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リヴァイアサン大祭:雪迷宮のラビリンス・ツリー

<オープニング>

 12月24日は、リヴァイアサン大祭だ。
 1年に1度、この日だけ、エルフヘイムの外周を支える星霊建築の元となっている、水の星霊『リヴァイアサン』が半実体化して空中を飛び回る。
 すると、空からは雪が降り続き、泉は温泉に変わり、小川には甘い蜜が流れるという……。
 そんなリヴァイアサン大祭の日は、エルフ達にとって『パートナー』との絆を尊重し、静かに世界の平和を祈り合うという大切な日なのだという。

 君も、大切な人や仲間達と一緒に、リヴァイアサン大祭を楽しんでみてはどうだろうか?

●雪迷宮のラビリンス・ツリー
 凛と冴える冬の空に星霊リヴァイアサンが舞い、降りやまぬ雪は白銀にきらめきながら大祭の日を彩っていく。優しい輝きを孕んだ雪に飾られていくのは永遠の森に幾つも聳える巨大樹たちも同じ。そのうちのひとつに、リヴァイアサン大祭の日にだけ『雪迷宮のラビリンス・ツリー』の名前で呼ばれる巨大樹があった。
 遥か天を目指して聳えたつのは冬の最中にも深緑の葉を纏った美しい樹形を持つ巨大樹だ。その近隣に暮らすエルフたちは街の通りほどもある大きな枝々に様々なオーナメントを飾りつけ、空から星霊リヴァイアサンの恵みが降る日を待ち望む。
 深緑の葉を茂らせる巨大樹を飾るのは、赤いリボンを結んだ金のベルや緑のリボンを結んだ銀のベル、赤と白のコントラストが鮮やかな巨大キャンディケインに、一家族が暮らせそうなほどに大きなお菓子の家といったオーナメント。大祭の日がめぐり来れば巨大樹やオーナメントには清らな白銀の雪が降りつもり、雪に彩られた常緑の樹と煌く飾りがまるで冬の童話の世界に迷い込んだかのような光景を作りだす。
 雪と飾りに彩られた美しい巨大樹へひとびとを招くのは、地上から延びた雪と氷の階段だ。
 淡い淡い蒼を抱いて透きとおるこの階段も星霊リヴァイアサンの恵みのひとつ。皆は雪に彩られた巨大樹に幾つものあかりが燈される夜を待ち、世界が艶やかな黒硝子めいた闇に抱かれた頃合に、甘く柔らかな色を乗せた磨り硝子のランプを手にして『雪迷宮のラビリンス・ツリー』へと登る。

 飾られたオーナメントと優しい白銀の雪に彩られた巨大樹は、遊び心に満ちた童話の迷宮だ。
 雪と氷が織り成す壮麗なアーチをくぐればそこは、柔らかに紡がれた金糸や銀糸のモールがくるりと巻かれた大きな大きな巨大樹の枝、ふんわり雪の積もった枝の上を歩きつつ上の枝から吊るされた金銀のベルを鳴らせば澄んだ音、枝の下を覗いてみれば中に数人は入れそうな大きな赤いブーツが飾られていて、飛び込んでみれば中に敷き詰められた真白なファーにぽふんと受けとめられる。
 爪先に開いた穴から這い出してみれば枝と枝をつなぐ氷の階段が煌いていて、氷の階段を登ってみれば深いショコラ色のクッキーを粉雪が彩るお菓子の家が現れる。
 本物の家みたいに大きなそこに入ってみれば中は温かなショコラートを売るショコラカフェ。人気の飲み物はなんといってもホットミルクにホワイトチョコレートを溶かした『スノーショコラ』で、基本は甘さ控えめ、苺シロップを加えて甘くしたりエスプレッソやブランデーを加えて大人の味にしたりと思い思いに味を調えられるのがその理由。
 温かなカップを手にしたひとびとは再びラビリンス・ツリーの散策に出る。
 巨大な枝と枝の間を登るのも雪と氷の階段を使えば誰でも簡単なもの。望めばラビリンス・ツリーの頂上で眩く煌く、大きな大きな雪結晶の傍まで登ることだって夢じゃない。
 大祭当日に生まれる頂上の雪結晶を目指すのも楽しいし、ツリーのあちこちに隠されているという、小さな水晶細工の雪結晶を探すのもきっと素敵。そして、見つけた者は持ち帰っても良いというその水晶の雪結晶には、時折本物の雪と氷で出来た結晶が混じっているのだとか。
 掌で儚く溶けてしまうそれは、まるでこの大祭の光景のよう。
 翌日には消えてしまう、けれどとてもとても幸せな、冬の恵みの祭り。

「ね、綺麗で可愛いオーナメントと白銀の雪に彩られた巨大樹って……興味ある?」
 陽に透かした蜂蜜の色を湛えた瞳を煌かせ、扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)がそう紡ぐ。
 彼女が語るのはリヴァイアサン大祭の日に『雪迷宮のラビリンス・ツリー』と呼ばれる巨大樹の話。大祭の夜、童話の世界みたいに彩られた巨大樹に登り、美しく飾られた枝々でエルフ達は思い思いの時を過ごす。
 冬の夜にそんな光景の中へ迷い込むのも素敵だと思えたなら。
「アンジュと一緒に、ラビリンス・ツリーへ迷いに行こう?」
 居合わせた同胞達に誘いを向け、アンジュ達もツリーの飾りになるんだよと娘は続けた。
「ラビリンス・ツリーで遊ぶひとはね、みんな淡い桃や黄の色した磨り硝子のランプを持っていて、雪に飾られた樹の中に見えるそのあかりもすごくすごく綺麗なんだって」
 様々な飾りに彩られた雪迷宮のラビリンス・ツリーに遊び、自らもその飾りのひとつとなって。
「あのね、また逢おうね」
 翌日には消えてしまう、けれどとてもとても幸せな、冬の恵みの祭り。
 思い出を語り合えるひとがいれば、ずっと先までも、この日の幸せを覚えていられると思うから。


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参加者
NPC:扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●雪の夜
 冴える冬の世界に夜闇が降りれば、深緑の枝葉に白銀の雪を纏ったラビリンス・ツリーに幾つものあかりが燈りだす。雪迷宮に人々を誘うのは、蕩けるような煌き孕んだ雪と氷の大階段、登りきれば現れる壮麗なアーチを潜れば、粉雪つもる童話の世界へ至る。
 雪の欠片を探しにいこうかと差し出されたユーフェリアの手を取って、淡いオレンジ燈るランプ片手にジゼルは雪と飾りに彩られた巨大な枝の道へ踏みだした。煌くモールを揺らせば金と銀のベルの音、粉雪浴びたトナカイ人形の足元照らし、二人でそっと覗き込む。
「こういう宝探し、わくわくしないかい?」
「とってもわくわくするの……!」
 弾む笑みを交わし、雪迷宮の更なる奥へ。
 甘い赤白の煌きが螺旋を描く巨大キャンディケインの下を潜ればまるで、童話の中の小人になったかのような心地。大冒険だねと声を弾ませるルゥナの手を握り返して、アレクスは彼女が導くままに雪の迷宮へ迷い込む。雪に覆われた世界も零れる吐息も真白で、けれどこんなに胸が温かいのは、きっと誰かが傍にいてくれるから。
 氷の階段に木靴がからころ唄えば銅の色蕩ける細鎖もしゃらりと唄い、往こうと引くシユの手を握り返せばニコレットの胸も贈り物を貰った子供みたいに躍る。重ねた掌に温もり溶ければ瞳に映る雪の世界は輝きを増し、彼方に暁色見出せば、柘榴と常緑の瞳を見交わし揃って駆けだした。
「妖精さん、つーかまえたっ」
「苺蜜とショコラが暖めに来たよ、アンジュ!」
 両側から腕を取られた扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)はきゃーと破顔して、大好き、と二人の腕を抱きしめ返す。
 深緑と白銀に彩られた枝には金の林檎が揺れ、仰げば遥か夜空から雪が降る。ふんわり結ばれた赤いリボンの間に雪結晶があるかもと言えば、宝探しの大冒険だと俄然張りきったアヲイが走りだし、
「行くぞー! わー!?」
「はは、雪だるまみたいだ」
 途端に滑ってすってんころりん。粉雪まみれの姿にラストが陽気に笑えばふるり頭を振った少年もにぱっと顔を輝かせ、楽しげに笑いあいながら道をゆく。
 雪降る枝に真っ赤なブーツを見つければ、アンゼリカとアンジュは悪戯っぽく瞳を見合わせ勢いよくその中へと飛び込んだ。真白なファーにぽふんと受けとめられれば聴こえてくるのはベルの音、遠く澄んだ音色がまるで幸せ数えてくれるよう。暖かなブーツの爪先から這い出せば上の枝へ続く氷の階段煌いて、ティリアさん凄いですよとリィナが声を弾ませた。行くよと明るく応えたユースティリアに頷き返し、透きとおる階段を昇る。
 粉砂糖でくるんだみたいに優しい赤と青のあかりを揺らし、数え切れないほどの氷の階段昇れば、至るところはラビリンス・ツリーの頂だ。
「きれい……!」
「ほんと、星みたいだね……!」
 透きとおる光を抱いて輝くのは大きな大きな雪結晶。淡い桃色と黄のあかりが雪と氷の星に煌く様を見上げ、二人は手を繋いだまま真白な吐息を零して笑いあう。ラグくんとずっと仲良しでいられますようにとシャルロットが可愛らしい願い事をかけるから、俺もロティとずっと仲良くしたいなと瞳を緩めてラグアスも囁いた。
 遥か天穹を覆うのは黒玻璃めいた夜の闇。夜に聳える雪結晶は透明な煌き湛え、舞い散る粉雪を纏う。手を重ね童話の頂へと昇ってきた恋人達は、どちらからともなく肩を寄せあった。
「ねぇユーちゃん。……ボクのこと、好き?」
「……大好きだよ」
 こんな夜には素直に口にできる気がして、頬がほのかな熱を帯びるのを感じながら少女は言葉を紡ぐ。重なる想いが燈した幸せに、カナタは暖かな笑みを綻ばせた。
 雪も魔法もとけてしまっても、この日のことを忘れない。
 氷の階段昇りきり、深緑と白銀に彩られた枝々が開けてみれば、鮮やかな夜闇に舞う星霊の姿。
「……あれが、リヴァイアサン……」
 瞬きも忘れてライが見入るのは、何処か蛇を思わす優美な姿で夜空を翔ける星霊リヴァイアサン。淡やかに闇を透かして舞う巨大な星霊の姿にアルカンシェルも感嘆の吐息を洩らす。彼がそっと頭に手を乗せてくれたから、少女は柔らかな笑みを向けた。
「ひとつ呼んでみるさねアンジュ隊長!」
「うん! じゃ、せーの!」
 雪結晶の袂から声を揃えて呼んではみても、天に舞う星霊が降りてくることはない。けれど応えるように撓った透きとおる尾からまるで鱗が零れるように粉雪が降ってきたから、ユリウスは頬に掌にそれを受けとめた。片腕に抱きつく娘と笑いあい、今日の日に感謝を捧ぐ。
 昇りきた雪迷宮を振り返れば、巨大樹の枝々の合間に揺れる優しいあかりが幾つも見えた。
 蒼い花焔のあかりが己を表すように、あかりを見れば遠くからでもそれが誰だかきっと判る。
 頂に瞳を向ければ此方に気づいた誰かが暁の杏色燈したランプを振ったから、クロービスも満面の笑みで声をかけた。
「ありがとね。素敵な夜を貰っちゃった」
 最も心躍る煌きは、ひとの中に見る幸せの煌きだから。

●雪の家
 黄色い煉瓦の代わりには風が紋様描く白銀の雪の道、夜が明ければ消える魔法の道に足跡残し、物語にある翠玉の都を思わす優しい翡翠色のあかりを燈して、レヴールは皆と雪迷宮へ迷い込む。赤いリボンに金のベル、銀の柊でゆるり編まれた大きなガーランドを潜ってヘルメンが見上げれば、眼の前に現れたのは粉雪纏う大きなショコラクッキーの家。
「わあ! お菓子の家!?」
「お菓子の家? いいやショコラカフェ!」
 温かなショコラの香りに鼻先くすぐられれば真白な吐息を零したアリスティドが声を弾ませて、子供みたいに瞳を輝かせたジャバウォックが勢いこんで皆を振り返った。
「ねェねェねェ! ショコラカフェ行こうよ甘いの飲みたいッ!!」
「ええ、勿論!」
 迷わず応えてシュリティエは、案山子や鉄葉の誰かを気取る彼らの後を追う。
 魔法の煌き湛えた靴はないけれど、皆となら何処まで迷い込んだって怖くない。
 雪の彩連ねたアーチや氷の階段越えるうち、いっそ雪に紛れてしまいたいと思えたけれど、凍える寂しさ募らせるより誰かの幸せになりたくて、樹の色湛えた髪を靡かせクローディアは駆けた。
 求める人影は暖かなあかりの燈る家の傍。
「綺麗な結晶、見つけました」
 繊細な煌き手渡せば、わ、と瞳を輝かせたアンジュが、お返しと温かなスノーショコラを差し出した。
 春に咲くミモザアカシアより優しい彩のあかりを掲げれば、雪迷宮の彼方にお菓子の家。甘い香りが届けば枝の分かれ道でシエルの足がぴたりと止まり、察したように見上げたリナがこくりと頷けば、手を繋いだ少女達はショコラカフェ目指して歩きだす。
 温かに蕩けるスノーショコラに其々注ぐのは、甘い苺シロップとひんやりミルク。
 取りかえっこして一口飲めば、思わず見合わせた二人の顔に笑みが咲いた。
「クロエの眼鏡もスノーメガネ!?」
「お祭り仕様です」
 真白に曇った連れの眼鏡に思わずミューが声を上げれば、生真面目に頷いた少年は「冗談です」と小さく笑い、袖口できゅっと眼鏡を拭う。ふんわり湯気を昇らせるスノーショコラに足すのは苺の甘味。優しい桜色差した彼の杯を覗き、大人の味にチャレンジしてみると少女は拳を握る。
 深く薫るエスプレッソを注げば、雪色ショコラもほんのり柔らかなショコラ色。
 蕩けるショコラの香りの誘惑は、頂上目指して全力疾走中のサクノスの足さえ止める。
「……ダイエット中?」
「ち、違ぁーうっ!!」
 お菓子の家を見つめればトールに労わるような憐れむような眼差しを向けられて、反射で言い返しつつ彼女は一時休戦を決め込んだ。甘いショコラで一息つけば、夕飯奢りを賭けた勝負の再開だ。
 少女をからかっていた少年の背に『タダ飯』と書かれた紙が翻る様に首を傾げつつ、柔和な笑みを浮かべてクラトは寒くないですかと連れの女性に気遣いを向ける。
 蜂蜜を足すかシナモンを振るかで悩んでいたレナはスノーショコラを手にしたまま瞳を瞬かせ、弟を見守る姉の気持ちでありがとうねと笑みを返した。
 六歳でこれならきっと、何年かすればすぐ素敵な彼女ができるのだろう。
 温かいミルクに蕩けるホワイトチョコに、少量落としたエスプレッソのほろ苦さ。
 豊かな風味に緩めた瞳で傍ら見遣れば、ふんわり薔薇色に染まった杯を両手に包んだプティパの顔に春花咲くような幸せな笑み。この笑顔を見れば訊くまでもないけれど――。
「美味しい?」
「ん、とってもとっても美味しいよ」
 良かったら、と差し出せば、苺シロップをたっぷり落としたスノーショコラを味見したアレートが暖かな笑みを返してくれたから、胸の中にも優しい春の花が咲く。
 紅の宝石溶かしたみたいなシロップで染めた春色ショコラはほんのり甘酸っぱい春の香り。
 香りのせいかユユの視界の端を掠めた誰かの髪も苺の色のよう。アンジュちゃん、と弾んだ声音で呼びかけ互いに瞳を覗きあい、いっぱいキラキラだねと笑みを零して、甘いショコラで乾杯を。
 苺色溶かしたショコラを満たせば手の中の杯には愛しい温もり。幸せ噛みしめれば隣からぺたりと頬に杯をつけられ、むぅと唇尖らせて見せればヂュヂャピアノの頬に雪の色した幸せの足跡ひとつ。
「――ほら、ここ」
 跳ねたスノーショコラの滴のありかを教えてくれたのはチェネレントラの指ではなく舌の先。頬には瞬く間に甘い熱が昇ったけれど、見遣れば彼女の頬にも幸せひとしずく。
「……きみもですよ」
 甘い幸せ、そっとお返し。
 大きな赤いブーツを潜り抜け、辿りついたところはお菓子の家。魔女がいたらとうしよう、なんて笑み交じりに囁くヴェルメリーに悪戯しちゃおうかとこっそり囁き返し、スノーショコラを手にして二人は再び童話の世界へ旅に出る。
 迷宮に揺れるあかりのひとつひとつが誰かの物語。
 僕らの物語も大切にとカンパニュラが紡げば、彼女が破顔して頷いた。
「勿論だよ王子様、素敵な物語の主人公になろうね」
「君とならなれる気がするよ、ヴェーネ姫」
 苺とオレンジのシロップ落としたスノーショコラを其々片手に、ふわり問いを投げては投げ返される、暖かな、それでいてくすぐったいような時に二人で揺蕩う。
 ゆるりと杯を空けたなら。
「もう一度赤いブーツに行こうか」
「付き合ってくれるの?」
 笑みを咲かせたオルガに、気に入ったんやろうなって思ったからとユシィも楽しげに笑みを返す。
 一夜限りの夢の国。
 全力で遊び尽くさなければ、勿体無いから。

●雪の花
 甘やかなショコラの夢を抜けたなら、童話の世界は再び白銀の雪迷宮。
 暖かな幸せ満ちれば次は凍れる幸せとのかくれんぼ。星色ランプ掲げれば銀色松ぼっくりに連なる蒼いリボンの陰に澄んだ煌き見出して、思わずロシェルは駆けだした。
 可愛らしくも聡い少女を追えば、彼女の手からタユタの掌に水晶細工の雪花がふわりと落ちる。
 決して溶けぬ煌きに咲いた二人の笑みも、解けることのない幸せの花。
 愛しさを抱いて接すれば、世界は必ず素敵なものを見せてくれる。
「だからめいいっぱい迷子になろう!」
「思う存分迷子になりますか!」
 南海に咲く珊瑚の色に明るい光射す森の色。互いの瞳を映したランプを手にすれば、空いたエコの手にステラの手が重ねられた。ぎゅっと手を繋いで行くならきっと、雪の迷宮も寒くない。
 天の際にかかる月の鴇色燈せば、雪降る枝に連なる金や銀のベルが柔らかに煌いた。
 銀のベル鳴らせば零れる雪と澄んだ音、響く余韻を胸に抱けば、シェナムの耳には新たなベルの唄が届く。見遣れば金のベル鳴らす桜色の少女と瞳が合って、雪夜に響きあう旋律に笑みを燈した。揚羽を思わす少女と鳴らした唄を胸に、ナハティガルは雪踏みの唄を奏でて迷宮の奥へと向かう。
 煌き踊る粉雪の彼方には赤いブーツと暁の色。
「ねえね、アンジュさん!」
 振り返った笑顔に歓び燈し、手に手を重ねて雪の枝からふわりと跳んだ。
 雪と氷の階段昇れば、眼前に吊りさげられた大きな赤いブーツがぽふんと揺れる。覗けば爪先から暁色の娘が顔を覗かせたから、ルーウェンは瞳を輝かせて娘を呼んだ。掌には星霊からの贈り物。
 儚く消えてしまうけれど夢じゃない幸せを、瞳に心に分かち合う。
 銀糸のモールが零す光は星屑に似て、蜜色ランプには蒼いリボンを飾った硝子の靴が煌き返す。童話の世界は鮮やかで眩しくて、だからこそ、醒めると識る夢のよう。
 行く手に見えた暁色にそっと声をかけてみる。
「――ハロゥハロゥ、アンジュ」
 その先まで一緒に、と続けた声は微かに震えたけれど。
「ん、行こう?」
 伸べられた手を取れば、グレーテルを包む世界がほんのり温もりを増した。
 天鵞絨のリボンを幾重にも連ねたガーランドを潜ってみれば、そこは誰の目も届かぬ秘密の枝。
 心の距離を縮め幾重にもかさなる想いの紗の奥覗けば、互いへの愛しさは募っていくばかり。
 柔らかな温もりを包み込むように抱きしめて、胸の裡を明かしたリョウがそっと唇重ねれば、想いを言の葉にしたメイシュも啄ばむようなくちづけを返す。
 幸せな囁き重ね、雪の夜を胸へと刻んだ。
 暖かなオレンジのあかりに、小さな結晶が光を零す。
 慌てて駆けたから師匠に見せることはできたけど、花は束の間の夢のごとく、フェルスフィアの掌で静かに水へと還りゆく。
「折角の幸せが逃げていくぞ」
「逃げたりしないわ。……師匠と一緒だもの」
 表情曇らせた弟子を背から抱いて、両手を包んでアルデュイノが囁けば、耳まで朱に染めた少女が小さく呟いた。溶けない花を見つけてやるよと耳元に、甘い囁きを重ねてやる。
 優しい茜に照らされ、雪の花が光を抱いた。
 蒸留酒とスノーショコラの温もりは指先にまで燈るけど、手袋越しなら冬の恵みも護られる。六花は儚い氷の夢、なのにその煌きが暖かに映るのは。
「――な、アンジュ」
 この夜が幻ではないと心が知るからか、とアレシュが紡げば、幻でない幸せ燈るからかな、と娘が応えた。柔らかに笑んで彼女の手に乗せた花は、見る間に輪郭を失ってゆく。
「……不思議」
 掌の滴を口に含んだ娘が、少し甘い、と笑みを燈した。
 甘い蜂蜜と優しい熱を燈すジンジャーの風味が溶けたスノーショコラを一口飲めば、あかりにも似た温もり燈したファルスの身体の芯からほっと至福の吐息が洩れた。
 仰げば遥かに続く氷の階段と枝々の合間に揺らめくあかり。
 耳を澄ませば誰かの楽しげな声に雪踏みの音。
 笑みを零せば幸せ映してか、吐息が優しい真白に染まる。
 綺麗な魔法は少し不安で、だからこそ差し出された手に深く安堵した。
 重ねてみれば彼の手は冷たくて、此方から溢れた温もりに、己の手の暖かさを知る。
 氷の階段昇れば頭上に足元に揺れる数多のあかり。
 胸に迫る想いに言葉が詰まれば、知らずセイイチロウの足が止まる。ねえ、と問えば、同じ光景を見渡し彼女が笑んだ。
 暖かさに気づくのは、きっと自分も暖かだから。
「だからセイチロも暖かいよ」
「――カラさんの事も、あったかいと想います」
 沁みる想いを浸透させて、ゆるりと力を抜けば、重ねた掌のうちに優しい熱を感じ取れた。

●雪の星
 粉雪纏う白銀のベルを鳴らせば、透きとおる音と光が零れてきた。
 受けとめたのは水晶細工、煌く雪花は彼女の掌に乗せ。
「道しるべ、見付けたよ」
 君がひとり震えぬようにと重ねれば、夜の涯てに射す暁めいた笑みが燈る。
 触れる掌や笑みを映す瞳に燈った温もりが、胸奥の何かを緩やかにほどいていくから、ハルネスも雪を透かして零れるあかりにも似た笑みを燈す。芽生えた想いの欠片を集めて綴る言の葉は。
「大好きだよ」
「――アンジュも、大好き」
 囁き返し、娘はそっと彼の腕に身を寄せた。
 仰ぎ見れば求める星は遥か彼方。
 雪降る枝に迷い甘いショコラで温もり燈し、凍れる階段見つけるたびに上を目指すけど、そのたびに確かめるのは傍らの温もりだ。
「傍に居てくれよ?」
 迷宮の闇に淡やかに滲むこのあかりでも、互いを認められる程度には。
 彼の言葉に対する憎まれ口も幾つか胸に浮かんだけれど、今宵ばかりはそれを封じて。
「……セインゴートが居て良かった」
 真実の言の葉ひとつ、ローロは雪の夜に紡いだ。
 藍夜に攫われた銀月が迷い込むのは一夜限りの雪の世界。
 優しいあかりを揺らせば迷宮には惑わすような煌き踊るけど、連れてってと見つめてくるヒカの瞳の煌きはまっすぐで、一緒になら幾らでも迷いたいとクラーラは甘い光を燈す心地で笑みを溶かす。
 私にも甘えさせてと囁く夜の願いが甘やかで、月は歓びに頬を紅潮させて幸せな笑みを返した。
 ずっと、ずっと。
「約束、ね」
「……約束、ね」
 ――貴方だけを導く月でいる。
 雪の迷宮見上げれば、白銀の合間に暖かな光が幾つも揺れた。
 けれど粉雪舞わせる夜風は冷たく吹きつけるから、レラは皆に暖かなマフラーを勧めて回る。
「マフラー隊、今日の任務は思い出作りですっ!」
 彼女の言葉にふわり笑みを綻ばせ、優しい空色ランプ片手にリィンティアは氷の階段を昇る。揺れるあかりが氷に映り、己の携えるランプから零れる赤い光と溶け合ったから、下からも綺麗に見えるかなとケイが声を弾ませた。
 雪降る枝を渡れば涼やかに響くベルの音、合間に重なる皆の声は癒しの唄にも思えたから、それならもっと笑いましょうとセラは自身を励ますように明るい声音で紡ぐ。
 繋いだ手も首のマフラーも皆の声も優しくて、幾つの階段越えても足が止まらないのが不思議。
 楽しい心地のまま昇れば雪の天蓋開け、視界に映った大きな結晶にメロディは瞳を瞬かせた。
 夜に聳える雪の星に願いをかけられるなら。
 ――皆の願いが、叶いますように。
 煌くような童話の彩を抜け、氷の階段幾つも越えて、雪迷宮の頂へと辿りつく。
 遥か眼下を見おろせばまるで空から世界を覗いた心地になり、ヴィレムは愛おしげに瞳を緩めた。燈る数多の輝きは、誰かが燈した想いのあかり。
 朝には消える光景だとしても、幸せな記憶は積み重なっていく。
 優しく眩い光に笑みを綻ばせ、マリアは吐息めいた声音を零した。
「……そっか」
 きっと――幸せな記憶をふわりふわりと積み重ね、この樹はこんなにも大きくなったのだ。
 氷の階段越えるたび、陽だまり色のあかりで小さな煌きを探す。
 応える光は見つからなかったけど、小さな結晶を見たいと言ったことを彼が覚えていてくれたのが嬉しくて、深い赤茶の瞳にクローディアは幸せな光を燈した。
 雪の天蓋が開ける前にヘンリーが手を伸べれば、そっと柔らかな手が重ねられる。
 最後のきざはし越えればそこは、大きな大きな雪結晶のもと。
 凛と煌く星を二人で仰げばきっと――自然に笑みが綻ぶはず。
 雪の魔法で生みだされた迷宮は然程複雑ではなかったけれど、一番乗りをと気負えば不思議に難しかった。けれどそれだけに、頂へ辿りついた時の達成感は格別なもの。
「ねぇ、フィリー」
 道程に繋いできた手をきゅっと握り、一緒に沢山のことをかさねていこうとオルテアが紡ぐ。
 晴れやかな護り手の表情が嬉しくて、オルとなら苦しい時も越えていけると彼女は応えを返した。
「だから一緒に、居てね?」

 優しいあかり片手に氷の階段昇れば己自身も煌きのひとつ、歌いだしたい心地になりつつ青年は、暁色の娘を連れて駆けあがる。頂に至れば夜空に聳える大きな雪結晶の星。
 震える想いで手を伸ばせば、何ひとつないなんて言わないけど、と肩で息をしながら娘が笑んだ。
「本当に手が届かないものなんてね、限りなく少ないんだよ」
「……ホンマやな。叶ったもんな」
 己にも暖かな笑みが燈るのがわかる。
 望んで望んで希い、輝きに焦がれ続けたロータスの指先が、冬の夜の煌きに触れた。

 朝には消える、雪の星。
 けれど心には確かに燈る――奇跡の光。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:79人
作成日:2010/12/24
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