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【夜闇と灯火と】茨に囚われて

これまでの話

<オープニング>

 木々の枝葉から覗く空は、今日も青い。モニカは、ウーンと大きく伸びをした。
 年明けて、2度に渡り戦禍に晒されそうになったエス村も、漸く落ち着きを取り戻しつつあった。
 吹き抜ける風はまだ冷たいが、冬には冬の農作業がある。ブロッコリーやキャベツの収穫、春作のジャガイモの植え付け、玉ねぎには追肥や除草が必要だ。
 作物はそのまま自分の食い扶持になるから、住民総出、手分けしての作業で汗を流す。
 収穫を続ける母親の傍から離れようとしない幼子を、微笑ましく見詰めるモニカだが……ふと、その太い眉根が寄せられる。
 子供の姿が3人、ない。
(「仕事をサボるような子達じゃなかったんだけど」)
 長らく、陽の下に出られなかった子供達だ。寧ろ、農作業も嬉々として手伝っていた。
 それが……ここ数日、様子がおかしい。まず、何を話し掛けても返事をしなくなった。何処か怯えた様子だったので、昔の夢でも見たのかと思っていたが、昨晩からは村外れの納屋に引籠って出てこない。食事にも手を付けていないようだ。
(「本当に、どうしたのかねぇ……」)
 村の代表を務めるモニカには、責任がある。だが、母親のような気持ちで純粋に心配していた。
 生れてから隠れ続ける生活を強いられて来たハーフエルフの子供達にも、人並みの幸せを。今は穏やかに暮らして欲しい。
「様子を見に行ってみようか」
 そろそろお昼時。流石に子供達もお腹を空かしているだろう。もし顔が見られたら、よくよく話を聞いてみよう。この村では何も遠慮する事は無いのだから。
 バスケットにパンとチーズを3人分。汲み立ての水を詰めた水差しをぶら下げ、モニカは村外れに足を向けた。
「おや」
 納屋の前に並ぶ3つの人影に、思わず笑みが浮かぶ。
「やっと、外に出る気になったかい? リン、ショナ――」
 ザクリ――。
「……ニ、ア……?」
 ゴトリと、両手の荷物が落ちた。切り裂かれた胸が、熱い。ドクドクと溢れる血潮を前にしても、子供達の無表情は変わらない。
 そう、無表情だ。こんなに虚ろな瞳をした子供達を、モニカは知らない。
 ガツゥ!
 膝を突いたモニカを躊躇いも無く蹴り上げたのは、銀髪の少年。そのブーツには、枷のように茨が絡み付いている。
 仰向けに事切れたモニカを一顧だにせず、子供達は歩き出す。カードに付いた血を無造作に振り払った黒髪の少年の両手首には、縛めのような茨の腕輪。
「……わかりました。ニアは、愛する者を殺し、スフィクス軍に加わります」
 少年達に護られるように後ろからついて行く茶髪の少女は、茨をよじり合わせたような大きな絵筆を抱えてブツブツと呟き続けていた。

「大変、大変なのね!」
 息せききって旅人の酒場に飛び込んで来た大鎌の群竜士・ルピニ(cn0029)は、息を整える暇も惜しんで声を張る。
「このままだと、ハーフエルフ達がマスカレイドになっちゃうんだよ!」
 何事かと集まって来たエンドブレイカー達は、ルピニの言葉にギョッと目を見開いた。
「それは、どういう……?」
 一先ず水を飲んで、大きく深呼吸。どうにか落ち着いたルピニは、改めて口を開く。
「レジスタンスの村に匿われていたハーフエルフの子供達がね、次々とマスカレイド化して、村人達を殺して消えてしまうの……『わかりました。愛する者を殺して、スフィクス軍に加わります』って、口々に言いながら」
 でも、これはまだ起こっていないエンディング、とはっきり言い切るルピニ。
「ハーフエルフ達はね、スフィクス家の長老に無理矢理マスカレイドにされちゃうの。だから……愛する人、つまり、一緒に暮らしている村人さんを殺してしまう前に倒せれば、棘(ソーン)から解放してあげられる筈なのね」
 今から向かえば、最初の事件の直前に集落に到着出来るという。
「皆に行って欲しい村は、エスって呼ばれてる。レジスタンスの村の中では、新しくて小さい方かなぁ。村人さんはレジスタンスの家族が3組とパートナーを喪ったダークエルフが15人、それから、ハーフエルフの子供が3人」
 レジスタンスの村は、切り拓かれた森の中に在る。1つの大きな集落でなく、10〜20軒の集まりが点在し、それぞれ自給自足で暮らしている。集落と集落の間に畑や雑木林があり、徒歩数十分という所か。
「最初に殺されちゃうのは、モニカって女の人。エス村の村長さんで、肝っ玉母さんみたいな感じだよ。眉も太くてね、見たらすぐ判ると思う」
 ハーフエルフ達は村外れの納屋に集まっており、モニカは彼らを心配して様子を見に行った所を襲われるようだ。
「ハーフエルフは、男の子が2人と女の子が1人。男の子の名前は……銀髪の子がリン君で、黒髪の方がショナ君。知ってる人、いるかもしれないね」
 ルピニは酷く憂鬱な表情を浮かべていた。2人の事は、ルピニ自身よく知っている。救援物資を届け、レジスタンスの村に送り届ける――その依頼の世話をして来たのだから。
「女の子は、ニアちゃん。男の子2人より年下でね。エス村で出会ったみたいなんだけど、すぐ仲良くなって、よく3人で遊んでいたんだって」
 妹のように可愛がっていた所為か、リンとショナは、ニアを護るように動くようだ。
「皆、子供だけど、マスカレイドとしては強い方だよ。油断しないでね」
 リンの攻撃は蹴打。近接戦のみだが、その威力は侮れない。
 ショナの武器はカード。刃のように鋭い縁で切り裂いたり、投擲したり。味方を癒す事も出来るようだ。
「ニアちゃんの武器は……絵筆、というか。宙に描いた絵がイマージュになって攻撃してくるみたい。星霊術士のアビリティに似ているかも」
 彼らは操られており、まともな会話ができる状態ではない。倒すまでは戦闘に専念する方が良いだろう。
「無理矢理マスカレイドにしちゃうなんて、こんな酷い話は無いよね。3人が誰も殺さないで済むように……笑えないエンディングは、根こそぎザックリ刈り取っちゃうんだよ!」


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参加者
荒野の山羊使い・セヴェルス(c00064)
星光の導き・ルミネール(c00275)
黒の怠惰・ヒカリ(c00560)
赫赫と赫ける夜が月・スノーサ(c01027)
扇の星霊術士・クウ(c01720)
森の妖精・ホリー(c02029)
森の歌姫・エリーゼ(c06134)
ランドフェイク・レギリアス(c07923)
災・カサンドラ(c12207)
ネガティブネガティブ・サリナ(c14200)

<リプレイ>

●決意
 先を急ぐ。エス村を目指すエンドブレイカー達の表情は、一応に厳しい。
 2度ある事は3度ある、とはよく言ったものだと星光の導き・ルミネール(c00275)は思う。喜ばしい再会といかず、戦わねばならぬ事が残念で。
「……大丈夫。急がないと、もっと酷い事になりますから」
 友である扇の星霊術士・クウ(c01720)の気遣わしげな表情に頷き返し、困難を切り拓くというお守りを握り締める。
「もう、哀しいエンディングは沢山だよ」
 物資を届けレジスタンスの森に導いた少年達が、無理矢理マスカレイドとなる――森の歌姫・エリーゼ(c06134)にとっても最悪のエンディングだ。
「外的要因でマスカレイド化ね……面倒な事をしてくれるわ」
「必ず棘から解放する! それがエンドブレイカーの務めだもん」
 マスカレイドだったクライブ、リコッタの失踪、妖精騎士を救えなかった事――度重なる難事に落ち込むエリーゼだったが、気だるげな黒の怠惰・ヒカリ(c00560)の呟きに却って奮起したようだ。
 赫赫と赫ける夜が月・スノーサ(c01027)の視線にも、ヒカリは何処吹く風だったけれど。
(「必ず救い出そう。下らぬ棘に雁字搦めにされた未来を」)
 一方で男性陣は寡黙。だが、胸の内の決意は固い。かつてハーフエルフ達の厄を預かり受けた自らの心臓に手を当て、只管に先を急ぐ災・カサンドラ(c12207)。
(「畜生が。人を道具にしやがって……思い通りにはさせねぇぞ」)
 今はまだ、スフィクス家への怒りを滾らせる時。ランドフェイク・レギリアス(c07923)は唇を噛み、森の奥を睨む。
 そんな若者達を見やり、目を細める荒野の山羊使い・セヴェルス(c00064)。
(「これも何かの縁、か」)
 エンドブレイカーであっても善人でないと自認している。だが、目の前の不幸は避けたいと思った。今は人の皮を被っていてもいい……月は出ていないけれど。

 切羽詰まるエンドブレイカー達を余所に、村の光景は長閑そのもの。
「急ぐよ!」
 駆け出すネガティブネガティブ・サリナ(c14200)と森の妖精・ホリー(c02029)に、ルミネールも続く。今のハーフエルフ達に、村長のモニカを会わせる訳にはいかない。
「私達も行こう」
 右手の奥の方から沢山の人の気配がする。そちらが畑となれば、子供達のいる納屋は反対方向か。
 スノーサの言葉に、他のエンドブレイカー達も身を翻した。

●邂逅
「いたっ!」
 スカイランナー特有の嗅覚か、最初に人影を見付けたのはサリナだった。
 丁度、大柄な女性が家から出て来た所。バスケットを小脇に、水差しをぶら下げている。近付けば、太い眉が目を引いた。彼女がモニカに違いない。
「村長さんですか?」
「ああ……どちらさんかねぇ?」
 ルミネールが声を掛ければ、怪訝そうに眉根が寄せられた。警戒した面持ちに、サリナが割って入る。
「ボク達……そう、リン君とショナ君の知り合いで! 引っ越しも手伝ったし、今日は近くを通り掛かったから、それで!」
「……はぁ?」
 捲し立てられ、首を傾げるモニカ。
「ハーフエルフの2人に同行して、隠れ家からこの森まで移動を手伝った者です。2人の様子が気になって。こちらにいると聞いたものですから」
「おや、そうかい。聞いた事があるよ。すごくお世話になった人がいるって」
 ルミネールの整然とした説明に、漸くモニカの表情が緩む。子供好きなのだろう。幼いホリーには相好を崩した。
「3人なら……ああ、もう1人、ニアって子がいるんだけどね。村外れの納屋にいる筈だよ。ここ数日、塞いでいたんだけど、あんた達に会ったら気が紛れるかもしれないねぇ」
 案内しようと歩き出す彼女の袖を引くホリー。
「私達で、様子を見に行ってくる、の……」
「村長さんには言い難い事で悩んでいるのかも知れないし、ボク達が先に行って、話だけでも聞いてこようか?」
「え、でも……」
「あ、それってお弁当かな? 美味しそうだねっ」
 何としてもモニカを足留めしたいサリナだが、『ワークコミュ』はコミュニケーションの一助となるだけで万能ではない。パンとチーズというシンプルな中身なだけに、弁当の話題は些か突飛だっただろうか。
「3人のお弁当ですか? 私達で持って行くついでに、様子も見てきますね」
 戸惑うモニカを、すかさずフォローするルミネール。
「村長さんは、ここにいて貰えますか? 彼らが出てきたら一緒に戻りますので」
「そうそう。どっちにしろ、30分程したら1度報告に戻るから、自宅で待っていて欲しいなっ」
「そうかい?」
 100%納得した訳ではないだろう。だが、彼女達の熱意に押されて、弁当を渡すモニカ。
「じゃ、あたしは畑にいるから……あの子達の事、頼んだよ」
 大きな背中を見送り、3人は急ぎ踵を返す。
「時間、掛かってしまいましたね」
 説得の間、星霊スピカを撫でていたルミネールは溜息1つ。無意識の内に、焦る己を宥めているようだ。
「……きっと、大丈夫。急ご?」
 だが、帽子の下のホリーの面に悲観は窺えない。必ず助かる、そう信じているから。

 迅速な行動が良かったのだろう。7人のエンドブレイカーが村外れに駆け付けたのは、正に納屋のドアが開かれた時だった。
 思わず息を呑むエリーゼ。ゆっくりと現れたハーフエルフの3人は子供らしい表情も抜け落ち、虚ろな眼差しのままブツブツ呟き続ける。
 ――わかりました。愛する者を殺し、スフィクス軍に加わります。
 その胸に、見紛う事無き白黒の仮面!
「一斉に仮面と化すとは……長老め、小賢しい真似を」
 シャン、と涼やかに錫杖が鳴く。スノーサの小柄を隠さん勢いで、眠りの雲が迸る。続いて、クウの扇の一閃に応じた星霊ヒュプノスが跳躍しながら催眠ガスを振り撒き、ヒカリはトラップをばら撒く。
 戦の火蓋が、切って落とされる。その標的は何れも少女。同時に『敵』を認識して素早く動いた茨の絵筆が描くのは牙剥く蛟。
「くっ!」
 ニアにとぐろを巻いた蛟は一転、レギリアスに襲い掛かる。肩を抉られながらも、リンにディフェンスソードを繰り出すレギリアス。斧剣を振り抜く青年に、鋭い蹴りが逆襲する。
 ――わかりました。愛する者を殺し、スフィクス軍に加わります。
「行っちゃダメ! あなた達はスフィクス家にずっと苦しめられてきたんだから!」
 子供達の呟きが、エンドブレイカー達の耳に届く。溢れる想いの丈を込め、エリーゼは星霊バルカンを放つ。
 だが、怒りに震えたニアに、すかさずショナが輝くカードを投げる。少女に食い込んでいたマキビシまでも、カードが触れるや溶けるように失せた。
「お前が外を望んだのは、こんな事をする為だったのか?」
 カサンドラの爪が、猛獣を模してリンへ閃く。
「違うだろう? 道を間違えても、そこから正せば良いんだ!」
 操られる今の彼らに、言葉は届かない。それでも、訴えずにはいられなかった。
 ガキィッ!
「ほぉ、良い筋だ」
 槍衾の構えからの六連突きを茨の腕輪に弾かれ、セヴェルスは薄く笑む。
「身体の方、随分と好くなったんだねえ」
 最後に会った晩秋の頃より、ショナの肩幅は広くなったように見えた。

●愛する者は
 戦いは続く。レギリアス、カサンドラ、セヴェルスが少年達に対する間、女性陣の攻撃はニアに集中する。
「纏めてお相手致します!」
 クウの星霊ヒュプノスが跳躍する。午睡みの連鎖に、ニアのみならずリンまでもふらつくが、踏み止まった茨のブーツが一閃!
「っ!」
 ショナより投げられた呪を込めたカードに合わせ、首を刈らんばかりのトーキックがレギリアスの防御態勢を崩す。
 少年達はニアを庇いながらも、レギリアスを集中的に攻め立てた。数ではエンドブレイカーに劣るも、棘の齎す一撃はけして侮れない。
 一刻も早く、子供達を救いたい――だが、ダメージ浅からずのレギリアスは見過ごせず、エリーゼは唇を噛んで癒しの魔法円を描く。
 エリーゼの一手が回復に回った瞬間、ニアの絵筆が肥大化した。たとえ暴走させたとして、回復の技でない限りハイパー化は防げない。
 ブンッ――。
 巨大な絵筆が描くのは、巨大な魔物。黒々と凶悪な姿のイマージュは、見境なくエンドブレイカーへ襲い掛かる!
「あ、ああっ!」
 禍々しい波動が、後衛の少女達を狂わせる。心臓を握られたような激痛に、クウ、エリーゼ、スノーサまでもが身を仰け反らせた時。
「やれやれ。壊れる程愛するなんて、おこちゃまの台詞じゃないわ」
 一陣の風が吹き渡る――ヒカリの喚んだ生命を孕んだ風は激しくも優しく、遍く澱を祓い癒す。
「棘払いももう直というに……」
 アスペンウインドに助けられたスノーサは、苦笑混じりに七環の逆七芒星錫を構え直す。
「そうだね。折角、忌まわしい連鎖が無くなる時なんだ。ハッピーエンドの前に巨悪は倒されないと」
 スノーサに充ちる魔力を感じ取ったのか、ニアを庇おうとする少年達の動きを、セヴェルスとカサンドラが阻む。
「ああ、今、其方に行かせる訳にはいかんな」
 スノーサの小柄を包まんばかりに、デモンの翼が広げられる。翼が青白く輝くや、迸ったレーザーは余さずハーフエルフの少女を貫き――茨の絵筆を粉々に砕いた。

 崩れ落ちた少女の仮面が、溶けるように失せる。その刹那の沈黙を、禍々しい呟きが破る。
 ――わかりました。愛する者を殺し、スフィクス軍に加わります。
「まさか!」
 今、リンとショナに最も近い、愛する者は――ニア。
 咄嗟に、レギリアスは斧剣をリンの背中に叩き付けたが、その一撃に吹き飛ばしの効果は無く。
「お前達がしようとしている事は、戒律と同じだぞ!」
 カサンドラの絶叫は、棘に阻まれ届かない。
 ハーフエルフの少年達と少女の間に、遮るものは何もない。
「くっ、面倒な!」
「駄目ですっ!」
 ヒカリが歯噛みし、クウとエリーゼが悲鳴を上げた時――疾風が渡った。
「やっほー♪ リンくん、ショナくん、お久しぶりー♪」
 緊迫の場にそぐわぬ明るい声だった。
「あは、2人ともちょっと大きくなった?」
 軽口を叩きながらも、連続ジャンプによる強襲は容赦なく少年達を打ち据える。
 よろめいた2人に、邪剣の群れと眠りの雲が襲い掛かる。
「間に合いました!」
 ルミネールの安堵の声が大きく響く。漸く、モニカを足止めした3人が合流したのだ。
「また逢おうねって言ったから、きちんと約束を守りにきた、ね。それに……お友達も紹介して貰わないと」
 ホリーの言葉に、大きく頷くサリナ。
「色々と積もる話もあるけど……まずは君達を止めないとね♪」
「やれやれ……様式美ってヤツは大切だね?」
 辛うじて、危機は脱した。笑みを含んだセヴェルスの槍が、ショナへ閃く。
「棘なんて下らないもの、さっさと破壊しよう」

●決着
 エンドブレイカーの攻撃が、次々と炸裂する。
「そーいや、カードゲームの決着、まだついてなかったね。悪いけど、今回だけは負けないから」
 正確な戦績は、サリナの全敗だった筈だが、ここでそれを突っ込む野暮はいない。鮮やかな乱舞脚に続き、小さく肩を竦めたスノーサがスリープクラウドを放つ。
 ――――!
 足を縺れさせ、初めてショナは声なき叫びを上げた。遮二無二ばら撒かれたカードが眼前のサリナを切り裂くも、クウの命に従った星霊スピカが抱きつき癒す。同時にルミネールが生み出した雲が、再び眠りを齎さんと少年達を押し包んだ。
 ――わかりました。僕は、愛する者を殺し……。
 唐突に、ショナの呟きが途切れる。少年に沁み入り殺意を削ぎ尽くした旋律が語るのは、永く続いた悲しい歴史と忌わしい現実。
「もう終わらせるよ。こんな哀しい歴史なんて」
 エリーゼの決意の前で、ショナを縛めていた茨の腕輪が見る見る萎び枯れていく。
 ――わかりました。愛する者を殺し、スフィクス軍に加わります。
 これで後1人。今度こそ、倒れた子供達は危険に晒さない。ホリーの魔鍵がリンの影を射抜き、一気に肉薄したヒカリは斬撃に言の葉を乗せる。
「辛い、苦しい、悲しい、不幸。それだけでなかったのはどうしてかしら? 何故かしら? 思い出しなさい、愛する人とは何かを」
「思い出せ、その頃の思いを。思い出せ、共に見た空を。力とは暴力では無い、道を拓く為のものだ!」
 カサンドラが叫ぶ。百獣を宿した竜の拳は狙い過たず、銀髪の少年の胴を捉える。
 ――ボク、ハ……。
 一瞬、リンの蹴打が迷うかのように減速する。その刹那を逃さず、レギリアスは斧剣を力任せに振り下ろし攻撃を弾く。
「今為そうとする事は、今の幸せを捨ててまで得るべきものか……違うね?」
 セヴェルスの声は、酷く穏やかで。
「キミなら、否、キミ達ならきっと夢を叶えられるよ……だから、今は眠れ」
 死角からの一突きは、嘲笑う仮面を貫いていた。

「皆様、大丈夫ですか?」
 桜吹雪が舞う。傷を癒したクウに礼を言い、サリナは倒れたままの子供達を覗き込む。
 子供達は傷1つない。茨の枷から解放された証だった。
(「妖精騎士にも多いようだし……元々、心に暗い部分が少ない人に強いていた所為かしら」)
 拒絶体について思考を巡らせるヒカリ。
「……怖かった」
 最初に口を開いたのは、虚脱状態にあったショナだ。碧眼から涙が零れ落ちる。その肩を黙って抱き締めるエリーゼ。
(「スフィクス家は、何をしようとしている?」)
 少年の怯えた表情に、レギリアスの胸に怒りが再燃する。物に当たる訳にもいかず、戦の痕跡を片付けていると身動ぎの気配。
「……ニナ、ショナは?」
 その第一声は彼らしく、リンを知るエンドブレイカー達の笑みを誘う。
「逢うという約束、きちんと守りにきたの……おにいちゃんたち、お友達増えたのね?」
 ホリーの言葉に頷くリンは、憑き物が落ちたように晴れやかで。ニアとショナを気遣う様子は、本当の兄弟のように見える。
「約束通り、話に来たぞ。戒律とエルフについて、な」
 スノーサはそんなハーフエルフ達に戒律の真相を語る。エルフに封じられた悪意の棘と戒律の関係、そして封が解かれたハーフエルフという存在を。
「棘の循環はもうじき終わる、私達が『終焉』らせる……まぁ、信じずとも良いがな」
 その説明は、ニアとショナには難しかったようで不思議そうに首を傾げている。リンは暫く考え込んでいたが。
「君って――」
「持って回った物言いは性分だ。悪かったな」
「うん、全然変わってないね」
 明け透けな言葉に、流石のスノーサも毒気を抜かれた様子。
「これで安心です。良かったです」
 もう大丈夫。ホッとして、ルミネールと微笑み合うクウ。カサンドラとセヴェルスも、安堵の表情だ。
「そろそろ村長さんの所に行こう。皆の事、心配していたしねっ」
 弁当を渡しながらのサリナの提案に大きく頷いたニアが少年達の手を引けば、自然と皆の笑みが零れた。

 それは決戦前日の事――屈託ない子供達の笑顔に、エンドブレイカー達は惨劇を防げた事を実感したのだった。



マスター:柊透胡 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/03/14
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