ステータス画面

≪路傍の虹≫花の軌跡

<オープニング>

●花の軌跡
 爽やかなせせらぎの響きを小さく連れて、水の涼感ほんのり纏った風が木漏れ日煌く森をふわりと吹き抜けたなら、風と戯れた梢が唄うだろう、梢にとまる小鳥たちが唄うだろう。
 そして、木漏れ日がきらきらと煌き円舞曲を踊る小径に咲き溢れる花々も、風に撫でられ嬉しげに歓びを、そして祝福と幸せを唄うのだろう――。
 眩い夏の陽射しを緑が遮り、涼やかな緑陰と煌く木漏れ日が優しいモザイクを描く森を渡る涼風を辿ったなら、花々が咲き溢れる小径に出るのだという。
 梢の天蓋を仰げば夏陽が眩しく、けれど森の中に踊る木漏れ日はあくまで優しい。
 優しい木漏れ日の煌きが踊る中を往くのは花々が咲き溢れる小径。
 可憐なアスターに風鈴草、涼やかなラベンダーに初雪草、冴えるクレマチスに瑠璃茉莉、そこには誰もが知る花から誰も名を知らない花までもが幾つも幾つも色とりどりに、まるで道をゆくひとびとを祝福するかのように咲き零れているのだとか。
 それは永遠の森エルフヘイムの、伝説の妖精騎士ウェンディの名を冠した森の話。
 昏錆の・エアハルト(c01911)がその森にある花の小径の話を耳にしたのは偶然のことだった。だがそれが鮮明に心に焼きついたのはきっと必然だったに違いない。
 優しい光の中に色とりどりの花が咲き溢れる道。それは、

 ――俺達が歩いた足跡に花を植えて、それが道になって、今じゃ満開の花が咲き誇ってる。
 ――ね、ふたりで幸せの種蒔いてきた道を振り返ったら、あたし達の後ろには満開の花畑が出来てたね。

 いつか花渫う風・モニカ(c01400)とそう語り合った、これまでふたりで歩んできた道のりそのものを思わせたから。
 花の小径へ彼女を誘おう。歩んだ先にあるものを思えば、往くのは今を置いて他にない。

●花の行先
 永遠の森の顧客へ注文の品を届け、世界の瞳を経由して戻ってきたのは水神祭都。
 夏空の街へ帰り着いた頃にはもうすっかり世界は菫の宵に浸っていた。淡い薔薇色に染まる街を流れる運河の水面は桔梗色。深い宵色の水面に柔らかな澪を描きつつ漆喰彫刻のアーチを潜ったゴンドラが、エアハルトの待つ桟橋でとまる。
「おかえりエアさん、お疲れ様!」
「ただいま、モニカもお疲れさん」
 櫂を握る彼女の額に口づけ落とし、とん、と軽やかにゴンドラへ飛び移ったエアハルトは、舟縁に引っかかった純白のガーデニアの花を見て瞳を細めた。朝の舟には花満載でもモニカは大抵日が傾く前に花を売り切ってしまうから、つまりこれは。
「ほら、ラーラマーレから贈り物されてんぞ」
「ほんとだ! ふふ、擽ったいよエアさん」
 夏空の街のいたるところに咲き溢れているガーデニアが零れ落ちてきたもの。
 柔らかな髪にそれを挿してやりながら、甘い花の香とともに誘いを落とす。
「なぁモニカ。今度、ウェンディの森へ行かないか?」
「へ? ウェンディの森って……あのウェンディの森!? 行きたい!!」
 たちまち夏空色の瞳が輝く様に喉鳴らし、語るのはもちろん花の小径の話。
 花の小径を二人で歩こう。
 そしてたくさんの思い出話と、これからの話をしよう。
 花の小径を越えて更に森を進めば、約束の木のもとへ辿りつく。
 四季を通じて美しい白花が咲く大樹。そのもとで永遠の愛や絆を誓い合った二人は永遠に幸せになれると伝えられている、約束の木。
「そこに着いたら、二人だけの結婚式を挙げような」
「ふむふむ、けっこんしき…………って、ええ!? 結婚式!!??」
 まんまるになった夏空の眸、跳ねてひっくり返った声。
 どれもが可愛らしくて、くつくつ笑いながら「イヤか?」なんて訊いてみれば、
「イヤなわけないじゃない! ってか何でそんな話もしれっとしちゃうの!!」
「待った待ったゴンドラが揺れるから! 落ちねぇけど落ちるかもしれないから!!」
 眦震わせたモニカがいつかのように、今にも泣き出しそうな、けれどどうしようもなく幸せそうな顔で胸をぽかぽかしてきたから、エアハルトは彼女の背を抱いて眦に口づけを落とした。
 そのまま続けるのは、宵の市で新鮮な魚介を買って、酒場かリストランテに持ってこうぜ、なんて、今宵の夕餉の話。
「お任せで美味いもん作ってもらって、サングリアでも飲みながら当日の相談でもするか」
「うん! そうする……!!」
 ぱっと笑みを咲かせたモニカが再び櫂を繰れば、宵の水面を軽やかに舟が滑り始めた。
 振り返れば、たおやかな澪を引く宵の水面に街あかりが揺れてきらきらと躍る。まるで水面に光の花びらを撒いたような光景に知らず笑みが深まった。きっとこれも二人で歩んできた道の一部になるのだろう。
 二人で歩み、これからも創り続けていく、花の軌跡。


マスターからのコメントを見る
参加者
花渫う風・モニカ(c01400)
昏錆の・エアハルト(c01911)

<リプレイ>

●花の軌跡
 極北の星が胸元に咲き、銀糸と真珠が描く夜天の星が裾まで降る真白なドレスを纏う。
 青硝子の筒に秘められた愛らしいベージュピンクの口紅を引いて、改めて全身を姿見へと映せば、花渫う風・モニカ(c01400)の鼓動がこれまでにないほど大きく高鳴った。
 ――あたし、今日、花嫁さんになるんだ……!
 軽やかな光沢を帯びた純白のショートタキシードに身を包んだ昏錆の・エアハルト(c01911)の姿も普段以上に眩しくて、憧れのウェンディの森へ足を踏み入れれば緊張で足が震えてしまいそう。
 けれど、
「わあ! エアさん見て見て、すごく綺麗……!!」
「こりゃ話に聴いた以上だな。けど、俺の姫さんには敵わねぇよ」
 優しくきらきらと煌く木漏れ日が円舞曲を踊る森の中、祝福の彩りを鏤めたような七色の花々咲き零れる小径に出逢えば屈託ない笑みも咲いたから、エアハルトは眦を緩め、薄紗越しに己が花嫁のこめかみへ口づけた。今日の彼女は世界の何より綺麗だ。
 夏陽の輝き柔らかに遮る梢を振り仰げば、夏緑の合間に白く可憐な姫沙羅の花々が咲いている。暫く頼むな、と瞳を細め、エアハルトは純白のジャケットを姫沙羅の枝に預けた。シャツの袖は捲り、軽くタイを緩めて襟元も寛げて――きっとこれが俺らしい、と吐息の笑みを零したところで、ほへーとこちらに見惚れていたモニカと眼が合った。
「もう、エアさんてばそーゆーのも様になっちゃうんだから!」
「だろ? 今日からは名実ともに、何もかもモニカのもんだぜ?」
「うん! モニカも全部エアさんのものだからね!」
 花嫁に輝くような笑みが咲き零れた。
 彼の自信家なところも可愛い、なんて思うのも花嫁の特権だ。
 ひときわ可憐な白花咲く姫沙羅の細枝をもらって、それを一緒に包むように手を取り合い、二人で歩み始める夏の花々咲き零れる小径。思えば初めて一緒に出かけた時にも花を手に入れた。
 せせらぎの音色を連れた涼風にそよぐ黄の花を見つければ、胸に満ちるのは懐かしさ。
「ほら、菜の花じゃないけどこれ」
「ゼフィランサスだ! ほんと、菜の花みたいな黄色だね!」
 秘密の美味溢れる展覧会で買った空色の蓋の硝子瓶、カラフルなマカロニ達の合間に菜の花の花弁が踊る様は青空の下の花畑を思わせて。
 ――モニカそのものって感じだな。
 あの日口にした言葉を思い出して小さく笑う。青空の下に咲き溢れる花のすべてを、エアハルトはこの日手に入れる。
 あれからいっぱい二人でお出かけしたねと菜の花色の花を摘みつつモニカが話を継いだ。何度も誘い誘われているうち、自然と隣にいることが当たり前になっていて。
「ね、いつから恋に落ちたんだろうって考えてもあまり思い出せないの」
「そうだな。俺も正直いつから親愛が恋愛になったか憶えてねぇや。……けど」
 風の名の花をそよがせる涼風に水の香感じたかと思えば、水面の光みたいに揺れる木漏れ日の中に瑞々しい苺色の花を見出してエアハルトが破顔する。
「モニカを一人の女性として意識したきっかけは覚えてる。朝靄草原のシャイニー・ベリーの時だな」
「わ、ぁ。そんなに前から意識してくれてたんだ……!」
 二人のため取っておいたかのような朝露を苺色の花弁に煌かせ、彼らを出迎えた花はアノマテカ。朝の風に煌くシャイニー・ベリーを思い起こせば、宵っ張りな彼を青空のもとへと連れだす風のような自分になりたいとモニカが言ってくれた時の、爽やかな風の心地好さが甦った。
 想い出は一晩かけたって語り尽くせないほどあるけれど。
「あの日から、風が吹き始めた」
「エアさん……」
 煌く想い出達を繋ぐ風になってくれた娘を眩しげに見つめ、彼は苺色の花を摘んだ。霊峰天舞風の姫檜扇という名前もいい。己が姫君を抱くように、ベストの胸ポケットに花を挿す。
 その意図に気づけばモニカの頬にほんのり薔薇色が差した。
 あの頃の自分の彼への気持ちは、まだ憧れが強かったようにも思う。二人で一緒に遊んだり話が出来るだけで満足で、むしろ双子の兄の自慢話をよくしていた気さえする。
 けれど、兄には感じたことのない不思議な胸の高鳴りは、その時から感じていた。
 エアハルトが憧れの存在からもっと近い存在になったのは、きっと。
「やっぱり、初めてのベルフィオーレの時かな」
 その響きを口にした途端、あの極上の夜の煌きがモニカの裡で鮮やかに咲き誇った。
 初めての夏空の街、初めてのラーラマーレ・ベルフィオーレ。あまりにも鮮やかなあの夜を、きっと生涯忘れない。空から降る星、咲き誇って舞い散る焔の花の煌きを、
「ね、虹の欠片貼りあわせたようなモザイクグラスに掬って飲み干したね」
「極上の夏に乾杯したよな。――本当に、格別な夜だった」
 眩い輝きにも似た感慨がエアハルトの胸にも満ちる。
 お互いに夏の申し子だと乾杯したあの夜からぐっと距離が縮まって、恐らくはあの夜からお互いに掛け替えのない存在になっていた。二人で追いかける、巡る季節がもっと愛しくなって。
「――あ! この花がいい!」
 明るい空色に燃え上がった焔の彩に良く似たデルフィニウムの花、舞い散る煌きの眩さを思わす、鮮やかな黄色の星みたいな崑崙花――ムッサエンダを見つけて笑みを咲かす。
 輝くような黄の星の花の周りで風に揺れるいくつもの純白の萼苞は、まるで門出の祝福に振られる白いハンカチみたい。ハンカチの花という別名にほんとだねと笑って、モニカは空と黄と純白の彩を大切に摘み取った。
 涼やかな風に南国的な甘い香りを乗せるのは、輝くような純白のガーデニア。
 百年の魔法にかかった夜を想って、一輪摘んだ花に顔を寄せる。あの夜、優しい口づけで百年の夢から目醒めさせてくれる愛しいひとを夢見たけれど、
「あたしの『あなた』は、やっぱりエアさんだったんだね」
「俺の姫さんは、お前以外にいねぇよ」
 巡り熟した夏の黄昏に見つけた唯ひとりを互いの瞳に映して、眩しく、愛おしい心地で微笑み合う。約束の木のもとまで取っておく誓いのキスの代わりに、そっと頬を触れ合わせ。
「ね、あたしの恋っていつも猪突猛進だったんだ」
 恋は体当たりが信条。なのにエアハルトへの恋心を自覚した途端、どうすればいいのか判らずに立ち竦んでしまったことを覚えている。
 まるで暗闇の中、両側が崖になった細い道を歩いている心地。
 一歩踏み外せばもう終わり。
 想いを告げて壊れてしまうくらいなら友達のままでもいい、なんて思ったのは、好きなひとに想いを打ち明けるのが怖いと感じたのは、初めてのことだった。
「それぐらい、エアさんへの気持ちは大切な想いだったんだよ」
「……俺はな、出逢ったばかりの頃はもう恋なんてしないと思ってた」
 熱した刃を一閃したかのごとく記憶を灼く、喪失の悲嘆と絶望。
 爛れゆく傷に蓋をして、己は凍てつく氷の世界を往くのだとばかり思っていた。喪失の哀しみに切り刻まれるくらいならもう何もいらない。――そう、思っていた。
 けれど。
 蓋をした傷を撫でてくれる風に、光を注いでくれる風に出逢った。
 注がれる光はひといろではなくて、プリズムを通してなないろの煌きを咲き誇らせる。そう、聖なる大祭の日に雪の三稜鏡で、飛びきりの笑顔を咲かせ、七色の花を心の底まで届けに来てくれた。
 その笑顔に誰より近い存在でいたい。
 他の誰でもなく自分が、花も笑顔も咲かせるモニカを幸せにしたい。
「……って、そう願うことが出来たんだ」
 言葉にすれば己に限りなく優しい笑みが燈るのが自分でも分かった。
 そんな願いが心にうまれたことさえも――エアハルトには極上の、しあわせ。

●花の奇跡
 空色ビジュー煌くパンプスで辿る、七色の夏花咲き零れる小径。
 想い出も辿りつつ見つけた花を一輪ずつ摘んでいったなら、いつしか彼と繋いだモニカの手の中に瑞々しい夏の幸せ束ねたような夏花のブーケが出来上がっていた。
「……幸せの香りがする……!」
「ほら、これで仕上げてみろよ」
「うん!!」
 飛びきり幸せそうな笑みで花々に顔を寄せるモニカの様子に頬を緩め、エアハルトは大切に携えて来た箱にかけられた空色のリボンをしゅるりと解いて、彼女に手渡した。
 振り返れば、優しく揺れる木漏れ日の中に咲き零れる数多の花々達。
 行く手を見遣れば、初めて見る名も知らぬ美しい白花を咲かせる大樹。――いや、咲く白花の名は知らずとも大樹の名は識っている。
 すべてのはじまりから、今、こうして。
「あたし達、約束の木まで辿りついたんだね……!」
「辿りついたな。さあ往こうぜ、俺の姫さん」
 花嫁の片手には空色のリボンで彩られた夏花のブーケ。もう一方の手は花婿が恭しく取って、夏の申し子達は今、夏の木漏れ日に輝くような白花咲く、約束の木の御許に立った。
 涼やかな緑の影が踊る。柔らかな木漏れ日が踊る。
 花嫁が包みから白銀の短剣を取り出せば、踊る木漏れ日が虹の煌きを零した。梢を透かして見る青空のかけらにも似た、澄んだラリマーが鏤められた短剣を、花婿へ贈る。
 光を創り出す貴方へ。――皆の笑顔を創り出す、貴方へ。
「心を護り、道を切り拓く助けとなるように」
「未来への道を切り拓くなら、お前と一緒だ」
 生涯エアハルトは細工師としての道を歩んでいく。その隣に花に彩られたモニカの笑顔があるのがこの上なく自然で、それ以外の人生なんてもう考えられはしないから。
 幸せにするのなんて当たり前のこと。幸せにするんじゃなくて、俺といるお前が飛びきり幸せだって自負があるから、誰にも譲らない。
「――結婚しよう」
「……!!」
 彼が箱から取り出したのは清らに輝くプラチナに、エアハルト自身がその手で掘り出し、モニカ自身が選んだラリマーを戴くティアラ。
 ――俺の姫さんは、誰でもないお前だけ。
 そう告げたエアハルトが花めく真珠に彩られたヴェール越しにティアラを乗せてくれた途端、堰を切ったようにモニカの涙が溢れだした。
 なんで、なんで気の利いた言葉が出てこないの。
 何度も繰り返し夢に見た求婚の言葉。なのにいざとなったらちゃんと言葉になる前に想いが勝手に溢れだしてとまらない。幸せで幸せでそれを言葉にしたいのに、後から後から溢れ来る幸せは嗚咽と涙になってとめどなく溢れて零れてとまらない。
 どうしよう、花嫁は世界一綺麗だって言うけれど、今あたしの顔はきっと涙でぐしゃぐしゃで、きっと全然可愛くない。けれど、どうにかこれだけ伝えさせて。
 辿り来た幸せ束ねた夏花のブーケを抱いて、泣きじゃくりながらもようやく紡ぐ。
「あいしてる」
「俺も、あいしてる」
 気取りも飾りも何もない、心のままのモニカの顔。
 誰よりも間近でそれを見つめ、目元を和ませたエアハルトは彼女の涙を掬って濡れた頬を愛しげに辿って、そっとおとがいを持ち上げた。
 ――あいしてる。
 互いの言葉を融け合わせるように重ねる、唇。
 鼓動も体温も、心も融け合わせるように。
 時すらも融けてしまいそうな誓いのキスを交わして、エアハルトは至福の笑みを溢した。
 彼女が『涙に濡れた今のあたしは全然綺麗じゃない』なんて思っていることなんてお見通し。けれど他の誰でもない自分のためだけに想い溢れさせた花嫁を間近で見つめれば、笑みは深まるばかり。
「俺の花嫁は世界一綺麗だ」
 本心からそう告げれば、また新たにモニカの涙が溢れだした。
「あたし、あたし――エアさんと出逢えて、よかった」
 涙声で紡がれた彼女の言の葉。それがエアハルトの胸裡に花霞の彼方での記憶を呼び起こした。花霞の彼方で空と海の宝石を手にした夜の、彼女の双子の兄の言葉を。

 ――本当の奇跡は。
 偶然の出逢いから惹かれ合い、苦難から逃げずに支え合った御前達が、今日まで寄り添い合って笑い続けていることだろう。

 ああ、確かに。
 奇跡と軌跡の涯てに、今ここに立っている。
「モニカに出逢えて、本当によかった」
 魂の芯から溢れて眩く膨らんでいく光のような歓喜と幸福で胸が詰まりそうな心地がした。この手を絶対に離しはしない。これからずっと、毎朝目が覚めたら一番にモニカの笑顔が見たい。
 ずっと一緒だね、と花嫁も微笑んだ。
 朝、目が覚めたら隣に貴方の笑顔がある。
 それはなんてなんて幸せな一日のはじまりだろう。
 これからずっと迎えられる至福の朝に想い馳せれば、さっきまでこれ以上ないと思っていた歓喜と幸福がひときわ眩く輝いてモニカの胸を満たして溢れだす。
 どうにもまだまだ涙がとまらない様子の花嫁に笑って、花婿は自然に彼女へ口づけた。
 吐息の触れ合う距離で見つめ合えば、ふと何かを思い起こしたのかエアハルトの目元に微かな朱が差す。僅かに言い淀み、適当に遊んでた時もあるから誤解があるかもしれねぇけど、と前置いて。
 ――俺、惚れたら一途だからな?
 囁かれたその言葉の擽ったさに、自分の胸に萌した言葉の面映ゆさに、涙で鼻にかかったままの声でモニカは、ふふ、と笑みを零す。
 ――あたしだって。
 いつの間にか、こんなにも――貴方のことしか見えてない。
 囁き合えばどうしようもなく恋しくて、みたび唇を重ね合った。
 融け合ったように思えたそれが離れれば、エアハルトの眼前で、モニカに大輪の笑みが咲く。
「貴方を幸せにするよ。だから、ずっとずっと、ふたりで幸せでいようね」
「俺とお前で歩んでいけるなら、ずっとずっと、幸せでいるに決まってる」
 何時ものように嘯いて、けれど限りなく真摯な気持ちで、エアハルトは妻に手を差し伸べた。
「エアさんてば、やっぱり自信家」
 何時ものように笑って、けれど限りなく新たな気持ちで、モニカは夫の手を取った。

 だから、これからも――奇跡から繋げた、花の軌跡を創り続けていこう。

 ――エアさん、知ってる?
 雨を知らない花は綺麗に咲けないの。
 疵は乗り越えた証、と彼女は聖なる大祭の朝、天上蓮華で胸を張った。嵐を制圧するのではなく、越えた先に光が、彼女と紡ぐ未来があるのだと彼は識った。
 だから二人、星空の王国となったラーラマーレで嵐の先に花を咲かせたのだ。
「ねえエアさん。これからもあんな花を咲かせていこうね」
「いや、この先には――あれ以上の花を咲かせられるに決まってる」
 嘯くエアハルトをモニカが見上げ、夫婦揃って弾けるように笑い合う。
 大波荒れる夜の嵐を越えた先に咲かせた無数の七色、星空のもと一面に広がる虹色の花畑。
 二人がこれから切り拓いていく未来には、あの水と光の花より美しく彩り豊かな、歓喜と幸福に輝く花々が咲き溢れていく。
 奇跡からはじまり、奇跡と軌跡を重ねて繋げていく――花の軌跡。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:2人
作成日:2015/08/16
  • 得票数:
  • 笑える75 
  • 泣ける21 
  • 怖すぎ34 
  • ロマンティック6 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。