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飛竜騎士戦記:空と闇と翼と

<オープニング>

●飛竜騎士戦記
 蒼穹に翼を広げ、何にも縛られず、風よりも自由気侭に空を翔けめぐる。
 天地の狭間すべてを思うさま飛翔できる自分たち飛竜とは異なり、大地から飛び立つこともできぬ人間という生き物を、なんとちっぽけな存在なのだろうと思っていた。
 だがある日――銀の鱗の飛竜は、己よりも随分と身体の小さなその生き物の中に、己よりも大きな心を持つ者がいることを識る。
 天頂に太陽輝く上空から一気に急降下してくる飛竜の牙と爪、自身の何倍もの巨躯を持つ相手のそれを、男は臆することなく笑顔で迎え撃った。飛竜はその男の剣技に興味を持ち、強大なる飛竜という存在に畏縮することなく、それでいて矛盾することなく敬意も持ち合わせる男の心に興味を持ち。
 そして――。
 男がまっすぐ己に向けてくれた言葉と想いを、心の宝石とした。

 彼と絆が結ばれた時のことを飛竜は忘れない。
 その力と心を認め、彼を背に乗せれば、世界が変わった。
 空の色が違う、陽の輝きが違う、風の爽快さが違う。
 心通わせた人間を背に乗せ、望まれて翔ける空はこんなにも青かったのか。望まれて翔けあがる空はこんなにも輝かしかったのか。望まれて翔け降りる空の風はこんなにも心地好かったのか。
 満ち足りた。誇らしかった。
 だから、飛竜騎士となった彼とともに彼の国のために戦うことに迷いはなかった。
 彼を喪うまでは。

 ――それは、空を自在に翔ける飛竜と、心通わせた飛竜の背に乗ってともに戦う、飛竜騎士がいる世界の物語。けれどその滅びの危機の物語は世界を超えて、終焉を砕く者達のもとへと届く。

 何処までも高く高く空を翔け昇り、翔る天風も輝く雲も突き抜けて、飛竜ははひときわ鮮やかな青の世界へ飛び出した。
 限りなく鮮やかに澄み渡る青の天穹、遮るものなく照りつける陽光。
 白く輝く雲を眼下に置き去りにして、新たに絆を結んだばかりの飛竜騎士を乗せた飛竜は更に空を翔け昇る。目指すは遥か彼方の高空、突如この世界に現れ、悪しき飛竜を生み出している闇の存在が潜む暗黒雲だ。
 闇の存在に襲われた飛竜は悪しき飛竜と化し、破壊と殺戮を撒き散らす。
 街を襲った悪しき飛竜を迎撃に出た飛竜騎士団はすべての騎士を殺され壊滅し、騎士を喪った飛竜達は逃げ出したのだが――逃げた先で闇に襲われ仲間の一体が悪しき飛竜となってしまった。
 だが悪しき飛竜となった一体を除く、残る飛竜達は助かった。
 別世界から現れた者達が飛竜達と心を通わせ、新たな飛竜騎士となってともに戦ってくれたのだ。
 新たな飛竜騎士達を――エンドブレイカーというらしい彼らを、遥か彼方の高空、闇の存在が潜む暗黒雲へ連れて行こう。

 そこはあまりにも空高く、この世界の人間では耐えられない。
 飛竜ならば問題ないが、飛竜騎士を乗せていない飛竜は近づけば悪しき飛竜に変えられてしまう。

 けれど新たな飛竜騎士達――強靭なエンドブレイカー達であれば、あの高空にも耐えられる。
 ならば、我ら飛竜がエンドブレイカーを飛竜騎士として暗黒雲へと向かい――。

●さきぶれ
「暗黒雲の中にいる闇の存在ってのを倒せば――って話なの」
 先頃この世界で飛竜騎士となったエンドブレイカーにより強行偵察が行われ、暗黒雲の中心に潜んでいるのが闇の天使の如き存在であることがわかったと扉の狩猟者・アンジュ(cn0037)が語る。
「何かね、燦然天使ゼルフォニアの光を闇にしたような感じって話」
 創世の光によって世界を満たすという燦然天使ゼルフォニアが光の天使なら、つまり闇の天使の如きその存在は世界を闇に閉ざす存在だということか。
 闇を生み出し続けているその存在を放置すれば、飛竜達の世界は逃れえぬ滅びを迎えるはず。
 その滅びの終焉を打ち砕くには、
「飛竜と心を通わせたエンドブレイカーがね、闇の天使を撃破しにいくしかないの!」

 遥か彼方の高空、暗黒雲へ向かうには飛竜の力が必要になる。
「んでもただ乗せてもらうだけじゃダメなのね。乗ってるひとが飛竜と強い絆を結んでなきゃ、飛竜が闇にとらわれて悪しき飛竜になっちゃうもの」
 心通わせた相手との絆は飛竜にとっては心の宝石。
 まさに心を護る希望の輝きなのだ。
「だからね、まず闇に侵されてない飛竜と会って絆を結んで、一緒に空を翔けたりなんだりみたいな訓練で絆を強めて、それから暗黒雲に向かって欲しいんだよ」
 世界の瞳はその力で、エンドブレイカー達を闇に侵されてない飛竜達がいるところへ転移させてくれるだろう。先日、空と海の狭間で飛竜騎士となった者なら、自分を認めてくれた飛竜に再会できるかもしれない。
 初めて飛竜に逢うなら、絆を結べるよう己の心を示して認めてもらおう。
 既に絆で結ばれた飛竜に再会できるなら、その絆を更に強められるように。
「綺麗な言葉だけ並べても見抜かれちゃうと思うんだよ。嘘や小細工はきっと通用しない」
 行動で示すか、心からの想いを語りかけるか。
 皆が同じでなくてもいいだろう。
 その時いちばん心に強くあるものを、自分らしく伝えればいい。
 闇へ立ち向かえるよう心を鼓舞してくれる勇気に応えてくれるかもしれない。
 滅びの絶望に寄り添い慰撫してくれる優しさに応えてくれるかもしれない。
 見知らぬ世界の悲劇をも見過ごせぬという高潔さに応えてくれるかもしれない。
 あるいは、もっと異なる想いでも。
「そうして飛竜に認めてもらえたなら、絆が結ばれて心を通わせられるんだって」

 絆を結び絆を強め、飛竜とともに暗黒雲に向かってからが本番だ。
「暗黒雲は大勢の悪しき飛竜に護られてて、近づくと迎撃されちゃうのね」
 この悪しき飛竜達は鍛錬を積んだエンドブレイカーと比べれば戦闘力は高くないのだが、圧倒的な数そのものが脅威となる。
「囲まれちゃったら飛竜が撃墜されると思うの。飛竜達もみんなほど強いわけじゃないから」
 襲い来る数多の悪しき飛竜達に囲まれぬよう動きまわり、隙をついて彼らを突破して暗黒雲へ向かうしかない。全員が暗黒雲に到達するのは困難だろう。けれど、可能な限り多くのエンドブレイカーが暗黒雲に到達できるように、全力を。
 闇の化身、闇の天使の如きその存在と戦えるのは暗黒雲に到達できた者だけ。
 そして、その戦力のみで相手を撃破しなければならないのだから。

「何だかもうね、ほんと簡単なことじゃないと思うんだけど……それでもみんななら、この世界の滅びのエンディングを打ち砕けると思うんだよ!」
 どうかお願い、力を貸して、と暁色の娘が願う。
 滅びのエンディングを打ち砕いて、無事に帰って来たなら。
「あのね、また逢おうね」
 あなたが絆を結んだ飛竜の話を、きっと聴かせて欲しいと思うから。


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参加者
絶対自由・クローディア(c00038)
空追い・ヴフマル(c00536)
眩暈の尾・ラツ(c01725)
翠狼・ネモ(c01893)
静謐の花筐・サクラ(c06102)
陽凰姫・ゼルディア(c07051)
冰霄・セラ(c07574)
風のように・アゼス(c15084)

<リプレイ>

●空と銀と翼と
 ――高く高く、風よりも雲よりも、高く!
 眩くきらめく蒼海を遥か眼下に置きざりに、絆を結んだ飛竜騎士を背に乗せた銀竜達は遥か高み目指して一気に空を翔け昇る。絆が結ばれた瞬間を、そして今、翔る天風も輝く雲も突き抜けたこの瞬間を、絶対自由・クローディア(c00038)はきっと生涯忘れない。
「青い……!!」
 ――オ前ノ心ダ! くろーでぃあ!!
 輝く雲からも解き放たれた絶対の青、何に遮られることもない自由な風と光。
 そう言ってくれた竜の心が何より嬉しい。胸の創と共に識った闇の色、世界から断ち切られる瞬間の色。それを識るからこそ飛竜達をその色に染めんとする存在を許せない――それが飛竜と彼女を結んだ絆。
 大地でなく真白な雲に影を落として、なおも空を翔け昇る感覚が空追い・ヴフマル(c00536)の心を駆りたてる。もっともっと、焦がれてやまぬ空へ。
 思うまま翔けて、あんた達の空を、俺の焦がれた空を、取り戻そう。
「出逢って間もないからって遅れは取らない、そうだろ?」
 ――ソレハオ前次第ダ、新タナ騎士ヨ!
「確かに!!」
 心に響く声に破顔し、並んで先頭を翔ける冰霄・セラ(c07574)と彼女の竜を見た。先日の実戦を経て今日再会し、更に絆を強めた彼女達の動きはやはりキレが良い。あの域に届くだろうか。
 風切る感覚も風鳴りが耳許で渦巻く感覚も高揚となってセラの背筋を翔け昇る。
 ――アレダ! 見エタカ、せら!!
「ええ! 私達もあの雲を越える心算で臨みましょう」
 目指すは遥か彼方の高空、雲が描く地平の更なる高みに渦巻く暗黒の雲が見えた瞬間、飛竜が己の名を呼ぶ声があの日のように心で宝石のごとく光った。絆の宝石がここにもあるのなら、貴方の仲間の無念を、共に晴らしたい。
 水に落とした墨よりも黒々と禍々しく渦巻く暗黒の雲、いまだその靄の一部としか見えないものも、風のように・アゼス(c15084)の鷹の視界には確かな像を結ぶ。
「悪しき飛竜がうじゃうじゃいるぜ……けど、上方への警戒が薄い気がする!」
 ――オ前ガソウ感ジルナラ確カダロウ、あぜす!
 突破優先の紡錘陣、その後方に位置する彼から皆へは身ぶりより声で伝える方が早い。
「なら、上昇を。思うまま望むまま、存分に飛びなさい――晴嵐(セイラン)!!」
 わたしはおまえが生きる空を護るため戦うから。
 ――承知! 共ニ往コウ、さくら!!
 再会の折に静謐の花筐・サクラ(c06102)の故郷の言葉で贈られた名を大層気に入ったらしい竜が彼女に応えて歓喜を響かせ、編隊を組む同胞達と共に翔け上がった。
 遥か彼方の高空、その更なる高みから急降下で目指す暗黒雲。
「けど、流石に真上までは行かせてくれませんでしたね!」
 ――マア、アレ等モ知能ガ低下シタワケデハ無イダロウカラナ、我ガ愛人ヨ!
 此方の接近は察知されたがいまだ疎らな敵の合間を弾丸の勢いで降下し擦り抜ける銀竜の背で、云ってくれる、と笑って眩暈の尾・ラツ(c01725)は、振り向き様に今しがた交差したばかりの敵へ牽制の戦闘光輪を放つ。
「でも、嫌いじゃないですよ。私も多情なもので!」
 ――ソウダ、大切ナ存在ハ、多クテ良イ!
 独りの願いに限りがあるなら、皆で願おう。そして、一緒に叶えるのだ。
 絆を結んだからこそより強くこの世界の闇を払いたいと望んで、飛竜翔けるこの空へ戻ってきた。ゆえに、必ず仲間を侵した根源を断つと誓った翠狼・ネモ(c01893)と再び彼を背に乗せた竜の絆は強い。だが、絆で高められた機動力をもってしてもこのまま暗黒雲を貫くというわけにはいかない。
 前方からは躱しきれぬ程の数の敵。
「なら、突破口を開くまでじゃ」
 ――オ前ラシイ! 切リ拓クゾ!!
 一気に加速するネモの竜の隣で陽凰姫・ゼルディア(c07051)を乗せた竜も加速する。
「退いてもらえないなら……押し通る!」
 ――ソノ意気ダ! サア再ビ聴カセテクレぜるでぃあ。オ前ノ、唄ヲ!!
「ええ!!」
 貴方もこの世界も闇に渡したくないから、どうか一緒に戦って。
 強固な絆も再会の歓びも手繰る糸の先を希う想いもすべて即興で織りこんで、ゼルディアの歌声が鮮烈な疾風と花々となって眼前の敵を薙ぎ払う。

●空と青と翼と
 悪しき飛竜達が放つ闇の力が乱舞する高空を、突破し躱して敵勢の薄い箇所を見定めては翔け抜ける。追いすがる敵の眦を斬り裂く戦闘光輪は殿を務めるラツのもの、
「迎撃勢に先日ほど手強い相手がいないのは幸いですね!」
「けど、数が厄介。集中攻撃だけは、防ぎたいところね」
「了解、暴れまくるっすよ!」
 扇の舞から迸るサクラの雷鳴、文字通り敵竜の出鼻を挫くヴフマルの回転蹴りが悪しき飛竜達の狙いを乱し、進路を塞ぐ敵あらば、
 ――ヤハリオ前ノ体捌キハ爽快ダ、せら!!
「竜を吹き飛ばしたのは、初めて」
 その鼻面やあぎとを捉えたセラが華奢な身体で竜の巨躯を投げ飛ばし、抉じ開けた突破口へ皆で全力で飛びこんでいく。溢れる血の匂いを浚っていくのは生命の瑞々しさに満ちた風、
 ――アア、思ッタ通リ、くろーでぃあノ風ハ気持チガイイ。
「うん、そう言ってもらえると嬉しい」
 飛竜の声に笑みを綻ばせつつも、クローディアは油断なく前を見据えて罠糸を手繰り寄せた。
 遠目には青空に落とされた墨にも見えた暗黒雲は今や巨海の渦のごとき威容で眼前にある。蒼穹すべて塗り潰さんとする黒き嵐雲、それから次々溢れてくるかのように襲い来る悪しき飛竜の群れ、それらを見渡してヴフマルが不敵に笑んだ。
「さあ、運び屋の腕の見せ所ですね」
 眩しい空を飛竜達へ。そして――全員、生きて帰す。
 紡錘陣が一糸乱れぬ動きで急旋回、アゼスの鷹の眼が捉えた敵勢が薄い箇所へと喰らいつくが、ここまで暗黒雲に接近するとやはり一戦も交えず突破するのは難しい。
「……させん!」
「サクラさん、下です!!」
 銀翼を焼き潰さんと翔け来た巨大な黒炎を蹴り飛ばすネモ、サクラの竜の腹を裂かんとした光線は己が飛竜と共に割り込んだラツが守護魔法陣で弾き飛ばす。
 前方から分身と吶喊してきた敵の翼を捉えたのはクローディアの鋭い罠糸、しかし糸で絞めつけた刹那、横合いから迸った呪いの眼差しが彼女を乗せた竜の翼を貫き、石化させた。
「――!!」
 銀竜の身体が傾ぐ。
 だが、翼なき身で宙に投げ出されても、彼女は無力な娘には成り下がらなかった。
 この瞬間でさえ、クローディアは狩人だった。
 ――往く手を塞ぐなら、狩り取る。
「ゼルさん! 行って!!」
 手を伸ばしたいところがある。己が手が無理なら、せめて!
 友を囲まんとする敵が射程内と見るや即座に引く三日月の弓、己が命そのものの輝きを迸らせて、空を落ちながら狩猟者は、悪しき飛竜達の心を狩り取った。
「クロさん!!」
「大丈夫、クローディアの竜が受けとめたぜ! ――往こう!!」
 片翼を石とされつつも全力降下した銀竜の姿を鷹の眼で捉えたアゼスがゼルディアを促す。立ち止まっていては自分達が囲まれる。いざという時、突破を目指す者とそれを支援する者は予め決めていた。
 漆黒のガンナイフから撃ち込む魔法弾で己が竜を癒したアゼスが、即興歌で嘆きにも似た吹雪と焔を迸らせたゼルディアが飛竜と翔ける。先頭を往くのはヴフマルとサクラ、彼らの進路に滑り込まんとした敵の翼を指輪煌く繊手で掴み、セラが渾身の力で投げ飛ばす。
「ネモも行ってください! 貴方の飛竜が一番被弾が少ない!!」
「ええ、一人でも多く、闇の化身へ!!」
「――必ず、遂げてくる!!」
 乱戦を迎えんとする戦場にあってもセラの瞳は状況を見誤らない。
 すべては無理でも、彼は飛竜を庇うよう心がけていた。
 ――行けますよね?
 ――勿論ダ!!
 銀の鱗を撫でるだけで通じ合えた。瞬時に旋回した飛竜の翼の先へ馳せたセラは、ネモを呪いの眼差しで貫かんとしていた敵の瞳に刃の小夜時雨を降らしめる。
 斜め下方から追いすがらんとする悪しき飛竜達へはラツを乗せた飛竜が急降下、彼自身が閃かす刃は恐らく竜達の牙より小さなもの、けれど翅の幻想が舞ったと思えた瞬間、拡大されて展開された儀式魔法陣が巨大な竜二体を押しとどめた。
「ここは私に任せて先に往け……これぞ殿の華ってもんですよね!!」
 ――ソコデ敢エテ笑ウカ、惚レ直シタゾ、らつ!!

●空と闇と翼と
 暗黒雲への道が拓けた。
 だが他から来るはずの同胞達の姿はない。鷹の眼で見渡せばあちこちで交戦中の様子、叶うなら他の同胞達とも連携を取りたかったが、今ここで留まるわけにもいかない。
「一番乗りか……! ここは突っ込むしかねぇよな!!」
 ――アア、コノ機ヲ逃スナ!!
 己も竜も鼓舞するように笑い、アゼスは銀竜と共に禍々しく巨大な闇の魔力が嵐と荒ぶ、暗黒雲の渦へと突入した。
 風のように誰よりも早く吹き抜けて行こう。
 絆を結んだ、誓いのままに。
 突入すると同時、世界が暗黒に覆われた。すぐ傍を翔けているはずの仲間の姿も見えぬ暗闇の世界、それもその闇そのものが荒れ狂う暴風となって飛竜の巨躯をも翻弄する。
 だが闇に全身を嬲られながらも、サクラは穏やかに竜鱗を撫でた。
「頼りにしているわ、わたしの飛竜。おまえがいれば怖れるものなど何もない」
 友より長く生きることになっても、おまえがいれば寂しくない。
 ――アア、タトエ見エル場所ニオラズトモ、心ハ共ニ!
 待ち人のため時の玉座に座ると決めた娘の心を察してか、彼女の竜がひときわ強く羽ばたいた。
 飛竜達は一切速度を緩めることなく闇の嵐を翔け抜ける。嵐から飛び出した、刹那。
「避けろ!!」
 己でも理由が判らぬままアゼスが叫ぶと同時、ネモのすぐ眼前を凄まじい闇の雷が奔り抜けた。
 そこは強大な闇の魔力渦巻く暗黒雲の中心部。
 嵐の目のように開けたその空間に――闇色の身体と闇色の翼を持つ、闇の化身が浮かんでいた。
 絶句したのは一瞬、けれどその一瞬すら許さず次々闇の雷が襲いかかってくる。全身が総毛立つ感覚が何より確かにそれを識らせる。
 この雷が命中すれば、恐らく一撃で倒される。
「くそ、どうにかなんねぇのかこれは!」
「今は避けて! 何とか手立てを……!」
 幾つも荒れ狂う絶大な闇の雷を護りを固めた飛竜達が必死で避けて、アゼスが藍弓から百連矢を浴びせゼルディアが歌声を張り上げながら目を凝らす。迅雷破を迸らせつつサクラはデモンワードで何か拾えないかと耳を澄ますが、悪しき飛竜達と同様、闇の化身も言葉らしきものを発しない。
 ――異界のマスターデモンに繋がる気配があるかも、判らない。
 唇を引き結んだ瞬間、サクラは闇の雷に撃墜された。
「一矢報いずにやられてたまるか!」
 闇の雷を掻い潜る竜の背でアゼスが弓を引き絞る。避けきれぬ強大な雷が彼を直撃したが、その直前に幾十、幾百と迸ったアゼスの弾幕に紛れて、ヴフマルの駆る飛竜が闇の化身の懐へと飛び込んだ。
 背に咲かせた光翼でヴフマルが一気に闇の化身の胸元を掻き切る。
 同時に、闇の化身の背後から加えられた衝撃を感じた。
 ――味方だ。
 ちょうど逆方向から暗黒雲を突破してきた他のエンドブレイカー達が闇の化身の背後を突いたのだと察した、瞬間。
 闇の化身を中心に球状に解き放たれた極大の闇の魔力が、爆発した。
 全周囲を薙ぎ払う極大の攻撃。
「……反則っすよ、それ」
 あんたの信じるものに祈りな。
 ――そう、言ってやりたかったのだけれど。
 薄れゆく意識。けれどその中で確かにヴフマルは笑った。敵は強大、けれど続々と味方の気配が増えていく。他の同胞達もここに辿りついたのだ。
 そして。
 夜の次には朝が来ると、俺はもう、知っているから。

●空と光と翼と
 絆を深く繋いだ飛竜達が咄嗟に距離を取ってくれたおかげで、ネモとゼルディアは多少の余波を受けたのみで済んだ。しかしどうやら闇の化身に有効打を浴びせるには至近距離に迫る必要があり、肉薄すればあの爆発を喰らうのは必至――ということらしい。
 けれど、敵の背後をついた同胞が光明を見出した。
「敵の大爆発は、恐らくかなりの力を要すると看た! 故にそう何度も起こせやしない!」
「使うたび自身も消耗する、ということじゃな」
 爆煙からゴーグルで護られた翠眸を凝らせば、確かにネモにも闇の化身の疲労が見て取れた。
 多少距離があれば闇の雷で蹴散らせるが、肉薄されると爆発で撃退するしかないようだとなれば、
「今この場にいる皆で散開、雷の隙をついて懐に飛び込んで消耗させていく……しかないみたいね」
「ああ、皆それで纏まったようじゃ――往こう!」
 朔月の刃の柄を握りしめたゼルディアも覚悟を決めた。
 皆へ情報を伝えた同胞達は既に特攻に入っている。
 ならば遅れを取るわけにはいかんとネモも飛竜と翔けた。
 暗黒雲の中心で出逢った相手があの子じゃなかったことにほっとしている。けれどまだ何も掴めていないという焦燥がゼルディアの胸を灼く。それでも。
「貴方が何処から来たのであれ、この世界も飛竜達も闇に染めさせるわけにはいかないの!!」
 心をすり潰すような戦いになった。
 誰かが闇の雷で落とされて、誰かが闇の化身に痛打を与えては爆発に呑まれていく。だが、雷の直撃を受けそれを凌駕して、なお空を翔ければ飛翔感の快さがネモに微かな笑みを生む。
 ああ、これでいい。
 もはや識らない空、識らない陽、識らない風などではない。
 だからこそ、身命を賭してこの空を、飛竜達の心を護り抜く。
「……騎士とは誓いを違えんもの、じゃろう?」
 ――飛竜モ誓イヲ違エヌ。私ハオ前ノ翼ダ、ねも!!
 再びこの飛竜の背に降りた時に口にした言葉を改めて誓う。彼の意を察して相棒たる竜が心に誇らしげな声を響かせる。闇の雷を掻い潜った銀竜の背から翠狼が時を突き破った刹那――闇の化身の右肩が裂けた。
 当然のように起こる、闇の爆発。
 けれどそれが収まった中に視えたのは、酷く消耗した敵の姿だ。
「――……!!」
 言葉にならずともその声だけでゼルディアの飛竜は翔けてくれた。
 何を言えばあの子に届くの。何処まで翔ければあの子に逢えるの。
 この声届くなら、枯れるまで唄うのに……!!
 願いに届くか判らなくて、それでもこの好機を逃すわけにはいかなくて。蝕を招くための刃が銀月の輝き帯びて、闇の化身の右腕を断ち落とす。残った同胞のほぼすべてが総攻撃に入る。
 何もかもを振り絞るような闇の大爆発が皆を呑んだが――それが最後だった。
 誰の攻撃だったのだろう、続いた爆音と共に迸ったのは、鮮烈な光。
 眩い光が闇を薙ぎ払い、暗黒雲が晴れていく。

 限りなく鮮やかに澄み渡る青の天穹、遮るものなく照りつける陽光。
 声が聴こえる。
 暗黒雲への突入を援護してくれた仲間の声、悪しき飛竜達が正気を取り戻したという誰かの声。
 けれど、異界の気配はわからないままだった。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2015/07/27
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