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路地裏のミュージシャン

<オープニング>

「よう、お嬢ちゃん。そんなに急いでどこ行くんだい」
 路地裏で楽器を弾いていた男が、そう声をかける。
 紫の帽子に、同じ色のスーツ。
 吟遊詩人……という風にも見えないが、そういった類だろうか。
 女性は立ち止まると、恐る恐る声をかける。
「あの、何か……?」
 男の手にあるのは、何やら楽器……竪琴、だろうか?
 それを弄っていた男は、如何にもニヒルな笑顔で笑い掛ける。
「人生は長いってのはどっかの誰かの戯言だけどさ。こんな路地裏でそんなに急いでいる姿を見ると、何を生き急いでいるのかと心配になるのさ」
 竪琴を弾いて、何やら不満げにまた弄り始める男。
 よく分からない言い回し。不審者かと思ったが、やはり吟遊詩人の類なのかもしれない。
 そう考えると、段々と余裕も出てくる。
「あの、貴方は……」
 ふとした興味で、そんな事を聞く。
 聞かずに、立ち去ればよいものを。
 いや、目をつけられた時点で無駄だっただろうか。
「そうだなあ……ここには俺と君だけみたいだし……教えてあげるよ。俺はね、ミュージシャンさ」
 好きな音楽は、悲鳴かな。
 でもこいつが難しくてね、目撃者を作らないようにしなきゃいけないんだ。
 そんな男の台詞、響く悲鳴。
 それを聞く者は、誰もいない。
「近頃、この近辺で殺人事件が発生しています」
 盾の城塞騎士・アレス(cn0034)はそう言うと、説明を始めた。
 場所は、とある人気のない路地裏。
 比較的大通りからも離れ人気は少ないが近道になる事もある為、たまに人が通るような道なのだという。
 もっとも場所的に昼間でも薄暗く、中々好んで通ろうとする人間もいないらしいが。
「犯人は、ジョエル。エルフの魔曲使いの男性です」
 いわゆる流しのミュージシャンというものをやっているらしく、あちこちをふらふらしている男らしい。
 普段はそうして、時折獲物を求めて路地裏に潜む……ということなのだろう。
 勿論、あたりに被害者の他には誰もいない事を確認したうえで、だが。
「そして、彼に近いうちに殺されてしまうエンディングの見えた人がいます」
 その女性の名はシャーリー。
 酒場で勤めており、中々に豪胆な性格をしているらしい。
「特に彼女を狙っている、というわけではなくて。たまたま好みの相手がいいタイミングで見つかった……という感じみたいです」
 つまり、シャーリーを上手く遠ざけて囮を立てることも可能……ということだろう。
「持っている武器は竪琴みたいですけど、かなり使いこなしてるみたいです」
 特殊な能力こそないようだが中々に手ごわい相手だとアレスは説明する。
「職業柄絡まれる事も多いらしいですけど、動きの速さと逃げ足は相当らしいです。疾風のジョエル、なんて仇名まであるそうで」
 いざ戦闘となれば、鳥のマスカレイドを呼びだしてけしかけてくるという。
 その機動力とクチバシを使って、バックアタックのような攻撃を仕掛けてくるようだ。
 数は6匹ってところみたいですが、そんなに強くはないみたいです、とアレスは説明する。
「残念ですが、マスカレイドとなったジョエルさんを救うことはできません」
 更に戦闘後は、マスカレイドとなっていたエルフの死体が残ってしまうため急いで、その場を離れるようにしなくてはならない。
 都市の人間は、マスカレイドの力を使って犯行を行っていたことは判らないだろうから、へたをすると、エンドブレイカー達が殺人事件の犯人にされてしまうかもしれないのだから。
 場合によっては、都市警備隊での活動が行えなくなってしまうだろう、とアレスは語る。
「でも、皆さんなら……きっと全て上手くいくって、そう思うんです」
 だから、どうか宜しくお願いします。
 そう言って、アレスは頭を下げるのだった。


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参加者
蒼月を守護せし槍騎兵・ガウェイン(c00230)
盾の城塞騎士・イブン(c00470)
神に愛された格闘天女・カレン(c00737)
夢紡・フェリス(c00931)
星霊はマスコット・エレンシア(c03152)
青空に響く歌声・カイジュ(c03908)
ソラの魔法・エチカ(c05736)
星詠譜・アテア(c09630)
エンブレ初のロックギター弾き・ガルバード(c18200)

NPC:盾の城塞騎士・アレス(cn0034)

<リプレイ>

●事前偵察
「逃げ足が速いから疾風のジョエル……カ。被害をこれ以上広げない為にも、逃がさずに此処で終わらせねーと、だナ?」
 蒼月を守護せし槍騎兵・ガウェイン(c00230)の声が、路地裏に静かに響く。
 此処は、明日事件が発生する予定の場所。
 ガウェイン達は、事件予定現場の下見にやってきていた。
 地の利を得る為と……隠れる場所を探すため。
「さて……と。頼むわね」
 星霊はマスコット・エレンシア(c03152)は呼びだした星霊達に、そう声をかける。
 辺りは高い壁や遮蔽物も多く、よく探せば隠れられる場所はいくらでもありそうだ。
「紫の帽子にスーツ、それに竪琴って……斬新な組み合わせだよねぇ。アレスちゃんはどう思う?」
「うーん……少なくとも、一度見たら忘れそうにないですよね」
 星詠譜・アテア(c09630)の問いかけに、盾の城塞騎士・アレス(cn0034)は少し考えてからそう答える。
 確かに、そんなのが居ればひどく目立つのは間違いない。
 目立つのが役目の吟遊詩人としては間違っていないだろうが……マスカレイドと化し、好きな音楽が悲鳴と語る時点で、それは吟遊詩人とはいえない。
「随分と趣味の悪いミュージシャンもいたものね。ブーイングできっちり退場させてあげなくちゃ」
 だからこそ、神に愛された格闘天女・カレン(c00737)はそう決意をする。
「ほんとに嫌なやつねえ、今回のマスカレイド。事情はわからないけど、同じミュージシャンとして断固許せないわね」
 エンブレ初のロックギター弾き・ガルバード(c18200)は言いながら、用意した看板を置く場所を見極める。
「ちょっとこの看板、重いわね。ひ弱なアタシにはつらいけど、これも人助けよ。ガル姉さん、ファイト♪」
 成程、ガルバードの手にある看板は重そうだ。
 しかし、それ故の信憑性も中々にありそうだ。
 着々と進んでいく下見の中で、夢紡・フェリス(c00931)は上手く隠れられそうな場所を発見する。
「ね、ここはどうかな」
「お、良さそうですね」
 盾の城塞騎士・イブン(c00470)がその場所を覗きこみ同意する。
「この辺りの地理も充分に調べられましたね」
 ソラの魔法・エチカ(c05736)達も戻ってきて、互いの情報を照合する。
「これで……あとは明日、ですね」
 青空に響く歌声・カイジュ(c03908)に、全員が頷く。
 本番は明日。防ぐべきは悲劇。

●シャーリーを遠ざけて
「こんばんは」
「あの、何か……?」
 そして当日。イブンは、路地裏を急ぐシャーリーに声をかける。
 明らかに超不審人物を見る目のシャーリーに、イブンは寒さにも負けない力強さを示すべく行動に出ている。
 具体的には、本人曰く張りの有る筋肉と輝く汗もアピールするべく、腕立て伏せやストレッチをしている。
 路地裏で筋トレをする筋骨隆の2メートル超えの大男。
 イブンはそのまま服を脱ぐと、パンツ1枚でポージングを始める。
「可憐なお嬢さん、自分と一緒に暖かいジンジャーティーを飲みにいきませんか」
 キラリ輝く最高の笑顔。
 夏の浜辺の視線を独り占めするかもしれない笑顔が、冬の路地裏で輝き。
「で……でたっ! 痴漢、変態、ド変態ーっ!」
 石を投げつけて一目散に逃げていくシャーリー。
 白けさせ、事件現場から追い出すという目論見は見事成功。
「……涙なんて流さない。あれ、なんか赤いものが顔についているような」
 顔を拭いながら、イブンは近くの隠れ場所へと移動していく。
 ガルバードの設置した工事中の看板のこともある。
 これでもう、シャーリーの事は問題ないだろう。
 残るは、マスカレイド。ジョエルを倒すだけだ。
「お兄さん、歌うたいかしら?」
 路地裏で何やら竪琴の弦を不満そうに弄っている男に、カレンはそう声をかける。
 紫の帽子に、同じ色のスーツ。この男がジョエルで間違いないだろう。
 ジョエルは帽子の端を持ち上げると、怪訝そうな顔をする。
「どうしてそう思うんだい?」
 カレンが竪琴を指し示してみせると、ジョエルは成程、と含み笑いをしてみせる。
「で、その歌うたいに何か御用かな、お嬢さん」
「よければ一曲聴かせてほしいわ。もう少し静かな所で、私にだけ。お代は……後でゆっくり、ね?」
 それを聞いて、ジョエルはニヒルな笑みを浮かべて見せる。
「おやおや、こんな路地裏にいるようなのに声かけるなんてね。言えた筋じゃあないが、冒険したいお年頃なのかな?」
 言うとジョエルは、カレンの格好をじろじろと眺め始める。
 派手な接客業風の服を羽織ったつもりだが……。
「いいとも。請われれば奏でるのが俺の仕事だからね」
 立ち上がるジョエルは、笑みを浮かべながらそう答える。
 その言葉にも、表情にも怪しいところはない。
 だが、視線が素早く辺りを確認しているのをカレンは見逃さない。
「見つかってないよね……」
 カレン達を尾行しているフェリスは、こっそりとそう呟く。
「まだ、そんなヘマはしてないと信じたいとこね」
「さあ、このまま続けましょう。見失っては大変です」
 エレンシアとカイジュに続いてフェリス、ガウェイン、最後にイブンと続いていく。
 打ち合わせた場所までは、もう少しである。

●マスカレイド・ジョエル
「来ますね……」
 屋根の上に隠れていたエチカが、小さく呟く。
 上から見るとよく分かるが、まずカレンとジョエル。
 そしてその後ろを尾行班の面々がついていっている。
「もうすぐ来る、か」
 それを悟ったアテアやガルバード、アレス達は気配をできるだけ消すように物陰に潜む。
 昨日から探した隠れ場所だ。そう簡単に見つからない自信はある。
 そうして気配の消えた場所で、ジョエルはこう口にする。
「もういいんじゃないかい、この辺りで」
「あら、そう?」
「ああ、なぁんか嫌な夜だ。さっさと済ましちまおうじゃないか」
 言うと、ジョエルは竪琴を構える。
「全く、悪い子だよ君は。俺をこんなに連れまわして。耐えるのがどれだけ辛いか、分からないんだろうな」
「どういう意味?」
 カレンは、分かっていながらそう問いかける。
 あと一言、それだけあればいい。それさえ引き出せれば、証拠になるのだから。
「そのままの意味さ。もう我慢するのはヤメだ。君で最高の悲鳴を奏でよう。それで今夜は終わりさ」
「よし、そこまでだゼ!」
 ガウェインが、エチカ達がジョエルを囲むように飛び出してくる。
 それを見て、ジョエルは溜息をつき。
 それを見て、カレンは不敵に笑う。
「残念、貴方の音楽は私の趣味に合わないみたい。悪いけど、永遠に退場してもらえるかしら?」
「残念、まさか罠だったなんてな。けどまあ、こうなりゃ仕方ない。君達全員、消えて貰うことにするさ」
 パチン、という指の音と共に、ジョエルの元に6体の鳥のマスカレイドが舞い降りる。
「ジョエル……音楽を武器に使う、それはアタシも同じ、どうこう言う筋合いはないけど。騙す道具にしてはいけないのよ。音楽に対する冒涜だわ」
 アナタ、サイテーよ、と蔑むガルバードにジョエルは哂う。
「人聞きが悪いな。俺は1度たりとて嘘は言ってないのが自慢なんだ」
 もっとも、真実を語った回数も少ないけどね、と笑う。さも、おかしそうに。
「理不尽に命が失われるのは見過ごせません。それに音楽は笑顔を拡げるもの、感動と癒しをもたらすものです。悲鳴の音楽なんて赦せません!」
「それは知らないからだよ、悲鳴の美しさを。人ってさ、最高の楽器なんだぜ?」
 カイジュの言葉に、ジョエルはそう答えながら嵐の旋律を奏でる。
「さあ、これ以上目撃者が増えても困るんでね。始めようじゃないか!」
「狂った芸術家ってのもタチが悪いわね。このままあんたは消えていきなさい」
「その仮面、砕かせてもらいます。覚悟!」
 いち早く飛び出したエレンシアとカイジュを皮きりに、始まっていく。
 誰も聞くことのない、狂った演奏会が。

●路地裏のミュージシャン
「悪いけど、この子は手加減できないからね!」
 アテアの星霊バルカンが火炎弾を放ち、鳥に叩きこまれていく。
 フェリスの放ったサンダーボルトがジョエルに叩きこまれ、エチカのスカイキャリバーが鳥を叩き落とす。
「あなたが愛した音楽を悲しいものに変えないでください」
「それは価値観の差だよ、お嬢ちゃん。そのうち分かるさ」
「分かるはずがねぇな」
 ナイトランスを振るいながら、ガウェインはそう切り捨てる。
 その真剣な口調には、いつものカタカナ口調はなく。
 ガウェインの中に燃える怒りの程を思わせる。
「あなたは悪い人みたいです。わたしは遠慮なく蹴っちゃいますね」
「そうね。元々こっちのやる事は1つだけど。蹴り方に遠慮もいらないわね」
 エチカとエレンシアのその言葉が、全てを物語る。
 マスカレイドは、人を殺すから醜悪なのではない。
 その在り方が、その思考が。
 マスカレイドをマスカレイドたらしめるものこそが、醜悪。
 故に、看過できないのだ。その理不尽が。
「音楽はこんなものではないはずです! 想い出してください! これが音楽の力です! 」
 カイジュのブレイブソングがイブンの傷を癒し。
 ガルバードの誘惑魔曲が鳥マスカレイドをまた1匹落としていく。
「さて、反抗期の鳥さんも叩き落としちゃうよ!」
「鬱陶しい敵から!」
 アテアの仕掛けたパワースマッシュが、イブンのシールドショットが最後の鳥マスカレイドを落下させていく。
「あとは貴方だけだね、ジョエル」
 フェリスの言葉に、ジョエルは素早く辺りを見回すような仕草をする。
 逃げようとしたのだろうか……だが、前日から仕込んだ布陣。
 早々逃げられるようなものではなく。
「まだお客様はご不満なようだ。幕引きには……早いよね?」
「だね」
「……」
 ジョエルの逃げ道を更に塞ぐべく、蒼花焔・クロービス(c04133)に蒼花焔・クロービス(c04133)、竜剱・ノイズ(c08532)がサポートに入ってくれている。
 そう、逃げられはしない。
「チッ……だがよぉ、そう簡単に……!」
 尚も抵抗の様子を見せるジョエルに、カレンが近寄り必殺の一撃を叩きこむ。
「私にコナかけるなら、もっとセンス磨いてからいらっしゃい! 」
 そう叫んで放つ一撃は、ジョエルの仮面を砕き……ジョエルは、そのまま崩れ落ちるように地面に倒れ込み……動かなくなる。
「良い音楽だったよ」
 せめてもの手向けか。アテアはそう呟き、ジョエルの顔に彼の帽子を載せる。
「音楽を追求したいという想いは音楽家なら誰でもあるもの。そこを棘につけ込まれたのでしょうか……?」
 カイジュは、そう呟く。
 それはもう、誰にも分からない事だ。でも、そうだとしたならば。
「ジョエルさん、貴方も棘の犠牲者です。この地の棘は必ず滅ぼしましょう。どうか安心してお休みください。私は、貴方が愛した音楽の力で沢山の人々を笑顔にしますね」
 どうか安らかに。そう言って、全員が黙とうを捧げ。ドローブラウニーの助けを借り痕跡を消していく。
「よし、さっさと退避するとしようゼ」
 ガウェインの言葉と共に路地裏の闇へと消えていくエンドブレイカー達。
「……次はもっとまともな曲をやる事ね」
 エレンシアが最後に残したそんな言葉が、路地裏の闇へと消えていく。
 ジョエルの亡骸は、それに答える事はなく。
 ただ、風のみが寂しげな音を奏でていた。



マスター:相景狭間 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2010/12/26
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  • 泣ける1 
  • カッコいい13 
冒険結果:成功!
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