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≪移動農園 はるちゃん≫扉の世界のラスト・クレイドル

<オープニング>

●戯迷宮のラスト・クレイドル
 満天の星空に艶めかしい舞姫の薄紗めいた紫煙がかかる初夏の夜。
 紫煙群塔ラッドシティのとある街の大通り、美しい遊戯盤やカードを使ったゲームを好む者が夜毎集うことで知られるその通りでも、特に名の知られた大きな酒場はその夜――祭のごとき華やかな熱気と賑わいに満ちていた。
 煌々とシャンデリア輝くフロアには数多のテーブルが雑多に、けれど上から見れば咲き誇る大輪の花のごとく並べられ、空席を見つけるのが難しいほど賑わうそれらの卓には宝石めいたカクテルや琥珀色の蒸留酒のグラスが煌いている。
 だがテーブルに着いた者達を酔わせるのは酒精ではなく、カクテルより色鮮やかにテーブルを彩る遊戯盤やカードで興じる、ゲームの熱気だ。
 今宵の酒場で催されるのはさる好事家主催のゲームコンベンション。
 初心者から上級者まで入り混じり、様々なボードゲームやカードゲームを遊びながら交流を楽しむつどい。そこでは華やかな熱気と弾けるように楽しい笑声が絶えることはなく、誰もが一夜の遊戯に没頭する。
 特に人気を集めているのは『ラスト・クレイドル』というボードゲーム。
 そして――『扉の世界』というカードゲームだ。

 さあ、遊戯を始めよう。
 美しい自然が描かれたウッドプレートをランダムに敷き詰めて、その周りを鮮やかな青のプレートで囲んだなら、酒場のテーブルの上には紺碧の海に浮かぶ大きく豊かな島が現れる。
 此処はひとを脅かす巨獣もバルバもピュアリィもいない最後のゆりかご、ラスト・クレイドル。
 けれど脅威となるものがなければひとは皆平和に暮らすと思ったら大間違い。脅威がなければ己で争いの種を蒔き、同族同士で覇を競い争いあうのがひとという生き物だ。
 さあ、遊戯を始めよう。
 君が最後のゆりかごに辿りつく場所は海岸だ。人々を治める領主となり、村を作れ街を作れ。
 領地を豊かにして財を築き、内陸へと領地を広げ、そして別の海岸から広がってきた誰かの領地と接したなら――さあ、最後のゆりかごを食い合おう。

 ひとりひとりが領主となって互いの領地を食い合い、最終的にどれだけ広い領地を有していたかで勝敗を決するこのゲームは、1対1や4人対戦などでも遊べるけれど、東部と西部で2人ずつ同盟を組んで戦う2対2、あるいは4人ずつ同盟を組んで戦う4対4が最も面白い。
 勿論、皆の領地が接してからが本番だ。
 さあ、遊戯を始めよう。
「先手必勝! うちの騎士団の機動力をなめるなよ、このターンで東部キャスリン領に侵攻だ!」
「ちょ、なんであんたんとこそんなに街道敷くの速いのよ! だめ、護りきれない……!」
「任せて! そっち豊作だったでしょ、援助してもらえればこっちの騎士団を出せるわ!」
 同盟の領主同士で協力しあえるのが2対2や4対4の面白さだ。
 血気逸るように戦端を開いた西部のアシュリー領は領地拡大ばかりに目が行き内政はおろそかになっている――と見た東部同盟から送り込まれた細作が民を扇動し、アシュリー領で暴動が発生。慌ててアシュリーは騎士団を戻そうとしたが、
「――待った。それ多分罠だよ」
 才気走った翠の瞳を面白そうに煌かせた金髪の青年が、それまで手で弄んでいた駒を、とん、と遊戯盤に置いた。
「補給線が伸びきって色々甘くなってるからね。ランダムの盗賊団が出現する確率が高いし、それに乗じて東部シャノン領の伏兵がずたずたにしにくる算段じゃないかな」
「……やるじゃない。えーと……」
「僕はルパート。よろしくね、シャノン」

 ――へえ。随分元気そうじゃねぇか。
 工房を訪れた顧客の瞳に視えた、華やぐ賑わいと熱気の中で誰もが遊戯に興ずる一夜。
 ただでさえ遊戯好きの血が騒ぐその光景に、かつて『ラスト・クレイドル』がらみの事件で関わった青年の姿を見て、昏錆の・エアハルト(c01911)は愉しげに喉を鳴らした。
 ――さあ、遊戯を始めよう。

●扉の世界
 唯一枚のカードで世界が変わる。
 それが『扉の世界』と呼ばれるカードゲームだ。
 街に森に遺跡に星の空。様々な場所が描かれたカードを積んだ山札と言う名の扉を開き、現れた世界を舞台に無限の物語を織り成していく。
 白亜の宮殿の奥には熱砂の砂漠が広がって、オアシスで見つけた遺跡に潜れば吹雪の雪山へと至る。山の頂を越えれば辿りつくのは華やかなパレードが往く街の大通り。扉のカードをめくるたび目まぐるしくその姿を変えていく世界を駆け巡り様々な手札からイメージを膨らませ、ドラマティックな物語を織りあげていくのがこのゲーム。
 扉の世界を駆け巡り、愛し合え殺し合え。
 愛の囁き交わし殺意の刃を交え、より深く烈しく相手の心に己を焼きつけたほうの勝ち。

 扉の山札をめくれば即座に世界は変わる。眩い夏空を翔けた扉の先は突然青く透きとおった湖の中、即座に互いの手札から『ブリージング』のカードが閃く様に挑むような笑み交わし、水流と気泡に翠玉の煌き乱舞する『エメラルドモノリス』の輝き、『バジリスクの瞳』から溢れた輝きに己が腕を煌く宝石へ変えられる様を、『夏の思い出』のカードで相手の心へ鮮やかに焼きつける。
 続けざまにエアハルトが開くのは扉の山札。
 扉を開いた先に『荘厳なる大聖堂』を見れば、即座に彼は『ランナーズハイ』の超加速で滑り込み、『ゲートエンブレム』で大聖堂の扉を封じた。
「さあ、どうするアンジュ?」
「えへへー。こんなこともあろうかと! こんなカードを仕込んでました!」
 来いよ、と促せば扉の狩猟者・アンジュ(cn0037)が場に伏せていた『インスピレーション』のカードを開き、手札から『隠し通路』を滑らせる。

 ――荘厳なステンドグラスの煌き踊る聖堂で一息ついた、瞬間。
 思いがけぬ場所から迸った『束縛する白銀の鎖』がエアハルトを薔薇窓の下の祭壇に叩きつけて縫いとめる。麗しき聖女が描かれた壁のステンドグラス、硝子の聖女の足元から現れたアンジュは、捕えた彼の姿を認め、陶然と笑みを咲かせた。
「やっと……やっとあなたを追い詰めたよ」
 殊更やさしく喉を愛撫する。だが彼の喉を撫で上げるのは指先でなく、銃口だ。
「ねえ、エアハルトさん。あなたの光を……アンジュに、ちょうだい?」
 彼の顎を冷たく掠めた銃口が、ぴたりとエアハルトの額に当てられた。
 けれど。
「――そう簡単にはやれねぇぜ?」
「んきゃー!?」
 アンジュが『リボルバーショット』のカードを出すより先にエアハルトがテーブルへ叩きつけた手札は『嘯き』と『インフィニットゼロ』、白銀の鎖の束縛を破り、時をも突き破った彼は――。

「わあいわあいすっごい楽しかったー!」
「ま、結構いい勝負だったんじゃねぇの?」
 最終的な勝敗は二人の胸の中、何せ今の『扉の世界』での勝負は挨拶代わりのようなもの。
 本題はエアハルトが視た遊戯に興ずる一夜のエンディングのほうだ。
 暁色の娘もこの手のゲームは大好物、聴かせてやれば光の速さで食いついたし、ルパートの姿も見えたと教えてやれば瞳を輝かせた。
 数年前、ゲーム感覚で『ラスト・クレイドル』がらみの犯罪を繰り返していたルパートを捜査官として現場を押さえて逮捕したのがエアハルト達だ。
 罪を償って釈放された今のルパートは自分も客同士でゲームを遊べる酒場を開くことを目標としており、様々なひとびとと今回のコンベンションで交流を持ち、出資者を募るつもりでいるらしい。勿論、純粋にゲームを楽しみたい気持ちもあるだろう。
 善良な真人間になったわけではないが、今の彼は『いかに法の範囲内で面白く生きてのしあがっていくか』というゲームに挑む気持ちで生きているようだから、少なくとも再び犯罪に手を染めることはないはずだ。
「なら、遊び相手として付き合うってのも――悪くないよな?」
「だよねー!」
 気の置けない仲間を誘っていこう。それから旅人の酒場でゲーム好きな者を探して声をかけてみるのも楽しそうだ。そうして満天の星空に艶めかしい舞姫の薄紗めいた紫煙がかかる初夏の夜、件の酒場へ繰り出して。

 ――さあ、遊戯を始めよう。


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参加者
絶対自由・クローディア(c00038)
空追い・ヴフマル(c00536)
斧の城塞騎士・フラン(c00997)
昏錆の・エアハルト(c01911)
戯咲歌・ハルネス(c02136)
漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)
アマキツネの・カケル(c05038)
陽凰姫・ゼルディア(c07051)

<リプレイ>

●扉の世界のミスト・クレイドル
 ――さあ、遊戯を始めよう。
 満天の星空に薄紗めく紫煙がかかるラッドシティの夜、扉を潜れば瞳より心眩ます光と熱気の波に呑まれ渦の中へと攫われる。遊戯場独特の熱気にたちまち染まって戯咲歌・ハルネス(c02136)は、胸裡の高揚の眩さに瞳を細めた。
 遊戯なれど、遊戯だから。
 魅入られ溺れて、底なしの深みに嵌る。
 華やぐシャンデリアの煌きに蒸留酒の香り、それより誰もが遊戯に熱中するこの熱さこそが何より昏錆の・エアハルト(c01911)を酔わせてくれる。遊戯だからこそ何処までも熱くなれる勝負事、その熱に心ゆくまで溺れたって構わない。
「遊戯を楽しむのは気持ちに余裕がないと出来ねぇからな」
「自由に未来を描くことが出来る世界を勝ち得たからこそ――だな」
 世界に曇りなき未来が拓けたことを実感しつつアマキツネの・カケル(c05038)は彼と笑み交わし、思うさま遊戯を楽しむべく眼差しをめぐらせた。
「うわ、どこ見てもわくわくするっすね!」
「この雰囲気の中にいるだけでも楽しめそうだ」
 絢爛たる絵札で繰り広げられる宮廷謀略遊戯、時計塔の立体遊戯盤で展開される快楽犯罪者と懲罰騎士の頭脳戦、めくるめく数多の遊戯に空追い・ヴフマル(c00536)は胸躍らせ、湧き立つ歓声が漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)の心も浮き立たせる。
「遊んでみたいのがいっぱい……! けど最初はクロさんと勝負っ!」
「うん、第一戦はゼルさんと扉の世界――って、見つけた!」
 遊戯のカードや駒が数多踊るフロアを瞳を輝かせつつ泳ぎ、陽凰姫・ゼルディア(c07051)は絶対自由・クローディア(c00038)と扉を開く舞台を探す。けれどまずクローディアの瞳が捉えたのは才気走った翠の瞳と金の髪。
 扉の狩猟者・アンジュ(cn0037)から聞いていたけど、と目元を和ませたハルネスが、
「ルパート君も元気にゲーム廃人道を邁進しているようだね」
「誰が廃人だよ! って、あんた達……!!」
「その繋げ方だと私達のが廃人みたいだが違うからな、ってのはさておき、また遊んでくれないか?」
 悪戯っぽく声をかければ弾かれたように顔を上げたルパートが、屈託なく笑ってそう誘う斧の城塞騎士・フラン(c00997)達の姿を見て心底嬉しそうに破顔した。彼にとって自分達は捜査官である前に遊び仲間なのだと気づけば、クローディアにも歓びの笑みが咲く。
「あのね、ルパートさんが遊戯を遊戯として楽しんでるのが、とても嬉しい」

 ――さあ、遊戯を始めよう。
 覚悟してもらうぞ、と冗談めかして卓についたカケルの正面にはアンジュ、
「今夜の俺は幻を自在に操る幻術使いだ。ゆめゆめ惑わされるなよ?」
「実はアンジュ、そういうタイプの相手と対戦するの得意なの」
 彼が戯れに嘯いてみれば彼女は誰かをちらりと見遣り、カケルに瞳を戻して挑むように微笑んだ。扉の世界が、今開く。

 ――星亡き夜の先に開けた世界は摩天楼。
 高層建築の森の片隅へと身を潜め、幻術使いは深夜の街路を幻で満たす。かつりと靴音響かせ足を踏み入れたアンジュは、冷たい霧にぞくり身を震わせた。
 けれどそれこそが霧ではなく『マジックマッシュ』の煙の幻術に呑まれた証。するりカケルが手札を滑らせれば、娘の足元で『可愛い仔犬』がくぅんと鼻を鳴らす。
 ひたひた寄せる霧のように、幻術使いの囁きが娘の心へ寄せる。
「どうするアンジュ、本当に仔犬は見たままか? 魔物が変じているのかも知れんぞ?」
「……喰らわれたって、構わない」
 娘が抱きあげた、その瞬間。仔犬は『シルバーコヨーテ』に変じてアンジュの喉笛に喰らいついた。だが娘は鮮血を迸らせつつ恍惚と笑む。
「だってアンジュも――獣だから!」
 途端に場に出た札は『タイガーファング』、銀の狗が掻き消えた時にはもう獰猛な牙をあらわにした娘がカケルへと跳躍していた。石畳に押し倒され喰い破られる――が、喉を喰らわれた幻術使いが霧散する。彼本人でなく、幻の分身だ。
「……このカードを使わせるとは剣呑な手を使う」
「アンジュはいつだって狩る側だからね!」
 伏せていた『霧影分身術』を開いたカケルは不敵に笑み返して次の扉に手をかけた。
 扉を開けた、その先は――。

●扉の世界のロスト・クレイドル
 扉の世界へ飛び込む感覚は物語の書を紐解くのにも似て、けれど己の裡から生み出し相手と織り成していくその手応えが明確に異なる愉悦をヴフマルにくれる。
 橄欖と深紅の眼差し鋭く交わし、互いの瞳に見る不敵な煌きこそがこのひとときに得る宝石、次々重ねられていくアビリティカードも敢えて馴染みの技を選び、短剣と空翔ける足を得物とする者同士、最下層に広がる貧民街へ飛び出した。
 場を支配するカードは、『スラムの覇者』。

 ――汚濁と腐臭に彩られたスラムの奥、廃墟の屋根上で歪なブリキの『冠』が煌いた。
 力こそがすべての貧民街、そこに君臨する王がヴフマルを睥睨する。
「この冠が欲しいか、なら力尽くで来な!」
「言われずとも!!」
 言い放つ余韻が消えるより速く弾ける刃の音、一気に『スカイキャリバー』で降下するエアハルトを輝く『ウイングスラッシュ』の加速で迎え撃ち、光が消えぬ間にヴフマルの『カラミティスナイプ』が鮮やかな紅の軌跡を描きだす。
 続け様に閃かせるカードは、
「さあ、世界の全ては俺の『画布』。その冠も、彩ろう」
 割れたスレート屋根に王を叩きつけ、若き挑戦者は覇者の喉へ傲然と刃を突きつけた。だが王の裡から湧き上がる『殺戮衝動』が血の渇望を呼び覚ます。
「それで止められると思ったか? この足がある限り――俺は王として立ち続ける!」
 喉元の刃にも構わず豪胆な笑みを閃かせ、王は挑戦者を蹴り飛ばして立ち上がる。エアハルトが叩きつけた切り札は、『サバイブランナー』。
 けれど腹部を押さえつつも、ヴフマルは愉しげな笑みを覗かせた。
「流石、それでこそ――」
 ――それでこそ、兄さん。

「……そう来たか!!」
 悪戯に瞳を煌かせたヴフマルが開いた伏せ札、『兄弟』にエアハルトが破顔した。
 ああ、これだからこの遊戯はやめられない。
「御二人が兄弟というのは違和感がないな」
「実は俺も! もし兄弟がいたらこんな感じなのかな、なんて」
 柔いリューウェンの微笑にヴフマルが擽ったそうに笑み返し、クローディアが声を弾ませる。
「スラムの覇者楽しい……! 後で一緒にやってみませんかカケルさん!?」
「ああ、悪役をやるのも楽しかったしな。スラムも面白そうだ」
 笑って頷く彼に『じゃあ後で!』と約束を取り付け、クローディアは金の唄姫が待つ扉を開く。
 扉の世界。久方ぶりにそのカードを手に取れば、得も言われぬ高揚が背筋を翔け昇った。
 そう、ずっとこの時を心待ちにしていたの。
「行くね、ゼルさん」
「ええ。いらっしゃい、クロさん」
 貴女の、すべてで。
 眼差しでそう語り、ゼルディアが世界を開いた。

 ――深緑の淵に翻った捕獲網を、輝く翼が斬り裂いた。
 狩人を惑わすために逃げ込んだ森の深み、けれど美しく囀る金の鳥追う狩人の技は冴えを増す。緑陰に弦の音響かせ『ハンティングストリングス』が襲い来て、辛うじて『ウイングスラッシュ』で罠糸を抜けたゼルディアは、追われ狩りたてられる哀しみを『嘆きのセレナーデ』に乗せて訴えた。
「なぜ放っておいてくれないの!?」
「あなたでなければ嫌なの! 他の獣なんてもうこの瞳には映らない!!」
 唯の興味はいつしか執着へと変わり、胸が灼けつくほどに焦がれるクローディアの瞳に燈るのは青き炎、紅のそれより高熱な想い凝らせ、金の鳥へ『精密射撃』が襲いかかる。途端に森が揺れた。鳥が哭く『嵐の旋律』が荒れ狂う。

 遊戯の世界で現実の理から解き放たれ、素のままの心を曝けだす。
 青年に姿を変えた金の鳥に知らず初恋の相手を重ね、叶わなかった想いの先を探る。

「君は何がほしいの? 魔力宿る羽根? 魅了する囀り?」
「私が欲しいのは……違う、私の、望みは――!!」
 逃れた梢の上、けれど金の青年ゼルディアは甘やかな『ハニー』の囀りで狩人を誘って惑わせる。翼持つ者の高みを振り仰ぎ、クローディアは『ファルコンスピリット』にすべてを託した。
 きっと私は、手に入れたいんじゃなくて。
 愛しいものの世界を同じ視線で見たかった。
 己で望み、相手に望まれて、その位置に居たかった。
 羽ばたく光の翼は狩るためでなく、せめて心だけでも同じ高さに置きたいだけ。
 ――刹那だけでも、傍に居させて……!

●扉の世界のラスト・クレイドル
 美しい自然が描かれたウッドプレートがランダムに敷き詰められ、紺碧の海に浮かぶ大きく豊かな島が現れた。そこは最後のゆりかご、ラスト・クレイドル。
「エアハルト君、解説お願いっ!」
「あいよ任せな、こっちがフランとルパート組、そっちがハルネスとリュー組の初期位置だ」
 初めて見るラスト・クレイドルの遊戯盤に瞳を輝かせたゼルディアに乞われた解説役エアハルトが戦いやすそうな地形だなと口の端擡げれば、
「……そうなのだろうか、ハルネス殿?」
「大丈夫、双方に不利はないってことだからね。さて、どう攻めてくる?」
 このゲームに初めて臨むリューウェンの不安げな眼差しにハルネスは余裕の笑みで応え、悠然と遊戯盤を見渡しその先の対戦相手を見遣った。相手にとって不足はない。
「ルパートに背中を任せていい?」
「了解。全力で支援するから、フランの好きなように攻めてって」
「なら、怖いものなしだな」
 味方と肩並べ強敵を前にすれば、遊戯といえど闘志が沸き立たずにはいられない。剣呑に笑んだフランは高税率で資金を増大させたルパートの援助を受けて領地を広げ、一気に戦端を開いた。
「まさか軍備が整う前に攻め込まれるとは……!」
「防御専念ならリュー君とこも持ち堪えられそうだよ。勝たなくていいから、時間を稼いで」
 税率を抑え領内発展と防御を優先するリューウェン領とすべてバランス型に揃えたハルネス領は、序盤から高税率のルパートの援助で増強されたフランの軍勢の猛攻に晒される。
 盗賊に扮したハルネスの遊軍が補給路を襲撃するが、
「どうしたハルネス、私が街道警備を怠ってるとでも思ったか!」
「――確かに。けどフラン君もルパート君も、私の統治を切り崩せると思ったかい?」
「うっわ、ちょっかいかけにくいねハルネスんとこ!」
 巡回に残したフランの騎士団がそれを阻止。けれどルパートが送り込む細作も全バランス型ゆえに大きな民の不満もなく安定したハルネス領に手を出しあぐねて空手に終わる。
 だが、真っ向勝負なら資金を注ぎ込まれ攻撃に特化したフランが圧倒的に強い。
 次々リューウェン領とハルネス領を喰い破っていくフランは併呑した土地の有力者を残し、自治を認め文化を保護することで瞬く間に平定。そのまま更に進撃すれば――その後背、旧リューウェン領で火の手が上がった。
「なんでここで反乱が起きるんだ!!」
「あー、有力者を残したのがまずかったな。普通ならいい手なんだが、相手が悪かった」
「だね。リュー君は税率が低い上に領内発展と防御重視だから、凄く民に慕われてるんだよ」
 判定員を兼ねるスコア係の記録を覗き込むエアハルトの言葉に、双眸薄めたハルネスが愉しげな笑みで続ける。
 自治を認めたとはいえ元の善政に慣れた民の不満を抑えるのは至難の業、そしてリューウェンを慕う有力者を残したことで、暴動ではなく、彼らを指導者とする『反乱』となったのだ。
「そこまで考えていたわけではなかったのだが……」
「けど反撃のチャンス! ですよねハルネスさん!?」
「そういうこと! この勢いで一気に押し返すよリュー君!!」
 思わぬ展開に戸惑うリューウェン。けれどこれもビギナーズラックかと頷いた彼が駒を手にすれば、指導者暗殺に送り込まれたルパートからの刺客を間道に置いていた遊軍で抑え、ヴフマルの歓声に応えたハルネスの騎士団がリューウェンの騎士団と合流、反乱勢とともにフランを挟撃する。
「次のターンにはこっちから主力を投入するから、何とか持ち堪えてよフラン!」
「ああ、いっそ全面戦争のほうが有利かもしれん!」
 最後のゆりかごをめぐる戦火は一気に拡大、終には観客をも二分する声援合戦にも発展し――。

「あー楽しかった!」
「やあ、遊んだ遊んだ。しっかしまさか、あんな展開になるとはなぁ……!」
「ゲームは生き物だしね。皆で戦術の検証や考察でもしてみようか?」
 恐らく一番喋りまくっただろう解説係エアハルトがどかっと椅子の背もたれに背を預け、椅子の脚を浮かせる勢いで伸びをすれば、釣られたようにフランも伸びをして、片腕にくっついた暁色が盤上を覗き込む様子に笑ってハルネスが皆へ眼差し向ければ、ヴフマルが大乗り気で破顔した。
「いいっすね! 考察も是非エアハルトさんの解説つきでお願いします!」
「いやまず喉を潤させてくれ――って、そうだな、ここは俺が全員に一杯奢ってやるよ」
「じゃ、私からも皆に何か……と、この店の雰囲気じゃアマツ風のつまみは難しいかな」
 豪気なエアハルトに続いてフランもメニューに手を伸ばす。
 たこわさの代わりにホースラディッシュ利かせたタコのマリネ、小アジの味醂干しの代わりに濃厚なタルタルソースを添えた小アジのフライがテーブルに並び、皆が好みの杯を手にしたなら、
「今夜の縁に乾杯といくか!」
「はいはいはーい! それと一緒にねアンジュさっき教えてもらったばっかりなんだけどフランさんの再婚を祝して乾杯したいです!」
「うわまさかここで言われるとは! いや、うん、まあ……実はそうなんだ」
「きゃーおめでとうフランさんっ!!」
 思いきり歓声あげたゼルディアを皮切りに皆で祝杯を掲げ、

 ――今夜めぐったすべての縁と軌跡に、乾杯!

 対戦も観戦も楽しかった、と口許を綻ばせるカケル。
「まだ見ぬ世界へ冒険へ出た時のような、わくわくした気持ちだったよ」
「そこが面白いと俺も思う次第だ。扉の世界もラスト・クレイドルももっと遊びたいが……」
「あ! じゃあ女性陣VS男性陣の4対4やってみたい!」
 眦緩めてリューウェンが頷けば、ラスト・クレイドルやりたいとゼルディアが手を挙げる。
 それなら僕がスコア係をしようか、と気負いなくルパートが口にするから、フランも笑ってさり気なく申し出た。悪戯に瞳を煌かせたエアハルトも話に乗って。
「いいな、こういう酒場始めるんだろ? 商人の伝手なら紹介できるよ」
「職人なら紹介するぜ? イカサマなしのダイスのひとつくらいは贈ってやるよ」
「ひとつなんてケチケチせずに、百個くらい贈ってよエアハルト」
「そうだよ、お兄ちゃんなら千個くらい余裕だよね?」
「増やしすぎだクローディア!!」
 皆で弾けるように笑って、喉を潤し料理をつまんだなら。

 ――さあ、遊戯を始めよう。



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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2015/06/30
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