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ゴンドラの木:眠の森に夢の舟

<オープニング>

●ゴンドラの木
 描きあがったばかりの地図を手に、エルフの少女が街を駆けていく。
 旅人の酒場にまっすぐ飛び込んだ少女はアイスレイピアの魔法剣士・リコッタ(cn0109)だ。彼女は酒場をぐるっと見回して、居合わせたエンドブレイカー達に手を振った。
「みんな、集まって! ゴンドラの木を探しに行った自由農夫さん達が帰ってきたんだよ!」
「ゴンドラの木?」
 新人ゴンドラ乗りの募集を知って、リコッタの呼びかけに応じた自由農夫たちがライブソイル探しに出かけたのは皆の記憶にも新しいところ。ゴンドラは乗り手と一緒に成長していく船なのだが、良質な材木から作られたゴンドラは最初からかなり優れた能力を持つ船になるという。
 ならばライブソイルの在り処を見つけ出し、そこに生えている木でゴンドラを作れば――という話になったのだが、彼らは情報を集めていくうち、アクエリオで言い伝えられている『ゴンドラの木』こそがライブソイルの在り処で育った希少植物なのではないかという結論に至ったらしい。
 確かにその木なら素晴らしいゴンドラになるだろう。
 そして自由農夫達が水神祭都のあちこちを丹念に探索した結果、多くの吉報と多くの困った報告があがって来たのだとリコッタは語る。
「ゴンドラの木は見つけられたんだけど、沢山見つかったゴンドラの木の殆ど全てに、バグラバグラのマスカレイドがぶら下がっていて、木を守っていたんだって」
 これだけでも充分困った状況なのだが、他にも、斧などの刃物ではなく強力な酸か何かで溶かして切り倒されたかのようなゴンドラの木の切り株などが発見されたという話。
 彼らが何やら不穏な事件の匂いを嗅ぎ取ったのは、果たして気のせいなのだろうか。
 けれど、だからってここで引き下がるわけにはいかないんだよ、と少女が拳を握る。
「自由農夫のみんなが頑張って、どこにゴンドラの木があるかを確認した地図を作ってくれたから、今度はみんなで、マスカレイドを倒して、ゴンドラの木をゲットしにいこう!」

●眠の森に夢の舟
 明るい陽射しを透かす森の新緑は、心浮き立たせるように優しく眩い黄緑の色。
 薫風渡れば新緑の梢は軽やかな葉ずれの音を響かせて、森の中を流れゆく川は楽しげに水飛沫弾けるせせらぎで唄う。そこにあるのは澄んだ水の香りに爽やかな森の香り、微かに甘い土の匂いや橄欖石の煌きみたいな木漏れ日に満ちた世界だけど、森の中を流れる川沿いを上流に向かって歩いてゆくに連れ、森にあってしかるべき鳥の声や獣の気配が消えていく。
 聴こえるのは梢の音とせせらぎだけの、まるで全ての動物が眠りについてしまったかのような森。
「その森の、ここ! ここにゴンドラの木があるんだよ!」
 酒場のテーブルに広げた地図の一点をびしっとリコッタの指が示す。それは川沿いに進んでいった森の奥、水辺に程近い一角だ。恐らくそこにいるバグラバグラのマスカレイド達が、辺りから鳥や獣を追い払ってしまったのだろう。
 筋骨隆々とした体つきの、ナマケモノのバルバ。それがバグラバグラだ。
 しかもそれが棘によって力を得たマスカレイドともなれば、森の動物達では逃げるしかない。
「でもみんななら大丈夫だよね? そーゆーわけで、みんなにはこのバグラバグラのマスカレイド達をびしっと倒して、ここにあるゴンドラの木をゲットしてきて欲しいんだよ!」
 地図に書き添えられた情報によれば、このゴンドラの木にいるマスカレイドは全部で六体。
 殆どの個体は長い鉤爪の能力や群竜士の技に似た能力で戦うようだが、ふわもこした羊のような毛を持つ群れのリーダーらしき個体は、別の能力も使ってくるらしい。
「うーん……羊みたいにふわもこしてるっていうなら、能力も星霊ヒュプノスみたいなのかもね」
 油断は禁物だよと少女は表情を引き締めて、エンドブレイカー達を見回した。

「びしっとマスカレイドたちを倒したら、そこにあるゴンドラの木を切り倒して運んできて欲しいんだよ。森の川がすぐ傍だからね、ざぶーんと水に浮かべちゃって、みんなもゴンドラの木に乗って、そのまま流れてきちゃえばいいと思うんだ!」
 最高の土壌で育まれたゴンドラの木はかなりの巨木。
 何せゴンドラの木が一本あれば、ゴンドラ十艘分に相当する特別な材料が得られるのだという。
「川は森を出たところで街に繋がる水路に合流するから、流して運んじゃうのが一番楽ちんなんだよ」
 指先で地図を辿って説明し、じゃあみんな頑張ってきてね、とリコッタは話を締めくくる。
「はうう、きっとすごくカッコいいゴンドラが出来るんだよう。ゴンドラをゲットして操れるようになったら、みんなでもっともっと色んなところへ行けるよね……!」
 夢がいっぱい広がるんだようと、少女はうっとりした瞳で彼方を見つめた。
 きっともうすぐ、夢の舟に手が届く。


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参加者
黎旦の魔女・イリューシア(c00113)
遊雲・ヤオ(c00418)
花渫う風・モニカ(c01400)
漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)
颯・キリン(c07183)
漆黒の・クシィ(c07777)
勿忘草・ヴリーズィ(c10269)
魔法使い・シオン(c12837)
陽鶸・ビビアナ(c14611)
陽光の剣騎士・リュート(c22149)

<リプレイ>

●眠の森に夢の舟
 薫風に新緑の梢が葉ずれの囁き奏で、涼やかな水の流れがせせらぎを唄う。けれど鳥の唄も獣の気配もない眠りに抱かれたような森を往けば、目指すものは迷うことなく見出せた。
 柔らかな木漏れ日踊る森の中、凛と聳えたつひときわ立派な樹。
 その枝々にぶらさがっていたバグラバグラ達は此方の気配に気づいた途端、敵意を剥きだしにして飛び降りてきた。
 殺セ、と号令したのは、両脇に仲間を従える位置に降りた羊の如き毛に覆われたバグラバグラだ。確かにナマケモノは木を守り育てる賢者だと故郷では語り聞かされたものだけど。
「ったく、おっかねぇ守人もいたもんだな。このまま行くぜ!」
「しかしリーダーが真ん前にくるとはね……了解、行こう」
 臨戦態勢を整えたまま此処までやってきたエンドブレイカーたちに行動のロスはない。躊躇なく地を蹴った遊雲・ヤオ(c00418)と漆黒の・クシィ(c07777)はまっすぐ群れのリーダーに襲いかかった。
 唸りをあげて揮われたのは魔獣の力を宿す腕、ヤオの獣爪と長大なバグラバグラの爪ががっちりと噛みあった瞬間、二つ名どおりの瞳を軽く眇めたクシィが敵の横腹を薙ぎ、勢いを殺さぬままの棍を脳天から打ち下ろす。その手応えを感じると同時、少年の腹部は敵の爪に空間ごと引き裂かれた。
 次元の狭間に足を取られた彼を狙って、右の横合いから敵の配下が重い気を叩き込んでくる。
「なかなかやるね……これは結構楽しめるかな」
「クシィ!」
 幾重にも爆裂した気の衝撃とその余韻が己を侵食していく様を堪えて呟いた少年に、更なる敵が襲いかからんとした。けれどそのバグラバグラは、黎旦の魔女・イリューシア(c00113)が顕現させた翼から放たれた破壊光線に直撃される。広がる翼から続け様に力ある光が降りそそぎ、眩い光線の合間をすり抜けるように駆けた漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)が残像を生んだ。
 紅色が二度翻ったと見えた瞬間、飾り房を従えた剣が獣人たちに斬撃を刻む。
「リーダーはお任せする!」
「うん、頑張るよ! そっちはよろしく!」
 彼の声に応えたのは勿忘草・ヴリーズィ(c10269)。皆が配下たちを掃討する間、リーダーを抑えておくのが自分とクシィ、そしてヤオの役割だ。舞い降りた妖精に口づければ小さな友は矢に変わる。狙い澄まして放てば、淡い輝き纏った矢は羊みたいな毛に覆われた敵の腕をまっすぐ撃ち抜いた。
 敵リーダーの左から飛びかかってきた配下を陽光の剣騎士・リュート(c22149)が迎え撃つ。長い爪を持つ両の掌から叩き込まれた気が体内で爆ぜたが、洩れそうになった呻きは歯を喰いしばって堪えた。いまだ少年と呼ばれる齢であっても、
「僕は……いや、俺は『騎士』なんだ!」
 騎士たる矜持で己を支え、リュートは横薙ぎにした剣で眼前の敵の脚を砕く。
 続けて揮われた別のバグラバグラの腕を少年が翳した双剣がいなした。だが更にリュートを狙ってきたもう一体は、掌に凝らせた重い気を彼の鳩尾へと打ち込んでくる。
「まずは各個撃破、よね!」
 左の配下たちも気になったが、右にいる一体の痛手が今最も大きい。陽鶸・ビビアナ(c14611)は右手側の敵を見据えて剣の琴に指先を踊らせた。華やかな音色に闘志を削がれたバグラバグラが、ほわりと表情を緩める。が。
「……あたし、動物は筋肉質より小さい方が好みかな」
「リーダーが召喚するらしいちっこいのが可愛いといいよな!」
 その表情もお好みでなかったらしい花渫う風・モニカ(c01400)が、鋭く振り抜いた脚から衝撃波を放った。必中の軌跡を描いた音速の波を追うように駆けたのは颯・キリン(c07183)、軽口をきいても炎の剣を握る指の先まで彼の神経は研ぎ澄まされている。妖精の輝き重ねた斬撃を見舞い、少年は敵に呪いを刻みつけた。
 呪詛は回復の術を阻害するが生気を吸収する技までは阻まない。反撃とばかりにキリンの胸元を抉った虚空の刃が奪った力を獣人に与える。けれど積み重ねられた痛手は、到底それで補いきれるものではなかった。
 仲間たちの攻撃で配下一体が倒れ仮面が砕ける様を視界の端に捉えながら、クシィは地表近くを薙いだ棍で敵リーダーと右側に残った一体を打ち据え彼らの足を払う。次の瞬間には、眼前の敵の頭上にひときわふわもこした子供バグラバグラの幻が現れた。
 仔バグラバグラはつぶらな瞳で皆を見回し、早速夢を食らわんとする。――が、主の麻痺でそれは叶わず、ムキャッと地団駄を踏んだ仔はクシィとヤオに飛びつき、彼らを柔らかな毛で包み込んだ。
 幻とはいえ、その感触は。
「やべぇ、ふわもこすぎるんだぜ……!」
「……いいナー……」
 私も攻撃されてみたかった、というイリューシアの羨望の眼差しが背中に突き刺さるのを感じつつ、幻を振り払ったヤオは魔獣の腕で現実のふわもこに喰らいつく。
 痛手を蓄積させたクシィへとすぐさま癒しを向けたのは、戦いを共にする仲間としての連帯感で心を繋いだヴリーズィ。彼女の妖精が環を描きだす様にほっと息をついて、魔法使い・シオン(c12837)は雪の煌き纏う扇で風を招いた。紫の瞳が狙い定めるのは右手側の配下、仲間が重ねた痛手を更に重ねるべく、鮮やかな風と共に突撃する。
 集中攻撃で各個撃破。確かに効果的な戦法だ。
 だがそれは、集中攻撃から外れた敵を自由な状態にしてしまうことでもある。
 左の配下バグラバグラ三体が、一斉に攻撃を仕掛けてきた。

●眠の森と夢の舟
 軽く触れられただけなのに、獣人の掌からは大きな気が叩き込まれた。左の一体から喰らった重い一撃に顔を顰めつつ、両手に掲げた剣を一気に振り下ろしたリュートは敵の胸に斜め十字を刻む。
 残る二体の狙いはクシィ、戦装束を貫いて打ち込まれた気が爆ぜ、気脈を断って体内へ潜り込んだ力が幾重にも荒れ狂う。そそがれた癒しをも越える痛手を重ねられ、少年の膝が折れかけた。
 酒場で示唆された、バグラバグラ以外の危険。
 遭遇するかもしれないそれに備え、出来るだけ力は温存しておきたかったけれど。
「回復……するけどあたしだけじゃ足りないよ!」
「誰も倒れさせたくないもの、私も合わせるわ!」
 瞳を見交わした少女達が互いの癒しを重ねて解き放った。御一緒にと誘うようなモニカの楽しげな舞いが、晴れやかな声音で堂々と歌い上げられたビビアナの戦歌が、リュートとクシィの気力を呼び起こす。しかしそれでもなおクシィの痛手は深く、その様を見て取った敵リーダーが次元をも断つ爪を突きこんできた。
 次元を捻り引き裂いた鋭利な爪が、空間を盛大に抉り取る。
 だが――瞬間の差で加速を得ていた少年は、大きく飛び退ることでその凄まじい攻撃から逃れていた。限界を超え無の境地に至り、その限界すらも超えれば、新たな感覚が指先にまで満ちていく。
「……間一髪」
「危なかったね……!」
 今の彼に癒しは不要と察したヴリーズィは、安堵に眦を緩め、春花の紅をさした唇で妖精に触れる。捧げられた祈りを抱いた妖精はその身を矢に変えて宙を翔け、敵の胸を深々と貫いた。
 迷いは一瞬で振り捨てて、シオンは再び右手の配下バグラバグラをまっすぐ見据える。翻した扇が喚ぶ風は二つ、荒ぶ旋風は敵へと翔け、遥か後方から来たる追い風はイリューシアの背に触れた。既にデモンの翼と浸食融合を果たしていた少女は、翼に追い風を受け紅の瞳を微かに細める。
「……私はちっちゃくないバグラバグラも可愛いと思うんだ」
 けど、ごめんね。
 呟きが落ちると同時、虚無から招来された黒霊剣の雨が二重に降りそそぎ、続けて現れた鮫剣の群れとともにバグラバグラ達を切り刻んだ。力尽きた配下の仮面が砕け散る。
 この調子で行くぜ、と声をあげた瞬間、キリンの周囲に妖精の群れが舞った。淡青に煌く彼女達は携えた針でリューウェンに力を与え、左に残った配下に突撃する。
「今だリューウェン!」
「承知した!」
 身の裡から光が溢れくるような感覚のまま、宙を翔ける妖精たちの影のごとく駆けたリューウェンが刃を閃かせた。森に降る光の合間に鮮明な残像を映した彼は、紅の瞳に捉えたバグラバグラ三体に斬撃を浴びせ、鋭い切っ先で一気に獣人達を刺し貫く。
 受けた痛手によろめいた彼らと瞳があえば、ビビアナは嫣然たる笑みを浮かべてみせた。
「あら、私の演奏を聴きたいの?」
 楽しげな笑みもくすりと零して、少女は返事を待たずに誘惑の旋律を紡ぎだす。広がり響く音の波が甘やかに彼らの心を絡めとれば、より痛手を重ねていた一体の仮面が粉々に崩れ去った。
 瞬間、辺りに視線を走らせたイリューシアが漆銀に艶めく弧の刃で風を裂く。
 放たれた呪詛塊が喰らいついたのは羊めいた毛を纏うバグラバグラの腕、瞬く間に全身を汚染した猛毒の疼きに苦悶の声をあげ、敵リーダーは硬質な音を鳴らした爪でヤオへと襲いかかった。
 大きく派手な斧剣を叩きつけ、絡めとるようにして爪を受けとめれば、斧剣の飾りが幾つも揺れる。
「なぁ、この木を守れって、誰かに命令されてんのか?」
 鍔迫り合いの如く押し合いながら慎重に訊いてみるが、獣人からの答えはない。戦う相手と意思を通じやすくする力は働いているはずだが、余程相手の意志が強固なのか、木に近づく者を何としても排除するという意識が感じられるのみ。問いを変えても反応は同じだった。
 力負けしそうになった瞬間ヤオは飛び退って距離を取り、今度は魔獣の腕で純然たる戦いを挑む。
 彼が対話を試みていた間に、配下バグラバグラは残り一体となっていた。
「悪いけど、蹂躙させてもらうよ!」
 瞬時に展開されたシオンの紋章から現れ出たのは黒鉄兵団の破城槌、ゴンドラの木でなくそれを囲む森の木まで獣人を吹き飛ばし、突撃した黒鉄兵団の幻影が殺戮の意をもって襲いかかる。
「行っけええぇぇえっ!!」
 迷わず地を蹴ったのは双剣に眩い光輝を宿したリュート、瞬く間に距離を殺し、重ね合わせた刃で一気に敵の体躯を貫けば、砕け散った仮面が森を渡る風に霧散した。
 重ねた祈りが眩い力となって、ヴリーズィの心に身体に満ちていく。
 伸べた手の先から柔らかに力を解き放てば、指先から飛び立った妖精が幾重にも環を描きだして、皆に残っていた痛手すべてを癒しきった。
「しかし最後まで油断は禁物、だな」
「だね、下手すればここからが本番ってこともありうるし!」
 眼前のバグラバグラとの戦いには完全に勝機が見えた。だが常に別の危険をも念頭に置いていた彼らは気を緩めることなく戦いに臨む。無駄のない軌跡を描くリューウェンの斬撃に続くのは左右から襲いかかるモニカの音速の波、相手を貫く瞬間に、貴方達の大切な木、決して無駄にはしないからと祈るような思いを込めた。
 幾重にも降りそそぐイリューシアの黒霊剣の合間をキリンが駆ける。焔纏う刃に妖精を溶け込ませ、渾身の力を乗せて突きこめば、最後の敵の仮面に大きな亀裂が奔った。
 間髪いれず棍を揮ったのはクシィ、鮮烈な一撃が柔らかな毛並みのバグラバグラを叩き伏せれば、その身体が力を失うと同時に仮面が粉微塵に砕け散る。
「……結構、楽しめたよ」
 僅かに緩めた漆黒の瞳に映るのは、風に流れ消えていく、仮面のかけら。

●眠の森の夢の舟
 流石に埋葬までは手が回らなかったけれど、橄欖石の煌きみたいな木漏れ日揺れる森の片隅に彼らの遺骸を横たえて、そっとイリューシアは木の守人達の毛並みを撫でた。
 ――お疲れ様、おやすみなさい。
 皆に冷たい清水を振る舞って、自らも喉を潤せば、澄んだ朝の心地好い目覚めにも似た爽快感が身体の隅々にまで満ちる。思わず顔を綻ばせたモニカは朝焼けの白に染まる遠眼鏡を手に取って、担当の持ち場をキリンやリュートと確かめあってから、意気揚々と森の木に登り始めた。
 仲間がゴンドラの木を切り倒している間、三人は周囲の警戒にあたるのだ。
「流石に扇じゃ木は切れないからね」
「……棍でもね」
 用意してきた斧を手に、ゴンドラの木を見上げてシオンとクシィが小さく笑いあう。手順を確認し準備を終えたリューウェンが、女性陣の分まで力仕事を引き受けんと口を開きかけた、瞬間。
「女の子だからってか弱いとは限らないのよー!」
 楽しげに声をあげたビビアナが張り切って斧を打ちこんだ。
 切り倒す方向はしっかりとヴリーズィが示してくれている。こういうのは得意だぜと言わんばかりに、ヤオも己の力を思いきり活かして斧を揮った。
 伐採作業は数人ずつの交代制。
 休憩にやってきたビビアナがいそいそとお菓子を取り出せば、
「クッキーとか持ってきてるけど、食べる?」
「食べる。いただきます」
 こくんと頷いたイリューシアが受け取った。
 口にしたクッキーのさくさくっぷりにほんわり和みつつ、イリューシアは第三の腕となった髪を操って、運搬用ロープの準備など細々とした作業に勤しんでいる。
 伐採は意外に早く終わりそうだった。
 やがて――立派に聳えたっていたゴンドラの木が、眠の森に大きな音を響かせ大地に倒れ伏す。
 重たい地響きとその余韻に浸り、駆け戻ってきた警戒班も一緒になって。
 誰からともなく顔を見合わせた皆は、弾けるような歓声をあげた。

「異状なーし! さ、帰ろー!」
 澄んだせせらぎ響かせる水面を歩いて、川の上流と下流の様子を確かめたキリンが満面の笑みで皆に手を振った。幸いなことに『別の危険』に遭遇することなく帰還が叶いそうだ。水辺に運んできたゴンドラの木をざぶんと流れに乗せれば、冷たい水飛沫が跳ねて眩いきらめきを散らした。
 皆を乗せたゴンドラの木は、涼やかな風と清冽な波飛沫を連れて、水の流れを滑り始める。
 森の緑に挟まれ、水と風を切っていく感触が楽しくて、キリンは無邪気に声をあげた。
「なー! 自分のゴンドラだともっと楽しいんだろうなー!」
「ねー! あたし自分のは花を沢山飾ったゴンドラが良いなぁ」
 大好きなひと達を乗せて、夢みたいに綺麗な光景を探しにいくんだ、と続けられたモニカの言葉に、シオンの頬も自然と緩んだ。
 書物の中でしか知らなかったようなところへ行くことができるようになるだろうか。
 ひょっとすると、どんな書物にも記されていなかったようなところへも――。
「……すごく楽しみだね」
 心なしか弾んだ少女の声に、リューウェンも微かに目元を和ませた。
 胸を満たすのは、透きとおる水の香孕んだ水辺の風。
 実際にゴンドラに乗る時もこのような心地がするだろうかと思えば、知らず唇からは囁くような唄が流れだす。風に水に溶けそうな旋律をそっと追いながら、ヴリーズィは瞳を細めた。
「……幸せの音色を歌でも紡げたらいいな」
 懐には翡翠を宿したキーリング。
 柔らかに握りしめて愛しいものすべてと夢の舟に思いを馳せて、水の流れの先に瞳を向ける。
 きっとこれも――新しい世界へ滑りだすための、第一歩。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/05/27
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