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≪移動農園 はるちゃん≫永遠の夏 ラーラマーレ・フルッティフィカーレ

   

<オープニング>

●夏空の街ラーラマーレ
 眩い光が眼裏まで射して、微睡みの海から意識を引き戻す。
 覚えのある感覚、けれどオレンジミストの黄昏でのそれよりも、スイートレインの揺籠でやわらかに微睡みから浮かびあがった時の感覚にいくらか近い。
 限りなく優しいしあわせの波間に浮かびあがった心地で、戯咲歌・ハルネス(c02136)がゆうるりと目蓋を開けば、夏空の青よりも先に、明るく優しい緑の蔓葉が織りなす繊細なレースが瞳に映った。
 眩い夏の陽射しをふうわり和らげてくれる、ゴーヤのグリーンカーテンだ。
 程好く涼やかで心地好い、その木陰に置いた籐の寝椅子。
 ここでのお昼寝はもうすっかり夏空の街ラーラマーレでの日常で、
 ――誕生日にゴーヤ植えるの手伝って!
 と皆にねだった娘を胸に抱いて眠るのもいつものこと。
 柔らかな寝息をたてる夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)の寝顔に目元を和ませ、そっと頬を撫でてやれば、幸せそうな寝顔がひときわ幸せそうにほころんだ。微睡みのなかで揺蕩っていてもちゃんと誰の手なのかわかっているらしい。
 優しいしずくが肌から染みいるような至福の心地に吐息の笑みを溢して、ハルネスは再びゴーヤの蔓葉が織りなすしあわせを見上げた。皆とゴーヤを植えたいと彼女が言ってくれたことが、どれほど嬉しかったことか。
 大切に、大切に育てたゴーヤ達。
 見事なグリーンカーテンに育ったゴーヤ達は緑の実も純白の実もいっぱいつけてくれた。
 手近な実に手を伸ばせば、腕の中で命の熱が身じろぎする。
「ハルネスさん……?」
「ここにいるよ、アンジュ」
 目覚めた娘が寝顔の時以上に幸せな笑みを咲かす。
 おはようと大好きの幸せを唇で交わせば、その次にはアンジュの腹ぺこタイマーがきゅるるる〜と鳴いた。まあ、これも割といつものことだ。
「きききき聴こえたー!? 聴こえちゃったー!?」
「そりゃもう、ばっちりね」
 笑みを噛み殺しながら手近なゴーヤを手に取ってみる。うん、食べ頃だ。
 頬も眦も緩めてハルネスは、暁月夜の瞳であわあわしている金の瞳を覗き込んだ。
「ねぇ、アンジュ」
 ――ここにみんなを呼んで、ゴーヤパーティーをしようか。
「するー!!」
 言ってみればみっつ瞬いた娘がぎゅうっと首に抱きついてきた。
 あのね、あのね。
 ――ずっとずっと、皆と食べるのを楽しみにしてたの。

●永遠の夏 ラーラマーレ・フルッティフィカーレ
 鮮やかな夏空の青を映す大きな湖、マーレに面した夏空の街には、運河と湖を繋ぐ水門が幾つも設けられているけれど、夏の終わりのこの朝にだけ開かれる水門がある。
 永遠の門。
 夏空の街に毎年訪れる夏の永遠を願って名づけられたこの水門をゴンドラでとおり、湖の対岸から流れ出す運河を越えて、旅人たちはラーラマーレを旅立ってゆく。
 ――皆で集まるのは、その前日。
 今年、夏空の街ラーラマーレですごす最後の日。

 夏空の青を湛えたマーレの湖畔に建つ小さなコテージ。
 綺麗なグリーンカーテンに彩られ、湖を望む広々としたウッドデッキのテラスがある、この『夏には苦手が好きに変わる、魔法のおうち』にみんなを呼ぼう。
「グリーンカーテンに生ったゴーヤで美味しいゴーヤ料理作って食べようねー」
「食べる食べるよ食べますともー! あのねテラスにテーブル出して食べようよ!!」
 時間はお昼がいいな、とアンジュの声が弾めば、夏空の青が見たいしね、と応えるハルネスの心も弾む。
 空と湖の夏空の青を一望できるここの広々としたウッドデッキのテラスに大きなテーブルを出して、美味しいゴーヤ料理をめいっぱい並べ、みんなで楽しめればしあわせ。
「勿論美味しいお酒も欠かせないね! アンジュは何が呑みたい?」
「んとね桃とオレンジ多めのサングリア! そしてねそしてね……!!」
 ちょっと待っててね、とぱたぱたコテージの中に駆けこんだ娘が、
「これ! ゴーヤ料理に合わせるなら、ってもらったから!!」
「ああ、これはいいね……!」
 誕生日に贈られた泡盛の古酒を嬉しげに抱いて戻ってきたから、ハルネスも相好を崩した。
 柑橘割りも美味しいという話だったから、街路樹のオレンジもたくさんもいでおこう。お酒が呑めない仲間がきてくれるなら、搾りたてのオレンジ果汁を振舞って。
 自分のとっておきのゴーヤ料理を、そして、教えてもらえるならみんなのとっておきのゴーヤ料理を溢れんばかりに並べたテーブルで、みんなで賑やかに乾杯しよう。

 楽しく食事をしながら、また美味い酒を酌み交わしながら、たくさん話そう。
 なんでもいいんだ。
 みんなでたくさん話して、泣いて、笑って。

 ――そして旅立ちの日を迎えよう。

 永遠の門から旅立てば――と想い馳せれば、自然とハルネスに柔らかな笑みが浮かぶ。
 淡く目蓋を伏せ、そして改めて眼の前の娘を見つめ。
「ラーラマーレを発ったら、時の栞に帰る前に約束の木に行こうね」
「……! 大好き。いっぱい大好き……!!」
 何度も何度も瞬いて胸に飛び込んできた暁色の娘を抱きとめ、笑みを深めた。


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参加者
絶対自由・クローディア(c00038)
緋の暴君・ユリウス(c00471)
昏錆の・エアハルト(c01911)
戯咲歌・ハルネス(c02136)
漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)
陽凰姫・ゼルディア(c07051)
浮葉・ファルス(c09817)
勿忘草・ヴリーズィ(c10269)

<リプレイ>

●永遠の夏 ラーラマーレ・フルッティフィカーレ
 輝くような夏空の青が世界を満たしていた。
 空も湖も眩いほどの青、夏の輝きそのものを見渡すようなテラスに出来たてゴーヤ炒飯を豪快に盛りつけた大皿片手に掲げた緋の暴君・ユリウス(c00471)の声が楽しげに響く。
「晩夏だ一番! ゴーヤだらけのはるちゃん収穫祭〜!!」
「それでは僭越ながら、贈り物一番手を頂くのじゃよ」
 卵やベーコンに葱やゴーヤの彩りも鮮やかで、香ばしい焦がし醤油の香りも実に魅惑的な炒飯に早速頬を緩めた浮葉・ファルス(c09817)の手には朝靄めく糸の宝石。夏空の青にふわり広げれば、花模様が芯から波紋のように咲き広がるレースクロスがテーブルを彩った。
 わあっとあがる歓声にまだあるのじゃよと瞳を細め、更に咲かせるのは花砂糖にまつわる七種の花、そしてミニブタぷーちゃんとゆずひよこさんを模ったレースコースター。
「流石お裁縫の女神様!!」
 色違いで揃いのシュシュに彩られた乙女達の歓声が弾ければ昏錆の・エアハルト(c01911)は挑むような笑み刻み、
「ファルスが裁縫の女神なら、俺は紫煙群塔を越えて世界の細工師になるとするか!」
 これ確定な、と嘯き糸の宝石の上に硝子の宝石咲かせれば、またも歓声の花が咲く。
 滴るような夏緑の煌きに鮮やかな青が奔る夏空グラス。あのグリーンカーテンの内から見る夏空はこんな風だろうか、と連れて来た相棒ペンギンが緑の陰から顔を覗かす様に微笑しつつ、漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)は細工師謹製の杯を手に取ってみた。
「今日にぴったりのグラスだな。夏らしい黒ビールも楽しみだ」
「ほんと、ファルス君もエア君も見事な腕前だよねー。さあみんな、何から呑む?」
 たちまちテーブルを華やがせるのは瞳に楽しくて舌やおなかにはもっと楽しそうなゴーヤ料理達、泡盛の古酒やエアハルトの差し入れオレンジフレーバーの黒ビール、サングリアのカラフェも並べば戯咲歌・ハルネス(c02136)も歓びのままに笑んで皆を見回した。
「最初は古酒をロックでお願いしますハルネス君!」
「ロックからなんてゼルさん大人! 私は柑橘割りから行きたいな……!」
 可愛いペンギンに瞳を奪われていた陽凰姫・ゼルディア(c07051)が勢いよく振り返る様に破顔し、絶対自由・クローディア(c00038)も籠に山盛りのオレンジに瞳を輝かせる。柑橘割りはきっととってもラーラマーレらしい味。
「リズちゃんはサングリアからだよね! かくべつとくべつ!」
「勿論だよ! ラーラマーレで呑むサングリアはかくべつとくべつ!!」
 桃とオレンジが赤ワインの中に踊るカラフェを夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)が手に取ったなら、勿忘草・ヴリーズィ(c10269)にも笑みが咲いた。
 酒精の宝石がめいめいの硝子の宝石に咲いたならハルネスが杯を掲げ、
「この夏とラーラマーレに、大好きな皆と私の愛しい家族に」
 ――乾杯!!
 たっぷりの柑橘果汁にも負けずふわり昇る古酒独特の香り、口にすればオレンジの甘酸っぱさの奥から柑橘のほろ苦さと絶妙に調和した癖のある古酒の風味が花開く。
 杯を手にファルスは陶然と息をつき、
「実はワシ、ゴーヤって食べたことないんじゃよ。まずはサラダから頂こうかのう」
「あっ私もリズさんのサラダ食べたい!」
「食べて食べてー! わたしとアンジュの合同力作だよ!!」
 瑞々しさ溢れるサラダボウルに瞳を留めれば途端にクローディアの声も明るく弾けて、張り切ってヴリーズィが取り分けるのは緑鮮やかなゴーヤと白く透ける玉葱をツナと和えたマヨネーズサラダ。
 約束叶えた親友達の合作はマヨネーズから手作りで、めいっぱいのらぶが隠れてない隠し味!
「そうなのユリウスさんのベーコンおにぎり食べながら頑張って作ったよ! 作ったよ!」
「あれユリウスのだったの!?」
「はらぺこタイマーの緊急コールに備えて作っておいたのさね。で、こっちが本番!!」
 調理中から用意周到なユリウスの力作は勿論ゴーヤ炒飯、お米は霊峰天舞産の特上品、ベーコンは彼女が手ずから燻製した極上品、そしてここで幸せ一杯に育ったゴーヤを使い、手間暇も愛情もたっぷり注ぎ込んだ炒飯ともなればアンジュの瞳の期待のきらきらも溢れんばかり。
「はいアンジュ、あーん」
「わあいわあいユリウスさん大好きー!」
 濃厚なコクにオレンジの爽快感香る黒ビール片手に、エアハルトはリューウェンがからりと揚げた熱々ゴーヤチップスに舌鼓。雛のように食べさせてもらう暁色を見守って、
「どーだ、アンジュ」
「あのねあのね、ちょっと苦いけどすんごい美味しいー!」
 軽く水を向ければ春までゴーヤが苦手だった娘に飛びきりの笑みが咲いた。
「ユリウス君の料理って初めてだなぁ。さあアンジュ、次は私のチャンプルーをお食べ」
「食べる食べるよ食べますともー! あのねあのね、海老も一緒に欲しいです!」
 皆で植えて二人で育てたゴーヤは効果抜群の模様、幸せそうな様子に目元を和ませ、ハルネスが取り分ける手料理は海鮮たっぷりツナがメイン、そしてゴーヤもメインな素麺チャンプルー。
 はい、あーん、と微笑めば暁色にこのうえなく嬉しげな笑みが燈り、素直に口を開けた彼女に食べさせてやれば、またひとつ約束が叶う。
 美味しく食べられるものが増えるたび、世界が広がっていく心地。
「私も初めはゴーヤの苦味が気になって、何とか食べられないかなって色々試してたの」
「俺も昔はこの苦みが苦手だったのだが……食べる内にハマってくるのが不思議だな」
 ツナマヨサラダのまろやかなコクとさっぱりほろ苦さを堪能するクローディア、黒ビールにも良く合うゼルディア作カレー風味のゴーヤフリットに顔を綻ばすリューウェン。
 みんな初めは苦手だったのね、と二人の言葉に笑みを零しつつ、ゼルディアがもりもり食べるのはクローディアの試行錯誤の結晶、濃厚な鰹出汁と胡麻油の風味が堪らないゴーヤと油揚げの炒め煮だ。皆といると美味しいものとの出逢いがいっぱいで、ゼルディアは幸せな悲鳴をあげた。
「おでんやさんでも農園でももうホントに舌が肥えちゃって大変! 責任とって!!」
 責任重大だよはるちゃん、と小さく吹きだしつつ、クローディアは溢れくる懐かしさを抱いて感慨深くハルネスと笑み交わす。この春皆で植えたゴーヤが実りの夏を迎えたように、あの約束の春に森へ還したどんぐりも、きっと若木に育っているだろう。
 今の彼女を見ればその若木の瑞々しさ撓やかさも窺えるようで、ハルネスは眩しげに瞳を細めた。
「強く綺麗な女性になったね、クロちゃん」
 ホントにな、と笑って古酒のロックを傾けるエアハルト。
「けど、クローディアを泣かす奴がいれば俺が世界のどこにいても殴りに行くぜ」
「そんじゃアンジュはディノで踏みにいく!」
「私だってカオスカデンツァでぎったぎたにしちゃうんだから!!」
「わたしもわたしも! 妖精さんがドゴォンって火を噴いちゃうよ!!」
「ならワシからは幻獣魔曲をお見舞いするのじゃよ」
 たちまち皆の声が重なれば賑やかな笑みも弾けて幾重にも花開く。
 俺は幸せになれねぇんだろうな、と冷たく虚ろな心を抱えて戦神海峡に辿り着いた五年前。けれど皆と出逢い酒を酌み交わし、刃を手に駆け続けた今、エアハルトの手には眩しく輝く夏がある。
 ――ああやっぱり、俺は夏の申し子だ。

●永遠の夏 ラーラマーレ・ジェルミナーレ
 咲き溢れる花のように次々と皆に花開くのは、これまでの話やこれからの話。中でも昨今の話題と言えばリューウェンの菓子店オープンやエアハルトの結婚に、ゼルディアの旅立ちや近々千秋楽を迎えるヴリーズィ主演の舞台の話。
 ――凍った蕾のようだったわたしが、誰かに幸せ届ける花になる。
 不思議だねと笑ってサングリアを干したヴリーズィは、続けてアンジュと一緒に古酒の柑橘割りに挑む。オレンジと溶け合う古酒の香りにどきどきしつつ杯に口をつけ、カレー風味のフリット齧れば、輪切りゴーヤに詰められた挽肉の旨味がほろ苦さと共に古酒の風味に溶け、
「――……! 美味しい……!!」
「ねー! 美味しいね、幸せだね」
「良かったー! クロさんもファルスさんも食べて食べてー!!」
「勿論! もりもり食べるよ!!」
「美味しそうじゃものね、ワシも遠慮なく頂くのじゃよ」
 歓声あげてぎゅうっと抱き合えばそこにゼルディアがクローディアとファルスも巻き込み、乙女達のらぶぎゅう団子。火を通すほどゴーヤさんの苦みは抜けるけど、苦みも栄養だから、アンジュさんもゴーヤさんとお付き合いを深めて丁度いい苦さを見つけてね。
 なんて言うけど、と面映ゆく笑ってゼルディアは言を継ぐ。
「私も大切な人達との付き合い方を、アンジュさんとハルネス君、皆に教えてもらったの」
 ――ありがとう。
 愛する人の手を取り、大好きな人達を抱きしめることを、もう迷わない。
「旦那と旅して回るんだよな、幸せな旅にしろよ」
「エア君は大丈夫だろうと思ってたけど、ゼルちゃんも幸せになってくれて嬉しいよ」
「ゼルちゃんを嫁にもらえるなんて、これはもうあの幸せ者はもぎるしかないさよね!」
 笑って祝福するこの場の誰もが彼女の伴侶と面識があるというのも、奇跡のような縁。
「いずれ御夫婦でも店にお越し願えれば幸いだ」
 そう微笑むリューウェンの菓子店があるのは林檎の森のツリーハウスの村。そこには農園の秘密基地もヴリーズィの隠れ家もあると聴けば、ファルスが緩く瞬きをした。
「もしかして……その村に行ったことがないのはワシとユリウス殿だけかのう?」
「じゃ、近いうちにみんなで行こうさね。これが出来上がる頃にでもさ」
 それぞれの門出を迎えても、縁は紡がれていくから。
 また皆で楽しく飲み会しようさねと、ユリウスは分けてもらったゴーヤを浸けたホワイトリカーの瓶を振ってみせた。出来上がりは一月後。
「だからね、アンジュ。また今度」
 ――皆やあたいといっぱい遊んでおくれさね。
 暁色の頭をぽふりと撫で、ぎゅむっと抱きしめてやれば、『いっぱい遊ぶ遊ぶー!』と満面に笑みを咲かせた娘がユリウスをぎゅうぎゅう抱き返す。
「わあいわあい楽しみ楽しみ! あのねその時はキノコパーティーしようね!!」
「きのこ」
「そういや苦手なんだっけ? 逃げんなよユリウス」
 途端に固まった彼女をからかいながら、俺はユリウスの芯がぶれない強さを尊敬してんだから――なんて本音をさらりと告げるエアハルト。今日交わされる言葉も笑顔も何もかも幸せに満ちていて、ファルスとヴリーズィは頬を緩ませ微笑み合った。
 花咲き実る幸せ、そこから再び生まれる約束。
 ――永遠の実りが種になり、そして芽を出すんだね。
 皆が実らせた幸せの話、そして緑や白のゴーヤの実りの恵みをたっぷり堪能した後には、完熟の実りの恵みが咲き誇る。
「綺麗……!!」
 華やかな黄色に熟した完熟ゴーヤの中には真紅のルビーみたいに艶めく種、橙がかった山吹色に仕上がった完熟ゴーヤのジャムはチーズやヨーグルトに添えられて、ハルネスがテーブルにひとつ並べるたびに歓声があがる。
「まさにゴーヤフルコースだよね! 甘い……!」
「ほんと! このジャム甘くてほろ苦くてマーマレードみたい……そうだ!」
 蕩ける甘さの真紅を匙で口に運んだクローディアが至福の笑みを咲かせ、ジャムを添えたチーズを味わったゼルディアが思いだしたように荷を開けた。
 取り出すのはこれもまた宝石めいたオレンジの煌き。
 皆へ感謝とらぶを込め、手作りマーマレードをプレゼント。
「あ! リューウェン君も大丈夫だったかしら!?」
「今少しずつ克服していっている次第だ。ありがとう、ゼルディア殿」
 柑橘は好きだが苦みが苦手、と何気なく語った焼きみかんの冬。
 あの一言が今日のゴーヤパーティーにまで繋がったのだと思えば感慨深くて、リューウェンは胸に暖かな光が燈る想いで穏やかに笑んだ。
 これまで紡がれた縁も、これから紡がれる縁も、限りなく愛おしい。
 俺の贈り物もそろそろ披露させて頂こう、と席を立った彼が運んできたのは、保冷容器ごとゴンドラに隠しておいたケーキ。テーブルの上に姿を現したそれは、純白のクリームと瑞々しいフルーツ達に彩られた三段の塔。
 塔の頂を飾るのは、練りきりで作られたゆずひよこの新郎新婦だ。
「リュー君、これ――」
「そう、ウェディング仕様で作らせて頂いた次第だ」
 今日一番の皆の歓声が、夏空の青に弾けて咲いた。
 席から飛んできたヴリーズィが親友を抱きしめ、互いの耳にラリマー咲く対のイヤーカフを示して、サムシング・ブルーだよと濡れた瞳で笑う。リズちゃん大好き、と抱き返す暁色の声も潤む。
「ねえ、アンジュとハルネス。幸せになってね」
「――必ず。リズ君がアンジュの親友でいてくれて良かった」
 眦が緩んだのか震えたのか、ハルネス自身にも判らぬまま笑み返す。
「おめでとう。ハルネス殿、アンジュ殿」
「その背にはアンジュと対の翼が生えてる。二人ならどこまでだって行けるさ」
 リボンで彩られたケーキナイフをリューウェンに手渡され、俺の真の友、と笑ったエアハルトに背を叩かれれば、はっきり何かが込みあげて来た。
 ――ああ、ラーラマーレに来ると涙脆くなっていけない。
「ありがとう。皆と出逢えて良かった」
 きっと明日も泣きたくなるほどの夏空の青。だから必ずその先で。
 ――また逢おうね。

 永遠の門から旅立ち、永遠の森を訪れた。
 朝の陽射しが光の糸となって降る森を歩み、光零れるように白花咲く約束の木に至る。
 白銀の礼装を纏ったハルネスの左胸へ、彼が数年かけて贈ったウェディングティアラにヴェール、花雪咲き零れるウェディングドレスにフィンガーレスグローブを纏ったアンジュが、夏陽のように輝く金蓮花を飾る。
 胸奥にも花が咲き綻ぶ心地で、花婿は花嫁の手を取った。
 シャルムーンデイの逢瀬の朝、『君』から『あなた』に変わったわけは。
「あなたが私の生涯の伴侶なんだと、心の奥に沁み込むように自覚したから」
 魂の片割れ、二人で一枚の織布だと――渇いた砂が水を吸い込むように理解した。
 罅だらけの器をも満たし、とめどなく溢れる幸せ。
「アンジュもね、あの朝に貴方と夫婦になれたって感じたの」
 だから今日の誓いは、二人でひとつの幸せを、永遠にするためのもの。
 あの朝に咲いたどの笑みよりも幸せな笑みが花嫁に咲いた。寸分違わぬ幸せにハルネスも笑みを深め、彼女の左手薬指に嵌めるのは、白銀に金蓮花を意匠した指環。花婿の左手薬指を甘く噛み、そこにアンジュが対の指環を嵌める。
「アンジュ、あなたを愛してる。――永遠に」
「貴方を愛しています、ハルネスさん。――永遠に」
 永遠を誓い合う唇を重ね、共に涯てを越えていく誓いを結んだ。

 ――ふたりでひとつだから、寂しくないよ。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2015/09/15
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