ステータス画面

輻輳する愛憎

<オープニング>

●朱を照らす星空
「はぁっ、はぁっ……!」
 弾む白い吐息、切れる息にも拘らず彼女は寒空の下をただ駆ける。
 寒さは増す一方でも、それを気にしない程に体は芯から熱く。
「遅れちゃったけど、まだ待っていてくれるかな……」
 彼からしてみれば唐突な呼び出しだと思うが、それでも走り出してしまったこの気持ちは止められず……愛して止まない人の下へ遅れてしまったからこそ一刻も早くと彼女は急ぎ、駆ける。
(「そう、一目惚れだった。あの時、あの人に逢ってから私は恋に落ちて……」)
 内心で漏らした言葉の通り、まだその想いは一方通行で。
「まだ、待ってくれているかな……大丈夫、きっと大丈夫!」
 確信がある筈もない、だけど彼女はそう呟いて自身を奮い起こす。
(「あの角を曲がれば、あの人が待って……」)
 そうでもしなければ足は止まり、ありったけの勇気を振り絞って言葉と成した今日の誘いが水泡に帰すからこそ、どの様な結果が返ってこようとも厭わずただ駆ける。
 この想いこそ伝えなければ、先には進めないのだから。
「やあ」
 しかしそんな折、行く先を阻む様に進む先の闇の中から声が響けば驚いた彼女はその想いとは裏腹に足を止めてしまい、やがて雲の中から現れた星空の元に照らされる男性の姿を見止めて口を開く。
「クラッド……どうしてここに?」
「ちょっとした用事が君にあってね」
 それは知り合いの男性でこそあったが、彼女の想い人ではなく……だからこそ唐突に現れたクラッドと呼ばれた男性へ問う彼女に、遠回しな言葉で応じる彼ではあったが
「ごめんなさい。今急いでいて」
「時間は取らせないよ」
 無論、それ所ではないと言って彼女。
 彼の脇をすり抜けて再び駆け出すが、それはクラッドの横を通り過ぎようとした寸でで腕を掴まれ、引き止められる。
「痛……っ!」
 その交錯の際、駆け出していたからこそ腕を捻られる形になって彼女がたたらを踏むとその機を見逃さず、クラッドは彼女を石壁に押し付け顔を近付ければ吐息が掛かる程の距離で彼は言葉を紡ぐ。
「僕と、結婚してくれないか」
 だがそれに対して彼女は顔を背けてただ、沈黙を守るだけ。
「……相変わらず、答えは変わらないんだ。引き止めてごめんね」
 その反応にクラッドは溜息を漏らすと次いで彼女から身を離して手も離して詫びれば無言のまま駆け出す少女だったが
「尤もすぐに、その答えは変わるかもしれないけど……」
 背後から最後に響いたクラッドの言葉は既に彼女の耳には入っておらず……漸く角を曲がった少女は、その先に待つ彼の姿を見付けて。
「アヴェン……?!」
 だが彼は月夜の下、鮮血に染まる地面がむき出しの路上に凄惨な姿を晒していて……彼女はそれを目の当たりに愕然とその場に腰を落とすが
「少し調べれば簡単に分かったよ。僕が、君の事をとても愛しているのに振り向いてくれない理由がね……だから、僕達の障害を排除した」
「クラッド……貴方が、貴方が」
 即時、この光景を見ながらも先と変わらない調子で背後から再び響いてきたクラッドの声を聞けば振り返り、まなじり吊り上げ静かに憎悪の矛先を向けるが
「そうだよ、これも貫くべき愛の為に……だからどうかクヒト、僕を受け入れて下さい」
「いやっ……止めて! 貴方おかしいわっ、毎日の様に私に付き纏って……何度言っても話を聞いてくれない所か、こんな事まで!」
 そんな彼女の様子など気にする風もなくクラッドは愛を紡ぎ、クヒトの華奢な左腕を掴むが暴れ叫ぶ彼女が振り回した右手の爪が彼の頬を裂けば、それを端に揺らぎ打ちひしがれる彼。
「どうして、阻む障害も取り除いたのに……今度こそ、僕の愛は成就されるんじゃないのか」
 やがて緩んだ力にクヒトは掴まれていた腕を振り解けばアヴェンの亡骸へ寄り添うも、その傍らでクラッドは茫然自失と言った感で身を震わせれば抱く歪みはやがて狂気となり、代わりその姿を禍々しきものへ変え……そしてそれを切っ掛け、一つの結論に至る仮面帯し彼。
「あぁそうか。中身にまで拘る必要はないのか……それじゃあ、綺麗に僕が殺してあげるよ。その器だけ、永遠に僕の近くにいてくれればいいや」
 そして吐いた言葉が消えるより早く、クラッドは行動を実行に移すのだった。
●表と裏
「何事にも表と裏ってありますよね。特に人間の感情には」
「何だ急におかしなものでも」
 エルフヘイムの旅人の酒場にて何時もとは違う、何処か影を落とした雰囲気を纏い口を開いた大鎌のデモニスタ・フィリーネ(cn0027)へ、見知ったエンドブレイカーが青年は茶々を入れるがそれは途中、足を思い切り踏まれて最後まで言葉にする事は出来ず。
「今回は行き過ぎた想いの果てにマスカレイドとなった方を皆さんに止めて頂きたく」
「シャルムーンデイも近いから恋愛沙汰、とか?」
「はい。愛の果てに憎しみがあって、憎しみから愛が生まれる事もあって……私が言うのもなんですが、感情って不思議ですよね」
 それから彼女、小さく咳払いをした後に改めて本題を切り出すと何処からか挙がった声に頷き応じてフィーはしみじみと呟くも
「行き過ぎた愛……ストーカーとか、その類がマスカレイドになったとでも?」
 彼女の口ぶりから、なんとなしに予見して口を開いた魔法剣士が推測に再びこっくりと頷いて彼女。
「クラッド、と言うエルフの方なのですがエルフの中では容姿そこそこ、頭脳は明晰、家もどちらかと言えば裕福と比較的良い生まれなのですが……元の性格に難があり、独占欲が強いと言うか思い込みが強いと言うか」
「先天的なストーカー、って感じだな。まぁ良くは分からんが」
 次いで今回、打倒すべきマスカレイドへと話を及ばせれば誰かが漏らした嘆息に苦笑だけ浮かべるとそもそも、クラッドがマスカレイドになるに至った原因を語り出す。
「それで今回のエンディングを見て後に少し、当人について調べてみたのですが……どうやら少し以前、私達がエルフヘイムに着たばかりの頃にその難ある性格から付き合っていた方に振られてしまった事を切っ掛けに、マスカレイドとなってしまった様で」
「まぁその後は察しましょう。で、今度の犠牲者は何人目ですか? 色恋沙汰ともなるとそう頻繁には……と思いますが」
「幸いにも二人目ですが、不幸にもこのまま黙認すればお互いがお互いを想っている方々の仲が無残にも引き裂かれます」
「両想い、か……リア充爆発s」
 果たして最後に入った誰かの茶々は今、この場に相応しくないからこそ近くにいた複数人のエンドブレイカーに実力行使で止められれば、それは聞かなかった事にしてフィーは周囲を見回して後に頭を垂れる。
「……それでこれ以上の犠牲を出さない為にも、何よりシャルムーンデイを前に大事なその想いを途絶えさせない為にも皆さんの力をお借りしたく」
「それで、何をすれば良い?」
「クラッドと早く接触してしまうアヴェンさんの身の安全を確保する事が最優先です。方法はクラッドと接触する前にその場から逃がす等……但し単純な理由でアヴェンさんは待ち合わせ場所であるその場から動きませんし、確かな証明なくクヒトさんの名前だけ出してその場から逃がす事は難しいでしょう」
 とは言え煩雑な状況でもあるとフィーは理解していたからこそ、次いで響いた駆け出しのエンドブレイカーだろう青年からの問いにも漠然ではあるも何時もより細かく応じると一息を挟んで後。
「それ以前にクヒトさんへの接触こそ可能ですが……彼女と接触する事でクラッドより早くアヴェンさんの元へ辿り着くのが難しくなりますので、その点も気を付けて下さい」
「色々と煩雑で難しいですね……」
「でも、裏を返すとアヴェンさんさえその場から退避させられればクヒトさんの安全も確保出来る筈です」
 自身知り得る、煩雑なその状況と考えられる対応を言い終えれば……やはり渋面を浮かべる一人の城塞騎士ではあったが、唯一の慰めだけフィーが言うと、
「それと肝心のクラッドの戦闘能力ですが、マスカレイドとなると背に翼を生やして空を飛翔しスカイランナーに似た攻撃をしてくる事と、自身の両手の爪を伸ばして振るっても来ます。配下マスカレイドは数こそ余り多くないものの、その連携には目を見張るものがあるので注意して下さいね?」
 その最後にクラッドのマスカレイドと化した際の戦い方と、その配下マスカレイドについて触れれば改めて皆を見つめれば
「残念ながら、今回のマスカレイドとなったエルフを救う事は出来ません。戦闘後はマスカレイドとなっていたエルフの戦闘後は死体が残ってしまう為、速やかにその場を離れて下さい。都市の人間はマスカレイドの力を使って犯行を行っていた事は分からないので、下手をすると君達が殺人事件の犯人にされてしまうかもしれず、場合によっては都市警備隊としての活動が行えなくなってしまいますのでその点だけ、気を付けて下さい」
 最後に肝要な点を皆へ伝えると、改めて皆へ頭を垂れて願うのだった。
「その大事な想い、気持ちこそ大切に守るべき物の一つだと思います。だから皆さんのお力をどうぞお貸し下さい」


マスターからのコメントを見る
参加者
狩猟者・トール(c00659)
緑風の守護騎士・ステラ(c01833)
幸せの詩を紡ぐ花人・ミミ(c02229)
アマキツネの・カケル(c05038)
ハニーフェイス・カレット(c08089)
紅い涙・ベニ(c10839)
モノクローム・クリエ(c11377)
虚蝉・ローロ(c15046)
華蟷螂の淑女・ツバキ(c15056)
魔鍵の星霊術士・アルストロメリア(c15869)

<リプレイ>

●接触 〜アヴェン〜
「誰かを殺してでも手に入れたい人、か……」
 月浮かぶ、夜の静寂の中……被害者となる筈のアヴェンの安全を確保する為、彼がいる袋小路へ歩く一行の中でポツリ、そう漏らしたのは狩猟者・トール(c00659)。
 焦がれる人が幸せならばそれで良い、と言う偽善を受け入れず凶行に走るマスカレイドと化したクラッドの心情を何となくでも理解しながら、しかしそれはすぐに己の内心でだけ否定すると
「クラッドさんの好きな人を思う気持ちは分かるけど、やりすぎは良くないよね」
 トールの心の内を読んだかの様、傍らで緑風の守護騎士・ステラ(c01833)が二つに結う、尻尾の様な金髪を揺らしかけながら呟いて彼女。
「アヴェンさんやクヒトさんを守れるよう、騎士として頑張るよ!」
 見透かされたかの様な彼女の言葉に密か、慌てるトールには気付かず決意を発すると同時に八人はアヴェンがいる袋小路へ辿り着く。
「……クヒトか?」
「残念だけど、違うわ」
 その、ステラの声を聞き止めて暗がりの中で言葉を発する人影……アヴェンへ華蟷螂の淑女・ツバキ(c15056)が否定を返すと、
「アヴェンさんですねぇ? 急いでくださいぃ。クヒトさんがぁ危ないんですぅ」
 次いで、緊迫した面々が纏う空気の中でも間延びした口調で紅い涙・ベニ(c10839)が先ず端的に用件だけ告げる。
「この間のぉ、殺人のぉ犯人がぁクラッドさんだとぉ分かったんですぅ。クラッドさんがぁ、クヒトさんにぃ恋慕をぉ抱いているぅのはぁご存じですぅ?」
「初耳、だな。そも、その彼女とここでこれから落ち合う約束をしているんだ。そう言った話なら尚の事、俺だけここを離れる訳には行かない。それに……あんた達は何者だ?」
 しかしアヴェンは頑なに首を左右に振るが、一行にとってその範疇は予想から超えたものでなく、
「都市警備隊の者だ。しかしこんな夜遅くに待ち合わせか、じゃあ心配だよな。でもお前がここにいたら、その人だって逃げられないんだぜ?」
「大丈夫、仲間がクヒトも今言ったお店に避難させるように手配してあるから〜」
「だからこの場所からはどうか離れていて貰えませんか? もしかすればアヴェンさんも怪我か、それだけじゃすまなくなる危険があります……だから」
 先ずトールが口を開き諭しかければ、ハニーフェイス・カレット(c08089)も次いで近くで未だ開いている酒場を指差せば幸せの詩を紡ぐ花人・ミミ(c02229)が二人の行く末を案じるからこそ、可愛らしい面立ちに真摯で一つの悲惨な結末を知るからこその悲嘆をも宿して言葉紡ぐと、
「……信じて、いいんだな」
 冗談ではない事を理解してアヴェンは暫し思案して末、八人を見回して言葉少なく尋ねる彼に頷いてカレット。
「はい。だからクラッドはそのお店でクヒトの……」
「……クヒトさんの告白前にアヴェンさんに教えたらダメですぅ」
 柔和な表情に笑顔を宿して言い掛けた言葉は途中、彼の服の裾を引っ張るベニによって遮られれば二人のやり取りに、今度は首を傾げるアヴェンだった。

●接触 〜クヒト〜
 アヴェンの無事を確認、保護したその一方で二手に割れていた一行の内の二人はクヒトの安全も確保しようとしていて。
「御急ぎの所失礼。クラッドと云う男に覚えは有りますか」
「え……」
 袋小路の方へ夜も遅い刻に関わらず向かうエルフの女性を鷹の目用いて迅速に見付けた虚蝉・ローロ(c15046)が駆ける彼女の傍らで同じ速度で駆けながら尋ねれば、目を見張る彼女がクヒトと特定出来たからこそ、簡潔に用件と切迫している状況を伝えると二人が促すより彼女の駆ける速度は見る間にも落ちて。
「大丈夫じゃ、あちらにも既に儂らの仲間が行って安全を確保している筈」
 その顕なクヒトの不安を宥め、落ち着かせる様にモノクローム・クリエ(c11377)が言葉響かせれば、
「儂にも想ってくれる者がおったが……死んでしもうた。それは胸に穴が空いたかと思うほど苦しかったの」
 その次に彼女の口から吐いて出た、小さな想いの残滓は儚くすぐに消え。
「お主にあんな思いはさせん。お主らは命に替えても絶対に守るでな、安心せい」
「貴方達は……?」
 だからこそクヒトの肩に手を置いて言うクリエの力強い言葉に漸く反応を示し、クヒトが彼女を見つめ問えば、
「先も言った通り、都市警備隊だ」
 二人を先導する様に先を歩くローロが返した答えは先と変わらないもので。
「で、とても重要な事なんじゃが……アヴェンとはどこまでいったんじゃ?」
「じゅっ、重要じゃありません!」
 故に何かを感じたからこそ首を傾げるクヒトではあったが、唐突にクリエが響かせた問い掛けに彼女は頬を染めて応じる事だけで途端、精一杯となるのだった。

 それぞれの安全を確保して後、二人と一行が辿る運命とは……。

●輻輳と錯綜と
「……来た」
 そう考える暇すらなく、アヴェンの安全を確かに見届けてから袋小路で待ち受ける八人の中で未だ沈黙を守っていた魔鍵の星霊術士・アルストロメリア(c15869)が漸く口を開けば、その視界の中に程無くして映る優男と言った印象が強い一人のエルフ。
 暫しの間を置いて彼は一行の前へ姿を現すと唯一つだけ、尋ねた。
「アヴェンは何処にいる」
「残念ですけど、アヴェンくんもクヒトさんもいませんよ〜」
「……あなたはぁ、クヒトさんにぃ嫌われてるぅんですぅ。それがわからないんですぅ?」
「そんな筈はない」
 果たして最初の問い掛けにはカレットが軽口で応じるとベニも変わらずの口調で続くが……惑わずそれは否定する彼を見て、嘲ったのはツバキ。
「見向きされないからって、想い人の周囲を荒らすなんてとんだピエロね。面白くもなければ美しくもないわ。だから相手にされないのよ」
「……貴様」
 的を射たその言、しかしクラッドからすれば自身の想いを踏み躙られたと感じたからこそ怒りに肩を震わせ、感情のままに猛る彼。
「僕の想いを愚弄するなら、先ずお前達を……殺す!」
「させません、それだけは絶対に……!」
「皆を……今はアヴェンさんとクヒトさんを守る為に騎士として頑張るよ!」
 次いで異形と化せばそれから直後、クラッドの背後から配下マスカレイドの狼が群れも現れれば戦いが避けられないからこそ表情曇らせながら、しかしミミはステラと揃い断固立つ決意を場に響かせると担い手をそのままに体現した可憐な竪琴『〜+。・ピュア・セレナーデ・。+〜』を構えれば
「……ふっ、心を食われたか……? 貴様には地獄への道行きが相応しい」
「天狗(あまきつね)のカケル、推してその仮面を砕かせてもらう……覚悟!」
 先までの口調と雰囲気を一変させたベニの鋭い口調がクラッドを打てば忍と称するアマキツネの・カケル(c05038)も目元を鋭く輝かせて名乗りを上げると同時、地を蹴る!
 そして二つ名に等しき一筋の流星、待宵草の香纏う『忍刀・コウモリ丸』を異形と化したマスカレイドへ振るおうとするが途端、唐突に動きを止め視線もあらぬ方を見るクラッドのその視線の先を嫌な予感覚えたからこそカケルは動きを止めて追えば、果たしてその先にいたのはクヒトと二人の仲間。
「クヒトか……! やっぱりお前は俺の事を!」
「ひっ……!」
「どうして、怖がるんだい。僕だよ、クラッドだよ。ただ君だけを想う……」
 話と違うこの状況下、八人は内心でこそ狼狽するがクラッドはと言えば待っていましたと狂気を前面に微笑み彼女の元へ歩み寄ろうとするが、クヒトはと言えば勿論その狂気を前に恐怖覚えるからこそ無意識にでも後ろへ下がり、更にその距離を詰めようとマスカレイドも前へ踏み出そうとするが
「何、その化け物みたいな手……? 相手はエルフだと思っていたけれど、違っていたみたいね」
「どうしようもない男じゃな。そんな馬鹿者は逝ってよし」
 そんな彼女の登場も想定していたからこそツバキが前へ出て先ずマスカレイドの異常性をクヒトへ明らかにすると、震える彼女を庇う様に前へ出たクリエが溜息を漏らし断言すれば……言葉にならない咆哮を上げたクラッドとの戦いはいよいよ始まった。

●輻輳する愛憎
 ばさり翼広げるクラッドよりも、遠吠えにて大気震わせる狼よりも先に動いたのはカレット。
「行きますよ〜、先ずは狼の数から減らしましょうね〜」
 彼が『風炎』より放った先駆けの矢を端に、他の皆も続き先ずは手筈の通り配下マスカレイドたる狼の群れを狙うも
「ったく、動物なら少しは火を怖がれよ」
 クラッドの配下たるマスカレイド、トールが放った火矢を受けても怯まなければ
「この有象無象が……!」
 ベニが数多放った魔剣もその全ては命中せず、狼達の確かな瞬発力に舌打ちする彼女はその後方に在するクラッドがクヒトの元へ駆けるのを見て呻く。
「クヒト……!」
 一方で歓喜の声を上げるマスカレイド、だったがしかしその間には彼女の近くにいたローロが割り込んでいたからこそ、已む無く障害物を排除すべくマスカレイドは鋭利な爪を素早く振るえば、それは己が得物『MELTDOWN』掲げその身も挺して凌ぎこそして。
「つ、う」
 僅かでも押され呻きながら、それでも彼が湛える笑顔の意味は分からずも
「真正面から襲うなぞ、アホのする事じゃな」
「クヒトさんはやらせないよ!」
 前からはクリエが大鎌『骨の王』振り回してクラッドを幾度と切り刻めば、戦場を駆け抜けるステラはクラッドの背後からローロへVサインを送りそれぞれに彼を支援する。
「不味いな……大分場が込み入っているぞ」
 とは言えこの状況、トールが呟いた様に想定から外れたもので一行がクラッドを囲んでいると言うよりは分断されていると言った感が強い展開を進んでいた。
「ごめんね〜。少しの間、任せるよ〜?」
「……しょうがない」
 だが幸いにもマスカレイド達が行動もまたクラッドと狼達、それぞれで異なっているからこそ先ず狼から倒そうとしていた彼らの中、カレットが先ず詫びれば何事かを察してベニが頷くと標的をクラッドへ変えた彼は銀色のコヨーテを喚び、駆けさせる。
 それは一重にクヒトを、その想いを守る為。
 その一方でクヒトにしか意識が行っていないクラッドは彼が喚んだコヨーテの噛み付きは無視してただ眼前のローロだけ執拗に攻撃し続けるが
「何れ程飴を与えても情を注いでも人はモノにはならないんだろう。其れで良い……俺は、物に興味は無い」
「クヒトは、俺のものだ……!」
 攻撃に晒され続けている筈のローロの笑顔は未だ崩れず、次いで響かせた言の葉を聞けば嘲笑と受け取ったマスカレイドは尚も吼えて、爪振るう。
「残念、器も手に入らない」
「クラッド。主は、必ず止める……忍法・蝙蝠手裏剣の術!」
「う゛、あ゛、ああああ……あぁぁぁあっ!」
 しかし生まれた僅かな間隙を縫い、尚も嗤いながら竜の気帯びた拳をローロが突き出しその体勢を揺るがせれば、次いでカケルが『忍刀・コウモリ丸』の唾取り外し投擲すると、彼の異形の片翼を半ばまでもぎ取って直後。
「おいでよ、黒霊剣!」
「……バルカン、行って」
「必ず、守るんだーっ!」
 それぞれ僅かな間こそ空きながら美麗にツバキが舞って魔剣放ち、僅かな感情を込めて炎宿す星霊をアルストロメリアが呼べば、確固たる意思を込めてステラが『シューティングスター』にてVの字描いた剣閃で苦労の末に三匹目の狼屠り、自らの力まで高めれば漸く状況は好転すると
「彼女のいない僕が言っても説得力無いかもしれないけど……やっぱり思い通りにならないからって危害を加えようとしたらだめだよ」
「自身の不甲斐なさを棚に上げ、振り向かない者を殺そうとはな。貴様のような男は仮面に取り憑かれていなかったとしても願い下げだ。ご退場願おう!」
 ここで狼の強烈な尾の一撃でほぼ全員が負傷していたからこそ、カレットが高めていた力解放して癒しの風を周囲へ舞わせるとそれを受けたベニが一足でクラッドの背後へ詰め大鎌『ヤマラージャ』を振るい、彼へ死をもたらす一撃にてその胴を薙ぐ!
「どうして……どうして僕の想いは届かなぁぁぁいっ!」
「こやつ、あれだけの手傷を負ってまだ!」
 だがそれを受けて尚、感情の奔流を言葉にただ叫んでクラッドは新たな感覚を解放してその身癒せば、余りにも異常なその想いに知らぬ内たたら踏んでしまうクリエだったが
「クラッドさん、違うよ……それじゃあ、違うのっ!」
「その果てのない情念、この一撃で必ず!」
 皆の支援に徹していたミミが初めて慟哭の言葉紡いでは全身全霊込めた哀憐満ちし歌奏でると瞳見開いた忍、夜闇へ飛翔すればその胸に刃を深く埋め込み……そしてどうと倒れるクラッド。
「何が分かる、お前達に……僕の気持ちの、想いの何が……」
「分かるからこそ、止めたんだ」
「『棘』なんてものが無ければ、クラッドさんが愛しい人を想う気持ちは痛い程に私もよく解ります……けれど、私は私よりも好きな人に笑っていて欲しい……だから」
 果たしてその口から発せられた言葉にはトールとミミ、明確な答えこそ分からなくも確かに彼へ応じれば何事か、小さく呟く彼へアルストロメリアは最後の手向けを贈った。
「……眠りなさい」
「……クヒト、好き……だ」
 表情こそ変えず、しかし僅かな感情を込めて彼女が贈ったその手向けは……クラッドへ最後だけ、穏やかな笑みを与えるのだった。

●惨劇の後に
「……クラッド、お前も棘の犠牲者だ。心の闇を煽り、人を破滅に導く棘を俺は赦さない。この地の棘は必ず滅ぼす……その誓いをお前への手向けとしよう」
 闇の中、眩しき月光が辺りを照らす中で今は黙するだけのクラッドの亡骸を前にカケルはそれだけを契ると踵を返してクヒトと、彼女へ手短に言葉掛けるツバキとクリエの方を見て瞼を伏せる。
「悪いけど、彼の事は黙っていて貰えないかしら? 彼の様な変異って、誰に言っても信じて貰えないのよ」
「……は、はい……」
「アヴェンはあの店におる、上手くやるんじゃぞ」
「………」
 その二人、それだけをクヒトへ伝えるが……彼女の反応は希薄なもので。
 とは言えその行く先を見守るだけの時間はある筈もなく、彼女に背を向けて二人は先にその場を離れた皆を追いかけ、その殿につく。
 果たしてその中、ポツリと漏らしたミミ。
「……確かにクラッドさんはマスカレイドで、一方的に自分の気持ちだけ押し付けていたましたけれど……その死を目の当たりに、クヒトさんはこれからアヴェンさんに告白出来るんでしょうか?」
 誰へともないその問い掛けが響けば、誰かが息を呑む中でアルストロメリアは知識欲に強いからこそ年齢の割に客観的な思考から厳かに断言するのだった。
「……そんな余裕、普通の神経なら恐らくは……ない」

 二人の命は守った。
 だがクヒトの想いは……どれだけの間か分からないもののこの日、確かに心の闇の中へ滑り落ちた。



マスター:紬和葉 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/02/23
  • 得票数:
  • 知的7 
  • せつない6 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。