ステータス画面

少女と猫と黒金の獣

<オープニング>

●にゃーにゃーにゃー!
「ねぇ、メリー。最近、なんだか通りがくらいのね」
「にゃー」
「でもね、畑のお野菜があるから、母さんが美味しいスープを作ってくれるっていうの。メリーも遊びにきてね」
 少女はそう言って、少し上を歩く猫を見た。とんとんとん、塀の上を歩く猫の足は靴下のようになっている。あるところではソックスと呼ばれ、あるところでは白ちゃん、と呼ばれる。少女はどんな風に呼ばれても、メリーが返事をするのを知っていた。メリーには3人の弟たちがいて、弟たちに貰ったパンや魚を持って行くのだ。少女のお使いとメリーがついていくのは、農家のアリサが少しだけご飯をわけてくれるのを知っているからだった。
「ねぇ、メリー。今日は、お前の弟たちは一緒じゃないの?」
「にゃ?」
「いっつも、途中まで来たら一緒でしょう? また、近所の犬たちと喧嘩をしてるの? ノッティさんの所にわんわんは、怖いのよ。みんなそろってないと、母さんのスープはあげないからね」
「にゃぁ……ふにゃ」
「メリー達が強いのは知ってるけど、けんかは……」
 ふぎゃ! という音が聞こえて、少女は足を止めた。代わりに、走り出したのはメリーの方だった。慌てて追いかけていった少女が辿り着いたのは、アリサの農地だった。そこに青々と茂っていたはずの果物は、皆倒されていた。倒れたブドウの木の中で、低い唸り声が響いている。何かが、いた。犬よりも大きな獣だ。
「狼……?」
 真っ黒な毛は、鉄のように鈍く光る。口からは炎を吐き、鋭い爪ががりがりと地面を抉る。その爪が、牙が捕らえていたのは少女の知っている猫だった。その近くで、ふーふーと声を上げているのはメリーだ。
「メリー!」
 思わず、声を上げたその瞬間、大切な友人の猫は吹き飛び、巨大な犬が少女へと向かってきた。大きな口が開き、その奥に炎が見える。
「きゃぁぁぁ!」
 そして放たれた灼熱が、少女の包み込んだ。
●少女と猫と黒金の獣
「元々、その女の子と猫ちゃんは仲が良かったそうなんです。その日も一緒にある農家にお伺いする途中だったんです」
 竪琴の魔曲使い・ミラ(cn0007)はそう言って、酒場に集まったエンドブレイカー達を見た。
 少女ーーニノンはスープ屋の女店主・ペラジーの一人娘だ。お使いを頼まれて歩くのは、ニノンにとって珍しくもない。母親に頼まれてお使いに出た少女は、仲の良い猫と一緒に通りを抜けていった。決して治安のよくない下層地域も少女にとっては通い慣れた道。何もなく、ただ母の待つ店に帰ることができるはずだった。
「襲ったのは、獣型マスカレイドです。大きな狼の姿をしていて、体を覆う毛は鉄のように鈍く光っていて……先は、針のように鋭く尖っています」
 剛毛と言ってしまえばそれだけかもしれないが、獣型マスカレイドの体毛は突撃だけで武器になる鋭さと堅さを持っていた。
「一緒にいるのは、野生の狼の群れで、20体ほど。マスカレイドをリーダーに農地を荒らしていたんです」
 獣型マスカレイドは飢えているのだとミラはいった。農地を荒らし、果物を食い荒らし、怯える路地裏の猫や犬を探しだし襲った。その中で現れた少女は、獣型マスカレイドにとっては猫や犬よりも大きな獲物でしかなかった。
「なるべく、急いでください。女の子は昼過ぎに店を出て農地に向かいます。女の子は猫さんと仲がよいので……猫さんが物音に気がついて、走り出してしまった時には追いかけてしまいます」
 猫がいつ襲われだしたのかは分からない。だが、ニノンと一緒にいた猫メリーが反応した頃には既に襲われていたはずだ。少なくとも、それよりも早く現場にたどり着く必要はあるだろう。
「獣型マスカレイドが現れる農地は、ブドウ畑です。農地の主は、夕方までスープ屋の手伝いをしていていないので……説明はできないでしょう。猫たちが集まってくるのはニノンの姿を見てからなので……、知らない人が来た時には滅多に姿を見せないはずです。戦場となる場所ですが……畑か、畑から少し行った先に、行き止まりの広場があります」
 円形のそこは、出口が一つーー畑からの道しかない。狼の群れが20体いる現状を考えれば、広場とはいえ決して十分な広さは無いだろう。だが、畑で戦えば高確率で葡萄畑を荒らしてしまうことになる。
「問題は多いのですが……、時間はありません」
 ひとつ申し訳なさそうに言葉を句切り、ミラは顔を上げた。その目はまっすぐにエンドブレイカー達を見ている。
「広場には大きな箱がいくつか積み上げられている以外に、物はありません。獣型マスカレイドは体を覆う剛毛と、口から吐き出す炎で攻撃をしてきます。動きは素速く他の能力はスカイランナーのような能力を使います」
 群れの狼たちは、マスカレイドの援護に回るような戦い方をする。集団による狩りだ。マスカレイドの吐き出した炎で或る程度ダメージを与えたものを狙う時、集団で一つの相手を狙う時がある。
「獣型マスカレイドは決して知能が高いわけではありませんが……、戦闘能力は高いです。でも、皆さんで協力をすれば倒せない相手ではありません
 できるだけ早く辿り着けば、農地には獣型マスカレイドと狼の群れしかいないはずだ。
「獣型マスカレイドを倒し、女の子と猫ちゃんを助けてください」
 このエンディングが訪れないように。
 そう言って、ミラはエンドブレイカー達にぺこり、と頭を下げた。よろしくお願いします、とそう言って。


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参加者
シールドスピアのスカイランナー・ティアナ(c01457)
弓の狩猟者・ユウ(c03084)
爪の群竜士・キドー(c05202)
剣の狩猟者・ヘイゼル(c05936)
竪琴の魔曲使い・オリヴァー(c05967)
太刀のスカイランナー・ベアトリーチェ(c08427)
剣のスカイランナー・スマルト(c08518)
大鎌の星霊術士・コオニ(c08524)

<リプレイ>

●畑と獣と鮮血の誘惑
 ブドウ畑の柔らかな土の感触が、足に残る。芽吹いたばかりの木々を目の端に、畑仕事用に置かれた荷の横に弓の狩猟者・ユウ(c03084)は身を隠す。
(「バッドエンディングになんてさせない、絶対に」)
 獣たちは、この畑に現れるという。柔らかな草を踏み、木や荷の後ろに姿を隠したシールドスピアのスカイランナー・ティアナ(c01457)、爪の群竜士・キドー(c05202)、竪琴の魔曲使い・オリヴァー(c05967)の視線は畑の奥へと向けられていた。その先には、畑へと足を踏み入れた4人の姿が見えた。彼らが敵を誘い出しーーそれを自分たちが追う。誘導の道筋は広場だ。相手の数を思えば決して有利とは言えないが、策はある。
(「狼は狼でもマスカレイドがボスっつ〜と厄介だな……被害が及ぶ前に退治しちまわねぇとな!」)
 ふ、と殺した息を吐きキドーは顔を上げる。その視線の先には、誘導を行う面々の姿があった。
「……」
 太刀のスカイランナー・ベアトリーチェ(c08427)は剣を抜くと、その刃を腕に這わした。浅い傷が一筋、腕に残る。赤い血が手首まで滑り落ちるのを視線で見送り、顔を上げる。同じように剣を抜いた剣の狩猟者・ヘイゼル(c05936)も手の甲に浅い傷を一つ作っていた。これは誘いだ。血の匂いを以て、獣を誘い出す。
「……早速胃がキリキリしてきた。こんな面倒な事はさっさと終わらせようぜ」
 傷口から流れる血を口に含み、唾と共に吐き出す。口の中に鉄の味が残る。剣のスカイランナー・スマルト(c08518)はポケットから出した包帯で、さっと傷口を止血した。血の匂いはこれだけでも十分なはずだ。飢えた狼たちーー何よりマスカレイド化した狼が、この匂いを逃す事はないだろう。
(「人里に出る飢えた狼か……物騒極まりねぇ。被害が出る前に食い止めねぇとな」)
 ふ、と息を吐き、スマルトは顔を上げる。ブドウ畑に実りの季節はまだ遠く、下草の生えた畑には点々、と人の足跡が残っていた。畑の主は姿を見せない。ここで獣たちに襲われるエンディングを迎えるはずだった少女もーーそして、彼女の友達の猫も、その家族も。ゆるり、と大鎌の星霊術士・コオニ(c08524)は視線を上げる。腕に残した傷と共に、歩き出す仲間の後を追うように広場へと向かっていけば、ふいに、茂った草が揺れた。がさがさ、という音と共に、耳に届いたのは獣たちの荒い鼻息。一頭、二頭。姿を見せれば、何かを追うように鼻を動かしていた狼たちが、ぴん、と耳をたてた。先に顔を出していた獣の間に、一頭の一際大きな獣が姿を見せた。黒金の狼は、何かを探すように鼻先を動かすことはしないままーーまっすぐ、こちらを見た。おぉぉぉん、と遠吠えが響く。
「あれが狼、可愛いなぁ。でも、世に害するなら……倒すよ」
 コオニの呟きが乾いた風に溶けてゆく。吠える声は狩りの前触れか。一際大きな狼ーーマスカレイド化した狼の瞳が、鈍く光る。獲物を見る目だとヘイゼルは思った。狼はこんな所にいるの、似合わないよ。口の中、そう転がして普通の狩りとは違う感覚に、身を引き締め、また体を広場へと向ける。たん、と足を踏み出し走り出せば、後ろでエンドブレイカー達を「獲物」と捉えた狼たちが走り出す音がした。ここで追いつかれては元も子もない。勿論、追われなくてもーー誘いに乗ってくれなくても困る。広場を視界に収め、ベアトリーチェは一度振り返った。
「来ておるのぅ」
 追ってきている狼たちを確認すると、ベアトリーチェは前を向く。広場は、もうすぐだった。

●唸り声は響き
「ほら、餌はこっちよ!」
 ヘイゼルの声が響く。駆けだしていく仲間達を、狼が追っていく。その姿を見送り、オリヴァーは竪琴を持ち直す。ユウは弓を持ち直した。す、と立ち上がったティアナの横、キドーは広場へと目をやる。潜んでいたのは、ちょうど広場の入り口が見える場所だ。
(「行ったな……」)
 狼たちが、動いたのを確認すると4人は広場へと向かって走り出した。誘い出しは成功。後は、広場へと集まった狼たち逃さないようにしなければいけない。走りながら、ユウとキドーの目の端に子猫たちが見えた。思わず緩んだ顔をきゅっと引き締め、戦闘に巻き込まれないようにキドーは脅すような視線を送った。そんな猫を見ながらユウは弓を持つ手に少し力をいれる。
「……」
 今回の依頼、少し複雑な心境であるのは食べる為の狩りは必然だという思いがユウの中にあったからだった。マスカレイド化した獣は、群れを率い、血の匂いに誘われるまま駆けていた。そこにあるのは、狩りの本能か、それとも別の何かか。ただ、とユウは顔を上げる。もし敵の行為が弄ぶための快楽故ならば一切の容赦は、しない。
 オリヴァーは広場へと辿り着いたそこでまっすぐに戦場となる場所を見据えた。足音に気がついたのか、低い唸り声と共に狼が振り返る。低く、腹から響くその音は彼らに「敵」と認められたと知るには十分だ。広場の入り口を塞ぐように4人で立ち、ティアナはスカイキャリバーで突撃する。その動きに、いち早く反応をしたのはマスカレイドだった。唸るような声が響き、群れの獣たちが入り口に向かう。ざ、と獣たちの足音が重なる中、むかってくる相手にキドーは拳を突きつける。
「はっ」
「がうぅぅぅ」
 食らいつくための牙は、けれど正拳突きに砕かれた。鼻っ面を打った狼の低い唸り声を聞きながら、キドーは構えを取り直す。入り口から更に外へと出ようとする狼にユウが弓を引き絞る。
 ざわり、と空気が変わる。どれを獲物とするのか、見るように頭を動かした黒金の獣にベアトリーチェは刃を突きつける。
「さあ、存分に楽しませてもらおうとするかのぅ!」
 背に浮かび上がった仮面。鉄のように鈍く光る体毛。鋭い牙を持った狼は、自分へと向けられた複数の刃に応えるかのように唸り声を上げた。

●業
 唸り声を合図とするかのように、狼たちが動き出した。飛びかかってくる一体を前に、コオニは大鎌を振るう。回転防御が効いた状態で、振り払った鎌は手下の攻撃をクラッシュする。一瞬、怯んだ狼を襲ったのは飛び込んできたティアナの一撃だった。大きく、仰け反る獣を目の端にコオニはマスカレイドへと視線を向ける。赤い瞳はその雰囲気を変えていた。薄く開いた口からはアハハハ! と笑みが漏れる。大鎌の刃は鈍く光り、少年は常ならぬ様子で敵を見据えていた。
「……?」
 何かが違う、と思ったとしても声をかけられるほど暇は無かった。首筋に感じた違和感ーーぴりり、としたそれに反射的に剣を構えたヘイゼルは、は、と息を吐いた。愛用の剣で受け止め、クラッシュしたのは手下狼の一撃。剣を構えたまま、向き直り一度剣を振るう。横切りは腕を掠ったのか、狼が体勢を崩す。手下の動きを視界にいれながら、ヘイゼルはマスカレイドへと向き直る。黒金の獣は、その鋭い爪で地面に跡を残し、着地していた。そして、ぐっと顔が上がる。
「来るぞ……!」
 竪琴を手に、オリヴァーは声を上げた。同時にマスカレイド化した狼の口から、炎が吐き出された。向かう先は、もっとも狼の気を惹いていたベアトリーチェだ。
「ベアトリーチェ!」
「大丈夫じゃ」
 高く上がるヘイゼルの声に、ベアトリーチェは剣を持ったまま答えた。痛みはある、熱も感じる。だが、手から太刀を落としてはいなかった。まだ動ける。たん、とベアトリーチェは駆けた。ぴくりと反応したマスカレイドは、オリヴァーの唄う誘惑魔曲によって絡め取られる。抗いがたい音色は、マスカレイドから一時、防御を奪う。
「はぁっ」
 踏み込み、ベアトリーチェは居合い斬りを叩き込んだ。刃を引き、構えを取り直せば怒りに満ちたマスカレイドの低い声が耳に届く。バッドステータスを見取ったコオニの指先が、星霊スピカを招き、たん、と飛ばす。零れた笑みは変わらず、だが回復を告げる声は丁寧だった。
 マスカレイドが動く。爪が地面に跡を残し、動きを伺うように尾を揺らす。
「そのまま眠ってろ!」
 その動きを目の端に、スマルトは手下の狼にスカイキャリバーを叩き込んだ。体を捻り、叩き込んだ回転突撃に狼は倒れる。じゃり、と背後で聞こえた音に半身を返す。連続ジャンプで天高く舞い、剣を抜く。天空で見据えるのは、こちらの姿を見失った狼の姿。
「止まって見えるぜ!?」
 驚いたように顔を上げる狼に、スマルトは剣を突きつけた。
 その横では、木箱に飛び乗りジャンプしたティアナがシールドスピアを、狼へと突きつけていた。
「私の先にあるモノ全て、弾き飛ばしてあげるの!」
 スカイランナーは天高く舞う。狭い戦場の、その空中から突撃をしかけるティアナが新たな狼を相手にするのを見ながら、キドーは正面、迫ってきた狼のうち一体を肘で打ち、体が宙に浮いた所でざっと足を引き、心臓打ちを叩き込んだ。唸るような声を最後に、狼が倒れる。
「よっしゃ!次いくぜ!」
 手下の狼は数が減ってきていた。最初から比べれば、広場での戦闘は随分と戦いやすくなっていた。戦場に倒れた狼たちは広場に端に寄せられ、駆け回るマスカレイドは唸り声と共に、高く飛ぶ。それにあわせて、残っていた手下の狼が援護するように走るのに、ユウは弓をひく。鷹のスピリットは戦場に大きく羽ばたき、その翼で狼を切り裂いていく。がくん、と倒れた狼が狙っていたのはーーマスカレイドの狙いの先にいたのは、ベアトリーチェだ。オリヴァーが声を上げ中、ベアトリーチェは太刀を構え一撃を受け止める。
 二度も直撃を受けるつもりはない。
 スカイキャリバーに似た攻撃を、クラッシュする。ぐっと、顔を上げたスカイランナーは、太刀を振り上げた。一撃はマスカレイドの腕を斬り、その素速い動きを捉えるように切っ先を向ける。たん、とマスカレイドが走り出した先に、影が落ちた。
「待たせたわね♪ 可憐な乙女、ティアナ・ハートランドのおでましよ!」
 姿を見せたのは、ティアナだった。スカイキャリバーによる一撃を叩き込んだ彼女は、シールドスピアを構え直し、ぐっと顔を上げる。ぐるるる、とマスカレイドが唸る。手下の狼たちは、残り3体。まっすぐに見据えていたユウの弓が一体を捉え、キドーとスマルトの一撃がそれぞれに狼を沈めた。残るは、マスカレイドのみ。

●少女と猫とエンドブレイカー
 たん、と最初に地面を蹴ったのはマスカレイドだった。速い。その動きを追うように、ティアナは駆ける。飛び上がり、叩きつけたスカイキャリバーがクラッシュされる。続けて叩きつけられた一撃に、ティアナはぐっと、顔を上げた。
「乙女の柔肌を傷つけた代償、取らせてもらうわ!」
 すぐに毛布のマントになめしてあげるわ、黒金! そう声を上げると再びティアナは天高く舞い上がった。その間、オリヴァーは援護するように誘惑魔曲を紡ぎ出す。音色は甘く柔らかくーーそして、その闘志を奪う。
「……!」
 開いた口はーー火炎を吐き出す事はできないままに、ティアナの一撃を受け止める。大きく体を振るい、牙を剥きだしにしたマスカレイドはごう、と風のように唸った。そこに、スマルトの十字剣が決まる。
「駄犬には、躾が必要だな!」
 縦に振り下ろした一撃は、マスカレイドの牙を折る。獣とは違う、風が吹くような唸り声が響き、スマルトは一度距離を取り剣を構え直す。ぶん、と耳に届いたのはからぶったマスカレイドの一撃か。誘惑魔曲で捕らえられたのか、火炎が吐き出される様子はない。距離を詰めるように走り出した相手に、キドーは一気に距離を詰め、装備した爪で一気に引き裂いた。ぐっと、マスカレイドを抉った一撃はびくびく、と巨大な獣を振るわせる。
「入ったなっ」
 与えたバッドステータスは毒。次の狙いを定め、飛び上がったマスカレイドを前にキドーは武器を構えた。受け止めた一撃は、だが大きなダメージでもない。ぐっと顔を上げ、流れる血に腕を振るえばコオニの回復が届く。
「悪ぃ! ありがとなっ」
 スピカを見届け、キドーは声を上げる。マスカレイドは受けた毒に、その身を大きく振るっていた。笑みを零し、だが丁寧な口調だけは変わらずにキドーに答えたコオニは、大鎌を持ったままたん、と地面を蹴った。
「アハハハ! …さようなら」
 大鎌の回転斬り上げにマスカレイドの体が僅かに浮く。仰け反ったそこに、ユウの矢が突き刺さった。空中で体勢を取り直すようにして、木箱を蹴り上げたマスカレイドを追ったのは、スマルト、ベアトリーチェ、そしてティアナだった。叩きつけられるスカイキャリバーにマスカレイドが唸り声を上げる。ぐと、顔を上げたそこ、ヘイゼルとキドーの一撃が襲いかかる。戦場にはオリヴァーの歌声が響いていた。音色は切なくーーそして抗うことなどできない音色で響き渡る。封じられたまま、その口からは炎は吐き出されることなく、黒金の獣は倒れた。

 怪我の状態は酷くは無かったが、血が流れる程の怪我についてはスマルトの持ってきていた包帯が役に立つことになった。応急処置ではあるが、ニノン達に会うにはこれで十分だ。
「ニノンや猫達は無事だろうか?すぐに確認しにいかないとな」
 オリヴァーの言葉に、それぞれが頷く。胎児した理由などの話は、話上手な面子に任せる、とキドーはひらりと手を振った。ひとまず、帰宅だ。
「ニノンちゃんや猫ちゃんの平穏を守れたのなら……冥利に尽きるわね♪ 彼女自身も、親も、猫も……大切な人を失うのは、悲しいもの」
 くっと顔を上げたティアナは、吹く風に僅かに視線を落とした。暫く、畑へと歩いていけば路地裏にちょこん、と隠れた子猫たちの姿が見えた。先に、置いてあるおやつ類は誰が置いていったのか。ふっと視線を上げたオリヴァーはキドーのような後ろ姿を見つけて、首を傾げる。おやつを上げながら、ティアナは笑みを浮かべた。子猫たちに怪我は無いようだった。
「にゃ〜ん♪」
「……にゃぁ?」
 コオニの声に、子猫が首を傾げる。おどおどとした態度は、次第にくるりと尻尾を絡めるものに変わる。子猫たちの無事を確認した後、一行はニノンとメリーに会った。畑の持ち主に話を通しながらベアトリーチェは、今の季節ならば去年の葡萄酒があるのだと話を聞いた。思わず頬を緩ませれば、味見していく? と畑の女主は笑う。
「おにいさんもおねえさんも、メリーの友達?」
「子猫たちの方かな」
 ニノンの言葉に、ヘイゼルはそう言って答える。一方、ユウは猫たちが再会したのに、ほ、と息をついた。にゃー、と鳴くメリーにそっと手を伸ばす。喉をごろごろと鳴らすのが聞こえた。家族は一緒なのが一番いい。
「もうこれからはぐれたりしないように……な」
 狼は畑の一角にうめることに決まった。メリーの友達なのね、とはしゃぐニノンの笑顔とメリーの声が畑に響いていた。



マスター:秋月諒 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/03/28
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  • カッコいい17 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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