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イワトマイマイ

<オープニング>

●桜の町
 長い冬を越え暖かい日がやってくる頃、町中が桜色に染まる。
 数多に並ぶ桜並木。天を覆う薄紅の花。それがこの小さな町の自慢だった。
 しかし、今年は様子が違った。木々の根元に大きな岩のようなものが転がっている。
 それもいくつも。
 誰がこんなところに、こんな岩を――人々が不審に思いながら近づいてみると、それは巨大なカタツムリだった。殻に籠もっていたため本当にカタツムリかどうかは不明だし、別にヤドカリでもなんでもいいが、取り敢えず邪魔だった。
 ひとまずどかそうと人々は岩のような殻を押してみる。びくともしない。中身も動かない。
 汗だくになりながら何人がかりで押そうとも、推定カタツムリはウンともスンとも言わなかった。
「このウスノロ! 邪魔なんだよ!」
 そんな罵倒が癪に障ったのだろうか。
 不意に、ぶわっと殻全体から花粉のようなものが噴き出す。
「うわあああ」
 身体を庇いながらの叫び声はすぐに止む。何ともない? 首を傾げようとした瞬間、彼らは顔をしかめた。
 ――怖ろしく臭い。鼻をつまむどころのレベルではない。
 粉が撒き散らかされた辺り一面が、ただならぬ悪臭を放つ。その強烈さは筆紙に尽くし難い。鼻を押さえるどころではなく呼吸はマトモに出来ないし、目からは涙が止まらない。
 町中を包む悪臭に耐えきれず人々は家に一斉に籠もり、待ち望んだ春にも関わらず、町はしんと静まりかえっている。

●イワトマイマイの対処法
「そのカタツムリはイワトマイマイといいまして、非常にデリケートな精神を持つカタツムリです」
 竪琴の魔曲使い・ミラ(cn0007)はにこにこと、明るい表情で説明する。
「すぐに自分の殻に閉じこもってしまって、傷つくと匂いで威嚇するんです。……まあ、ちょっと、非常に、大変凄い悪臭らしいですが……」
 彼らは春になると人知れず明るい場所にやってくるという。
 まあ、暴れたりはしないようなので放っておいても無害といえば無害だ。
 だがこの花見のシーズン、町にとって花見ができないというのは重大な問題である。
 さりとて無理矢理どかそうにも、十人がかりでも動かぬ相手だ。
 更に人数を動員すれば、持ち上がるかも知れない。しかし、なるべくイワトマイマイに負担を掛けないように慎重に運ばなければ、頭から悪臭を浴びることになる。
 ならば道具を使ったりして転がせばいいかも知れないが、それも臭い攻撃を喰らうだろう、恐らく多分確実に。
 今回出現したのは全部で八体。全部をそっと持ち上げて運ぶのは至難の業だろう(運び手の精神的にも)
「でも実は、簡単に動いて貰えるようなんですよ」
 事も無げに告げたミラは竪琴を持ち、少しだけ爪弾いた。
「先程申し上げました通り、イワトマイマイはデリケートですから、怯えさせたり、怒らせたら絶対に出てきません。ですが、兎に角おだてて、褒めちぎれば動いてくださいます。曰く、とても寂しがり屋だから、人が集まりそうな明るい場所にやってくるようですよ」
 皆さん、賑やかに応援してあげてくださいね。
 にっこりと微笑みながら、彼女はエンドブレイカー達を送り出すのだった。


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参加者
盾の城塞騎士・イブン(c00470)
エアシューズのスカイランナー・アズ(c02247)
扇の群竜士・ヴェロニカ(c02508)
扇の魔曲使い・ギボシ(c04668)
太刀のスカイランナー・ヒロミ(c06486)
竪琴の魔曲使い・アカリ(c06713)
槍の魔法剣士・レナリア(c08109)
アイスレイピアの魔法剣士・ドロップ(c09788)

<リプレイ>

●招待
「うーん……寂しいだけのマイマイを無理矢理退かすのは気が引けるんだけど……」
 竪琴の魔曲使い・アカリ(c06713)がぽつりと零す。
 しかし町人達に迷惑となってしまうのなら、やむを得まい。ならば精一杯楽しませてあげたいと彼女は頷く。
「この辺り、どう?」
 町から少し離れた一画を指さし太刀のスカイランナー・ヒロミ(c06486)が問いかける。
 広く開けたその場所からは薄紅に染まった町が見える。それほど距離が遠いわけではないが、此処なら、万が一イワトマイマイが臭いを発しても町には影響を与えない。
「ここならそんなに遠くないからのう、マイマイ達にも負担にならぬのう」
 明瞭風靡じゃ、満足そうに扇の魔曲使い・ギボシ(c04668)が口元に扇を当てて頷く。
 町の桜はそれは素晴らしいものだった。桜並木が伸ばした枝は天を覆うようにずっと続いている。そのため、少し離れても、町そのものが巨大な桜の木であるかのように見え、それはそれで見物であった。
 更に都合が良かったのは盾の城塞騎士・イブン(c00470)の探したところ、近くに泉があり、環境としては悪い場所ではなく、其処にイワトマイマイが暫く留まっていようとも、生活圏でないため町人達にとって問題は無い。
 彼らの次の仕事は此処で宴会をする、ということだ。
 うきうきとギボシがシートを広げた上に料理を広げ、イブンが調達した麦酒を並べる。
 料理が整えば、出し物の準備をそれぞれに――。
 本気で楽しまねば、彼らは思う。
「楽しんで貰うには私自身も楽しまなきゃダメだよね」
 アカリが竪琴を手にそっと呟くのを耳にしたギボシが、微笑みかける。
「楽しい思いは伝染するのじゃよ」
 桜の下の仲間達の成功を祈りながら、彼らは宴会を始めた。

「やあ、あっちにも日当たりの良い花見ポイントがあるぞ。一緒に行かないかい?」 
 お弁当を手に扇の群竜士・ヴェロニカ(c02508)が岩に話しかける――否、岩のように見えるが、殻に篭ったイワトマイマイだ。
「丈夫そうな良い殻ね。子供達が好きそう。子供ってカタツムリが大好きだもの」
 こんこんと殻に軽いノックして挨拶とし、槍の魔法剣士・レナリア(c08109)が優しく語り掛ける。
 此方に回ったエンドブレイカー達はイワトマイマイを仲間の宴会まで導くため、彼らをおだてて移動してもらうという作戦だ。
「殻の質感が格好いいねっ! それと、すっごい力持ちなんだってねっ!」
 エアシューズのスカイランナー・アズ(c02247)がレナリアの言葉を引き継いでその特徴を誉めた。
 身振り手振りも賑やかに、彼女はイワトマイマイに声を掛ける。
「明るい所が好きなんですね」
 アイスレイピアの魔法剣士・ドロップ(c09788)が笑顔と明るい声で話しかける。
 しかし暫し、イワトマイマイ達は動かなかった。
 臭いを発することもないが、だが動かない。
 これはなかなか長期戦になりそうだ、目(?)さえ合わせようとしない彼らに、一同ひっそりと闘志を燃やした。

●短くて長い道
 しかしもしかしたら、彼らは緊張しているのかもしれない。
 見知らぬ人々にこうやって話しかけられる事が過去あったのかどうか――
「日当たりの良いところで、その殻にもお日様の暖かさを味合わせてあげたいな」
 心はナンパ男のように。良い表現かどうかはわからぬが、ヴェロニカはマイマイへ甘い台詞を心がける。
「ほら、桜の花が殻の上に乗ってる。綺麗だな、あっちでもう少し、はなびらに埋もれてみないかい?」
 彼女の言うとおり――マイマイ達の殻は大きく、また舞い落ちる花片が彼らを回避する理由もない。
 花片を背に乗せた彼らの姿は可愛らしくもあった。
「賑やかな場所が好きなの? この辺はいつも沢山人が集まるから」
 レナリアが問いかける。
 びくりと岩のような殻が震えるような、そんな振動が掌から伝わってきた――ような気がする。
「楽しい音が分かるのね? それってとっても素敵だわ。そういう人って案外少ないもの。じゃあ、あれも分かる?」
 両手を胸の前で合わせるように喜びを表し、彼女は仲間が用意している宴会の方角へと指を差す。
「友達が宴会を始めてるの。楽しそうな音が聞こえるでしょ?」
 此処からでは姿こそ見えないが、彼らが騒ぐ楽しげな音が微かに届いている。
「マイマイさん、一緒に向こうへ行ってみましょ? 楽しそうなんですよ」
「みんなで楽しもうよ!」
 これくらいなら大丈夫かと、ぐいぐいと軽く殻を押してみつつ、ドロップとアズが自分たちもあちらに行きたいという意志を見せながら誘う。
「みんな曲を聴いたり踊りを見たりしてくれる人が増えたら喜ぶと思うの」
 貴方たちは暴れたりしないでしょ、そういうお客さんは大歓迎よとレナリア。
「君たちがいれば私たちのお花見も楽しくなると思うんだ」
 最後にヴェロニカが微笑んだ時だった。
 岩のような殻からぬるりと、桜色のツノが伸びる。
 おお、と彼女たちはどよめいた。岩のような殻の一部ががらりと穴を開け、イワトマイマイ達はそれぞれ殻から頭を出し、ゆっくりと動き出した。

 動き出したイワトマイマイだが、彼らは非常にマイペースだった。カタツムリだからと誰もが覚悟していたが、やはり移動速度は早いとはお世辞にも称せない。
「疲れたら無理しないでねっ」
 ほら、こんな風に休憩を……とアズが岩に腰掛けてみせる。が、何だかゆったりと地面が移動している気がする。
「……そ、そこらへんの岩って、あれ? こんな所に岩なんて……ま、マイマイ……?」
 慌てて飛び降りるも、さて、マイマイ達は気にした様子はなかった。彼女の重さなど、彼らには何ら問題が無かったようだ。
「遅くまで宴会をやるそうなので遅れても大丈……いえいえ! マイマイさんが遅いって訳じゃないですけど……」
 ドロップがうっかり口を滑らせそうになる。ちらりとこちらをみたマイマイがいたような気がしたが、起こった様子はなかった。
 良かったやらちょっと残念やら――いや、別にドロップは臭いを体験してみたいというわけではないのだがなどと物思いをしつつ、胸をなで下ろす。
 どんどんわいわいと楽しく騒ぐ声が近づいてきた。

●宴会
 一方、宴会の方はいよいよ盛り上がってきていた。一通りそれぞれが歌い踊り、用意していた食べ物や飲み物を手に取る。
 ふとアカリが近づいてくるいくつかの影に気付いた。仲間達とイワトマイマイだ。時々休むように動きが止まるが、ちゃんと8匹こちらに向かっている。
「こっちにおいでよー、楽しいよー」
 おーいと手を振るヒロミは、面白い姿になっていた。
 ほっかむりにザルを手に、変なメイクと鼻の穴に細い棒を刺している。曰く、伝説の宴会芸の伝統的なコスチュームらしい。
 異様とも滑稽とも呼べる彼の姿にマイマイ達が何を思ったかはわからないが、取り敢えず問題無くこちらに向かってくる。
 敷物の傍でぴたっと前進を止め、そのまま微動だにしなくなったが、今度は殻の中に籠もる様子はなかった。
「よくがんばったね、えらいよー」
 ヒロミがマイマイ達を労う。誉められると嬉しいらしく、少し誇らしげに胸を張っている――ような気がする。
「素敵な殻をお持ちじゃのう」
 よくぞおいでになったとギボシがマイマイの殻を撫でた。
 さあ、いよいよ宴会の始まりだ。

「じゃあ、みんな聴いてね」
 アカリが竪琴を手に微笑んだ。そして奏でながら高らかに歌う。
 歌っているアカリは演奏しつつ歌う事に集中している様子で、仲間達も思わず聞き惚れる。
 彼女も楽しそうだ。
 歌が終わり、竪琴の最後の音が余韻を残しつつゆっくりと消えていく。アカリはぺこりと頭を下げた。
「見事じゃのう、ワシもひとつ、披露させてもらうかのう」
 扇子を手に、ギボシが立ち上がる。
 独特の空気を纏う彼女の歌は、桜景色に良く馴染んだ。
 表情こそあまり変化はなかったが――その歌声は宴を楽しみ楽しもうという意志が込められている。
 仲間達の手拍子と共に歌い終えた彼女は、扇子を口元に当て、軽く辞儀をした。
 よし、僕もとヒロミが「スペシャルドリンク」を手に立ち上がる。しかし目敏くレナリアにその中身を見抜かれ、没収される。
「宴会の場だし、見逃してあげたいんだけどね」
 彼女の微笑みにヒロミは苦笑いをしつつ、代わりにギボシが差し出した甘酒で代用することにした。
 気を取り直しての、彼の滑稽な踊りは皆の笑いを誘った。
 その後男らしく裸になってイブンが踊り、再びアカリが――と順々に、宴会を盛り上げていった。

 絢爛豪華なのは演芸だけではない。広がる料理も色鮮やかだ。
 そんな中、仲間達へのお礼も兼ねて作って来た、とアカリが開いたお弁当箱の中身は、形容しがたい――少なくとも良い意味で、ではなく凄かった。
「見た目が……アレ、なんだけど。いや、ちゃんと美味しいんだよ!? ただ、見た目が……アレなだけで……」
 弾き語りを披露していた時とは打って変わり、あたふたと説明する。
 意を決して箸を伸ばしたのはアズだ。一口食べて「美味しい!」と頷いた。まあ、見た目はアレなわけだが。
 しかしマイマイさんもどうぞ〜と彼女が食べさせるポーズを取ると、傍に居た彼らはにゅっと素早く殻に閉じこもった。マイマイには葉っぱや果物用意したから、とアカリが少し寂しげに告げると、彼らはすぐに頭を出した。非常にわかりやすい。
 マイマイ達に好評だったのはイブンの用意した麦酒だ。
 彼らの様子はあまり変わらないので、何となく勝手に判断しているだけではあるのだが。
「私たちも春は好きだが、君たちも変温動物……? だものな。春の暖かさを全身で感じ取れる。羨ましいよ」
 桜を細目に見つめながら、ヴェロニカが持ってきたお弁当を開いた。
 マイマイ達も同じモノが食べられるのだろうか――彼女は少し首を傾げた。さらりと髪が流れる。
 美味しそう(?)に麦酒を啜っているような姿を見つめながら、ふともうひとつの懸念に行き当たる。
「このお弁当、不味かったらどうしよう……」
 兄に作ってもらった弁当を手に、ヴェロニカは今更ながらに呟くのだった。

●宴会の終わり
 そんなヴェロニカの心配は杞憂に終わったようで、仲間達と共にきちんと平らげた。
 後に残ったのは宴会の終わりの、心地よい倦怠感だった。桜が風に乗って舞っている。
 アズやドロップがマイマイ達の頭上に花を散らしてみたり、殻の上に乗ってみたりと遊んでいた。そして此処にいたるまで、マイマイが異臭を放ってくることはなかった。
 ふとアズが顔を上げると、木の陰にこちらをみている人の姿を見た。あちらも彼女が見ていることに気付いたのか、さっと姿を隠す。恐らくは町人達だ。
 宴会のざわめきが気になったのか、こっそり遠くから見ていた者も前からいたらしい――とはレナリアの言葉だ。
 何より桜並木からイワトマイマイ達が消えていたのだから、気になって行方を追いかけてもおかしくあるまい。
 得たり、と何人かが彼らに話しかけに行く。
 それはイワトマイマイは危険な動物じゃないのだという事を教えるために。
「人が多いところが好きらしいですので」
 イブンが経緯を説明する。証拠は目の前にある光景そのものだ。
「きっとマイマイさんは寂しがり屋なのです、怖がらせなければ害はないのです、仲良くしてあげて下さいねー」
 ヒロミが明るく笑うと、町人達が安堵の表情を見せた。
 多分、もう町人もマイマイも心配はないだろう――アカリが微笑んだ。
「マイマイどの、もう寂しがることはないのじゃよ?」
 だって、もうワシらは友達なのじゃから――ギボシが殻を撫で、囁いた。
 そろそろ陽が落ちるが宴会は終わらない。
 暗くなってからいよいよ人を増やし、楽しい宴会は夜明け近くまで続いたのだった。



マスター:神崎無月 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2010/04/13
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冒険結果:成功!
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