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フィフティ・イヤーズ

<オープニング>

●念願
 ゆっくりと進む、ふたつの人影。
 人々に捨てられてからまだ日の浅い放棄領域には、星霊建築の恩恵も十分に残されている。
 天井から降り注ぐ光は穏やかで、ただ住まう人々が居ない分、不思議なほどに静かだった。
 杖で身体を支えながら一歩一歩をゆっくりと進む老女は、ささやかに化粧を施していた。彼女と腕を組んで歩く老男も、正装でこそないが身綺麗に整えている。
 二人は休み休み、放棄領域を歩いていた。
「時間が掛かってしまいますねえ、私の足がこんなだから」
「急ぐものでもないよ。ゆっくり行こう」
 目指して歩くのは、かつて彼らが住んでいた村だ。
 この地を捨てて上層の街へと移り、十余年。それでも、二人の心にはいつもこの村が在った。
 二人が生まれ出会い、恋をして結ばれて、その時間を過ごした小さな村。世界がどれだけ広くとも、彼らにとっての世界はこの小さな村が全てだったのだ。

 村の小高い場所に建てられた、白い壁の建物へと辿り着く。
 尖塔は崩れ、多彩なガラスが美しい模様を描いていた窓も割れている。この建物へと伸びる道も、雑草に覆われてかつての整然とした面影は無い。
 それでも、二人はこの場所を選んだ。
「随分、掛かってしまいましたねえ」
「……五十年、だなあ。私もお前も、老いる訳だね」
 目を細めて老男が言葉を返すと、彼の伴侶はころころと楽しげに笑った。
 この場所で挙げるはずだった結婚式。お世辞にも裕福とは言えない生活のために機を逃し、日々の生活に追われ子供が産まれ――振り返ってみた時、それだけの時間が経ってしまっていた。
 だから、節目の今年はあの頃に戻って式を挙げよう。ドレスも指輪も無いけれど、誓いを立てよう。そう提案した夫に、妻は瞳を輝かせて頷いたのだ。
 子供じみた計画は息子夫婦には言わずに来た。だから、招待客も立会人も居ない。
 期待を篭めて二人は建物の扉を開ける。
 その扉の向こうに、刃を手にした死体が待ち構えていることを知らないまま。

●露払い
 建物の中に潜んでいるのはマスカレイドと化したマミーだと、剣の城塞騎士・フローラ(cn0008)が説明を始めた。
「まだ時間があるの。そのご夫婦よりもずっと早くその建物に到着出来るわ」
 マスカレイドのマミーは三体。ただの死体だと油断してはならない。動きが鈍いということもないし、攻撃が単調ということもない。
「前に立つ二体がそれぞれ爪と太刀を装備しているの。後ろの一体は……デモニスタだったようね。それなりに連携して攻撃してくるわ」
 例えば一人を狙って攻撃を集中させてくるなど、その程度の戦法が予想される。相応に対策を練らなければ、思わぬ痛撃を受ける可能性があるだろう。
 戦場となる建物の内部は十分に広く、戦闘に支障をきたすことはないという。
「此処からは、『出来れば』という話になるのだけれど」
 少し考えるような表情を見せて、言葉が続く。
「そのご夫婦は、結婚式……と言っても、二人で誓いを立てるだけなのだけど、それを挙げるために訪れるの。でも、マミーの残骸が残っていたらさすがに諦めてしまうと思うわ。だから……」
 ただ、それが老夫婦の目に付かないように建物の外へ追いやるだけでいいのだ。
 放棄されてから時間の経つ場所。汚れなどを全て気に掛ける必要は無い。
「ご夫婦のささやかな望みなの。ちょっと、嫌かもしれないけど……出来たらお願いね」
 緩やかに傾いで、フローラはそう締め括った。


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参加者
ハンマーの魔獣戦士・アマラ(c01414)
ハルバードの城塞騎士・クロエ(c02330)
大鎌のデモニスタ・ヨイ(c03222)
爪の群竜士・ダオ(c03643)
斧のデモニスタ・エアリィ(c05109)
大剣の魔曲使い・ソオラ(c06146)
杖の星霊術士・アリシア(c08645)
暗殺シューズのスカイランナー・リヴァル(c10009)

<リプレイ>

●扉の向こう
 時が止まったかのように静かだった村を抜け、目的の場所へと進む。
 ふと、ハルバードの城塞騎士・クロエ(c02330)は来た道を振り返った。
 白い壁の建物は目前。小高いその場所からはある程度までが見渡せた。彼女の意に気付き、その視線を追うように大剣の魔曲使い・ソオラ(c06146)も振り返る。
 まだ、その視界の何処にも老夫婦の姿は無い。
「ご夫婦の五十年越しの願い。これは叶えたるしかないよな?」
 ソオラの言葉に先立った伴侶の姿を記憶から蘇らせ、爪の群竜士・ダオ(c03643)は羨望も篭めて目を細める。「思い出の地で、のぅ……」と誰に言うわけでもなく小さく零した。式を挙げる二人の邪魔をするものは許してはおけぬ。彼は穏やかに心を決めた。
 快活に笑い、ハンマーの魔獣戦士・アマラ(c01414)が酒を口に流す。
「じーさんばーさんはだいじにしねぇーとなぁー!」
 もっとも今回、裏方に専念するつもりでいる彼女が二人の姿を見ることは無いかもしれない。
 式への立会いを望む者、陰で支えることに注力する者、様々なのだ。
「長年連れ添えるというのは、最大の幸せであろう」
 それを壊すものが在るとすればとても憎いと、斧のデモニスタ・エアリィ(c05109)は初陣への緊張も見せない。勝負を好む彼女は微笑すら浮かべ、戦場となる崩壊しかけた建物を見据えた。
 多彩なガラスで飾られた窓は、かつてはさぞ美しかったのだろう。今は窓枠に申し訳程度のガラスが残るばかりだった。
 八人の最後尾をゆく杖の星霊術士・アリシア(c08645)が手にした武器に力を篭める。
「何とかこのエンディングを回避して、幸せなエンディングにしたいですねー」
 のんびりとした声音で紡がれた言葉は、態度は異なれど全員の意志を代弁するもの。
 誰一人も、老夫婦が念願を叶えるために訪れるこの場で命を落とすことなど望んでいない。
「此所は、生者の舞台だ。奈落に堕ちた死者にアンコールの機会は訪れぬ」
 静かな声で大鎌のデモニスタ・ヨイ(c03222)が呟きを落とし、扉に手を掛ける。
 暗殺シューズのスカイランナー・リヴァル(c10009)も扉の前へと立った。全員を見回し、その準備が整ったことを確認する。
「行くか」
 揺るぎない意志と共に、彼らは建物の扉を開ける。
 その扉の向こうの、刃を手にした仮面を纏う死体から老夫婦を守るために。

●死者と踊る
「舞台が在り、脚本が有り役者が或る。……さぁ、開幕といこう」
 口火を切ったのは、ヨイとエアリィがその掌から生み出した黒い炎だった。
 エアリィは炎に最大の力を篭め、そしてヨイは濃紫の炎を乗せて同じ敵へと放つ。ごうと音を立てて襲い掛かる二つの炎に、敵の身体が仰け反った。包帯に包まれた体躯に絡む炎は、消えずに残る。
 二人の攻撃に勢いを得てリヴァルは駆けると高く跳躍した。身体をしならせ刺すような速さで攻撃を落とす。炎を纏うままのマミーの身体が揺れ、其処へダオが真横に薙いだ爪の勢いが続く。
 彼は鋭く瞳を光らせた。
「昔取った杵柄を振るうのは今しかあるまい」
 包帯にまみれ、仮面に覆われて表情も判らないマミーの身体が痙攣する。ダオの爪が与えた毒が効いたのだ。ソオラの奏でる寂しげな旋律が敵へと響き、息を吐く間も無く五人の攻撃を受け続けた爪持つ敵の身体が僅かに揺らいだ。
 十字架にも似たハルバードを翳してクロエが踏み込む。ある限りの力を篭めた強烈な一撃が、太刀を持つマミーを確かに捉えた。手応えはあった。しかし、まるで何事も無かったかのように、マミーは眼前のクロエへと抜き打ちの一撃を見舞う。抉るように肉を裂き血がしぶいた。
「……!」
 唇を噛み締めクロエは耐える。だが続いて炎と毒に苛まれる爪のマミーが彼女へと飛び乗り、一撃を振るう。前衛のマミーより奥に居た一体が掲げるように両手を上げると、その闇から禍々しい刃が幾つも生み出され――やはり、彼女へと襲い掛かった。
 策の通り、爪を持つマミーにエンドブレイカー達の攻撃は集中されている。
 だが、爪のマミーは攻撃を受けつつも自由に動ける状態にある。そして敵は単純に『集中して狙い易い相手』を選んでいた。
 阻害されることが無ければ、敵の連携も成される。
 やや離れた後方から戦況を見ていたアリシアがそれに気付き声を上げて知らせれば、悟った前衛が敵の位置を分断するように布陣を変える。
 瞳に強い光を宿し、盾を自身の前に構えてアマラが突進した。その猛烈な勢いに、太刀のマミーが吹き飛ばされる。
 ヨイは身の力を収束させるように腕を上げた。
「早々に消えたまえ」
 この舞台を望む次の役者――此処での挙式を願う老いた夫婦が居る。召喚された魔力を纏う黒い剣が、降るように襲い掛かり敵を切り裂く。
 跳躍したリヴァルが、その高さと回転の威力を足に乗せて真っ直ぐに敵を撃つ。その衝撃に、爪を持つマミーの身体が今度はぐらりと大きく揺れた。
 敵を見据えるその手に、デモンの力を湛えた炎が揺らめく。
「手加減出来ん立場だ。さっさと散って貰おうか」
 向けられたエアリィの掌から、闇よりも深い黒の炎が放たれた。猛烈な炎に包まれたマミーは身を捩じらせ、倒れる。炎が消えた時、その仮面も消えていた。
 爪のマミーが倒れるのを見て取ったダオが、敵の逃亡を阻止すべく裏口を封鎖し、ソオラは旋律を奏でていた手を止め大剣を構え直した。
 太刀を持つ敵が斜めに薙いだ一撃と、その背後から喚ばれた邪剣の力に、攻撃を重ねられてきたクロエが思わず膝を付く。すかさず、大鎌を手にしたヨイが彼女の前に立った。クロエは「すまない」と礼を述べて、彼の後背へ下がる。
 魔獣化したアマラの腕が、舞うように振るわれる。
「ぶっ潰してやるぜぇー!」
 鋭い爪が太刀を持つマミーの身を抉り、血の流れない身体を強かに打擲した。続き、力強く地を蹴ったソオラが大剣を振り被る。
「さっさとご退場願おうか!」
 勢いを乗せた一撃は大きく弧を描き、断ち割るかのように真横に振るわれる。
 深くその身を斬るも、仮初めの命を与えられた死者は痛みを感じることも無いのだろう。斬られた身のまま、尚も太刀を振り翳す。
 デモニスタのマミーを牽制するようにその後背から放たれた、リヴァルの衝撃波。
 回避することの能わない一撃が確かに命中するも、数を減らされた敵は尚も連携を図っている。
 デモニスタの力を持つ敵は、離れた位置のリヴァルではなく太刀を持つマミーが狙うソオラへと血を奪う剣を放った。鋭く身を裂き、その分だけ敵に癒しを齎す。
 ヨイが頭上で回転させた大鎌を振り下ろし、前へと出たエアリィも斧を両手で構え、叩き割るように真横に薙ぐ。攻撃の重ねられた太刀のマミーは千切れた包帯に身を包み、それでも動く。
 微かに、クロエは痛ましげに顔を顰めた。
 憎むべきはこの死者達ではなく、眠っていた彼らを呼び起こした『棘』なのだろう。
 ――こんな風に死者を辱める『棘』の存在を、許せない。
「死者の魂と骸を玩ぶその『棘』、打ち払う……!」
 その手から放たれた十字架のような影が、強烈な一撃となって敵の胴へと叩き付けられる。勢いのままマミーは倒れ、仮面が砕け散った。
 敵は残り一体。アマラが踏み込む。「圧倒的な芸術彫刻もハンマーの一振りの前には無力」を地で行く彼女が魔獣化した腕を振り上げ、狂うような動きで敵を裂く。アリシアの召喚した、青い光を纏う星霊スピカが深く傷付いた仲間を懸命に癒し、赤く染めた爪を構えたダオが竜の力を纏う拳を過たず突き出した。鮮烈な突きに、敵の体躯が波打つように揺れる。
 エアリィの斧は断ち割るように振り下ろされるも、敵は怯むことなく力を湛えるように両手を上げる。虚無から喚ばれた剣の群れは照準を変えずソオラへと降り、血を吐き傷付いた彼を包むのは、祈るように膝を付いたクロエが放つ癒しの力を帯びた輝く拳だ。彼女の前へと立つヨイが、下から掬うように大鎌を薙ぎ、血の流れない敵の身を斬り上げる。
 間合いを詰めたソオラが振るう大剣と、リヴァルの放つ衝撃波は同時。
「これで仕舞や……!!」
「さっさとご退場願おう、かっ!!」
 死人は死人らしく、土へと還れ――。
 幾重にも攻撃を受け続けたデモニスタのマミーが、二つの衝撃の前にどさりと倒れる。
 音も無く、仮面が霧消した。
「早い幕だったな、マスカレイド」
 ヨイが落とした言葉が、戦いの幕引きとなった。

●弔いと祝い
 大きな布に、もう動かなくなったマミーを包む。
 エアリィの配慮により後処理に掛かる時間は短いものとなった。
「……運び易いですねぇ」
 感心したようにアリシアが呟く。何より、包んでしまえば運ぶことそのものが容易だった。
「女の子達にやらせるのも、なんか気い悪いしなぁ……」
 そんな理由で積極的に動こうとしていたソオラと、元より率先して動こうと思っていたリヴァルが視線をかち合わせる。そして、互いに笑った。運び出すことを嫌がる者は、一人も居なかったのだ。
「死体はさっさときれーにしねぇーとなぁー!」
 相変わらずの調子で作業を行うアマラの言葉は、自身へと向けられたもの。誰かに強要することも頼むこともなく、彼女は身体を張って淡々とこなしていく。
 裏口から運び出した三つの亡骸は、さほど遠くない場所にクロエが造った簡易な墓に埋葬した。
「彷徨える魂に、今一度。安らかな眠りを……」
 再びの眠りについた彼らに、唱えた言葉は餞となっただろうか。
 建物の中では、老夫婦がやって来る直前まで頑張るのだとアマラが一生懸命に掃除をしていた。崩壊の進む建物ではあるが、血の跡は祝いの場に相応しくない。布で、その汚れをしっかりと拭う。
 エアリィは摘んできた野の花を、少し考えた後に辛うじて残っていた卓へと飾った。
 殺風景だった其処が彩りを帯び、戦場だった場所はにわかに穏やかなものとなる。
 同じく春の花を摘んできたダオは、それを丁寧に小さく纏めてささやかながら花束の形にした。花は甘やかな香りを漂わせる。なかなかの出来に、彼は目元に皺を刻んだ。
 扉の隙間から外の様子を窺っていたヨイが、老夫婦の姿が見えたと仲間達に告げる。
「祝福の舞台に、我のような役者は無用であろ」
 彼は裏口からするりと立ち去った。続いたリヴァルは二人の誓いを見守れるようにその場に留まるも扉の影に身を隠し、「退場だぁー!」と笑いながらアマラも辞した。

 ――期待を篭めて、建物の扉を開けた。
 其処に誰かが居るなどとは思っていなかった二人は、旅人だと名乗る五人の姿にまず驚いた。
 なるほど彼らの足元には武器が置かれている。このような偶然もあるのだろう。隅に居た、宝石のような緑の瞳を持つ少女と目が合えば彼女は穏やかに傾いだ。
 簡単に事情を説明する。彼らの眼差しは優しいものだった。元より招待客も立会人も居ないはずの式を見届けたいという言葉は、拒む理由などありはしない。
 日焼けした肌に少年のような瞳を持つ一人が、小さめの弦楽器を手に尋ねてくる。
「お二人の邪魔にならんかったらやけど、一曲ええやろか?」
 少しでも式を盛り上げられたならという申し出だった。
 何という贅沢。老女は「優しい曲をお願いします」と嬉しそうに微笑んだ。青年はつられるように頬を緩め、慣れた様子で旋律を奏で始める。
 何も無いだろうと思っていたはずの場所に、音色が流れていく。
 見上げるほど大きな体躯に長い髭を蓄えた老人――といっても恐らく自分達よりは若い彼が、この場所に手向けるつもりだったのだと小さな花束を差し出す。
「末永く幸せにのぅ」
 野の花は贅沢なものではないけれど、其処に篭められた心があるのなら、何一つ準備をしていない今の二人には十分過ぎるものだ。
「お二人の笑顔が幸せの証拠ですね」
 聡明そうな顔立ちをした赤い髪の女性が寄越したのは、祝福にも似た言葉。
 思いがけない贈り物が続き、二人は幸せそうに笑う。
 卓へと歩みを進めれば、其処にも花が飾られていた。目を細める二人の前に、ローブで身を覆う凛々しい瞳の女性が誓詞の仲介を申し出る。
 勿論、二人は頷いた。
 ――共に歩んだ五十年、これからもその輝かしい歳月と変らぬ愛を誓いますか?
「勿論。死が二人を別つまで……いや、離れ離れにされても愛しているよ」
「ええ。でも一日でも永く、一緒に居ましょうね」
 触れるだけの口付けを交わす。
 温かな拍手が、朽ちかけた建物に響いた。



マスター:輿水悠 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/04/06
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