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鳥籠の少年は黄昏に夢を見る

<オープニング>

 豪華な調度品に囲まれて、お人形のように飾り立てられて、『御主人様』――大層身分の高い御仁だから、決して失礼のないようにと教えられた――にかしずいて。
『さあ、歌っておくれ。可愛いネーロ』
 喉を震わせて、髪を撫でられて、お前は本当にいい子だねとキスをされた。
『私だけを見ておくれ、ずうっとここにいておくれ』
 彼はただ、頷く事しか出来なくて。そうしていると、精緻な鳥籠に囲われた金糸雀のようだねと、『御主人様』が愛おしむように頬を撫でた。
 運河を一望できる高台に建てられた白亜のお屋敷。その最上階にある、宝物をしまうかのようにそっと隠された小さな部屋。
 ――それが、彼の世界の全てだった。つい、さっきまでは。
「……あ、は……何でもっと、早くやらなかったんだろう」
 身体に巻き付いた硝子の鎖が、澄んだ音を立てる。首を絞めつけられて呼吸を止めているのは、『愛』という言葉で彼を縛り続けてきた『御主人様』のなれの果て。
「僕は、自由なんだ。鳥籠なんか……知ったことか」
 吐き捨てて、窓を見る。斜陽に彩られた街並みが、何故だか自分を呼んでいるような気がした。ぽつぽつと通りには灯りがともり始め、沈みゆく太陽が零した光は、水路を煌々と――夜の空の星屑のように照らし出す。
 自分とそう年も変わらない子供達が、仲良く手を繋いで歩いている。きっと、暖かい家族の元へと帰るのだろう。
 何故だか、胸にどす黒い感情が湧いた。最早それは本能と言って良いほどのもの。彼は一息で窓から身を投げると、ふわりと羽根のように地面に降り立ち、人目を避けるように走り出す。
「ねえ、君は……幸せ?」
 刹那、彼の身体から伸びた鎖が、背後から子供の身体を締め上げていた。その身体から生命の鼓動が感じられなくなるまでには、さほど時間はかからなかった。
「僕は、幸せだよ。今ならそう、何だって出来るからね」
 自由と共に手にした力――忌々しい仮面を張り付かせ、少年はどこか虚ろな顔で、笑った。

「棘に囚われた少年がいるんだ。皆には彼を倒してきて欲しい」
 開口一番、魔鍵の星霊術士・オルタ(cn0090) は簡潔に用件のみを伝えた。その表情は逆光になっていて良く分からない。
「既に、彼は人を殺してしまっている。残念だけど、彼を助ける事は出来ない。僕らに出来る事は、これ以上彼が罪を重ねる前に、その命を断ちきる事だけだよ」
 柔らかな橙色の光が、酒場に差し込んでくる。この日差しがもう少し傾き――夕暮れと夜との境目に達した時、少年は獲物を狩る為に動き出すのだという。
「もう、何の為に殺すのかなんて、本人も分かってないと思う。彼は硝子の鎖を生み出して、それを鞭のように自在に操ってくるよ。それと、囁くように歌って、こちらを眠らせてくる」
 また、配下として大きな白蛇を1体、呼び出すのだという。こちらは主人を守るように身をくねらせ、牙で噛みついてくる他、回復も行うようだ。
「ただ、彼は『自由』への憧れが人一倍強いみたいでね。自分の身が危なくなると逃亡を図る。その際配下は捨て身で足止めを行うから、どの程度まで追い詰めて勝負に出るかは任せるよ」
 大体必要な情報を伝え終えた所で、オルタは少し迷いつつも、マスカレイドについて語り始めた。
「……少年は、ネーロと呼ばれていた。彼には身寄りがなくて、でも貴族に引き取られて暮らしていたみたい。でもそこに自由は無くて、ただただ主人の為だけに生きる生活を余儀なくされていたんだ。鳥籠の鳥、ってこういう事を言うのかな」
 一歩も外に出る事なく、主人に仕える事だけが生きる全て。それは果たして、本当の意味で生きているのだろうかと、オルタは俯いたまま努めて無感情に告げる。ネーロとは大体同い年だ。それなのに、彼らが辿って来た道は余りにも違いすぎる。
「ずっと幽閉されていた鳥籠の鳥は、仮面に憑かれて飛び去った。鳥が次の獲物をついばむまでには、まだ時間があるから……その前に君達の手で、終わらせてあげて欲しい」
 ただ倒すだけ。それならば、さほど難しい相手ではない。割り切って倒すなら、それでいい。邪悪なマスカレイドが一人、闇に葬られるだけの事。
「ごめん……なんて言えた状況じゃないけどさ。倒して欲しい、僕が望むのはそれだけだよ」


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参加者
黒の翼・ジャンゴ(c00281)
花鳥籠・カムパネルラ(c00864)
月色菫・ユエル(c03933)
黒の司祭・カクテュス(c05972)
ごめんあそばせ・ウルル(c08619)
棺中諧謔曲・アリスティド(c11138)
夜色・クラウディオ(c12535)
弓の狩猟者・ロア(c15445)
大鴉の秘蔵娘・カリアス(c19979)
闇色ウィケッド・ゼノン(c20598)

<リプレイ>

●沈む夕日に照らされて
 夕日が全てのものを茜色に染め上げる中、夜色・クラウディオ(c12535)はぶらり散歩に興じる通行人を装いつつも、辺りの様子を伺っていた。
(「この時間だと、あんま人はおらんな……」)
 ここは大通りからも離れた人気のない場所だ。建物の影に入れば、迷路のように走る幾つもの裏路地が、知らずに入った人を惑わせる。
 クラウディオは自然な感じを装って、辺りに軽く目を向ける。するとそこには、自分と同じく通行人を装う仲間達の姿を見つける事が出来た。
 ごめんあそばせ・ウルル(c08619)はメモを見ながら時おり立ち止まり、何かを考える素振りを見せている。一方、月色菫・ユエル(c03933)は画材を手に周囲をスケッチする振りをして、黄昏に沈むアクエリオの街を静かに眺めていた。
 美しい、と思った。網の目のように張り巡らされた水路は、沈む陽に照らされて宝石のように煌めき、行き交うゴンドラは陽気な歌と共に、優雅な水鳥を思わせる動きで水面をかき分けていく。
(「こんなにも美しいのにな。確実に棘に浸食されているとは……やり切れねぇ」)
 ユエルの向こうでは、闇色ウィケッド・ゼノン(c20598)が通りを行く子供達を追い払おうとしていた。これから彼らが行う行為――マスカレイド退治に巻き込まれないようにする為だ。しかし、理由も告げず一方的に捲し立てるゼノンに、子供達は納得のいかない顔をしている。
「いいからさっさとここから離れな」
 ゼノンのオレ様な物言いに子供達がふくれた時だった。背後からぬっと現れた、黒の翼・ジャンゴ(c00281)の姿を認めた彼らは、わっと驚いた声をあげると蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「はっは、余程怖いお兄さんに見えたのだろうな?」
 身を潜めていた、弓の狩猟者・ロア(c15445)がふらりと姿を現し、面白そうに笑う。
「……どっからどう見ても、普通の通行人じゃねェかよ」
 鋭い金の瞳を訝しげに細めて、ジャンゴが悪態をつく。野性味溢れる顔立ちは成程、小さな子供だったら取って食われるとでも思ったのかもしれない。
「さて、そろそろ囮役の二人が動いてくれる頃だな。引き続き、様子見といくか」
 ロアが呟き、再び姿を消す。通行人に扮し、何かあったらすぐに飛び出せるようにする為に。

 黄昏の世界、やがて夜の闇と溶け合う狭間の時間に、仲良く手を繋いで通りを駆ける姉弟の姿があった。姉の名は、花鳥籠・カムパネルラ(c00864)。弟の名は、棺中諧謔曲・アリスティド(c11138)。血は繋がっていないものの、姉弟を装うその姿は、本当の姉弟のように仲睦まじいもので。
「今日のごはんは何だろうねえ」
「えー、僕はまだ遊んでいたいな」
「だめだよぉ。早くお家に帰って、みんなでごはんを食べるんだよー?」
「僕もう少しお姉ちゃんと遊んでたい、のに」
 うふふーとカムパネルラは幸せそうに笑う。初めての依頼で若干緊張しているものの、普段通りの仕草で振る舞うその姿はごく自然なものだ。一方のアリスティドは、役者のように理想の弟を完璧に演じている。拗ねた声色で呟く様には、思わず目元が緩んでしまいそうだ。
「今日のご飯何かな、僕の大好きなシチューかな? ……ふふ、早く帰ろう!」
 無垢な微笑みを浮かべたアリスティドは、とっておきの秘密を教えるかのように、カムパネルラの服の裾をくいくいと引っ張る。
「そだ、こっちの方が近道なんだよ!」
 視線でこっそり伝えた場所は、人気のない路地裏。それに気付いたカムパネルラは、興味半分不安半分といった様子でアリスティドに付いて行く。
「わあ! そんな道があったんだね! 行ってみよう! ……でも」
 最近物騒だし、変な人に襲われたりしたら怖いよーと、カムパネルラは大きな紫色の瞳を潤ませる。
「二人でいれば、何があっても大丈夫だよ」
 安心させるように胸を張り、アリスティドはどこかで見ている筈のマスカレイドに殊更見せつけるようにして――握ったその手に力をこめた。

●カゴノトリ
 たったったった、たったったった。
 二人が向かう路地裏は、袋小路になっていた。その奥まで一気に走り終えた二人は、先程から背後に迫っていた気配に怯えるように、そっと振り向く。
「……楽しそう、だね?」
 そこにいたのは、硝子の鎖をしゃらりと鳴らし、どこか夢見るような口調で微笑んだ少年だった。その顔にはマスカレイドの証たる仮面が浮かび上がり、不吉な気配が一瞬でこの場を満たしていく。
「でも、もっと楽しいんだろうなあ――そんな君達の命を終わらせてあげるのは」
 二人の背後にあるのは絶望的なまでの壁。じりじりと追い詰めるようにして、少年は愛らしい姉弟を鎖で捕らえようと――、
「何てね――さあネーロ。僕等と遊ぼうか」
 否、アリスティドの大鎌が一閃すると、澄んだ音を立てて硝子の鎖が叩き落とされた。
「それ以上罪を重ねる前に、君の死をもって君を止める!」
 袋小路の奥に潜んでいた、大鴉の秘蔵娘・カリアス(c19979)が声をあげて飛び出す。身に纏うのは、闇に溶けるかのような黒いヴェールに黒い服。完全に気配を断っていたカリアスの登場に、少年は虚を突かれたような顔をしつつも、再度鎖を構えた。
「自由に焦がれた結果、棘に絡めとられる……何とも皮肉な話だねぇ」
 続くように踊り出た、黒の司祭・カクテュス(c05972)も、黒の衣を翻し油断なく大鎌を構える。予想外の伏兵に、少年――ネーロが舌打ちをして距離を取ろうとするものの、そこには既に先客がいた。
「おっと、悪いがここから先は通行止めだ」
 ロアを筆頭に、通りで待機していた仲間達が駆け付け、彼らは完全にネーロを包囲した所だった。苛立たしげに配下の白蛇を召喚したネーロへ、ジャンゴの加減なしのフルスイングが叩き付けられる。必殺の威力を殺して吹き飛ばす事に全力を傾けた一撃は、ネーロの小柄な身体を袋小路の壁へと押しやっていた。
「まさか主人とやらも、自分が飼ってる心算だった鳥が怪鳥だったなんて思ってもみなかったんだろうなァ」
 全身を打ち付け、ふらふらと立ち上がってこちらを睨み付けてくるネーロを真っ向から迎え撃ち、ジャンゴは心底楽しいと言わんばかりに笑う。
「不謹慎? ハッハ、だが、その通りだろう?」
 獣の血が、昂ぶる。こんな時はいつも思うのだ。人の姿をしていてもなお、皮膚の下を流れる血は紛れも無く魔獣のものなのだと。
「云わば俺はテメェの先輩って訳だ。なら、長幼の序って奴を、教えてやらねェとなァ」
 金属のこすれ合うような音を立てて威嚇する白蛇に、アックスソードが絡まる。血のような赤い瞳に、雄牛の角を生やしたゼノンが突進する姿が映るや否や――タックルをまともに食らった白蛇はその間際、ゼノンの肩を食いちぎっていた。
「ふん、これ位手応えがないとつまらんからな」
 流れ落ちる血をすくい取った腕が、見る間に漆黒の鱗に覆われていく。躊躇なく振り下ろされたゼノンの獣爪は、癒えぬ傷跡を白蛇の鱗に刻み付けていた。
「関係のない人の命を――自由を奪って、結局御主人と同じ事するのね」
「バルカン、お願いするねー」
 ウルルとカムパネルラが呼び出したバルカンは、火炎と共に怒りの波動をネーロ目掛けて放っていた。波動に当てられたネーロの瞳からは理性の光が消え、彼は熱に浮かされたように鎖を振り回した。
「手にした自由が棘だなんて……やりきれねぇな」
『餞花』の銘持つ魔鍵を影に突き差し、ユエルは小さく吐き捨てる。整った表情が必要以上に変化する事はないけれど、彼女の胸の奥では棘に対する理不尽な怒りが渦を巻いていた。
(「美しいものを求めるのは俺も同じだけれど、でも」)
 目の前の少年、ネーロは。別の出会いをして別の生活をしていたのなら、もしかしたら棘に憑かれる事はなかったのかもしれない。こんな時に「もしも」を論じるなど、意味のない事なのだが。
「ここで会ったが最後、貴様を倒す! 食らい尽くせ、コヨーテ!」
 対するロアは、目の前の敵はただの敵だと割り切り、銀色のコヨーテを呼び出し、喉笛めがけて食らいつかせる。悲鳴と共に、血が飛んだ。返り血を浴びながら、ロアはコヨーテをその身に憑依させる。
 まだだ。まだ、終わらない。口に仕込んだ毒針が、彼の身体を貫くまでは――。
「鳥籠から出た先に自由があるって、ネーロの決断一つの招いたこと。自由の代償に殺されることになっても、幸せか?」
 なあ? クラウディオは毒針を放ち、返って来るはずのない問いかけを繰り返す。目を潰した。何か、叫んだ気がしたが、続く毒針が捉えたのは足。標本のように縫いとめられたマスカレイドの少年。
 でも、クラウディオは。
「……幸福、て、漠然とした言葉よなあ」
 再び針を。今度は抗えない毒を、彼に。
「君は私だ。私も君と同じような境遇だった」
 漆黒の瞳がネーロを射抜く。カリアスの得たデモンの力は、彼女が望まずして得た力。それを行使する自分の姿は、目の前の少年にはどう映っているのだろう?
「君と私を隔てたものは些細なものに過ぎない。私は君だったのかもしれない。だから私は君を止める」
「カリアス君。キミはあの子とは違うよ」
 悲壮な決意を滲ませるカリアスを、カクテュスが一蹴した。失うものの痛みを知っているキミならば、あのような凶行に走る事はないと。大鎌を旋回させ守りを固め、次いで鎌の先に不吉な念を宿したカクテュスは、呪言を唇に乗せつつネーロに向けて何度も刃を振り下ろした。
「境遇には同情しないでもないけども。しかし、それは他の者の自由を奪って良い理由にはなり得ないのだよ。そんなものは……ただの自分勝手に過ぎない」
 咲いた、咲いた、赤い花。
「――悔しい。何で、何で僕が……こんな目に」
「君に命を奪われたものも、そう思って死んでいっただろうね」
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ! 終われない、やっと生きていけると思ったのに! 一人で、自由に!」
 黒猫が鳴いて、炎に包まれた。痛みで意識が遠くなった。
「どうして、御主人とやらを、殺したの? その人の事、嫌いだったの?」
 夜の闇のような真っ黒い髪を伸ばして、見慣れない衣装を着た女の子が、まっすぐにこっちを見つめていた。幸せそうだったから、何だか腹が立って。だから言ってやった。
「嫌いだったよ。大っ嫌い」

●自由と痛み
「随分とわかりやすいな。可哀想な境遇だったとは思うがな。けど、それで他の奴の幸せを壊すのは自分勝手すぎるだろ」
 白蛇の抑えに回っていたゼノンが、淡々と正論を突き付ける。それは正しいがゆえに、堕ちたネーロにはどこまでも残酷で受け入れられぬ考えだった。
「餌を貰ってるだけだった雛鳥が、独りで生きていけるほどこの世は甘くねェんだぜ? ならぶっ倒してやるのが優しさってモンだろう?」
 ジャンゴのアックスソードが一閃し、衝撃波に巻き込まれた白蛇とネーロは共に吹き飛ぶ。
「生きるさ、生きる! 僕は何だって出来るんだ!」
 白蛇の仄かな燐光に包まれたネーロが立ち上がり、わき目もふらずに駆けだした。
「逃げるの? 自由というのは、逃げるのではなく、立ち向かう事で得られるものよ!」
 扇をかざしたウルルが、決死の突撃をかけた。追い風に乗り加速を得た肉体は、そのまま弾丸のようにネーロの身体にぶつかる。
「何だってできる? 笑わせないで。人殺ししかしてないじゃない!」
 鎖が伸びる。それはウルルの首に巻き付くが――それでも彼女は、気丈な態度を崩さなかった。すぐにカムパネルラの呼んだヒュプノスが飛び回り、ネーロの鎖を握る手が緩む。
「……ッ。そんな幸せなんて悲し過ぎるよ……!」
 アリスティドの鎌が、ネーロの首を狙って振り下ろされた。自由になって。生きて。彼は、本当は何をしたかったのだろう?
「お前がこれ以上堕ちる前に――終わらせてやる」
 棘で戻れなくなる前に、解き放てていれば……とは思うけれど。ユエルは七色に輝く魔鍵を袈裟掛けのように振り下ろした。
「――閉じろ!」
「嫌だあああああ!」
 最後の抵抗か。ネーロは鎖を展開すると、ユエルの一撃を懸命に弾く。しかし、まだ終わらない。再び駆け出すネーロの影へ、地面に縫いとめるように魔鍵が突き刺さっていた。
「あ……」
「籠の鳥は自由に憧れる。だが、籠の中なら死なずにすんだろう。君は誰かを殺す自由を得たが、誰かに殺される自由をも得たのだ」
 魔鍵の主はカリアスだった。目深にかぶったヴェールが邪魔をして、その表情はわからない。だが、決して癒えぬ腹の傷に触れた時、彼女の顔が少し歪んだように見えた。
「……自由の味は、どうだった? ネーロ……」
「痛い、すごく痛い」
 なら、とカクテュスが一歩前に出た。呪言により限界まで高められた力が、虚空から無数の剣を召喚した。不吉に光る刃は、まるで大鎌のように湾曲しており、目の前の消えゆく命を無慈悲に刈り取ろうと迫ってくるようで。
「終わりにしてあげよう」
 ざん。ざん。斬。惨。今までの抵抗が嘘のように、あっけなく仮面が割れた。
 ああ、と天を仰いだのはアリスティド。
「今やっと君は鳥籠から出られるん、だ」

●一つの、終わり
 うざってェ。ジャンゴの言葉と共に白蛇も止めをさされ、今は主人に寄り添うように地面に横たわっていた。咬み傷をあちらこちらにこさえたジャンゴに、ロアの呼んだ風が優しく吹き抜けていく。
「……これでキミはもう何者にも囚われることはない。安心して眠りたまえ」
 血だまりに眠る、かつて少年だったものを見下ろし、カクテュスがそっと囁いた。
「飼われてたって、生きてりゃ上々やと思うが。お前を望む誰かがおるってことやろに」
 苦々しそうに呟くクラウディオは、自らの境遇を照らし合わせているのだろうか。自分を青空の下に放り出した父親を思い出し、軽く舌打ちをする。
 わずかながらの感傷に浸る暇さえ、彼らには与えられていなかった。ぐずぐずして人目に付いたら厄介だというゼノンの叱咤により、彼を弔いたいと願うカリアスは、ユエルと共に簡単な黙祷を捧げるに留まった。
「彼に必要だったのは、ほんの少しの勇気……それだけだったんじゃないかしら」
 ウルルがぽつりと漏らした言葉に、カムパネルラはこくんと首をかしげて、アリスティドは泣きそうな顔で笑ってみせた。
「……次はもっと綺麗な空を飛べるといい」
 黄昏の時間は終わりをつげ、夜が来る。鳥籠の少年が見た夢は、繰り返す昼と夜に追いやられて、やがては忘れられていく運命なのだろう。
 だってそれはありふれた、彼らにとっての『日常』とも言える出来事だったのだから。



マスター:柚烏 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/04/27
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