ステータス画面

歪んだ愛はどちらか

<オープニング>

●狙われる男の娘
「違くない? それはないよね? え、何よどうなってんの!?」
 思い出してはこんな言葉を漏らしながら、裏通りの路地裏で、女は今夜の獲物を漁っていた。
 こうした服装の男を見ると、かつての苦い記憶が呼び覚まされるのだ。
「ねぇ、ついてるよね? なのに何でこんなヒラヒラした服着てんのよ!」
 女ものの服を着ていた青年は、女の異様に伸びた爪によって衣服をズタズタに引き裂かれ、それと同時に致命傷をいくつも刻み込まれて絶命する。
 女は、首にかからない程度に切った赤い髪を揺らせて、色鮮やかな布切れをすべて剥ぎ取った。瞳の赤は怒りの色か。
 青年の遺体は肌を晒して横たわっていた。

「最近起きている殺人事件に、マスカレイドが絡んでいるようだ」
 トンファーの群竜士・リー・ジェンロン(cn0006)が周辺に集まったエンドブレイカーたちにだけきこえる声量で言った。
「被害者は皆、男。しかも特定の条件で狙われているんだ。それは……男の娘!」
 知っていた者は頷き、知らなかった者は首をかしげた。なかにはげんなりした顔をする者もいた。
「理由は不明だが、とにかく女性ものの衣服を着た男が狙われる」
 知り合いにそんなような奴がいたなぁ、とリーはあごをさすった。
「服は全部ちぎり取られていたが、被害者の近くに切れ端が落ちていてわかったんだ」
 事件現場は、もっぱら『そういう服装を好んで着る』人々が多数いる歓楽街の裏通りだった。そこには男装女装の人間がいるが、基本的に全員男だ。
 また被害者の傷跡から、犯人の武器はナイフか爪であることがわかっている。十中八九後者だ。平行に数本並んだ切り傷がそれを物語っている。
 そしてすでに犯人もわかっていた。
「モニカ・ガノーという女性だ」
 しかし周りから見れば、モニカは普通に生活している一市民である。
「彼女の動向を監視し、彼女が新たな犯行に及ぶため、歓楽街のひとけのない裏路地に行ったところを叩いてくれ」
 もしくは、エンドブレイカーの誰かがオトリになるか。ただ、犯行が行われる地域は似たような人間がそこらじゅうにいるので、ただ女装しているだけではオトリとして機能する可能性は低いかもしれない。だがモニカの怒りに触れるような振る舞いをすれば、狙われる可能性は飛躍的に高まるだろう。
「マスカレイドが倒れたあとは、女性の遺体が残るだけだ。速やかにその場を離れた方が無難だな」
 遺体の周りにいつまでもいては、一般市民には、エンドブレイカーたちが彼女を殺した殺人犯に映ってもおかしくはない。
「ちょっと変わった事件だが、皆さんならうまくやってくれるって信じてるぜ」
 言って、リーはリーゼントを振り下ろした。


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参加者
鞭のデモニスタ・シェリヤ(c00469)
大鎌のデモニスタ・ミスティス(c00809)
暗殺シューズの星霊術士・カナタ(c01429)
剣の魔法剣士・エイス(c03465)
爪の魔獣戦士・グルグ(c04192)
盾の城塞騎士・フェザント(c05755)
大剣の城塞騎士・レイ(c07545)
槍のスカイランナー・オノノ(c08703)

<リプレイ>

●女と女
「さァて……お姫様はどこかな?」
 鞭のデモニスタ・シェリヤ(c00469)は、人差し指を丸めて作った輪のなかを覗いた。行き交う人の波に、まだ彼女は見えない。
 シェリヤが探しているのは、モニカ・ガノーという名の女性だ。連続殺人を犯している、凶悪なマスカレイドである。とは言え、普段はそこらじゅうにいる市民と変わらない生活を送っていた。
「いたな」
 シェリヤから少し離れたところで、彼同様にモニカを探していた剣の魔法剣士・エイス(c03465)は、赤い髪を揺らして歩く、赤い瞳の女を見つけた。
「へぇ、実物はなかなかじゃないか。っと、じゃあさっそくあいつらに伝えに行かないと」
「待て」
 爪の魔獣戦士・グルグ(c04192)が身を反転させて仲間のもとへ向かおうとするのを、エイスが止める。
「このまま歓楽街に行くとは限らない。監視が必要だ」
 グルグは手のひらを打って、頷いた。
 捜索から監視に移行し、グルグたちはモニカを追った。
 モニカは思いのほか友に恵まれているようだった。行く先々でよく話しかけられている。ただ、その誰もが女性だった。もちろん、それはそれで驚くには値しないのだが。
「じゃあね、モニカ。今からデートだから」
 小さく手を振ったモニカは、友人が見えなくなると顔を少しゆがめた。
「モニカ! あの男のことならもう気にしちゃダメよ、あんな変なヤツ」
 モニカを励ました女に、やや背の高い男が声をかける。女は男と腕を組んで、モニカの前から姿を消した。モニカの笑顔が引きつる。
「私たちも早く新しい男をゲットしなきゃね」
「あれ、あなた最近恋人できなかったっけ?」
「ああ、ダメダメ。甲斐性なしだもん。だって服と指輪とバッグおねだりしたのに、あいつ服とバッグしか買ってくれなかったのよ」
 もらってんじゃん。
 女はフッた男の悪口を言い終えると、モニカに別れを告げた。舌打ちする。
 そんな感じで、モニカは出会う友だちのほとんどが彼氏持ちで、恋人のいないモニカは、人と会うたびに表情を暗くしていった。
「クハハハ! こいつァきつい」
 シェリヤが腹を抱えて笑う。エイスは真顔で無言。ちょっと同情的に見るグルグだった。
 モニカが恵まれていたのは数だけだったかもしれない。
 そしてついに、モニカは例の歓楽街に足を向けた。男と男がいる男の花園だ。
「バトンタッチだな」
 グルグに、シェリヤとエイスは頷いて、モニカが進む方向を伝えるべく、待機していた仲間のもとへ向かった。
 モニカは歩く。男の道を。もとい男だけの道を。
 左右の店先に立つ女の格好をした人間は、皆男だ。女のような甲高い声や、野太い声で客引きをしている。
 そんな、異質な世界を通っていたモニカに、近づく影があった。

●男と男
「ねぇ、お姉ちゃん、何か食べ物恵んでおくれよぉ」
 大鎌のデモニスタ・ミスティス(c00809)は、モニカの行く手を阻むよう足にすがりついた。
 ミスティスを見下ろして、モニカはまゆをひそめる。
「もうお腹がペコペコなんだ」
 上目遣いでうったえるミスティスに、近づく影があった。
「あら、お腹が空いてるの? だったら、ちょっと待ってて、何か持ってくるから」
 ミスティスの物乞いに応じたのは、モニカでなく、その様子を見ていた女ものの服を着た男だった。
 なんてこった。
 男の優しさに、ミスティスは泣いて喜ぶわけにはいかない。なんというお節介だ。
 もう自分に用はないね、とモニカはミスティスから視線をそらし、止めていた足を再び動かし始めた。
「ちょおっと待ったーッ」
 またモニカの行く手をさえぎる者が現れた。槍のスカイランナー・オノノ(c08703)だ。
「こんにちはーっ! 今アンケートをお願いしているんです」
「はぁ……?」
「ズバリ! 男性の女装についてどう思われますかッ!?」
 八重歯を見せて、オノノは棒状の物をモニカの口元に向けた。
 モニカはちらちらと辺りを見渡して、少し困惑した顔を見せる。
「さぁ、私にはわかりません」
 何が、とは答えず、モニカは少し表情をゆがませた。
「そうですよねー」
 って、このままではこれで終わってしまう。
 それはまずいので、オノノはさらに質問をぶつけていった。
 男はどうあるべきか、とかそんなことをきいてみて、モニカがこちらの話をきいてくれているのを確認すると、オノノは話を変えた。
「ところで、ただで物をもらうのはどうかと、お姉さんは思うわけです」
 ミスティスを指さして、オノノが言う。ミスティスは男からもらった物をもぐもぐ食べていた。
「やっぱりギブアンドテイクって大事だと思うんですよ」
「ぎぶあんど、ていく?」
 オノノの言葉に、ミスティスが首を傾げて見せた。オノノがギブアンドテイクについて説明する。
「そうですね、それじゃあぼうや、あの男性のお店でお手伝いしなきゃね」
「う、うん……」
 もう行きます、とモニカはオノノとミスティスに手を振って、急ぎ足でその場を後にした。
 オノノとミスティスはお互いの顔を見合って、がくりと肩を落とした。
 歓楽街を行くモニカの前に、新たなハプニングが起きた。
 盾の城塞騎士・フェザント(c05755)(男)を巡って、暗殺シューズの星霊術士・カナタ(c01429)(男)と大剣の城塞騎士・レイ(c07545)(女)が、争っていたのだ。誰の目にも、カナタ(男)が断然優勢な状況だった。
「──どういうことだ? そいつ男だろう、なぜ、ソッチを選ぶ?」
「ねぇねぇフェザント君、あんな女放っておいて二人で遊びに行こう♪」
「ごめん……キミよりも、彼の方が魅力的なんだ!」
「ふ、ふざけるなぁぁぁ!」
 レイ(女)が叫びながら走り去っていく。
 モニカは、ばったりと出くわした修羅場に呆然とする。しかし、どこか遠い昔に似たようなものを見たような気がした。
 もちろんこれは、レイたちがあらかじめモニカを待ち構え、準備していたのだ。モニカの過去を知ることができなかったカナタたちは、用意していたパターンのうちの一つを選んで演じた。レイはあの場を去ってから、すぐにオノノたちと合流する。
 二人になったフェザントは、カナタと手をつないで、歓楽街を歩き始めた。モニカに見えるように。
 フェザントは男ものの服装だが、カナタは女ものの服を着ている。楽しそうにしている二人を、遠くから見守る影があった。
「すばらしい光景ね」
 オノノは血走った目で紙に走り書きを繰り返していた。それをグルグは半眼で眺める。
 はい、そこで髪をなでる。耳に息を吹きかけて。良いよぉその表情。もうキスぐらいしちゃえ!
 あ、時間の関係上、巻いていきましょう。
 というわけで、フェザントとカナタは歓楽街の裏路地へとやってきたのだった。

●男と女と男
「フェザント君、ボク今日はとっても楽しかったよ」
「私もです、カナタさん。それじゃあ……」
 カナタの手を離すと、フェザントは代わりに盾を掲げる。
「戦闘開始といきましょうか!」
 物陰に隠れ、二人を追っていたモニカに向けて、カナタもまた構えた。
「出てきたら? わかってるよ」
 カナタの声に、モニカはゆらりと姿を現した。
「あら……、これはだまされちゃったということかな。少し頭に血が上っていたのね」
 自嘲気味に笑って、モニカは赤い瞳でカナタをにらみつける。
「その服を、切り刻むのを想像して、ね」
「変態!?」
「ちゃうわッ!」
 とっさに自らの身体を両手で隠したカナタを、モニカが否定した。
「あれは、私がまだ幼かった頃よ」
「……なんか語り始めてしまったのですが」
 フェザントは困惑気味に後ろを確認する。そこには、出て行くタイミングを逃したグルグがいた。さらにその後ろにはオノノとシェリヤが控えている。
「私には二人の幼馴染の男の子がいたの。その頃は、どちらかが私のお婿さんになってくれると思っていたわ。……でも、そうはならなかった。まさか、あんなことになるなんて」
「あんなこと?」
 思わず、カナタは先を促した。
「二人は、私を置いて駆け落ちしたのよ!!! 違うよねぇ、普通そうならないよねぇ!?」
 同意を求められても困る、という表情をカナタは作る。いや確かに男が好きなわけではないのだが。
「それから私の男運は最悪、みんな最後は男とくっつくの。しかも、あんたみたいな女の格好をした奴とね!!」
 言うと、モニカはカナタを指さす。すると、その指先の爪が伸び、カナタの服の一部を裂いた。
 それを合図に、グルグが飛び出す。
 手の甲に付けた爪で、グルグはモニカを引き裂いた。
「チッ、ぞろぞろと出てきて、あなたたちもグルだったのね……私の邪魔をしないで!」
 オノノの姿を見つけてモニカが大きく地面を踏みつけると、背の低い女性型の配下マスカレイドが出現した。
 配下の女マスカレイドは、跳ねるようにグルグに飛び掛かると、モニカ同様伸ばした爪で横なぎに払う。グルグの太くたくましい腕に、数本の線が走った。
「よっと!」
 グルグの肩を借りて、オノノは大きく上に飛んだ。そこから、真っ逆さまに降りてきて、グルグを攻撃した女に槍を突き刺す。突いてすぐに引き戻し、近くにいたもう一体にも突きを見舞う。
「下がりな」
 デモンフレイムを放ってけん制し、シェリヤは自分たちのいる側にミスティスを引き入れる。
「あんたは逃がさないッ」
 モニカが赤い髪を揺らしてカナタに腕を伸ばす。爪がカナタの帽子に引っかかって、帽子が破れた。
「え? あ、帽子はらめぇ……!」
 とっさに頭を手で覆ったカナタだったが、その不思議な、ネコの耳のような髪型が隠れることはなかった。

●愛亡き
「男の娘はボクが護る!」
 レイは、女との間合いを詰めて手にした大剣を振りかぶり、大きくなぎ払った。腕に衝撃を受けた女がその場に留まれず、宙を飛んだ。そこをさらに、フェザントの盾が強襲する。受け止めるような体勢になったものの、それは十二分な殴打となって女の顔面を弾く。
 女は身を起こし、レイに迫る。
 だが、その肩を黒炎が襲う。裏路地の陰の漆黒で、わずかに赤が光った。
「甘いの。後ろに妾が居るのを忘れておるのかえ?」
 陰から伸びるように、ミスティスは姿を見せる。左手は前に伸ばし、右手にはその身に不釣合いな大鎌をたずさえていた。
 女が怯んだところに、逆にエイスが詰め寄る。超高速の斬撃は、女の目に止まることなく、女が気づかぬ間の絶命を女に送った。
「さァ、俺と踊ってくれるだろう?」
 シェリヤは、モニカの腕を鞭で絡め取ると、その締め付けを引っ張って強める。
「くぅ……!」
「イイ顔だぜェ」
 にやりと笑うシェリヤに、モニカはもう片方の手の爪をさらに伸ばす。
 シェリヤの不意を突いた一撃はしかし、グルグの爪によって受けられた。
「シェリヤ、これで名前を間違えたのはチャラな!」
 言ったグルグに、シェリヤはふと考えて、口の端を曲げる。
 そのとき、グルグの横腹を女が裂いて、そこから炎が燃え上がった。
「グルグ君!」
 グルグを襲った女に、左、右と一発ずつ空を蹴ってカナタは衝撃波を放つ。女はダメージを受けてうずくまり、オノノが飛び込んで貫いた。
 グルグの腹に宿った炎は刻々と肉を焼いていく。だが、残るは殺人マスカレイド、モニカだけだ。
「あとはキミだけだね」
 レイはハンマー、雲耀の撃をモニカに突きつけた。自嘲気味に笑ったモニカに、レイは手にしたハンマーを大上段に構える。ハンマーの間合いに飛び込み、レイは思いっきり叩きつける。モニカは受ける痛みを無視して反撃を試みる。だが、攻撃しようと動かした腕は、シェリヤの鞭によって拘束されていた。
 攻撃をはばまれたモニカに、エンドブレイカーたちは一気にたたみかける。
 フェザントは盾を前面に押し出し、モニカに突進する。フェザントの殴打に続けて、その後ろからエイスが姿を見せた。上下左右、自在に振るわれるエイスの剣筋は正確無比。モニカの足を斬り、腕を飛ばす。
「妾の望みはな……そなたの『運命』じゃ」
 さらにエイスの陰から現れたミスティスは、頭上で回転させた大鎌をそのままモニカの身に当てた。回転運動を止めることなく、振り下ろし、振り上げては速度を上げる。回転乱舞。
 大鎌の刃がモニカの胸に突き刺さり、モニカは、その場にひざをつくと、顔から地面に倒れ込んだ。
「……そなたの『運命』、中々の美味であったぞ」
 ミスティスは大鎌を振るって、刃についた血を飛ばした。
「人に見つかる前に、さっさと離れよう」
「うん、行こっか」
 モニカの絶命を確認して、レイは皆に撤退を促した。オノノも同意する。
 フェザント、カナタは歓楽街では一番目立っていただろう。二人は、反対方向に分かれて行った。
「お疲れ様……退屈しのぎにはなったよ」
 シェリヤは倒れたモニカをいちべつして、手を払うように振って路地裏に消えた。ミスティスの姿はすでになかった。
「死して人に戻れた事が唯一の救い……か」
 モニカを見下ろして、エイスはひとりごちた。そして、モニカの遺体を整えようとしていたグルグの肩に手を置く。
「人が来る」
「……わかった」
 エイスの促され、グルグはモニカの身をそのままに、その場を後にした。
 恋は落ちるもの。そして愛は育むもの。
 育む愛に、異性や同姓というものがあるのだろうか。
 過去、ひとつの事件によって、モニカが育んだものは、その形をゆがませてしまったのかもしれない。



マスター:詩賦 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2010/03/27
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