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永遠の夏 ラーラマーレ・フェリーチェ

       

<オープニング>

●夏空の街ラーラマーレ
 ねえ、おいでよ。夏空の街ラーラマーレにすべてが鮮やかに輝く夏がやってきた。
 夏の輝くような歓びも幸せも、眩いくらいの愛しさも泣きたいほどの切なさも、全部全部ここにある。
 鮮やかに翔け去り、心に永遠を残す――ラーラマーレの夏。
 これほど鮮やかに翔け去る季節を、他に知らない。

 涼やかに透きとおり、ふわり夏が息づくように淡い熱を帯びる朝の風。
 眩い曙光とほんのり夏が息づく涼風が吹き込む気配に小さく身じろぎをすれば、さらさらと肌触りの良い褥からは香りづけに使ったオレンジフラワーウォーターが仄かに香り立つ。
 心地好い寝台から離れるたび感じるのは後ろ髪引かれるのにも似た淡い切なさ。けれど半開きの窓を開け放てば、朝の夏空に映えるラーラマーレの光景が瞳いっぱいに映りこんだ。
「わぁ……!」
 夏の煌きをぎゅっと詰め込んだみたいな青空のもとに広がるのは、夏空の青をそのまま映しとって輝く広大な湖だ。大地に落とされた夏空の滴を思わすこの湖の名はマーレ、明るい紺碧に透きとおる波寄せるマーレの湖畔には、緑鮮やかな街路樹と白く輝く街並みが印象的な街が広がっている。
 夏空の街ラーラマーレ。
 夏の輝くような歓びも幸せも、眩いくらいの愛しさも泣きたいほどの切なさも、全部全部ここにある。
 ――ねえ、いこうよ!
 とびきり澄んだ水と華やかなジャスミンにひっそりと蜂蜜香るアーモンドオイルのソープでさっぱり顔を洗ったなら化粧水代わりにオレンジフラワーウォーターをたっぷりと。ナチュラルな籠編みが可愛いマルシェバッグを肩掛けしたなら、さあ、ラーラマーレの街へ飛び出そう。
 眩い白の街並みは夏の曙光に輝くように照り映えて、滴るような緑を湛えた街路樹達は鮮やかな珊瑚色した柘榴の花と夏の夕陽みたいなオレンジの果実に彩られ、光と影が鮮烈な夏のモザイクを描く街路を駆ければ純白の花咲くガーデニアの植え込みの中からぴょこんと飛び出す小さな影。
 ぱたぱた動くオールみたいな黒の翼にぽってりした真白なおなか、そしてぴこぴこ動く小さな尻尾。黒と白のコントラストが鮮やかなその生き物は――そう、ペンギンだ。
 夏空の街ラーラマーレの住人は、夏の陽のように明るく陽気な人々と、人懐っこくて愛嬌たっぷりのマーレペンギン達。黒くてつぶらな瞳と目が合ったなら、どちらからともなく競争開始!
 言葉を交わすまでもなくともに目指すは白く輝く街並みの至るところに張り巡らされた運河の水面、夏空の青をそのまま映しとって煌く水面が見えたなら、顔馴染みのゴントラ乗りが手を振ってくれた。
「何処まで乗ってく?」
「あのねあのね、朝市の手前まで!」
 迷わずゴンドラに飛び乗ったなら一緒に駆けてきたペンギンも迷わず運河の岸を蹴って、何よりも鮮やかに煌く夏空色の水面へダイブ!
 輝く水飛沫が大きく跳ねて弾けて降りそそぎ、体の芯を目覚めさせてくれるように鮮烈な水飛沫の冷たさに声をあげて笑う。

●ラーラマーレ・フェリーチェ
 街の住人だけでなく観光客でも賑わうこの朝市では雑貨も豊富。
 夏空色の硝子瓶に揺れる薔薇やオレンジの花の蒸留水は思わず手が出る香り、オレンジオイルとオリーブをぎゅっと詰め込んだソープと合わせて買うのが人気で、その隣の店には陶器のモザイクで可愛いマーレペンギンを描いたソープディッシュが置いてあるのが心憎い。
 明るい彩で染められた硝子にエキゾチックな金彩踊るミントティーグラスなんかもそうだけど、この夏空の街で暮らすならやっぱりこの街ならではの品が欲しくなる。
 そして、ラーラマーレならではの美味もたっぷりと。
 眺めるだけでも涼しげな氷塊を豪快に砕いてみせるのは氷売り、冷たい煌きをたっぷり詰め込んだ硝子杯を買ったなら、とんがり帽子みたいな蓋のある土鍋にも小さな氷屑をざっくり入れてもらうのも忘れずに! 街路樹に実る甘酸っぱい香りのオレンジをたっぷりもぎながら目指すのは、マーレから水揚げされたばかりの新鮮な魚介類。瑞々しいオレンジやレモンの薄切りで彩られた魚介は、どれもこれもが飛びきりの美味しさ間違いなし!
 もちろん今すぐ氷いっぱいの硝子杯にオレンジを搾って飲んでもいいし、魚介は持ち帰って朝食にしたっていいけれど、
 ――ねえ、今日のお昼は何を食べようか。

 今日の気分にぴったりの魚介をとんがり帽子みたいな鍋に入れてもらって、お昼になったら夏空の街を駆け抜けて!
 鮮やかに開けた視界いっぱいに広がったのは夏空の青。心まで染め抜くかのような鮮麗な青が、遥かな天蓋の空に眼の前の湖に満ちている。心と身体すべてで夏空の青を受けとめたなら、目指すところは湖を一望できるオープンテラスのリストランテ。
 湖上に張り出したテラスの先、燦々と陽射しが降るテーブルに、柘榴やオレンジの樹が優しい木陰を用意してくれる奥のテーブル、何処でも吹き抜ける湖からの風は心地好いから気分のままに席を選んで腰をおろす。買ってきた魚介はシェフに預けてお任せで調理してもらうのが夏空の街ではよくあるスタイルだ。
 もちろん好みの調理法を指定してもいいし、肉や野菜が食べたい気分ならシェフが仕入れた食材で調理してくれる。料理を待つ間に街路樹からもいできたオレンジを氷たっぷりの硝子杯にぎゅうっと搾り、飛びきり瑞々しい果実水をまずは一杯。
 空いた硝子杯にそのままシェフ特製サングリアを注いでもらってもいいし、甘味を避けたい者には軽めの赤ワインを鮮やかなルビー色したハイビスカスティーで割ったものがおすすめだ。
 真っ赤なトマトと網焼きズッキーニの蜂蜜オレンジマリネ、黒鯛をサフランと白ワインで煮込んだ太陽の色したスープ、とんがり帽子みたいな蓋の土鍋で煮込んだチキンとプラムが並べばさあ乾杯!
 鮮やかなラーラマーレの息吹をたっぷり感じられる料理に舌鼓を打ちつつ明るい声音で語るのは、心躍らずにはいられない夏空の街の毎日の話。
 ――ねえ、今日の宵はどんな風にすごそうか。

 菫色の宵を迎える頃、夏空の街はひときわ深い異国情緒を覗かせる。
 夢に蕩けていくような夏空の街、彩も影も深まりゆく中に色濃く漂い始める異国の薫り。
 軽くオレンジフラワーウォーターを落とした水風呂で身体を清めたなら、身につけるのはこの辺りの民族衣装。淡桃色を金刺繍が彩るカフタンドレスに宵の風を孕ませて、夢に蕩ける街へと泳ぎだす。
 菫の宵に淡いローズピンクに染まる街並みの白漆喰には優美な影を生みだす漆喰彫刻が施され、時には不規則な星の形を思わす色鮮やかな陶片で精緻な幾何学模様を咲かせるモザイクタイルで彩られ、辿り歩けば夢の迷宮へ誘われるかのよう。
 夢の迷宮へ迷い込み、その懐深くまで沈んでいけば、美しい物語を織り成す幾重もの綴織の奥でめぐり逢うのは、煌びやかな異国の宴を思わすサロン。
 精緻に模様を織り出した絨毯に敷き詰められたクッションに柔らかに身を沈め、細かに挽いた粉を柄杓に似た小鍋ででとろりと煮出した珈琲や、たっぷりのミントと茶葉を珠のようにした緑茶で淹れた蕩けるように甘いミントティーを、深い異国の薫りごとゆるりと楽しむ。
 夢に溺れるための酒や水煙草も、歳が足りた者なら望むまま。
 獅子の乳とも呼ばれるアニス香る蒸留酒は水を落とせばふわりと霧が湧くように白濁し、夏空色の硝子と金色の黄銅細工に彩られた水煙草は優しい水音こもらせ、薔薇とバニラをかさねた甘い煙を薫らせて、淡く霞がかる意識の中で、飛びきり冷えた灰色のワインに手を伸ばす。
 雑多な喧騒や賑わいから逃れたければ、水の香りを辿ればいい。
 菫色の宵に深い桔梗色に染まる運河に浮かぶゴンドラに柔らかなクッションをたっぷり敷き詰め、好みの嗜好品を持ち込んで、ゆるり水面へ滑りだしたなら――そこにあるのは自分だけの夢の淵。

「――ね、そんな風にすごすラーラマーレの夏が、すごく自然になったね」
 幾つもの夏を夏空の街ですごし、夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)にとってはすっかりこんな夏が当たり前のものになった。それはきっと自分だけではないと思う。
 壮麗な漆喰彫刻の柱やモザイクタイルに彩られたエントランスに、オレンジの木陰に瀟洒な噴水が設えられた美しいパティオ。そして、ラタンの家具にコットン織りの絨毯、風を通す薄い紗で覆われた天蓋つきの寝台を備えた客室――そんな宿で夏空の街の夏をすごすひとも、小さなコテージを借りて日常らしい日常をすごすひとも知っている。
 毎年夏になるとラーラマーレでゴンドラ乗りや湖での漁の手伝いをして働くひとも、色鮮やかな幾何学模様の花を咲かせるモザイク職人の工房に雑用係兼弟子として住み込むひとも知っている。
 これからもきっとそうだろう。
 夏が来るたび心も身体もラーラマーレへ翔けずにはいられない。
 夏の輝くような歓びも幸せも、眩いくらいの愛しさも泣きたいほどの切なさも、全部全部ここにある。
 だからね、と暁色の娘は同胞達に笑みを向けた。
「あのね、また逢おうね」
 ――夏空の街で、きっと、また。

 夏の輝くような歓びも幸せも、眩いくらいの愛しさも泣きたいほどの切なさも、季節がめぐるたびに胸へ鮮やかに灼きつけて。
 命ある限り永遠に、繰り返し繰り返し思い出す。


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参加者
NPC:夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●ラーラマーレ・スプレンドーレ
 夏空の青に弾けた水飛沫がプリズムになって世界を飾る。
 街路樹の緑踊らす風はオレンジの香り、煌く水面へゴンドラで滑り出せばたちまちペンギン達との追いかけっこのはじまりはじまり!
「ねえ、ピノ、ピノ! 私の船長さんには敵わないわよね!」
「親分が望んでくれるなら誰より早く、マーレペンギン達にだって負けないよー!」
 はしゃぐエミリアが名を呼ぶ声もきらきら光って夏風に躍る。製菓市の街に根付いた彼といつだって此処でまた逢えると信じてる。ラーラマーレの煌き全てが追憶の欠片、だから櫂を繰るピノの笑みも歓び弾けるばかり。
 朝はオレンジの雫、ランチは海鮮、宵には灰色のワイン!
 さあ、夏空の街の一日は始まったばかり!
 朝の陽射し跳ねる水の夏空を翔けるは一等星のゴンドラ、夏空色のミントティーグラスに涼やかな薔薇水、すっかりラーラマーレ色に染まったコテージを後に、キウの舟は御機嫌で水面を翔ける。
 飛びきりのゴンドラ乗りにして大好きなこの友をしばらくはロレッタが独り占め。何処に行こうか何をしようか、彼女の語る全てが眩い水面の光みたいに胸で跳ねる。
「吃驚するくらい素敵だから覚悟してて?」
「ふふ、覚悟は当然。星の仰せの侭に」
 互いを独り占めしあう贅沢な夏、幸せは連鎖して、きっと。
 夏花いっぱい咲かせ、花売り娘のゴンドラが漆喰彫刻のアーチを潜る。コテージから工房へ毎朝の定期便、行ってきますと行ってらっしゃいを額と頬にキスで交わし、振り仰げば世界で一番鮮やかな夏空の青。
 眩いのに目を逸らそうとは思わない。
「俺がこの街を気に入ったのは、青空がお前の眸と似た色をしてたから――って言ったら驚くか?」
「んーん、勿論知ってたよ?」
 愉しげな笑みで嘯くエアハルトに得意げに返せばぴんっと額で跳ねる彼の指、きゃーと歓声あげて弾けるようにモニカも笑う。
 だってお互い夏の申し子、この青に恋をしないはずがない!
 氷いっぱいのグラスに躍るのは搾りたてのオレンジ果汁。
 夏空の街ならこれ! と勧められたそれらと並べるのは瑞々しい夏野菜と海老やオレンジチキンの自作サンドイッチ、形は不格好でも味はきっと飛びっきり。
 窓辺の風は極上の心地好さ、ゴンドラの水音を子守唄に寝返り打つのも幸せで、けれど旦那様に起こしてもらうのはシヅマにはもっと幸せな朝。
「キスで起こしてくれてもいいのに」
「そりゃ柄じゃないけど、好きなのから、好きなだけどうぞ」
 面映く笑ってローは、至福の朝食に妻を招いた。
 朝の陽射しに輝き弾ける水飛沫、けれどゴンドラの櫂を操るシェミアの姿がトモヤには何より眩い夏の輝き。涼しげな木陰に舟を滑らせれば梢からオレンジをもいで、氷が煌くグラスに夏色の果汁を搾って笑いあう。
 木陰の舟で広げる朝食は、たっぷり夏野菜に鴨ハムのバゲットサンド!
「すっごく幸せだね♪」
「うん、最高だね……♪」
 輝く水の夏空へとゴンドラで漕ぎ出せば、波間を飛ぶペンギン達が追いかけてきた。櫂から跳ねる水飛沫、弾けた水滴と翔ける夏風、
「おはよう! 元気にしてましたか?」
『くえっ!』
 返る声さえ楽しくて、アルトリアにも夏満開の笑みが咲く。
 さあ、掛け替えないラーラマーレの夏が来た!
「ちょいやー!!」
『くえぇっ!』
 オレンジフラワーを香らせ素敵なマルシェバッグを手にしたお洒落紳士ルルも、ひとたびペンギンと目が合えば熱き戦士に変わった。熾烈な戦いの果てに水面に煌く夏空の青に思いきり飛びこんで、一人と一羽の夏が始まる。
「どちらまで行かれるだろうか?」
「魔法のおうちまで!」
 林檎の森ではお菓子屋さん、夏空の街ではゴンドラ乗り、二足の草鞋なリューウェンは飛び乗ってきた夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)にオレンジタルトを振舞って、相棒ペンギンの示すまま舳先を巡らせる。
 是非ご贔屓にと笑って心馳せる、思いもよらぬ幸福な日々。
 湖を望むコテージのテラスは瑞々しいグリーンカーテンに彩られ、テラスのウッドデッキの下からは雛っこペンギンがシャルティナにこんにちは。
「アンジュさんっ! 海老さんあげてもいいでしょか!?」
「ちっちゃくてぷりぷりのでどうぞ!」
 弾ける歓声に破顔して、ヴァレリーはばっちり用意されていたバーベキューセットで麺を躍らせる。麦酒炒麺には豚肉と今採れた白ゴーヤ、シャンパン炒麺には海老を!
 旦那様呼んでいい? と訊かれれば、
「おう呼んだれ! アンジュはお嫁にいってもおっさんの味方やもんな!」
「ずーっと味方だよ! 味方だよ!」
 こちらもお互い弾ける笑顔。
 ――また夏に逢おうな、ありがとさん。
 明るい緑が育まれたテラスに手を振れば朝市めざして宜候!
 世界の全てが歓び歌う夏の眩しさに今にもフェイランの唇から歌が溢れてきそう。水の夏空翔けるゴンドラの舳先で煌く水飛沫が弾けたなら、ベネディクトが振舞うアイスティーのグラスで蜂蜜漬けのオレンジも楽しげに躍る。
「おっと、これはこれで美味しくなりそうだけど、船頭さんは安全運転で宜しく!」
「ご心配なく! けど、挑まれた勝負には此方も愛嬌で応えませんと!」
「まあ! ベネもラツも見て見て! もしかしてこの子……!!」
 競争相手は水の夏空飛ぶペンギン達、笑い返したラツが軽快に舟を加速させれば、波から跳んで舟にダイブしてくる若ペンギン。飛びきりのゲストを迎えて、新鮮な魚介のアクアパッツァにパエリア、夏野菜の蜂蜜オレンジマリネめざしてさあ往こう。
 夏空色の湖からの風が躍るリストランテで、太陽のサフラン色にこの手で獲った赤いカサゴ丸ごと一尾が映える夏色パエリアのテーブルへ暁色を御招待。
 ラーラマーレで生きる人生、それは彼女がくれたものだから。
「も、来年は独立できちゃうんじゃない?」
「だといいよなー! 夏空の街とアンジュの未来に、乾杯!」
「オズヴァルドくんの未来にも!」
 硝子杯鳴らせば弾けるオレンジの雫、杯越しに連れを見遣れば、
「ソラリス、夏似合わないわよね」
「――夏は、嬢のほうが似合いだろう」
 零れる軽口、釣られる呟き。雪降る明け方の空思わす彼の言葉に蒼穹の瞳を瞬き、ジルフラウが快活に笑えば呟き聴かれた面映ゆさ誤魔化す渋面が見えたけど。
 夏も、嫌いや無いよ。
 近頃聴くようになった訛音も心地好い。
 濃厚なクリームに蕩けるチーズとぷりぷりの海老を重ねた熱々ラザニアが運ばれてくれば、今度は紅玉色のサングリアで――乾杯!
 鮮やかな刻みトマトやキュウリの夏色サルサで彩られたのは新鮮なイカに豚肉と玉蜀黍のパテを詰めたグリル、無茶振り一本勝負を堪能したらお次は勿論サングリア。
「美味しそう……!」
「おにーさんいずれ負けそうで怖いっ」
 緑のシュシュで柔く結う髪、夏らしい襟ぐりの衣装。外観だけでなく酒量も解き放たれていく彼女にクロービスが覚えるのは嬉しい敗北感。
 一番とは言えなくて。けれど順番なんて関係ないと笑ってくれる、
「大好きな君に、乾杯」
「乾杯! 私の大切な友達に!」
 またひとつ重ねる美味しくて楽しい記憶。
 めいっぱい幸せ祈ってる――心からそう想える、クローディアの幸せな夏。

●ラーラマーレ・フェリーチェ
 世界が菫の宵と淡く蕩ける薔薇色にゆうるり浸る。
 ――どうぞ、わたしを夢へ誘って?
 異国情緒纏った手を取り宵に浮かべた舟は、ネモの口笛に導かれて波間を渡る。水の夏空、焔の煌き、あの夏呼吸を忘れたように、彼女の横顔と囁きに息を呑む。
 あの夏の雛ももうおとな。イレーネはあの日のお土産のお相手、と彼をペンギンに紹介し、自然にこう続けた。今の、わたしの大切なひと。
 幸せのひかりが燈るよう。
「……明日、この街に借り住まいを探すつもりじゃ」
 この夏も明くる夏も約する言葉が、娘にも歓びを燈す。
 何度でも、百年先にも、あなたと、共に。
 菫と薔薇の彩が異国の香に蕩ける夢心地、けれど強く命を感じてノクチュアの眦が緩む。あの夏に友と歩いた光景は褪せるどころか色を増すから、
 ――俺は幸せものだな。
 息つくようにそう想えた時、宵の街で暁色に出逢った。
 ありがとう。
 月並みな言葉に尽きぬ感謝を込めれば、瞬いたアンジュが笑みを燈す。
 また逢おうね。
 翠に金彩踊るミントティーグラスの煌きが、あの夏の百年の魔法の息吹を甦らせた。
 夢の涯てで手にした現を確かめるようなゼルディアの指、頬へと触れられればその甘さにルィンが頬も眦も緩めて笑う。大切に柔らかに、けれど攫うように撓やかな腰へ腕を伸ばすのは、グラスではなく翠の瞳の煌きに吸い込まれそうだから。
「な、俺の嫁になってくれねぇか?」
 大きく瞬く、翠の瞳。
 誰より傍に在れる今でさえ、望むべくもなく幸せなのに。
 ――どうしていつも貴方はさらりとそれ以上を見せてくれるの?
 夢も現も融けあう宵。けれど呼ぶ声が届く、瞳が合えば互いに笑みが燈る。また逢えて良かった、ありふれたその一瞬の歓喜がクラーラの裡で底なしの幸せみたいに光に融ける。
 ねぇ、アンジュ。
「おやすみって言って別れたら……」
「次逢う時は、おはよう?」
 抱きしめられて囁かれる。朝には生まれ変わった世界と一緒に迎えにいくね。
 彩り煌くモザイクグラス、金の月連ねたような黄銅細工、異国の夢の迷宮をたっぷり泳ぎ、ほんのり薔薇色に染まる街並みが不意に途切れた処へ出れば、菫空に近い高台から一望する、宵の街。
「……思いきり迷ってたな」
「そのう……ごめんなさい」
 ――お陰で色んな景色が見れた。
 おずおずと詫びるジェルゾミーナへ柔らかに本音を明かせば、寛いだギルの眼差しに娘にもふわり笑みが咲く。
 さあ、黄金の柄杓めく鍋で淹れられる珈琲を飲みにいこうか。
 漣に揺られて飲むミントティーは熱く苦く裡から融けそうな程甘く、昇る清涼が柔い酩酊感を呼ぶ。幾つもここで夏を数え、なのに初めての飲み心地。
 彼が面映ゆそうなのは、彼女の指に指輪が煌く様が擽ったいから。指の一番星をちらりと見遣り、オニクスは宵が明けた先を誘う。知らない店を見に行こう。そして。
「アンタの指にも指輪が欲しい」
「ゆびわ。……いいですね」
 己が指に視線を落とせば、ヴフマルに心ほどけるように笑みが溢れた。
 きっと指の感触確かめるたび、共に数えた夏が愛しく燈る――そんな指輪。
 次の夏からは趣味で櫂を握る。
 劇団の仕事に専念するというエレノアの未来を冒険商人は心から祝した。思っていた以上に彼は自分を舞台人して見ていたらしい。
「だから、また会いましょ。約束はしないけど、ね」
「まったく、いい女だね」
 菫宵にゆるり櫂を繰る女を見遣り、愉しみにしてるとナルセインは瞳を細めた。
 淡い淡い薔薇色なのに何故か名前は灰色のワインに、香辛料を利かせたイカの揚げたてフリット、そしてチョコレートブランデーはなんと酒ではなく水煙草のフレーバーだ。
「ね、どう? おいし?」
「……不思議な味」
 異国の夢をたっぷり抱えたアヌシュカの手を取り漕ぎ出した夢の淵、彼女の菫の瞳が選んだ夢はジスラの赤の瞳に飛びきり楽しく映る。違う瞳で見た世界、だからこそ予想を越える様が面白い。
 櫂で導く水上の舞台。
 本当に独り占めされたのは、暁色と勿忘草のどちらだろう。
 鮮やかな朝に賑やかな昼、艶やかな宵に嫋やかな夜。
 愛おしいラーラマーレの夏が今、ヴリーズィの唇から幸せな音色となって溢れだす。泣きたいくらい幸せって、きっとこういう気持ち。
 魔法は灰色のワインに溶けて、優しくアンジュも満たした。
 菫宵の香ごと味わうのは、切ないほど鮮やかな黄昏を灼きつける光と影の滴。航跡で綴る夏空の街の記憶、漣と熱い滴に溺れる心地で男は自然と櫂を手放した。
 融け出してしまいそう。
 夢の淵から現へ女が手を伸ばす。
 ねえ、セイチロ。
 傍らのひとに触れて、カラは彼の耳と眼差し全てを乞う。心からの笑みで言えることが痛いほどに幸せな言の葉を紡ぐ。
「あのね、あんたを愛してるんだ」
 全て擲ち、全て独り占めするよう見入っていたセイイチロウの魂を、永遠に染め抜く言の葉。
 ああ、僕も。
「――あなたを愛しています」
 溢れる吐息も熱く甘く染まる。
 蕩けるように甘いくせに苦く、裡から灼くように熱いミントティーはアクアレーテの胸裡を灼く想いに酷く似ていた。もう伝えられぬ想いは凝り、熱く蕩けて心の壁も融かしていくみたい。
 夢の淵に溺れる膝に招けば、影絵の小鳥より先に男の重みが委ねられた。
 肌に息づく橙花水が描いてないはずの花を咲かせる心地でアデュラリアは、膝枕を許した男の唇に触れる。まだ足りない。廻りめぐるほど咲かせて欲しい。
「あなたが好きよ、ナルセイン」
「あんたが好きだよ、アリア」
 ずっと呼びたかった。
 どちらからともなくそう笑んで、融かし合わせる蜜の淵。
 硝子杯に揺れるワインは淡い淡い薔薇の色、乾せば透明な蒸留酒を注ぎ、甘やかな霧を燈すけど、アニスの香りも甘い蒸留酒よりもネルフィリアの言葉が何より甘くチェルシーを酔わせる。
 綺麗な貴女、大切なひと。
 ――有難う、愛しいひと。
 水面の舟でクッションに沈んで寄り添えば、揺りかごで眠りに落ちるように心が蕩けていく。今宵もその歌声をと男に乞われ、女は至福の笑みを燈した。
 歓んで。私はあなたの歌姫だから。
 櫂と舟で描く澪が溶ければ、水面に氷をぽろんと一粒。小さな宝冠みたいに儚い花みたいに咲く、小さな小さなアクアフィオーレ。誰も知らない、ロータスだけの花。
 けれど心に刻まれて、彼が生きる限り永遠になる花。
 今の掌には何もなく、けれど胸には紡いだ全ての輝きがある。それはなんてしあわせな生だろう。だから、命ある限り生きていくから。
 おやすみ。
 また明日、遊ぼうね。
 宵の湖に浮かぶ舟で彼だけの月のしるしを抱けば、この上ない安らぎに満たされる。
 遥か先、命の涯てを越える時も、きっと。
「ねぇ、アンジュ。このまま眠ってしまってもいいかな」
「このままが、好き。……あのね」
 今なら融け合える気がするんだよ。
 笑みで囁くキスにハルネスの笑みも融けた。いとしいひとを抱いて眠って朝を迎える、泣きたくなる程の幸せ。
 一緒に長生きしようね。そして――。
 菫の空に星が煌く頃、水の星空に白花溢れるゴンドラがとまる。
 純白のカフタンドレスはシャルロットを神聖なほど美しく彩っていた。彼女が見つめるゼロも純白のカフタンを纏い、宵にほのかに輝くよう。
 舳先に立つ、立派な成鳥になったペンギンのプリュムが結婚式の立会人。
 歓びも哀しみも、どんな困難も寄り添い乗り越えて。
「永遠に、ゼロさんと共に歩いていくと誓うよ」
「永遠に、シャルと共に歩むと誓う」
 誓いあって交わす、約束の口づけ。愛しいひとと愛しい世界の中に消えない幸福がある。
 きっとそれを――永遠と呼ぶのだろう。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:47人
作成日:2015/07/29
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