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ナメクジとカタツムリのワルツ

<オープニング>

 ある昼下がり。エルフへイムの酒場に、竪琴の魔曲使い・ミラ(cn0007)が人を連れて現れた。彼女は席に着いているエンドブレイカーたちに、その人物を紹介した。
「皆さん、ちょっと手を貸していただけませんか? 相談があるんですけど……」
 ちらりと目をやると、彼女の隣にいた青年は帽子を取って、こんにちはと挨拶した。
「ここにきたら、なんとかしてくれると聞いてツテを辿ってきました。どうか、力を貸してください本当にお願いしますっ!!」
 段々力が入って、涙目になった青年は、身を乗り出して机を叩いた。
「うちの村は、食用カタツムリを養殖しています。大きさはこう……豚くらいですが。あれ? と思ったのは一週間ほど前、なんか変な色のナメクジがいるなーって。殻ないし。なんだと思っていた矢先に、そのナメクジがうちのカタツムリを次々と食べてしまって……!! 追い出そうとして頑張ったんですけど、消化液を吐き出して親父も怪我するし、威嚇してくるし。もうどうしたらいいのか……」

 早口にまくし立てた彼が息を整えている間に、ミラがこそっとエンドブレイカーたちに状況を伝えた。
「被害を出しているのは『沼ナメクジ』という種類のようです。毒沼のような色をした牛くらい大きなナメクジで、数は4体ですね」
 場所は大きな牧場のようなところ。
 そこで放し飼いにされている食用カタツムリを、沼ナメクジが襲っている、ということらしい。ただし、襲うといっても双方動きがとてものろいので、カタツムリが捕まるまでは、ほのぼのした光景だったようだ。
「攻撃方法は2つ。毒のある消化液を出すことと、体を一時的に硬化させて体当たりしてきます。消化液は強い酸なので、まともに浴びると皮膚がただれる可能性もあります」
 動きは遅いが、体力はある。しかも、少しの怪我なら自分で治してしまうそうだ。
「もちろん、カタツムリたちを避難させるのが一番ですが、なかなか思うようにいかないみたいで。そしてこのままだと、この方が自ら闘って……牛くらいのナメクジに食べられるエンディングが見えています。追い出したらまた帰ってくるかもしれません。全部、倒して欲しいんです」
 カタツムリたちは臆病な性質なので、不穏な雰囲気を感じるとすぐに殻にこもってしまう。とても固い殻なので、ちょっとやそっとの衝撃では壊れないから、けっ飛ばしても大丈夫だ。
 ミラが身を引いたところで、男は涙を拭った。
「頼む、あの変な色のナメクジ、退治してくれねぇか!? お礼は、とろけるような味の、うちのカタツムリ料理をご馳走する!! なんだったら、あの変なナメクジも一緒に煮込みにしてもいい。いやむしろする!」
 成功報酬は、食用カタツムリと沼ナメクジの煮込み。
 一瞬動きを止めたエンドブレイカーを見て、ミラは慌てて首を振った。
「あ、も、もちろん、料理は断ってもいいですからね」
 退治をよろしくお願いします、と彼女は深く頭を下げた。


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参加者
ナイフの魔想紋章士・クラーレ(c00152)
砕喰鬼・グラナス(c00175)
双月の・ミィーチェ(c03771)
白鋼の剣士・デューア(c05970)
魔鍵の星霊術士・アルストロメリア(c15869)
雪中の蕾・デジレ(c18812)
漆黒のアルバトロス・パスカル(c19822)
真白色のレクイエム・マシロ(c19828)

<リプレイ>


 そこは、エルフへイム郊外にある、大きな牧場。
 向こう側が見えないほど広い放牧場を、大きな丸太で組まれた高い柵が囲っている。
 昼ごろにここに辿り着いたエンドブレイカーたちは、その柵に寄り掛かりながら、牧場内を眺めていた。
 中では、豚くらいの大きさのカタツムリが、うようよしている。
 その合間を縫うように、牛くらいの大きさの濁った沼色をしたナメクジが這っていた。今回の相手、沼ナメクジである。
 その動きは緩慢で、沼ナメクジが本格的に捕食していない今、牧場内にはのどかな雰囲気が流れていた。
「大きくなっただけで印象が随分変わるものですね……」
 白鋼の剣士・デューア(c05970)が、そんなカタツムリと沼ナメクジを眺めながら言う。
「大事に育ててきたカタツムリがナメクジに食べられては生活にも困るだろうし、しっかり退治してしまわないとな」
 双月の・ミィーチェ(c03771)は牧場の端に悲しく置かれたままの殻を眺める。それは、沼ナメクジに食べられてしまったカタツムリたちの残骸。
「もうこれ以上ナメクジに奪わせないよう……頑張らないと、ね」
 雪中の蕾・デジレ(c18812)はぐっと握り拳をつくった。
「ふふ……うふふふふ……ごはんが……ごはんが目の前にうようよと……!」
 真白色のレクイエム・マシロ(c19828)が目を輝かせると柵をくぐって、牧場内に一番乗りをした。
「カタツムリって食ったことないんだよなー美味いのかねぇ?」
 続いて、砕喰鬼・グラナス(c00175)も、中に入る。
 彼としては、ナメクジの味も気になるところだ。ただ、どちらの生物も煮込みにはあまり向いてなさそうな感じがするのだが。
「カタツムリは……高級食材。守らないと……色んな意味で」
 魔鍵の星霊術士・アルストロメリア(c15869)は羊皮紙を手に、なにやらメモをしている。どうやらこのカタツムリとナメクジに関する資料をつくっているようだ。
 全員が牧場内に入ったところで。
 柵の向こうから依頼人の青年が、大きく手を振った。
「よろしくお願いしますー! 下ごしらえしながら待ってますので!」


「エルフへイムの仕事も、これで大詰めかな。終わりよければすべてよし、といきたいところだね」
 漆黒のアルバトロス・パスカル(c19822)が大鎌を頭の上でクルクル回して、構える。 ころん、ころん。ころん。
 カタツムリたちは牧場の侵入者の気配に殻の中にこもり始めた。
 緑色の草の上にいくつも大きな殻が転がっていく。それを幸いと、沼ナメクジはゆっくりと手近なカタツムリの殻の上に乗り上がろうと、動き出した。
「さて美味しい御飯のために頑張るかー」
 ナイフの魔想紋章士・クラーレ(c00152)が走る。草を踏みしめ、落ちている殻を一足飛びに超えて、沼ナメクジに近づいた。
 素早くナイフをひるがえして、死角から思いっきり突き刺す。
「ぎいぃぃぃぃぃい!」
 突かれた沼ナメクジが悲鳴を上げ、その体を丸めるとクラーレにぶつかってきた。彼女がたたらを踏んだところに、さらに消化液が飛んできて、肌を焦がす。
「クラーレさん!」
「ん、大丈夫!」
 パスカルの声に応えた彼女は、素早く宙に紋を書いた。
 冷たく青い光の輪から、黒い鉄の鎧に身を包んだ軍団が飛び出してきた。彼らはそのまま、目の前にいた沼ナメクジを牧場の端に吹き飛ばした。
 基本的な戦闘態勢は1対1。
 そして前衛役はそれぞれ自己回復もしながら、カタツムリのいない場所に沼ナメクジを吹き飛ばそうと、攻撃をくり返す。
 すばやく仮面をつけたグラナスも、違う沼ナメクジに駆け寄って大剣を振り回した。1回、2回と打ち据えられた沼ナメクジが身を捩らせた。
「きゃぁあっ」
 体当たりで逆に吹き飛ばされたのは、ミィーチェ。柔らかい肉を硬化したその攻撃に彼女の小さな体が転がる。
「いくよ、バロン」
 フォロー役のパスカルがミィーチェの対峙していた沼ナメクジを押しとどめる。手にした鎌を振り上げて、体勢を整えているナメクジに斬りかかった。

 それぞれが、沼ナメクジを相手にしている間に、マシロとアルストロメリア、そしてデジレは戦闘に巻き込まれそうな位置にいるカタツムリを移動させていた。
 とはいえ、中身の詰まった重いカタツムリたちはそう簡単にはいかない。
「ん……っ、動か、ない……!」
 大きく育ったものは、協力しても動かすことができない。だから、どうにか移動できるものだけを、ポイントになったところへ集めていった。
「急がないとねッ」
 マシロがカタツムリの殻を縦にして、牧草の上を転がしていく。蹴飛ばしたり、技をつかったりしている内に、カタツムリたちは小山のように積まれていった。
「もうちょっと、待っててね」
 避難場所に連れてきたカタツムリの殻をデジレが撫でる。そのカタツムリは、にょーっと触角を出して、彼女を見上げた。


 一番遠くにいた沼ナメクジと戦っていたのは、デューイ。
 消化液で怪我をした足を庇いながら、大剣で沼ナメクジをなぎ払う。その剣を地面に突き刺して、獅子の咆吼でナメクジの体を裂いた。
「沼地の死者たちに比べれば、いくらか気分は楽ですね」
 怯んだ沼ナメクジを見ながら、息を吐いた彼の体をふわりと暖かい風が包み込む。マシロの癒しの風だ。
 あらかたのカタツムリを移動できた三人が、戦闘のフォローに入った。
「ヒュプノス、行って……」
 いつもは無口で無表情のアルストロメリアが表情を緩めて、星霊を撫でる。ぽーんと飛び出したヒュプノスが、その羊毛で沼ナメクジを包み込む。
「要は家畜を荒らす害獣退治。被害は最小限に、速やかに排除します」
 デューアが渾身の力で、沼ナメクジをまっぷたつに切り裂いた。
 2つの胴体は空中で舞って地面に落ち。しばらく体を伸ばしたり縮めたりしながら、やがて動かなくなった。
 残り、3体。
 グラナスが、相手をしていた沼ナメクジを吹き飛ばす。
 クラーレと同じ方向、カタツムリがいない方へと飛んでいったところで、デジレがシャドウロックで地面に縫いつける。
「じゃあな……」
 グラナスの持つ大剣が放電する。眩い雷光を発する刃に貫かれたナメクジは、バチッという音と共に大きく体をしならせると、細かく痙攣して焼けこげた。
「Dona eis requiem……」
 マシロが小声で歌うのは、レクイレム。その旋律を口に乗せながら、輝く鷹を召喚する。
「ライナー!!」
 真剣な表情の彼女の手から飛び立った鷹のスピリットは、クラーレの体を貫き、彼女に力を与える。
「ほーんと、殻が有ると無いとの違いで、かわいさがかなり違うな」
 にっと笑った彼女が、ナイフで沼ナメクジの頭部の一点を突く。
 そしてそのまま、肉を切り裂いて刃を振り抜いた。敵は、頭から体液をまき散らしながら身もだえし、動かなくなった。
「ギイッ! ギイイ!!」
 パスカルの攻撃に、沼ナメクジが悲鳴を上げる。
「それにしてもでかすぎだろう」
 ミィーチェがキッと沼ナメクジを見上げた。
 目の前にいる、大きな敵に顔を顰めつつ、月の上弦と下弦を表すような美しい二振りの大鎌を構える。
 光の軌道をつくりながら、数度、刃が沼ナメクジに吸い込まれていった後。
 相手はいくつもの肉片となって、牧草の上に転がった。


 エプロンをつけた依頼人が、だっと走ってきた。
「ありがとう、ありがとう!! じゃあさっそく、にっくきこいつらを料理してくるよ」
 輝く笑顔で言う青年に、エンドブレイカーたちは顔を見合わせた。
 カタツムリ料理が食べたいのは一致しているのだが、ナメクジに関して言うとそれぞれ異なる思いを持っていた。
「えーと、別々に煮込んで、味を比べてみないか? まぜちゃったら、どっちの味か判らなくなっちゃうし」
 クラーレが頬を掻きながら、提案する。青年はみんなの顔と鍋の肉を交互に見ながら、うーんと唸った。アルストロメリアも、こくりと頷いた。
「味が混ざると、もったいない」
「せめて、せめて別の鍋でお願いします! 後生ですから!!」
 パスカルの切実な悲鳴があがる。ナメクジ料理には興味があるが、できれば普通のも食べたい。
(「殻があるかないかの違いさッ!! なめくじもきっといける、私はそう信じてるッ!!」)
 心の中で叫んだのはマシロ。カタツムリとナメクジの味のハーモニーはとても、とても興味があるし食べてみたいが。
「……、別の、鍋で」
 断腸の思いで彼女は呟いた。
「えっと、できれば……ナメクジを使わないお料理を……」
 デジレが言う。デューアが冷静に、依頼人の青年の暴走を止めた。
「毒を持っているし、適切にその除去方法を知らないと危険だと思うのですが」
「あ、そ、そっか」
 鍋の中に入っている肉を見つめて、うーん、と考えていた彼は、頷いた。
「よし、じゃあ料理は分けてつくろうか。さ、うちのカタツムリたちの恩人だし、美味しい料理を食べていってくれよ」
 そして一時間後。
 ガーデンデッキに置かれた大きなテーブルの上に、大量の料理が並んだ。カタツムリの煮込み、壺焼き、野菜包みに炒め物。炊き込みご飯。
 そして、カタツムリとナメクジの煮込み。ナメクジの炒め物。
 ナメクジの入った料理は何故か全部濁った緑色だ。完全に他の素材を殺している。
「材料は倒せば手にはいるし、美味しかったら、レパートリーにくわえよう」
 早速ナメクジの煮込みを取って、クラーレがまず口に運ぶ。モグモグ、口を動かした後。彼女は置いてあった調味料を大量にその中にぶちこんだ。
「ぬ……ぬぅ…………う〜ん……」
 同じく、食べたグラナス。口を押さえながら、料理から目を背ける。
 気合いと共に肉片と一口食べたパスカルは、うおぅ、と一言だけ呟いた。
「沼、みたいな……味がする」
 アルストロメリアが、ポツリと味を講評してくれた。
 カタツムリや野菜を一緒に煮ても、強烈な刺激臭と生臭さは消えていない。むしろ悪化している気がした。
「だから一応、止めたのに……」
 デューアが首を振る。
 マシロはナメクジ料理も、カタツムリ料理も分け隔てなく素晴らしいスピードで平らげていく。1日に食べ放題の店が三軒傾いた、という噂に違わぬ、見事な食べっぷりだ。
 ナメクジ料理をさりげなく脇に追いやりつつ、みなはカタツムリの方へ意識を向けた。
「いただき、ます」
 手を合わせた後に、カタツムリ料理を口に運んだデジレは、顔をほころばせた。
 食感はこりこりとほどよく固く、味も歯ごたえも貝そのものだ。文句なく美味しい。
「カタツムリさんに、感謝、しないとね」
「……歯ごたえが、いい」
 アルストロメリアも頷く。
「あ、これうめぇな! うんうん、いける」
 気を入れ直したグラナスが、パクパクと平らげていく。
 カタツムリ料理といえば、エスカルゴ。大きさは違えども、味も食感も同じ。いや、むしろプルンとした弾力は、小さいものでは味わえないだろう。
 デューアは合掌していただきます、と言った後、あっという間に3人前を平らげた。
 戦闘後ということもあり、大量にあった料理がなくなるまで、時間はそうかからなかった。料理が片づくと、彼らは食後のお茶を飲みながら談笑した。
(「あいつらも、あとで埋葬してやるかな」)
 ちらりと牧場の方を見ていたパスカルが思う。
 牧場では、殻からもどったカタツムリたちがまたゆっくりと動き始めていた。



マスター:猿渡サトル 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2011/04/17
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