ステータス画面

薫風、細水踊る白糸

   

<オープニング>

●細水に踊る白糸と其れ以外のもの
 流し素麺。
 何の変哲もない、斧の城塞騎士・ヘーゼル(cn0021)の密かな呟きから、まさかこんな事になろうとは誰も思わなかっただろう。
 アクエリオで彼が仕入れたのは「もの凄い流し素麺会場がある」という曖昧な噂。
 紆余曲折経て彼が見つけ出したのは、向こう側の見えないところから伸びる竹製の樋が無数に居並ぶという会場であった。
 樋の下には水路が穏やかに流れており、まるで橋のようになっている。
 初めは向かい合う高台から素麺を流し、下の者がそれを楽しむというシンプルな仕組み「であった」らしい。
 しかしそれでは面白味がない。
 ――などと、誰かが言ったかどうかは定かではないが、樋は途中で途切れ複雑に組み合い、向かい合う方向へ真っ直ぐには届かない。
 遊び心をくすぐる形状、やはり最近では素麺以外のものを流して食べるという遊びもあるらしい――勿論、多少の制限はあるのだが。
 そして、誰も説明などしないので、ヘーゼルは思ったわけだ。
「なるほど、これが流し素麺というものか」
 これがスタンダードである、と。
 そして懲りもせずに彼は無作為に誘いを掛けるのである。

『流し素麺を開催する。流せる食材の持ち込みは歓迎』

 この張り紙を見た者が何人やって来て、どんな結末を迎えるのか。
 それは誰にも解らない――。


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参加者
NPC:葬唄の城塞騎士・ヘーゼル(cn0021)

<リプレイ>

●開幕
 会場の気のいいお姉さんお兄さんその他諸々は何を手渡されても笑顔で受け取っている。慣れているらしい。
 常に笑顔の彼らが真にプロの素麺流しであることを、エンドブレイカー達は後に知ることとなるが――今はただただ巨大な流し素麺施設(?)に驚くばかりだ。
「流し素麺って、すごく大規模なのね」
 春風と舞うアネモネの花・ルーウェンが目を瞬かせる。
「すげえ……なんだあの無駄にカッコイイ造り……!」
 主に途中の複雑怪奇な分岐にはある種の浪漫がある。銀の腕・ヴァレイシュが「おじさんなんだかウキウキしてきちゃう」とそわそわしている。
 外観もさることながら、直線的ではない樋の流れも面白い。
 いくつもの樋が交差しあう部分では水流に乗って素麺他諸諸が急に隠れたり、急に現れたりするのを、ひよこが本体・ナハトが目を輝かせて食い入るように見つめる。
「なんだコレかっこいい……欲しい!」
「何処に置くんだ?」
 はしゃぐ彼と合流した奏燿花・ルィンが笑いながら問いかける。そもそも移動できるのか?
 問題は無い、と葬唄の城塞騎士・ヘーゼルが口を開く。
「出張サービス承りますと表に張り紙があった」
「うん、キミは本当に面白いよね」
 困ったように砂海を渡る風・ルーイッヒが笑う。
 皆のおめでとう、という挨拶に薄く笑んだヘーゼルを見てまあいいか、という心持ちになる。
「これも流してもらうから、上手くキャッチできたらおめでとー!」
 籠いっぱいの朝一収穫のミニトマトを掲げるナハトへ「トマトは鑑賞して愛でるものだ」と黎旦の魔女・イリューシアは密かに暗くなる。
「しかし何故皆、殺気立っているのだろうな」
 軽く首を傾げたヘーゼルへ「お前解って言ってるだろ」と主持たぬ猟犬・ディアは小さくツッコミを入れた。

●水際攻防戦
 特に取り決めがあるわけではないが、引くに引けぬ雰囲気が漂っていた。これを決死の覚悟と表現したとして――概ねあってる。
 だが一筋の光明がある。
「つまり……箸で触ったら食わなきゃならんなら、見て掴めばいい訳だろ。俺ってあったまいいー」
 夜藍・ビョルンが腕を組み堂々と言い放つ。
「本当だねえ、ビョルンって頭いい」
 もふの守人・ブランクが尊敬の眼差しで彼を見つめ――上から下まで見つめた後、
「ビョルンはもうちょっとお肉付けないと、風に吹かれて飛ばされちゃいそうなんだよ。今日はいっぱい食べてね。僕もお手伝いするから」
 心底彼の身を案じる。背に冷たい汗が伝うのをビョルンは感じた。
 これを俗に嫌な予感と呼ぶ。
「い、いやブランク、俺飛ばされないから、お前の方がちっこいし飛ぶから。もっと食えよ、な!」
 スカイランナーの機敏さで(関係ない)ひょいひょいひょいと手早く流れてきたものを器に入れていく彼を、誰が止めることができるだろうか(反語)
 そもそもそんな高速で流れていかないようになっているので、掴みにくいものでもなければ大抵は拾える。
(「まあ、後でヘーゼルの皿に盛ってやればいいか。誕生日だし」)
 最強の攻略法という死亡フラグを立ててしまった彼は、もっと巨大なフラグを見いだし、密かに頷いた。

「誰だ饅頭なんて入れやがった奴は」
 泥濘の輪郭・アンブローズが唸る――無数に流れていく饅頭。それは圧巻である。
 大概の饅頭はそのまま流れている。拾ったらどうなってしまうのか。スルーは許されないのか。
「苦手なものがないなんて羨ましいな、尊敬しちゃうな」
 白々しく閑適・クロッツが言う。しかしその表情は硬い。わざとらしく流れてくる苦瓜苦瓜苦瓜。
 恨みがましい視線を向けられたアンブローズは「ゴーヤもセロリも只の薬味じゃねえか」と言い切った。
「どうすんだよこのつゆ含んで異生物に進化した物体を。責任とって半分食え!」
「……普通に、食べたい」
 めんつゆ以前にふやけきったそれらが醸すハーモニーの感想は。
「つゆが餡子の味しかしねえ……」
 羊羹を噛みしめつつ、一体自分が何を食べにきたのかとアンブローズが苦悩する近く、
「おぉー! ありがとう流し素麺の神様!」
 感謝を叫んだ雲霓・シャルムへ、よく見ろと煤塔・ライが指摘する。
「何だこの白い中に紛れる赤いゼリービーンズ」
「綺麗だよな」
 見込んだ通りの彩りにライは上機嫌である。そんな彼の手元を覗き込めば、傍目には素麺しか入っていない。
「なぁなぁ親分、交換とかしてくれ……るワケないよねそうだよね」
「いいよ」
 恐る恐る問いかけたシャルムは、気の良い返事に驚いた。しかし一口つけてわかる、突き抜ける山葵の辛み。酷い、鬼畜、と聞こえるか聞こえないかの声で呟きながら、涙目で彼は素麺を啜り続けた。

「流し素麺というより、流し闇麺……? いや、でも何か違うような……」
「これはアミダくじ流しそうめんとでも言うべきかな、ふふ」
 思い悩む蒼月・フィズにただ彼のための銀の剣・ヴァルイドゥヴァが会心のネーミングをする。略してアミダ素麺。
「うわー……ねー君君、ちょっとコレ食べてみない?」
 そんな二人に蒼刃・マリエルが饅頭をサルベージする。水を吸ってグロテスクにふやけているそれはつゆに浸されて不可解な色彩を纏っていた。
 差し出された紺青の空・クラースはお約束に胸の内で泣く。
「皆、僕が倒れたら旅団まで連れ帰って、ね……」
(「これは……イカ?」)
 箸で摘んだ白い切り身の正体を掴みかねつつ、しかし食べられないものではない。安心した柘榴石の花・マルグリートが思わずほろりと涙を零す。
 何も泣かなくても。
「金魚とか猫が流れてきたら気合いで救う……もとい、掬うんだけどなぁ」
「それは明らかに食べ物じゃないな」
 遠くを見つめながらのクラースの一言に、ヴァルイドゥヴァは困ったように笑った。

 水飛沫を上げて、泳ぐ。そう……泳ぐ。
「流し係さんに『シラウオ』の放流をお願いしてみたんだー」
 にこにこと笑い緋燕飛舞・ローザが黙ったままのヘーゼルへ酢醤油を渡す。
 彼女がおーいと手を振る先に穏やかに微笑む刺青領主・シーヴァーと、箸の使い方をレクチャーされているハニーフィンチ・アレンカレンがいた。
「オハシはまだ上手くつかえないから、フォークを使うわ」
 諦めてフォークを構えた彼女の前に、小さなゴンドラに乗った小さなフルーツ盛が流れてくる。
「かわいい!」
 目を輝かせた彼女に、シヴァは相好を崩す。
「あ! あの緑色のは何でしょうか。綺麗ですね」
 隣では白緑・アルトゥールが水を流れる翡翠色の麺を指さした。時折、赤や黄色などの素麺が流れていき、目も楽しませてくれる。
 ――が、美しい色味が、必ずしも素麺であるわけでもない。
「流し素麺にはピンクの何かが必要ですから」
「求肥がねえ……食べられなくはないけど」
 ピンク色の求肥(餡子入り)を飲み込んだ宵闇の黒猫・ケイの言葉に宮宰・シルベスターは微笑んだ。明らかにめんつゆには合わない。
 そんな彼が掬い上げたのは、
「うどん、ですね」
 確かに麺ではある。じっとうどんを見つめるシルベスターに玄律・ウィンドラス(c06357)がにやりと笑う。
「素材は一緒だ、問題ない」
 つゆともよくあうし。きょろきょろと何かを探すローザの隣に立つ男を見つめ、それにしてもとささやかな祈り。
「俺はお前がマトモな食生活を送れる事を祈ってるぜ……」
「シラウオどこかなぁ……あ、あれ? ……元気に育つんだよー」
 目の前をしゃーっと泳いでいった半透明の小さな魚たちに、ローザは手を振った。

 その、やや下流。
 真剣な眼差しと、鋭い一閃。トンファーの・チョウは自分を試すような獲物に、巧みな箸捌きで挑む!
 掴み上げた先でぬるぬると蠢くのは、鰻。
「いや、確かに細長いし流せるけどよ。明らかにこれは違うだろ? 麺じゃなくてナマモノだろ!」
 その後ろをまるで親衛隊のように追って泳いでいく白魚とか鮮魚とか干物とかを見送って、彼は気を取り直して振り返る。
「……まあいいや。誰かこれ捌いといてくれ。そんでもって白焼きにしてワサビ添えてくれ」
 お、いいねえと新しい酒瓶を傾けるヴァレイシュが応じる。酒飲みは惹かれ合うものである。
 ――その後、男なら潔く躍り食いしろと返された二人がどうしたかは想像にお任せする。

「流し素麺だから普通の白い素麺しか流れてこないと誰が決めつけた? 面白い。これは実に面白い!」
 月の夜に可憐に舞いし紅桜・エドワードが低く笑う。
 そう、白いのは何も素麺だけとは限らない。
「くくく、どうだ食べ辛かろう……!」
 斧の城塞騎士・フランが邪悪な笑みを浮かべた。彼女の持参した絹豆腐、その繊細さに苦戦する者は多数。味そのものは全く問題が無いので非常に良心的な嫌がらせである。
 隣では毒芹の花言葉・リフィンエリザは「ていっ」と叫びながら素麺を楽しんでいた。
 そんなフランの目の前に流れてくる、ゆで卵。
「さあ、フラン様!」
 じっと見つめる瞳に思わずたじろぐ。味は普通だろう。だがこの箸をするりと通り抜けそうな美しいフォルム!
「上には上が……白いのに黒いぞこの子……!」
「あらフラン様、褒めても何も出ないのですよ」
 二人の様子を微笑ましい気持ちで見つめた錦上楼閣・デアドラは驚愕する。
「生魚……!?」
 一瞬自分が持ち込んだ干物が水に浸されて戻ったんじゃないかと思った。気の迷い的な。
「……まあ、時にはどうしても退けない戦いがあるものだよ!」
「ぶぉわぁーっ!」
 挑み掛かるデアドラの横で盛大に噴き出したエドワードに彼女は驚く。誰、寒天コーティングのおにぎりなんて流したの。
「しかし志士たる者せめて前のめりに倒れる……」
「歯を食いしばれー!」
 傷は浅いぞ、叫んだフランの癒しの拳はひときわ眩く輝いていたと、後に皆が語った。

「わぁ、流れてきましたね」
 真白に咲く・ハクが袖を持ちしっかりと樋の上に構える。
「……何だか魚を待つ熊の気分デス」
 その姿勢を持って、茉莉銀針・リィェンがぽつりと零す。実際魚が泳いでいく樋もあったわけだが、幸か不幸か彼らの近くの出来事ではなかった。
「えいっ!!」
 ばしゃー。
 気合いと共に振り下ろされた箸。しかし翡翠四葉・シャルティナは巧く掴めず「うや……逃げてっちゃったです」と残念そうに見送る。
(「これはひょっとして集中力と器用さを鍛える訓練なのでしょうか?」)
 水飛沫をあげながら塀の上の寝子・ルーイと共に何度も挑戦する。
「む……難しいです……」
「あと少し、ですよ」
 悔しそうながら表情は笑顔だ。煉獄乙女・イオリに応援された二人で掴めるまで追いかけたりしつつ。
 流れる水を泳ぐ寒天に閉じ込められた様々なフルーツ達。星型にくり貫かれた卵焼き。ゼリーの色は水面で鮮やかに輝き、素麺の上でも可愛らしいトッピングとなり、ハクが微笑む。
「皆さまの具でお椀がとっても華やかになりました」
「ふむどれも素敵デ美味、本当に女の子の想像力には脱帽デス」
 言いながらリィェンは渋面になる。サクランボだと思って食べたゼリーが梅干しだったのだ。思わずイオリはそっぽを向く。
「こういったイベントに驚きはつきものなのです、多分」

「これがそうめん……」
 景の宵・クローディアがもぐもぐと噛み締めるのは白滝である。
「でも、結構イケる」
 同意する幾千の昼と夜・ヴァンが食べているのは糸蒟蒻である。
 苦い表情なのは天昇瞬地・サイクスだ。確かに味は普通かも知れないが、ボケ殺しはキツイ。
「どんだけ食う気だよ……!」
 でかい器に2つのフォークと言わば完全武装の艶獣・ガルドにアブソルート・フェイが思わず突っ込む。
 わけろ、と言われた彼は、
「しょーがねぇからよそってやらぁな」
 実は最初からそのつもりであった。だが待てどもあまり変わり種は流れてこない……つまらない、と流し素麺とは無縁のはずの感情が湧いてくるから不思議である。
「さあ何でも来い! めんつゆでおいしく頂いてやるよ!!」
「そうですね、せっかく遥か向こうから流れてくるのですから……」
 高らかにネタを呼んだサイラスに頷き、夕焼け物語・シュシュがぐっと箸を握る手に力を込める。
「あ、来ましたよ!」
「ちょ、これはおかしいでしょ!」
 彼女の言葉に振り返ったヴァンは思わず叫ぶ。
 緩く溶けたチョコでコーティングされた白魚が迫り来る! がっしり掴むダブルフォーク!
「おら、たんと食えよ? 男なら変わりダネも黙って食えや」
 ガルドの笑顔は真っ直ぐサイラスへと向けられていた。

「あ、トマトが流れてきましたよ」
「って、は……箸じゃ掴めな……っ」
 トマトを追いかけバーガンティーレース・ラーレが走る姿に微笑みつつ、藍色弧矢・カノンの悪戯心がざわめく。
「はふ……私に挑もうだなんて100年早いですわ、淑女に不可能なんて存在しません!」
「おかえりなさい、いっぱい食べて大きくなってくださいね」
 満足そうな表情で戻ってきたラーレへ、微笑みと共に差し出されたのは色々こんもり盛られた上に鎮座する茄子。
「負けませんわ……でも茄子だけは淑女でもダメ! カノン様が食べて!」
 涙目のラーレをくすくすと笑いながら、美味しいのに、と茄子を引き上げる。
「流し素麺って美味しいね、ラーレ 」
「……素麺って何処に流れてましたか?」

●閉幕
 イリューシアの箸はやっぱりミニトマトを掴んでしまい「はい、あーん♪」笑みと共にルィンに差し出される。危険な物じゃなくて良かったと彼は代わりに食べる。
 蜜柑にナハトが喜ぶ姿にルーイッヒも微笑み――振り返ると、そこには。
「謀ったな、ヘーゼル!」
 黄金連休なんてなかった・セルジュがきりっと睨む。折角さくさくのエビ天をもってきたわけだが、水に浸せば当然衣はふやける。そこでこの一言である。妖精さんがやれやれと呆れているように見えるが彼は気にしない。
 いやしかし謀られたのはヘーゼルではないか。プレゼントと称して危険そうな物体は全部此処に回ってきていたのだ。
 緑色の物体が多いのも特徴だ。頂点に君臨するにゃんこまんじう(旗付き)が誇らしげだった。
 そして、この2●歳おめでとうと書かれた手作りバースディケーキである。鮮やかにフルーツトマトが並ぶハート型はほっかむりを被った人形が一生懸命桶を漕ぎ、届けてくれた。
「ちゃんとめんつゆつけてくださいよ!」
 強化改造暴走不思議ちゃん・アムがにやにやと邪悪な笑みを浮かべる。
「なるほど、素晴らしい演出です。では私は演奏を」
 悪意なんて欠片もない(多分)斧の魔曲使い・ルイが定番の曲を奏で始めると、最早引くに引けない。
「ヘーゼル。ほら、口あけろよ」
 にやにやとディアも笑う。
「え? 俺? いや、俺は良いンだよ。ほら、お前の生誕記念だし」

 美しいBGMの中、表情を変えずヘーゼルは覚悟を決めた。
 滅多に他人を恨まない彼が復讐という言葉を脳裡に浮かべながら、それでも完食した事だけは記しておこう。



マスター:神崎無月 紹介ページ
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いまいち
参加者:46人
作成日:2011/05/21
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