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行き止まりの森

竪琴の魔曲使い・ミラ

<行き止まりの森>

■担当マスター:阿木ナツ芽


 きこりは朝の仕事を終え、森の中をぶらぶらと歩いていた。
 昼飯は清浄な水の湧く泉のほとりでとるのが習慣だ。
 弁当の前に湧き水で顔を洗うこともできるし、いつの季節も少しひんやりとした水は実にうまい。
 彼は男が持つにしては愛らしい仕立ての布包みを指先に引っ掛けていた。布の端切れを集めて大きく縫い繋いだこまやかな手仕事は、どうやら女性の手によるものと見える。
「あいつもなぁ、もうちょい口やかましくなけりゃいい女房なんだがなぁ……」
 いっぱしの文句をたれながらも、まだ年若いきこりの表情は楽しげだ。
 そんなふうにして泉の間近にまでやって来れば、そこには先客らしき人影があった。
 低木の茂みに隠れてはっきりとは分からないが女のようであり、長い髪をたらして泉のほとりにうずくまっている。具合を悪くして動けなくなっているのかもしれない。
「おい、どうかし――うわああ!」
 近づいて肩に手を伸ばしかけ、彼は火傷したように腕を引っ込めた。
 ゆっくりと振り返り身を起こしたそれは、人間ではなかった。
 いまや目にするところとなった女の腰から下に脚はなく、鱗をまとう長い胴体が泉の中にまで続いている。しなやかな女性のものである腕もまた、途中からが鋭い刃と化している。
 蛇女は細い爪の形に唇を吊り上げた。
 逃げるいとまも、あればこそ。
 刃が風を斬る音がひゅうと鳴り、彼は湿った地面に倒れ伏した。
 土まみれになった無骨な指先が弁当の結び目を解くことは、もうないだろう。

「こんにちは。ちょっと、よろしいでしょうか。お願いしたいお仕事があるんです」
 柔らかな物腰で声を掛けてきたのは、一人の少女だった。
 彼女は竪琴の魔曲使い・ミラ。エンドブレイカーの能力で、ある光景を見たのだという。
 まずは座るように空いた席を勧められ、ミラはありがとうございますと丁寧に礼を述べた。
「それじゃあさっそくご説明しますね」
 事件は、とある美しい森の中で起ころうとしていた。
 近隣の村からきこり仕事に出てきた青年が、森の泉に出現した魔物に襲われるというのだ。
 魔物を退治し、無事彼を村に帰して欲しいというのが彼女からの依頼だった。
「泉に現れた魔物はラミア、蛇の下半身に人間の女性の上半身の姿をしたものです。ラミアは腕の肘から先が剣のようになっていて、それで切り裂く攻撃をしてきます。尻尾をうまく操って、叩きつけてくることもあるようです」
 見えた光景をもう一度たどるように目を閉じるミラ。
「寄り道することなく向かえば、男性が泉に辿り着くあたりで追いつくことができるのではないでしょうか? ただ、どうしても戦いに巻き込むことにはなってしまいそうですので、配慮が必要だと思います」
 ふう、と息をついて彼女は続けた。
「お話しさせていただいたとおり、今回の事件にマスカレイドは関わっていません。けれども、危ない目に遭おうとしている人がいるというのに放っておくのも……」
 耳を傾けていたエンドブレイカーたちはめいめいに深いうなずきを、力強いまなざしを返す。
 ――例えマスカレイドが関わっていなかったとしても、それが誰かの行き止まりの先を切り開く力になるのなら。
「やっぱり、そうですよね! 皆さん、どうぞよろしくお願いします!」
 そう言ってミラは人懐っこい笑みを満面に浮かべるのだった。

●マスターより

皆様はじめまして、マスターの阿木ナツ芽と申します。
「エンドブレイカー!」の世界へようこそ!
わくわく&キュート、笑っちゃうけど時々ほろり。
そんな元気一杯な冒険をご提供していけたらいいなと思っています。
これからどうぞよろしくお願いいたします。

今回の依頼についての補足は特にありません。
さっそく森の魔物退治に出発しましょう!


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● ハンマーのデモニスタ・ラクディ(c01641)
「誰かが死ぬ結末など、この鎚に誓って変えてみせよう」
連携を円滑にするために、目的地へ辿り着くまで仲間と作戦を確認していきたい。
きこりとラミアが遭遇する場所へ辿り着き、先制攻撃がラミアに向けられ戦闘が開始されたら、
私はきこりを誘導する者達の援護のために、誘導するルートとは異なる方向からデモンフレイムでラミアに攻撃し、
その注意をきこりに向けないようにしたい。
きこりの安全が確保された後は、前衛で戦う仲間を守れる位置へと移動し、
その時のラミアの位置に応じてパワースマッシュ、デモンフレイムを使い分けて戦おう。
戦闘となると血が騒ぐ事もあるが、仲間ときこりを守る事を主眼とし援護をする形で戦い、突出しないように気をつけたい。
ラミアを討伐することで、きこりだけでなく今後この泉を利用するものが脅威から守られればいいと考えている。

● 弓の狩猟者・ヒューロ(c01667)
「きこり殿の家族を悲しませる結果にはしたく…ない。
ましてや森でそんな事を起こさせは…しない」

最優先するのはきこり殿の安全確保。
泉でラミアと接触する前に追いつき、ラミアとの間に割って入って彼を守り戦う作戦。


戦闘中の位置は後衛。

きこり殿と避難役のフォローとして、射程距離内にラミアを捉えた所でファルコンスピリットで先制の遠距離攻撃。
この先制攻撃は他に行う者がいれば、声を掛けて連携。

きこり殿が安全な位置まで逃れた後は、前衛のサポートになるよう弓での遠距離攻撃を続ける。
この際、アビリティは下記の場面と、きこり殿や前衛陣に危険が見られる場合で使用。

戦闘の間、特にラミアの尻尾を警戒する。
そこに動きがあれば前衛に被害が及ばぬよう全力で尻尾へのアビリティ攻撃を行った上で、尻尾の攻撃範囲に居る仲間に警告の声を掛ける。


勝利後は、きこり殿から一番離れた場所で安堵の表情。
森と弓、そして冒険仲間達に心で感謝を捧げる。

● 杖の星霊術士・ミューリオル(c02224)
わ、綺麗な森…
ゆっくり…見たいけど、寄り道は…しないよ
急いで、きこりさんに追いつかないと…救える命は救いたいから

●きこりさん
きこりさんに追いついたら…安全を確保するために接触
説得は、僕より話の上手な人に任せよう
僕は…そういうの苦手だから

誘導は…後衛の人がしたほうがいいのかな…?
人手が足りなかったら、だけど…もしそうだったら、僕も加勢するね…

●戦闘
僕は後衛…だよ

戦闘が始まったら、マジックミサイルで攻撃
連携は他の後衛のみなさんに、合わせる感じかな…

僕を含めて、誰かが危険になったら…スピカで回復
でも、できるだけ攻撃中心にして…短期決着で、いきたい…!

●戦闘後
きこりさんを助けれて、よかった…
えっと…怪物退治の一団、だよね…?
ちゃんと、合わせないと…

本当に…巻き込ませてしまって、ごめんなさい
みなさんと…一緒に謝ろう

一段落着いたら、ちゃんと…森を、見れるかな…?

●補足
呼び方:名前+さん
口調:「…」多用

● 扇の星霊術士・アルト(c02506)
後衛の中でも少し後ろ目で、きこり様のやや前にたち、皆さんの援護を行う。

最初に先制攻撃をして、きこり様を連れてきた人にすぐに駆け寄って、きこり様を守れるように側についている。

主に回復をして、前衛の方を優先的に回復させていき、近くまで敵が来て、近くの誰かが攻撃が間に合わないようならば即座に水流演舞を行い相手を遠ざけるように攻撃をする。

きこりさんが狙われるようならば即座にかばうようにして後退する。
そしてそのまま支援をしつづける。

● 扇の群竜士・ヨヘールアイゼ(c03142)
・目的
きこりを守りラミアを撃退すること。

・流れ
きこりを探し合流する。

このときラミアと鉢合わせする前ならば、魔物が居るから暫く一緒に居てもらい、ラミアが出てきてからきこを逃がす。

ラミアときこりが鉢合わせてしまっていた場合は、前衛班がラミアときこりの間に割り込むので、オレはきこりへ向かい、合流後、ガードしながら後衛まで一緒に動き、後衛に引き渡す。

・戦闘
きこりを連れて後衛に行ったあとは、後衛から【流水演舞】で攻撃をしつつ前衛の様子を伺う。
前衛の誰かが深いダメージを受けた場合、後衛から前衛へ移動する。
前衛になってからは【竜撃拳】を使い接近戦を試みる。

・補足
互いに目配せや、声を出し合い動く事を忘れないように心がける。

退治後、泉で休憩してから帰ろうかと提案してみるつもりだ。

● 大鎌の魔曲使い・ノラ(c03237)
ラミアに話し掛ける前に、樵さんと会えれば良いんですけど。
話し掛ける前でも後ろでも、ラミアに対して先制攻撃するのが先ですね。
武器が大鎌だから歌うのかしら。『闘志を奪う』→『警戒心を奪う』で、全体的に中位置に居るわ。防御封じが敵ったら、『回転防御』

前衛が苦戦していたら、前に出て援護、大鎌で攻撃するわ。
前衛に任せられるなら、中位置のまま、『魅惑のフレーズ』か『せつないメロディ』で。

「…人を襲い、その命を奪うというのなら……容赦はしませんっ」
「大変っ!替わります、一旦下がって下さいっ」

● 太刀の魔曲使い・シャムシエル(c03500)
寄り道せずに泉へ急ぎ
遠目からでも見掛けたらきこりに声を掛け先行できる人で攻撃するより優先で彼を確保
ただ、きこりがラミアを見掛け声を掛けたら助けられないと思うからその前に動くよ
※声の掛け時は行きながら仲間と最終確認
「この辺は人の姿に似た怪物がうろつくから危ないよ?」等
前衛が保護できれば護衛役に中継する

立ち位置は前衛
きこりをラミアから遠ざける際、強引でも良いので割って入り壁となる
彼らへラミアの攻撃の邪魔になるように動くよ
行きの道中から周囲の障害物(木・泉等)を素速く確認して
きこりを遠ざけたらラミアの退路を減らす感じで陣取り

戦闘は誘惑の魔曲と居合い斬りを駆使してラミアの注意を引く
近接攻撃可能なら居合い斬り優先

「一身上の都合により、あなたの命頂きます」
太刀を構えラミアへの挑発のような宣言

大まかな説明は人任せ
「思う所は色々あるだろうけど、今日は彼女に甘えてきなよ」
疑問にはパッチワーク指して答える

● 杖の星霊術士・リーフィルーナ(c04055)
誰かの平和で幸せな時間が魔物の手によって
奪われるなんて、見過ごせません。
私の小さな力では目の前の方を助けるので
精一杯かもしれません…でも、それが
あの人との約束ですもの。
絶対にきこりさんをお助け致しますわ!

自分達が到着後、きこりさんとラミアが
未接触の場合は声をかけて引き止めます。
もし襲われそうな場合はマジックミサイルで
ラミアを牽制し、その間にきこりさんに
こちら側に来て頂くようにします。

戦闘中は、私は後衛から支援致しますわ。
星霊スピカでHP回復、マジックミサイルで攻撃
の2通りを状況によって使い分けます。

HP回復はHPの半分近くのダメージを受けた方に行い、
マジックミサイルは回復の手が空いた時に行います。
「大丈夫ですか?!スピカさん、お願いしますわ!」
「当たってっ!マジックミサイルッ!」

事前・事後の説明の際、きこりさんには
「驚かせてしまいましたか、申し訳ありません」
と謝ります。

人称:名前+様

● 盾の魔法剣士・エルガー(c04229)
まったくエンドブレイカーとは因果なものだ、こんな結末を知ってしまったら酒が不味くなる…

方針はまず何よりきこりを助けることだ
私の役割はラミアと直接戦うことだな
もしまだラミアがきこりを狙うようなら、その進路妨害をしつつ堅実にダメージを与えていきたい
万が一にも取り逃がさぬよう、退路を塞ぐことも頭に入れて動く
特に同じ前衛で戦うグロリアーナとの連携を意識していこうと思う
第1ターンのみ吹き飛ばしを狙ってシールドバッシュを仕掛ける
その後は逆に吹き飛ばしてしまわないように気をつけ適時アビリティを使う
止めは刺したいものが刺せばいいだろう、私にもしその機会が来ても他の者に譲るよ

戦闘後、きこりに説明する
我々は怪物退治の冒険者の一団だ、この泉付近でラミアの目撃情報があったので来た。
巻き込んでしまってすまない、と謝る
あくまでこちらの事情に巻き込んでしまった態で、助けにきてやった、という言い方にならないよう気をつける

● 太刀の城塞騎士・グロリアーナ(c05136)
現場に着いてすぐ私はきこりさんの元まで走るわね
あまり瞬発力に自信はないけど素早い仲間と合わせて動けるようにタイミングを計るわ

きこりさんとラミアの間に割り込んだらきこりさんを守る様に動くわ
保護役のヨヘールアイゼさんの動きを窺いながら
例えこの身に一撃受けるようになろうとも彼ときこりさんが下がりきるまで庇い
ラミアが彼を追撃するようなら進路を阻んで妨害しちゃうわ

きこりさんが下がったのを見計らって攻めに転じるわね
同じ前衛で頑張ってる皆や、後衛の人との連携を取りながら攻めるわ
今まで後ろを気にしていた分、存分に暴れてやるんだから

きこりさんを守っている間はディフェンスブレイド
きこりさんが下がった後は居合い斬りに切り替えて攻めるわね

戦闘後、私達が何故ここに居るかについての説明はエルガーさんに任せるわ
もしも、きこりさんが訝しげな様子なら
「まぁまぁ、無事なんだから良いじゃないの」
と誤魔化しておくわ

<リプレイ>

●彼女の誤算
 若いきこりはのんびりした足取りで、森の泉に近づいていった。
 水辺の茂みににうずくまる女の姿に気が付いた彼は、女が物騒な先客であることなど知らない。心配して話しかけようと手を伸ばしーー。

「その者に近づいてはいけませんわ!」
 杖の星霊術士・リーフィルーナ(c04055)の制止の声に、きこりは驚いた様子で振り返った。
 太刀の魔曲使い・シャムシエル(c03500)と太刀の城塞騎士・グロリアーナ(c05136)が駆ける。水辺の女、ラミアの髪が揺れ動き、弓の狩猟者・ヒューロ(c01667)は短く指笛を鳴らした。
 梢を鳴らして上空よりスピリットの鷹が飛来する。ラミアは顔面に覆いかぶさる光の翼に甲高い悲鳴をほとばしらせ、刃の腕を振りかざした。
「う、うわあ、化け物だ!」
「さがってて」
 目を白黒させるきこりとラミアとのはざまにシャムシエルが割り入って抜き打ちを放つ。返すラミアの斬撃がきこりの盾となったグロリアーナの肩を割いた。
「来なさいな。貴女の相手はこちらよ!」
 高らかに叫び防御の構えをとるグロリアーナ。すかさず突進した盾の魔法剣士・エルガー(c04229)の一撃がラミアを泉へと吹き飛ばした。水柱とともに、盛大な水音が響き渡る。
 彼らは間に合った。
 ラミアにとってはひどい誤算であったろう。もう少しで、獲物を一突きにできるところであったのに余計な邪魔が入ったのだから。
 しかしまだ、安心するには早い。
 扇の群竜士・ヨヘールアイゼ(c03142)がきこりを後方へ押しやるや否や、波打つ水面が盛り上がり、怒りに満ちたまなざしをたたえたラミアが再び姿を現す。もはや全身があらわとなり、水にぬれた蛇のうろこが鈍い輝きを放っていた。
「お嬢さんお綺麗やなぁ……とでも言いたいとこだけどな」
 ヨヘールアイゼは始終浮かべていたニヤニヤ笑いを消し去り、口に咥えた楊枝を吐き捨てる。そうしてみれば軽薄な口調とは裏腹に眼光の鋭い男だ。
 ラミアの足元でぬかるんだ地面がばちゃりと鳴る。
 ハンマーのデモニスタ・ラクディ(c01641)はそっと武器の柄をなぜ、そして、手のひらに力を込めた。それがまるで戦いに臨む前のひとつの儀式であるかのように。
「誰かが死ぬ結末など、この鎚に誓って変えてみせよう」

●誓いのもとに
 低く跳びかかるラミアにデモンフレイムの黒い炎が牙をむいた。
 大鎌の魔曲使い・ノラ(c03237)が歌い奏でる魔曲の旋律を、うねる流水がまとわりつくのを、嫌々と振り払うように気だるく首を振り、ラミアは大きく身じろぎする。
「来る……!」
 ヒューロが警戒を告げると同時に、ラミアの長い蛇の尾が、良くならされた鞭のようにしなった。
「お気をつけて!」
 扇の星霊術士・アルト(c02506)がきこりの身体を引き寄せてかばう。目を庇って掲げた腕と扇のすぐ間近を風圧が通り過ぎた。
「やっぱり怖いよう〜……」
 両腕にいくつものかすり傷を作った杖の星霊術士・ミューリオル(c02224)の、ぎゅうとつむられた目から涙がこぼれ落ちた。だがすぐに握り締めた杖をラミアへと向けて気持ちを集中する。思い切り顔を背けて、それでも、視界の端にだけにでも、敵の姿をきちんと留めておこうとしながら。
 降り注ぐ光の矢がラミアを射抜く。蛇の尾を持つ女は顔をゆがめ悲鳴じみた奇声を上げる。そして髪を振り乱しさらに激しい尾の一撃を彼女の敵に浴びせかける。
 その衝撃を全身で受け流し、エルガーは盾を激しく突き返した。次はどう来る? 額から流れる血を払い、じりじりと位置を図る。下手に動けば、後方に累が及ぶ。
 膝をついたシャムシエルが不機嫌そうに身を起こした。グロリアーナの服は裂かれた腕の肩から袖口まで鮮やかな紅に染まっている。
「大変っ! 替わります、一旦下がって下さいっ」
 ノラが小さな身体で大鎌の刃を閃かせ、前方に躍り出た。ラミアが振るう腕と鎌と、刃同士が擦れ合い、きんとした音が耳を突く。競り負けたラミアの腕の破片が崩れて泥に沈んだ。
「スピカさん、お願いしますわ!」
 リーフィルーナの杖の先から飛び出した星霊スピカがまっしぐらに宙を駆け、傷ついた者をいたわるようにほおずりする。スピカがぺろりとなめた傷は瞬く間に癒え、彼らに戦う力を取り戻させた。
 ヨヘールアイゼがミューリオルの肩を軽く叩き、前衛の戦列に走る。
「僕も……戦わなきゃ……!」
「誰一人として、私の前で傷つけさせはしませんわ」
 きこりの身を託されたミューリオルとアルトは視線を交わして頷き合った。
 怖くって隠れたくっても、でも、このためにやって来たのだから。

●剣を抜き放て!
 ヨヘールアイゼの肘が側方からラミアの身体を打ち据えた。彼は器用に身をひねりグロリアーナの隣に着地する。
「後ろの皆は?」
「元気一杯だぜ」
 返答を聞いて、グロリアーナは微笑んだ。
「さて攻めの太刀も鈍っていなければいいんだけれど…」
 静かに鞘に収めた太刀から一陣の風が走った。目にも留まらぬ速さで繰り出された居合いの一刀はラミアの豊かな髪と共に胸元を水平に切り裂く。
 今まで防戦主体であった彼女の攻撃に、ラクディは気が燃え立つのを耳の奥に感じた。呼び起こされた黒炎は彼女の闘志そのものであるように標的へと洗礼を浴びせかける。ラミアはのけぞり半身を返すようにしたが、エルガーにぶち当たられた衝撃によって元の方向へと向き直る格好になった。
 低い唸りと共に、折れた腕を突き立てるラミア。砕けてなお鋭さを誇る刃がノラの脚を貫き、彼女は眉を寄せ後方へ飛び退く。
 アルトが唇を引き結び扇をひらひら舞の仕草のように翻すと、スピカが元気良く転がり駆けて行った。
 肩で息をする。召喚を続ける体力が残っていないことを感じる。
 だがそれは相手も同じはずだ。
「もう少し……ですわ……」
 もう少しだけ。アルトは仲間のためにスピカの名を呼び続ける。
 ラミアの顔は醜く狂気に歪んでいた。蛇の胴体からは矢が幾本も突き出て、拳を刃を払いのけるたびに、尾をしならせるその拍子に、剥がれ落ちた鱗がぽろぽろと散った。
「守ってみせる……俺に流れる血に恥をかかせは……しない!」
 矢をつがえ、狙う、一瞬の静寂――ヒューロの脳裏には畏敬する父の姿があった。
 矢が吸い込まれるようにラミアの胸元に突き刺さる。さらにリーフィルーナの呼んだ光が胴体を撃ち抜くと、苦しげに宙を掻くラミアの腕のヒビがまた大きくなった。ノラの巻き起こした旋風に押しやられ、とうとうラミアは泥に這いつくばる。
(「人間、魔物。命に、貴賤はないけれど」)
 呼吸を整え、シャムシエルは上段に太刀を構える。
「冥土の土産にボクの死戯舞踏……見納めるといい」
 軽やかなステップとともに彼女の斬り下ろした太刀筋はラミアを深く容赦なく切り裂いた。
 断裂から体液を溢れさせ、蛇の胴を持つ女はうつ伏せに崩れ落ちる。
 それが彼女の結末だった。

●行き止まりの先へ
「や、やりましたわぁ!」
「おわあ」
 リーフィルーナが感激のあまりとびついたのは彼女が守り通した人物、きこりであった。
「あらぁ、すみません。ついいつもの癖で……」
 へどもどしている彼から離れてごめんなさい、と頭を下げると、きこりはわざとらしく咳払いなどしてもっともな疑問を口にのぼらせる。
「一体こいつは……どうなってんだ? あんたたちはどうして?」
「ああ、巻き込んですまなかった。我々は怪物退治の冒険者の一団だ」
 応じたのはエルガーだった。
 周辺でラミアの目撃情報があったがゆえに討伐にやってきたのだが、当方の不配慮できこりを巻き込んでしまった――彼は簡素かつ明快にそう『説明』した。
「すっかり、驚かせてしまいましたわね」
「本当に……ごめんなさい」
 リーフィルーナとミューリオルが口々に謝罪を述べる。
 真実ではないが嘘でもない故に筋は通っており、何より命の恩人たちに逆に頭を下げられてまで疑ってかかる人間はそういない。少なくともきこりは納得したらしく破顔する。
「なるほど、のんきに弁当食ってる場合じゃなかったわけか。ありがとう、助かったよ」
 その時ぎゅうう、という音がどこかから響いた。いかにも平和な、お食事時を待ちわびる虫の鳴き声だ。
 きこりが今も大切に抱えている弁当の布包みからあわてて目をそらした者が、人の輪から少し離れた場所にいた。
「い、いい今のは……違う、何でも……ない! 何も聞こえてなど……いない!」
「まぁまぁいいじゃないの、若者は元気が一番」
 先ほどまでの戦いぶりはどこへやら、耳まで赤くしてうろたえるヒューロに、グロリアーナが柔和に笑いかける。
「帰る前に森のどこぞでひと休みしていこうぜ。さすがにこの場ではちょっと、アレだけど」
 こちらも先ほどまでの真剣さはどこへやら、ニヤニヤしながらヨヘールアイゼが言えば、ちょっとアレな原因であるラミアの亡骸を見つめ、ノラがつぶやく。
「このラミアの鱗って好事家に売れないでしょうか……それに色々研究してみたりだとか。興味が沸きますね」
 初めての依頼にかかる緊張やら不安やらは、成果を冷静に観察する彼女にはまるで無縁の感情であるようだった。

 ――無事依頼を果たしたエンドブレイカーの一行は和やかに引き上げにかかる。
 ゆったりと皆の後に着き、エルガーは懐に忍ばせていた酒をあおる。
「……ああ、旨い」
 やがてこの森の泉は人々ののどを潤し、憩わせる場に戻ることだろう。
 きこりだけでなく泉を訪れるすべての人を守りたいとラクディが願ったとおりに。
 昼下がりの木漏れ日は優しく、小瓶に至福の琥珀色がきらめいて揺れた。
マスター:阿木ナツ芽 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/02/16
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冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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