ステータス画面

アブサンとバラの盾

<オープニング>

●巨大なバラの盾
「アブサン。じょうろに水を入れてきておくれ」
 その言葉に、ハーフエルフの少年は川へ向かって元気よく走りだす。
 レジスタンスの村では、レジスタンスの家族やダークエルフ、ハーフエルフが平和に暮らし、日々こうして畑に出て作物を育て、自然の恵みの恩恵を受けていた。
 畑を耕し、種をまいていると、先程のアブサンと呼ばれた少年が、持っていったじょうろを持たず、目はどこか上の方を見ながら、ふらふらっと何かにとり憑かれたように歩いて戻ってくる。
「どうしたんだい? じょうろ、落としてしまったのかい?」
 アブサンの保護者役のレジスタンスの青年が彼に近づく。物を壊すことを責めたりはしない。そんなことよりも、この少年が笑顔でいられるのが一番だ。余計な不安を取り除こうと、青年はにっこり微笑みを浮かべるが、その顔は突如として苦痛にかわり、青年は全身に突き刺さるような痛みを感じながら急速に意識を失っていく。
「……ボクは、愛するもの、を……殺し、て、……クス軍に、加、わります」
 青年が最期に見たのは、茨で囲まれた巨大なバラを模した盾を持ち、何かをうわ言のようにぶつぶつと呟くアブサンの姿だった。

●何度でも、何度でも。
「これがレジスタンスの村で起こりそうになっているエンディングです」
 事件の概要を説明したソードハープの魔法剣士・フィール(cn0051)は普段の笑顔がなく、どことなく苦しそうな表情を浮かべているようにも見えた。
「その後、村のハーフエルフたちが次々とマスカレイドとなり、彼らは『愛する者を殺し、スフィクス軍に加わる』と言う内容をうわ言のようにつぶやきながら、他の村人たちを殺し、どこかへ消えてしまうそうです」
 レジスタンスたちの活躍で悲しいエンディングから救われたハーフエルフたちに襲いかかる過酷なエンディングに、エンドブレイカーたちはやり場のない怒りを燃え上がらせ始めると、
「ですが……まだ、まだ間に合います。いえ。間に合わせます!」
 フィールは力をこめながら、エンドブレイカーたちの瞳をじっと見つめる。
 彼らはスフィクス家の長老により無理矢理マスカレイド化させられてしまう。だから、愛する人。つまり一緒に暮らしている村人を殺してしまう前に倒す事ができれば、マスカレイドから解放して助け出すことが出来るのだ。
「時間的にはギリギリですが、今から行けば最初の事件の直前に村にたどり着くことが出来るはずです」
 そう言うとフィールは慌ただしく戦いの準備を始めながら、マスカレイドとされてしまうハーフエルフたちについて説明を行う。
「この村にいるハーフエルフは4名いて、みな小さな子供ですがマスカレイドとなった彼らはかなりの強敵です。油断しないように気をつけてください」
 彼らはそれぞれ茨で覆われた大剣、盾、鞭に斧を持ち、その力で村人たちやエンドブレイカーたちを襲いかかってくるのだという。
「彼らは操られた状態で意味のある会話はできませんので、とにかく棘(ソーン)をたたきつぶすことが先決でしょう」
 立ち上がってソードハープを腰に挿したフィールは、いつもの笑顔を取り戻していた。
「……彼らに不幸なエンディングが訪れるというのなら、は何度でも何度でも彼らを助けるまでです! ハーフエルフたちが誰も殺さずに済むように。そして、我々もハーフエルフたちを不幸に導かないように。急いで駆けつけて、必ず彼らを助け出しましょう」
 フィールは上着を身につけると、共に立ち上がった仲間たちに深く頭を下げた。


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参加者
レディハイウインド・ユリシーズ(c01014)
閃光の双龍・ジローラモ(c02795)
槍を持って進む者・ベディヴィア(c03184)
杖の星霊術士・アーティキュレール(c03646)
アイスレイピアの星霊術士・ファイナ(c03790)
舞台に棲み付く赤トカゲ・アンゴ(c04556)
漆黒の・クシィ(c07777)
草笛・クインシー(c11051)
継承の少女・クルミィーナ(c20025)

NPC:ソードハープの魔法剣士・フィール(cn0051)

<リプレイ>

●急げ、急げ
 愛する親たちを殺してしまう前にハーフエルフの子供たちを止めなくては。エンドブレイカーたちはみなそう思いながら村への道をひた走る。
「はわわ、い、急がないとー」
 槍を持って進む者・ベディヴィア(c03184)は仲間たちから少し遅れ始めるが、慌てて速度を上げ、なんとか追いついて走り続ける。
「救えるから手を伸ばすんじゃない。救いたいから手を伸ばすのです。私は、子供たちを犠牲にしたくない」
 杖の星霊術士・アーティキュレール(c03646)はハーフエルフたちが生まれながらに背負う棘(ソーン)や、エルフヘイムを守るために作られた戒律は理解しながらも、大の為に小を犠牲にするような生き方は絶対にしたくない。どんなに無意味で可能性がゼロだとしても、自分の意志で走り続けようと心に決め、強い決意を口にすると、舞台に棲み付く赤トカゲ・アンゴ(c04556)やソードハープの魔法剣士・フィール(cn0051)は彼女に微笑み、彼女らの願いも同じであることを示した。
「生まれてきたこと自体が罪だなんて、そんな残酷な話があってたまっか……!」
 レディハイウインド・ユリシーズ(c01014)は自分が子供だったころを振り返りながら、今回のような事件はどうしても見過ごせない。と、普段の飄々とした態度はなりを潜め、憤りをあらわにする。
「愛する人を殺しちゃうなんてだめなのですぅ。だ、だめったらだめですよー」
「ハーフエルフたち、待っててね。私たちがその運命を打ち砕いてみせるから!」
 ベディヴィアとアイスレイピアの星霊術士・ファイナ(c03790)もまた、彼らの身に起こる悲しいエンディングを憂い、何としても叩き潰すと心に決めていた。
「クライブじゃないけど、スフィクス家のやり口は僕も気に入らないね。このエンディングは潰させてもらうよ」
 村にさしかかる頃、漆黒の・クシィ(c07777)はそうつぶやきながら通りがかる村人を見つけると、にっこり微笑みながら挨拶をかわして、事件の起こる畑の場所を確認する。
「とにかく、行ってみればなんとかなるだろ」
 村人から畑の場所を聞いた後、草笛・クインシー(c11051)はそう言うと、村人へのお礼もほどほどに、畑に向かって走りだした。
「また異変が起ころうとしているんだ。ハーフエルフの子どもたちを畑の方へ集めて」
 クシィは村人にお礼を言った後でそうお願いすると、クインシーに続いて畑の方へと足を動かし始める。
「……絶対に間に合わす。そんで、必ず止めてみせるぜ」
 何の罪も無い女性や子供を利用するのはなにより許せない。閃光の双龍・ジローラモ(c02795)はハーフエルフたちを利用しようとするスフィクス軍に怒りを覚え、
「子供たちを利用するなんてゆるせないよ!! 絶対に阻止してみせるんだから!!」
 継承の少女・クルミィーナ(c20025)も彼らへの怒りに燃えながら、畑への道を急いだ。

●愛する者。愛される者
「子供たちは操られてるの! 逃げてー!」
 畑にたどり着き、まだ事件は起こっていないことを確認して安堵するのもつかの間。畑の向こう側からふらふらと歩いて来るハーフエルフを見つけたクルミィーナは、周囲で農作業をする村人たちに叫んで訴えかける。
 いったい何事だ? 村人たちは巨大な剣を背中に背負いながら走る小さな少女をみつめ、不思議そうな顔を浮かべていた。
 ファイナは自分たちがレジスタンスの協力者だと名乗り、ハーフエルフの子供たちに起こる異変について説明して彼らに避難するように促すと、
「戻すには戦う必要があるけど、解呪すれば戦闘の傷は残らないから」
 彼女の説得に続けてクシィが、村人たちに今は非常事態だと伝わるようにと冷静に真剣に説明した。その後クシィは身体をアブサンの方に向け、子供たちがマスカレイドとなって村人たちに襲い掛からないように、いつでもその身を盾にできるように気を配る。
「……ボクは、愛するものを……殺し、スフィクス軍に、加わり、ます」
「子供たちに愛する者を殺させたら、みんな助からない! ここは俺たちに任せて逃げてくれ!」
 アブサンがつぶやくうわ言に繋げて、クインシーは村人たちに訴えるが、アブサンを見捨てて逃げることを躊躇する彼らは、虚ろな瞳で近づいてくる自分たちの息子を見つめたまま動こうとはしなかった。
 真剣に彼らの目を見て一生懸命に状況を説明していたアーティキュレールは、自分の覚悟を示して村人たちに信じてもらうために、武器は抜かずにアブサンに向けてゆっくりと近づく。すると、アブサンが手に持つ巨大な盾から茨が伸びて彼女の体にまとわりつき、彼女の体を力強く締め上げながら無数の鋭いトゲで全身を鋭く突き刺した。
「子供たちが、操られてでも誰かを死なせてしまったと知ったら心に傷が残る。あの強さに対抗できない人は手を出さないで下さい……くぅっ」
 アーティキュレールは無数のトゲの痛みに耐えながら優しく微笑むと、村人たちは自らの身体や命を犠牲にしてでも自分たちに訴えかけようとした彼女に心を動かされ、お互いに顔を見合わせ始める。
「俺たちが子供たちを止める! 任せてくれ!」
 アンゴはそう言うと、アブサンに続いて次々と異変を起こす子供たちが彼らの親のもとへ辿りつかないように、子供と村人たちの間に割って入り、ジローラモも別の子供の前に立ち、村人たちを守ろうとした。
「もし、子供たちに何かあれば、私を好きにして構いません。だから今は私たちを信じて」
 赤い血にまみれたアーティキュレールの優しい笑顔と、
「お願いしますぅ〜」
 上目遣いで両手を胸の前で組み、うるうると涙目でお願いするベディヴィアの姿を見て、村人たちは納得し、
「わかりました。子供たちを……よろしくお願いします」
 そう言うと、これから起こる戦いを見ないように後ろを向き、その場を離れた。

●棘(ソーン)を叩き潰せ
 あえてハーフエルフたちの攻撃を受けることで村人たちの信頼を得たエンドブレイカーたちだったが、村人たちが離れて見えなくなるまでの間、ハーフエルフたちの持つ武器からは茨が伸び、彼らの体に深く食い込んでいた。
「アーティキュレールさん、いま援護します」
 フィールは素早くソードハープを掲げると、軽やかなメロディに乗せて一番深い傷を負うアーティキュレールの体を翼で包みこみ、流れだす血を止めると、力を取り戻した彼女は素早くアブサンから離れ、そのかわりにクシィがアブサンの目の前に立ちはだかった。
「いでよ、私の鎧たち!」
 クルミィーナはそう宣言するとどこからとも無く輝く鎧や兜を呼び出し、ぐっと気合を入れて傷ついた体を癒していく。
 ハーフエルフたちはそれぞれ手に持つ茨で覆われた大きな武器に振り回されるように動き、攻撃を繰り出していく。その攻撃は力強く、近くにいるエンドブレイカーたちをトゲで包み込もうと激しく迫り、傷つけていく。
「必ず助けてやるからな……おとなしくしろよ!」
 クインシーはアイスレイピアを頭上に掲げ、剣身より発せられる冷気を嵐に変えて周囲に冷たい風を巻き起こすと、ハーフエルフたちの動きが鈍り始めた。
「みんな、今たすけるからね!」
 クルミィーナは大剣を構えるとその重みにふらふらっとよろめく。しかし、彼女はハーフエルフたちのように剣が人を操るのではなく、人と剣が一体となった攻撃を、彼女と同じくらいの歳に見える同じく大剣を持ったハーフエルフの男の子に向けて繰り出す。その重い一撃が斧を覆っていた茨を斬り裂くと、
「凍りなさい!」
 ファイナはそう叫びながら男の子に向けてとびかかり、アイスレイピアを彼の持つ大剣の柄に鋭く突き刺し、その周りの茨を砕きながら、彼を巨大な氷の中に閉じ込めた。
 アブサンは盾を構えて、そこから発せられる強烈な花の香りでアーティキュレールを誘い寄せようとする。しかし、ふらふらとアブサンの方に吸い寄せられるアーティキュレールの後ろから、クシィが彼の持つ盾に向けて強烈な斧の一撃を叩き込み、
「大切な人を手にかけるなんて、したくないよね。今目を覚まさせてあげるから。生まれながらの運命とか、そんなものに従う必要ないよ」
 そう優しく訴えかけながら茨を切り刻む。
「バラ、ねぇ……。お子様にはまだちぃと早いんじゃないかい?」
 ユリシーズはアブサンが手に持つ巨大なバラをイメージした盾を見ながら不敵に微笑み、暗殺シューズのかかとを鳴らして飛び上がると、アブサンの頭上に鮮やかな赤い軌跡を描きながら彼に向かって激しく斬りつける。しかし、アブサンはユリシーズの攻撃を盾で受け止め、強烈な光線を発して彼女の脚を貫き、撃ち落とした。
「くっ」
 体制を崩したユリシーズに向けて追い打ちをかけようと、アブサンは彼女の方を向いて盾を構える。しかし、彼の死角に移動したアーティキュレールが魔鍵を彼の影にうち込み、動きを封じてそれ以上の追撃を許さない。
「待ってろ、すぐに助けてやる。大事な奴を傷付けたくねぇならお前自身も諦めんな」
 ジローラモは動けなくなったアブサンに向け、優しく微笑みながら素早い動きで踏み込むと、
「ちっと痛ぇかもしれんが我慢しろ。すぐに終わる。……もうすぐお前らも、堂々と暮らせるようになるからよ」
 そう言いながらフェイントをおりまぜた剣技で隙を誘い、アブサンが棘(ソーン)の呪縛から解き放たれるまで、彼を優しく切り刻み続けた。
「がおーなのですぅ」
 ベディヴィアは獅子の構えをとると、斧を持つ少女のハーフエルフに向けて激しい咆哮を上げる。
「がおがおー。……はうぅ」
 ちょっと恥ずかしげに叫ぶベディヴィアだったが、少女はその声に怯み、獅子のオーラにその身を噛み砕かれそうになる。
「見たことも無い奴なんかのために、大好きな人の命も自分もくれてやる必要なんかねぇんだ!」
 声が届かないことは分かっていたが、叫ばずには居られない。アンゴは叫びながら電撃を帯びた鞭を彼女の体に巻き付け、体中の筋肉を痺れさせる。
「だから、その子の中から失せやがれスフィクスジジィ!」
 そして、アンゴは強い意志の叫びとともに、抵抗できなくなった少女をきつく締め上げて気を失わせた。
 ユリシーズはアブサンに傷つけられた脚をかばうように跳躍すると、茨の鞭を振り回す少年に向けて華麗なキックをお見舞いして、くるくるっと空中で回転してから着地する。その派手な攻撃に目を奪われていた少年の懐にクインシーが鋭く踏み込むと、左目を閉じ、挑発的なウインクをするような表情でニヤリと微笑み、
「お前は、俺が正気に戻す!」
 そう言うと、少年の服を掴み、脚を払いながら地面に叩きつけるように押し倒して気絶させ、彼を蝕んでいた棘(ソーン)を叩き潰した。

●幸せに泣き、そして笑う。
「スピカ、回復は頼んだわよ!」
 ファイナの呼び出すスピカが戦いで傷ついた仲間たちを癒していく間に、傷の浅かったエンドブレイカーたちが村人たちを畑に呼び戻す。愛する親たちの姿を見つけたハーフエルフの子どもたちは彼らの元へと駆け寄り、様々な感情を爆発させて大きな声で泣き出す。しかし、アブサンだけは親の元へは駆け寄らず、その場で立ち上がると不安そうに周囲を見回していた。
「よく頑張ったな。もう大丈夫だぞ?」
 子供たちが無事で本当によかった。ジローラモは頬をゆるめてアブサンの頭を優しく撫で、彼の不安を取り除こうとする。すると、アブサンはエンドブレイカーたちの方を向いて、
「ありがとう……ごめん、なさい」
 と、彼らに深々とお辞儀をした。
「このくらいの傷、どうって事ないよ。あんたの親が心配してるから早く行ってあげな」
 アブサンを心配そうに見ている男に微笑みながら、ユリシーズはアブサンのおしりをパン。と叩いて親の元へと駆け寄らせ、彼がひときわ大きな声で泣き出すのを微笑ましく見つめていた。
「なぁ、その子たちはもう普通の子に戻ってるはずだから、どうかいつも通りに接してくれな」
 アンゴは泣き続ける子供たちに自分の過去を重ねながら、村人たちにそう願う。しかし、子供たちと熱い抱擁をかわす村人たちを見て、この程度のことで彼らの絆が壊れる事がない。と確信していった。アンゴの言葉を聞いてベディヴィアも自分の過去を思い出し、子どもたちが幸せで居られるように。と心の中で願った。
「さあ、泣きつかれてお腹が空いたでしょう。お菓子を一緒に食べませんか?」
 アーティキュレールはお菓子を取り出して見せると、子供たちはあっという間に泣き止んでお菓子に群がり笑顔で食べ始め、クルミィーナも子どもたちと一緒になって嬉しそうにお菓子を味わった。
 過去にレジスタンスたちに協力していたクシィは、彼の顔を覚えていた村人に声をかけられ、なんども助けてくれて有難う。とお礼を言われ、好きで手伝っていたことですから。と少し嬉しそうに微笑む。
「これで、一件落着だな」
 クインシーの言葉にうなづいたフィールがソードハープでゆっくりと曲を奏で始めると、春を告げる優しい風があたりを吹き抜けて行った。



マスター:きゅう 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2011/03/08
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冒険結果:成功!
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