ステータス画面

許されぬのなら、いっそこの手で。

<オープニング>

 ぽたん、と天井から落ちた水滴に、少女は身を震わせてあたりを伺った。
 エルフヘイムの一角。小さな集落の近くに出来た自然洞窟に、彼女は居た。掲げたカンテラの先に見つけたい物は見当たらず、少女は自分の人差し指へ視線を落とす。
 何もはめられていない、自分の指。大切な人から貰った、何よりも失いたくなかったものが、今はここにない。優しい婚約者の表情を思い浮かべた少女は、自分のふがいなさに唇をかみ締める。
「エミル。一人で探しに来たのかい? 危ないって言っただろう」
 聴こえてきた声に、少女は驚いて振り向いた。
 視線の先で、見慣れた顔が微笑んでいる。
「ジーナ!」
「明日、僕と一緒に探すって約束だっただろう?」
「だって、早く見つけたかったんだもの……」
「バカだなあ、エミルは」
 ジーナと呼ばれた男は、少女――エミルを見つめて大きく口に弧を描く。
 そうして、自分の胸ポケットを指差した。
「君の指輪なら、ここにあるのに」
「――え?」
 戸惑いの言葉を口にすると同時に、エミルは一筋の光を見た。一瞬の間をおいて、辺りに赤い液体が弾ける。違和感を感じる腹部に手を当てれば、ぬるりとした生暖かい何かが指に絡みつく。
 視界の端で――自分を斬った親友を捉える。
 何故。
 どうして。
 湧き出る言葉を唇だけがなぞり――声にならぬ吐息を残して、倒れこむ。
「本当は、もっと早くにこうしていれば良かったんだ。そうすれば、君はずっと僕だけを見ていたのに」
 独白のように紡がれる言葉が、刃と共に地に伏せた少女に突き刺さる。
「でも、これで君は僕だけのものだ。一緒に逃げよう。君の肉が落ちて、骨になっても――僕はもう、離さない」
 洞窟を通り抜ける風が、ジーナの首筋に浮かぶ文様を暴き――カンテラの光は歪んだ笑みを浮かべる仮面を照らし出していた。

 一通り事件の概要を語った竪琴の魔曲使い・ミラ(cn0007)は、悲しげに瞳を伏せて唇を開く。
「これが、今、分かっている二人のエンディングです」
 睫を小さく振るわせたまま、ミラは事件の発端について語り始めた。
 同じ年に生まれ、まるで双子のように育ってきた二人。当たり前のようにエミルに惹かれたジーナは、その思いを遂げる事が出来なかった。
「二人の間には、エルフヘイムの『戒律』という壁がありました。婚姻を結ぶことが出来ない事を知ったジーナさんは、エミルさんのパートナーとなることを選んだそうです」
 結ばれる事が無くても、共に居られればいい――そんな、ジーナのささやかな願いは、突如エミルの前に現れた一人の男によってあっけなく崩壊した。
 目の前で、愛した人が自分とは違う男に心を許していく。見守る事しか出来ないジーナの気持ちを知る由もなく、エミルは男を愛した。そうして、結婚の約束を交わす事になる。
「押さえていた気持ちがソーンに寄生され、堪えられなくなったのですね……」
 ミラは悲しげな表情のまま、エンドブレイカー達に瞳を向けた。
「普段のジーナさんは、優しい好青年にしか見えません。人目を避けて彼を止めるには、犯行を行うために洞窟へやってきた時しかありません。
 また、マスカレイド化したジーナさんは、コウモリのマスカレイドを呼び出すそうです。力や体力はあまりありませんが、数が多いのと――牙での攻撃で血を奪われる可能性があります」
 ジーナの攻撃は腰に下げた剣と、呼び出したコウモリによるものになるだろう。
 また、戦闘開始時にはエミルが近くに居る状況になるため、彼女をどう救うのかも考える必要がある。
「既にマスカレイドとなってしまったジーナさんを助けることは、できません。ですが、彼に殺されてしまうエミルさんの未来を変えることは、できるはずです」
 既に動き出してしまった運命を変えることは、できない。それでも、『最悪』を回避するために。
「辛い仕事になるかもしれません。それでも……お願いします」
 切なく震える声で、ミラはそう締めくくった。


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参加者
冴夜の凍て星・ネウ(c00171)
ヴァニタスの慟哭・レジェス(c00824)
無精者・ラグランジュ(c02051)
白狼紅盾・ライナス(c03263)
ペルソーナの翠・フォン(c03598)
トンファーの・チョウ(c04741)
デモニック・ルーシルベルト(c06023)
爪のデモニスタ・ラスタ(c08026)

<リプレイ>

●接触は暗闇の中で
 少女――エミルはカンテラの明かりを頼りに、暗い洞窟の中を歩んでいた。
 探しているものは、未だ見つからない。焦燥感を抱えながら、暗い闇を覗き込む。
「あれは?」
 視界の先に、人影が見えた。
 白いワイシャツに身を包み、深くキャスケット帽を被る小柄な少年。辺りを伺っていた彼は、エミルの姿を見つけると駆け寄ってくる。
「僕の黒猫、この中に逃げちゃったんだけど、君見てない?」
 少女のような高い声に誘われるように、エミルは身を屈め、カンテラを掲げる。同時に、謝るような小さな声と共に――闇に飲み込まれるように、辺り一面が消えていった。

「エミルさん、申し訳ありません。全てが終わるまで、眠っていてください、ね」
 黒縁眼鏡の奥から倒れたエミルを見つめ、少年――のように振舞っていた冴夜の凍て星・ネウ(c00171)が小さく呟く。足元に転がる少女は何が起こったかもわからぬ顔で、静かに眠っていた。
 岩陰から現れた蓄えた髭を撫でながら無精者・ラグランジュ(c02051)が歩み寄る。マントの奥から腕を伸ばし、彼はエミルを優しく掲げ上げた。傷つかぬように注意を払い、そっと岩陰に腰を下ろさせる。
「連絡がねえってことは、尾行班も上手いこと行ってるってことだな」
 からりと明るい口調ながら、確かに緊張感を纏わせてヴァニタスの慟哭・レジェス(c00824)が呟いた。口元を隠すマフラーを押さえて、トンファーの・チョウ(c04741)がサングラスの奥にある瞳を細める。
「ああ。どうやら、ターゲットが来たようだ」

 男――ジーナは、不可解そうな目線を一行へと向けた。
 誰だ、とその表情が語っている。視線を受け止めたレジェスは、笑みを消して青い瞳を鋭く向ける。
「名乗るもんじゃない。ただ、悲恋が悲劇に変わるのを、止めに来ただけだ」
 不穏な空気とレジェスの気迫に押されるように、ジーナが一歩後退る。体を反転して、入り口方面へ駆け出そうとした彼を、唐突に鋭い爪が塞いだ。爪のデモニスタ・ラスタ(c08026)の白いフードと柔らかな金の髪が、仄かな明かりに見える。
「ごめんね、逃がせないんだ」
「ジーナ。残念ながらこちらは通行止めだ」
 ラスタの声に言葉を重ねて、白狼紅盾・ライナス(c03263)が刃を向けた。その後方で、デモニック・ルーシルベルト(c06023)と肩を並べたペルソーナの翠・フォン(c03598)が、闇を照らすようにランタンに火を入れて、壁際へとおろす。揺れる光が、交錯する視線の合間を照らし出す。
「エミルは幼馴染を不慮の事故で失い、大いに悲しむがそれを乗り越えて結婚する……そういう筋書きだ。悪いな」
 トンファーを構えて告げたチョウの言葉に、ジーナは喉を鳴らすように笑った。漏れる声は凶器を孕み、同時に辺りに羽音が満ちる。
「そうかお前ら、あの男の手先か」
「違う、と言っても、あんた信じねぇだろうな。そうなっちまった原因は……その胸にある婚約指輪かい?」
「エミルを何処にやった。出せよ――出せよ!」
 気の毒そうなラグランジュの言葉に激昂した叫びを放ち、男は地を蹴りだす。掲げられた刃を大柄な鎌でいなし、ラグランジュは変貌を始めた男を見た。
 額で笑う、仮面。その姿に一瞬だけ顔を顰めて、低く吼える。
「悪いけど、あんたの想いは成就させてやれねぇよ!」
「ここで安らかに眠ってもらおう。その胸に、心の闇に根付いたソーンと共に」
 凛とした口調で告げるライナスの言葉を皮切りに、刃のぶつかり合う音が響き渡った。

●嫉妬に狂うもの
 ざわり、と蝙蝠の羽音が聴覚をくすぐる。
 変貌するジーナの元に現れた蝙蝠達は、彼の心の闇を体現するかのように見えた。胸元を押さえながら、フォンが呟く。
「エミル様を想うと、胸が痛くございますね……」
 相対するジーナに気づかれぬように、岩陰へ視線を配る。マスカレイドと化したとはいえ、ジーナがエミルの親友であることは間違いない。どう転んでも悲しい結末しか無い戦いに眉を寄せながら、柔らかな金の髪を揺らす。
「……いえ、今は集中致しましょう」
 開いた扇の先端を、ジーナへと向ける。そうして、前方でサングラスを外す自らの師匠へと視線を向けた。
(「それに。気に掛かる事は、他に……」)
 フォンの視線を背中で受けながら、ルーシルベルトは目深に被った帽子の奥から空を舞う蝙蝠を見据える。闇と同化するような小さな体躯は、数を自分達に教えてはくれない。
「蝙蝠達は私達が。皆さんは、ジーナさんをお願いします」
 静かに息を吐き出して、ネウは左手に携えた扇で柔らかな円を描いた。誘い出されるように生み出された星霊ヒュプノスの柔らかな体を撫で、静かに言う。
「お願いします、ね」
「ちょっと乱暴にやっちまってくれるかい?」
 同じく星霊ヒュプノスを撫でていたラグランジュが、行っておいでとばかりに蝙蝠に顔を向けた。2体の星霊ヒュプノスは跳ねるように蝙蝠へと跳躍した。一体が静かに地面へと落ちていく。
 出来上がった合間を縫い、ルーシルベルトは大地を蹴り出した。悠然と構えた爪が、薄明かりに輝く。
「爪が赤く染まるまで斬り付けて差し上げマショウ」
 歌うように口元を動かすと、舞い踊るように刃が半月を描く。腹の横を切り裂かれたジーナが体勢を崩したのを見やり、ルーシルベルトは後方のフォンへと顔を向けた。
「フォン!」
「はい!」
 大きく頷いたフォンが、大きく扇を宙へと飛ばした。天井目掛けて飛翔したそれは、天空を飛ぶ鳥の如き勢いでジーナの体へと食らいつく。
 ジーナは傷を受けながらも、狂気に犯された顔で一同を見据えた。きいきいと泣きながら食らいつく蝙蝠の体を片手で押しやって、レジェスが腰に下げた愛剣へと手を伸ばす。
「……って、今回はこっちじゃねぇな」
 おっと、と苦笑を浮かべて、レイピアよりも刃の短いナイフの柄を握る。仲間達の動きを視界の端で確認しながら、ジーナの背後へと身を滑らせた。ジーナの剣が空を切る。
「どっち見てんだ。俺ぁ、こっちだぜ」
 喉を鳴らすように笑って、レジェスは鋭い刃をその背にむけて振り下ろす。
 意識が後方にそれたジーナを挟み込むように、チョウが間合いを詰めた。一度ぐいと体を屈め、反動を使い飛び上がる。
「トンファーキック!」
 吶喊したチョウは体を回転させ、足――ではなくトンファーでジーナの体を強かに打ちつけた。細長いトンファーの先が、脇腹へと食らいこむ。
「……明らかにキックじゃないですけどね」
「これが俺のトンファーキックだ!」
 ライナスとチョウのやり取りに「ははっ」と声を上げて笑い、レジェスは手の中のナイフをくるりと回転させ、すうと鋭い視線を向ける。
「キックだろうがパンチだろうが、やるこた一つってな――悪く思うなよ!」
 好戦的な言葉に、ジーナは不愉快そうな顔で口の中の血を吐き出した。

●叶わぬ願いの末路は
「これで、最後!」
 虚無から生み出された黒い刃が、残っていた蝙蝠の群れを貫いていく。肩で息をしながら、ラスタはジーナと対峙する仲間達へと目を向けた。刃と刃の重ねあいで生まれた地しぶきが、床と壁をかすかに赤く染めている。
「フォンさん、ライナスさんの傷をお願いします。スピカ、お願いね――レジェスさんの所へ」
 そっとスピカの頭を撫でる。駆け出したスピカの合間から、ネウは同じく後方で控えるフォンへ視線を向けた。ええ、と頷いたフォンの扇から柔らかな風が生まれ、花の如き甘い香りと共にライナスの肌を癒していく。
 痛みの消えた指先で強く盾を構え、ライナスは剣を振り上げるジーナとの距離を詰めた。大きな盾がジーナの体とぶつかり、衝突音が響く。
「エミルを、エミルを出せ……出せって言ってんだ!」
 シールドの向こう側で、ジーナが吼えた。ライナスは引くことなく、青い瞳を向ける。視界に入ったジーナの顔は、既に人ではないように見えた。額の仮面と同じように牙をむき、口元を引きつらせている。
 求めるものを手に入れられる人は、数少ない。
 生きていれば、得たくても得られぬものが沢山あるのは普通のことなのに。
「……君は、誰にも相談できなかったのか?」
 欲望に負けたジーナに、ライナスは思わず問いかけた。そうして、今更過ぎる問いに、首を振った。答えがどちらであっても、既にソーンに寄生された彼を助ける手段が無いのだから。
 苦く顔をしかめて、刃を弾く。悲しい結末が避けられぬのなら、せめて最善の道を――そう心の中で呟いて、剣を構えた。
「あんたの嫉妬の炎、うちの子の炎で掻き消してやるよ」
 ラグランジュは星霊バルカンを撫でる指をそっと離す。それを合図とするように、黒い体躯が伸びやかに宙を踊った。炎のともった尾から放たれる火炎弾が、ジーナの体に吸い込まれていく。
(「ジーナ、ごめん」)
 胸元に手を置いて、ラスタは静かに瞳を伏せた。
 戒律に阻まれて棘に魅入られたジーナと、己の境遇を重ね合わせる。倒さなければならない相手だとは分かっていても、彼の心を思えば感情は揺れ動く。
(「それでも、逃がしてあげることはできないんだ」)
 ゆっくりと開いた瞳に、彼の姿が映った。瞳から噴出した黒い光が、彼の腕を石へ変えていくのが見える。
「今なら……ッ」
 腰に下げる太刀に手を伸ばし、フォンが大きく前へと足を踏み出した。今なら隙をつける、とジーナとの間合いを計ろうと目を細める。
「出て来るな馬鹿弟子!」
「な――」
 阻んだのは、見知ったものの腕だった。合間に入ったルーシルベルトが、フォンを大きく突き飛ばす。
 驚き見開いたフォンの視線をちらりと見返して、ルーシルベルトはジーナへ向き直った。彼の一撃を体に受けながらも、傷口を抉るように爪を突き刺す。
 痛みでよろめいたジーナの体を、後方から間合いを詰めたライナスの剣が裂く。切っ先が十字を切り刻むと、彼の背にも同じ形の傷がつけられた。派手な音を立てて、体が床に転がる。
 地面に広がる、血の赤。荒い息をつきながら、彼は全ての感情を吐き出すように叫ぶ。
「何でだよ。何が、いけないんだ。俺は、俺は――あいつが、好きだった。自分のものに、しようとして、何が、悪いッ」
 吐き捨てる言葉に、ルーシルベルトの表情がかすかに歪んだ。
(「如何して皆さん、愛する花ほど摘みたがるのでしょうか……」)
 どれだけ美しく咲いた花も、手折れば直ぐに儚くしおれてしまう。
 それでも人は、なぜ咲き誇る花に手を伸ばすのか。
「愛する花こそ――咲かせておくべきじゃないのかな」
 ねえ――と口をついて出た虚空への問いかけを飲み込んで、ルーシルベルトは緩く頭を振った。湧き上がる思念を追いやって、血に濡れた爪を構える。

 その手を、チョウが不意に止めた。
 立ち上がることも出来ないジーナに視線を合わせるよう、彼は静かに腰を下ろす。
「一つ、教えてやるよ」
 噛み付くような視線を哀れげに、けれど優しく見つめ返し、彼は柔らかな口調で続ける。
「狂うほどに誰かを愛することができた……それだけは幸せだったと誇っていいぜ」
 たとえ、結ばれずとも。
 伝えることも、望むことも叶わぬ思いだったとしても。
 その思いが、哀れな結末を招いたとしても。
 ――チョウの言葉に、ジーナは一瞬だけ虚を突かれたような顔をした……気がした。
 口元に小さく笑みを作り、チョウは立ち上がる。もういい、とばかりに頷いて――告げる。
「それじゃ……あばよ」
 振り下ろされた爪の先が、仮面を砕き――彼の命を奪い取った。

●君は涙に濡れて
 闇に満ちた洞窟に、静けさが戻る。
 ソーンに魅入られた哀れな男は、笑みを歪みに変えて地面に転がっている。ラスタは悲しげに眉を寄せたまま、彼の元にしゃがみこんだ。
 胸ポケットから転がり落ちた小さな指輪が、彼の手元に転がっている。
 拾い上げて、冷たくなった掌に載せた。動かぬ手を包み込んで、そっと握らせる。
「こんなの……残酷だよ。如何してなのかな」
 ただ、好きになっただけなのに。それだけのことだったのに、棘は容赦なくジーナの心に突き刺さった。思いを心の闇へと変えたのは、自分達ではどうにも出来ない大きな壁。
「エルフヘイムに限った話じゃ無ぇ。例えば身分違いの恋とかな……今回はそれが戒律だった、って話だ」
 ラスタの肩に優しく掌を乗せて、チョウは「やるせねぇがな」と苦々しげに呟く。
「……戒律は、曲者だねぇ」
 立ち竦む一同の心を代表するかのように、ラグランジュが溜息混じりに吐き出した。頷いたラスタは、一同を見上げて告げる。
「指輪……ジーナさんに持たせたままにしてあげちゃ、駄目かな」
「それは彼女に決めてもらうのが、良いんじゃねえかな」
 答えたラグランジュは、その視線を岩陰の奥へと向ける。

 ネウの手により昏睡から目覚めたエミルは、少しの間洞窟をさまよい、変わり果てた友の姿を発見する。
「指輪……私の、指輪のために? ねえ、ジーナ……ジーナ、目を開けてよ、答えてよ」
 叫ぶ声が洞窟内に反響し、ネウの鼓膜を揺さぶった。彼女は睫を揺らすように伏せて、仲間を追うように早足で洞窟の外へと向かう。

 洞窟の外へ出ると、辺りはスピカの光に包まれていた。
 眩しさに瞳を細めて、フォンは目の前にあるルーシルベルトの背を見た。何時もとは様子が違う彼の姿を思い起こし、そっと駆け寄る。
「……シル師匠?」
「――ン。お疲れ」
「あ――、御疲れ様です……」
 向けられた視線を笑みで交わし、ルーシルベルトは静かにフォンの髪を撫ぜた。そうして、瞳を合わせずに足を進める。フォンはその背をただ心配そうに見つめ、その後を追った。
 立ち止まったラグランジュが、洞窟の入り口を振り返る。気づいたライナスが立ち止まり、視線を追うようにぽかりと空いた闇の中へ目を向ける。
「すまない……おじさんにゃ、これが精一杯です」
 エミルは洞窟で泣いているのだろうか。告げられなかった侘びの言葉を口にして、ラグランジュは空を仰いだ。
 仮面は、憎い。
 それでも、戒律と棘に翻弄された彼の不幸も、叩き潰したかった。マスカレイド化した人は助けられないと分かっていても。
 握り締める指先に、やり切れない心が見える。肩を叩き『行こう』とライナスが促した。ここにずっと居るわけには行かない。エミルが洞窟から出てくる前には、去らなければならないのだ。
 仲間達を先へと歩ませて、ライナスはちらりとだけ洞窟へ視線を向ける。
「エミルさん、ごめん――どうか、あなただけでも幸せに」
 呟いた祈りの言葉は、静かにスピカの満ちる大気へと解けていく。その輝きに願いを託し――一同はその場から静かに立ち去った。



マスター:流星 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/10/04
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冒険結果:成功!
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