ステータス画面

死と虚飾の屋敷

<オープニング>

 元々ホイスは都市のあちこちで手広く商いをする商人だった。最初は親の稼業を堅実に引き継いだ2代目であったが、勤勉実直なホイスは長い年月をかけて大きな財を築き豪商となった。そのホイスが最近になって長い間使っていなかった別荘にこもりきりになってしまった。
 やり手の商人だったホイスは消えてしまった。別荘の地下室で夜と言わず朝も昼も、恐ろしい殺戮を楽しんでいる。見たこともないような山海の珍味の中に1つだけ猛毒を仕込んでみたり、美しい宝飾品の貴金属を真っ赤に焼いて無理矢理身につけさせたり、薄く軽い布地で豪奢な服に仕立てて、それをまとった娘達を大きな水ガメに沈めてみたりする。それらを若い頃の勤勉さでホイスは1人で立ち働き、哀れな犠牲者達がホイスの商品でもだえ苦しみ、命を落とす様を飽きもせず楽しげに鑑賞しているのだ。

 剣の城塞騎士・フローラ(cn0008)は旅人の酒場に集っていた者達にこの情報を告げた。
「ホイスさん……いえ、ホイスはまだ別荘の中でしかマスカレイドとしての悦楽にひたってはいません。ですから、今この事を知っているのはごく限られた人たちだけです」
 使われているのは商品もホイスのものだし、犠牲者達も身よりがなく居なくなっても誰も探したりはしない者ばかりだ。ホイスの秘密を知る者は今のところほとんどいないのだ。使用人達の中には薄々おかしいなと思っている者もいるのだろうが、まさか自分の実直だった主が恐ろしい快楽殺人を行っているとは思っていない。
「ホイスの別荘へは商人を装えば簡単に侵入することが出来るでしょう。面識のない者でも何か売りたい物を持参してきたと言えば使用人達が門前払いをすることはありません。彼らは商売人なのです」
 フローラは言う。かつてはホイスがいる場所にはどこであっても多くの商人達がそうやって色々な物を売り込みに来た。だが、それも最近ではぱったりと途絶えている。
「ホイスは石つぶてを遠くから投げつけてくる攻撃と、高価な布を鞭の様に使って打ち据える事で攻撃としてくるでしょう。攻撃が当たれば傷が回復してしまうので、やっかいな相手です」
 フローラは小さくため息をつく。更にホイスは戦闘になれば大きな猫の様な獣を2体呼ぶ。敏捷で鋭い牙と爪を持つ獣は地下室での戦いに慣れているようで、壁を使って向きを変えたり、2体で同じ目標を攻撃したりしてくる。

「人々は次々と殺されています。一刻も早くマスカレイドとなってしまったホイスを倒して下さい」
 フローラは少しだけ悲しげな顔をして頼む。しかし、ホイスは別荘の外ではまっとうで羽振りの良い大商人だ。倒した後は早急にその場を離れなければ罰を求められてしまうのはこちらとなってしまうだろう。
「皆さんおわかりになっていると思いますが、そうならないように、誰にも見つからずに別荘を抜け出すことも考えて下さい」
 フローラは念を押した。


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参加者
大剣の魔獣戦士・レイジュ(c00135)
大剣の城塞騎士・ガウェイン(c00230)
扇のデモニスタ・アフテル(c04258)
槍の魔法剣士・ティアリア(c08606)
ナイフの魔法剣士・ルシエル(c08810)
大鎌のデモニスタ・タナトス(c09064)
太刀の魔獣戦士・オズワルド(c09213)
暗殺シューズのスカイランナー・サラ(c09219)

<リプレイ>

●秘密の商談
 その日も豪商ホイスの別荘には商談を求める商人達が面会を乞う。その最後の一団はなんとなく少し感じの違う者達だった。その感覚がどうしてなのか、言葉にして表すのは難しかったが武器商人だと名乗る者達には微妙な違和感があった。
「こちらと取引させていただくのは高価な品なので、護衛も一緒に入れて頂いて構いませんか?」
 ゆったりとした服を着た銀髪の若い商人の1人が笑顔で言う。使用人達は慇懃に主へと商談内容を取り次ぎ、一団は全員が無事に控え室へと通された。
 一行は後見役の女主人、交渉役の商人が3人、使用人と護衛がそれぞれ2人ずつであった。
「ちょっと……あの、その……」
 若い女がもじもじすると、控え室まで案内してくれた別荘の使用人が少し笑ってこちらへと手招きをしてくれた。若い女は主達に一礼すると足早に控え室を出ていく。もう一人の地味な格好をした幼い使用人は無表情で主達の背後に立ち、さらにその後ろに護衛役の男女が油断なく身構えている。
 すぐに扉が開き、顔色の悪い痩せた男が入ってきた。それがこの別荘の主、ホイスであった。ホイスの小柄な身体は圧倒的な威圧感を発している。
「貴方の名声は聞き及んでいます。同じ商売人として、貴方の商売術を学び、是非商品を見せてもらいたい」
 赤い髪の若い商人は立ち上がりホイスに礼をした。
「珍しい行商人だと聞いたが……」
 こわばった表情のままホイスが言う。
「その通りだ。俺達は武器を扱う。そちらが商う逸品をこの目で確かめたい」
 若い男だが、この一団の中では比較的年上の男が言った。仕草や態度が雄弁に、この別荘に多くの商品を集めているのだろうと確信している様子だ。
「……」
 それまでぐったりと椅子の背もたれに身を預けていた女主人が立ち上がり、ホイスの耳元でなにやらささやいた。だが、ホイスは難しい顔のまま首を横に振る。あからさまに面白くなさそうな表情になった女主人は乱暴に椅子に戻り投げやりに言った。
「じゃあせめてこの2人を引き取ってくださいよ。わけありで身寄りのない者達でしてね」
「2人とも奉公先を探しております。わたくしどもと一緒に旅をするのも危険なのでこちらで雇っていただけませんか?」
 ゆったりとした服の商人が丁寧に言った。2人をとても心配している様子だ。
「ただいま戻りました」
 ゆっくりとホイスの目が立ちつくす地味な子供と、扉を開けて深々とお辞儀をした若い女へと注がれた。

 2人の使用人を残し、商談が上手くまとまらなかった一団は別荘を後にした。だが、数刻後にはもう一度開け放って置いた窓から侵入し、地下室への通路を目指していた。
「歩いた感じと外観を考えると、たしかこっちに……あった!」
 女護衛役の槍の魔法剣士・ティアリア(c08606)が壁に駆け寄る。そこには確かに木炭を押しつけた様な小さな印があった。屋敷の構造からだいたい目星をつけていたので、すぐに気が付いたのだ。
「サラとタナトスが気になるゼ! 無事だとは思うが、急ぐゼ!」
 大剣の城塞騎士・ガウェイン(c00230)は印の示す方へと走り出した。大剣の魔獣戦士・レイジュ(c00135)、扇のデモニスタ・アフテル(c04258)、ナイフの魔法剣士・ルシエル(c08810)そして太刀の魔獣戦士・オズワルド(c09213)も続いて走り出した。

 地下室は驚くほど静寂が広がっていた。動く者といえば、異形の姿へと変わったホイスと2人の使用人役だけだ。
「自らの快楽のために他者の生命を弄ぶとは、全くもって許し難い」
 大鎌のデモニスタ・タナトス(c09064)が冷たく言い放った。暗殺シューズのスカイランナー・サラ(c09219)も敵を雰囲気が一変している。そう、ホイスこそが敵……ソーンに支配されマスカレイドと成り果てた彼らの敵だった。地下室の扉が荒々しく蹴破られ、仲間達が合流する。ホイスが口笛を吹くと地下室の奥から俊敏な獣が2体、躍り込んできた。

●秘密の戦闘
 ホイスの手が獣たちへと命令するかのようにタナトスを指し示す。それに応える様に獣たちは床を、壁を蹴ってタナトスへと文字通り牙を剥いた。
「危ない!」
 サラの声が地下室に響く。一気に間合いを詰め突進する2体の獣に対し、タナトスの大鎌が漆黒の髪の更に頭上で回転する。防御を固めるタナトスに獣の牙が食い込むがかすり傷だ。だが、時間差の様にもう1体の獣が鎌を持つ腕に爪を振るう。3つの爪痕が赤く長く腕に跡をつけ、そこからダラリと赤い血が流れていく。
「……っつ」
 僅かにタナトスの顔が苦痛に歪んだが、身を翻して体勢を立て直し獣の無防備な背へと大鎌を振るう。回転する鎌の刃が獣を斬る……だが、浅い。
「いくら名声のある商人でも、歪んでしまったらもう駄目なんだよ!」
 レイジュは戦いの構えもとらずに立つホイスへと走った。商才のある人物だと思っていた。堅実な商いを尊敬してもいた。それなのに、どうして……どうしてこんな結末を迎えることになってしまうのか。残念という思いがグルグルと胸に渦巻くけれど、この腕はその存在を許さない。レイジュの腕は魔獣化しホイスを殴りつけ、爪が閃く。
「この街を守る城塞騎士として、これ以上犠牲者を出すわけにはいかない!」
 地下室の出入り口からガウェインは一気に走り込んだ。目指すは2体の獣、その手近な1体だ。大剣を振りかざしたガウェインは振り下ろし、突く。敏捷な獣だがこの攻撃を完全に回避することは出来ず、腹のあたりの白っぽい毛皮が淡い赤に染まっていく。
「……んふふ、それじゃ頑張ろうかしらねぇん」
 余裕の笑みがおそらくはその包帯に隠された顔に浮かんでいるのだろうか? アフテルは懐に隠して置いた扇を手に颯爽と構えた。巻き起こる流水の一部はアフテルを包み守り、別の水流が傷を負った獣に襲いかかる。威嚇の甲高い鳴き声を獣があげた。悲鳴のようにも聞こえる声をあげ、壁を蹴って動きだした獣がたたき落とされた。高くジャンプしたサラだった。
「自由に動くなんてさせないデス!」
 更にサラの頭突きが獣を直撃し、1人と1体はもつれ合って床に倒れる。
「随分と良いご趣味をお持ちのようですね、ホイスさん?」
 侮蔑と憐憫の入り混じるルシエルの冷たく青い瞳がホイスを見つめる。だがそれは一瞬。ルシエルは獣達へと向き直った。残像が作るもう一人のルシエルとともに、逆手に持ち替えたナイフの刃が閃く。喉を裂かれ、胸を貫かれた獣は腹だけではなく全身を血に染めて倒れた。けいれんするように小刻みに身体が震え、やがてそれも途切れて動かなくなった。

 その時初めて、ホイスの顔に驚きの様な表情が生まれた。わずかに足を踏み出そうとしたところ、立ちふさがるような人影が浮かぶ。オズワルドだ。
「すまないが取引の話はなかった事にしてくれ。我々は君を始末しなくてはならない」
 静かな口調のオズワルドだが、言葉が終わると同時に一瞬で心が研ぎ澄まされ、鞘から放たれた刃がホイスを斬り付けた。確かな手応えと共にホイスの身体から真一文字に血が噴き出す。雨の様な音が地下室に響く。
「……何があなたをそうまで変えてしまったのだ?」
 ティアリアの言葉が吹き出し止まらない血の音に切なくかぶる。もう言葉も思いも願いもホイスには届かないのか。その腹に浮かぶマスカレイドの仮面はホイスの血に涙のように滴るけれど、それだけの事だ。ティアリアは槍の切っ先をホイスから残る1体の獣へと向け、もう一人のティアリアと共に時間差をつけて斬り付ける。逃げる獣……だが、後肢をなんとか捉える。キャンと獣が悲鳴をあげた。

 その後地下室での戦いはしばらく大きな状況の変化のないまま続いた。双方傷を癒す手段はほとんど無く、小さな手傷や痛みが少しずつ蓄積されていく。それでもまだ敵も味方も誰もが戦える状態だった。

 ホイスは指笛が吹き獣を奮い立たせ、更に長くしなやかな布を両手の先から繰り出し、レイジュを襲う。ほんの小さな傷から強い虚脱感がレイジュを襲う。更に獣は目を爛々と光らせて血塗れた爪をタナトスへ深く突き刺した。沢山の人の血を吸ってきた不吉な床にレイジュは膝を突き、タナトスの小柄な身体が転がる。
「き、貴様ぁ……」
 悔しそうにつぶやくタナトスだが、その身体は思うように動かない。傷の浅いレイジュは魔獣化した腕を振るい、逆にホイスに傷をつけ体力を奪い返す。
「僕はあなたなんかにやられません」
「あと少し、持ちこたえてくれナ!」
 ガウェインは叫びつつ、血に染まった獣に大剣を振り回す。ガウェインの太刀が獣を捉え強く打ち据える。
「……」
 とろりとした笑みを浮かべつつ、アフテルは扇を使って流水を喚びホイスと獣の両方を同時に攻撃する。その深いフードの奥に隠された金色の瞳は快楽に酔い、恍惚の光を讃えているのかいないのか。
「もう1匹も仕留めるデス、覚悟するデス」
 連続して跳躍し回転するサラの攻撃が獣を、そしてホイスへと次々に命中する。サラの強打に頭蓋を砕かれ、獣は床に倒れる前に絶命していた。残るはホイスただ1人だ。
「今こそ引導を渡してやる」
 逆手にナイフを握るルシエルのが連続で閃き、ホイスの腹を深々と刺し貫く。瞬時に引き抜き飛び退くが、その軌跡をなぞるように血がしぶいた。ボタボタと大きな音が響く。グラリと姿勢を崩すホイスにオズワルドが間合いを詰める。身をひねりホイスの背面に回り込んで攻撃するオズワルド……一瞬遅れて全ての力が抜けたホイスの身体がオズワルドに倒れかかってきた。
「やったのか?」
 ティアリアがオズワルドに尋ねる。無言でうなずくオズワルドが一歩退くと、支えを無くしたホイスの身体はぐしゃりと床に倒れた。

●秘密の結末
 地下室には再び静寂が戻ってきた。動きを止めた獣たちとホイスの身体はもう2度と動き出すことはないだろう。彼らの罪が消えるわけではないが、この場で新たな殺戮が繰り返されることもないだろう。
「なぜマスカレイドに堕ちたのかは分からないが、罪無き人々の命を己の悦楽のために奪うとは……虫唾が走る」
 醜くくおぞましいモノであるかのように、ルシエルはホイスの遺骸から目をそらす。
「その代償は……己の命で支払ったのだろう」
 傷を庇いながらも、何の感慨もないタナトスの金色の瞳がたった今まで戦っていた者達を見つめていた。神妙そうに手を合わせたサラが小声でつぶやく。
「お金が結果と思ったデスか? お金は始まりなのに。間抜け、デスねぇ」
 立ち上がった表紙に足先がホイスに触れるが、気にしている様子はない。
「……行こう」
 しなやかで適度に筋肉のついた腕をさすり、オズワルドは短く言った。もはやこの場で出来ることはなく、為すべき事は速やかな撤収だけだ。
「こんなところ、長居は無用だわねぇ」
 包帯だらけの身体を長いマントに包み、少し重たげな足取りでアフテルはたった1つの出入り口へと向かう。マントに隠れたシルエットはどこととなくゴツゴツとしていなくもない。
「誰かに見られる前に出ないとだね」
 レイジュは言った。ホイスの商人としての才覚や姿勢にはきっと沢山学ぶべき事があっただろう。それが残念だと思う気持ちが心のどこかに今も存在している。
「……或いは、彼には重過ぎた荷だったのかも知れないな」
 空のあるだろう上を見上げティアリアはつぶやいた。主を無くした家人達が、使用人達がどうなってしまうのか心配ではあったが、それを自分が心配する立場にはないとも思う。地下室を出る前に振り返り、ホイスの死体を見つめながら
「……これしかないのかナ」
 ガウェインは少しだけ寂しそうにそうつぶやくと地下室を後にした。

 彼らは首尾良く手近な窓から脱出した、夜陰に紛れて消えていった。 



マスター:神南深紅 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/03/29
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  • せつない4 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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