ステータス画面

赤腕の剣士

<オープニング>

●過去と現在
 切っ掛けは事故だった。
 うっかり己の握った剣が相手の防御を躱し、更に不運なのは簡易の防具が脆くなっていて、彼の不意の一撃によって壊れてしまい、運悪くその心臓を真っ直ぐ貫いてしまったということだ。
 友人を貫いた瞬間の感覚をヴィエリは一生忘れない。
 あっけない友人の死は一生還らぬ損失であると同時に、何にも代え難い贈り物となった。
 悲鳴が次々に挙がるのを煩わしいとも思わず、人には見えぬ仮面の下、ヴィエリはうっとりと微笑む。
 腕まで血に染めて真っ赤な剣を手にした右腕に、無数の棘が生えた左腕。掌は男の頭を掴んでいるが、頭部を長い棘が貫通している。その両腕とも肩から真っ赤に染まっている。
 最後に悲鳴を挙げた女の頭から、垂直に剣を振り下ろす。
 もう悲鳴はない。
 だがもう斬るものが無くなってしまった。名残惜しげに何度か遺体に剣を振るう。血だまりの中に転がる犠牲者達は全て無残な状態にある。
「あの日の感触には……まだ遠い」
 思い出したように棘に刺さった男を振り落とすと、真っ赤な剣を手にした青年は表情を曇らせ、暗い路地を進んでいった。
 例え異形化しておらずとも、異様な姿であった。

●終焉を求めるもの
「……というわけで、現在もヴィエリは逃走中だ。奴はなるべく人の多いところで、長い時間留まる。人を殺せれば何でもいいようだ」
 トンファーの群竜士・リー(cn0006)が厳しい表情でそう告げる。
「奴が次に現れるのは夕暮れ時、教会前の広場。この日は結婚式で人が集まるんだが――其処にヴィエリはやってくる」
 しかし、そんな多くの一般人がいる場所で戦うわけにはいかない。
 また、一日中広場に人がいるという問題がある。戦いを目撃されるのも、厄介だ。
 教会前の広場は民家で囲われており、直接広場に繋がる道は三つ。正面は広く、東西に繋がる路地は薄暗く狭い。三つの路地はぐるりと回って繋がっている。いずれにせよその三つの道しか出入りは出来ない。
 幸い、周辺に住む住民は皆朝から結婚式に出向くため、路地に人は殆どいないだろう。
「巧くヴィエリを見つけ出し、待ち伏せできるといいんだが……」
 ヴィエリは長剣を右手に、異形化すると左手が無数の棘に包まれる。特に掌から一本伸びる棘は長く強靱だ。
 左手の棘は相手の攻撃を身体に当てない防具の役割も果たし、時にその一撃がこちらの防御を破ることもある。
 守りを考えぬ戦い方の狂戦士だ。
 異形化していなくても両腕を肩から血に染めて、常に片手に剣を握っているため、一目でヴィエリとわかるだろう。
「なかなか厄介な相手だが、犠牲者も、できれば目撃者もなく、巧く立ち回って欲しい。無事倒せた後はその場をすぐ離れることも忘れずにな」
 皆が力を合わせればできると信じている――リーはそう言ってエンドブレイカー達を送り出した。


マスターからのコメントを見る
参加者
アイスレイピアの魔法剣士・ジュディア(c00083)
大剣の魔獣戦士・マルグリット(c00177)
大剣の魔獣戦士・カディシュ(c01141)
太刀の魔法剣士・ルーファス(c01393)
太刀の魔法剣士・ルーン(c01799)
爪の魔獣戦士・ディア(c04876)
ハンマーの城塞騎士・ペタ(c07942)
アイスレイピアのデモニスタ・ウィルロッテ(c08753)

<リプレイ>

●挟撃
 人気のない路地は静かだが、何処か浮ついた空気が流れている。
 閑散とした寂しげなものではなく、幸せな雰囲気とでもいうのだろうか。
 ともすれば、狂気の殺人鬼ほど似つかわしくないものはない。
 エンドブレイカー達は二手に分かれ、こちらはヴィエリを探し出し、戦闘地点へ誘導する役割を担っていた。
「ボクにとって初の依頼、張り切っちゃおーっ!」
 自らを鼓舞するようにアイスレイピアのデモニスタ・ウィルロッテ(c08753)が意気込む。
 仲間を一瞥すると、ふと思いついたように、
「ジュディアとディアって、ふたりともディアがついててディアディアコンビだねっ!」
 なんちゃってー、と明るく言う。
 連戦の戦士を思わせる創だらけの爪の魔獣戦士・ディア(c04876)と、背筋を真っ直ぐ伸ばしぴりっとした雰囲気のアイスレイピアの魔法剣士・ジュディア(c00083)を並べてみれば、笑顔はなかった。
 一瞬の沈黙に、ウィルロッテがあははと乾いた笑みを浮かべた時、豪快にディアが笑い飛ばした。
 ふむ、とジュディアも「確かに」と頷く。何に納得したかは不明だが不快には思わなかった様子で、空気は恐らく和んだ――と思う。
 こっそり後ろで胸をなで下ろしているウィルロッテを見て、ハンマーの城塞騎士・ペタ(c07942)が小首を傾げた。

 一方、東側の路地では広場からの注目を避けるべく、樽を積み上げていた。
 大剣の魔獣戦士・カディシュ(c01141)がさっと周辺を見渡す。迅速に積み上げた樽の隙間から覗く広場は平和そのもの、広場からこの樽が見えたところで、その先の出来事は見えないだろう。
 それでも出来る限り速く決着をつけるのが望ましいだろう。住民達を巻き込む危険性もさることながら、この樽に疑問を抱かれ近づかれたら困るということもある。
 まあ、そもそも路地に目を向ける者がいなかったのだが。
 この人は他者を殺めることに一体何を求めているのかしら――大剣の魔獣戦士・マルグリット(c00177)が作業の最中思う。
 特に誰も口にすることは無かったが、どんな過去があるにせよ、許し難い行為に変わりはない。それは共通した思いだった。絶対にヴィエリを止めねば、という意志も然り。
 太刀の魔法剣士・ルーン(c01799)はぽつりと心の内に呟いた。
「血に狂った戦士には殺さなければいけません――それが武を受け継いだ私の役目なのですから」
 遠く見える教会の尖った屋根を一瞥し、太刀の魔法剣士・ルーファス(c01393)は黙ったまま背を向けた。
 彼らはこれからヴィエリを迎え撃つため、身を潜めねばならない。

 両腕を赤く染めた剣士がひたひたと歩く。
 片手に握った長剣は床の方を向いており刀身を伝う血液が、彼の軌跡を描く。
「殺気……多いな」
 ヴィエリがふと呟いた。理知的といってもいいほど平静な声と表情だ。これが凶悪な殺人狂だとはにわかには信じられない――が、血の臭いを湛えたその姿はまさに悪鬼である。
 そんな彼もまた敵意を手繰るのか、呟きとともに気配を感じる路地へ迷わず歩を進めた。
 遠くで見ていたジュディアはその血の臭いに気付く――同時に、あちらも遠くに位置するエンドブレイカー達を確認しただろう。
 瞬間、ヴィエリの姿が変わる。長剣とすぐさま変化した棘の腕がクロスするように身体を庇った。
 彼はその姿勢のまま、まっすぐにこちらへ向かって突進してくる。
「問答無用かよ」
 ディアが嘆息した。作戦では戦闘地点に追い込まれるまでこちらからの攻撃は無し、ということになっている。
 身が危なくなれば、話は変わってくるだろうが、そうならぬために彼らは駆けだした。
「鬼ごっこにしては……少しスリルがあり過ぎね……」
 大きな槌を持っているペタが遅れるのではないか――と思われたが、幼くてもエンドブレイカー、しっかりと皆について走っている。
 ウィルロッテが偶に後ろを振り返る。ヴィエリも決して遅くはない。つかず離れずの距離で彼らは走る。
 樽や箱が並ぶ狭い路地を抜けて、ひたすら走ると、樽で出来た壁が視界に映る。
 くるり、樽を背にエンドブレイカー達は振り返る。
 如何にも追い詰められたという表情を浮かべながら。
「……鬼ごっこは終いだ」
 ヴィエリが告げるのと同時に、ディアの腕が白銀の獣と変じる。
 それを機にこちらへ向かってくるかと思いきや、ヴィエリは素早く伏せ、捻るように身を翻し、背後へと両腕を突き上げる。
 身を潜めていたマルグリットとカディシュが躍り出て、背後から襲いかかるのに対応したのだ。二人は奇襲の失敗に一瞬苦い表情を浮かべた。
「始めよう。荒唐無稽な御伽噺の時間だ」
 レイピアを構えたジュディアがローブを脱ぎ捨てると、よく通る声で宣言した。

●棘の与えた棘
 食い合うカディシュの大剣とヴィエリの長剣がぎりりと音を立てる。
「丁度其処が教会よ。懺悔するなら今の内だぜ……なんてな」
「私に悔いなどない……と、言いたいが、あるか」
 最後は自問だった。さりとて剣を繰る手に迷いはない。棘は赤い光沢をもち鋼のような強靱さを備えていた。そちらを抑えるマルグリットに身を当てて吹き飛ばし――彼女自身が棘の腕を厭い、背後に飛んだというのもあるが――そのままカディシュへと振り切る。
 空を切り裂く鋼の一閃をひらりと躱して、カディシュは口笛を吹いた。
「ひゅぅ♪ やっぱりマスカレイドは一味違うねえ! それともその剣の腕前は、だせぇ棘がぶっ刺さる前からかい?」
 彼の挑発に、ヴィエリは沈黙を返した。
「我が手に集え雷撃の槍」
 掌を突き出し、ルーンが言い放つと、雷光が伸びる。前衛二人が退くと同時に放たれた二つのサンダーボルトを避けることも適わず、ヴィエリは呻き、膝をついた。
「残念だがあんた、やりすぎたな」
 同じく掌をヴィエリに向けていたルーファスが静かに告げる。
 しかしまだ終わらない。
 咆えるように気合いを一喝し、ディアが爪を振るう。
「可愛そう……。だから、容赦しない……わ」
 合わせてペタが大きく槌を振りかぶり、膝をつくヴィエリへと振り下ろす。
 仮面の剣士は二人を見返り、地を蹴った。
 棘の腕で身体を支えながら長剣を上下左右に二度斬りつける。片腕で放ったとは思えぬほどの剣圧は、ディアの頬とペタの槌を払い、彼女は体勢を崩す。
 巨大な氷柱がペタとヴィエリの間を突き抜けた。ついで放たれた黒い炎を棘で受け止める敵に「うひゃあ」とウィルロッテが思わず声をあげた。そのまま彼は再び技をしかけんとしたディアとの距離を詰める。
 爪でその攻撃を薙いで躱し、一度離れる。
 ヴィエリに休む気はないようだ――ぶんと剣を手首で返し、棘と共に構える。
「心壊れた戦士ほどタチ悪ィモンは無ェ」
 面白ェとディアが乱暴に頬の傷を撫でた。

 マルグリットが剣を振るう。背丈の割に自在に大剣を操る姿は踊っているようにも軽やかだった。
 その剣戟は軽くはない。二度三度斬り交わし、更に一歩踏み込みぶんと大きく剣をなぎ払う。
 ワイルドスイングがヴィエリの胸を裂く。されどきっちりと当たらなかった――横からカディシュが二度剣を振るう。
 攻撃は届くのだが棘が生えた左腕がその威力を下げる。正面で戦うマルグリットしか見ていないようなヴィエリが、無造作に左腕をカディシュへと突き出す。
 攻撃の後の空いた脇に、深紅の棘が浅く刺さる。体勢を崩したカディシュを見、ルーファスが前へと駆けた。
「収束せよ電撃の槍、我が敵を貫け」
 ルーンが叫んだ。サンダーボルトがヴィエリを襲うも止まらない。
「紙の如くに千切れ飛べ、不出来な詩の末路のように」
 逆からジュディアの声とともにサンダーボルトが放たれ、更にウィルロッテのデモンフレイムが畳みかける。
 攻撃を受けながらもマルグリットへの追撃を止めぬ姿に、彼女は思わず呟いた。予てよりの問い。
「他者を殺めることに一体何を求めているの?」
 剣戟が、一瞬止まった。

●血塗れた腕
 その隙を許すものはいない。ディアがマルグリットに代わるよう前に進む。
 ヴィエリにせよ止まったのは一瞬の事で、次の瞬間にはまた剣を振りかざしていた。
「お前、悲しかったか? ダチ殺っちまった時」
 ディアの紅い瞳が細められる。憐憫なのか、侮蔑なのか。それを見返すヴィエリは、仮面の下でどんな表情を浮かべているのだろう。
「悲しかった、な。それは間違いではない」
 赤い腕を振るって、彼の爪を退ける。あの日の過ちがなければ、彼は今こんな所に堕ちてはいない。
「だが、後悔はない」
「……単に命を摘み取ることに快感を覚えてしまった?」
 言い切った男へ、マルグリットが確認するように問うた。
「忘れられないんだ。あの日の感触が。今までで一番、美しい斬突……相手を苦しめる事もなく、まるで導かれるように、肉を裂き剣が収まる、あの感触。取り返しのつかぬ、あの感覚」
 声は酔ったような、恍惚とした響きを含む。
 それ以上でもそれ以下でもない、彼の動機――ああ、この男は。
「可愛そう……」
 ペタが思わず声を漏らした。元々彼女はそう思っていた。この男を前にして、何とも言えない虚しさや悲しさを感じた。
「言ったろ、心壊れた戦士ほどタチ悪ィモンは無ェ……ってな」
 舌打ちひとつ、ディアが構え直す。
「畜生以下だな」
 嫌悪感を露わにしたのはカディッシュだ。脇腹を押さえ、吐き捨てる。
 会話は終わった。
 背後に控えるものたちを煩わしいと思ったのだろうか、間隙を突いて、ヴィエリがジュディアとウィルロッテの方向へと走り出す。
「させないわ……守る」
 槌を構えペタが立ちふさがる。突き出された棘を槌の柄で受け止める。そこに剣が振り下ろされるのを、ジュディアのレイピアが止めた。
 振り切るように左腕へと体重を載せ、ペタを振り切ろうとするが、逆に彼女が振り払うことで体勢を崩す。
「はっ、てめぇとは違った出会い方が出来たら面白そうだったんだがなっ!」
 カディシュの代わりに前に出たルーファスが、雷を帯びた太刀で袈裟斬りに斬りつける。ヴィエリの背に深く朱が走った。
 続いて白銀の獣の腕が弧を描く。ディアのビーストクラッシュが開いたヴィエリの胸に食らいついた。
 最後にマルグリットが大剣を大きく薙ぎ払う。血が花咲くように飛び散った。
 天を仰いだ仮面が何を考えていたのか、彼らには解らない。
 教会の鐘が鳴った。

●その、末路
「解けた終焉の続きは、綴った戯曲の幕間の内で。赤腕の剣士、魅入られし仮面の繰り人よ。せめて詩上で生きると良い」
 瞳を閉じ、ジュディアがそっと謳った。
 路地に倒れた男の死体は全身を赤く染め、尚も剣の柄をしっかり握っている。惨めでもあり、悲しくもある。
「力に溺れたものの末路……ですか」
 ぽつりと呟く声は自戒でもある。ルーンは軽く目を瞑った。
「ホントは結婚式見に行きたかったんだけど、てっしゅー!」
「樽の隙間からちょっと見えるかもしれないわよ」
 ウィルロッテの言葉にマルグリットが少し笑う。積まれた樽の傍で覗くも、巧く教会は見えない。
「あーあ、ブーケ拾いたかったなぁ」
 ウィルロッテが何度も少しだけ覗く尖った屋根を振り返った。
 慰めるためにかどうかは解らないが、ペタがぎゅっとその腰に抱きつく。
 戸惑ったウィルロッテに「何かしら……何か……変?」と彼女は首を傾げてみせる。その表情は嬉しそうに笑っている。
 教会の鐘が祝福を歌う。微かな音が彼らの元に届いている。
 あまりにお誂え向きな演出に、カディシュは辛く笑った。
「……ま、俺は神なんて信じちゃいねぇんだけれどね」
 誰に告げるわけでもなく、カディシュは呟くと背を向ける。
「罪覚えぬ者よ。その血肉、他の糧とし償いとせよ。テメェなんざ、林葬で充分だ」
 言い捨てた後「気ぃとりなおして飯でも行くか、腹減ったな」と振り返りディアは笑う。釣られて仲間が笑った。
 エンドブレイカー達は次々と歩き出す。
 彼らの背を見送るように、ルーファスが立ち尽くしていた。
「明日は我が身……かね」
 皆から離れた位置でルーファスは太刀を収めながら、ひとりごつ。
 そして言葉もなく十字を切った。
 捧げられた犠牲者と、目の前に朽ちたる男のために。



マスター:神崎無月 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/03/28
  • 得票数:
  • カッコいい16 
  • せつない3 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。