ステータス画面

絶望は優しい顔で愛をささやく

<オープニング>

 愛はどこにありますか?

「ひっ……。きゃああああああ!」
 悲鳴が聞こえて振り返った。
 細い細い路地裏の先で、男女がこちらに視線を向けていた。恐怖で引きつった女の唇から声が漏れている。
 見られちゃった。
 私はしゃがみ込んだまま振り返る。震える唇で笑みを浮かべた。ずるりと私の腕を掴んでいた女の手から力が抜けた。服が皺になってぬくもりが残る。暖かい。あたたかかったものが地面に水音を立てて落ちた。
 そう、私の足元にはこれまた男女が倒れていた。馬鹿な女。そして馬鹿な男。襲いかかった私に、お互いを押しつけるように自分だけでも逃げようとしていた。この二人がつい先ほどまで、愛を誓い合っていたのを私は知っている。
「……?」
 よくわからない。なんだかよくわからないけれども今凄く胸が痛かった。
 胸に手を当てて立ち上がる。胸が痛い。胸が痛い。あの人に刺された胸が痛い。いや、刺されてなんかいないはずだ。でも、ならこの痛みは、
「う、うわあああっ!」
 よたよた立ち上がる私を恐れて、悲鳴を上げて男が走り出した。一緒にいた女の腕を振り払って。
「や、いや! おいてかないで……!」
 女の悲鳴も届かない。一目散に背を向けて逃げ去ろうとしたその背中に、
 真っ黒い鎌が突き刺さった。鎌。どこから来たのだろう。よくわからないけれども真っ黒い鎌だ。それに背中を貫かれて男は倒れた。
「ぅ……、ぁ……」
 女が引き攣った顔で私を見る。私も視線をたどる。黒い鎌は私の黒い髪から出来ていて、それがひゅうっと馬鹿みたいに伸びて男の人を切り刻んだらしい。
 腰を抜かす女性に、私は近づく。黒い髪は縮んで、私の髪の毛に収まった。……あの人が、愛していると言ってくれたこの長い髪。
 じくじく、じくじく、私が斬られた訳じゃないのに胸が痛む。
「ねえ」
 腰を抜かす女の前にしゃがみ込む。さっきの焼き直しだ。
 さっきの恋人も、答えてくれなかった。この人は、答えてくれるだろうか。
「愛はどこにありますか、愛とはいったい何ですか?」
「ぁ……」
 陸に上がった魚みたいに、女は口をぱくぱくさせる。……さっきと同じで、答えてくれなくて、
「貴方を見捨てた男でも、愛することが出来ますか?」
 答えはない。私の様子に女は慌てて立ち上がり逃げ去ろうとした。……だからその前に、
 また髪が伸びた。髪は鎌の形を取って直ぐ傍にいた彼女を襲う。血が飛び散って、その返り血が顔にかかった。悲鳴を私は黙って聞いた。
「あぁ……」
 頬を伝うのが血か涙か、私にはもう解らなかった。
「愛はどこにありますか。愛とはいったい何ですか。愛してるという言葉は、いったい何の意味があるの」
 呟きに答える者はいなかった。

 扇の群竜士・ベル(cn0022)は渋い顔で冷めたコーヒーを啜った。
 何から語ろうか、思案しているような顔だった。
「……今から言うことを、お兄さん達は聞いたことにしてもいいし、聞かなかったことにしてもいい」
 迷いの末に、彼はそう口にした。
「あるところに、恋人同士の男女がいた。お互い愛し合い、結婚の約束までしていた。一見して幸せそうな恋人同士に見えた。……けれどある日、女は男の人に殺されかけた。斧を持って襲いかかる彼に、彼女は必死で逃げて、追いつかれて、殺されようとして、もみ合いになって彼の方が転倒して頭を打ちそのまま死んでしまう」
 それは、ある意味でどこにでもある普通の事件で、マスカレイドなんかは関わってないのだと彼は続け、
「たちの悪いことに、彼が彼女を殺す理由がどこにも見つからなかったんだ。彼が死んでしまったから、その理由もわからない。勿論彼女にも解らない。彼女はずっと、彼のことを愛していたし、彼もそうだと信じていたから。彼女は解らなくて、彷徨って彷徨って、そして、マスカレイドになってしまった」
 ベルはポケットから紙を出した。一人の女性が描かれていた。
「そのマスカレイドの名前を、アマナという」
 一呼吸置く。それから、「ここからはちゃんと聞いてね」と、付け足した。現場周辺の地図を取り出す。
「彼女が出てくるのは、人気がありそうでなさそうな路地裏。というのも、繁華街が直ぐ近くにあって、恋人達がよく抜け道なんかに使う道なんだ。人が多いと、彼女も手を出してこない。だいたい二人きりでいる恋人を狙うようだけれども、一人でも拘りはないみたい。周囲に人気がないから、襲ってくるとは思うよ」
 万全を期すなら恋人同士を装うのも良いよね、とベルは言った。
「彼女は主に髪の毛を鎌のようなものに変化させて戦う。また、声に不思議な力があるみたい。詳細はその髪に書いておいたから、それを確認しておいてね。後、配下に黒い烏1体を召喚するよ」
 そう言って、ベルは似顔絵の上に伏せた紙をもう一枚、置いた。
「……僕は全く残念じゃないけど、マスカレイドになったエルフは救うことが出来ないんだ。だから、倒すしかないんだよ」
 でも、戦闘後死体は残ってしまうから、出来る限り早くその場を離れるようにしてね。と、ベルは注意を付け足した。
「愛って何なのかって、彼女は言ってた」
 説明を終えて、ベルはぽつりと呟いた。
「彼女は、なんて言って欲しかったのかな……」


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参加者
遊悠月・ルゥ(c00315)
シュネル・ハインツ(c00736)
白鴉・タルヤ(c02488)
空色ラメント・リョウ(c04473)
烏珠の願い・スエ(c04520)
黒後家蜘蛛・イシューカル(c07377)
スケルツァンド・ミレイユ(c13135)
月下に詠う・ツクヨミ(c13634)
翼星・ティル(c13687)
白コートの・ブレイク(c13718)

<リプレイ>

●探して
 私は歩く。一人で歩く。
 ときどきあの人と繋いでたはずの右手が寂しいけれど、
 たった一人で歩くしかない。

 目の前に男女の二人連れがいた。
 恋人同士だろうか。仲がよさそうに見える。
 私は一人、ふらふらと、
 吸い寄せられるよう、彼らのもとへ。
 貴方は答えを知っていますか?
 どうか誰か、教えてください。
 どうか誰か、教えてください。
 愛はどこにありますか。
 愛とは一体何ですか。

 黒後家蜘蛛・イシューカル(c07377)の耳に、密やかな足音が届いた。
 そっと傍らを歩く空色ラメント・リョウ(c04473)の服の袖を引と、耳元で囁いた。
「……彼女だ。間違いない」
「そうみたいだねぇ」
 リョウもそっと耳元で囁き返す。はたから見れば恋人同士に見えるだろう。
 肩越しに振り返れば、長い黒髪の女性が二人のあとをついてくるのがわかる。似顔絵の特徴と合致した。どこか遠くを見るような眼をしたその名をアマナという。
 二人は路地裏を曲がる。人気のない場所へ、人気のない場所へと誘い込む。疑いもせずに彼女はついてきた。その更に後ろに、黒衣に身を包んだ遊悠月・ルゥ(c00315)が彼女を追いかける。ルゥに気付いているのか、いないのか。アマナが後ろを気にする様子はない。
 人気のない場所、人気のない場所へと移動していく二人に不審を感じていないのだろうか。ルゥがそっと、気付かれないように彼女の様子を覗うと、
 彼女の表情が目に入った。
 泣いてるような顔だった。
「……」
 ルゥはそっと息を吐き、呼吸を整えて静かに彼女を追いかけた。

「愛は全てを打ち負かす。そう、愛の前には誰もが喜んで屈服するはずなのだが、な……フッ」
 シュネル・ハインツ(c00736)が愛用のハルバード“エクスティンクトゥス”の手入れをしながら冷たい笑みを浮かべている。白鴉・タルヤ(c02488)は目を伏せた。
「他人を愛したことのない私には、難しい話だな……」
「愛情と憎悪は、対称にあるものではない。とすれば、その人を殺す事で、その人の時間を、手に入れる。そういう考えも、無くは無い。のかもしれない」
 烏珠の願い・スエ(c04520)も表情の伺えない顔で小さく呟いた。互いにまだ恋愛というものがピンと来ない身である。ましてや他人の気持ちなど、想像するしかないのだろうけれども……。
 待ち伏せに適した場所を探し、住人達に殺人鬼が出るという噂を軽く流した後、工事中という札のついたロープを張ってしまえば、することはもう無かった。後は待って、狩るだけだ。
「相手の人が、死んじゃったから、よくわからないよね」
 月下に詠う・ツクヨミ(c13634)がぐ、と掌を握ったり開いたりして、緊張をほぐしている。マスカレイドを相手にするのは初めてだから、余計に気を張っていた。
「……確かに、一番、一番大切って人はいるわ……」
 控えめに、翼星・ティル(c13687)が言う。彼女もまた人見知りをするけれども、緊張気味にツクヨミに返した。
「でも、動物も、あの人以外の人も、私の傍にいて、優しい気持ちをくれる……。彼女に、そういう人はいなかったのかしら。他にもあった筈の色々な形の愛情が解らなかったのかな……彼女は」
「うん……。僕も、好きな人とかは置いておいて、優しくしてくれる人はいっぱいいるよ」
 そっと頷くツクヨミ。白コートの・ブレイク(c13718)が、そっと己の白いコートに視線を落とした。
「愛は何か……どこに、か。『愛は唯の言葉。形も無ければ、説明することもできない』って、言ってたな……」
 そんなものを探していたから、彼女は迷子になってしまったのだろう。
「寒い……。この季節はただ待つ身には辛い季節だねぇ」
 タルヤが息を手に吹きかける。
「……来たねぇ」
 スケルツァンド・ミレイユ(c13135)が、小さく呟いた。遠くからリョウとイシューカルが、その後を追うようにアマナが歩いてくるのが見えた。
「愛を忘れた小鳥さん、なんてね。あたしの歌でその苦しみが癒せるなら、好きなだけ歌ってあげるよ。残念なのは、決して救えないことだけどね……」
 出来ればもっと早く会いたかったねと、ミレイユは囁くように呟いた。

●嘆いて
 イシューカルとリョウは腕を組んで歩く。こうしていると何となくイシューカルは昔のことを思い出すかもしれない。昔の話だ。くすりと笑った。
「気を付けるんだよ。そろそろ来る」
 翼の音が聞こえた。彼女が烏を召喚したのだろう。リョウは軽く身を屈めて、彼女の耳元で答えた。
「了解。ありがとう」
 へらりと笑みを浮かべたその瞬間、烏が奇声を上げて飛んだ。二人の目の前に降りる。二人は足を止めた。
「待って」
 直ぐ後ろから声が聞こえた。振り返ると、烏はアマナの頭上に戻る。
「教えて欲しいことがあるの」
 するりとアマナの黒髪が伸びる。鎌の形を作り出した。
「愛とは何か、かい?」
 リョウが先に問う。不思議そうな顔でアマナは頷いた。
「教えて欲しいの。ずっとずっと探していたの。けれど見つからないの」
「難しい問いだねぇ。だってその答えは人によって様々だもの」
 考え込むようなそぶり。その間にルゥがアマナの後ろに忍び寄る。待機していたハインツ達が攻撃の準備を整える。けれど彼女はそれにも気付かぬまま、
「俺からすれば、愛は狂気と紙一重だよ。だってキミはそれほどまでに彼を愛していたから此処でこうやって殺戮を繰り返し、愛とは何かを問うている」
「愛はそれぞれの胸の中に存在するものだ。だがそれはとても壊れやすいものだ。だからこそ人は言葉でそれを確かなものにするために愛を囁きあう」
 リョウの言葉に、イシューカルが喉元に手をやって続ける。
「愛を信じれなくなった時それは哀へと変わるのだと私は思う」
「……は。そんなの、答えになってない」
 アマナは苦しげに顔を歪める。その背中に、
「当たり前だよ。愛の形なんて千差万別。何と問われても困るじゃないか。僕は、信じあい、受け止めあい、支えるものだと思うよ」
 ルゥが背後から吹き矢を飛ばした。
「シュネルシュラーク団長ハインツが一撃! 我は死をも、ましてや報われなかった愛をも打ち負かさん!」
 高々と声が響き渡る。リョウ達の合間を縫うように、ハインツが踊り出して彼女の脇腹を突き刺した。
「残念ながら愛には詳しくないが貴方が迎えたような理不尽な結末なら、いくらでも知ってるぞ。世界が公平だなんて、誰が言った?」
 冷たい笑みを浮かべるハインツに、アマナは痛みを感じないかのように首を振る。
「私は、知りたいの。公平じゃなくても、知りたいの」
「キミに恨みはないけど……死んでもらうよ」
 背後に忍び寄ったタルヤがナイフを一閃させた。
「……君を救うには、もう、それしかないから」
 タルヤが言う。言いながら考える。救うのは、彼女を本当に救うのは、死なのだろうか。きっと、彼女は答えが欲しいのだろう。……でも、自分には出来ないのだ。人を愛したことのない、タルヤには。
「愛って、形あるものではないから、どこにでもあるし、どこにもない。そういうものでは、ないだろうか?」
 スエも彼女に詰め寄って、目にも留まらぬ早さで彼女を切り裂く。やはり愛を知らないスエの、彼女なりの答えだった。切り刻まれて血が落ちると、アマナは髪の毛を振るった。イシューカルがそれを腕に受ける。
「下がるかい?」
 リョウが気遣いつつ言うと、イシューカルは肩を竦めた。
「いらないな。共に戦おう。仮の恋人同士としてね」
 冗談めかした彼女の言葉。
「アマナよ、これが貴女(きみ)に贈れるせめてもの手向けの曲だ」
 血が落ちた手で、大きな竪琴を奏でる。頭上の烏が一声鳴いて急降下した。ティルがそのクチバシを受ける。痛みに唇を噛むも反撃は烏ではなくアマナに向けて。氷柱を打ち出す。
「貴方の周りには、誰もいなかったの? 彼しか、いなかったの?」
 聞かずにはいられなかった。ティルの周囲にいる人の顔を一人一人、思い出す。ティルの問いに彼女は息を吐いた。
「覚えてないの」
「それほど、好きだった?」
「解らないの。心はどこかに行ってしまった」
 両手で彼女は顔を覆おうとして、出来なかった。その腕がティルの攻撃により凍結していたからだ。ブレイクが月光のように緩やかに刀で弧を描く。彼女の身体を、左の肩口から右脇腹へと。血が噴き出して彼女の服が赤く染まる。
「僕は、こう思うんだ。感じることができれば、それは力になるんだ、と。誰かを想う気持ちに言葉はいらない。それを、感じることが出来るか出来ないかだよ。『世界は愛で溢れている』。……最後の言葉は受け売りだけれどもね」
 一呼吸。おいて、アマナはやっぱり泣いてるような顔をしていたので、ブレイクは言葉を続けた。
「キミが愛を感じられない? それは、嘘だ。キミが抱える胸の痛みこそが、キミの愛の在処だ!」
 ミレイユが優しく竪琴を奏でる。嘆きのセレナーデは彼女の心を包むように縛る。
「自分の心も忘れちゃったのかい」
 彼女が求めているものは自分の心の中にあると思うんだと、ミレイユもそう言った。曲に縛られ、彼女は息をつく。
「あの人も私を、愛していると言ってくれたの」
「そうなのかい? あんたの話を聞かせておくれ。あんたの愛は、あんたの中にあったのだろう?」
「……」
 言葉を拒むように、烏が一声鳴いて急降下する。ハインツがその先をとっさにハルバートで迎え撃つ。
「未確認機の接近を確認……! 無粋なことはさせぬよ。……フッ」
 反撃にしゃがれた声を上げて烏は落ちる。動かなくなった烏にアマナはちらりと目をやって、
「……信じたかったんだね、アマナさん」
 ツクヨミの言葉に、ゆっくりと目を閉じた。
「愛していたの。彼も一緒だと思ってた」
「ぜんぶ、悪い夢だったんだよ」
「そう、なのかな」
 唇を開く。声を震わせて彼女は泣いた。だが彼女はマスカレイドで、その泣き声すらも周囲に響いて傷を与えていく。
「君の彼に何があったか分らないけれど、君を襲った事は余程の事があったのかも。……そう信じてあげても良いんじゃないかな?」
 ルゥの言葉は穏やかだった。そうやって信じるしか道はなかったのかも知れない。アマナは泣きながら小さく頷いた。
「そうね。そうかもしれないわ」
「ごめんね、痛いのは直ぐに済むから。せめて幸せな夢を見れるように……」
 ツクヨミの言葉に彼女は目を開く。もう、泣きそうな顔はしていなかった。
「良いの。もっと痛かったから」
 イシューカルが一歩踏み出してソードハープを十字に振るった。
「貴女(きみ)の逝く先に光があらんことを」

 身体が十字に切り裂かれる。
 脚がもつれて仰向けに落ちた。
 あの子は痛いと言ったけれど、痛くなんて無かった。
 あのとき。
 彼に髪を掴まれて斧を振り上げられたとき。
 その時の方が、どこも痛くないのによっぽど痛かったから……。

●歩き出す
「キミの悲しみは私にはまだ分からない。しかし、いつかは私にもキミの気持ちが分かる時がくると思う」
 倒れて息絶えたアマナを見下ろして、タルヤはそっと胸に手を当てて呟いた。
 解りたいのだろうかと自問自答する。答えは出ない。ただ、
「愛に答えを望む君が、来世でその答えを得て幸せに暮らせることを祈る。……眠れ、安らかに……」
 きっとそれほどまでに人を愛することが出来たなら、それは決して悪いことではないはずだとタルヤはゆっくりと彼女に背を向けた。まだ見ぬ誰かを思い描き、きり、と唇を噛んだ。それでも、彼女のようにはなるまいとその胸に刻んで彼女に背を向け歩き出した。
「そもそも、愛に理由を、意味を求めたのが――アマナ、哀れな貴方の、文字通り致命的な間違いだった、な……」
 ハインツも無言で背を向けた。もう笑みは消えていた。
 スエも目を伏せて背を向ける。
「ボクには、よく、解らない。……いつかボクも、好きな人が出来たら……」
 解るのか。解りたくないのか。呟いても答えは出ない。答えを出したいのかも、スエにはよくわからなかった。
「おやすみなさい」
 そっとツクヨミが囁いて、二人はその場を離れていく。
「……向こうで恋人と幸せに」
 埋葬している余裕もないから、せめてとルゥは手を合わせてその場を去る。
「……愛は、ちゃんとあったよ」
 ブレイクは呟く。そして白いコートの上から、己の胸に手を当てた。
「そう、『あの子』を思い出して痛む僕の胸の痛みと同じなんだろうね」
 昔のマスターを思い出してブレイクは軽く祈る。
「……」
 ティルはしゃがみ込み、そっとアマナのその髪を撫でた。
「皆が、……そしてあの人が居る限り私は大丈夫」
 灰色の髪と紫紺の持ち主の男性を、そっと思い出して。ティルは自問自答する。
「でも、あの人に私が殺されそうになったら……? そして、その理由を告げぬままあの人が死んでしまったら……?」
「おかしな子だね。大丈夫だよ。あんた、さっきも自分で言っていただろう? 一人だけじゃない、いろんな人が傍にいてあんたに手を差し伸べてくれてるんだ。それにあんたが気付けば、必ず誰かが助けてくれるよ」
 ミレイユがそう言って微笑む。軽くソードハープを弾くと、葬送曲が流れ出した。ほんの少しでもいい、彼女のために。
「愛って、結局は自分が決めることなんだよねぇ。ひどい扱いを受けたって自分が納得すればそれで満足できるし、逆にどんなに愛されてたって自分が納得できなければ不満。愛ってそういうものじゃないかな」
「そう、自分次第ということだな」
 ミレイユの言葉に、イシューカルは頷く。まあ、と、ミレイユは髪を掻き上げた。
「世の中、全ての謎が解けるわけじゃないけれども、その子の話も聞きたかったね」
 死んだアマナの恋人のことを想い、ミレイユは竪琴を弾く。
「さて芝居はここまでだな。ふふっ、まあ良い男になる素質は持っていると思う。偽者じゃなくて本当に隣に立つ人のために磨くといいさ」
 不意に調子を変えるように、イシューカルは言った。声をかけられてリョウは顔を上げる。へらりと笑みを浮かべた。
「ああ、手厳しいなあ。それじゃあ、俺たちもそろそろ引き上げようか」
 誰かに見られてはかなわないというその言葉に、各々が頷いて散っていく。共に帰ることもせずに、怪しまれないようにそれぞれ、夜の中に姿を消した。
「……キミの望む答えは得られたかい? 美しく純粋な愛情ほど、何と脆い事だろうね」
 最後に一人残り、リョウは飴玉を口の中で転がした。戦闘が終わり、真っ先に口に投げ入れたものだった。
「……嗚呼、この味……どうやらハズレをひいたみたい」
 笑顔にほんの少しだけ影が乗る。そうして彼もまた歩き出し、闇の中へと消えていった。

 後には唯、女の死体が一つ残された。
 どういうわけかその顔は、少し微笑んでいたという。



マスター:ふじもりみきや 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/12/03
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