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咲き誇る花の歌、響き渡る悲鳴の音

<オープニング>


 きらきら光るスピカの元に、人々の活気に溢れた声が響き渡っている。
 四方を森に囲まれた、小さな村。丸太で組み上げられた家々には、摘みたての花々で作られた輪飾りが飾られている。鮮やかな色彩は、まるで村全体が大きな花畑かのようだ。
 その村の中心、大きな素組みの舞台の足元に、一人の女性が座っている。彼女の膝元には、いくつもの花冠が並んでいる。作りかけの花冠を掲げた彼女の元に、一人の大柄な男が歩み寄ってきた。良く日に焼けた褐色の肌が印象的な、三十ぐらいの男である。
「アドリーナ、準備はどうだい?」
「あら、モルガ。順調よ、祭りには必ず間に合わせるわ」
「そうか、それは良かった。子供達も皆元気に歌の練習をしているよ」
 体躯に似合わぬ穏やかな緑の瞳で、モルガは歌の練習を続ける子供達を見つめる。
 今日は咲き誇る花々に、感謝と祈りの歌を捧げる祭りの日。
 花冠を被った彼らが花々の精となり、組み上げられた舞台の上で歌い、踊る。一年に一度の晴れ舞台を、子供達も親である大人達も、誰もが楽しみにしていた。
「例年以上に良い祭りにしてみせるよ」
「ふふ、今年も気合が入っているわね。そういうところが、素敵よ」
 作り上げた花冠をモルガに手渡しながら、アドリーナが嬉しそうに微笑む。モルガは照れくさそうにはにかむと、ああ、と頷いて綺麗な輪を描く花冠を両手で受け取った。
 穏やかな昼時。
 今日は良い日だ、とモルガは瞳を閉じてそっと耳を澄ました。歌う子供達の声が鼓膜を揺らす。
 ――不意に。不思議なものを聴いたかのように、モルガは目を見開いた。アドリーナが、不思議そうな顔でモルガを見上げる。
「どうしたの?」
「変な音が聞こえたんだ。ギチギチ、という……妙な音ようなものが」
 耳に手を当てて、アドリーナも瞳を閉じる。
 子供達の歌声に交じる、不吉なノイズ。背筋を凍らすような、不快な音色。
 恐怖に身を震わせて、アドリーナはモルガの腕に縋り付いた。細い腰を支えて、モルガは音の出所を探る。組み上げられた舞台の後ろに、見たことの無い影が見えた。
「モルガ、あれ、何?」
「なんだ……あれは。虫か? ――いや、それにしては」
 大きすぎる。
 続けようと思った言葉は、身を襲った恐怖にさえぎられた。
 緑の異形が、丸い瞳でモルガたちの姿を捉えたのだ。
 ギチギチ。
 ギチギチギチ。
 異形が動くたびに、音が漏れた。
 アドリーナの手をとって、モルガが走り出す。
「逃げろ! ――お前たち、皆、逃げるんだ! 早く、早――」
 モルガの声を聴いた子供達が、歌を悲鳴に変えた。後方から迫る異形――インセクテアの姿に、怯える声に。


「エルフヘイムの大樹の上、エルフ達も足を踏み入れぬ場所に住み着いたという、インセクテアというバルバを聴いた事があるか? 今回、この村を襲った虫型のバルバが、それだ」
 トンファーの群竜士・リー(cn0006)の続けた言葉に、酒場に集ったエンドブレイカー達は各々顔を見合わせた。
 つい最近までマスカレイドによって支配されていたインセクテアだが、統率していたマスカレイドの逃亡により統制を失い抗争を始めたらしい。さらにエンドブレイカーの一人金鎖の星霊術士・キサ(c01950)からの情報によれば、このインセクテアの群れの一部がエルフの村を襲撃しようとしているそうだ。
 その一つが、村祭りを待つ小さな村である。
 平和な村に現れた、招かれざる客。
 生まれるはずだった笑い声は泣き声と悲鳴となり、春を彩る花々は赤黒く染まる。アドリーナが作り上げた花冠は踏み潰され、村は無残な姿を晒すことになるだろう。
 一文字に唇を引き絞るエンドブレイカー達を前に、リーは静かに言葉を続ける。
「都市警備隊の巡回により、この村のエンディングを見ることが出来たんだが……幾つか問題があってな」
 長い前髪の奥から一同を見渡し、指先を一つ立てる。
「一つ。さっき話したとおり、この村は今までとても平和に暮らしてきた。言ってしまえば、危機感が薄い。インセクテアが現れる前に、彼らを避難させることは出来ないだろう」
 事件らしい事件も起こらず、和やかに暮らしを続けてきた村。さらに、現れるのが、インセクテアなどという彼らも見たことが無いバルバである。事情を説明しても、村を捨てて逃げるなどという選択肢を選ぶことはないだろう。
「さらにもう一つ。インセクテアは木を伝って降りてくる事はわかっているが、枝から枝を飛び降りながら移動してくる為、どこからやってくるかは予測できない」
 村に到達するまで手を出すことは不可能。本当に厄介だ、とリーは肩を竦める。
 だからといって、この不幸なエンディングを放置しておくわけには行かない。何か策はないのか、というエンドブレイカーに、彼は勿論あるさ、と頷いた。
「今回は直前ぐらいに、都市警備隊の巡回と称して村を訪れ、偶然襲撃居合わせたという形で村を守る作戦を取ろうと思う」
 襲撃直前に村に入り、村の様子を観察して人々を守りやすくする。また、村人達と信頼関係を結び、インセクテアが現れた際に頼ってもらう。それが、一番被害を少なく済ませる方法だろう、とリーは続けた。
 エンディングから見ることが出来たインセクテアの数は、10体。その全てが、片手に鞭を持っている。
「お前たちなら、インセクテアに負けることはないだろう。だが、今回の目的は倒すよりも――守ること、だ。少しでも被害が少なくすむよう、頑張ってくれ」
 リーの真剣な声色に、エンドブレイカー達の表情が引き締まる。
 悲劇のエンディングを迎える村を救い――花々の咲き乱れる平和を、守り抜くのだ。


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参加者
冴夜の凍て星・ネウ(c00171)
奏燿花・ルィン(c01263)
幸を祈る天空・ルナ(c01659)
無精者・ラグランジュ(c02051)
デイブリンガー・アスラ(c02268)
月光花・フェイル(c03360)
蒼風詩篇・キウ(c06943)
夏疾風・ソラ(c15037)

<リプレイ>


「警備隊の巡回で、参りました。平和そう、ですけれど……暫しの滞留をお許し頂ければ、と」
 突然村を訪れた冴夜の凍て星・ネウ(c00171)達を、モルガら村人は「勿論だ」と暖かく迎え入れた。
 警備隊を名乗り村へと足を踏み入れたエンドブレイカー達は、ぐるりと村全体を見回す。話に聞いていた通り、『平和』という単語がよく似合う光景が広がっていた。
 笑いあう人々の声、駆け回る子供達――人々はインセクテアの襲来という悲劇を、微塵たりとも感じ取ってはいない。
 この穏やかな『平和』を守れるのは、エンドブレイカーである自分達しか居ない。
(「村を助ける為とはいえ、余所様の名前使うワケだしな」)
 警備隊の名に泥を塗るわけにはいかないな、とデイブリンガー・アスラ(c02268)は無駄な力が入らないように軽く息を吐いた。そうして、モルガへ向き直る
「早速村を見回らせてもらっていいか?」
「村を?」
「ん? あぁ、そういう仕事なんだ。村々を回って、規模や施設やらを調べてるのさ」
 に、っと笑って見せるアスラに、モルガは疑う様子もなく「ああ、なるほど」と頷いてみせた。
「なら案内しよう。小さい村だが、道案内はあったほうがいいだろう?」
「じゃあ、私達はお願いしましょうかね。施設などの説明もして頂きたいですし」
 無精者・ラグランジュ(c02051)の提案に、奏燿花・ルィン(c01263)が視線だけで了承の合図を送る。
「なら俺達は外周を中心に回るか。地図か何か借りれないか?」
「勿論だ。アドリーナ、家にある見取り図を持ってきてくれ」
 ええ、と頷いたアドリーナは、直ぐに村の地図を見せてくれた。簡易的ではあったが、これから情報を書き込むには丁度良いようにも思えた。
 作戦は始まったばかり――今のところは、全てが順調のようだ。

「おや、お祭りですか?」
 広場で歌う子供達に目を向けて、ラグランジュがふと呟く。
 足を止めたモルガが、そうなんだ、と嬉しそうに笑った。家々に飾られた花や、舞台を指差しながら、モルガは楽しそうに祭りの説明をしてくれた。横で、蒼風詩篇・キウ(c06943)が素敵ですねと微笑む。
「お祭りの日に来たのも、何かの縁かしら、ね。折角だから、何か手伝わせて欲しいわ……駄目かしら?」
「いやいや、君達の手を煩わせるわけには」
「いえ、私が手伝いたいの……どうか、お願いできませんか?」
「良いじゃない、手伝ってくださるって言うんですから。花飾りもまだ全部揃ってないし」
 モルガの隣に居たアドリーナが、嬉しそうに笑ってキウを手招きした。一緒に作りましょう、という彼女の言葉に、キウは嬉しそうに頷く。
「じゃあ、私は力仕事を手伝いましょうかねぇ」
 ラグランジュもまだ作り終えていない舞台を見つめて申し出る。モルガはすまなそうに肩を竦め、よろしく頼む、と軽く頭を下げてみせた。

 お祭りの準備を始めた二人とは別れ、月光花・フェイル(c03360)とアスラは村の見回りを続けていた。点在する木々と家々を眺めていると、一つの大きな櫓が見えてくる。舞台に程近い場所に立てられたそれは、いくつもの花々で飾られていた。この櫓も、祭りに使うものなのだろう。
(「……この櫓が一番大きいですかね」)
 辺りの家や木々との大きさと距離を、フェイルは目視で測る。立つ位置や、アスラとの連携を考えても、この櫓が一番適切な場所に思えた。
「あの、村を見渡すために、明日この櫓に登らせていただけませんか?」
 フェイルの突然の申し出に、モルガは何故、とばかりに首を傾げる。
「櫓に?」
「都市警備隊の仕事でどうしても必要なことなんです、どうかお願いできませんでしょうか?」
「上から村全体をみるのかな。まあ、祭りが始まる前ならかまわないけれど……」
 モルガの返答に、フェイルはありがとうございます、と子供らしくお辞儀をしてみせた。


 スピカの光が満ちた昼下がり。
 村の中心部、大きな屋敷の前に、大きな人だかりができていた。
 花をあしらった衣装を着込んだ子供達の中心に、愛らしい動きを見せるスピカとヒュプノスが見える。また、大人の(特に男性陣)集う場所には、穏やかに踊る星霊アクアの姿があった。
 かわいい、とはしゃぐ子供達と、大人たちの感嘆の声が混じる中、彼らを呼び寄せたラグランジュが申し訳なさそうにモルガへと声をかける。
「無理を言って申し訳ないねぇ」
「いやいや、むしろ感謝したいぐらいさ」
 例年以上に良い祭りになりそうだ、とモルガが嬉しそうに笑う。
「皆、お歌歌うんでしょ? ふふ、私の星霊が君達の唄で踊りたいって」
 笑顔を振りまく子供達の輪に入り、キウがもこもこのヒュプノスをそっと抱き寄せてみせる。
「ほんとなのー?」
「得意なんだよ?」
 ね、とキウが手を離すと、ヒュプノスは頷くようにくるりと回って魅せた。わあ、と驚きの顔を見せた子供達が、口々にと歌を奏ではじめる。
 無邪気で素直な、澄んだ歌の音は、風に乗るように空高くへと響き渡る。聴こえてきた音色に、櫓の上で森とスピカの光との境界線を睨んでいたフェイルが、ふっと頬を緩ませた。
「良い声ですね」
 頷きあうのを背中で感じ、櫓の上の二人はまた境界線へと意識を集中させる。
 流れる風に、ざわめく木々。
 不意に、揺れる枝葉とは違う異質な動きを見つけ、アスラは手に握った笛を口へ加えた。視界に入る異形の数は――不明。
 数え切れぬ数が、枝葉の中に見え隠れしている。アスラは小さく唸ってから、大きく息を笛へと通した。
 警告音じみた高音が、短く三度響く。
 子供達の歌は直ぐに消え、代わりに驚きの悲鳴が上がった。一瞬にして緊迫感に包まれた村の空気感じながら、アスラは吼える。
「数が多い。このまま打って出る」

「落ち着いて! 家の中に避難を!」
 声を張り人々を決めてあった家の中に避難させながら、ラグランジュはモルガの元へと駆け寄った。
「モルガさん、村の方々を頼むよ」
「ああ……だが、アドリーナ達が……。二軒先の家あたりに居るはずなんだ」
「私達が探すわ、だから……皆さんを」
 青ざめながら指を刺すモルガにそう声をかけると、キウはラグランジュと共に即座にその場から駆け出した。
 二人は昨晩穴が空くほど見返した地図を頭の中に思い描き、モルガの指の先に当たる家を探す。村の中心部から少し離れた家――。
「襲撃地点に近くないと良いんだが……」
 燻るような胸騒ぎが、二人の足を更に速めさせた。


 警告音のように鳴り響いた笛の音に、巡回を行っていた四人はいっせいに振り向いた。
 笛の音は3つ――昨晩決めた『3番』の木は、今居る場所の反対側にある。
「一方向……です、か」
「俺達は逆方向の警戒に当たる」
 唸るようなネウとルィンに頷いて、夏疾風・ソラ(c15037)と幸を祈る天空・ルナ(c01659)は足を動かした。頭の中に映し出すのは、昨晩纏めた地図。何度も描いた最短ルートを二人は一気に駆け抜ける。
 村と森の境。棍に手をかけながら、ソラはそっと耳を澄ました。ぎち、という嫌な音が鼓膜を揺する。
「来た!」
 木々から顔を出す、赤い目。それが、姿を見せたインセクテアの奥にも、ちらちらと見えた気がした。ギチギチ、という音は次第に音の数を増やしている。
(「皆よか力ないけど……私だって戦える」)
 数の多さににじむ汗を感じながらも、敵影を睨む。この数を目の当たりにしているアスラ達が、駆けつけてくれるはずだ。敵は前からしか来ない――たとえ逆側から襲撃があっても、それはルィンとネウが対応してくれる。
 自分は自分に出来ることを。敵の手で揺れる鞭を睨むように見据えて、ソラは大地を蹴りだす。
「せっかくのお祭り、壊させないんだから――村人さんたちの所に、絶対行かせないから!」
 手に握った棍を振り回し、襲いくるインセクテアの身体に叩きつける。ギチ、と音を立てて唸る敵の目は、動揺する様子もなく変わらず赤い光を称えている。身を襲う、鞭の一撃。腕に走る痛みは、ルナの生み出した輝かしい文様の光で掻き消えた。
 1体、2体。二人の合間を抜けて、村へ向かおうとする敵影。回り込み一体を力任せに投げ落とすも、全ての進路を阻むことは難しい。逃げられた一体に視線を向けると、その奥に見慣れた二つの人影が見えた。
 太刀の柄を握りながら、フェイルが先行する。抜く刀身は満ちるスピカの光に反射して白く輝く。
 振り下ろされる雷撃を待とう刃。脳天から一撃を受けたインセクテアが、ゆらりと体を揺らす。横に回りこんだアスラが、止めとばかりにその身をなぎ払った。
「全部で何体だ?」
「分からない。でも、1体には抜かれたかも」
 状況をソラと短く交し合い、アスラは苦く笑って剣を構える。
「そっちは皆に任せるしかない。まあ、2匹片付ければノルマは達成だ。潰れるまでにはなんとかするさ」

 ソラらが戦闘を開始したことは、避難を終えていない村人を探していた二人にも伝わっていた。アラームが起動したということは、彼らの状況が余り良くない事を意味している。
(「場所が近いのが気がかり、ね……」)
 足を速めるキウの胸の内を察するように、ラグランジュが急ぐぞ、と唸る。
「……あら、どうされたんですか? 血相を変えて」
 駆けつけた二人の姿を見ると、アドリーナは驚きに目を丸くした。無事か、と安堵の息を吐くと同時に、ギチギチ、という不快な音が鼓膜を揺らす。敵襲は、近い。
「アドリーナさん、他の方と共に急いで此方へ!」
 異様な空気を察したアドリーナ達が、キウの元へと駆け寄る。同時に、1体の奇怪な緑のバルバが姿を表した。進路を防ぐように、ラグランジュが前へと進み出る。
「この村は手前らの住みかにゃ勿体ねぇよ――人の営み、家族を壊す輩は潰してやらぁ!」
 大きく鎌を振り回すと同時に生み出されたヒュプノスが、大きく跳ね上がり宙を飛ぶ。
 キウはこの合間に、とアドリーナ達に簡単な状況説明と、屋内か避難所へ避難をして欲しいと告げる。
「私の家がこの近くです。でも私達が逃げたら、皆さんは――」
 戸惑うアドリーナの声が、途中で途絶えた。後方に迫る、インセクテアの赤い目。振り下ろされる鞭の一撃を、キウは庇うように身に受けてみせた。ティタニアと名づけた杖を構えながら、そっと微笑む。
「私が怪我をする分にはかまわない、わ。それが私達の仕事……だから、早く逃げて」
 静かに告げられた言葉に、どうか無事で、とアドリーナは漏れるような声で返した。足音が遠ざかっていく。
 離れていく音に胸を撫で下ろし、キウは再度目の前のインセクテアを見据える。
「ここは、通さないわ――絶対に、ね」
 杖を片手に優雅に舞う。太陽の光に似た熱を持つ光が、インセクテアの体を焼いていった。

「お祭りの邪魔、しないで下さい……ね」
 一振りした扇から、ヒュプノスが飛び出していく。もこもこの羽毛で包まれたインセクテアが、昏睡するように倒れていくのが見えた。片付いた事を確認して、ネウは一つ息を吐く。
 もう一度辺りを見渡して、追撃が来ないことを確認し、ネウはルィンの居る方向へと駆けた。
 雷鳴がとどろき、ルィンの太刀がインセクテアを切り崩すのが見える。ひゅ、と太刀に張り付く体液を振り払い、ルィンも辺りを見渡した。
「此方は、追撃などはありません……」
「別のルートを使って戻るか――何処から現れるか分からねぇしな」
 ルィンの言葉に頷いて、ネウはまた彼とは反対の方向へと駆け出した。無人となった村の中をちらりと見て、揺れる花飾りに目を細める。
 一体足りとて、野放しにするわけにはいかない。村中に響き渡っていた子供達の歌声を思い出して、ネウは再度扇を握る指に力を込める。
(「村の方々は、今日の日の為に、頑張ってきたんですもの……」)
 誰一人怪我なく、祭りの時を迎えられるように。願いを胸に、木々の合間を睨む。
「綺麗な花も、朗らかな歌も……皆、楽しみにしてるんですから」

 アスラの構えた剣の乱舞が、襲い来るインセクテアの身を切り裂いた。崩れる敵の奥から、もう一体の鞭が飛び交う。己の精神を統一していたフェイルは、痺れの抜けた腕を軽く振ってみせる。
 周辺に残っているのは3体。蓄積した疲労に息を切らしつつも、残る力を振り絞るように立ち上がる。
 インセクテアが、再度バチバチと電撃の音を響かせて鞭を振り上げた。腕にしびれるような痛みが走り、ソラが顔を顰める。
「今、直します……ね」
 聴こえたのはネウの声。同時にキラキラと輝くスピカが現れた。痛みが消えると共に、目の前のインセクテアが、ルィンの刃を受けて倒れていく。
「今何体だ?」
 肩で息をしながら、ルィンは短く問いかける。アスラは残る1体に瞳を向けて答えた。
「全部で6、こいつら合わせて7だ。そっちは?」
「私とルィンさん合わせて、2体です……ね」
「俺らの方で1体――そいつで仕舞いだな」
 聴こえた声に振り返ると、そこにはラグランジュとキウの姿があった。薔薇の花を咥えたスピカが、ラグランジュの下からソラの元へと駆けていく。同時に、キウの描いた魔法陣がアスラとフェイルの足元から光を放ち、二人の傷を癒した。
「ありがとさん。もう大丈夫だ」
「村人の避難は終えたわ……あとは彼らを倒すだけ、ね」
 ちらり、と向ける視線の先。インセクテアはゆらりゆらりと揺れながら、一同に近づいて来る。残り一体、既に満身創痍にも見える相手に、フェイルは赤い瞳をすうと細めた。
「貴方方はこの村を襲う理由があるのかもしれない。全てが悪ではないかもしれない」
 紡ぐ声は構えた太刀と同じぐらいに鋭く冷たい。ゆっくりと歩み寄りながら間合いを詰めて、太刀を構える。
「けれど罪も無い村に悲劇を齎そうとする貴方達を、僕らは許さない。例え如何なる理由があれ、それでも」
 刃がインセクテアの身を貫く。ギィ、と断末魔のような声を漏らすインセクテアを見やり、フェイルは途切れた言葉の続きを口にした。
 ――ハッピーエンドは揺るがない、と。

「流石にこのままは、気持ち悪いだろうからさ」
 村の外――インセクテアの死骸が埋まった土を軽く叩いて、ルィンが呟く。土に返せばまた新しい命になるよね、というソラの言葉に、ネウがそうねとばかりに頷いた。
「花のお祭り見て帰りたい、な」
「春の花々に囲まれたお祭り……素敵だろうな」
 キウの言葉に頷いたソラが、行こうよ、と一同を見回す。瞳をあわせたアスラは、そうだな、と軽く伸びをしながら、答えた。
「折角の祭りだし、一杯引っ掛けますかね」
 村では既に祭りが始まっている。風に乗って聴こえてくる、子供達の花の歌。
 瞳を細めるネウの横で、ルィンはスピカの満ちる枝葉の向こう側を見上げた。
「あぁ、良い風吹いてきた」
 歌を纏った柔らかな風は、かぐわしい花の香りをまとって――一同を歓迎するかのように頬を撫でていった。
 



マスター:流星 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2011/03/19
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  • カッコいい12 
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