ステータス画面

僕の白い子犬

<オープニング>

(「うん、誰にも見られていない……大丈夫」)
 何度も振り返りながら、少年は道を急ぐ。
 その手には、全部食べずに取っておいた自分のパンと、水の入った小瓶。
 大事そうに抱えて、きょろきょろとしきりに周囲を気にしながら地下街の奥へ。
 薄暗い建物の階段を降り切り、辿り着くとホッと安堵の息を吐いてしゃがむ。
「おまたせ、出ておいで……」
 地下飲食店の裏手になっているそこは、樽や木箱がずらりと並んでいる。
 その隙間から、白い毛に覆われた子犬が姿を現した。キャン、と鳴いて少年に擦り寄って行く。少年は嬉しそうに子犬を撫でて、持ってきた小瓶の水を皿に移す。
 家では飼えないって、言われたから。こうして内緒で食べ物を持って来ているのだ。
「家へ連れて帰れたらいいのにね」
 ペロペロと水を飲む子犬を眺めながら少年は呟く。
 この辺りの地下街は、夜に営業する店がほとんどで、昼間は静かだった。
 少年と子犬がたてる音以外は、聴こえないはずだ。
 ――ゴトリ。
(「……見つかっちゃった?」)
 子犬を隠さなきゃ。そう思って、少年は子犬を背に隠すようにして振り返った。
 だが其処に居たのは、少年を探しに来た親でも、犬の隠し場所にしていた店の人でもなくて。
「え?!」
 牙を剥いた大柄な犬の双眸が、少年の姿を捉える。そして――。

「少年が子犬を隠している場所を探し出して、マスカレイドから守って欲しいのです」
 剣の城塞騎士・フローラ(cn0008)は集まったエンドブレイカーの面々に話を切り出す。
 フローラの見た少年のエンディングは、マスカレイドとなった巨犬に食い殺されてしまうものだ、隠して世話をしていた子犬と共に。
「どうやら、その子犬の親犬が、マスカレイドとなったようなのです」
 まず少年が子犬を隠している場所を見つけ出さなければ、守ることもできないと、フローラは少し眉を下げる。
「子犬の隠し場所なのですが、詳細は解りませんので、少年が餌を持っていく時に尾行してください。朝食後に自分のパンと水を持って出かけるようです。……子犬のことで頭がいっぱいのようですから、余程のことがない限りは上手く尾行できるはずです」
 そして、現地は夕方から賑わう地下の界隈。
 明るいうちに片をつければ騒動にはならないでしょう、とフローラは説明を続ける。
「マスカレイドとなった親犬ですが、通常の犬よりかなり大きくて、……」
 これくらい、と自分の腰ほどの高さがある樽を2つ指し示した。
「しかも2匹の犬を配下として引き連れて来るようです。親犬ほどの能力は持って居ませんが、気をつけて下さい」
 場所は、地下街の倉庫のような場所。
 樽や箱が隅に寄せられているが、広さは充分あるようだ。
「少年には、マスカレイドは唯の大柄な恐ろしい犬にしか見えません、が……あまり見せたい場面ではありませんね。子犬を守ろうとしているから、上手い具合に現場から離れさせることが出来ると良いのですが」
 フローラは思案げに言葉を切ると、改めて一同を見渡した。
 倒した後に残るだろう遺体も唯の犬のもの。それでも、その界隈で店を出している人間には気持ちの良い物ではないだろう。
「少年と子犬を助けてマスカレイドを倒したら、速やかに撤退――ね」
 大丈夫、きっと上手く助け出せるわ、とフローラは見送った。


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参加者
大剣の群竜士・クレアルナ(c00578)
トンファーの魔法剣士・アマネ(c00714)
ソードハープのデモニスタ・オリアッシェンナ(c01144)
トンファーのスカイランナー・リクト(c02517)
太刀の魔法剣士・クリュウ(c02651)
杖の星霊術士・ルミナ(c02670)
扇の魔曲使い・シアリズ(c02856)
太刀の狩猟者・フェイ(c03258)

<リプレイ>

●小さな白い子犬
 子犬に食事を運ぶ少年の後を追って、繁華街の地下へと向かった一行。
 僅かに距離を置いて尾行するエンドブレイカー達に、少年は気付かない。
 現地に近付くにつれ少年の歩調が早まる。
 気付かれない程度の間隔を保ちながらついていく先頭は、大剣の群竜士・クレアルナ(c00578)。メイドらしく清潔なエプロンをつけているが、ポケットが妙に膨らんでいた。
 地下への階段を下りていくと、次第に薄暗くなっていく。一応明かりがなくとも降りる事はできるようだ。
「子犬は可愛いですよねぇ……」
 周囲の状態を確認をしながら、トンファーの魔法剣士・アマネ(c00714)が小さく呟く。余分に持ってきていたランタンをひとつ、杖の星霊術士・ルミナ(c02670)へ手渡した。前に出て戦うアマネが持つよりは、後方で支援するルミナが持つのが良いだろう。こくりと小さく頷いたルミナは、スピカと同じ姿のぬいぐるみを大事に抱きしめて少年の様子を見守る。
 階段を降り終えた少年は、まっしぐらに木箱の積まれた奥へと向かった。
 その後姿を見ると、太刀の狩猟者・フェイ(c03258)は持ってきたランタンを傍に居る扇の魔曲使い・シアリズ(c02856)に渡して、いつでも飛び出せるように構えた。ランタンには明かりが洩れぬようシェードが落とされている。
 内気なシアリズはつい同じ旅団のフェイを頼りがちだが、今回は少年を逃がす役に名乗り出ていた。少年も子犬も絶対に守りたいからだ。
「シロ、シロ……」
 子犬を呼ぶ少年の潜めた声が聞こえる。
 あの少年が子犬を呼び出したら、この場を離れさせねばならない。
 トトトトッ……木の床を踏む小さな足音がして、キャン、と鳴き声が響いた。
 現れた子犬が元気に尻尾を振って少年に飛びつく。
 ソードハープのデモニスタ・オリアッシェンナ(c01144)は、持っていたランタンを階段傍の木箱の上に置いた。階段から少年を逃がすならば、足元は明るい方が良い。
 シアリズが階段の物陰から出て少年と子犬の方へ近付く。あらかじめ前方に出ておこうと思った太刀の魔法剣士・クリュウ(c02651)も共に進み出る。
 突然現れた2人に、驚いた顔の少年は抱いている子犬を腕の中に隠そうとする。そしてシアリズが少年に声をかけようとした、その時。
 ゴトリと物音がして反対側にあった木箱がひとつ倒れた。
 シアリズがランタンのシェードを外すと、仄かな光源が広がっていく。
 明かりに浮かび上がったのは三匹の犬、そのうち一匹は特に大きく、右目に奇妙な仮面がついている。

●少年の救助
 犬たちが少年とシアリズ達を狙って駆け出した。
 前方にいるクリュウが太刀に手を添えて身構える。だが犬の数は三匹。まずは配下らしき二匹が素早く先陣を切る。
「いやあああああああっ!」
 ガッ、と鈍い音をたて飛び掛る犬の一匹を太刀の鞘で防いだのは、フェイ。箱を踏み台にして飛び込み、犬と少年の間に割って入った。
 犬の一撃を受けたフェイの腕にズキリと痛みが走るが、ふわりと跳んできた青い星霊がペロペロ舐めて癒した。ルミナの召喚したスピカだ。
 その隣ではもう一匹の配下犬が、クリュウの抜き打ちに弾かれて甲高い鳴き声をあげる。
 続いて大きな親犬マスカレイドが、少年とシアリズに駆け寄った。
 シアリズは咄嗟に少年を後ろに庇い、守ろうとする。
 彼女に噛み付こうと口を開いた親犬だが、寸前で別方向からトンファーの連続攻撃を受けて動きを止めた。
 マスカレイドの仮面で隠れていない左目が、ぎろりと睨む。
「あの子の事を覚えてないの!? ……お願いだよ、目を覚まして!」
 親犬にトンファーブロウを放ったのは、トンファーのスカイランナー・リクト(c02517)。
 リクトは必死で親犬を元に戻そうと話しかける。だが仮面をつけた犬の表情は変わらない。
 すかさずオリアッシェンナが黒炎を放ち、フェイを攻撃した犬を怯ませた。その隙に駆け込んだクレアルナとアマネが一匹を受け持つ形で対峙する。
 シアリズは少年の腕を取ると、階段の方へ誘導すべく手を引く。
「お腹空いてませんか? これをどうぞ!」
 そこへクレアルナが、サッ!と少年にサンドイッチを渡した。さすがメイドである。自分の朝食を子犬に分け与えている少年が、お腹を空かせているだろうと用意してきたものだ。
 その間にもアマネがトンファーコンボを一発、配下犬に打ち込む。
 アマネは少し困った顔をしながらも、しっかりとトンファーで犬を殴っている。
 子犬を抱えた少年はサンドイッチを受け取り、戸惑った顔をしていた。
「――走れ!」
 出口を指差して叫ぶフェイの声に、シアリズが少年の腕を引いて駆け出した。
「ここは危ないよ。子犬をしっかり抱いてわたしについて来て」
 階段の下に辿り着くと、少年の背中を押して昇らせる。
「戻ってきちゃダメだよ。その子犬には君しかいないんだから守ってあげてね。絶対に離さないで」
 不安そうな顔をした少年はシアリズを見つめ、力強く頷いた。そして、あとは振り返らずに階段を駆け上っていく。
 その階段を塞ぐようにルミナとオリアッシェンナが位置を取り、立ち去る少年を見送る。

●マスカレイドの犬
 少年と子犬は無事に逃げ出した。あとはマスカレイドを倒すのみだ。
 大柄な親犬マスカレイドは、配下犬よりも若干動きが遅い。しかしその分体力がありそうだ、リクトのトンファーブロウを受けても平然と立ち上がって飛び掛ってくる。
 まずは一匹ずつ配下の数を減らそうと、オリアッシェンナのデモンフレイムとルミナのマジックミサイルが援護する。黒炎と魔法の矢が命中して鳴き声を上げた配下犬に、立て続けにアマネのトンファーキック、クレアルナの正拳突きが決まった。
 集中攻撃された配下犬は、鳴き声をあげて床に倒れ動かなくなる。
 見た目に反して豪腕らしいクレアルナは、突き出した拳を戻すと、もう一匹いる配下犬に身構えた。
「あら、終わりですか?」
 トンファーをくるりと回して持ち替えたアマネも、スカートを翻して向き直る。
 もう一匹の配下犬は、クリュウとフェイが抑えていた。
 素早く飛び掛ってくる犬を、2人の太刀の水平切りと袈裟切りで徐々に追い詰めている。
 そこへアマネとクレアルナが加わって4人で取り囲む。
 囲まれて逃げ場を無くした配下犬が、包囲を突破しようとクリュウに飛び掛る。
「キミが居なくなったらあの子は寂しい想いをするんだよ。仮面の力なんかに負けちゃ駄目だ!」
 親犬マスカレイドをひきつけながら、まだ説得しようとするリクトの声が響く。
 しかし既にマスカレイド化してしまった親犬が、リクトの声に反応することはない。
 大きな親犬がリクトへと飛び掛って、腕に噛み付いた。酷い痛みにリクトの足元がよろめく。
 親犬の抑えを交代すべきかと、フェイが視線を外した瞬間、配下犬が彼に狙いを変える。
「フェイさん!」
 クリュウの太刀が一閃。既に手負いだった配下犬にフィニッシュを与える。
 二匹目の配下犬もドサリと床に倒れて動かなくなった。
 そうしている間にも親犬マスカレイドは、唸り声をあげながらリクトへと迫っていく。
 フェイが間に入ろうとするが、間に合うか如何か。
 床を蹴って飛び掛ろうとした親犬マスカレイドが、ふと唐突に停止した。
 ――歌声が聞こえる。

●仮面は語らない
 マスカレイドの動きを止めたのは、シアリズが歌う、誘惑魔曲だ。
 控えめな声量の、だが確りとした旋律はマスカレイドの防御を忘れさせている。
「スーちゃん……おねがい……」
 ルミナの杖から飛び出した青い光、つぶらな瞳の星霊スピカはまっすぐにリクトへと跳んでいく。
 噛まれた腕の痛みに膝をついていたリクトをスピカが癒す、その間にフェイとクレアルナが親犬の前方に立ち塞がった。両脇はクリュウとアマネが囲み、マスカレイドを包囲する形となる。
「ありがとう、ルミナさん。……スーちゃん」
 スピカに癒された腕、トンファーをグッと握りしめてリクトは立ち上がった。
「……ちびわんこさんにとっては親なのでしょうけど、マスカレイドですから」
 ゆっくりとした抑揚のない声で言ったのは、オリアッシェンナだった。
 その言葉に一瞬哀しげな顔をしたリクトだが、すぐに真剣な眼差しで頷いてトンファーを構え直す。
 そうだ、マスカレイドの滅びを阻止できるのは、エンドブレイカーだけなのだ。
 オリアッシェンナが放つ黒炎がマスカレイドの身体を焦がす。その痛みと怒りに吠えた親犬が、クレアルナに飛び掛った。その攻撃を受けながらクレアルナは肘打ちを放って、着実にダメージを与えていく。
 続けて側面から、箱を踏み台に飛び上がったリクトのスカイキャリバーが強かに親犬の胴体を叩いた。鈍い手応えを感じながら、リクトはごめんねと小さく呟く。
 マスカレイドはふらりと立ち上がると、斜めに肩を落とした姿勢でリクトへ唸り声を上げて近付いていく。片足を引き摺る様な動きだ。かなりダメージを負ったように見えるマスカレイドへ、アマネがトンファーブロウ、クリュウが水平切りを左右から叩き込み、攻めの手を緩めない。
 それでもまだリクトに噛み付こうとする親犬マスカレイドの身体を、青白い一閃が切り裂いた。
 居合い斬りで仕留めたのは、フェイだ。抜き放った太刀を左手に握ったままで、マスカレイドの重い身体が床に倒れるのを見下ろした。
 右目の仮面がひび割れ、粉々に砕けていく。
「終わりましたか……このマスカレイド、親犬なんですよね。何でマスカレイドになったんでしょう?」
 仮面を失うと、急速に収縮していくマスカレイドの遺体を眺めながら、クリュウがぽつりと零した。
 マスカレイド化していた親犬の遺体は、元の姿――唯の犬の遺体となる。
 その身体はほっそりと痩せていて何日も食べていないような姿だった。
 フェイは、倉庫の中を見渡した。樽や木箱が倒れて、床には犬の血がこびり付いている。
 親犬の遺体に視線を戻すと、暫し黙祷してからフードを被り直した。
「行こう、人が来る前に」
 その声に、仲間たちは頷く。
 ぬいぐるみのスーちゃんを抱きしめたルミナは、小さく手を振ってさようならをすると階段を上りはじめる。
 遺体の細すぎる姿に目を伏せていたクリュウが、踵を返して後に続いた。それぞれ、親犬の遺体に祈りを捧げて来た道を戻っていく。
「……ごめんね」
 最後まで手を合わせて祈っていたリクトが、親犬の遺体を離れて階段へと向かった。
 誰も居なくなった其処に残された犬の遺体は、……痩せ細って血塗れで、見るも無残な姿だったが、何故か不思議と穏やかな気配にも感じられた。
 エンドブレイカーたちは確実に、ひとつの不幸なエンディングを阻止したのだ。



マスター:藤宮忍 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2010/03/09
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