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商人の悪癖

これまでの話

<オープニング>

「ふふ……、ぬしはどうしてこんな格好をしておるのかな?」
 右頬に痣をつけた初老のエルフが、こう嘲笑いつつ、右手で若いエルフの尻を撫でまわす。若いエルフは黒ワンピースの裾を押さえ、初老の指先が衣服の中に入り込まないようにとあがいてみせる。
「そ、それは、わたしがメイドだからです……」
 顔を赤らめ、若エルフが答える。
「そうか、ぬしはメイドであったか。じゃが、どうして、こんなものがついておるのかなぁ? ん〜?」
 老エルフの手が若エルフの前に移る。黒ワンピースを覆っていたエプロンをめくり、股間を撫でまわす。
「そ、そこはやめて、やめてくださいっ」
 若エルフが叫ぶ。その声に老エルフの興奮がますますかき立てられた。
 と、それを無粋に破るものがあった。タキシード姿の眉の太いエルフが戸口で片膝ついて報告していた。
「御主人様、どうやら賊のようです」
「ちっ、女装メイド遊戯の佳境じゃったというに、ほんに無粋なものじゃ。邪魔者はとっとと、貴様の一睨みで仕留めてしまえ」
「はっ、了解しました。あのような賊は、御主人様の大槌アタックに頼らずとも即刻退治できましょうぞ」
「うむ。ぬかるではないぞ。なんといっても、パートナーなしのダークエルフ相手にこのようなことに興じていると世間にばれては面倒だからな。確実に仕留めよ!」
 太眉エルフはそこから去る。しばらくすると賊は追い詰められていき、断末魔がいくつかあがるのだった。

「どうやらレジスタンスが次の作戦をはじめたようだ。ハーフエルフ移送終了の次の作戦をもう準備してあるとはレジスタンスも大したものだな」
 ハルバードの城塞騎士・ディアンナ(cn0083)はそういうと、蒸しさつまいもを一口頬張った。
「その作戦なのだが、ハイエルフのパートナーを亡くし、死んだことになっているダークエルフを捕まえているを、悪徳有力者から救い出すというものだそうだ」
 続けてもう一口囓る。喉につまりかけたようで水で流し込む。
「とはいえ、気がかりはある。先程、その作戦を担当予定のレジスタンスの瞳にエンディングを見てしまってな。マスカレイド化した悪徳商人とその執事たちに作戦担当が殺されるのが見えた」
 ディアンナはさつまいもを卓上に置く。焦げ茶の瞳でエンドブレイカーたちを見つめる。
「そこで諸君に願いたいのは、殺されるレジスタンスのかわりに任務を引き受け、マスカレイドである悪徳商人らを倒し、パートナーを失ったダークエルフたちを救い出すことだ」

 ディアンナは懐から羊皮紙を一枚とりだし、卓上に広げた。
「レジスタンスによれば、悪徳商人ルインダは貧民街に近い、人目につかない場所にダークエルフたちを隔離する屋敷を構えているようだ。二日に一度、悪徳商人は日が暮れてから執事を連れて、ここを訪れ、十代後半のダークエルフたち相手に……、まぁ、いろいろ興じるようだな。
 執事らしい格好をして、規定回数のノックの後の合言葉で開けてもらえるようだ。合言葉や屋敷の構造はこの羊皮紙にあるので、潜入や脱出についてはそう難しくはなさそうだ」
 羊皮紙には無駄なく必要な情報がまとめられているようだ。ダークエルフは、娯楽室の床に隠された階段の下に鉄格子で閉ざされた部屋に3人とらわれているようだ。
「退治すべき敵だが、大槌というかハンマー使いの悪徳商人と、デモニスタの技を使う執事が3人とある。このくらいの人数ならばさほど厳しくないとは思うが、悪徳商人がダークエルフ相手に活動中に襲いかかると、人質にされかねない。この辺りは注意しておく必要があるだろう」

 ディアンナはここまで語ると、羊皮紙を巻き、懐にしまう。
「大事なパートナーを失い傷ついているダークエルフ相手を捕らえ、自らの欲のはけ口にするような行為は許せぬ。傷口に塩を塗り込むようなそんな悪行、必ずや止めなければな!」
 真剣な眼差しでディアンナは見つめてきていた。


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参加者
みんなのお母さん・アルバート(c01917)
ペルソーナの翠・フォン(c03598)
犬虚な城塞騎士の・ルナ(c04264)
白日向・サレナ(c04797)
黒き太陽の騎士・ソル(c07090)
澪引の幽隠・ユーリ(c07808)
剣の魔法剣士・ナイアー(c15152)
穿光竜豪拳士・ソラス(c16243)
元気印の魔法少女・ミリィ(c16350)

NPC:ハルバードの城塞騎士・ディアンナ(cn0083)

<リプレイ>

●執事
 屋敷の扉を叩く音が断続的に響く。叩く握り拳の主――黒き太陽の騎士・ソル(c07090)の隣では、穿光竜豪拳士・ソラス(c16243)がタキシード姿で指を立て数えている。ソルの問いかける視線に、ソラスは指を動かす。この扉を開けてもらうために必要な回数を教える。
 しばらくしてソルの握り拳が止まった。数秒後、中から3回叩く音が聞こえた。
「中からの回数がこうだと次は7回か」
「そうなるね」
 ソラスとささやきあった後、ソルは再び扉を叩く。規定の回数を叩いた後、再び反応をうかがい、それに従いさらに叩く。これを複数回繰り返した後、中から男性の声が問いかけてきた。
「メイドはやっぱり?」
 ソルとソラスの視線が絡む。数瞬、視線をぶつけあわせた後、ソルは視線をそらしていた。音も立てずにため息を漏らしてから中に答える。
「男に限る!」
 扉の内側で細工をいじくる音がする。どうやら解錠してもらえたようだ。
 扉が開き、エルフが顔を覗かせる。屋敷の規模から考えるとこじんまりとした戸口だ。下手すれば従者用の勝手口の一般的なサイズのほうが大きいかもしれない。二人並んで通ることは難しいだろう。
「今日はなんだかぎこちなかったですね」
 そのエルフの開口一番に対し、執事姿で白々しく笑みを返す。
「気のせいさ」
 そう笑い声混じりに近寄るソルの拳が、使用人風の格好のエルフの腹部にめり込む。
 このエルフをかわきりに、二人はエルフの使用人たちを無力化していった。

 ソラスの狙い通り、この日中は悪徳商人ワ・ルインダは屋敷にはいなかった。彼のおつきの執事たちもいない屋敷には手練れは誰もおらず、二人が不意打ちに繰り出す大剣とシールドスピアに対処できる者はいなかったのだ。
 使用人の一人から全使用人を縛り上げたことを確認した後、二人は仲間を招き入れるのだった。

 屋敷の庭だ。
 緑の瞳が上に向けられた。様々な思いが込められた瞳はわずかに湿り気を湛えているように見えなくもない。
『どうしました』
 澪引の幽隠・ユーリ(c07808)の触れた手からの問いかけに、ペルソーナの翠・フォン(c03598)は笑みを返す。垣間見せていた、想いここにあらずといった表情はすでに抑えこみ、その緑の瞳には潤んでいた様子はなかった。
「……いえ。何でもございませんよ」
 ユーリは再び『マインド』で何か伝えようとしたものの、それより早く自信溢れる声が紡ぎ出された。
「中から反応があるまでの辛抱だ」
 剣の魔法剣士・ナイアー(c15152)の断言に異論はない。
「ルインダ様がお越しになる前の日中を狙ってここにきたのですから屋敷内に脅威となる執事もおらず、もう……そろそろかと」
 フォンが言い終えるのに前後して、みんなのお母さん・アルバート(c01917)が庭奥への注意を促す。
「ソラス様があちらで手を振ってお呼びです」
 一行は頷きあうと、潜んでいた庭の茂みから身を起こし母屋沿いに庭を奥へ向かった。
「あれぇ? 屋敷の人たち、もうやっつけちゃったんだ?」
 元気印の魔法少女・ミリィ(c16350)のこの一言は、食堂に入るや否や発せられたものだ。ソラスは苦笑いで答える。
「3人しかいなかったからね」
 続けたソルのぼやきには、犬虚な城塞騎士の・ルナ(c04264)が返す。
「しかも、爺婆の使用人ばかりで戦える者はいないときたもんだぜ」
「ダークエルフたちを地下牢に囚えていることを考えれば、日中は三人いれば十分だったのね。無駄に屋敷に人員を配置しないとはさすがはやり手の商人ってとこかしら」
 屋敷内は、エンドブレイカーたちと囚われのダークエルフたちを除けば、すでに動ける者はいなかった。屋敷に仕えし老使用人三人は食堂の脇の調理場に猿ぐつわの上、手首足首で縛られ転がされている。ソルらの調査によれば、これで屋敷の使用人は全員だ。
 アフテルが鞭で聞き出したところによれば、ルアンダの訪問はそろそろのようだ。気づけば、日が暮れかかっていた。
「ダークエルフは情報通り娯楽室の奥なのね……、ディアンナ、お願い」
「ふむ、ルナらも気をつけてな」
 ルナの呼びかけに応じ、ハルバードの城塞騎士・ディアンナ(cn0083)はダークエルフ保護に向かう。だが、その背に声がかかった。
「メイドの恰好のままだと気の毒だろう」
 ナイアー、ソムニウムが服を投げてきた。男物の衣装に、ローブ類だ。
「なかなか気がきくな、大したものだ。彼らも意に沿わぬ姿をさらし続けたくはないだろうからな……、その姿は私の胸にだけとどめておくことにしよう」
「え……、女装メイド姿を満喫できるのはディアンナだけ、うらや……、その倒錯的な世界から早く抜けさせてあげないとね」
「メイドって女の子の衣装、だよね……? 男の人が着てても似合うのかな? よく分からないから一度見てみたい気持ちもあったんだけど。うん」
 ルナ、白日向・サレナ(c04797)の呟きを脇に流し、ディアンナは奥に駆け去っていった。

●豪商
 エンドブレイカーたちは玄関で、屋敷の主ワ・ルインダの訪れを待つ。屋敷の占拠に気づかれないうちに、狭い入口で襲いかかれば、態勢の整わない敵の不意を突くことができるという寸法だ。
「傷付いた方を陥れる行為は感心致しませんね。救出は勿論、仕置きも手を抜かずにまいりましょう」
「ましてや、己の欲望のためとは……捨ておけませんね」
 フォン、アルバートが気炎を吐けば、サレナ、ミリィも負けてはいない。
「悪いことをする人は放置しておけないの。うん、がんばる」
「変なことをするおじいちゃんは許せないのです。皆でやっつけちゃうのですよ〜」
 と、そこでソラスが人差し指を口に当ててみせた。皆の声が収まった静寂の中に、足音が飛び込んでくる。
「どおれ、今宵はいかに弄ぼうかのう」
 外からこんな感じに聞こえた。本人は機嫌いい声音なのだろうが、なんともねちっぽい。複数の足音が続く。レジスタンスからの情報とディアンナの視たエンディングからすると、おそらく悪徳商人ルインダと手下の執事三人だ。玄関に潜む者の何人かは緊張に息を呑む。
 扉が叩かれる。リズミカルな音が断続的に響く。ソラスはメモ片手に合いの手のように扉を叩き返し、最後に合言葉を問いかける。
「メイドはやっぱり!?」
 口にしている内容はさておき、その表情は真剣そのものだ。
「男に限る!」
「くぅ、シンちゃんに早く会いたいのう〜♪」
 合言葉を返した落ち着いた声の執事を押しのけ、ねちっこい声が扉を押し開けた。
 右頬に痣をつけた初老のエルフが、玄関に姿を現した。

「城塞騎士がそのような軽装に遅れはとらない」
 芝居めいた執事姿でルナが肉迫する。ナイトランス『ルナティックランサー』が唸りをあげ、屋敷内の異変に気づけない初老のルインダの下腹を大きく抉る。
 ルインダは扉をくぐる途中の執事に叫ぶ。
「よ、よくわからぬが、とりあえず愛槌を持て、急げ」
 ねちっこい求めに応じて差し出された槌だが、サレナの打ち放ったハートの嵐の勢いになかなか掴まれなかった。
「ハートクエイクアローは心、射抜く技――、誰も逃がさないから……!」
「ええい、鬱陶しいわい。わしはわしは早くシンちゃんと……げへへ」
 嗤う商人の下半身に仮面が不気味に見える。マスカレイドの証であるそれを見据え、ユーリは許せぬ思いを淡々と滲ませ睨みつける。
「貴方方の所業、卑劣であり到底許されることではありません」
 黒い光がルインダの有り余る命を蝕む。
「そ、そのような光、太眉の技で見慣れておるわい」
 口とは裏腹に、わずかに怯えを見せる。
「パートナーを失ったダークエルフの弱みに付込んで自分の欲望を満たす所業を見過ごす訳にはいかないね。今までの鍛錬で培ったこの力で悪しき終焉に終焉を齎すよ」
 ソラスが連続して銀の突きを放つ。シールドスピア『Agateram』が、初老エルフの値の張りそうな衣装に穴を開け、赤い血を垂らしていく。
「よいしょっと」
 ミリィの箒兼用の仕込み杖の柄が複雑な文様を描ききった。そこから現れた兵団が大きな槌を抱き、ルインダに突撃する。その勢いは肥えきった肉体を吹き飛ばすに十分であった。戸口に飛ばされたルインダは槌を抱いた執事に受け止められる。
「ご主人様、お気を確かに」
「その格好、新入りの執事か? 新任早々、ご主人様に刃向かうとは不埒な奴め」
 ルインダを押し、狭い戸口を器用にともに入る執事三人が口々に非難してくる。それに動じることもなく、ナイアーは雷を放つ。
「あの、大槌の一撃を受ける訳にはいかない」
 槌を抱いた執事がそれを避けようと退き、主人との距離が開く。そこに割り込むのは、黒鎧に黒仮面の男だ。
「我はブラックサン、総てを呑み込む黒き太陽だ」
 太陽の炎を模したような装飾の大剣『ソーラーブレイカー』が、炎の激しさで大きく振られた。槌の使い手、抱き手双方からの返り血を浴び、ブラックサンは使い手たるルインダに叫ぶ。
「己の歪んだ欲望のために無辜の民草、相棒を失った者を利用するなど言語道断。その代償、貴様等の命で贖え!」
「どうせ最早なきに等しい命、わしが有効活用してやって何が悪いか」
 全身から血を流しつつ、ルインダが叫び返す。
「悪い事をした子に、お仕置きするのは当たり前ですよ」
 二つ名の如く、母が教え諭すようにアルバートが口にする。だが、ルインダに悪さをしているという様子はみられない。そこへ星霊バルカンの炎が迫っていく。
「アータル様、彼の方に罰をお与えください」
 炎が傷口を燃やしていく。その痛みに無様な叫びが漏れ出している。
「ルインダ様、己の悪をお知りになる時です」
 フォンが舞う。扇が巻き起こした烈風とともに、フォンはルインダの全身を切り裂いていく。
「む、むむ、そ、その表情、いいぞぅ、いいぞう。ほ、惚れてしまいそうじゃ!」
 その苦痛に何か開眼したように悪徳商人は叫ぶ。だが、その思いもむなしく、フォンに笑顔で返された。
「御遠慮いたします」
 その脇では、クエヒコの『トラップヴァイン』が執事を主人に近づけさせぬようと絡みついていた。
 孤立した悪徳商人をエンドブレイカーたちが打ち続ける。執事らは主を救い出そうとするものの、それは果たせなかった。
「これで仕舞いだ」
 ルナのナイトランスが唸りをあげめり込み、仮面を打ち砕いた。
「えーと、次はどちら?」
 サレナの弓が執事らに向けられる。
「ご、ご主人様が?」
「ルインダ様に勝つような連中に我らがかなうわけがない」
「お、おぼえておくのだな!」
 執事らは口々に言い放ち、外へと逃げていく。
「奴らも気になるが、今日はダークエルフたちの救出をまずは優先させなければな」
 ナイアーの言葉に、一同は頷き、慌ててダークエルフ救出とルインダの遺体処分に移っていった。

●囚人
「一応、発見を遅らせておかないとな」
 ナイアーが遺体を屋敷奥の目立たぬ部屋に運び込む。その遺体側に、いつの間にか合流していたソルがカードを載せる。『この者、弱者を己が倒錯趣味の捌け口にする者也』という語句が読まれるのは数刻の後だ。
 戦いのあった玄関付近は、アルバートの星霊ブラウニーらのがんばりですっかりきれいなものだ。老使用人たちの掃除よりもぴかぴかだ。

 掃除の終わったところに、ディアンナの連れ出してきたダークエルフ三人が姿を見せた。その姿はローブに隠されている。
「もう大丈夫でございます」
「笑っていれば幸せは向こうからやってきてくれるのです」
「パートナーがいなくなっても、生きていてほしい……」
 フォン、ミリィ、サレナがダークエルフを労う一方、ルナはディアンナに囁き、女装メイド姿の詳細を尋ねていた。
「そんなことまで……!? 新しい世界が開けそう……」
「ルナの執事姿同様、見栄えいい姿だったな。性別を超えて似合う『こーでねえと』というものがあるのだな」
「ウボァー」
 叫ぶルナを、兎のつけ耳でメイド姿のツルギがため息混じりに呟いている。
「良く判らない趣味ね」

「そろそろ急がないといけませんね。では、裏口から逃げましょう」
 ユーリの言葉に、皆が動き出す。執事たちが増援を連れてくるかもしれないし、そもそも巡回の騎士団に見つかるかもしれない。ダークエルフたちという守るべき存在もいることだし、逃げるに越したことはない。
「エルフヘイムの有力者のがマスカレードとは……しかし、こうも都合よくパートナー無しのダークエルフが見つかるものなのか?」
 逃げつつもナイアーがぼやく。ソルが代表して肩をすくめて返すのだった。
「さてな。ま、あとは騎士団の連中がうまくやってくれるさ」




マスター:珠沙命蓮 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2010/12/04
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