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青草色の夢思い

<オープニング>

 それは夢だった。
 草原をどこまでも駆けること。
 青草の上に寝転がり、明るい天井を見上げて、光を一杯に浴びること。
 ちょっとの無理ですぐに熱を出して寝込んでしまうような自分には、なかなか出来ない事だけれど。
 それでも最近は大分よくなって、家の近くを歩いたり、お使いぐらいは出来るようになった。……だからこそ。少しだけ、冒険してみたくなったのだ。
「でも……」
 彼女が目指す耕作地の辺りに、最近剣豪カマキリと呼ばれる、長身の男性でも見上げる程に巨大なカマキリが現れたと、噂で聞いた。
「やっぱり、無理なのかな……」
 野原で遊ぶなんて、私のような弱い子には、許されないのかな?
 ぽつり、寂しそうに呟いたルージィの言葉は、余りにも寂しくて。

●青草色の夢思い
 トンファーの群竜士・リーの声が、酒場に響く。
「依頼があるんだが、話を聞いていかないか? まあ単純には巨大カマキリ退治だ。それだけでなく、ちょっとしたお願いもあるらしい」
「お願い?」
 声を聞きつけたエンドブレイカーが疑問に首を傾げると、彼は特徴的な髪を揺らして頷く。
「小さな女の子が、初めてのピクニックに出掛けようとしている。彼女は身体が弱く、今までは外出もままならなかったのだが、最近は調子が良いので、少し遠出しよう、そう思ったようだ。で、先の話に繋がる訳だが……。親御さんが言うには、大カマキリの退治の後に、出来れば思い出を作ってやりたいのだと言うんだ」
「思い出作り、ねぇ……」
「マスカレイドの関わっていない依頼ではあるが、困っている人を放っておく事は出来ないからな。良ければ助けてやって欲しい」
 そこまで言うと、リーはピクニックの障害となる敵の詳細を話し出した。
「目撃証言によれば、剣豪カマキリの数は三体程だそうだ。奴らは巨大な身体に見合った大きなカマを振り回して攻撃してくる。どうも、太刀ののアビリティによく似た攻撃が出来るらしいので、要注意だな」
 そうして敵を倒した後は、親御さんの願いであり、おそらくは少女の願いでもあるだろう思い出作り……ピクニックの始まりだ。
「彼女は今まで、家の近くでしか遊んだ事がない。友達も少なく、大勢で遊んだ事も無いそうだ。当然、野外での遊びなども初めての経験となる。……そんな初めて尽くしの時だからこそ、楽しい思い出を作って欲しい、そう親御さんは思っているそうだ。皆も、ピクニックに参加して遊んでやってくれないか?」
 沢山の人達と遊んだ一日は、きっと彼女にとって大切な思い出となる……。
 そんな記憶を病気がちな少女に与えてあげる為にも、頑張って欲しいのだと、リーは言う。
「きっちりカマキリを倒して、楽しい思い出を作ってくれ。皆と会える事を彼女も待ち望んでいるだろう。じゃあ、気を付けてな!」


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参加者
暗殺シューズのスカイランナー・ニーナ(c01336)
エアシューズのスカイランナー・ウィンディア(c01344)
杖の星霊術士・シャンナ(c01714)
トンファーの群竜士・ルーファン(c03229)
アイスレイピアの魔法剣士・セシル(c03752)
杖の星霊術士・ティエンラン(c04840)
竪琴の魔曲使い・カナリア(c06199)
弓の狩猟者・ヘラウ(c07485)

<リプレイ>


 早春の草原は吹き渡る風に肌寒さを感じるが、芽生えて間もない若草の青さが目に快い。
「何か子供が多いわね」
 仲間を見渡して、竪琴の魔曲使い・カナリア(c06199)がぽつり呟く。同年代も少なくはないのだが、最年長である事が密かに気になるようだ。
「カマキリなのに剣豪さん……」
 今回の敵は大きなカマキリらしい。鎌は剣ではないけれど、かといって鎌豪とは言わないか、とぼんやり杖の星霊術士・シャンナ(c01714)は思う。
「それはそれとして、楽しいピクニックの為にどいて貰いましょー」
 彼女の言葉に同意するように、エンドブレイカー達は後に控えるピクニックに……あるいは、それを楽しみにしているルージィの為に、ピクニック予定地からカマキリの引き離しに掛かる。
「みんなツイてねーナ」
 移動中、ふとアイスレイピアの魔法剣士・セシル(c03752)が呟く。ルージィは折角の外出なのにカマキリが居て、そのカマキリは僕らに……エンドブレイカーに命を狙われる。ついてないという言葉は、確かにこの場面では相応しい。

 青草の背はまだ低く、従って平野の見晴らしは非常によい……。
 幸か不幸か、敵と仲間と、互いに姿を認識したのはほぼ同時。
 ガサリ。草を掻き分ける音と共に緑色の巨体が迫る。巨大な鎌を二つ備えた、それは確かに巨大なカマキリであった。
「離れたところに誘うのー」
「さて、皆様参りますわよ」
 杖の星霊術士・ティエンラン(c04840)とエアシューズのスカイランナー・ウィンディア(c01344)の言葉に頷くようにして、剣豪カマキリ達の注意を引く位置まで迫り、念を押すようにヘラウの矢でカマキリらの怒りを誘うようにして、仲間達は一斉に移動を開始した。
 離れ過ぎては気を逸らす、しかし近付き過ぎても大きな鎌に捕まろう。
(「距離は取って置く方がよかろうな」)
 トンファーの群竜士・ルーファン(c03229)は慎重に距離を測りつつカマキリらを誘導する。
「そろそろ……かな。十分体も暖まったし」
 準備運動は万端とばかりに、へらりと弓の狩猟者・ヘラウ(c07485)が呟く。
「ええ、遅かれ早かれ倒す敵です……さくっといきましょう」
 感情を伺わせない静かな声で、暗殺シューズのスカイランナー・ニーナ(c01336)が答える。
 それが、戦いの合図となった。


 緑の草原に、緑の巨体が他を圧するように立ちはだかる。
 エンドブレイカーは、それを前にしても怯まない。
 三体の敵と組み合うように三つの班に分かれ、それぞれがペアを組んでの戦いとなった。

「ルーファンさん、いきましょー」
 シャンナの杖より迸る五つに分かたれた光条が敵に吸い込まれるように突き刺さり、その後を追うが如くに、精神統一から真っ直ぐに突き込む拳は巨体の芯を揺るがせた。
「……感傷など、不要」
 拳を握り締め、ルーファンは呟く。邪魔する者には容赦はせぬと。
 その隣、巨体ながらも素早い相手に、細い足を狙うのは不利と判断したウィンディアは、太い胴腹に左右の足から衝撃波を放つ。
「ニーナ様、今です!」
「……いきます」
 ウィンディアが作った僅かな隙を突くように、ニーナが高く飛び上がり回転しながら胴腹に飛び込むように突撃。
「お手伝いするの!」
 もう一方、ティエンランは術式を組み上げ、放たれた魔法の矢が三つに分かれて敵を撃つ。
「てやァァァー!」
 その後を追うようにセシルは氷の刃で敵を切り付け、その勢いのまま切り抜ける。
 三班体制で敵を押さえ、戦う傍ら、それらを支援する者もあった。
「あたしの歌を、止めるもんなら止めてみなさい!」
「鷹よ行けっ!」
  声を張り上げ、魅惑のフレーズに乗せてカナリアは激しい曲を歌いあげ、ヘラウの意志を受けた鷹の魂は大きく広げた翼で切り、鋭い爪を立てる。
 彼らは機に応じ、仲間らの奮闘を支援する。敵に合わせて三つに分けた班の、薄く広がるようにならざる得ない攻撃を助けた。

 一体に対する数もあり、緒戦よりしばらくは、一進一退の気の抜けぬものとなる。
 斬り、撃ち、蹴り上げ、反撃と鎌が振りおろされ。草原を自在に走るかのように、エンドブレイカー達は緑の巨体に立ち向かう。
 複眼が不気味に相対する者を映し、声もなく振るわれる鎌は高所から勢いを付けて振るわれて。
「――っ!」
 幸い、痛打に当たっても一撃で倒れる程ではない。ならば余裕のある内にと積極的に戦いを挑み、セシルの剣が脚を凍らせ、カナリアの歌が警戒心を奪うなど、足止めが行えた事もあって中盤を越える頃には戦いも好転。
 ――やがて、重い音を立て、緑の巨体が地に伏せた。
「悪く思うなよ」
「ティエも次のお手伝いする!」
 一つの班が敵を落とすと、後は連鎖するように戦いが終わりへと進んでいった。
「各個撃破ですよー」
「次に向かおうか」
 次々に突き刺さるシャンナの光条、打ち込まれるルーファンの拳が巨体を倒し、
「終わりです」
「遅いですわね〜」
 身軽いジャンプより高所から落とされるニーナの突きと、素早い二度の蹴りから放たれたウィンディアの衝撃波が――巨体を斬り落とすかのように深く、傷を刻む。

 草原の片隅。静まった空気に、吹きわたる風は少し冷たいけれど、それが戦いの熱気を洗い流してくれるようで。


 カマキリが目立たぬようにと片付けを終え、少女を呼んで来ると、ようやく、待望のピクニックの始まりだ。
「ルージィちゃん、初めまして。私はウィンディアですわ〜」
 ウィンディアの声に皆も名乗りを上げると、おずおずとした様子で少女も応える。
「えと、えと……ルージィです、よろしくおねがいします」
 ぺこりと頭を下げたいたいけな姿に、思わず笑みがこぼれる。
「ルージィに笑顔を届けに来たんだよ、よろしくね」
 すっと視線を合わせて、透明な笑顔でニーナが言う。その優しげな笑顔につられ、ようやく少女にも笑みが覗いた。
 皆、戦いの間も時間を気にしていた事もあって、天井もまだまだ明るく、お昼時に丁度良いような時間だ。
「重たい荷物があるなら貸しなさい、私が持とう」
「僕も持つよ。腕っ節に自信がねーワケでもねーしナ」
 ルーファンとセシルが分担して重い荷物を受け持つと、移動を開始する。
 手をつなぎ、ピクニックの場所へ。短い道中もカナリアの歌声が響き、少女を飽きさせない。
 やさしい、やさしい、歌声。つないだ手のぬくもりに、引っ込み思案な少女の心は、少しずつほぐれていく。

 目的地に着いて、まずは腹ごしらえとルージィの母の作った弁当を広げる。
「お母様のお弁当はどんなのかしら〜?」
 ウィンディアがつまんで見せると、そこにはサンドイッチや鶏肉の揚げ物、卵焼きなど、素朴なメニューが人数分並んでいた。戦いの後という事もあり、食事は賑やかに進む。
 開放的な風景の中で食べると、何故かいつもより美味しく感じるから不思議だ。
「実は一つだけ辛いのがあるんだ。それを引き当てた人は運がいいぞ!」
「は、早く言ってくれ!」
 ヘラウのサンドイッチにひと騒動あったものの……。
 ニーナの動物クッキー、シャンナのマドレーヌは、食後のおやつに丁度良いだろう。カナリアもルージィ用にとフルーツを持ってきて、ちょっぴり豪華な昼時は過ぎる。

 お腹いっぱいになったら、今度は遊びの時間。皆、どう遊ぼうかと考えてきたから、遊びは盛りだくさんだ。しかし、まだ遠慮しているのかルージィは困ったようにおどおどと視線をさまよわせる。
「ティエのおかあちゃんがね、言ってたの」
 明るい天井の下にあるものは皆のものだから、一緒に楽しむ分にはだめな事はないと。ティエンランがそう言って手を差し出す。
「だから……一緒にあそぼ?」
「……うん。ティエ、ちゃん」
 一緒に遊ぶのを楽しみにしていたのだと、同じ年頃の子から励まされてルージィも頷いて手を取った。

 のんびりとした昼下がり。それではと、遊びの先輩たちは草を使った遊びを始める。
 ぴぃぷぅと、何やら陽気な音を立てるのは草笛。
「作り方ですかー?」
「こうするの」
 にこにことシャンナとニーナが教えてくれ、ルージィは初めての草笛に挑戦。青い草の香りを胸いっぱいに、勢いよく。
「んー、んーっ……ぴぃー。あ、でた」
 次は花冠に挑戦。
「ねえ、二人は花冠作るんだよね? ティエも混ぜて貰っていい? ルージィもやろう!」
「うん」
 ティエンランが花冠を編んでいる二人に聞くと、笑って頷く。女の子達は楽しげに早春の花を摘み、冠を編む。
「むずかしいねー」
「ねー」
 お姉さん達に聞きながら、真剣に編み込む姿は可愛らしい。
「クゥリも可愛いですよー」
 いつもありがとう、とシャンナはスピカにちっちゃな花冠を被せ。ぎゅむっと抱きしめて、何やら幸せそうだ。


 草遊びが終わったら、次は思い思いに遊ぶ。
「年いくつ? 義妹より一つ下か。そいつに教えて貰った遊びはどーだ?」
 適当な石ころを拾い上げて、セシルが器用にお手玉をして見せる。流石に少女に石を持たせる訳にもいかないので、紹介だけだったが。楽しげにしているのを見るのはちょっと気分が良い。
「ルージィ、無理はしていないか? 背を貸すので疲れたら遠慮なく言うといい」
 ルーファンが兄気質らしく気遣いを見せると、少女はうんと素直に頷く。
「色々な物を見、感じ、人の心に触れておくと良い。辛い時、それが心の支えとなる事もある」
「……? うん」
 ちょっと難しかったかと笑い、人と共に沢山遊んだり学んだりしなさいとルーファンが言う。豊かな経験にこそ、心は活きるからと。
「一緒に歌いましょう。おねーさん達の活躍を歌っちゃうぞー」
 そんなやりとりの中、カナリアが即興でカマキリを倒す歌を歌ってみせると、少女はきゃっきゃと声を上げる。歌が好きなニーナも合わせるから、歌声は明るく草原に響いて。
「歌と言えば踊りだな」
 すっくと立ち上がったヘラウが、コミカルな動きで歌に合わせて踊り始める。笑いを取る為だから、おかしな動きでもそれで良い。
「私も、踊るー」
「じゃあティエもー」
 年少組が元気に踊り出す。
 もちろん振りなど適当で、動きはおかしなものだけれど、とても楽しそうで。それを見て皆も笑う。
「皆元気がいいな……」
 芸事は初心者だが、ルージィと共に試してみるのも良いかとルーファンは皆の歌や踊りに興味を覚える。一つ、何かやってみようかと。
 そうして賑やかに過ごした後に。
「ね、あそこまで、かけっこしてみようか?」
「お、負けねーゾ」
 思い切りのんびりの歩調で、だけれど。子供は走り回りたいものだと、ニーナが提案して、セシルも陽気にそれに合わせる。
 小さな歩幅に合わせて、皆でのんびりと草原を走る。無理のない歩調で、ほんのわずかな距離で。
 明るい天井の下で、元気に走ること……それが少女の夢だった。それだけじゃない、たくさんの遊びを覚えて、たくさんの人たちと、遊んで。
 ルージィは、すごくすごく、それが嬉しかった。
「きゃー!」
 笑い声を上げて走る。その姿に、皆は笑みを浮かべる。……それが見たくて、少女の笑みが見たくて。ここに来たのだ。
「疲れた時はこれですわよ〜」
 真っ先に草原に寝転んだのはウィンディア。思い思いに、皆は草原に寝転んで明るい天井を見上げる。
「今は体が弱くても良くなるさ」
 ヘラウが明るく言う。ダメと思うより、良くなると思った方が楽しいだろうと。
「楽しい……?」
「みんなと遊ぶの、楽しいよね」
「楽しい思い出、作れましたー?」
 ティエンランとシャンナが明るく言い添える。それにうんと、答えが返った。楽しい方が得だろうと、ヘラウは笑って。
「天井の向こうには、本物の空がある」
 ふと、ニーナが天井を見上げて話し出した。それは彼女の大好きなもの。
「ソラ?」
「そう、とても綺麗な……」
 青く澄み渡った、空。
 いつか一緒に、元気になって見に行こう、と。
「……約束」
 僅かに微笑んで、見上げた姿勢のまま、ニーナが言う。
「辛い時、今日という日が心の支えとなるように」
 ルージィの髪に咲き初めの花を飾り、ルーファンは願いを込めるように告げる。
 それが彼女の、幼い心を支える幸福な記憶となるように……。

「うん、約束、ね……」
 優しい気持ちに囲まれて、少女は元気に……笑顔で、頷いた。



マスター:伊家メグミ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/03/26
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  • ハートフル12 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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