ステータス画面

おさかな地獄

<オープニング>

●白い三角。
「野郎共、引くぞぉっ!」
「おうッ!」
 褐色の肌、良い感じに逞しい腕が振り上げられ、浜に立つ男達は渾身の力で網を引く。小型の船を数隻使って、巨大な泉の水面近くを泳ぐ魚を網に捕らえ、逃がさないように素早く浜に引き上げる。一本釣りなどまだるっこしい。この村に伝わる古くからの方法だ。
 今日はなんだかいつもより重い。久々の大量の予感に男達は更に腕に力を籠め、もうむしろ網を引き千切らん勢いで浜へ引き揚げていく。不意にそれが軽くなり、やったか!? と思った、瞬間。
 びちびちと飛び跳ねるおさかなが詰まった網のその間から、ぴょこんと飛び出る白い三角。二つの眼がぱちぱちと瞬き、そして凄まじい勢いで飛来したのは新鮮そのもののおさかなだった。

●その正体は……
「イカです」
 杖の星霊術士・コルルは、酒場に集まったエンドブレイカー達に向かってそう言い切った。
 ぽかんとした彼らに、コルルは構わず更なる情報を提示する。
「正確に言えば、クラーリンという、イカの姿をしたバルバの一種のマスカレイドです。こう、頭がイカの甲で、眼が二つついていて、口がなくて、二本の脚で直立して、左右それぞれに四本の腕……触手、ですね、それを持っているバルバなんですが、そのイカがマスカレイドになってしまったらしいんです」
 手振り身振りを交えながら説明するコルル。
 イカ、つまりクラーリンはその四本の腕に武器を持ち、軽い装甲を身につけているのだと言う。今回マスカレイドとして現れたクラーリンは大剣を持っているが、その主な攻撃方法は、魚。
「僕が見たエンディングの中では、一緒に引き揚げられた新鮮なおさかなを、これでもか、っていうほど凄いスピードで投げつけてました。実際には漁師さん達が漁をする前に倒してもらう事になるんですが、周りには干物用に天日干しされている魚があるので、地上に出て来たとしてもやっぱり魚を投げつけてくると思います」
 そのクラーリンは魚に何か恨みでもあるのだろうか。
 誰かが呟いたそれにコルルは困ったような笑みを浮かべ、「どうでしょう……」とだけ言う。
 配下マスカレイドは二体で、いずれもイカだ。これは普通のサイズのイカなのだが、近付いて触手を伸ばして絡みついて来るので気をつける必要がある。すごく、ぬるぬるする様だ。
「漁師さん達は、説明すればきっと分かってくれるでしょう。ですが一般の方ですからマスカレイドの事は分かりません、ちょっと言葉を考えてみて下さい」
 戦場に漁師が入り込んで来ても困る。ちゃんと説明しておけば感謝されもするだろうし、要らない心配を減らす為だ。
「なんだかちょっとユニークな敵ですが、何と言ってもマスカレイドですから、誰かが被害を受ける前に、宜しくお願いします」
 ぺこりと頭を下げたコルルに、エンドブレイカー達は少々戸惑いながらも頷いた。


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参加者
太刀の城塞騎士・リュード(c01174)
ハンマーの群竜士・アステリカ(c01249)
杖の星霊術士・ユリアス(c01930)
エアシューズのスカイランナー・カルル(c02151)
剣の城塞騎士・ポポル(c02167)
太刀の狩猟者・ノーチェ(c04825)
剣の星霊術士・アイラ(c06210)
槍の魔法剣士・ティム(c09057)

<リプレイ>

●どうみても。
「イカは良いわよ。刺身でも揚げても塩辛でも、立派なツマミになるわ。でも……二本足に四本腕? 何ソレ、食えないじゃない」
 杖を白い砂に突き立て、体重をかけたまま杖の星霊術士・ユリアス(c01930)は言う。振り返って「食えないわよね?」と同意を求め、ほとんどの人間がそれに頷き返した。ただ一人、食う気満々な男を除いて。
「食べ物を投げるなんて許すわけにはいかねぇな……俺が美味しく食してやる!」
 太刀の城塞騎士・リュード(c01174)だ。槍の魔法剣士・ティム(c09057)はそれを聞いて、ティムは普通のおさかな食べたいですー、と小さく意思表示をした。
 そこに三人分の足音。振り返った所にいたのは、ハンマーの群竜士・アステリカ(c01249)と剣の星霊術士・アイラ(c06210)、そして剣の城塞騎士・ポポル(c02167)。漁師や村人達に、浜に近付かないよう説得しに向かっていた三人だ。
「凶暴なバルバがいる、と言ったら素直に聞き入れてくれました」
 アステリカが言う。戦闘が終わった時にはその場が散らかってしまうと言う事も含め、漁師や村の人々は納得してくれたようだ。
 それに頷いたアイラが、不意に空を仰ぐ。そのまま胸に拳を当てて眼を閉じ、何かを呟いた。
「『ぬるぬるの、触手だなんて、けしからん』……ですって」
 と、言い周囲のメンバーににこにこ笑いかけるアイラ。……どうやら何か見えないものと交信している様子。
 そしてその七人を見て、太刀の狩猟者・ノーチェ(c04825)は、ほわぁ、と笑った。
「うふふー、刀剣がいっぱいー」
 嬉しげにそう口にする彼の視線の先には、今この場に集まるメンバーたちが持つ太刀や剣。実に五振りの刀剣に囲まれて、彼は心底嬉しそうだった。
 色々と個性的なメンバーが全員がその場に集まった事を確認して、一番に足を踏み出したのはリュード。ざり、と白い砂を踏みしめたと同時、泉の一郭が爆ぜた。
「!」
 同時にそれぞれ構えを取り武器に手を伸ばす八人。その目の前で水の中から出て来たのは、紛れもなく。
「……本当にイカなんやなぁ……」
 エアシューズのスカイランナー・カルル(c02151)がつい呟く。バルバにも色んな種類あるねんなぁ……と言う彼の視線の先には、二本の脚、左右四本の腕、白い三角頭に煌めく仮面。赤い瞳をぱちぱちと瞬かせ、そのすぐ近くをうねうねとうねっているのは二匹のイカ。
「クラーリン、ですか。人間のマスカレイドではないので気が楽ですね」
「お魚さんをいじめるクラーリンマスカレイド、ティムたちが力を合わせておしおきするですっ」
 酒場での情報と同じそれを見たアステリカの言葉に、ティムが続けて力強く言う。
 再びぱちぱちと眼を瞬かせたクラーリンは、いつの間に捕まえていたのかびちびちと跳ねる一匹の魚を手に、そして凄まじい勢いでそのおさかなをエンドブレイカーたちに向かって投擲した。

●ぬるぬらり。
 凄まじい勢いで飛来する第一球は、べちん、と景気良く重い音を立てて先頭に立つリュードにヒットした。
「なあッ!?」
 生魚の衝撃にリュードが声を上げ、クラーリンはしてやったりと言わんばかりに諸手……八本の腕を振り上げる。それを見た八人は、しかし配下マスカレイドを確認するやすぐさま戦闘態勢に入った。
「まずは配下から!」
 体勢を崩しかけたリュードを支え、ポポルが声を上げる。結構なスピードで浜を這い既に彼らのすぐ近くまで着ていた配下マスカレイドは、妙にぬめる触手でエンドブレイカー達に殴り掛かった。
「うわあキモチ悪い……」
 思ったよりも重い衝撃をやり過ごし、しかしつい口に出してしまったポポルだが、剣を握り直すとすかさず十字剣を繰り出す。斬撃の後にはノーチェの毒針が飛来しイカを毒に陥らせるが、しかしこのイカ、妙に打たれ強かった。
「海産物の分際で生意気な……」
 アステリカが低く言い、間をあけずその配下マスカレイドに真正面から拳を繰り出す。が、次の瞬間飛来した小魚の衝撃に体勢を崩した。すぐさま響いたのはアイラの声。
「スピカさんお願い、みんなに光を!」
 召喚されたスピカがアステリカの元に駆けつけ、その腕にぎゅっと抱きつくとすぐに消えていく。同じようにスピカを召喚していたユリアスの杖に光が集まり、彼女は高らかに言い放った。
「刺身になれ!」
 飛来した七連の魔法の矢は配下マスカレイド二匹を正確に撃ち抜く。その衝撃に一匹が動きを止め、それに耐えきったもう一匹が標的に定めたのは。
「きゃあっ!?」
 見るからにぬるっとした触手が絡み付きティムが悲鳴を上げる。カルルの放ったソニックウェーブの衝撃波に配下マスカレイドが怯むが、しかし触手は離れないまま。
「なんだかぬるぬるして気持ちい……じゃなくて、悪いですっ!?」
 なんか口走ってしまいそうになりつつもがくティムも、何とか槍を閃かせ文字通り白いそれを串刺しに突き刺す。それでようやく触手が剥がれていき、間髪入れずに襲いかかったのはリュードの太刀。
「ウオリャアア!!」
 振りかぶった太刀が鋭く振り下ろされる。そこにノーチェの放ったファルコンが襲いかかり、そして怯んだそれが、ふ、と影に包まれた、瞬間。
「大人しくしときぃな!」
 空高く跳躍したカルルの一撃に、白い触手が力を失い、へたりと浜に転がった。

●そらをとぶ。
 残すはクラーリンのみ。配下マスカレイド二匹を無力化しそれに向き直った彼らに襲いかかったのは、やはり空中ですらびちびちと新鮮すぎるおさかなだった。
「つっ!」
 前衛後衛関係なく凄まじい勢いで飛んで来るそれがノーチェに直撃する。すぐさま反応したユリアスが杖を強く握った。
「回復は任せて! 特にノーチェとカルル」
「え?」
 早口に呟かれた後半の言葉が耳に入り、今まさにユリアスの召喚したスピカにぺろぺろと頬をなめられているノーチェが聞き返す。ユリアスはただ良い笑顔を浮かべただけだった。彼女を侵しているのは、慢性的な貧血と、同じく慢性的なショタコン。
 その最中にもあちこちを小魚やら一抱えもありそうな魚やら何やらが飛び交っている。小さく舌打ちをしたリュードが深く踏み込み、その嵐の中心、クラーリンに居合い斬りを喰らわせる。白い三角頭がその衝撃にぐら、と揺れるが、クラーリンはそのリュードに向けて腕に抱えていた魚をとんでもない勢いで投擲した。
「いった、って!?」
 びたんっ、と音を立ててその魚がぶつかったリュードの腕を冷気が包み込む。ちなみに投げつけられた魚は凍ってもいない、活き造りに良さそうなびっちびち跳ねるやつ。
 とにかく回復の為にと一旦下がったリュードの穴を埋めるようにカルルが前に出る。クラーリンが大剣を振り上げたのを見てノーチェが毒針を飛ばし、更にユリアスのマジックミサイルが降り注ぎティムの連続突きが炸裂した。仕返しとばかりに斬り掛かる大剣による傷も、星霊によってすぐさま癒されていく。
 カルルの放つスカイキャリバーに続くようにアステリカが太刀を握り、白いそれを切り裂く。敵の逃亡を考え泉の側から回り込み陸へと追い立てるように位置した彼女は、しかし涼しい顔をしながらも横目でちらちらと背後に視線を向けていた。カナヅチだと自覚しているが故の水に対する警戒心だろう。しかしそこに襲いかかる何か色々トガった魚。
「やめなさいっ! お魚さんが痛い痛いでしょっ!」
 アイラが召喚したスピカがすぐさま向かい、ユリアスと二人で傷を負う仲間の回復に当たる。そこに飛来した魚は、しかしその間に割り込んだポポルのディフェンスブレイドによって弾かれた。攻撃よりも仲間達を援護するように、という彼女の行動のおかげもあってか、後列の被害はひどいものではない。
 クラーリンは大剣を振りかざし、その斬撃を受けてティムがよろめく。しかしすぐに体勢を立て直し、槍を強く握る。その横に立つアステリカもまた太刀の柄を握り締め、そして二つの刃が光を弾いた。
「これ以上お魚さんを傷つけるの許さないですっ! 観念するですっ!」
「さっさと刺身になるがいいですッ!」
 風よりも早くマスカレイドを貫いた槍、瞬く間もなく放たれた斬撃。一瞬煌めいた独特の仮面が硝子が砕け散るように割れて、そして白いそれはくたりと浜に転がった。

●おさかなづくし。
 魚に全身を強打されて、もうこれ以上魚なんて見たくない……
 と、言うのかと思いきや、彼らは戦場となったその場所で漁師達を巻き込んだどんちゃん騒ぎを繰り広げていた。
 クラーリンマスカレイドを倒した後、彼らは浜に転がる大小様々の無数の魚をとりあえず集め、多少被害に遭ってしまった干物を救出し、それを漁師達に素直に謝った。しかし折角漁村に来たと言う事もあり、ああ魚食べたいな、と誰かが思ったのと、同時。
「ああ、お礼は美味しいお刺身で結構ですよ」
 凛々しい顔できりっ、と言い切ったアステリカのそれが事の発端、ではなかろうか。カルルがいっその事漁師達や村の人もどうかと誘い、そして今に至る。どうせ売り物にも出来ないし、という事で、さながら宴会の様相を呈していた。
 マスカレイドがエンドブレイカー達に向かって投げつけたおさかな達は刺身、塩焼き、汁物と様々な姿に変わって彼らの前に再び現れ、次々と腹の中に収まっていった。
「ところで……リュードさん凄いもん調理してるなぁ……」
 一段落ついて、ふう、と息をついたカルルが、少し離れたところで作業をする一人に視線を向ける。何かと思って歩み寄ったアイラは、楽しげな様子の彼に声をかけた。
「リュードくん、そのクラーリン食べるの? わー、チャレンジャー」
「食える! 気がする!」
 言い切った彼の前には今まさに刺身になっていく肉厚の白いモノ。隣では同じものが串に刺されて火で焼かれている。
 良い頃合いで火から外して、刺身を盛り、いただきまーす、と言って刺身を口の中に放り込む。一拍。
「……あれ、結構美味い!?」
 かなりの好印象にガッツポーズをきめるリュード。が、その後の言葉が続かず、数秒の沈黙をおいてどさりと倒れ込んだ。
「あー、やっぱり?」
 ユリアスが赤身魚の刺身を口に運びながらその様子を遠目に見て言う。「スピカさん喚んだ方がいいかしらー?」と呑気に聞くアイラと小刻みに痙攣しているリュードを眺めて、傍観を決め込んだカルルの横にちゃっかり座り込む。近くで魚料理を食べているノーチェを更に近くに呼んで適度に絡みつつ、彼女も料理を堪能すると言う名目で我関せずを貫いた。
 そして事の発端であろうアステリカは黙々と刺身を消化していき、ポポルとティムも様々な魚料理を心行くまで味わっていた。
「美味しいですね」
「本当にっ」
 アステリカとティムが言って、ポポルもそれに頷く。そういえば、とポポルは視線を虚空に投げた。
「クラーリン、魚捕まえるの上手っぽかったよね。ちょっと羨ましいかも……」
 そうすれば美味しい魚がすぐ手に入る。そう思ってクラーリンだったものの方へ視線を向けると、玉砕した挑戦者。ちょっと考えて、彼女もまた目の前の刺身に手を伸ばした。
「んー、美味しい」
 宴はまだ終わりそうにもない。



マスター:陽雪 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2010/03/30
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