ステータス画面

首刈り魔の夜

<オープニング>

 ハルスは、酔っていた。
 仕事帰り、労働の後の酒はうまく、少々飲み過ぎた。無闇に幸せな気分のまま、千鳥足で家路をたどる。
「そこの格好いいお兄さん」
 突然かけられた声に、ハルスは振り返る。そこに立っていたのは、豊満な体を扇情的な服で包んだ、若い女性だった。顔も、思わず見とれる程に美しい。
 酔った瞳でぼうっと自らを見つめる男に、女が続ける。
「ちょっとこない? いいもの見せてあげる」
 扇情的な言葉に、ハルスは舞い上がった。平静なら疑いもしただろうが、酒が自制心をすっかり押さえ込んでしまっている。
 ハルスは、裏通りに入っていく女についていった。次第に暗くなり、人通りもなくなっていく。
「なにを見せてくれるのかな?」
 すっかり暗がりに入ったところで、ハルスは女に聞いた。
「ほんっと、男ってフケツ」
「は?」
「そんなに見たいなら、見せたげる」
 そう言って、女は長い棒状の物を取り出した。それが鎌である、と気付いた頃には、ハルスの頭は胴体から離れていた。
 転がるハルスの首、崩れ落ちる男の体に、女は軽蔑しきった目を向けていた。

「エルフにも、潔癖症というのはあるのでしょうかね」
 警備隊詰め所に集まったエンドブレイカー達に、弓の星霊術士・ネリカ(cn0079)が語りかけた。
「今回の事件を起こしたのは、24歳のナーレという女性のエルフです。残念ながら、既にマスカレイド化しており、何度も事件を起こしているようです」
 ネリカの言葉が、悲しげな響きを帯びる。
「ナーレは街角に立ち、通りかかる男性に声をかけています。無防備な男性を人目のない暗がりに誘い、隠し持っていた大鎌で首を……というわけです」
 ネリカは、手で首を切る仕草をした。
「狙われるのは特別な相手ではなく、無防備そうな男性に次々声をかけ、ついてきた相手を殺している様です。そして、今回殺される予定なのが、ハルスと言うわけです。幸い、今から行けば、声をかけられる前にハルスに追いつけます。先回りするなり、入れ替わるなりできるでしょう」
 ネリカは、続いてナーレの戦闘能力を説明する。
「さっきも言ったとおり、ナーレは大鎌を使用します。マスカレイド化していることもあり、かなりの手練れです。数名がかりで戦うしかないでしょう」
 さらに、ナーレは戦闘になると、鷲の配下マスカレイドを呼び出すらしい。
「幸いなのは、さほど強くないことと、数が3羽と少ないことですね。少ない人数で対処するか、先に一気に片付けてしまうか、ですね」
 ナーレを守ろうとするため、空中に逃げる恐れもないようだ。
「残念ながら、ナーレを救うことはできません。しかし、彼女を倒す事で、これ以上の被害は防ぐ事ができます。決して簡単な相手ではありませんが、みなさんなら倒せるはずです」
 ネリカはそう言って、決意に燃えるエンドブレイカー達の顔を見回した。
「それから、戦闘後、ナーレの死体は残ります。戦闘現場を見られないように、それに倒し足した後は速やかに現場を離れるように、注意して下さい。万一見られたりしたら、殺人事件の犯人扱いされ、都市警備隊での活動ができなくなるかも知れません」
 ネリカは最後にそう付け加えると、一行に向かって深々と頭を下げた 


マスターからのコメントを見る
参加者
フローズヴィトニル・ジェイド(c00042)
つらつらと・イル(c00426)
オレンジねこの運び屋・リン(c00726)
弓の狩猟者・ヴォン(c01994)
碧瑠璃・シュア(c02409)
彼誰・ルアダ(c03896)
雷牙瞬風・エリオス(c07140)
首苅執行人・アリスティド(c11138)
落破のマークの・セイ(c12887)
紋章学士・テオドール(c17135)

<リプレイ>

●街角の誘い
 ハルスは、酔っていた。無闇に幸せな気分のまま、千鳥足で家路をたどる。
「そこのお兄さん」
 暗闇から声がかけられ、ハルスは振り返る。そこに立っていたのは、紋章学士・テオドール(c17135)だった。
「向こうにいる女の人に、お兄さんを呼んで来てって頼まれてね。すっごい美人だったけど……お兄さんの知り合い? 羨ましいなー」
 テオドールが用意していた台詞を述べる。ハルスの顔が、訝しさと嬉しさで複雑に歪む。少しの間逡巡していたハルスだが、結局テオドールに教えられた方へと歩いていった。
 それと入れ替わるように、歩いてきたのは彼誰・ルアダ(c03896)だった。
「嫁さん以外に興味ないんだけどねェ」
 そんな言葉を呟きつつ、ほろ酔い状態を装っている。飲んではいないのだが、周辺には酒の匂いが漂っている。服に酒を染みこませておいたおかげだ。
 足をふらつかせつつ歩いていたルアダに、女性が声をかけてきた。ナーレだ。少しのやりとりの後、2人は暗闇へと消えていく。
「よし。成功したみたいだね」
 影から動きを見守っていたつらつらと・イル(c00426)がつぶやく。その言葉に呼応するかのように、ひそんでいたエンドブレイカー達が動き出す。
 首苅執行人・アリスティド(c11138)が、エンドブレイカー達の先頭に立ち、人目につかない道を指し示す。町に漂う酒の香りに、落破のマークの・セイ(c12887)は思わず喉を鳴らす。
「労働帰りの酒、ってのは美味いよなぁ……」
 セイの言葉に、アリスティドは振り返り、口に人差し指を立ててしい、という仕草をした。
「おしずか、に。彼女にばれるよ、……とはいえ僕らは眼中になさそうだけれども」
 アリスティドが言う。確かに、ナーレは周囲の事をほとんど気にしていないようで、尾行は容易だ。
 後方からは、弓の狩猟者・ヴォン(c01994)がついて来ている。黒色のフードとマントに身を包み、暗闇に溶け込むようにして進む。酒場から漂う濃厚な酒の匂いに、ヴォンは思わず顔をしかめた。
「……酒は好かん」
 イルは、緊張した面持ちを浮かべていた。その手には、ルアダから預かったアイスレイピア、無銘が抱えられている。他人の武器を預かっている状況が、イルの責任感を刺激していた。
 暗闇の路地を駆け抜ける一行の頭上、闇夜の空を、駆け抜ける影が二つ。オレンジねこの運び屋・リン(c00726)と、碧瑠璃・シュア(c02409)だ。建物の屋根は、スカイランナーの2人にとっては道となんら変わらない。屋根と屋根の狭間を飛び越え、2人は進んでいく。
 フローズヴィトニル・ジェイド(c00042)は、戦いの予感に胸を躍らせていた。一同の前の方を進んでいるのは、ナーレにいち早く接敵することを考えているのだろう。対照的に、雷牙瞬風・エリオス(c07140)は少し離れてついて来ている。単に進むだけでなく、帰り道も考えに入れているようだ。
 やがて、目標の場所にたどり着き、ナーレは立ち止まった。同じく立ち止まるルアダに向かい、ナーレは手にした大鎌を高々と振り上げる。勢いよく振り下ろされる鎌、しかしそこにルアダはいない。素早いステップでかわしたルアダは、笑みを浮かべてナーレを見ていた。
「殺されるわけにはいかないんでねぇ」
 その言葉を合図に、セイとアリスティドが灯りに火を付ける。周囲が急激に明るくなり、暗闇に紛れていたエンドブレイカー達の姿があらわになった。
 ルアダに駆け寄ったイルが、アイスレイピアを手渡す。
「イルありがとさん!」
 ルアダは、受け取ったアイスレイピアを持つ手をくるりと回した。
 ようやく状況を把握し、ナーレが怒声を上げた。
「私の邪魔をしようっての? 許さないから」
 大鎌を頭上に掲げ、振り回す。エンドブレイカー達の目は、その胸に張り付く仮面をとらえていた。ナーレの動作に、鷲も舞い降りてきた。
 場に、戦闘を控えた緊張感が満ちていた。

●エルフの鎌
 ナーレは、通路から見て奥側に陣取っていた。彼女と対峙しているのは、ジェイド、イル、ルアダ、セイの4人。通路側では、ヴォン、エリオス、アリスティド、テオドールと3羽の鷲が向き合っている。
 向き合ったままのにらみ合い、じりじりとした時間が流れる。先にマスカレイド側が動いた。ナーレが大鎌を振り上げ、鷲が飛び上がろうとする。
 その瞬間、ナーレの後方に、2つの影が飛び降りた。近くの建物の屋根に潜んでいたリンとシュアだ。飛び降りたリンは、そのままの勢いで鷲に向け足を振り抜く。衝撃波が、飛び上がりかけた鷲に命中した。
「どこ見てるんだい! こっちにもいるよ!」
 リンの叫びが路地裏に響いた。
 シュアは、急降下しつつ、ナーレに跳び蹴りを食らわせた。
「目の前だけじゃなくて後ろも気にしなくちゃ」
 蹴られたナーレの顔が、さらに怒りに歪む。
「なんなのよ! うっとうしい!」
 ナーレは無茶苦茶に鎌を振り回した。シュアは慌てず、バックステップで華麗にかわす。
 ナーレの後方に2人が飛び込んだ事で、エンドブレイカー達がナーレと鷲を包囲する形になった。
「さぁ、いくか。……戦いがいのある相手であってくれよ?」
 ジェイドが前に出た。他者には追いつけない、神速と呼ぶにふさわしい動きだ。左腕を獣化させ、凄まじい力で殴りつける。
 ナーレに初撃を叩き込んだシュアは、今度は鷲に狙いを向けた。
「雑魚には興味ないから、さっさとやられちゃってくれるかな」
 飛んでいる鷲よりも高く飛び上がると、落下する勢いで次々と鷲を蹴り飛ばす。
 セイはその腕を魔獣化させた。ただでさえ筋骨隆々の腕が、さらに太さを増し、恐ろしい姿となる。その腕を振り抜く強烈な一撃。しかし、一見小さく見えるナーレを吹き飛ばすことはできない。攻撃を受け止めたナーレに、セイは目を丸くする。
 そこに、背後から電光が轟いた。エリオスだ。彼の拳には手応えが残っているが、ナーレは苦しむ様子を見せない。少し苛立ちつつ、エリオスは腰の太刀を抜いた。右手に太刀を、左手に鞘を持った独特の構えで鷲に向かう。
「……さぁ、今回も僕に力を頂戴ね」
 イルが呟く。穏やかだったイルの周囲に、禍々しい邪気が満ちていく。イルはその邪気を身にまとい、ナーレをにらんだ。光線がナーレを貫き、邪気が今度はナーレを包み込む。イルは満足げな表情を浮かべ、鷲に狙いを変えた。
 ルアダははじめからナーレを狙っていた。振るったアイスレイピアから氷柱が産み出され、ナーレに直撃する。
「女王騎士さまのご機嫌如何かな」
 テオドールがクイーンランサーの紋章を描くと、虚空から風槍が飛び出した。五本槍が鷲を貫く。
 ヴォンに向かって鷲が飛び上がり、威嚇した。ヴォンは動じない。無言でそれに応えると、ロングボウを引き絞った。無数の矢が、3羽の鷲に襲いかかる。
 リンはその左足を振るった。発生した衝撃波が、狙い過たず鷲に当たり、その羽根を飛び散らせる。
 アリスティドの瞳が怪しく光輝いた。にらみつけるとナーレの胸が切り裂かれ、一条の血が流れ落ちる。そのアリスティドに鷲が飛びかかり、アリスティドは鷲に向き直る。
 もう2羽の鷲は、エリオスとシュアに向かった。舞い降りての爪を、エリオスは鞘で受け止め、シュアは飛び上がってかわす。
 ナーレは、頭上に抱え持った大鎌を、勢いよく振り回した。自分の身を守りながら、回した鎌でジェイドに斬りかかる。鎌はジェイドの武者鎧を斬り、そのままの勢いで守られていない脇腹も切り裂く。
「冷静さも失っちゃいない……、面白いじゃねえか」
 ジェイドは、敵の強さに笑みを浮かべた。手にした大剣“ゲシュタイン シュバルト”を投げつけ、その剣に飛び乗ってナーレへと突撃した。人間離れした動きを、しかしナーレは振り回した鎌でたたき落とす。攻撃を防がれたにも関わらず、ナーレの表情は喜びに満ちていた。
 その隙を見て、セイがハンマーを振り下ろした。かわすナーレだが、ハンマーは彼女の足元を砕いた。バランスを崩したナーレの構えが崩れる。すかさず、ルアダが黒鉄兵団の幻影を呼び出し、ナーレに突撃させる。
 ナーレも負けてはいない。その鎌を頭上に捧げ持つと、冷たい雨がナーレを取り囲む3人に降りかかる。
 ナーレを巡っては厳しい戦いを強いられているが、鷲と対峙したメンバーは、着実に鷲を追い詰めていた。
 エリオスが構えた太刀が電光を帯びた。その太刀で斬りつけられ、鷲が感電する。そこにイルが、さらに一瞬遅れてアリスティドが、邪剣を召喚した。2人の呼び出した邪剣が、交差するように鷲を切り刻み、その命を奪う。
 鷲の爪がシュアを襲う。傷は浅いが、その爪に宿った毒がシュアの体に回る。
「そんなの僕には効かないよー」
 シュアは息を整え、回りかけた毒を制する。そこから高々とジャンプすると、両足を揃えた華麗な跳び蹴り。鷲が力を失って地上に落ちる。
「ここはまかせてくれ」
 そこにヴォンの矢が叩き込まれた。鷲を無数の矢が貫き、動かぬ死骸へと変える。
 最後に残った鷲が舞い上がった。後方のテオドールを狙い、急降下してくちばしでつつく。まともに頭部を攻撃され、めまいを起こしたテオドールがよろめく。
「ただでさえクラクラしてんのに、倒れちまうだろ」
 テオドールは素早く黒鉄兵団の紋章をかざした。攻撃陣形を整えた黒鉄兵団が、鷲を凄まじい勢いで切り裂く。
 攻撃を受け、フラフラと飛び上がった鷲に、リンが衝撃波を叩き込んだ。
「あんたの動きが止まって見えるよ!」
 振り抜かれたリンの左足は光輝いていた。吹っ飛んで地面に叩きつけられた鷲は、永遠にその動きを止める。
 鷲を倒したメンバー達は、ナーレと戦う3人の元に駆けつけた。イルが魔法円を描いてジェイドを、ヴォンが癒しの風でルアダを癒し、セイは魔獣の血を活性化させて回復する。体勢を立て直した10人が、ナーレを取り囲んだ。

●砕かれた仮面
「フケツね。……ふふ、その装いや誘い文句も余程だとおもう、よ」
 前に出たアリスティドが、挑発的な言葉をナーレに浴びせる。
「君よりずっときれいに刈ってあげる、よ」
 アリスティドは手にした強靭大鎌を振るった。死の力を宿した刃が、ナーレの胴を横に薙ぐ。
「てやあぁぁぁ!!!」
 叫び声を上げたのはリンだった。素早い動きでナーレの懐に飛び込み、キックの連打。胸を幾度も蹴られたナーレがよろめく。
「成人ばっかり相手にしてないで僕とも遊ぼうよ♪」
 シュアはそう言いながら飛び上がり、急降下しながら体当たりを食らわせる。
 ナーレはその鎌を両手で握った。濃厚な死の匂いを振りまきながら、ジェイドに振り下ろす。凄まじい勢いの一撃がジェイドの首を刈り取った、かに思われたが、刃は僅かにそれ胸を傷つけていた。
「うおおおおおお!」
 ジェイドがうなり声を上げながら構えを取る。ジェイドの体に満ちる力が、傷さえもないものにしていく。ジェイドは楽しげににやりと笑い、獣化した腕を繰り出した。
「折角の美人さんだけど、その仮面をつけてる人は好みじゃないんだよね」
 テオドールが、ナーレの仮面に向かって言った。クイーンランサーの紋章を描くと、槍がナーレの体を貫く。
 傷だらけになったナーレは、うめくように独白をはじめた。信頼していた恋人に裏切られたこと。つらい日々、男性全てを憎みだしたこと。かつての恋人への恨み言……。
 エンドブレイカー達はその言葉を聞いていたが、同情こそすれ、情けをかけるものはいない。
 イルの召喚した邪剣が、ナーレの体からしたたる血を吸った。
 ヴォンのはき出した毒針が突き刺さり、ナーレの体に毒が回る。
 エリオスが稲光をまとった刃でナーレの体を切り裂いた。ナーレの体がしびれ、防御が崩れる。
「ルアダ、後はまかせた」
 エリオスの言葉に、ルアダがアイスレイピア、無銘を振るった。飛び出した無数の氷柱が、ナーレの体をつつむ。
「なん……でよ」
 うめくナーレの体が氷に包まれる。瞬間、ナーレを閉じ込めた氷像が出現し、一瞬で砕け散った。後には、仮面の消えたナーレの骸が残された。

●残された鎌
 エンドブレイカー達は、ナーレの骸を見下ろしていた。ルアダは遠くから軽く手を上げ、その魂に黙祷を捧げる。
 周囲を見回し、逃げるルートを探っていたイルとアリスティドが戻ってきた。
「ん、ついてきて。 こっちこっち!」
 アリスティドとイルが別々の道に向かい、残りの面々も二手に分かれて逃げはじめる。
「仕事も終わったから、ちっと飲んで帰るか!」
 軽口を叩きながら、セイも逃げる。
 エンドブレイカー達は、ほんの僅かな時間で逃げることに成功した。誰1人、姿を見られることは無かった。
 静寂と暗闇を取り戻した路地裏に、ナーレの骸とその鎌が残されていた。  



マスター:佐枝和人 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/11/17
  • 得票数:
  • カッコいい14 
  • せつない2 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。