ステータス画面

夜の底にて

<オープニング>

●山吹の
 山吹の花が咲いている。
 森を抜けた先、小高い丘の上には古びた施療院があった。窓ガラスは割れ、壊れた扉がキシキシ、と鳴る。
 月夜となれば美しい黒い実が生まれるの。
 歌うように告げた歌姫は、黒曜石のような瞳でゆるりと弧を描いて笑った。小高い丘にあるお屋敷。金色の花が咲く場所にあるという。
『きっときっと美しいわ』
 その一言さえあれば、森を目指す理由は十分であった。噂のような話であっても、誰もが近づかないのであれば好都合であったのだ。
「黒……黒い実。君の望む黒はいったいどんな姿をしているんだろう」
 ほう、とついた息。
 闇夜に紛れる黒の衣は、招かれざる客である己を理解してものだった。足音を殺して、瞼の裏に描いた彼女の笑みを頼りに進む。
「あれは……黄色い、花?」
 そうして、目に見えたのは中庭にある黄色い花だった。金色に似ているかもしれない。窓ガラスは割れ、中庭の木はその枝を室内へと伸ばしている。人のいない受付のカウンター、折れた待合室の椅子。割れた花瓶から、こぼれた水が床にシミを作っていた。
「こんな場所に……あぁ、それでも花は咲くのか……!」
 金色の花。
 彼女の言葉にあった光景と変わらないそれに、青年は恍惚に息を漏らす。さすがは貴方の語る場所だと、歌うように告げる青年は知らなかった。これほどに美しい花が咲くその場所が、名前ばかり知られている理由も。
「あぁ……お化けが出るなんて話……やっぱり人よけの為だったんだな。確かに、これほど美しかったらそんな噂を流してまで遠ざけたい気持ちもよく分かる……!」
 待っていてくれ、と恋する青年はうたう。愛しの歌姫のために。
「君のいっていた美しい黒い実を僕は探してみせ……」
 だが、口上は途中で途切れた。え、と青年が疑問を紡ぐよりばたばたと血が落ちた。言の葉を紡ぐ為の首が、胴から離れて行く。早く「おぉ」と唸るような音が背に届く。
「ーー!」
 己の胴を、見送る。
 そんな奇怪な光景を、己を切り離した者を見たのか。恐怖に見開かれた瞳がゾンビの群れを写していた。

 別に、歌姫さん自体は知らなかったみたいなんだけどね。
 酒場の一角に、エンドブレイカーたちを招いた少年はそう言った。よく冷えた水の入ったグラスが、テーブルを濡らす。
「歌姫さんが言ってたのと似たような場所を、あの人は見つけちゃった。で、危ないとか人が寄り付かないんだとかそういう話を聞いてこう……余計に「これだ」って思っちゃったみたいなんだよね」
 二つ夜のデモニスタ・ニヤ(cn0185)はそう言って息をついた。
「アクスヘイムの一角、放棄領域のあたりで男の人がゾンビに襲われるのが見えた。襲われるっていうか……まぁ、自分で向かってっちゃうに近いんだけど」
 森を超えた先にある、施療院跡だ。
 ずいぶん前に閉鎖されたもので、建物だけが残っているのだという。
「向かってちゃう系で、ちょっと周りが見えてない感じがあるんだけど……だからってそのままってわけにもいかないから」
 だから、とニヤは顔を上げて言った。
「おにーさん、捕まえて。そんでもって、ゾンビにはお休みしてもらお。オレにみんなの力、貸してほしーんだ」

●夜の底にて咲く花は
 古びた施療院は森を抜けた先にある。今から行けば、青年より少しばかり早く先にたどり着けるだろう。噂を頼りに来ている彼は、森の中を迷うように進んでいるから上手いことを言って他の場所に誘導することもできるかもしれない。
「分かりやすい嘘で誘導してみたりとか、けっこう効くと思う」
 青年の名はスヴェン。
 街の歌姫に熱を上げている。
「近づかないようにできれば……後は中のゾンビの相手ってことなんだけど、だいたい10体」
 全て、ただのゾンビだ。
 武器は爪。猛毒を注ぎ込むだろう。
「施療院はけっこう広くてね、中庭を囲うように通路がある。ゾンビはそのあたりをうろうろしてるよ。物音に反応してやってくる」
 で、ついでに問題なのは、とニヤはエンドブレイカーたちを見た。
「施療院の中の通路が、きれーに繋がってるんだよね」
 中庭を囲うように作られている通路は、一周できる。施療院のどこかにいるゾンビたちは一箇所に固まっているわけではない為、戦闘が始まれば音を聞きつけて集まってくる可能性があうるのだ。
「前も後ろもゾンビだらけーってあれになりそうでね。一番広いのは、入ってすぐの待合室。他は廊下で……どっちは大人4人並べる程度」
 このゾンビの動きは素早い。
 統率が取れているようには見えなかったとニヤは言った。
「あと……施療院の中庭には、綺麗な山吹が咲いてるんだ。そのまま残ってたのか……随分と立派でね。なんだか種類もあるみたいだったから……落ち着いて見れたら、きれーじゃないかなって思う」
 でもまぁそのまえにゾンビ大集合が起きちゃうんだけどね、と肩をすくめてニヤは集まったエンドブレイカーたちを見た。
「いろいろ起きてるけど、やっぱ見ちゃったやつも見ちゃったやつでそのままになんかできないから。だからみんなの力、貸してほしい」
 あのおにーさん助けて、それでいてゾンビにもお休みって言いに行こう。


マスターからのコメントを見る
参加者
空追い・ヴフマル(c00536)
眩暈の尾・ラツ(c01725)
燈星・ジェン(c10838)
三節棍の赤い群竜士・アヤカ(c14761)
地狂星・メランザ(c26024)
夜が訪れる刻・シキミ(c32374)
うっかりボコる群竜士・リチ(c33420)

NPC:二つ夜のデモニスタ・ニヤ(cn0185)

<リプレイ>

●恋と夜の森
 生暖かい空気が、頬に触れた。夜の空気は、しっとりと肌につく。季節の頃を思えば不思議はなくとも、湿気を帯びた森の中は特有の匂いがした。ともすれば過ごしにくいとさえ感じる空気も、恋する青年にとっては何一つ問題が無いらしい。
「スヴェンおにいさん見つけたよ」
 うっかりボコる群竜士・リチ(c33420)はそう言って、森の一点を指差した。
 ホークアイで見つけた青年は、下草が絡みつくのも気にしていないらしい。
「ぐんぐん進んでくるよ」
「なんていうか迷いない感じだな」
 苦笑混じりの声でそう言って「じゃぁ」と空追い・ヴフマル(c00536)は顔をあげた。
「声かけよう」

 恋はここまで人を変えてしまうのか。――否、変わる前の彼をエンドブレイカー達は知らないのだがーー。
「本当ですか……!」
 件の青年はなんというかーーちょろかった。
『やあお兄さんどうなさったんすか』
 そうヴフマルが声をかければ、黒衣に身を包んだ青年は目を丸くした。「おや今晩は!」と続いて眩暈の尾・ラツ(c01725)が声をかければ、見事に彼らのペースに飲まれていた。
「えぇ。黒い実にお化けで人が寄付かない……お探しの建物はもしかしたらあちらの方角では?」
 安全で、時間の稼げそうな迂回路を教えておく。周辺の地形はある程度把握済みだ。
「処で貴方お名前は? 私はラツと申します♪」
「あぁすみません。僕はスヴェン。ありがとう、皆さん!」
 ぐっと力強い握手を求めてきたスヴェンに、いえいえ、と笑みを浮かべながらラツは言葉を作った。
「この先ではお化けも花も実も見ませんでしたよ? 月夜に美しい黒い実が生まれると噂の屋敷なら、あちらの方角へ進んだ先にあると聴いた覚えがありますが」
「それならば間違いない。皆さんはそちらには……」
 いーえ、とヴフマルが首を振る。分かりやすく、スヴェンはほっとしてみせた。
「足元に気をつけて」
 ラツはそう言って、青年を送り出す。微笑んだ彼は、真っ直ぐにラツとヴフマルが教えた安全な方向へと突き進んでいった。
(「彼がせめて歌姫に、山吹の花を持ち帰って渡せたらいいかな」)
 そう一つ思い浮かべて、燈星・ジェン(c10838)は遠ざかる背を見送った。

●金の花と施療院
 スヴェンを見送り、丘へと向かう。なだらかな傾斜を登り切れば、古びた建物が見えた。
 ふいに、夜の空気が変わる。
 ヴフマルの腰につけていた灯りが長い影を地面に落とした。湿り気を帯びた空気が、夜の冷えた空気に代わり、そこに少しばかりーー古びた建物に匂いが混じった。
 死者の匂いだと、メランザは思う。
(「……闇夜に映える山吹とは如何なるものだろうな。存外、生者のみならず死者をも惹き付けるものかもしれん」)
 壊れた扉をそっと押して、中に入り込めば古びた常夜灯が目についた。僅かに、光って見えたのはヴフマルの用意した灯りがあったからだろう。月明かりが差し込むだけの施療院に、灯りはなくーーだが色があった。金、だ。中庭の山吹が、割れた窓ガラスからこちらまでそろりと枝を伸ばしていた。
 感嘆の滲む息は、薄闇の奥に感じた気配に飲み込まれた。
(「静寂の美……青年と同じように我々も敬意を払うのが礼儀なのだろうが……生憎と走馬灯の夢などまだ見たくはないのでな」)
 あちらはまだ気がついていないようだがーーすぐに戦端は開かれる。
(「美意識も分からん死者共には早々に眠りに付いてもらうとしようか」)
 腰に手をあてた地狂星・メランザ(c26024)の鋭い視線が、闇の向こうへと向いていた。ここが、と薄闇の中に夜が訪れる刻・シキミ(c32374)は呟く。
「待合室のようですわ」
(「施療院って、何だか心が安らぐ場所ですわよね」)
 ここも、嘗ては美しく皆の心休まる場所だったのだろう。中庭に見える木々があそこまで育っているのを思えば、陽も入ってきた筈だ。
(「山吹の花も、私も大好きですし。でも、ゾンビが棲みついているなら被害が出る前に倒さないといけませんわね」)
 ひとつ、息を吸う。
「音を立てますわね」
 シキミは自分たちの少し前方をノックした。施療院の古びた壁を叩く音が闇に響きーーパキン、と小さな音がした。
「ガラスを踏んだかな……来るよ」
 耳を澄まし、拾い上げた音にゆるり笑みを浮かべたジェンが弧を描いた刃を抜く。ひた、ひたと聞こえてきた足音が生者を見つけて加速する。蠢く死者の群れが、獣のように割れた床を蹴った。
「勢揃いとは言えませんが、お出ましですね」
 言ってラツが、たん、と後ろに飛ぶ。後衛に着くためだ。代わりに、前に出た三節棍の赤い群竜士・アヤカ(c14761)が獲物を手にゾンビたちを見据えーー言った。
「全てを、撃ち砕く!」
「ぉおおおお!」
 宣言と武器を抜く音が重なり、答えるように死者の声が響いた。
「正面にーー3体っすね」
 敵数を確認してーー床を蹴る。究極の速度への加速は一瞬だ。素早いゾンビが、その腕を振り上げる間も無くヴフマルのナイフに切り裂かれた。瞬動殺にぐらりと死者がよろめきーー、バネのようにその身を起こした。
「おっと」
 跳ね上がるように身を起こし、反撃の如く伸ばされた腕にヴフマルが身を逸らす。ぬるりと光る爪のそれはーー毒か。
「これはまた随分と威勢がいいな」
 風に乗り、間合いへと踏み込んだ男が足をーー落とす。た、と落ちた片足を軸に、バックスピンからの蹴りを叩き込めば鑪を踏んだ死者が崩れ落ちた。着地からそのまま、もう一撃ジェンは真横のゾンビに蹴りを叩き込んだ。
「……彼には、もはや、せつない恋の罪作りになっている歌姫だが」
 それ以上彼にとっての、取り返しのつかない罪でない罪は重ねさせたくない。
「彼の恋をここで終わらせたくない。……歌姫へのものじゃないものもうまれるかもしれないだろう?」
 着地から、蹴り飛ばした敵を見据え、ジェンは笑った。
「つっぱしるくらいの恋心は、羨ましくもあるし応援したいからね」
「そーだね」
 笑って応じた二つ夜のデモニスタ・ニヤ(cn0185)が指先を赤く染める。行くよ、と上がる少年の声と共に血の猟犬たちが駆けて行く。喉元に食らいつき、爆ぜれば死者の防御を奪う。
 その隙を逃すことなく、アヤカは前に出た。
「こいこい!」
 接近に気がついた死者が身を飛ばす。避けるように、動いたそこにアヤカは竜と化した身で一撃を叩き込む。
「るぉおおお」
 ぐらり、と大きく二体が傾ぐ。振り下ろす筈の腕が放り出されるように上がれば、胴はガラ空きだ。
「ボコッちゃうよ」
 たん、と床を蹴り、飛びかかるようにしてリチがゾンビに殴りかかる。リミットを解除した少女の一撃に、大きくゾンビがその身を揺らした。受けた衝撃を散らしきれず、崩れ落ちる。
 残る一体はーーその屍を越えてくる。
「ぉおお」
「お手伝いしますわ」
 至近で響く声に、身を飛ばせば後ろから声がした。
「妖精達よ、力を貸して下さいませ、かの者に突撃せよ!」
 シキミの召喚を受け、姿を見せた妖精たちが残る一体に突撃した。その衝撃にゾンビが呻く。獣のような低い声と共に足元、何か踏んだのかパキリと音がした。古びた施療院だ。それ自体はさほど不思議はなくーーだが、聞こえた音は一つだけではない。
「援軍っす!」
 真横だ。
 左だと声をあげながら、ヴフマルは飛び込んできた1体の攻撃を受け止めた。

●夜の底にて蠢くものは
「と、もう……1体!」
 受け止めた一撃を滑らせ、床を蹴る。最初の一体がそのまま前のめりになれば、2体目のゾンビの動きが鈍る。死者の爛々とした目だけがヴフマルを追った。
 2体に気がついたのは、待合室で戦いながら通路から敵の現れるかもしれない、と気を配っていたからだ。そしてヴフマルの警戒通り、敵はやってきた。
「これは賑やかになりますね!」
 笑うラツの手が下を向く。下ろした手で握ったナイフと共に、青年の影が揺らぎーー刃を持つ影の腕が生まれた。
「お相手しましょう」
 不敵にひとつ、笑ったラツの示すがままに、影は走る。影の刃が二体を引き裂き、嫌がるように振るわれた死者の腕がから振る。闇を切り裂く影に腕を掴まれ、その力を受け取ってメランザは踏み込む。
「――」
 ゆるりとした動作で、その手は死者へと押し当てられた。瞬間、爆発的な気が叩きつけられた。
「ぐぉおお」
 死者が吠える。
 夜の底を震わせ、響く呻き声と共に伸びた爪がメランザを切り裂いた。肩に一撃。じく、と残る熱は毒だろうがーー足を止めるほど重い傷でもない。続く一体の攻撃を、籠手をつけた腕で受け止めーーそのまま散らすように弾きあげた。
「いきますわ」
 僅かに空いた隙間。距離を撮り直したメランザを視界に、シキミは妖精たちに突撃を告げた。
「今がチャンスですわ、次は任せますわね」
 連携の力をアヤカへと渡す。妖精騎士の言葉に、一気に間合いを詰めーー叩き込む一撃を答えとする。
「任せて!」
 一撃に、ゾンビが崩れ落ちる。残るは1体。リチの拳を交わし、飛び上がった死者の動きは素早い。そのまま、大きく振りかぶった爪が振り下ろされる。
「リチ!」
「これくらいなら……大丈夫!」
 肩をえぐる一撃に、少女は腕を振り上げる。払うように振り上げた拳にゾンビが剥がれれば、風に乗ったジェンがそれを追った。
「さて」
 呟いて背後にたった男の蹴りが炸裂する。呻く事さえできずに、身を倒したゾンビへとヴフマルのナイフが突き刺さった。
「ぁあ」
 時を突き破り、死者の間合いへと踏み込んだ青年の一撃が死者を永遠の眠りへと向かわせた。
「っと……これで5体っすね」
 倒した敵の数を数えたヴフマルに、それじゃぁ、とアヤカが二つの通路に目を向ける。
「残りも5体だね」
 ゾンビたちはまだ施療院に潜んでいる筈だ。
 待合室から見える通路は二つ。だが幸い、通路自体は繋がっている。予定通り、一行は二手に分かれて進行することにした。

 ヴフマル、シキミ、メランザ、そしてリチのチームが選んだのは先に増援のあった通路だ。古びたタイルの床が目に映る。中庭はガラス張りになっていた。
「ここが歌姫さんが歌っていた場所にそっくりの場所なんだね。徘徊しているゾンビさんをボコッたらこの風景を楽しめたらいいね」
「えぇ」
 リチの言葉にシキミは微笑んで頷いた。折角だから、という思いは皆あるようだった。その為にも、と慎重に周囲を警戒しながら進んだリチの瞳が不可解な影を捉える。
「あそこ……何かいるよ」
 そうリチが言ったのと、通路の奥の死者が反応したのは同時だった。
 ドン、という音がもう一つの通路に響く。あちらも始まったようですね、とラツは呟いた。
「いやーーこっちもみたいだよ」
 耳を澄まし、通路の奥を見据えていたジェンがそう言った。足音が増えたと彼が告げ指差せば、死者たちの姿はすぐに見えた。足場の悪い通路も、マスタームーブで難なく移動したアヤカが一体目を倒した頃には連撃に倒れたゾンビとーー通路の奥、見えたゾンビを撃ち倒した仲間の姿があった。
「じゃぁ、これで全部かな?」
「えぇ。そう思いますわ」
 残存していた敵の数は5体。それぞれ2体、3体倒してそれで全部だ。
「……」
 死者の去った施療院には独特の静寂があった。気配もないな、と呟きメランザは中庭を見る。ふ、とシキミは微笑んで告げた。
「折角ですので、皆と一緒に山吹の花を眺めたいですわ」

●金の庭
 ガラス張りの中庭に、滑り込む。ガラスが大きく割れていなかったから死者たちも中に入る事は出来なかったのだろう。
 そこにあったのは色とりどりの山吹だった。
 月明かりを受け、その枝を思うがままに伸ばし育った山吹は小さくその花を夜風に揺らしている。ほう、と知らず安堵の息がこぼれた。
「また花に縁のある場所だな、ニヤ」
 ニヤが植えてくれた芝桜もぶわっと元気だよ、と報告がてらに声をかければ、ニヤは嬉しそうに笑みをこぼした。
「山吹、隣で眺めてもいい?」
「うん」
 頷いた少年にヴフマルも笑った。
「色々悩んでたみたいだけどどう、落ち着いた?」
「ちょっとは……かなぁ」
 落ち着いたとは言いきれず、子供ぽいとは思うんだけど、とニヤが零す。
「気が向いた時にゆっくり考えてけばいいと思うよ。仮面がなくなっても砕くべき終焉はまだまだあるし」
 ニヤが顔をあげる。ゆっくり、となぞるように落ちた言葉にヴフマルは頷いて笑った。
「暇だったら旅団でも奈落でも遊びにおいで。歓迎するぜ?」
「ありがと」
 山吹の花が甘く揺れる。いい香りだと笑って「伝えるの」とヴフマルは口を開く。
「大分遅れたけど。お墓にさ、桜供えてくれてありがとな。気にかけてくれて嬉しかった」
 奈落の花畑に眠るフロルのお墓。花を供えてくれた少年にヴフマルはゆっくりと問うた。
「……ニヤはお墓参りって、した?」
 お墓まいり、と吐息が言葉を作る。目を伏せて、ニヤは首を振った。
「……一度も、ないな」
 戻ってないんだ。とニヤが答えた。
 山吹が八重の花を揺らす。見れば金の花びらが少しばかり舞っていた。揺れる葉は漣に似て、シキミはほう、と息を漏らす。なびく髪をそのままに手を伸ばせば甘い香りが指先に乗る。
「山吹の黄、私はとてもいいと思うんだー」
 爽やかな甘さが肌に触れた。手を伸ばせば月影さえ淡く色づく。
 アヤカはそう言って、笑みを零した。
 ゆるり山吹を眺めるニヤに、ごめんな、と先にジェンは言った。
「ただいま」
 振り返ったニヤはその言葉を受け取ってから、おかえり、と笑った。
「ニヤにも見せたかったな」
 目をぱちくりとさせた少年はじゃぁ、あとでお土産話聞かせて、と笑みを見せた。
「山吹の素直な色は明るい陽の光に、夜の中の明かりの色に似てるよな」
 一重や八重、白も眺める。中庭には様々な山吹があった。施療院の長が好きだったのかもしれない。
「葉の色と一緒に元気を貰えないかい? 黒い実がなるのも本当だしね」
「一重の山吹は実を残すってあれだね」
「あぁ。実ができず根で元気に増えまくるからな」
 八重のやつ? とニヤは瞬く。驚いた少年に笑って頷けば「そっか元気なんだなぁ」と笑う声が耳に届く。
「綺麗だな」
「うん」
 山吹の色は心を温かく照らしてくれますね。
 ほう、と感嘆息を零し、ラツはそう言った。夜の闇に目は慣れても、鮮やかな色は変わらず映えて映る。
「暗闇から見守る月の一面。ニヤさんにも似合う色だと思います」
「オレ?」
「青年は歌姫を。君は誰を思い浮べるのかな」
 そうだなぁ、とひとつ笑い、今日からはきっと、とニヤは告げる。
「今日のこと、じゃないかな」
 夜の施療院と見事な山吹。
 白、銀山吹は黒い実がなる月夜かと呟き、ラツは視線をあげた。
「黒い実がなる金山吹もきっとありますよね」
「そうだね」
 きっと、と言ったのは誰だったか。闇夜に浮かび上がる山吹の、淡い影がエンドブレイカーたちをそっと撫でていった。



マスター:秋月諒 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2015/07/04
  • 得票数:
  • カッコいい2 
  • ハートフル3 
  • ロマンティック1 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。