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≪移動農園 はるちゃん≫桃と杏仁霜とウィークエンドシトロン

<オープニング>

●ティルムシュタットの製菓市
 紫煙群塔ラッドシティの街、ティルムシュタットでは、月に一度特別な市が立つ。
 街道から街中へ入る手前に設けられた大きな広場に立つ市の名は、ティルムシュタットの製菓市。その呼び名のとおり、お菓子作りの材料や製菓の器具を主に扱う市だ。
 甘い香りと華やかな彩りに満ちた製菓市はお菓子作りに興味を持つ者にとってはまるで、とびきり綺麗なものいっぱいの宝石箱やとびきり楽しいものいっぱいの玩具箱をひっくり返したような場所。
 光を編んだような硝子のバスケットいっぱいの宝石は、瑞々しい薔薇色のラズベリーに深い夜色に艶めくブラックベリー、鮮やかな真紅にきらめくリンデンベリー。試食の一粒口に放り込んだなら目の覚めるような甘酸っぱさが弾けて溢れ、深い薔薇色でとげとげとした果皮の中から蕩けるように甘い香りと淡い真珠色に透けるライチの果肉が覗けば弾けるように歓声あげて。
 薔薇色や夕陽色に完熟したマンゴーの香りも魅惑的だけれど、うっとりするほど甘く瑞々しい香りを漂わせる白桃の魅力にも抗いがたいし、蕩けるように甘い香りがひときわ濃い蟠桃の前からも立ち去りがたい。
 ねえ、これで何を作ろうか。
 瑞々しくてまぁるい白桃は種をくりぬいたところにカスタードを詰めてそのまま齧りついてみたいし、鮮やかなブルーベリーソースをかけた真白なレアチーズタルトも忘れちゃいけないところ。バターの代わりにアーモンドオイルを使ったさくさくタルトにヨーグルトクリームと甘い蟠桃も乗せてみたいし、綺麗なグラスに華やかなラズベリームースと雪色のフロマージュをかさねた冷たいヴェリーヌだってきっと素敵。
 そうと決まれば、涼やかな菓子にぴったりな硝子の器も買わなくちゃ。
 波模様のカッティングがきらきらと光を弾く水晶硝子のゼリーカップに、磨きぬいた水で百合の花を咲かせたようなパフェグラス。ねえ、こんな器に完熟パイナップルのシャーベットを盛りつけ、清涼感たっぷりのミントリキュールを落とせば、夏陽の輝きと緑がほんのり溶けあう飛びきり涼やかな一品ができるはず。そしてパフェグラスには濃厚なマンゴージュレを注ぎ、真っ白ふるふるの杏仁豆腐を重ねてみたいところ。だっていつかの夏にも買った粉末状の杏の種、杏仁霜の蕩けるように甘い香りと風味のとりこになっちゃったんだもの。
 純白の杏仁豆腐に注ぐのは薔薇のリキュール、香りも彩りも華やかになったらふるふるきらきらに崩したライチのクラッシュゼリーで煌き添えて、飛びきり幸せな夏のパフェを作ろうか。そうと決まれば搾りたての新鮮なミルクも買いにいかなくちゃ!
 それからそれから――ねえ、新鮮なミルクと一緒に極上の発酵バターも買えたなら。
 夏蜜柑のウィークエンドシトロンも作りたい。
 甘酸っぱく香る夏蜜柑の皮をすりおろし、果汁と一緒にたっぷり加えてバターケーキを焼きあげて、粉砂糖を水で溶き夏蜜柑の果汁も加えたグラス・オ・シトロンをたっぷりかけ、緑鮮やかなクラッシュピスタチオを飾れば、夏の宝石みたいなケーキができあがる。
 夏蜜柑の風味がとても爽やかで、白い薄氷のように固まったグラス・オ・シトロンのしゃりしゃり感も涼しげで、週末に大切なひとと食べる菓子、あるいは週末のバカンスに持っていきたい菓子の名に恥じない、極上の夏の週末をきっと贈ってくれるはず。

●桃と杏仁霜とウィークエンドシトロン
「ななな夏蜜柑のウィークエンドシトロン!? なんてことなの超美味しそう……!!」
「だよねー、レモンが定番だけど夏蜜柑も絶対美味しいと思うよ!」
 雁渡の狩猟者・アンジュ(cn0037)が光の速さで食いついたのは、ティルムシュタットの領主である彩茜樹・ピノ(c19099)がとある綺麗なお姉さんの瞳に視た今月の製菓市のエンディング。
 何を隠そう、ピノがこの街の領主になったのも製菓市が縁になってのことだ。
 領主とは言え基本的に製菓市の運営は街のひとびと任せ、だからこそ毎月彼も製菓市を楽しみにしているのだが、宣伝のチャンスがあるなら領主としてはやっぱり逃したくないところ。
「ってなわけで、今月の製菓市で買い物なんてどう?」
「きゃー! 行くよ行きます行きますともー!!」
 夏蜜柑も発酵バターもアーモンドプードルも買って、ぴかぴかのパウンドケーキ型も新調しなきゃ! と張り切るアンジュに『サワークリームも隠し味にいいらしいよー』とさりげなく勧めながら、ピノは皆も行こうよ、と同胞達に誘いを向けた。
 夏の盛り、けれどだからこそ、きらきら煌く涼やかな菓子に想いを馳せつつ買い物するひとときも、飛びきり煌く楽しい時間になれるはず。
「今月はさ、広場中央の噴水の辺りで冷たい杏仁ミルクも振る舞われてるから、たっぷり買い物した後にちょっと一息、ってのもいいんじゃないかなってね。――こんなのだよ」
「わあいわあいアンジュこれ大好きー!」
 彼がテーブルに並べたのは、粉末状の杏の種、杏仁霜を溶かしたミルク。
 杏仁豆腐の香りと風味が乙女心をときめかせてやまないそのアイスミルクに、当日の製菓市では甘酸っぱいパイナップルのピュレを混ぜたり、ラズベリーリキュールを混ぜてみたりと、製菓市にあつまる飛びきりの宝物たちで自分好みの杏仁ミルクをつくって楽しめるのだとか。
 但しこれはあくまで、製菓市で売られてる食材の味見も兼ねたサービスだ。
「だから杏仁ミルクだけを目当てに行く、ってのはちょっと遠慮して欲しいかな。買い物のついでって感じでよろしくね。あ、そうそう、お客様はもちろんだけど、製菓市に出店してくれるってひとも大歓迎だよ! ナルちも何かいいもの仕入れてきてくれるよね?」
 製菓市の発展を願う領主としては、楽しく買い物してくれるお客様だけでなく、良質な品で製菓市を彩ってくれる出店者の勧誘も欠かせない。
 砂鷲の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)は愉しげに瞳を細め、
「ピーさんのためなら今回はこれを仕入れて行くさ。ジャスミンの花砂糖だ」
 磨り硝子の珠のような、ふうわり揺蕩う朝靄の滴のような、ほんのりと透ける小さな珠をピノの杏仁ミルクに落としてみせた。たちまちふわりと溢れて杏仁の香りと溶け合う、甘いジャスミンの香り。
 ジャスミンドロップと呼ばれるそれは、砂糖の珠に香りの良いジャスミンのリキュールをぎゅっと閉じ込めたもの。トッピングにするのも良いし、溶かして香りづけにするのも良い。
「ね、こんな感じで、皆が地位を持ってる街や村の品を製菓市で売ってみない?」
 新鮮なミルクや卵に極上のアカシア蜜、粒揃いの朝摘みブルーベリーといった良質の品があるなら間違いなく売れるし、刃物が自慢の街なら菓子をきれいに切れるケーキナイフ、織物が特産の街ならお菓子のラッピングに使うサテンのリボンといった、食材ではないものだって売り物になる。
 磨きあげられ研ぎぬかれた鉋状の刃の上にクラッシュアイスを乗せ、手回しハンドルで回転させて粉雪の如く繊細な氷片を削りだす――そんな文明の利器や、冷菓が引き立つ硝子の器なども、今の時期なら飛ぶように売れるはず。
 今はまだラッドシティ以外の品はなかなか難しいけれど、都市国家間の街道が通ればいずれ――とピノの夢は広がるばかり。
「ま、そんな感じで、買うのでも売るのでもめいっぱい製菓市を楽しんでもらえれば嬉しいな」
 客として製菓市を楽しんでいた自分が、こうして領主として皆を製菓市へ誘う側へ。
 辿りきた道程、これから辿る道程を心に描けば、自ずとピノの顔には深い感慨と幸福がないまぜになった笑みが浮かぶ。
 皆にもこの夏の製菓市で、飛びきり幸せな出逢いがありますように。


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参加者
絶対自由・クローディア(c00038)
昏錆の・エアハルト(c01911)
漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)
陽凰姫・ゼルディア(c07051)
勿忘草・ヴリーズィ(c10269)
蜜契・エミリア(c12784)
紡ぐゆびさき・リラ(c14504)
彩茜樹・ピノ(c19099)

<リプレイ>

●夏蜜柑と花砂糖とウィークエンドシトロン
 朝露きらりと光るラズベリー、木漏れ日の滴めいた白葡萄。瑞々しい果実の誘惑を気合で振りきり陽凰姫・ゼルディア(c07051)は、愛しい柑橘を求めて果実の宝石達の波間を泳ぐ。
 軽やかふわふわ、チーズのこくと一緒に口の中で蕩けるリコッタチーズのパンケーキの材料も今日揃えるつもりだけど、まずは素敵な名のとおり大切なひとと食べたいウィークエンドシトロンから。
 ――夏蜜柑のウィークエンドシトロンて絶対美味しい……!
 と、拳握ればめぐり逢う夏陽の色した柑橘の山。ひときわときめく色合いの夏蜜柑に手を伸ばせばそれはほわほわの、
「んもうお婿さんってば、いつもにも増して美味しそうすぎるんだからー!」
『ぴよぴよ、ぴよー!!』
 聴こえたゆずひよことゼルディアのらぶらぶっぷりに笑み零し、豊かなミルクの風味溢れる新鮮な生クリームにバター、塩結晶花咲くフルール・ド・セルと、極上キャラメルのための戦利品を確保した勿忘草・ヴリーズィ(c10269)は、妹分の姿を見つけて手を振った。
「リラ! フルーツ屋さんつきあってくれる?」
「ええ、リズ姉さま。ご一緒させてくださいな」
 実はたっぷり時間ができてしまったの、と紡ぐゆびさき・リラ(c14504)ははにかむように微笑んで、そっと秘密を明かす。
 夏色煌くビーズを編み込んだレースコースター、夏花を刺繍したリボンやクロス――と、自分の店を彩る品々の準備は万全だったのだけど、品揃えはお客様がいらっしゃるまで秘密、という心づもりで公に見える場でのアピールが意識から抜けてしまっていて、出店許可が下りなかったのだ。
「けど、私のお願いはばっちりよね?」
「わ、エミリア!」
「勿論よ! 私が貴女のお願いを聞かない時なんてないわ……!」
 内緒話な娘達の後ろから悪戯っぽく蜜契・エミリア(c12784)が顔を覗かせれば、ヴリーズィとリラに輝く笑みが咲く。リラが親友のために紡いだ品は夏空の青に染まるリボンに、朝露めくビーズ纏った真白な雲を模るレース。
 向日葵みたいなタルト型も買うの、と明かされれば小さな向日葵のレース飾りも添え、夏の煌きで彩る飛びきりの菓子の話に三人花を咲かせた。
 華やぐ製菓市の賑わいに満足気に瞳を細める彩茜樹・ピノ(c19099)は、今日も今日とて微行姿。だが製菓市の実力者の一人、某いけずなデザイナーことエッカルトの店を訪れた瞬間、
「これはこれは! ティルムシュタットの領主様ではありませんか!!」
「ティルムシュタットの領主殿におかれてはご機嫌麗しく……」
「うわーんお忍びっていってるのに皆いじめっ子ー!!」
 朗々と響き渡る声で出迎えられ、丁度彼の店を訪れていた漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)にまで恭しく一礼された。
 林檎隠れに開いた菓子店にも是非お越しを、と笑顔でピノに告げ、リューウェンは某いけず氏との話を再開。その手にあるのは先だって雁渡の狩猟者・アンジュ(cn0037)が本家本元の花砂糖屋から届けてくれたジャスミンドロップをあしらったショコラティアラ。
 エッカルトがデザインした型で作ったチョコレート細工だ。
「如何だろうか?」
「なかなかですね。夏場の型の使い心地はどうです?」
「俺が気づいた点は――」
 興味深く耳を傾けていた彼らの話が一段落つけば、ピノもいけずな青年に挑む。
「ところで景気どーよ?」
「上々です。これ以外に有り得ると思いますか?」
「言うと思ったよ!!」
 小憎らしい相手だが無視できない。その理由はピノ自身にも解っていた。
 一朝一夕にはいかないと百も承知だから、エンドブレイカーとしての縁も利点もフル活用して、数年計画でティルムシュタットの発展に繋がる事業を進めたい。領主として頑張りたい。
「いつか君にも、認めてもらえるように」
 心外そうに瞳を瞠り、エッカルトがひそりと笑んだ。
「もうとっくに、認めてますよ」
 二人のやりとりに微笑し、次にリューウェンが向かうは砂鷲の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)の店。そこで絶対自由・クローディア(c00038)とゼルディアに行き合ったなら、
「後日、俺のウィークエンドシトロンの味見にお越し願えないだろうか?」
「うん! ぜひ食べたいな」
「私も勿論喜んで!」
 明るく笑み交わして、冒険商人に見立てを頼んだ品を受け取った。
 ほのかに輝くような白磁に茉莉花の透かしが入ったシュガーポット。透かしに嵌められた淡やかな彩のオパールグラスが優しく煌く様に眦緩めれば、
「そういや、エアハルトにも頼んでなかったか?」
「此方は自宅用で、エアハルト殿にお願いしたのは店用の――と、噂をすれば、だな」
 思い出した風のナルセインの言葉に上げた瞳に、昏錆の・エアハルト(c01911)の姿が映る。
「よ。ジャスミンドロップ見せてくれ。嫁さんの土産にもいいかな、なんてな」
「待って待って、私から結婚祝いに贈らせて!!」
「そうだったな、エアハルト達におめでとさん。そしてゼルディア達にもおめでとさん」
 けれど彼の言葉に真っ先に反応したのはゼルディアで、ジャスミンドロップは彼女からエアハルト、そして冒険商人からゼルディアへ贈られた。
 甘く華やかに香るジャスミンの花砂糖。
 ――さて、リューの花砂糖入れはどんな器にしますかね。
 朝靄で作られた真珠思わすそれを眺めれば細工師の口許に笑み浮かび、脳裏には数多の意匠が浮かび来る。

●桃とワッフルと細工師謹製オーダーメイド
 完熟の白桃から溢れる香りの甘さは震えるほど官能的で魅惑的。
 味見をどうぞと差し出された瑞々しい果肉は甘露が滴らんばかりで、口に含めば柔らかなそれから飛びきり芳醇でなめらかな甘味が迸るよう溢れだす。
「……! …………!! これでリズさんのおすすめトッピングしたい……!!!」
 思いきりぷるぷるしつつクローディアは言の葉を絞り出した。
 最初に飛び込んだ店で『初心者なんです!』と正直に告白して選んでもらったのは、手入れし易く加工された鋳鉄のワッフルメーカー。数枚いっぺんでなく一度に一枚ずつ焼くタイプのそれはきっと、焼き方を丁寧に覚えていくのにぴったりだ。
 おでかけ前に皆が教えてくれた多彩なワッフルおすすめトッピング。それらを思い起こすたびに胸弾ませずにはいられない。
 林檎の秋月夜に食べたワッフルの優しさが忘れられなかったから、お菓子作りに挑戦する時にはきっと――と思っていた。
「アンジュさんにも食べてもらいたいな」
「食べたい食べたいー! アンジュもおすすめトッピング持ってくね!!」
 好きなのを好きなだけ焼くワッフル&パンケーキパーティーなんて素敵よね、と笑みを零しながら、何気なくゼルディアが冒険商人の店での一幕を語れば、
「うわーんアンジュが先に御祝い言いたかったのにまたナの人に先越されたー!」
 えらいことになった。
 大好きだよおめでとうとぎゅうぎゅう抱きしめられつつ暁色の背をぽふぽふし、
「ね、アンジュさんのお祝いも贈らせてね」
 ひっそりゼルディアは、心配かけてごめんなさい、と囁きを添える。
 ――でも、ありがとう。
 大好きってぎゅうっとする幸せ教わったから、私からも贈れるように、旅空の下からでもいつだって駆けつけるよ。
 ――大好き。
「よーしエアハルトさんとこにも突撃おめでとうするー!」
「私もおにいちゃんの作品見に行きたいな、きっと素敵なものいっぱい!」
「そうだ私もお願いしたもの受け取りに行かなくちゃ!!」
 弾けるように笑い合って駆け出す先は、ラッドシティの細工師たるエアハルトの店。
 元より硝子細工を得手とし、夏空の街で陶芸の才も開花させた今夏の彼の店は、華麗な食器達で彩られていた。
 透きとおる硝子に紫煙を思わす紫の粒子広がる硝子皿、紅茶や珈琲を飲めば底に沈んだ歯車が覗くカップに、金砂舞う硝子のマドラー。
「うくっ……。おにいちゃんの作品やっぱり欲しいかも」
「だろ? これだけじゃなく個人注文の品もいい出来だぜ?」
「ほんと傑作ね! ありがとう細工師さん……!!」
 華麗な品々に見入るクローディアにエアハルトが嘯いたなら、オーダーしたタルト型を胸へと抱いたエミリアが満開の笑みを咲かせた。
 明るい金色に咲いて煌く向日葵のかたちのタルト型。
 夏の息吹ときらめき甘く象れば、夏陽の色した柑橘に爽やかなサワークリームの風味を合わせて、太陽の花咲かせた、そんなお菓子ができるはず。
「誰かに全てお任せで見立てて頂くって贅沢……!」
「うんうん、お任せも素敵だけどモチーフでお願いするのもいいよー!」
 ティーカップ二客を依頼したリラは、透きとおるように艶めく白磁のカップの持ち手に森色リボンが結われたデザインの品に胸ときめかせ、ピノは黄色くてまんまるなゆずひよこ型かき氷器とまっすぐ眼を合わせ、『嫁そっくり……!』と胸を熱くした。
 心から微笑み咲かせ、リラから細工師へ手渡すのは色とりどりの花咲き溢れるレースクロス。
「これは、お礼とお祝いに」
「お、こりゃすごいな……ありがたく」
「そうだ結婚おめでとうございます匠いけめん先生! これご祝儀!!」
 眦緩めて受け取ったエアハルトの眼前に続いてピノが夏の柑橘籠盛りをどかっと置いて、
「ゼルディアもおめでとうなんだよね、そうそうリューウェンにも届けなきゃ!!」
「わあ、ありがとう……!」
 柑橘の国のお姫様にも籠盛り贈れば、ゼルディアが嬉しげに頬を紅潮させた。
 細工師にお願いした銅製のポットとペアカップに出逢えたなら、ゼルディアに更なる幸せの笑みが広がっていく。大切なひとと歩む旅の連れ。
 夜思わす千歳茶色のペアカップ。満ちゆく月が描かれたそれを手に持たせ、
「ゆっくりと夜唄が聞こえてきそうな味わいを……ってな」
 柔い笑みでエアハルトがそう言ってくれたから、思わず視界が潤みかけた。
「オーダーメイドなだけでも贅沢なのに……お任せして良かった」
 ――素敵な品を、ありがとう。

●珈琲と杏仁霜と幸せなパーティーの約束と
 金に薔薇色を重ねたように煌く銅製、明るくポップな色彩が心弾ます琺瑯も、どちらも湯口は細くて優美なドリップポット。
 銅製に陶器に硝子と目移りしそうなドリッパーは扇型に円錐にと形も違い、中を覗けば溝のタイプも様々で。サーバーは総硝子製よりウッドハンドルの品が使い勝手が良さそうに見えた。
「最初はこれらがありゃ何とかなるだろ」
 珈琲用具と一口に言っても多種多様、リューウェンに相談を受けたエアハルトは手配してもらった売り子に店を任せ、珈琲用具の森を歩きながらアドバイス。
「慣れない内は焙煎も挽くのもプロに任せたほうがいいし、淹れるのも何度も練習するしかねぇやな」
「成程……珈琲も奥が深いのだな」
 紅茶とは別のカップで、と続く言葉に真剣な顔で頷き、リューウェンはアドバイスを心に刻む。
 いつか自分の菓子店でも、美味しい珈琲を出せるよう。
 今回の夏の煌きあつめてヴリーズィが作りたいお菓子は、キャラメルオレンジのチーズケーキに、飛びきりのおもてなしにしたい薔薇風味のサントノレ!
 土台はパイ生地、カラメリゼしたシューを乗せ。
 薔薇のリキュールはマスカルポーネクリームに夢を染ませるためのもの、ぷるぷるライチのきらきらジュレを潜ませて、フランボワーズと薔薇砂糖で更に彩り乗せて。
「ねえアンジュ。わたしの作ったケーキたちは一番に味見してね?」
「いいの!? わあいわあいかくべつとくべつ!!」
 途端に彼女がぱっと顔を輝かせれば、そっと袖を引っ張っておねだりを。
 ――わたしね実は果物の中で一番桃が好きなんだけど、桃で何か作ってくれる?
「わたしはアンジュほど細工菓子は出来ないし、素敵だなって思ってるんだよ?」
「んきゃーそう言われると照れるんだよ! けど頑張るね、楽しみにしてて! してて!」
 ぽふっと頬染めた親友の片腕に、いつも彼女がしてくれるようぎゅうっとくっついたなら、えへへ、と照れて笑ってアンジュがヴリーズィに頬を寄せた。
 桃果肉のダイスカットたっぷり潜めてとろりと焼き上げたブリュレに、瑞々しい桃スライスをまぁるく並べて薔薇を咲かせ――。
「って思ったら可愛いココット皿欲しくなったんだよ!」
「じゃ、買いにいこっか!」
 迷わず手を繋いで飛び込む賑わいの先、涼やかな硝子の煌きが見えれば、
「リズ姉さま! アンジュさま! 丁度いいところに……!!」
 硝子の煌きの中で今度はリラが手を振った。
 乙女は欲張りなもの、ダルクは惜しまないと誓ったリラは、夏の押し花秘めた硝子のティーセットの身受けも決定。
「ででもね、暖色系か寒色系か、迷う、のよね……!」
「冬なら暖色、今なら寒色がいいと思うの。ふんわり淡くて優しい感じの!」
 夏森の木漏れ日に咲く優しい淡青の花――。
 それがリラちゃんっぽい、と語るアンジュにくすくす笑って、
「ねえアンジュ、パインピュレの杏仁ミルクは絶品だと思うの」
 けれどジャスミンドロップにもときめきがとまらない。
「つまりは半分このお誘い、ご一緒してくれる?」
「一緒するー! 親分大好き!!」
 悪戯に煌く瞳でエミリアが誘えば、暁色が飛びきり嬉しげな笑みでぎゅうっと抱きついた。
 琥珀色のメープルシロップでひたひたにするのも良いし、黒蜜きなこも良し。桃とマスカルポーネとキャラメルも、アイスとの組み合わせも気になるし、お餅で焼くワッフルにも興味津々!
「いっぱい買っちゃった……!」
「いいのよいいのよ、そういう市だもの!!」
 皆に教わったトッピングを試したくてあれこれ買い揃えたクローディアは幸せいっぱい、好きなのを好きなだけ焼くパーティーを思えばゼルディアの心も浮き立つけれど。
「まずは前哨戦に杏仁ミルクで乾杯しない? 桃のピュレと一緒って決めてたの!」

 眩くも涼やかな煌きが溢れて降りそそぐ噴水の傍。
 そこにティルムシュタット領主の姿を見つければ、
「領主さまご機嫌麗しゅ……じゃなくてピノさま、お招きありがとう」
「幸せが実って新しい季節が訪うたびに豊かに甘くなる。――ね、とっても、良い街ね」
 ずっと来たかったのとリラが微笑み、眩しげにエミリアが笑う。
「まだまだ新米領主だけど、そう言ってもらえると嬉しいや」
 面映ゆそうな笑みで応えたピノがゆずひよかき氷器を見せて、皆でかき氷パーティーとかしようよと続ければ、エミリアの胸に光が射した。
 博物館の窓辺に溢れていた光、甘い薫り。あの日々と同じ日はもう帰らないけれど。
 愛するものを新しく作ることは出来るから。
 眩しくて嬉しくて切なくて愛おしくて、ほんの少しだけ泣きそうな笑みがエミリアに燈る。
「――ピノ、新しい約束を、ありがとう」
「うん、また遊びに来てよ。ってなわけで、再会を願って!」
 特製かき氷はまた逢う時のお楽しみ。
 今は眩い夏の幸せたっぷり落とした杏仁ミルクで――乾杯!



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2015/08/30
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