ステータス画面

秘密の特訓で

<オープニング>

「もーっ! もっとバタバタするの!」
 そんなリーズの言葉に、フィルは顔をしかめた。リーズは先ほどから擬音しか口にしていない。リーズはまだ小さい。まともな言葉を期待するのも馬鹿らしいが、もっと馬鹿なのは、5歳も年下の少女に水泳を教わることを選択した自分だろう。
 フィルは水の中で立ち上がると、辺りを見回した。
 そこは森の中の沼である。水は澄んでおり、岸に近い場所では足も立つ。奥のほうに底が見えない淵があるが、近づかなければ安全だ。
 水場だらけのアクエリオで育ったにも関わらず泳げない自分が恥ずかしく、人気のない場所で練習することにしたのだが、教師が問題だった。
 いつもフィルについて回るばかりのリーズは、ここぞとばかりにお姉さんぶっている。
「こらあ、さぼるなあ!」
 ジャブジャブと近づいてくるリーズに、フィルはもっと早く泳げるようになっておけばよかったと後悔した。
 と、リーズの身体が急に沈んだ。
「おい?」
 助けようとしたフィルだが、何かに足を引っ張られて転倒する。
 水中でもがきながら、フィルは淵から頭をもたげる巨大な蛇を見た。恐ろしいことに二つの頭がある。その口が大きく開かれた。
(「もっと早く泳げるようになっておけば……」)

「皆は、蛇は大丈夫だよな?」
 開口一番、トンファーの群竜士・リー(cn0006)は言った。
 マスカレイド化した蛇が森の中の沼に棲みついていて、そこで泳いでいた子供達が襲われるようだ。泳げない少年が、秘密の訓練をしようと人が来ない沼地に行ったら、そこがマスカレイドの住処だったということらしい。
「ただの蛇なら住処に近づかないって方法もあるんだが、相手はマスカレイドだ。いつ食欲のままに住処を出るか判らない」
 被害が出る前に一刻も早く滅ぼすしかない。
「蛇のマスカレイドは頭が二つのでかい奴だ。そのでかい口で噛みついてくるほかに、尻尾で薙ぎ払ってきたり、絡みついたりするみたいだな。普段は水の中に棲んでいるが、陸上でも動きは変わらないようだ」
 また、6匹の蛇が一緒にいるらしい。そちらは毒のある牙尾を持っている。
「問題は場所だな。淵の中に逃げ込まれると追いようがない」
 何とか陸に引きずり出すしかないだろう、とリーは言った。
「泳げないのを恥ずかしがる気持ちも判らないでもないんだ。子供達のことをよろしく頼むぜ」


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参加者
那由他刀・ルーン(c01799)
こどもチャレンジ・クロ(c02093)
銀旋・クリフ(c04181)
土薙ぎの銀龍・ロイシュ(c06601)
夜蒼の星・ウィスカ(c06768)
風の導き手・ミルシェリス(c07386)
星詠譜・アテア(c09630)
紅蓮颱風・ラディア(c14968)
標得し旅人・クルード(c16997)
漆黒のアルバトロス・パスカル(c19822)

<リプレイ>

●水辺で
「まだ子供達は来てないようだな」
 木陰に身を隠しながら、沼の様子をうかがい、紅蓮颱風・ラディア(c14968)は呟いた。
 森の中の沼は、降り注ぐ光に照らされてキラキラと輝いている。人の気配はなく、そこに棲んでいるという蛇の姿もない。
 ラディアは背後の森へ合図を送った。
 仲間達が追いついてくる。一行は森を出て沼に向かった。
 銀旋・クリフ(c04181)が、周囲を見回す。
 沼のまわりには草地が広がっていた。裸足で歩くと気持ち良さそうな草が生え、いくつかの茂みもある。沼の水は澄んでおり、淵のよどみに近づかなければ、確かに泳ぎの練習に向いているように思えた。
 傍らに来た星詠譜・アテア(c09630)が、沼の底を見ながら言う。
「泳ぎの特訓、付き合ってあげられないかなぁ……」
 アテアは大家族の長男であり、小さな子供の世話をするのが好きなのである。
 と、那由他刀・ルーン(c01799)が森の方を振り返った。
「子供達が来たようです」
 女の子の高い声が森の中から響いてくる。
「では、クロは隠れるのです」
 こどもチャレンジ・クロ(c02093)が、反対側の木陰に走った。
 戦いに巻き込まないために、子供達に沼に近づかないよう説得するには、クロがいると説得力に欠けてしまう。クリフとルーンもそばを離れた。
 少年と少女が森から現れる。
「だからね、フィルは暑くなる前に泳げるようにならないとダメなんだよ!」
「そりゃそうだけどな、リーズ……、あれ?」
 妙に偉そうな態度で語る少女に、あきれ顔を向けていた少年は、一行に気づいてびっくりしたようだった。
 だが、フィルと呼ばれた少年は、にこにこと笑いかける風の導き手・ミルシェリス(c07386)を見て、警戒を解いたようだ。少女を連れて近寄って来る。
 さりげなく土薙ぎの銀龍・ロイシュ(c06601)が、子供達のそばに立つ。いつでも二人を守れるようにするためだ。
「あの、あんた達は一体?」
 訊ねてくるフィルに、夜蒼の星・ウィスカ(c06768)は膝を折ると、目線を合わせ言った。
「これから此処はとても危険になります。今は避難を……」
「え? あっと、その……」
 フィルが慌てる。
 アテアは、少年が、ウィスカの言葉よりも、美しい女性の顔が近くにあることに混乱しているのを見てとると、補足するように言った。
「オレ達はこの沼で危険な水棲生物が見かけられたから討伐に来たんだ。だから、今すぐ避難して欲しい」
 標得し旅人・クルード(c16997)が、リーズを見やり、
「男の子なんだから、ちゃんと女の子は守ってやらないとな」
 と付け加えると、フィルは真顔になって頷いた。
 リーズは不満そうだったが、ウィスカの無表情ながらも優しい瞳を見て、納得したようだ。
 二人が森の方に下がり、隠れる。
「じゃ、囮作戦を始めようか」
 漆黒のアルバトロス・パスカル(c19822)が、マスカレイドを引っ張り出すためのロープを用意して言った。

●双頭の蛇
 パスカルはいつでもロープを投げられるように茂みに身を隠し、ミルシェリスもいつでも飛び出せるように身構えている。
 不測の事態に備えるウィスカが見守る中、囮役のクロが岸辺に近づいた。
 沼の水に触れてみると、思ったよりも冷たくない。フィル達が泳ぎの練習場所にしようとしたのも頷ける。
 水面をかき混ぜるように、手を動かしてみる。わざと水音を立てると、波紋が大きく広がっていった。それを目で追って行ったクロは、淵の奥で影が蠢いたことに気づいた。
 みるみるうちに影は岸に近づいてくる。
「来たのです!」
 仲間に叫び、クロは岸から飛び退った。
「まんまと引っかかったのです! すべてクロの計算どおりなのです!」
 大剣を握るクロの前に、ついに影がその姿を現す。
 森の方でリーズが悲鳴を上げた。
 飛沫を上げながら現れた蛇は、鈍色の鱗を持ち、気味の悪いことに頭が二つある。見上げるような胴の中ほど、二つに別れた首の付け根にマスカレイドの仮面があった。
 間髪を入れずに、パスカルとミルシェリスがロープを投げかける。だが、二人がそれを引くまでもなかった。
 双頭の蛇はクロを獲物と認めたのか、退いた彼女を追って、岸に上がって来たのだ。
「みんな、気をつけるんだ!」
 クリフが警告の声を上げる。
 いつのまにか、沼から小型の蛇が上がってきていた。小型と言っても双頭の蛇と比べての話で、人間ほどの大きさがある。
 数は6匹。もう隠れている敵はいない。
 牙をむき出して、双頭の蛇が一行に突っ込んできた。それを包囲するように、ルーンとクリフが沼のほうへ回り込む。
「風と大地と親に……」
 ラディアが頬に3本の赤い筋を引いた。
 素早く狩りの儀式を済ませると、愛用の双斧を抜き放つ。
 先陣を切ったのはウィスカだった。
「逆立つ黒は火焔の毛並……バルカン!」
 呼び出された星霊が炎を放ち、双頭の蛇が紅蓮に包まれる。だが、蛇はそれをものともせず、続いて放たれたアテアのバルカンの炎を弾き、一行をにらんだ。
 クロが配下の蛇に迫る。大剣の一撃を受けた蛇が、宙を舞い、沼に向かって飛んだ。そこにクリフが大剣を振るう。竜巻が生み出され、蛇の身体はそれに巻き込まれた。
 竜巻は沼の水を巻き上げ、一行に飛沫が降り注いだ。
 びしょ濡れになりながら、ミルシェリスが子供達を振り返る。リーズが目を丸くしているが、二人とも無事だ。それを確認し、双頭の蛇の背後にミルシェリスは走る。
 邪魔するように配下の蛇達が頭をもたげるが、跳び上がったロイシュがハルバードを突き立てた。
 双頭の蛇の背後を守る蛇は、
「纏めて、薙ぎ払ってくれる」
 ルーンが立ち向かった。
 パスカルが頭上で大鎌をびゅんと回し、
「いくよ、バロン」
 配下の蛇に振り下ろす。
 並び立つクルードも太刀を振るい、その軌道が蛇を捉えた。
 ラディアが二つの斧を投げつける。
「子供が見ている以上、無様な真似は見せられんな」
 斧は、蛇の身体を三つに引き裂いた。

●各個撃破
 アテアとウィスカのバルカンが、続けざまに双頭の蛇に炎の弾丸を放つ。
 だが、双頭の蛇は炎に包まれながらも、捕食者の冷たい目で一行を見つめ、喰らいつき、尾で薙ぎ払ってきた。その配下の蛇達も素早い動きで噛みついてくる。
 アテアはじくじくと痛む噛み傷に顔をしかめた。毒が回ってきている。長引かせると困ったことになる。
 しかし、アテアには仲間がいた。
 再び水飛沫が降る。
 クリフの竜巻が配下の蛇の一体を巻き上げていた。そして、そのさらに上にミルシェリスが跳んでいる。
「もらったっすよ!」
 空中で身を翻したミルシェリスの蹴りが、蛇を地面に叩きつけた。
「えーい、なのです!」
 クロが蛇達を大剣で薙ぎ払う。大振りの一撃が2体の蛇をまとめて薙ぎ払った。すかさずロイシュの連続突きがその片割れを捕らえ、また一体が動かなくなる。
 蛇達も反撃してきて、ロイシュが次々に毒の牙を受けたが、クルードに噛みつこうとした一体には、刃が待ち受けていた。三日月を描くように太刀の切っ先が走り、蛇の身体を絡め取るように切り裂く。
 合わせるように地を蹴ったパスカルが、降下する勢いを乗せて大鎌を振るい、その一体にとどめを刺した。クルードも、さらに踏み込み、クロが薙ぎ払った蛇のもう一体を斬り捨てた。
 残り1体になった配下の蛇の相手をルーンが相手をし、その間に、ラディアが癒しの風を呼ぶ。
 身体を内側から蝕むような痛みがロイシュの身体から引いて行った。その時ロイシュは、
「パスカルさん、危ない!」
 ルーンの警告を聞いた。
 蛇を倒した一瞬の隙をつかれたパスカルが、双頭の蛇の尾の直撃を受けていた。
 膝をつき、崩れ落ちそうになるパスカルの様子に、ウィスカが魔法円を描いて行く。
「回り復す星の円陣よ……癒せ!」
「スピカ、頼む!」
 同時にアテアも星霊を呼んでいた。
 二つの治癒の力により、パスカルが再び立ち上がる。
 と、双頭の蛇が戦場を見回した。
 最後の配下の蛇もクリフによって倒されている。
 双頭の蛇は今も星霊の炎で焼かれている。逃げようと言うのか、蛇は沼のほうを見た。
 そこに立ち塞がっているのは、ルーンである。
 ルーンは木刀――エルフヘイムの樹の枝を太刀の形に削り出した特別な棍である――をぴたりと構え、蛇の眼光を受け止める。
 一気に間合いを詰めると、ルーンは自身に喰らいつこうとする双頭の蛇に木刀の切っ先を引っかけた。
「うぉぉぉぉおぉぉぉぉぉりぃぃぃぃあああああ、ぶっ飛べ〜〜〜〜〜!」
 全身の力を込めてルーンが踏み込む。
 双頭の蛇の巨体が宙を舞った。

●仮面は砕かれて
「私の双斧はどんな獲物も逃しはしない!」
 ラディアの斧が双頭の蛇の胴に突き立った。
 クルードが呼んだ妖精達がアテアとロイシュに針を突き刺し、二人の身体に力がみなぎる。
 そして、ウィスカの星霊が再度炎を撃ちこむと、ついに双頭の蛇の目から捕食者の冷たい光が消え、暴れ始めた。
 マスカレイドに最期の時が近づいていた。
 クロが大剣を投げ、それに乗って突っ込む。
「さあ、ヒュプノス。ぐっすり眠らせてあげるんだ!」
「ああ、永遠にな!」
 ふわふわとアテアの星霊がはねて行き、ぐらりと揺れた蛇に、ロイシュの槍が刃の壁となって襲い掛かった。
 クリフが集中させた力を解放する。群竜士が練り上げたオーラは大きく膨れ上がると、そばにいたミルシェリスとルーンを巻き込んだ。
 地を蹴ったミルシェリスが、輝くオーラをまとって舞い降り、蛇の片方の頭を踏み抜く。ルーンの木刀も、蛇の身体を両断するような衝撃を叩きこんだ。
 マスカレイドはそれでも動こうとしたが、
「これでおしまいだよ」
 パスカルの死の鎌が、暴風となってその命を刈り取った。
 誰かが、ほうっと息をついた。
「もう安心だ」
 クルードが森の方に声をかけると、わあっとリーズが歓声を上げた。
 少女はパタパタと走り寄ってくる。フィルはまだ混乱しているようだったが、彼もリーズを追って一行の元にやって来た。
「よく頑張ったね、もう大丈夫だよ」
 アテアがふたりの頭をくしゃくしゃとなでると、リーズは気持ち良さそうに目を閉じ、フィルもくすぐったそうに笑った。しかし、
「水泳の練習の邪魔をしてすまなかったな」
 クリフが言うと、フィルがぎくりとする。
「そうよ、フィル! 練習しなくちゃ!」
 リーズがぱっと顔を上げた。
「え、あ、うん、そうだな……」
 戸惑う少年にラディアが告げる。
「今は下手かも知れない。そして今は辛いかも知れない。だがな。教えてくれる人がいて、教えて貰う気持ちがあるなら。それは必ず上達する」
 ラディアの真剣な瞳にフィルは息を飲み、やがてこくりと頷いた。
「それじゃ、練習なのです!」
 クロが笑いかける。
「身体を冷やさないように気をつけて下さい」
 ウィスカが言い、クリフが焚き火の準備を始めた。
 一行もすでにびしょ濡れになっている。
 それを手伝おうとしたパスカルは、ウィスカがじっとマスカレイドの亡骸を見つめていることに気づいた。
「どうかしましたか?」
「いえ……」
 ウィスカは無表情のままだが、ひどく悲しんでいるようだった。
「埋葬しますか」
 パスカルが言うと、ウィスカは頷いた。
 埋葬と戦場の後片付けが終わり、一休みした後、ばしゃばしゃ、わいわいと騒ぎながら練習が始まった。
「もーっ! もっとバタバタするの!」
「そう、もっと足をしっかり伸ばして!」
 リーズが手足を振って声を上げ、ロイシュも一緒に指示を飛ばしている。アテアは水の中でフィルの手を引いている。クロが応援し、クリフもアドバイスをしていた。
 その様子を見ながら、ルーンやクルードとともに焚き火にあたっていたミルシェリスは、ふと空を見上げた。
(「うんうん、ゆ〜っくり上達してってほしいっすねぇ〜」)
 森の中の沼に、くつろいだ時間が流れて行った。



マスター:灰色表紙 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/05/02
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冒険結果:成功!
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