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天蓋の略奪者

<オープニング>

 羊が草を食むのどかな牧草地。瑞々しい緑の絨毯と地上に浮かぶ雲の様な羊とのコントラストが目に眩しい。そんな、絵に描いたような平和な風景にも危険は潜んでいた。
 最初は一匹、次は二匹と立て続けに羊の姿が消えた。狼を疑ったが、襲われた痕跡はどこにも無く、牧童を増やしても羊の消失を留めることは出来なかった。
 誰もが途方に暮れ、頭を悩ませていたある日、ついにその原因が明らかとなった。

 牧草地にある小さな池。密生する木々に覆い隠されたそこは、牧草地唯一の水場だった。
 いつもの様に、池で喉を潤した羊の群れを誘導して村へ帰ろうとしていた牧童が、何気なく群れの最後尾を振り返ると……。
「!」
 糸にぶら下がった蜘蛛人間としか形容できない者達に襲われる羊の姿が!
 頭上から忍び寄り、抵抗する間もなく毒汁滴る爪の餌食となった羊達は、糸に絡め取られて音も無く樹上へと吊り上られていく。おそらくは、今までに消えた羊達も同じ様に連れ去られたのであろう。
 予想外の事に腰を抜かした牧童は、しがみついた羊に引きずられるままにその場を離れ……村に事の次第を伝えたのであった。

「依頼は、蜘蛛人間……タランティと呼ばれるバルバの退治です」
 警備隊の詰め所に集まったエンドブレイカー達に、村で起こった事件の顛末を伝え終えた弓の城塞騎士・フルートは、依頼の説明へと話を進める。
「彼らは、樹上に蜘蛛の巣の様に糸を張り巡らせ、池に水を飲みに来る動物を襲っている様です」
 テーブルに持っていた地図を広げてみせるフルート。池は牧草地の中に点在する数十本の木が密生する場所の一つにあり、周辺に遮蔽物となるようなものは無い。木の上を移動して周囲の森に逃走される心配が無い代わりに、こちらが気付かれずに接近するのも難しいという状況だ。
「羊等の動物以外のものの接近に気付けば、彼らにとって有利な樹上から降りてくることは無いでしょう」
 そうなれば接近しての攻撃は難しくなり、攻撃手段が限定される分、こちらが不利となってしまう。
「獲物だと思えば捕まえるために降りてくるんでしょうけど……」
 タランティ達は樹上にいるので、上方向からの監視さえ欺ければ、接近してきたのが何者なのかをごまかし、上手くいけば木の下に誘き出すことも出来るだろう。

「目撃情報によると、タランティは8体。武器は、毒爪と口から吐き出す糸です」
 接近戦では毒爪は油断できない凶器となるし、樹上からも攻撃できる射程を持つ糸は、絡まれれば動きを阻まれたり、締め上げられてしまうだろう。互角の条件で戦っても油断出来る相手ではない。
「それと、村人達が何度か遠目で目撃したところでは、どうやら糸を伝って一度降りてしまうと、すぐには登れないみたいです」
 そう言ってフルートは何かを切るように掌を水平に滑らせて見せた。
「確実さを選ぶなら、先に糸を断って樹上への逃走を防ぐのも良いかも知れません」

「放置すれば村自体を引き払う事になるかもしれません」
 このままでは、牧草地が使えないばかりか、タランティが牧草地に隣接する村に狩場を移す可能性もある。
「事件としては小さいかもしれません。ですが、この依頼の成否が村の運命に大きく変えてしまうでしょう」
 フルートは改めてテーブルを囲む皆に熱い視線を送る。
「ああ、俺達はそうやって小事として切り捨てられるものを守る為に集ったんだ。任せてくれ」
 力強く頷くエンドブレイカー達。都市警備隊としてこの場にいる者の心は皆同じだ。
「……はい、お任せします!」
 その姿にフルートは信頼の笑顔で応えたのだった。


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参加者
剣の城塞騎士・アラストール(c02801)
大剣の群竜士・ドリス(c08127)
鉄腕・メルティナ(c13662)
銀月姫・ソレイユ(c13729)
月下香・クリステル(c15363)
終の断章・メビウス(c15751)
魔鍵の魔想紋章士・アルストロメリア(c15869)
サジタリウスの矢・オリアス(c16130)

<リプレイ>

●平穏に潜むもの
 タランティの退治を依頼した村で準備を整えたエンドブレイカー達は、それが潜むという牧草地へと足を踏み入れていた。
「ここまでだな」
 終の断章・メビウス(c15751)が、そう言って草の上に腰を下ろすと、魔鍵の魔想紋章士・アルストロメリア(c15869)は周囲に視線を走らせた。かなり距離を置いている為、池とそれを囲む木々の全景を視野に納めることができる。
 樹上に潜んでいるとはいえ、高い場所で周囲に遮蔽物が無いという条件が揃っているタランティ達の視界は決して狭くは無い。発見されるリスクを考えれば距離を取らざるを得ないのだ。
 。 
「……姿は見えない、ね」
 アルストロメリアは、初めて遭遇するバルバの様子をスケッチする用意をしていたが、まだ手元の羊皮紙には何も描かれていない。
「そのための囮だ。誘き出されたマヌケ面を見逃すなよ」
 メビウスが、口元に皮肉を込めた笑みを浮かべる。その視線の先では何かモコモコしたモノが池を目指して進んでいた。
 その姿に、思わずほわわ〜んと和んでしまった銀月姫・ソレイユ(c13729)が呟く。
「もこもこですわね〜」

 そのモコモコしたモノもボソリと呟いていた。
「お借りしたものですが汚してしまいそうですね……」
 羊毛の汚れを気にして月下香・クリステル(c15363)が端を持ち上げる。囮役になった者達は、羊毛の塊を村から借りて変装していた。一応、駄目になっても構わないと言われてはいるのだが、気になってしまうものはしょうがない。
「もう少しだ。慎重にいこう」
 大剣の群竜士・ドリス(c08127)が、疲れを見せない凛とした声で呼び掛ける。訓練慣れした彼女には、這って進むのも苦ではない様でズンズンと先を進んでいく。
 更に剣の城塞騎士・アラストール(c02801)は、村で牧童達を相手に練習した鳴き声まで上げていた。
「メェ〜」
 なかなかに真に迫った出来である。邪魔になるからと普段身に纏っている鎧まで脱ぐという気合の入れ様で、村では厳つい鎧と中から現れた姿とのギャップに、驚きの声が上がったりしていた。
「なんか、一足早い仮装行列だな、こりゃ」
 そんな様子に笑いを漏らす鉄腕・メルティナ(c13662)。確かに収穫祭の最中であればこの格好で仮装に参加できそうだ。
「村の平穏の為、がんばろうではないか。めぇ〜」
 サジタリウスの矢・オリアス(c16130)も一鳴き。多少なりとも効果を期待できるならやってみて損はない……はずである。

 モコモコと進むこと暫し。羊に変装したエンドブレイカー達は池に到着した。
 顔を出すと変装がばれてしまう為、タランティの姿を確認することもできない。戦闘への緊張と居るはずなのに見えない敵への恐怖が胸の鼓動を早める。
「む、大丈夫だ。作戦通りやれば……」
 それほど戦闘慣れしていないオリアスは、震える手を握り締めて自分に言い聞かせるように小さく呟くと、水を飲むフリをしながら水面を覗き込んだ。
「っ!」
 そこに映し出されたのは頭上を覆う緑の天蓋と蜘蛛の巣の様に張り巡らされた糸。そして、こちらを覗き込む異形の姿。直立した蜘蛛に無理やり手足をつけて人型にした様なそれは、タランティに間違いない。
 上げそうになる声を押し留めて隣を見ると、仲間達も羊毛の下から上を指差して目配せをして来た。そう……。
(「降りて来たときが勝負だ!」)

●天蓋の糸
 タランティは、糸を伝って音もなく降りて来ると、毒汁滴る爪を振り上げる。羊なら気付く間も無く捕らえてしまう彼らの狩猟は、しかし成功する事は無かった。
 羊だと思ったものが、実は猛獣より危険なものだったのだ。
「はっ!」
 ドリスの大剣が素早く振り抜かれる。
「逃げられませんよ」
 跳ね起きざまに天に向かってクリステルのナイトランスが突き出される。
「正面から勝負してもらう!」
 鎧とは違う身軽な姿のアラストールが鞘から剣を抜き放つ。
 「羊でなくて悪かったな!」
 メルティナの蹴りから発せられた衝撃波が空を切り裂く。
 頭上まで迫っていた襲撃者達の糸は断ち切られ、地上に落下する。本能的に素早く立ち上がったものの動揺を隠せない姿に、メルティナはニカッと笑顔を向けた。
「ま、羊より可愛い美少女ってことでカンベンしろよな!」
 更に、降りるのが遅れて少し高い位置にいた一体も……。
「そこもっ!」
 オリアスの放った矢が降り注ぎ、糸を切られて落下する。
 結果、地上に五体、樹上に三体という状態で戦端は開かれたのだった。

 アラームによって、囮役が敵の姿を捉えたのを感じると同時に、待機していた者達は駆け出した。今なら敵の注意は囮に向かっているはずだ。
 攻撃可能な場所に到着すると、さほど間を置かずに囮役が正体を露にするのが見えた。
 戦闘開始だ。
「さあ、パーティを始めるとしようか」
 メビウスは、躊躇なく掌から黒炎を放つ。狙いを定めたのは樹上で下の様子に判断を迷っていたタランティ。その横っ面をひっぱたく様に命中。どこからの攻撃か判らずに樹上に混乱が広がる。
「星霊よ!彼の者を夢中へと誘え!!」
 ソレイユの召喚した星霊ヒュプノスが宙を駆け、地上にいる一体の足元を飛び跳ねる。それを邪険に払おうとしたタランティは、しかし急に脱力感を覚えてふらつく。
 ドスッ!
 続いて投じられたアルストロメリアの魔鍵は敵ではなく大地に突き刺さる。狙ったのは影。影に突き刺さった途端、影と同じ場所を貫かれたかのような衝撃に身悶えるタランティ。

 予期せぬ攻撃に浮き足立つタランティ達。それを見逃すエンドブレイカーではない。
 クリステルはナイトランスで突進。しかし、それはあまりにも正直すぎて、簡単にかわされてしまう。
「ところがです!」
 それはフェイント。勢いそのままに頭突きを喰らわせる。
「はっ!」
 よろめいたところに、アラストールの剣が足元からすくい上げる様に一閃、胸の甲殻を断ち切る。
 そこにオリアスの矢が突き立ち、更に投じられた幾つもの攻撃が降り注ぐ。
 攻撃の後には身体を砕かれて池に浮かぶタランティ。
 池に波紋と共に体液が広がっていく。

●狩りの流儀
 奇襲に成功し最初の一体を集中攻撃で倒したものの、そのまま決着がつく相手ではない。直ぐに体勢を立て直してエンドブレイカー達に襲い掛かってくる。

「ううっ!」
 かざした武器の隙を突いて、クリステルの肩に爪が食い込む。すぐに払い除けるが焼けるような熱さがじわじわと全身に広がっていく。それを嘲笑う様に、タランティは血と毒が滴る爪をカチャカチャと打ち鳴らした。

 シャーッ!
 樹上から吐きかけられた糸は、一本にまとまらずに幾本もの細い糸となってドリスの身体に絡まり、動きを邪魔された大剣が空を切る。それを好機と群がってくるタランティ。
「こいつらも集中攻撃を!?」
 樹上のタランティが地上を援護し始めると、毒を受けたり動きを封じられる者が続出し始めた。羊を襲う時と同じく、毒で弱らせて糸で絡め取る。これこそがタランティの戦法なのだ。

 多くの仲間が負傷しているのを見て取ったソレイユが、大地に魔法円を描く。
「癒しの円よ、彼の者の傷を癒せ!」
 アルストロメリアも鈍い光を放つ魔鍵を構え……捻る。呪力が錠を閉じる様に傷口を塞いでいく。但し、その代償として身体から急速に力が吸い上げらる為、癒しの力を無限に使う事はできない。
「それでもっ……!」

 毒や絡み付く糸に苦戦する中、しかしメビウスは、それらを無視してひたすら攻撃を加えていた。
「一つ無駄を省けば一つ勝利に近付く、一手稼げば一手早く終わる。クールに行こうぜ、クールによ」
 自分の治療さえも無駄と断じて、一手でも多くの攻撃を加える。一見無謀にも見えるが、最短での勝利こそが回復の負担を軽減し、かつ仲間の負傷を減らす事になると確信しているが故の行動なのだ。
 幾度目かの召喚に応じて虚空に現れた邪剣の群れが、的確にそして容赦なく撃ち込まれた。

「へへっ、面白い攻撃するじゃん!」
 珍しい相手に喜々として挑んでいくメルティナも毒には怯まない。それは、呼吸法によって毒を体外に排出出来るからだけではない。持ち前の好奇心が前へ前へと彼女を突き動かしているのだ。素早く繰り出される爪と連打される蹴りとの間で激しい火花が散る。

 踏み荒らされ、血と体液と泥に染まっていく池。激戦に乱れる水面には、まだ勝敗の行方は映し出されてはいない。

●切れた糸
 激しい戦いは、回復手段を持たないタランティを急速に疲弊させていった。
 戦場には、宙吊りのままのものなど幾つかの亡骸が見受けられる。
 しかし、エンドブレイカー達も疲弊し始めていた。

 一斉に吐かれた糸の一つが転がって避けようとしたソレイユを捕らえる。
「あう〜」
 樹上から糸を引いて首を締め上げる。癒しと怪我で消耗した彼女には抗い切れない。
「こっちだっ!」
 ドリスが叫びを上げて気咬弾を放つ。声に振り返った眼前でそれは弾け、激しい光を浴びせる。
「グアアアア!」
 目を覆って苦しんでいる間にクリステルが狙いを定める。
「村の皆さんのためにも……負けられません!」
 気合と共にナイトランスから放たれた衝撃波が、タランティの喉を深々と貫いた。

「そこっ!」
 アラストールの剣に足を払われ、タランティがひっくり返る。
「これでトドメッ!」
 メルティナの蹴りが深々とめり込み、メキッという嫌な音と共にその動きを止めた。

「この手に女王騎士の風槍を。その威厳、破壊によって示さん!」
 オリアスが指さすと宙に描かれた紋章から幾本もの風槍が放たれ、タランティを刺し貫き、水面を跳ねる小石の様に吹き飛ばす。

「これで……!」
 アルストロメリアが最後の力を振り絞って放った呪力は、糸の呪縛を浄化し解き放つ。
「貴様達が作る終焉を……打ち破らせてもらうぞ!」
 自由を取り戻したドリスが、気咬弾を裂帛の気合と共に連続して打ち出す。それを受けた樹上の敵が衝撃でコマの様にクルクル回る。切れた糸と共に地上に落下したときには、既にその命は尽きていた。

 樹上の敵は全て排除され、残ったのは地上の二体のみ。
「反撃する暇なんてないぜ」
 メビウスの爪から発せられた刃が、タランティの身体を攻撃を防ぐ為にかざした腕ごと真っ二つに切り裂く。
 だが、背後に隠れていた一体が、切り裂かれた仲間の亡骸を蹴散らして突進する。そして、かざした両腕の爪をアラストールに向かって振り下ろす。
 しかし……。
 ガキン!
 鎧はなくても防御の構えに隙はない。
「我が守りは崩せぬ!」
 攻撃を弾いた剣でそのまま押し返し、懇親の一撃!
 肩口から胴まで切り裂かれたタランティはよろよろと後ずさり、ついに池の中に水飛沫を上げて崩れ落ちたのだった。

●取り戻したもの
「羊さん、貴方達の仇は取りましたわ〜」
 疲労で池の中に座り込みながらも、ソレイユはガッツポーズ。
「これで約束を守れたな」
 村でバルバ退治を約束していたドリスも、傷だらけの身体を大剣に預けながら笑顔を見せる。

 エンドブレイカー達は、手当てを終えると亡骸を埋葬することにした。村人と話合い、亡骸は糸が張られていた木々の根元に埋める事になっていた。
「この樹には散々迷惑かけたんだ。死んだ後くらい役に立ってみせな」
 メビウスは盛った土の上に、掘るのに使っていた太い枝を墓標の様に突き立てた。
「これも自然の摂理。大地に還るがいい」
 オリアスは簡単な印を切る。今度は彼らが羊達の糧へと生まれ変わるのだろう。
「父と子と星霊の御名において……」
 最後まで、タランティの姿をスケッチしていたアルストロメリアは、その姿と行動を記した羊皮紙を懐にしまって祈りを捧げる。この知識は世界を知るための一片として役に立ってくれるだろう。
「このバルバ達は……違うみたいですね〜」
 最近の事件は裏があるものが多いと感じていたソレイユ。色々と死体を調べてみたのだが、少なくとも今回は単に狩猟目的で侵入してきただけらしい。
「とにかく、今までの被害が羊さんだけで、エルフさん達に被害が出ていなかったのは僥倖と言えますわ〜」

「終わったらお茶でもと思ったのですが……」
 改めて自分達の姿に目を落としたクリステルがぼやいた。平穏を取り戻した風景の中で、血や泥にまみれた姿は場違いなものになってしまった様だ。
「村に戻れば何とかなるだろう」
「それに借りたものは綺麗にして返さないとな!」
 回収した羊毛を掲げてみせるアラストールとメルティナ。村人も結果を待ち望んでいるだろうし、キレイな水で身繕いも出来るだろう。
 それから改めてお茶を手に、この取り戻した景色をゆっくり眺めるのも悪くは無い。



マスター:天流儀さち 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2010/10/25
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