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【エルフヘイムとレジスタンス】遭遇と選択

これまでの話

<オープニング>

 ――ハーフエルフ狩り。
 あの住居から引き立てられた数名のエルフが、『ハーフエルフ』で。
 無理矢理連行しようとしているのが、『政府の騎士』だと。一体これは、どういう状況なのか。
 ユーフェリアは、ついさっきまで和やかに会話していたエルフに質問する。
 複雑な表情で見守っていたエルフの女性は、ユーフェリアの問いに静かに首を振った。
「仕方がないのよ。災いをもたらす種族なのだから……」
 可哀想だけど仕方が無いことだ。そんな雰囲気で、広場の方を見ている。
 他のエルフたちも、ほぼ同様で、助けに行こうとする者や文句を言う者は誰一人居なかった。
「仕方がない……?」
 どうして。ハーフエルフだから、災いを齎すのか?
 納得できずに、ヴェロニカは密かに拳を握りしめる。理不尽だと、感じる。
「政府直属の騎士団なんだよ。逆らってはいけないんだ」
 別のエルフ男性が、何も知らないであろう旅人への親切心で、エンドブレイカー達に囁いた。
 まだ、エルフヘイムに辿り着いたばかりだ。
(「俺たちの目的は、レジスタンスの情報を得ること……」)
 テオバルトは逡巡する。ここでエルフヘイム政府といざこざを起こすわけにはいかない。まだ、何の情報も手に入れていないのだ。
 
 エンドブレイカー達が、どうすべきか迷っている間にも、騎士団は広場にハーフエルフを捕縛したまま、周囲の住居に他のハーフエルフが隠れて居ないかと捜索を続けていた。
 いくつかの住居に入っては「居ないようだ」と出て来る。
 そして、他には居ないだろうと判断した後、最初に引き立てた広場のハーフエルフ達を連行して、この町から出立しようとした。ハーフエルフ達の悲鳴は、嗚咽まじりの泣き声に変わっていく。
「行くぞ、静かにしろ」
 ちょうどその時だ、町の広場に駆け寄って行く幾つかの人影が視界に入ったのは。
「待て! その子達を放せ」
 眉間に皺で状況を見守っていたイジェは、「おや?」という表情になる。
 エルフの子供がパルシェレートに、そっと囁く。
(「あのひとたち、レジスタンスなんだよ……」)
 颯爽と広場に現れたエルフは、全部で6人。それぞれが、一般庶民と大差ない格好や冒険者風の装備をしていて、しかもどうやら買い出しの途中だったのか、雑貨品の入った籠を下げている者も居る。一応、武器は持っているようだが。
(「レジスタンス……?」)
「その子たちを、殺させはしないっ!」
 格好良くキッパリ宣言して、騎士団を指差すレジスタンスらしきエルフだが、持っているのは買い物籠。偶然見かけてしまって、ついうっかり飛び出してしまいました、という空気が漂っていた。
 騎士団は12人居て、捕縛したハーフエルフ達を後ろへ押し遣り、現れたエルフ達と対峙する。
 レイチェルがちらりとエルフの町人を見れば、先程親切心から忠告してくれたエルフの男性が、こめかみを押さえてへの字口になっていた。何故出てきたんだ、バカだなぁ……と顔に書いてある気がするほど、判り易い表情だ。
 騎士団のひとりが、重々しく口を開いた。
「……ハーフエルフは災いをもたらす者。これは、仕方の無いこと。判っているだろう?」
 また別の騎士団員が、言葉を続ける。
「いま、ここには誰も来なかった。我々は何も見てない聞いていない。そういうことだから、早急にこの場を去ると良い」
 ――無かった事にする。騎士団の意外な申し出に、グラディウスは少し驚いた。騎士団は彼らを見逃すと言っているが、レジスタンスはどう出るのか……。
「おい待て、ここまで来て引き下がれるかよ! ……行くぜッ!」
 レジスタンスのエルフは、籠を置いて、腰のレイピアを抜いた。
 見守っていたエルフの男性が、深い溜息を吐く。止めときゃ良いのに、と呟いて。
 しかし周囲の思惑とは相反して、レジスタンスは騎士団に攻撃を仕掛けるのだった。
 
 エルフヘイムの騎士と、レジスタンスのエルフ達。そして、捕らわれたハーフエルフの子供達。
 この町の住民であるエルフ達は、見守るだけで動く気配は無い。そんな状況を見ながら、エンドブレイカー達は決断を迫られていた。
 選ばねばならない。今、ここで、どうするのかを。
 キャロルは冷静に状況を見る。騎士は12名、レジスタンスは6名。まともに戦えば、まずレジスタンスに勝ち目はないだろう。技量も騎士の方が若干上に見えるが、自分達エンドブレイカーと比べれば、強敵という程でも無いようだ。
 騎士のうち3名は後ろに下がって、捕えたハーフエルフの子供達を押さえている。

(「これは……レジスタンスと接触する、良い機会かもしれん」)
 仲間にだけ聞こえる声で、グラディウスが言う。
(「でも、エルフヘイム政府と敵対するのは、厄介じゃないかな」)
 ユーフェリアは、困ったように呟いた。
(「町の人たちは、心情的にはレジスタンスの味方みたいなのに、ハーフエルフが捕まるのは仕方がないみたいに考えているのか……」)
 物憂げに瞳を曇らせるヴェロニカ。
(「落ち着こう。ここで俺たちがどう動くか、それが今後エルフヘイムで活動する立場を左右するかもしれない」)
 テオバルトが声を潜めて言うと、一同は顔を見合わせた。
 ――決めなければならない。
(「兎に角、全員が一丸となって動くこと。これが重要だろうね」)
 そう言って、イジェは全員の顔を眺める。
(「ここで戦いに関わるか、それとも関わらないか……或いは別の手段を考えるのか」)
 ラウレスは広場を見つめた。ハーフエルフ達も、いまは静かに様子を窺っているようだ。
(「レジスタンスに味方するのか、しないで情報を集めるのか……または、第三者としてあの子達を助ける為だけに動くという手もあるわね」)
 レイチェルが小声で言った。
(「あの子たちを、たすけてあげたいの……」)
 フリューの言葉は、みんなの心に少なからず在った。
 だが、自分たちの目的は『レジスタンスの情報を得る』ことなのだ。情報さえ得る事が出来れば、手段はどんなものでも構わない。ただしその選択は、エンドブレイカー達の立場を左右するだろう。
 ――次の行動を、選ばねばならない。


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参加者
クローリスに花束を・フリュー(c00601)
寵蜜妓・テオバルト(c00913)
靴紅柳緑・ヴェロニカ(c02508)
暁光の戦剣・レイチェル(c02732)
一刀・グラディウス(c03243)
輝紫の番犬・ラウレス(c06070)
埋火の・イジェ(c08154)
リネージュ・キャロル(c11702)
紫花流紅・ユーフェリア(c11719)
天爛・パルシェレート(c12136)

<リプレイ>

 目前で始まった政府騎士とレジスタンスの戦闘。
 今、自分は何をすべきか――エンドブレイカー達は逡巡する。
 迷っている暇はない、レジスタンスのレイピアが騎士の剣と打ち合い、他のメンバーも戦い始めた。
 もはや引き下がる事もできず、修練された騎士の攻撃を受け、徐々に押されゆくレジスタンス……。
 暁光の戦剣・レイチェル(c02732)は今にも飛び出したい衝動を抑え、旅人を装って民衆のエルフに小声で問いかける。
「あの人達はどうして騎士と敵対しているの?」
「戒律を破ろうとしているからだよ」
 答えたエルフ男性は素っ気無く、小さく溜息をついた。レイチェルはもう1つ訊ねる。
「災い……って、どういう事?」
「戒律を破ると災いがあるんだ。……誰も証明したヒトは居ないけどね」
 紫花流紅・ユーフェリア(c11719)は、傍にいたエルフの女性にレジスタンスがどんな人たちなのかと尋ねたが、「今あなた達が見ている通りよ」と僅かに眉を下げて笑って、それから対立する広場へと視線を戻して、不安げに見守っている。
「……ごめんよ、素敵な街、ちょいと荒らさせてもらうことになるかもしれない。勘弁しておくれ」
 埋火の・イジェ(c08154)が小声で呟いた言葉は民衆のざわめきに紛れ、傍のエルフが「え?」と聞き返した時には、ぽっちゃりとした旅人は広場へ飛び出していた。

●『選択』
 イジェは嘆息すると、派手にハープをかき鳴らす。その場の緊迫した空気に不釣合いな明るい旋律が、騎士とレジスタンス双方の視線を集めた。様子を見るだけだった民衆も、一斉に注目する。
 指先で弦を弾き音を奏でながら、イジェはずかずかと交戦中の広場中央へと踏み込んだ。
「古都に一曲捧げようと長旅越えて来て見れば、こりゃ一体何の騒ぎだい?」
 イジェと共に、靴紅柳緑・ヴェロニカ(c02508)と一刀・グラディウス(c03243)が続いて、騎士とレジスタンスの間に割って入る。
 グラディウスが、騎士の足元にある小石に向けて、気皎弾を一発、牽制として放った。
 竜の弾丸は地を叩いて砂埃を舞い上げ、その隙にレイチェルとユーフェリア、クローリスに花束を・フリュー(c00601)の3人も広場に駆け込んだ。騎士に対峙するイジェたちより後ろの方、レジスタンスのすぐ前に、窮地の彼らを庇うように現れる。
 レジスタンスと剣を交えていた騎士の一人が、武器を弾く音と共に一歩下がり、イジェたちに向き直った。それに倣って他の騎士達も、一時的に動きを止める。
「お待ち下さい。どうやら、エルフヘイムに来てまだ日が浅い旅人とお見受けします。別の都市国家から来られた方には、今回の件が奇異に映るのは当然ですし、義憤にかられての行動も理解できます。が、ここはエルフヘイムです。エルフヘイムの戒律に対して、多少なりとも敬意を払っていただけるのならば、お引き取り願えないでしょうか。戒律への疑問があれば、後日エルフヘイム政府に来て頂ければ、担当の者から説明させて頂きます」
 騎士のなかではリーダーらしい者の言葉は、丁寧だが、内容はこの場を収める為の協力を要請するものだ。
 これに対し、最初にレイピアを抜いたレジスタンスが憤慨した。
「後日じゃ遅いんだよ、その子達は殺されてしまうからな!」
 民衆のざわめきは、ひそひそとした話し声に変わる。
 リネージュ・キャロル(c11702)は、今は動かずに、周囲を様子見する。聴こえてくる民衆の呟きは、「戒律だからな」「仕方ない」「あいつ、何で出たんだよ……」等と諦めの滲むものだ。
「ハーフエルフったって、何が違うってんだい。あたしにゃ見分けがつかないけどねえ?」
 イジェが声を張り上げると、先程の騎士が剣を下ろして一歩前へ進み出る。
「通報があったのだ。紋章を確認したが、間違いない」
 ――紋章。騎士の後ろで捕らわれのハーフエルフが、ビクリと肩を竦ませる。
 民衆の間に再びざわめきが広がった。通報、そう聞いて、ハーフエルフ達が居た家からつまみ出されたエルフが、悔しそうな顔をしていた。
 すっかり広場を囲む人だかりが出来ていて、エルフ達が遠巻きに見守る。その後ろを、密かに移動する者達が居た。
 寵蜜妓・テオバルト(c00913)が、移動の合間に民衆の背へと囁く。
「レジスタンスはあれで全員?」
「いや、まさか、レジスタンスは大きな組織で、たくさん居る……」
 返事を聞くとすぐに小走りで子供を捕えている騎士の方を目指して動き、また別の民衆の背に囁く。
「ハーフエルフ狩りはいつから?」
「さぁ、ずっとずっと昔からのことだよ。いつからなんて知らないね」
 咄嗟に答えてしまったエルフが振り返れば、そこには誰も居ない。
 輝紫の番犬・ラウレス(c06070)と天爛・パルシェレート(c12136)も、民衆のざわめく声を聞き取りながら、捕らわれのハーフエルフへと密かに近付いていく。

「あんな小さな子をいじめるなんて、可哀想だ!」
 イジェの隣に進み出たヴェロニカが、実際以上に義憤に駆られた様子で、拳を打ち合わせる仕草。
 本音としては、レジスタンスも騙すようなかたちになってしまう事に、若干気が引けている。
 だが、ヴェロニカはそんな気配は微塵も滲ませず、まっすぐに騎士達を見据えた。
「紋章がハーフエルフの証? ではどうしてハーフエルフ達を殺さねばならない?」
 問いを騎士へと向けながらグラディウスが進み出るのは、イジェを挟んでヴェロニカとは反対側。
「ハーフエルフの存在はエルフヘイムを滅ぼす、これは戒律により明らかな事なのだ」
 広場を包むざわめきは続き、民衆の視線を集めている。騎士達も、出来るなら旅人と争うようなことはしたくないと思っているのだろう。レジスタンスを牽制するよう武器は構えたまま、質問にはきっちりと返答してくれるようだ。
 グラディウスは質問を続けた、勿論訊きたい内容でもあるが、問答する事で他の仲間が動く時間を稼ぐ目的でもあった。
「どうしてハーフエルフが災いを起こすと判るんだ?」
「戒律で定められているからだ。……ハーフエルフの存在を放置して、その結果エルフヘイムが滅びれば戒律が正しかったと証明できるが、それを証明する為だけにエルフヘイムを滅ぼす事など、できはしない」
 ゆっくりと説明する騎士の前に、キャロルが進み出る。
「もし災いが本当だとしても、わたくしなら別の方法を選びますわ」
 別の方法、と。騎士が訝しげに首を傾げる。
「どんな理由があれ子供を殺すような法は間違いなく悪法です。予言や災いという言葉に惑わされ、大切な事を忘れ、取るべき道を見失ってはいませんか?」
 騎士たちは、答えない。民衆が声をひそめるなか、騎士のリーダーらしき者が口をひらく。
「それでエルフヘイムが滅びれば、子供だけではない。全てのエルフが……――」
 台詞が途切れると、束の間の静寂。言葉を続けられる者も、返せる者も居ない。

●『撹乱』
 レジスタンス達は状況を眺めながら、少し困ったような様子だ。
 様子を窺いながら、そろりとレジスタンス達へ近付いたユーフェリアが、レイピアを握った侭のエルフに小声で囁いた。
(「静かに聞いてね。これから混乱を起こすから、子供達を連れて逃げよう、ね?」)
 思わず声を上げそうになったレジスタンス員が、慌てて口を閉じる。懸命に無表情を装って、真意を問うような目を向けてきた。
(「事情は飲み込めてないけど、こんな状況は見過ごせないわ。あの子達を助けたいなら信じて」)
 別のレジスタンス員に、レイチェルが囁く。レジスタンス達は驚いた目をして、騎士の後ろに捕らわれているハーフエルフの子供達を見つめた。
 ――あの子達を助けたい、だから。
(「わたしたちも子供たちを助けてあげたいの」)
 フリューが小声で耳打ちすると、レジスタンスのエルフはフリューの顔を見て、小さく肯いた。
 騎士達は、如何にかして旅人と争わずに済ませたいようだ。丁寧に問いに答えながら、グラディウスの返答を待つ。そして、その後ろのレジスタンス達からも目を逸らさない。6名のレジスタンス、旅人を装うエンドブレイカーが6名、対する騎士達は12名だが、そのうち3名がハーフエルフの子供を捕えている状態……一見すると、戦力は五分だろうか。
 相手の出方を窺いつつ前を向くイジェ達の視界には、ハーフエルフを捕えた騎士の姿がある。
 騎士との問答は終わらない。「この場は引いて、後日政府にて」との主張を変えない騎士達と、意見は相容れる筈も無く平行線を辿っている。
 今か今かと仲間の行動を待つその瞳が、白い閃光と土煙を捉えた。

「うわっ……お、お前達は何者だ?!」
 騎士たちの後方、ハーフエルフを捕えていた騎士の足元にある石へ、ラウレスが気咬弾を放った。その光に狼狽えた騎士が、咄嗟に腰の剣を抜く。ハーフエルフへの束縛が緩んだ瞬間、テオバルトが素早く動き、子供を奪取する。
「こんちわ! 何でおにーさん達、子供苛めるんだー?」
 大声を上げてパルシェレートは、青い星霊を騎士へと飛び掛らせる。星霊はじゃれるように騎士のひとりへ飛んで、ぺろぺろと舐めて癒している。
「あ! だめだぞ〜」
 青い星霊、スピカを追いかけるように騎士に纏わりつくパルシェレート。
「な、何だ一体?!」
 そうして騎士達から引き離したハーフエルフの子供を、ラウレスとテオバルトが抱える。
「大丈夫、泣かないで……」
 テオバルトが子供をぎゅっと抱きしめたが、既に泣き止んでいて、今の状況にきょとりと目を瞬きした。先程泣き腫らした目は、まだ少し赤かったけれど。
「どういうことだ、これは……」
 問答していた騎士が振り返れば、既に子供達はエンドブレイカーによって奪われている。慌てて駆け寄ろうとする足元へ、グラディウスの気皎弾が牽制する。
「そちらにも言い分はあるだろうが、見過ごすわけにはいかねぇ」
 子供を追わせはしない。騎士達に、グラディウス、ヴェロニカ、イジェが迫る。
「そこに助けられる子が居るなら、助けてあげないといけないよな」
 パシン、と。ヴェロニカは握った拳を己の掌に打つ。
 パルシェレートが子供の手を引いて騎士から離れる。子供を奪い返そうとする騎士に、テオバルトの放つサンダーボルトが狙い撃ち、腕に痺れを与えた。
「子供達は保護しました……さぁ、今が撤退のチャンスです!」
 ラウレスが声高に叫ぶと、うっかり眺めるだけになっていたレジスタンス達が我に返った。
 周囲の民衆は、皆この状況を食い入るように見守っている。
「ほら、何をぼんやりしているんだい。とっとと逃げるよ……どこに行きゃ良いんだい?」
 イジェが急き立てると、レジスタンス達が目を輝かせた。
「判った、案内しよう!」
 レイピアを持っていたエルフが頷くと、買い物籠をしっかりと拾って広場を抜け出そうとする。駆け出すレジスタンス、エンドブレイカー達がそれに続こうとして、若い騎士から静止の声が上った。
「待てッ!」
 行かせはしない、と。剣で斬りかかってくる若い騎士に、レイチェルが大剣で応じる。
「本当はこんな事したくないんだけど、ごめんなさい!」
 剣戟の音を甲高く響かせ、足元を狙って不意打ちで蹴り入れる。他の騎士達が、わっと剣を構えて向かってくるが、そうこうしているうちに、
「お騒がせしましたー! それじゃっ!」
 まるで悪戯っ子なノリのパルシェレートの、わざとらしい叫び声が届いた。騎士達が慌てて辺りを見渡せば、ハーフエルフを連れたパルシェレート達とレジスタンスが、既に民衆の輪を潜り抜けて居なくなっている。
 この場に残ったのは、旅人を装う数名のエンドブレイカーのみ。
「お前達は、エルフヘイムを滅ぼすつもりなのか!」
 若い騎士が叫んだ。元々色白かった肌が、些か青ざめているようにも見える。既に抜き身だった剣を構えなおして、エンドブレイカー達と対峙する。じりじりと、間合いを狭める。
「せめて、お前達だけでも倒す」
 既に周囲が見えて無さそうな雰囲気だ。エンドブレイカー達は、致し方なく身構える。
「待て、……もういい」
 血気盛んな騎士の目の前、白い甲冑の腕が制するようにスッと伸びた。若い騎士は驚いた顔で、自分を止めるリーダーの方を向いた。
「だが、ハーフエルフが……っ」
「我々の目的を見失うな。我々の目的は、エルフヘイムを守ることだ。旅人と戦う事がエルフヘイムを守ることになるのか」
 抑揚の無い低い声は、しんと静まり返った広場に良く通る。
 納得できない表情の若い騎士は、悔しそうにエンドブレイカー達を睨みながら、剣を握る腕を力無く垂らした。
「それなりに話がわかるようだ、あたしらも戦いたいわけじゃないからね、引かせて貰うよ」

●『潜入』
 広場を抜けた一行は、先に逃げたラウレスやハーフエルフの子供達、レジスタンスらと合流する。そして、ひとまずは子供達を連れて、レジスタンスの隠れ家へと向かう事になった。
「酷い話もあったもんだなあ、いつからこんなことに?」
 ヴェロニカは、先頭を歩くエルフの青年に水を向けようと声をかける。
「ハーフエルフ狩りの事なら、ずっとずっと前から、昔から」
 レイピアを腰に下げたエルフが答える。民衆の視線を振り切り、路地裏へと入り、何度か角を曲がって進んだ先は行き止まり。エルフは仲間に籠を預けてしゃがむと、地下へ続く扉を開いた。
「こっちだ、さあ行こう」
 地下道を抜けて、また暫く進むと今度は上に向かった。そうして漸く辿り着いたのが、都市内部にあるレジスタンスの隠れ家のひとつ、らしい。入口ではなく地下から入ってきたが、内装はこぢんまりとした普通の民家のようだ。
 今はこの隠れ家には、案内してくれた者達以外のレジスタンスは居ない。
「さて、まずはお礼を。助けてくれて有り難うございました」
 レジスタンスのエルフがエンドブレイカーに感謝を告げる。
「随分と穏やかではない状況みたいですな。こう見えても多少は腕にも覚えがあるし、困ってるなら力になれん事もないと思うがどうだろうか」
 グラディウスが申し出ると、レジスタンス達は暫し顔を見合わせていた。
「あなた方は旅人でしたね。子供達を助けたいと考える志も、先程のように機転が利く動きも、僕らにとっては有難いものだ」
 歓迎したい。だが、最終的な決断は、自分たち一部のレジスタンスだけではできないのだと、レジスタンス達は話す。エンドブレイカーがそれぞれ名乗ると、最初にレイピアを抜いたエルフがレンと名乗り、仲間を紹介した。ここに居る6名は皆若く、下っ端のようだ。
「本当に助かりました。僕たちは買い出しに来てただけで、勝算も無いのにコイツが飛び出すから」
「だって見過ごせないだろう、目の前でハーフエルフ狩りが……ッ」
 レジスタンスの仲間が、レンを軽く小突いた。
 連れてきたハーフエルフの子供達が、『ハーフエルフ狩り』と聞いて微かに震えたからだ。
「ごめん……、だいじょうぶかい?」
 コクリと頷いたハーフエルフの子供が、抱えて逃げてくれたラウレスを見上げる。
「あの、ありがとうお兄さん」
 おずおずとお礼を言う子供の様子に、ラウレスは目許を緩めて優しく頭を撫でた。
「怪我はありませんか? 疲れていませんか?」
 ハーフエルフの子供は首を振って、それから安堵の息を吐く。
「うん、ちょっと疲れたけれど、平気」
「怖かっただろう、もう大丈夫だよ」
 優しい口調でユーフェリアが話しかけると、子供はありがとうと小さく頷いた。
 騎士との戦闘で軽く負傷したレジスタンス員は、フリューの杖とパルシェレートのスピカが癒している。青い星霊の姿に、少し笑顔を取り戻した子供達に、ふとラウレスが訊ねる。
「きみたちの御両親は?」
 両親のことを聞かれると、子供はまた俯く。肩を震わせながら小さな声が答える。
「お父さんとお母さん、死んじゃったの……すごく愛し合っていたの……わたしのことも、大好きって言ってくれたの。でも……」
 死んでしまったの、と。呟く掠れた声は今にも泣き出しそうだ。
 親を亡くして残された子供、そして、ハーフエルフは殺さねばならないという戒律……。
「皆、ハーフエルフだから仕方ないって姿勢だった。あなた達はどうして彼らを助けようとしているの?」
 レイチェルの問いに、レンが彼女をまっすぐに見る。
「戒律だからという理由で、命を奪って良い筈は無い。戒律よりも大切なものがある筈なんだ!」
 息巻いて答えるレンに、続けてフリューが問いかける。
「政府に対しては、どう思っているの?」
「戒律では、ハーフエルフがエルフヘイムを滅ぼすといわれているが、そんな事があるわけがない。戒律を守るなんて理由で、罪も無いハーフエルフを殺すなんて許される筈、無いじゃないか」
 レンが答える言葉を聞いて、子供達は俯いている。そんな子供達をテオバルトが引き寄せ、耳を塞ぐように抱きしめた。テオバルトはレンを見て訊ねる。
「レジスタンスには、指導者はいるのか?」
「ああ、居るよ。クライブさんがレジスタンスをまとめているリーダーだ。……これから、外にある拠点に行かなきゃならないけれど」
 子供達も連れて行かねば、と呟き、エンドブレイカー達の表情を窺うレン。
「皆さんが良かったら、一度クライブさんと会って話をして貰えないだろうか?」
 この申し出にエンドブレイカー達は、二つ返事で快諾した。

●『邂逅』
 夜の闇に紛れ、都市の中にある隠れ家から、都市外縁部へと移動する一行。
 移動には猛獣が居る森を通らねばならなかったが、レジスタンスの案内ですんなりと通り抜ける。
「クライブさんが、猛獣を避けて出入りできるルートを調べてくれているんだ」
「大事な道、あたしらみたいな旅人に知られちまって平気かい?」
 イジェの問いに、レンは首を振った。
 レジスタンス達の話によれば、猛獣と遭遇しない安全な道は常に変動しているのだという。その事が、ひいてはレジスタンスの拠点を守ることにも繋がっているのだろう。
 子供達を気遣いながら、エンドブレイカーはレジスタンスの案内で、彼らの拠点へと辿り着いた。
「ここが、拠点なの……」
 フリューが呟き、周囲の様子を見渡せば、一見すると唯の辺境の村のようなレジスタンスの拠点。
「意外と広いんだな」
 ヴェロニカが思わず口にした通り、村には数百人程度は住んでいそうだ。幾つも住居があるが、夜の為か出歩いているエルフの姿はそう多くは無い。
 一行は最初にひとつの住居を訪れ、そこにいたエルフに、助けたハーフエルフの子供達を預けた。その住居には先に子供がひとり居たようで、嬉しそうに出迎えてくれた。
 ここでは、こんな風に助けたハーフエルフたちが暮らしているのだろう。
 そうして子供達と別れた後、一行はレジスタンスのリーダーであるクライブの元へと案内された。

「こんばんは、旅人の皆さん。初めまして、僕がクライブです」
 通された部屋で迎えてくれたクライブは、外見は二十歳前後の若いエルフの青年だった。
 リーダーという立場にしては若い感じもする。
 エルフらしい尖った長い耳の、片方に下がる青い羽飾りが印象的だ。クライブは指先でかけている丸眼鏡を押し上げると、エンドブレイカー達に椅子を勧める。
「レン達がお世話になったそうだね、ありがとう」
 穏やかに礼を告げるクライブ。部屋の隅に控えていたレジスタンス達が、彼らのお蔭で助かったのだと口々に言った。
 エンドブレイカー達は改めて名乗り、ここまでの経緯をかいつまんで話した。
「そう、……政府によるハーフエルフ狩りが、最近、厳しくなっているようだから」
 クライブは、少し考えるような表情で青い目を細める。
「ハーフエルフ狩りとは、一体どういうことでしょうか……」
 ラウレスの言葉に、「エルフヘイムの戒律なのだ」とクライブは答える。ハーフエルフの生存を許さないのは戒律であり、ずっと昔から続いてきたことだ、今に始まったことではなく、エルフヘイムに住むエルフであれば誰しも判っている事なのだと話す。
「それでも、戒律よりも命を大事に思うからこそ、こうして活動されているのでしょう。これから、政府に対抗するため、どうするおつもりなのですか?」
 丁寧に言葉を紡ぐラウレスに、クライブが頷いた。
「そうです、我々はこれからも、自分達の手の届く範囲で、不幸なハーフエルフやダークエルフを救う活動を続けます。決して、政府を転覆させるような行いは望んでいません」
 自らの行いに誇りを持っていることは、クライブの声音や瞳から伝わってくる。共に話を聞いていたレジスタンス達が、同意して大きく頷いていた。
「戒律よりも目の前の人命……だねぇ」
 イジェはしみじみと呼気を吐き、頷いた。
 黙って聞いていたキャロルが、口をひらく。
「未来を読み取る力を持った人間がいる、そう言ったら、あなたは信じますか?」
 唐突な言葉に、クライブは少し首を傾げた。キャロルが話を続ける。
「では終焉を終わらせる力を持つ者達をご存知ですか?」
「それって確か、予言者の言葉でしたっけ」
 クライブは思い出したようにポンと手を打つ。
「そんな方がいれば、ハーフエルフがエルフヘイムを滅ぼすようなことになっても、助けて貰えるでしょうね。勿論、ハーフエルフがエルフヘイムを滅ぼすなんてことはありませんから、終焉を終わらせる力を持つ者達の出番も、無いと思いますよ」
 面白そうに笑って答えるクライブの様子からは、予言に関してはまるで信じていないのだということが判る。今此処でエンドブレイカーについて話しても、理解してもらうのは無理だろう。
 話が一区切りすると、ユーフェリアは仲間達を見渡した。それからクライブを真摯に見つめる。
「幼気な子供達を連れ去って殺すなんて、ひどい話だ。何か俺たちに手伝えることはないかな?」
 その言葉に合わせるようにパルシェレートが、「パルたちも参加したいんだぞ〜!」と声を上げる。
 エンドブレイカー達は、一様に頷いて同意を示した。
「ありがとう。皆さんのような旅人の方達が協力してくれるなんて、心強く思います。皆さんの力があれば、これまで以上に多くのハーフエルフやダークエルフを救うことが出来ます」
 クライブは、エンドブレイカー達の顔を順に見ていく。彼の瞳は、協力者の出現に新たな希望を見出していた。



マスター:藤宮忍 紹介ページ
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