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外世界の戦い:硝子の船、揺蕩う鯆

<オープニング>


 乳白色の渓谷状の大地、水晶の尖塔が立ち並んでいたかつての美しい星は、終焉を迎えていた。
 渓谷には禍々しい巨大な裂け目に覆われ、美しかった尖塔は無残に折れ、崩れ、降り注ぐ熟れた陽光を乱反射させながら避けた大地にゆっくりと飲み込まれていく。その中には、無残に破壊された水晶の鳥やイルカの残骸も、無数に散らばっていた。さらに、耳と髪が翼のようになった人類も。薄く透き通った体はがれきに怪我され、新たな傷口を開いた大地に、ずるりと飲み込まれ、消えていく。
 そしてひび割れてしまった蒼穹のはるか向こう、鋼鉄の船団を従える、途方もない大きさの槍の姿があった。
 星の民は知っている。それらが、自らの故郷である星に不可逆の滅びを与えた存在なのだと。
 もちろん、彼らは滅びに抗い、戦った。必死に戦い、守ろうとし、……そうして、こうなってしまったのだ。
 音もなく、風もなく、空も大地もひび割れて。時折思い出したように、大地が口を開くくぐもった悲鳴のような音だけが、その星に響く。――いつしか、上空にあった槍や船団の姿は消え失せていた。
 それを確認したのように、かすかな振動音が響き始め、それは轟音となって死に絶えた世界に最後の声を上げる。音とともに、水晶の瓦礫の中から現れたのは、巨大な硝子の球体だった。
 さらさら、きらきら。水晶の瓦礫を落としながら。ゆっくりゆっくりと現れたその球体の中には、やや小ぶりな尖塔群と、亥口もいくつも連なったきらきら輝く水晶の繭。中で護られているのは幼子や赤子たち、星の最期の生き残りたち。
 新たな地へと、先の見えない旅へ出るために。絶え逝く星へと無音の惜別を送り、今まさに大地を離れようとした、刹那。
 同じく瓦礫の子に眠っていた、一頭のイルカがふわり、舞い上がる。全てが水晶で作られた、イルカと呼ぶには聊か巨大な存在。
 そして、イルカは猛然と、球体へめがけて体当たりを繰り出した。硬質な甲高い音が響き、ぴしり、と透明だった球体を無数の罅が覆う。白く濁った世界の中、眠る繭たち。足りなかったか、とイルカが球体から離れる。再度の突撃を敢行するために。
 最後の希望が甲高く砕け散る音を、彼らは夢の中で幻視していた。


 大魔女との最終決戦から、二か月。
 ふとしたきっかけから、「外の世界」のエンディングの断片を感じたエンドブレイカーたちは、複数のエンドブレイカーの力を結集させられる者たちの手により、微かだった情報を組み合わせ、一つの解を導いた。
 ――ギルタブリルと同様の世界を滅ぼす存在である『巨大な槍』により、幾つもの世界が滅ぼされようとしている、というエンディング。
「ほんのわずかだけど、生き残った人たちもいる。でも、このままだと、彼らもいずれ全滅してしまう」
 橋架ける魔曲使い・シャーリー(cn0071)が溜息を一つ落として、集まったエンドブレイカーたちに向き合う。その口元を扇で覆うのは、悪いことを告げるときのいつもの癖。
「――その星はね、水晶で出来た星なんだ」
 きらめく水晶の尖塔、乳白色の渓谷が織りなす美しい星。
 その星に住まう人々もまた、美しい種族。翼のような形状の耳と髪を持ち、薄く透けるような体を持っている。そして、水晶で造った生物を操り、空をも自由に駆けて都市の間を行き来したり、或いは守りに使ったという。
 だが、その水晶の守り手が、何の因果か侵略者たちの手に落ちてしまった。水晶の内部、中枢ともいえる場所に何かを仕込まれ、暴走してしまったのだ。
 人々は絶望を感じながらも、「守り手」たちを破壊するしかなかった。
 そうして、侵略者からの防衛機能を失った人々は、破壊と殺戮に蹂躙されるしかなかったのだ。
 すべてが破壊されつくしたと思われたが、幸運にも、数少ないものの生き残った人々がいた。彼らは天から災厄の槍と船団が消え去ったのを見計らい、空飛ぶ硝子の球体の中に子供や赤ん坊を優先して搭乗させた。
 滅びが間近に迫る星から逃がすために。
 どこまで飛べるのか、どこに希望の土地があるのか。そんなことはわからないし、もう「守り手」もいなかったけれど。それでもこの地に残るよりは、少しでも生き延びる可能性のある方へ。
「……でも、生き残ったのは人々だけじゃなかった。空飛ぶ硝子の球体を、追いかけて襲おうとしている水晶の生物がいる」
 それはイルカ型の生物。球体に、防衛のための力はない。このままでは、彼らもまた滅びてしまうだろう。
「……だけど。僕たちなら。……みんななら」
 終焉を終焉させるもの、エンドブレイカーが介入すれば。
「僕たちなら世界の扉を潜り、水晶の大地に降り立って、暴走するイルカを迎撃することができる」
 滅びの運命を、叩き潰せるかもしれないのだ。
 世界の瞳をくぐり、辿り着くであろうのは滅びゆく水晶の大地。イルカの丁度、背面に、まさに体当たりを敢行しようとしているさなかに到着する。
「此方から攻撃を仕掛ければ、イルカは邪魔者の排除を優先してくれる。だから普通に攻撃して、イルカを壊してしまえばいい。……でも、もしもイルカの内部に侵入し、その際奥でイルカを狂わせている『何か』を倒素事が出来たら、イルカは失わずに済むよ」
 もちろんそれは至難の業だ。全員がイルカの内部に入れば、足止めがいなくなったイルカは玻璃硝子の球体へと容赦ない突撃を敢行するだろう。内部の『何か』が倒されるまで。
「外皮に取り付きさえすれば、頭頂の鼻から内部に潜るのはそれほど難しくない。でも内部は狭いみたいだし、対侵入者用の罠がいくつかあるっていう話」
 つまりエンドブレイカーの安全を第一に考えるなら、普通に攻撃して壊してしまうのが一番。
「でも、もしイルカを取り戻せたら、これからの永の航海にとってそれは心強い助けになると思う。……どちらを取るかは、向かうみんなに任せるよ」
 いつも任せっぱなしにしてごめんね、と、とシャーリーはため息を一つ、落とした。
「……無事、イルカを破壊するなり、取り戻すなりできたら、球体の中にいる人たちから、詳しい情報を聞いたり、今後の目標とか……これからの対応とか、そういう感じの情報を聞いて来てくれると嬉しい」
 そして万一、イルカを倒せなかった場合はエンドブレイカーたちは世界の瞳を通り『こちら側』へ戻ってくることができる。その場合、当然のことながらエンドブレイカーではない水晶の星の人々は、扉の力の恩恵には預かれないから、彼らの運命は決してしまうが。
「――僕たちは、ギルタブリルを討つことが出来た。……よくばりかもしれないけど、知ってしまったからには、助けられるものは助けたい。いつも無理なお願いばかりでごめんなさい。でも、君たちならって信じてる」
 深々と頭を下げて、シャーリーは絞り出すようにお願いします、と呟いた。


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参加者
朱弦烈火・ルッツ(c01102)
凍月の旋律士・リコリス(c01337)
むひょろぽう・ペンペロン(c03137)
茜染む斧鉞・ジーク(c03342)
操作可能性妄想・エルンスト(c07227)
トキメキオレンジ・アル(c20398)
菫青石の魔法剣士・リデル(c26678)
プレニルニオの雫・ジェルゾミーナ(c34864)

<リプレイ>


(「美しいものには儚いものが多いですが、此処まで破壊し尽くされるとは……」)
 凍月の旋律士・リコリス(c01337)は、眼前に広がる荒涼とした光景に思わず一瞬、瞑目した。
 砕け果て、陽の光を乱反射させる水晶の瓦礫。響く音は、彼らが踏みしめる瓦礫が砕ける音だけだ。
 足元も、瓦礫も、崩れた動物たちも。全てが水晶の、世界。それは、とても不思議な世界だと朱弦烈火・ルッツ(c01102)は思い、……そっと首を振った。
(「どんな世界でも、誰であっても。求める声があるのなら」)
 手を伸ばす――守ってみせる。
「多くの星と命を奪う槍……許せないあるよ!」
 トキメキオレンジ・アル(c20398)も感情のままの言葉を吐き出す。自分の故郷を砕かれるのは、きっと心を砕かれることと同じだから。
「それでも皆、まだ生きることを諦めないあるね。だから絶対彼らを助けるあるよ!」
「ああ、……そうだな」
 それは全員に共通した思いだ。……茜染む斧鉞・ジーク(c03342)は強く頷いた。眼前の絶望は歯痒さを通り越して静かな怒りへと緩やかに変換されていく。まだ間に合うのなら――。
「――あれを」
 指差し、菫青石の魔法剣士・リデル(c26678)が告げた。その繊手の先、眼前に浮かぶは巨大な硝子の球体……ちょうど小さな村一つ、すっぽり入るほどの巨大さ。
 そして、今まさにその球体に突撃を敢行しようとしている、こちらもまた巨大な水晶のイルカの姿。
「おう、聞いてた通りだ。でけぇな」
 むひょろぽう・ペンペロン(c03137)が大盾を眼前に構えてにやりと笑う。操作可能性妄想・エルンスト(c07227)もまた頷いた。
「こちらに背を向けている……背後に回る労苦が消えたな」
「ええ。だけど、……助けてあげたいわ。狂わされているのなら」
 ぽつりと静かに落ちたのは、プレニルニオの雫・ジェルゾミーナ(c34864)の呟き。
 自らが作り出した守り手を、自ら破壊しなければならない辛さは。……それが絶望に至る道でしかないとわかっていながら選択しなければならなかったのは、想像に余りある辛さだろう。
 イルカが硝子の球体から十分に距離を取り、一気に突撃しようとしたその瞬間を、エンドブレイカーたちは狙いすました。


 イルカより先んじて、ジェルゾミーナの繊手が閃いた。じゃらり、と音を立てて勢いよく射出されたのは白銀の鎖、背後からの予期せぬ一撃にイルカが一瞬動きを止め、ぐるりとこちらを振り返った。
「……見えた」
 イルカの内部、背びれの真下、その体のど真ん中に、うすぼんやりとした黄色い何かが見える。それを視認するが早いか、イルカがぶん、と体を持ち上げた。まずは邪魔者の排除をすることに決めたようだ。
「そうだ。かかってこい……!」
 硝子の船だけは、守らなくては。呟いたエルンストのもとへ、飛び込んできたのはイルカの渾身の体当たり。まともに食らったら吹っ飛ぶだけでは済まされないだろうその一撃を、紙一重で横に飛んで躱す。それでも凄まじい風圧が横腹を叩きつけて、一瞬、息が止まった。
「ふっ!」
 お返し、とばかりに、黄金の鎧をまとった一撃がイルカの脇を叩く。水晶同志を打ち合わせたような澄んだ音が、静寂の支配する死せる星へと響き渡ったが、その表面には曇りひとつつかない。
「なるほど、確かに頑丈ですね」
 リコリスが吐息とともに言葉を落とす。ならば少々全力で行ったところでびくともすまい。……否、全力でいかなければこちらがやられかねない。堕ちた言葉の次に、紡がれたのは全ての戦いを終わらせるための、未だ存在しない歌。相手に聊かの効果もなくても、それは自分の術力を高める力となる。
「このっ!」
 ルッツがぐい、と引っ張ったのは、牙と見紛う白刃ではなく、……逆手から引き出した無数の細糸。見上げるばかりの巨大ないるかに、それが幾許の妨げになるかはわからなかったけれど。
「今だ、行って!」
 叫びと同時に、煌く糸がイルカめがけてがんじがらめに絡みつく。渾身の力で細糸を繰る彼の脇を、三人の人影が通り過ぎて行った。
「いってくるぜ!」
 通り過ぎながら、まるで朝の散歩にでも行くような気軽さで、ペンペロンはリデルに告げる。ええ、行ってらっしゃい、と笑み交じりに帰すのは彼を信頼しているから。彼を送り出すように、踊る剣の切っ先がイルカの鼻っ面を掠めていく。
「任せた」
 短い言葉はジーク。仲間を信じるために、自分に言い聞かせるために。それだけを残してイルカに張り付く。すでにペンペロンは、頭頂の鼻より体内へと侵入している。
「うりゃっ」
 アルもまた、素早くイルカに飛びつくと、小さな体を身軽に飛び跳ねさせて頭頂の鼻から体内へと転がり込んだ。

 イルカの体内は、外の戦いの影響などまるでないかのように静謐だった。外からの攻撃は確実に受けているのだが、その振動が仲間で響くことはない。
「急ごう」
 一度に、罠にかからぬよう。三人はそれぞれ少し距離を取って進む。いかに大きなイルカとはいえ、三人が並んで歩くことはできないほどに、通路は狭い。チェンジリングを使ったアルを運び、かつ連絡用の灯火掲げてながら進む広さはない。ただ内部まで透明ではあるが、微妙な濃淡が付いていて、通路の判別は容易だった。
「……ん」
 踏み込もうとした足元が柔らかい。先頭を言っていたジークが振り返る。アルがそっとノックノックを使ってみると……ジークのすぐ前の床が、ぱかんと音を立てて開いた。
「シュートか、危なかったな……」
「危険かも、って場所だけ、ノックノックやチェンジリングを使って調べればいいあるね」
 アルの言う通りに探索を進める。外では戦いが続いているから、時間はかけていられない。少しでも色が違うところ、感触が違うところは徹底的に調べ、あとは小走りに通り抜けるという少々荒々しいやり方で、奥でうごめく黄色い何かに、じりじりと近づいていく。
 やがて、体を斜にしないとすれ違えないほどの狭さの道が一段と狭くなり、行き止まりあるか、とアルが思った時、――不意に開けた。
 うすぼんやりと光る細やかな装置があちこちにある、少し広い空間。そしてその真ん中で、ひときわ輝く水晶に張り付く薄黄色の不気味な存在……アメーバが、二体。
「やっと見つけたぜ……覚悟しろ!」
 ペンペロンが盾を構え、旗艦に張り付くアメーバを吹き飛ばすべく駈け出そうとした視界の隅に、イルカの衝撃波をまともに食らって膝をつくリデルの姿が映った。


「リデル!」
 すぐさま、ジェルゾミーナが召喚した最後の使徒ケルビウスが彼女を包み込む。けほり、と咳き込む口元にかすかに滲んだ赤いものを、しかしリデルは指先一つで吹いて立ち上がった。
「大丈夫、まだいける」
 内部でも、どうやら機関に張り付くアメーバのもとへと到達したようだ。ならば、まだもう少し持ちこたえれば。
「……お前だって、辛いだろう。だから」
 もう少し、頑張れ。言葉とともに、煌く青い刀身に乗せたのは力を撓めた魔法陣。カッ、と口を開いたイルカのその口へと、破魔の一撃を叩き込む。
「ほんとうに、頑丈……!」

 リコリスが一瞬だけ、見上げたのは硝子の球体。中で眠るものはほとんどが幼子だった。親の姿はほとんど見られなかった。
 ……子の未来を思い、別れを選んだ親も少なくない数いただろう。
「ならば、きっと。助けて見せる」
 市は誰にでも訪れる。だがそれは今ではないはずだ。そんな思いを乗せて、リコリスが奏でたのは厳かな葬送の歌。体当たりしようと、ぐっと体を低くしたイルカが、軽く頭を振ったように見えた。
「俺も、頑健さには自信あるんだよな」
 もう一撃、飛んできた体当たりの威力は幾重にも施した行動阻害で減退しているが、体当たりの勢いですぐにそれらは振り切られてしまう。微かに笑い始めた膝を叱咤しながら、エルンストはそれでもに、と笑って、輝く戦神の防具を召喚した。白い鎧が密着し、みるみる傷は癒えていく。
「だけど、これ以上はじり貧だよ!」
 もう何度目になるだろう、繰り出した細糸でイルカを縛り上げながらルッツが叫ぶ。守るべき人々を、傷つけさせたくなんてない。糸が食い込んだ掌に、血がにじんだ。
「助けたい、助けてあげたい。……できるわ、きっと」
 回復しきれなかったエルンストへもう一度ケルビウスを呼びながら、ジェルゾミーナはじりじりとした思いを乗せた瞳でイルカの中の仲間たちを見据えた。
 そこに見えたのは、かすかな希望。
 二つうごめいていたはずの薄黄色が、一つだけになっていた。

「あ、あきらめないある……」
 一方、内部での戦いもそれほど余裕はなかった。
 耐久性がない、と自薦に言われていた通り、攻撃を集中したことで一帯はすぐに倒れた。だが倒れ際の催眠音波は、狙いすましたかのようにアルの脳を貫いた。その一撃の威力たるや、一撃で体力の半分をごっそりと持って行かれるほどだ。
 だけど。
「このイルカだって、元はこの星の人の味方ある!」
 ぶんぶん、と頭を振って、アルは手を伸ばした。
「エリエ!」
 それは彼が最も信頼する妖精の名。呼ばれた妖精がアメーバを怖くするようなダンスを踊ると、見るからにそのうねるような粘液の動きが弱まっていく。
「……畳み掛ける!」
 確かに、イルカに比べればこいつは格段に弱い。溶解液の威力や催眠音波は強烈だが、三人で畳み掛ければ為す術がないほどに耐久的には脆いのだ。ジークは武骨な斧を持った腕を振り上げた。
 まだ、間に合うはずだ。小さな繭の中で眠る幼子たち、そんな小さな芽すら踏み躙るこんな絶望など。
「……叩き壊してやる!」
 刹那、蟷螂の鎌へと変じた腕が、アメーバの中心をぐちゅりという音とともに貫く。引き抜けば薄黄色の体液が散り、……それでもまだ、ぎりぎりでアメーバは倒れない。
「はて、アメーバの部位とは……まぁいい、これで終わりだ!」
 一瞬だけ首をかしげたペンペロンだが、すぐさま傲然と盾を振り上げ、
「エンドッブレイクァァァ!!」
 まるで外にも聞こえそうなほどの雄叫びとともに――部位どころか、目の前のアメーバそのものを破壊せんとばかりに叩き潰した。
 びしゃり、と不快な音がして、アメーバが四散し、ただの液体となって蒸散していく。
 それとほぼ同時に。
「……っ!」
 弾き飛ばされようとしたルッツの、そのまさに鼻面のぎりぎりの位置で、イルカが急停止する。ぺたん、と座り込んだルッツからするり、と離れると、そのままふわりと浮上して、硝子の球体へと近づいていく。
「え……」
 茫然と見上げるジェルゾミーナの眼前で、イルカはゆったりと硝子の周囲を一周し、五人の元へと戻ってきて着地した。内部へと侵入していた三人が頭上の鼻から這い出すと同時に、地面に伏せて動かなくなる。
「こ、こわれちゃったあるか……?」
 アルが恐る恐る呟くと、……不意に、その場にいた誰のものでもない声が響く。
「自己修復をしているのです。問題ありません。皆さまのおかげで、イルカの損害は軽微でした」


「――どうやら助けてくださったようですね。見知らぬ方々」
 硝子の球体の中から、声がする。見れば、耳と髪が水晶の翼のようなもので構成された、どこか透き通った体を持つほっそりとした人影が、エンドブレイカーたちの傍まで近づいてきていた。
「僭越ながら、フルスターリの民を代表し、お礼を申し上げます」
 その人物は小柄だった。ここに至る途中に見た、同じ姿の人々の亡骸からしても、そのひとはまだ子供……少女の部類に入るのだろう。
「出港準備の最中ですので、私以外船から離れられません。命ばかりか、守り手までも救ってくださったのに、総員で挨拶もできぬ無礼をお許しください」
 ジェルゾミーナがふわり、と笑む。うつくしい響きの星の民へ。
「ええ。大丈夫。……もう、大丈夫よ」
 あらゆるものを構成する水晶は、元の世界のものとほぼ変わらないけれど。美しい人々だと、心から思った。

「見知らぬ姿形の、優しくも勇敢な方々。……あなた方は外からいらしたのですか」
 エルンストが頷き、笑顔を絶やさずに語りかける。
「ええ、私たちには終焉を視る力がありまして。この星の終焉を視て、駆け付けた次第です。もっとも、我らも直近の危機しか判らず……、もっと早くお力添え出来れば良かったのですが」
「遅くなって、ごめんね」
 ルッツが口にしたのは謝罪の言葉だった。もっと早く来れれば、こんな悲しい思いをさせることはなかったかもしれないのにという思いが、どうしても拭えない。エルンストもまた、頭を下げる。ふと、硝子の球体の中、繭の中で眠る子供たちが見えた。彼らのとこの星に起きた悲劇に、同情と哀悼の念をささげることしかできぬ自分がもどかしい。
「……運命でしょう。でも皆さまは、私たちが滅ぶ運命を回避してくださった」
 笑む子供の顔が、どこか寂しげで。
「朱殷色の石と、願い叶うと謳う妖精に心当たりは?」
 エルンストが問う。エリクシルのことを尋ねたのだが、これには子供は首を横に振った。
「大人たちなら知っていたかもしれませんが、少なくとも私は聞いたことがありません」
 それから少しの間、語り合う。エンドブレイカーたちはギルタブリルや創世の剣等、知る情報は惜しまず伝え、少女は問われるままに、自らが視た星々の破壊の様子を語る。
「これから、行くあてはあるのか?」
 リデルの言葉に、少女は空を指差した。
「私達は、これから伝説の星に行く予定です」
 伝説の星。聞きなれぬ言葉に、一同は顔を見合わせる。もう一度リデルが尋ねた。
「それは、どこに?」
「うまく口では言えないのですが、この硝子の球体は行き先を知っています。守り手もおりますので、ここからは私たちだけでも大丈夫でしょう。……そこにいけば、きっと滅びの槍『ムシュマフ』からも助けてもらえる筈」
 そういったところで、硝子の球体が静かに振動を始めた。体を休めていた水晶のイルカが、くいと顔を上げる。
「……そろそろ、お別れですね」
 その言葉に、リコリスがわたわたと懐を探る。取り出したのは小さな手巻きのオルゴール。長旅の無聊を少しでも慰められればと、慌てて引っ掴んで出てきたものだ。
「長い旅になるかもだから、僅かでも心の慰めになりますように」
 手のひらに載った小さなオルゴールに、少女はぱちりとは瞬きをする。水晶の瞳が、潤んだように見えた。
「旅路の先で、また会えることを願っている。……君たちの未来に、どうかたくさんの希望があるように」
 ジークの言葉に、とうとう少女の水晶の瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちる。
「ありがとう、優しい人々。……あなた方のことは、眠る兄弟たちにも必ず、申し伝えます」
 深々と頭を下げる少女の姿と、硝子の球体の傍に寄り添い、守るように慰めるように泳ぐイルカが、エンドブレイカーたちがその星で見た、最後の希望の姿だった。



マスター:文月彰 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2015/06/22
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  • ハートフル9 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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