち焦がれたこの夜に、薄緑のシャツに黒のスパッツ纏った身体を幸せクッションの波間へゆったり伸ばし、大好きなひと達と一緒に彩るシュシュも――大事な大事な宝物になってくれる。
 私達だけの、なないろの物語。

●乙女のなないろあそび。
 ――大好き、ありがとう。
 光の泉みたいに滾々と溢れくる、皆への想いがレースとパールビーズの環になって、ゼルディアの手元で黄のシュシュになないろのしあわせを咲かせていく。
 ふわり白リボンが咲きラリマーのチャーム揺れる青のシュシュ、紅リボンと白レースで彩り雨露めくパールビーズ煌く薔薇色のシュシュを見せあいっこしたヴリーズィとラヴィスローズは、一緒に覗いたファルスのシュシュに瞳を瞠った。紫のシュシュには白藤色のレースが重ねられ、透かしの合間から覗く紫はまるで朝靄に浮かびあがる花。
 そして繊細なそのレースは既製品ではなく、たった今彼女の手から生まれたものなのだ。
「ファルスはお裁縫の女神様……!?」
「リズ殿リズ殿、アマツのお裁縫の女神様か天女様かもしれないのじゃよ!」
 だって淡藤の浴衣に桔梗色の伊達巻きを締めた姿がとっても様になっているから!
 そこまで言われると照れるのじゃよ、と白い頬が薔薇に染まる様を微笑ましく見遣り、アデュラリアが勿忘草の娘の傍らに膝をついた。
「ね、ヴリーズィ様、髪を結わせて頂いても大丈夫?」
「うん! えへへ、何だか嬉しいな」
 髪を掬われ、緩く編まれていく感触も、彼女の指が時折首に、白藤と桜色蕩けるネグリジェドレスの薄絹が時折腕に触れていく感触も柔らかで心地好く、ヴリーズィの頬も自然と緩んでいく。
 大好きなひとに大好きと言える彼女達のように、いつかわたしも――と枕を抱いてそっと紡ぐのは、乙女の秘密の相談ごと。
 今度ね、好きなひとを舞台に招待したあと、お買い物や食事に誘おうかなって思ってるの。
「――どうやって、誘えばいいと思う?」
 歌劇女優の顔に不安の色が差すけど、たったひとりを想って胸を悩ます乙女の輝きはいつだって魅力的なものよ、と包みこむような声音でアデュラリアがヴリーズィの心に触れた。
「わたくしは伝える時は瞳を見たいわ。心が届くように」
「……すき、のきもちってむつかしくて、妾もうまく伝えられないの」
「ほんと、難しいわよね」
 頑張って、と伝えるようラヴィスローズがぎゅうっとヴリーズィの手を握り、好きの難しさが他人事でなかったゼルディアも眉尻をさげて笑むけれど、そこにアンジュがおずおずと口を挟んだ。
「あのね、あのね、想いを伝える前に、どうやって誘うかだと思うんだよ」
「そう! まずはそこからなんだよ……!!」
 わあんアンジュー! と抱きついてきた親友に暁色が頬を寄せる。
 最終的には想いを伝えるのだとしても、相手が誘いに応じてくれなければ始まらない。
 相手にも興味を持ってもらえそうな買い物先選び、自然な流れで食事にも誘えそうな口実選びと、たちまち始まる乙女会議は白熱必至。額を寄せて語り合ううち心の距離までもぎゅっと縮まっていくようで、ああでもないこうでもないと頭を悩ませながらも次々に笑みの花が咲き、乙女達の手は甘い幸せに伸びていく。
 こんなに楽しく夜を過ごせる日が来るなんて、思わなかった。
「はいアンジュ殿、あ〜ん」
「きゃーいいのいいの!? いただきまーす!」
「ラヴィスローズ殿、それは……」
「そうなのじゃよ! ファルス殿にも、はい、あ〜ん」
 見覚えあるポーチからラヴィスローズが取りだした金色スティックに煌くのはラベンダーシュガー、あの夏、白塗りのゴンドラを駆る娘から彼女が受け継いだ花砂糖を口に含めば、ファルスの胸にも万感の想いが柔い光の波のように広がった。
 紡がれ繋がれ、織り広げられていく軌跡。
 様々な彩の糸が寄り添って、ひときわ彩り豊かな、美しく、愛しいものになっていく。クローディアの瞳と心に映る世界がまさにそれ。たった数年前には思いもしなかった彩と軌跡が描かれた今ここにある世界が愛しくて、今ここにいられることが堪らなく幸せで、心が溢れてしまいそうなのに、どうして巧い言葉が見つからないのだろう。
「眠るのが勿体無いね、ゼルさん」
「ええ、夜更かしの準備は万全よ、クロさん」
 ぽふん、と寄り添われた温もりから言葉にできない幸せが融け合っていくかのよう。
 深い樹の色宿す髪を結う緑のシュシュを彩る金と銀は、陽と月の色だよ、と昼間にクローディアが抱きしめて教えてくれた煌く糸。陽の唄姫は迷った時に伸べられた月森のお姫様の手を取り、暁が開いた扉を潜った。その先で――大好きなひと達とこんな風にすごせる今が、ゼルディアにとってもどうしようもないほど大切で愛おしい。
 迷いや悲しみに涙し、けれどそれらを越えたからこそ出逢えた、なないろのしあわせ。

 ――雨上がりには森梟がやってきて、君に飛びきりの虹を見せてくれるよ。



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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:6人
作成日:2015/06/15
  • 得票数:
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