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≪BABEL≫塔よ踊れ、未だ見ぬ何かをめざして

<オープニング>

●塔よ踊れ、未だ見ぬ何かをめざして
 乾いた砂色の砂塵を舞わせ、気紛れな風が茂るような建築の森を翔け抜けていく。
 建てて重ねて好きなようにまた建てて、外観の統一性など考えた素振りもなく、きっと誰もが好きに創りたいように建てては重ねて、時には思い立ったように繋いで。そうして形を成していったのだろう建築の森の片隅に、時の風化に晒されようとしている塔があった。
 朽ちかけた、あるいは朽ち始めようとしているその塔を仰いだ青年の瞳に燈ったのは、まぎれもなく純粋な好奇の光。
 時の移ろいと共に変容し続ける建築の間を縫うように、かつて触れ、今は識れぬ文化を呑み込み、塔はただ上へ、上へ、と伸びていく。
 最後に閉ざされてから永い歳月が経っているとひとめで判る重厚な扉を圧し開けたその時の、重く掠れた軋音や舞い上がった砂塵のいがらっぽさ、そして射し込んだ光に照らしだされた、がらんどうのエントランスホールを瞳にした瞬間の歓喜は、眩暈の尾・ラツ(c01725)の胸に今もなお鮮やかに息づいていた。
 まだ見ぬ何かに出逢った時の、瑞々しい感動、歓喜。
 あれから数年をここで過ごした今も鮮やかで、そして今もなおこの塔に眠っているだろう、それ。
 エントランスホール奥の階段を昇った先にはステンドグラス越しの仄かな光が射す聖堂。1階より埃っぽいそこに彼が住みつき旅団を立ち上げ、気の置けない仲間達が集うようになり、めいめいがそれより上の数階を好きに使うようになった今も、塔の全容を識るものは誰もいない。
 勿論この塔に集う面々が『皆がいるところよりもっと上はどうなっているんだろう』、『塔の天辺までいってみたい!』なんて好奇心や探究心にかられぬはずもなく、塔の頂を目指す探索が決行されたこともあったのだが――。
 階段ででっぷりふとましいにゃんこ(目つき悪し)の誘惑に負けたり、階段を昇ろうとした瞬間に吹き下ろしてきた突風と砂埃に足止めされたり、窓から見える景色やあちこちに残されていた品々に気を取られたり、階段が朽ち果てたらしい空間に何故か垂れ下がっていたロープで何階分もの縄登りをする羽目になったり、いかにも『組み立ててください!』と言わんばかりに散らばっていた部品や木の板を組み立ててゴンドラを作ってみたりで、最上階まで辿りつけた者はまだいない。
 だが、大魔女を倒しマスカレイドの脅威に脅かされぬ日々が日常となった今でなら――思う存分、とことん探索に熱中してしまってもいいだろう。
「と言うわけで! 皆さん! 久し振りに塔の探検をしましょう!!」
 明るく弾む声音も高らかに、ラツが旅団の仲間を振り返れば、
『ぴよ!』
 団員じゃないお返事聴こえたよ。

●はじまりはじまり!
 声のした足元を見遣れば黄色くてまんまるなゆずひよこ。
「あれっフェイの旦那様!?」
「ふふ、私の旦那様はさっきからずっとここですのよ」
『ぴよぴよ、ぴよ〜♪』
 だが新緑に謳う小鳥・フェイラン(c03199)の旦那様なゆずひよこはすっぽり彼女の掌に収まって、らぶらぶ頬ずりにぴよぴよ御機嫌な模様。となると、このゆずひよこは――。
「こんにちはアンジュです! 塔の探検が再開されると聴いて! っていうかそんな予感がして!!」
 そう。どーんと飛びこんできた扉の狩猟者・アンジュ(cn0037)のゆずひよこ。
「やあアンジュさん! きっと駆けつけてくださるって信じてました!」
 愉しげにラツは破顔して、かつて彼女が探索に参加していた頃にはまだ誰も気づいていなかった塔の新事実を明らかにした。曰く、
「どうやら、我々が1階だと思っていたところは、実は1階ではなかったようです」
 つまり塔の下部は重ねられていく都市の階層に埋もれ、新たな地上階となったところがエントランスホールとして改装されたのだろう。現在の1階より下はすぐ下の僅かな空間を除いてかなり崩壊してしまっており、下にどれほど続いていたのかはもう確かめることはできない。
 ただ、入ることができる辺りはこれまでずっとほぼ密封されてきた状態と思われるため、探せば何か古い年代のものが見つかるかもしれない。
 けれどそれはついでのようなもの。
 今回の探索の最大の目的は――やはり塔の天辺を目指すことだ。
 お菓子や水筒、探索に使えそうな道具を詰め込んだリュックを背負って、上へ、上へ。
 朽ちた壁の隙間や窓から吹き込む風が砂塵も運んでくるから、汚れたって気にならない格好で塔の天辺をめざしていこう。
 時には床が崩れていたり、階段が途切れていたりしているかもしれないけれど、
「んふふ♪ それこそ望むところ☆ スカイランナーの華だもの〜」
「流石だロゼリア! 頼りにしてます!」
 踊る光影・ロゼリア(c05854)の軽やかな足取りも空駆けならではの様々な技も以前の探索の時と同じくばっちりだ。以前はめいめい好きなように探索していたが、確実に塔の頂上に到達しようと思うなら、今回は皆で協力しあっていくのがいいだろう。
 現時点での最終到達階、つまり組み立てたゴンドラがある階までは、きっとそれほど手間取らずに行けるはず。
「けれど、そこまで脇目も振らず直行してしまうのも何だか勿体無い気がするのよ」
「そう言えばアルカナは石造りの部屋で木箱を見つけたんでしたっけ?」
 そう、あれを開けそこねてしまったの――とファウンティナ・アルカナ(c02976)がこくり頷いた。埃にけほけほ咳き込んでしまった日のことを思い出す。
 急ぎの探索ではないし、何せ時間はたっぷりある。
 一度探索したところを再度探索するのも、階段を数階分駆け登って飛ばしてしまった階を見てみるのも、窓から見えたという景色をゆっくり眺めてみるのもいいだろう。流石に何もかもすべてをじっくり見て回るのは無理だから、数か所程度にとどめておいたほうがいいだろうけど。
 準備万端整ったならさあいこう。
 発見もハプニングも楽しみながら、上へ、上へ。
 今を生きる誰もがまだ見たことのない、この塔の頂をめざして。


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参加者
眩暈の尾・ラツ(c01725)
ファウンティナ・アルカナ(c02976)
新緑に謳う小鳥・フェイラン(c03199)
踊る光影・ロゼリア(c05854)
赤錆の鬣・ジグ(c06896)
空とビブリア・ルカノス(c26263)
ナイトランスの自由農夫・ベネディクト(c34979)

<リプレイ>

●箱の中の
 塔の入口たる大扉を開けば、重い軋音が足元から身体の芯まで響く心地。
 舞いあがる砂塵が射し込む光に煌けば、踊る光影・ロゼリア(c05854)の胸にもきらきら煌く期待とわくわく感が湧きあがる。
「ねぇ♪ 何かが待っててくれてる気がする」
「ああきっと待ってるさ! 上にゃ何があるんだろうなァ、博物館? 遊戯室? 観測所?」
 この塔はさながら巨大な玩具箱だと愉しげに口許を緩めた赤錆の鬣・ジグ(c06896)が階段の上を振り仰いだ、瞬間。彼らの冒険譚は突発的メロドラマで幕を開けた。
『ぴ、ぴよぴよぴよー!!』(訳:う、浮気者ー!!)
「待って旦那様! 浮気じゃないのよ!!」
 でっぷりふとましいにゃんこに遭遇した新緑に謳う小鳥・フェイラン(c03199)がその背を撫でようとした途端、旦那様なゆずひよこがぷるぷる震えて泣きダッシュ。
「フェイランちゃん、『頬ずりは旦那様だけのものよ』的らぶアピールを! アピールを!」
 経験者な扉の狩猟者・アンジュ(cn0037)のアドバイスが響く中、
「大丈夫なのよフェイの旦那様! 間男、もとい間にゃんこはわたし達が見張っておくのっ!!」
「そうそう、フェイランを誘惑するだなんて、そんな悪事は僕らが阻止してみせるさ!!」
 使命感に燃えるファウンティナ・アルカナ(c02976)が間にゃんこ(実はメス)へと煮干しを差し出してすりすりされ、今年生まれた仔猫に手をひらひらして見せたナイトランスの自由農夫・ベネディクト(c34979)がじゃれつかれたりしているが、これは決してにゃんこの魅力に負けたのではない! 一人と一羽の愛のためなのだ!!
「愛の道は常に険しい――そういうことですね! おっと、何かここに仕掛けが!!」
「巧い具合に見つけたね……いや、これは前から知ってたってことかな?」
「バレましたか!」
 空涙を拭った眩暈の尾・ラツ(c01725)が一つだけ雰囲気の違う壁石を押せばガコンと床に開いた地下への入口。空とビブリア・ルカノス(c26263)の面白がるような声音に笑い返して、開いた入口を降りれば、埃と黴の匂いの冷たい空気がラツを包みこんだ。
「さて、これ何に見えます?」
「遊戯盤と、駒……だよね?」
 崩れた瓦礫と土埃で殆ど埋もれた地下、僅かな空洞で彼と一緒にベネディクトが掘り出したのは、辞書サイズの古い木箱――と思いきや、その中には幾つもの遊戯の駒が収められ、木箱は開けば遊戯盤になるという代物だった。
「初めて見るゲームだけど、うん、面白そうだ」
 興味深げにルカノスが手に取るのは見たこともない怪物の駒。
 空想の生物か、はたまた昔はこんな怪物が実在したのか。
 後で皆で考えてみるのも――きっと愉しい。
 皆お馴染み2階の聖堂を越え、補修用らしき木材や石材に煉瓦が置かれた階や、窓の板戸が朽ち果て燦々と陽光が射し込んでいる階などを越え、石造りの部屋の階へ辿りつく。
「あった! この箱なの……!!」
 以前開け損ねた箱を見つければアルカナに輝く笑みが咲いた。悪戯な隙間風はルカノスが塞いでくれたから、乙女は己がすっぽり入りそうな木箱へ慎重に手を伸ばす。
 が。
「開かない……?」
「こういう時はあれよ! 押して駄目なら引いてみろって誰かが言ってた!」
「それだフェイ! もしかしたら組木細工なのかも!?」
 突如閃いたフェイランに打てば響くラツの声。
 ははーん、と呟いたギミック大好きっ子ジグがあちこち覗いてニヤリと笑う。
「よっしゃカナたん、真ん中の板を右にスライドしてみ。あ、指傷つけたりしないようにね!」
「こう……? あ、動いたっ!!」
 ひとつ動けば後はもう簡単だった。あれこれ弄ればカタカタカタン、と立体パズルが展開するように木箱が開けて――。
「わ、あ……! 女神さま!?」
「もしかしてこれ、船首像じゃないかしら! ほら、金の塗装もちょっと残ってる♪」
「くー! 箱の中身がこれとは、浪漫だねぇ!」
 中から現れた美しい木彫りの女神像とアルカナが御対面。
 前傾気味の像は成程ロゼリアが言うように帆船のフィギュアヘッドにも見える。本当にそうだという証拠はないけれど、潮の香と帆の音を感じた気がしてジグは破顔した。素描するペン先も愉しげに踊る。
 ――さあ、もっと上には何がある?

●窓の外の
 女神様を連れ帰るのは帰路についてから。一旦箱の隣でお待ち頂くことにして、空いた箱の中にはいつかの未来にこの塔を訪れる誰かに宛て、皆から贈り物をひとつずつ。
「いつか誰かが此処を訪れて、この箱を開けてくれたらうれしいの」
「喜んでくれるといいわよね♪」
 蓋の裏に今日の日付を彫った懐中時計をそっと胸に抱き、アルカナは想いごと箱の中に未来への贈り物。皆とこの塔で幾度も過ごしたお茶会の幸せな記憶ごと、ロゼリアは皿部分に薔薇咲くティースプーンを入れる。
 やはりペン先踊らせる心地でラツが綴るのは三行の手紙、
『おめでとう!
 塔を訪れし人よ、
 愉快なひとときを』
「お、ラツの手紙偉大なる先人感あって格好いい」
「でしょう!?」
 ひょいと覗き込んだジグの言葉に破顔して、くるり丸めた手紙を通した指輪を箱へ。
「アンジュのそれは……蓮の種?」
「当たり! 殻が硬いから永い間眠った後でもちゃんと芽が出て花も咲くって聴いたの!」
「成程、じゃあ僕のも隣に。これも一種の種だしね」
 いつか誰かが咲かせてくれるといいなぁ、と箱の底に種を置いた彼女に笑って、ベネディクトからはダルクを一枚。きっと後世、皆からの贈り物の年代を知らせる道標になってくれる。
「ベネは流石ね……って、何か素敵な音が!?」
「うん、フェイランにそう聴こえるなら充分宝物になれそうかな」
 星屑流れるように煌く音色。小さなオルゴールボールを揺らして見せたルカノスは、『魔法とともに嘗てのざわめきよみがえれ』――なんてね、と手紙も添えた。その隣にすちゃっと置かれたのは、
「あぁ、ユニークな物も必要だよね」
「ユニークって何だよ超一級品のお宝じゃん! 冬の旅行を共にした温泉家鴨のガァ介2号!!」
「ああっ! それが重すぎたガァ介2号たん!?」
「良く御存知ですねアンジュさん!?」
「そうなの、男湯で沈んでしまったらしいのよ……!」
 一気に皆の話題をさらったジグ謹製の温泉あひるちゃん。
 報告書も読了済みらしいアンジュが瞳を輝かせればラツも弾けるように笑って、アルカナもこくこくと頷いてみせる。思わず吹き出しつつフェイランが箱に残すのは、涙型した朱色のピアス。
「いいんですか?」
「ええ。手放すことも時には必要だもの」
 彼女愛用のそれにラツが瞳を瞠れば、フェイランは揺るがず笑って朱色の滴を置いた。皆と此処に居たという証。歴史が繰り返されるなら、きっと未来の誰かが見つけてくれるはず。
 ――どんな方かしらね。次のこの宝箱を開けるのは。
 さあ、もっと上へ!
 窓のステンドグラスから射す光が花のごとく揺れるテーブルに残された遊戯盤を覗いて、階上から突風吹き下ろす螺旋階段はタイミングを計って駆け昇り、丸窓から砂色の街並み望んで更に階段を昇る。崩れた石の山、そして、
『工事中・注意!』
 と書かれた黄色い布がある階で天井を見上げれば大きな穴。
「あれか!」
「あれね♪」
 楽しげに瞳を見交わす二人は勿論スカイランナー、その上階は当然床が抜け落ちている状態で、修理途中で放置されたらしいそこは、真鍮拵えのゴーグルを装着したジグが先陣切った瞬間、景気良く崩落した。
「あああ危ねえ……!」
 咄嗟に創り出したエアクッションを足掛かりに彼は対岸へ跳んだけど、床の穴は更に拡大。
「流石ジグ、危機一髪! けどここ、どうしようか?」
「んふふ。これで行きましょ♪」
 拍手喝采を贈ったベネディクトが皆を振り返れば、片目を瞑ったロゼリアの手から魔法のロープが放たれ天井にぺたり。端を握ったまま軽く勢いをつけて跳んだなら、彼女はブランコの要領でひらり対岸へ着地する。
 彼女のリュックをおもりに戻ってきたロープを受け取り、アルカナも跳んだ。
 風を切る感触、おなかの底から湧きあがる高揚と浮遊感!
「たのしい……!!」
 皆で穴を跳び越えたら更に上へ。
 幾つもの階を重ねて辿りついたのは、強い風にバタバタと両開きの白い戸が煽られる窓がある階。射し込む光は夕暮れの朱を帯びていて、ルカノスが外を見れば、
「うわ、随分昇ってきたね……!」
「ん〜! 気持ちいい風!!」
 砂色の街並みを越え、牧歌的な風情の村と夕暮れの光で金に煌く碧の平野まで見えた。遠く彼方の緑の匂いまで運んできそうな風にロゼリアが伸びをする。
 時刻を思えば、小休憩でなくここで一晩明かしたほうが良さそうだ。
「探索中と思えない豪華さね!」
『ぴよぴよ!』
 らぶらぶと旦那様の頬を擽るフェイランの瞳が輝くのも当然のこと。
 アルコールランプでお湯が沸けばたちまちラツが淹れる珈琲とベネディクトの淹れる紅茶の香りが広がって、ベネディクトが持ち込んだブイヨンとの自前の乾燥野菜でジグが即席のスープまで!
 軽く炙ったラツのチーズをライ麦パンに乗せたらもうすっかり御馳走だ。
「アンジュ、アンジュ、ビスケット食べる? 苺ジャムもあるのよっ!」
「わあいわあいじゃあアンジュからは、ロリポップゆずひよこさんキャンディを!」
 あ〜んと楽しげに食べさせあいっこしたアルカナ達の眼差しは、次いで甘く香ばしい香りがときめくロゼリアのメープル胡桃なシリアルバーや、歪ながらクラビウスやケルビウムを模るルカノスの使徒クッキーへ。
 軽食というかちょっとしたパーティーだよね、と笑う彼の前にも紅茶が差し出された。
「いい地図になりそうかい?」
「なるだろうね」
 手許を覗き込むベネディクトの紅茶をありがたく受け取って、ルカノスはメモリーで記憶した光景を見取り図に描き起こす。
 これも今日の想い出に持ち帰る、宝物のひとつ。

●塔の上の
 夜明けの珈琲にはジグのマシュマロを浮かべ、窓から吹き込む夏の朝風と共に出立した皆を待ち受けていたのは、
「ちょ、これほんとに登るの!?」
「登るの〜!」
 何階分も階段がすっぽ抜けたエリアの縄登り。
 大樹一本分は登った気もする運動の後で塩飴と麦茶の美味しさ、梅ジュースや檸檬水の爽やかさを再確認。再び現れた階段のありがたさに感動しつつ更に昇って、遂にゴンドラの階へ辿りつく。
「さあっ! 殿方達は頑張って〜♪ さ、女子の皆も一緒に!」
「「「はーい!」」」
 飛びきり楽しげなフェイランのクルセイドマーチに導かれ、乙女達の応援歌が高く高く抜けた空間に明るく響き渡る。滑車とロープで上に昇るゴンドラは相当高くまで昇ってくれるよう。けれど、乙女達の歌声マジ癒し、と潤される心地でゴンドラの上を仰ぎ見ていたジグが眉根を寄せた。
「う〜ん、一回は大丈夫だろうけど、何回も動かせるかはちょっと怪しそうだなァ」
「あれっ? じゃあ交代するより全員で一気に乗ったほうがいいかな?」
「多分ね。まー帰りは俺が滑車の補修してみるけど!」
 男性陣で協力しておもりになる瓦礫などを集めていたラツと頷きあえば方針決定。
「ロゼリア、手伝って!」
「はァい、任せて!」
 皆がゴンドラに乗ったなら、スカイランナー二人が滑車から伸びたロープの一方に括りつけたおもりを階下へ落とした――瞬間、がくんと揺れたゴンドラが上へ昇り始めた。
「今そっち行くわね♪」
「ちょっと右避けて!」
 空駆け達もエアクッション利用の二段跳びで追いつきゴンドラへひらり。
 余程巧みに滑車が組み合わされているのだろう、ゴンドラはゆっくり、けれど着実に上昇してゆく。
「すごい……! まるで物語のなかにいるみたい!」
「皆で協力しあって天辺を目指して……こんな楽しいことってないわよね!」
 天辺にはきっと、光差す素敵な景色が待っている。
 階を通りすぎるたびに変わる塔の光景、アルカナとフェイランが顔を見合わせて破顔して、徐々に明るくなっていく世界にベネディクトも興味津々で瞳を輝かす。明るいと感じたのは光が増したからというより、
「建材と建築様式が変わったからか……!」
 荒削りな石や煉瓦から磨き上げられた白大理石へ。
 勿論埃などは付着しているけれど、それでも下の階に比べれば輝くよう。ゴンドラが止まった階の扉を開けば、ざらつく石やモルタルむきだしが多かった下とは打って変わり、流麗な彫刻を施された白大理石の柱が美しいアーチを連ね、色鮮やかなタイル装飾が映える華麗な世界が待っていた。
「これほんと、舞台の参考になりそうだ……!」
「ふふ、素敵よね♪ ――あ、見て、まだ上に行ける!!」
 白大理石やモザイクタイルに嬉々として手を触れるベネディクトの様子に微笑み、ロゼリアが辺りを見渡せば、優美な手すりを備えた螺旋階段が上へと昇る。
 さあもっと、もっと上へ!!
 皆で螺旋階段を昇り、そうして行き着いた処は――壁ではなく、三本の美しい柱で囲まれた円形の空間。天井はなく、見上げれば視界いっぱいに鮮やかな青空が広がった。
 流れる風は絶えることなく、髪を煽って耳許に快い風鳴りを響かせる。
「アンジュ!」
「ロゼリアさん!」
 湧きあがるこの歓喜は何だろう。きゃーと歓声あげてぎゅむっと抱き合った二人が真っ先に頂上へ駆けだしていく。そう、ここが塔の頂だ。駆けた娘達の足跡がきらりと煌く様を見れば、ルカノスに閃くインスピレーション。
「もしかして……! 皆、ここの床磨いてみない!?」
「やってみましょう!」
 そうして磨き上げてみれば、現れたのは鏡の床。
 青空を映し、空の真ん中に飛び出した心地にしてくれる。
「おーい、誰か聞えてる? 僕は此処にいる! 独りじゃないよ!」
「わたしも! みんなも! 独りじゃないの!」
 何処までも広がる光景、青い空。鏡の床の端へと立ってベネディクトが叫んでみれば、アルカナも隣に立って大きく声を響かせた。どちらからともなく弾ける笑み。
「そうね! 独りじゃないわ!」
 歓びのままにフェイランが贈る拍手は、この光景への、そして頑張った自分達皆へ向けてのもの。皆とならきっと辿りつけると信じていた。
「どうだい、ラツ。予想は当たった?」
「半々ってとこですかね!」
 ルカノスの言葉に笑ってラツは眩しげに眼前のものを仰ぎ見た。
 ここが塔の頂。
 ――なのに螺旋階段は、まだまだ上を目指すよう空へ向けて昇っている。
 足元には読めない碑文。古代文字ではなく誰かの創作文字だと気づけば、作者に己と似た気質を感じて破顔した。
 読めずとも触れれば切ない温かさを覚えるのは、きっと気のせいではないのだろう。
 ここは終わりにして始まりの場所。
 辿りついたならまた、未だ見ぬ何かを求めて次の旅を始めたくなるところ。
 だから、皆がこの場所を満喫した頃に口をついた言葉は、帰りましょうかではなく。

 ――さあ、往きましょうか!



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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いまいち
参加者:7人
作成日:2015/08/04
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