ステータス画面

危険な冬虫夏草がいる

<オープニング>


 ジョバンニがその場所を通りかかったのは、頼まれた商品を村まで運んでいった帰りのことだった。
 近道をしようと薄暗く、じめじめした森を突っ切っていた彼は、暗い森の奥で楽しそうな少女の声を聞いた。 
「成長させるには、もっともっと、も〜っと苗床が必要ですの」
 鈴が鳴るような声の後に、オォオ! という複数の野太い声。
(「……なんだ……?」)
 この場に似つかわしくない声に、好奇心に負けたジョバンニが、そっと林立する太い木に隠れてそちらを見ると。
 そこには、斧を持ったボアヘッドが数体。
 そしてゴシックな服を着た可憐な少女の姿に、巨大なきのこの傘をかぶったピュアリィ、キノコつむりがいた。
 キノコつむりの背後には、人の大きさほどのキノコがそびえていた。それの土台には、白い菌糸に覆われて朽ちようとしている、動物や人間の死体が。
「この冬虫夏草、栄養満点間違いなしですわね」
 キノコを見上げていたキノコつむりの目が、ジョバンニを捉える。
 彼女はくすりと笑って、ボアヘッドたちに言った。
「ちょうどいいですわ。あそこにいる人も、連れてきてくださいな」


「来てくれてありがとう!」
 旅人の酒場にて。棍の群竜士・イル・ガラン(cn0112)は集まったエンドブレイカーたちに向かって、笑顔を見せた。しかしその顔をすぐに真剣なものにして、話を始める。
「村からも近い森の奥で、キノコつむりが変なキノコを育てているらしいんだ。それを見てしまった青年が、殺されるエンディングが見えた」
 じめじめと湿った森の奥で、キノコつむりは人や動物を養分に、変な冬虫夏草を育てている。すでに、何人か犠牲になっているのが悔やまれるが……。
「みんなに、このエンディングを壊してきて欲しい」
 頷いたエンドブレイカーたちに、イルは言葉を続けた。
「敵のボスは、キノコつむりのマスカレイド。少女の身体に大きなキノコの傘をかぶった姿をしてて、『スリープクラウド』や『ヒーリングサークル』の能力が使えるんだ」
 彼女は冬虫夏草を守るように後衛に位置する。その前に陣取るのが、斧を持ったボアヘッドだ。
「配下のマスカレイドはボアヘッド4体。それぞれ斧のアビリティを使えるし、体力があるから厄介かも」
 問題のジョバンニとは森の中、彼がキノコつむりに捕まった後に会うことになる。菌糸に養分を吸い取らせるために、すぐには殺さずに眠らせて苗床に加える気のようだ。
 けれど、時間をかければ彼の身がどうなるかはわからない。
「……なるべく早く、救出して欲しい」
 冬虫夏草を大切にしているので、彼らがその場から逃げることはない。
 全員を倒して欲しい。
「やつらの変な企みを、キノコごとぶっつぶしてきてくれ!」
 イルはエンドブレイカーたちに深く頭を下げた。


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参加者
杖の星霊術士・バシル(c00004)
白梟・アルヴィン(c06763)
悪食は喰らえるものを拒まず・シヴィアル(c10327)
蠱毒・カロク(c10861)
紅月蒼露・リーレン(c11134)
星舞幻奏・クレア(c12658)
夢幻繚乱・ファンラン(c18361)
黒耀・ヴルムグン(c18497)
蒼の貴姫・レノール(c21020)
流浪の紅蓮・レン(c22646)

<リプレイ>


 彼らは走っていた。
 新緑の森の中を、奥へ奥へ。
 湿度が高く、薄暗い上に太い幹が林立する森は、視界が効くとはいえない。けれども、腕や脚が枝にひっかかれようが、スピードを緩める者はいなかった。
 白梟・アルヴィン(c06763)は木々の合間に目をこらし、いち早くその巨大なキノコを視界に捉えた。
「家庭菜園が趣味ですー、なんて話なら良いけどねぇ」
 捕らえられたジョバンニと、キノコつむりを見て。
 苦笑しながら、彼はやれやれと首を振った。
「ここからは慎重に行くぞ」
 蒼の貴姫・レノール(c21020)が速度を緩める。
 森の民であり、木々の中の移動にそれなりに慣れている彼女の合図に、エンドブレイカーたちは頷いた。
 先に行って様子を覗っていた彼女の妖精が飛んできて、見てきた情報を伝える。
「敵の目的は定かではないが、とにかくまずは今回のエンディングを阻止しないとな」
 手に馴染んだ杖を撫でながら、紅月蒼露・リーレン(c11134)が呟く。
 巨大な冬虫夏草を栽培する、マスカレイド。不明な点はいくらでもあるが、ジョバンニという助けるべき相手がいる以上、早期決着しなければならないだろう。
 そして彼らは敵の本拠である、冬虫夏草のいる広場の前まで辿り着いた。
 それぞれ敵に見つからないよう、木の幹に隠れて様子を覗う。
(「あんなに巨大な冬虫夏草作ってどうするつもりやら……全く面倒なことだ」)
 流浪の紅蓮・レン(c22646)は冬虫夏草を一目見て、息をついた。
 そして、幾多の亡骸を抱えるその前で、楽しそうにしているキノコつむりとボアヘッドをフルボッコにすることが、彼女の中で決まった。腕がなる。
 黒耀・ヴルムグン(c18497)は注意深く敵を観察していた。相手がこちらに気づいている気配は、ない。
 彼は、すっと目を細めて太刀を握ると、全員を振り返った。
 まず初めに動いたのは、レノール。
「グウィネス……貫け!」
「!!?」
 瞬間的に、キノコつむりがこちらを振り返った。
 被っていた迷彩の地味なかぶり物をとって、レノールが傍らの妖精に告げる。勢いよく飛び出した妖精の弾丸は、キノコつむりの脚を打ち抜いた。
「眠ってください!」
 杖の星霊術士・バシル(c00004)が杖を振り下ろす。
 放たれた雲は超濃度で敵に襲いかかった。不意をつかれたキノコつむりは、悲鳴を上げて頭を抱えた。
「ジョバンニさんを助け出すためにも頑張らないと……ですね」
 戦場に躍り出たバシルは、冬虫夏草の苗床でぐったりしているジョバンニを見て、きゅっと唇を噛みしめた。
「さらなる犠牲を出すわけにはいきません……ここで終わらせます」
 星舞幻奏・クレア(c12658)がヒュプノスを呼び出す。薄暗い森の中、綿菓子のようにフワリと膨らんだ羊が、クレアの傍に降り立った。
「ぷぅ、行くぞ!!」
 リーレンもヒュプノスを呼び出す。
「やってしまってください!」
「やっちまえ!」
 クレアとリーレン、二人の声が森に響く。二匹の可愛らしい羊たちはその毛でキノコつむりを包み込み、弾けて飛んだ。
「お仕置きの時間よ」
 夢幻繚乱・ファンラン(c18361)が魔曲を奏でる。その狂おしく切ない曲が音の波となって敵に襲いかかった。
「くっ……ぐ、ぐ」
 キノコつむりが地面に膝をついて俯いた。


「フォゴフォゴぉオオ!!!」
 突然の襲撃に、逆上したボアヘッドが、錆び付いた斧を振り上げて突進してきた。それを見た悪食は喰らえるものを拒まず・シヴィアル(c10327)はにっと笑って、前に出るとハンマーを振り上げた。
 地面を強打したそれは大地を揺らし、発生した衝撃波にボアヘッドたちが浮き足立つ。
「冬虫夏草って、おいしいのかなぁ〜ん?」
 肉食獣のような瞳を光らせて、ハンマーを背負ったシヴィアルが舌なめずりをした。
「持ち帰って色々試してみたいのなぁ〜ん♪」
「キノコ栽培のお邪魔して、悪いね」
 素早く地面を蹴った蠱毒・カロク(c10861)が、1体のボアヘッドの前に回り込む。仕込み杖から抜き放たれた刀身は、弧を描いてすべり、ボアヘッドの身体を切り裂いた。
 剣についた血を振り払って、彼は柔らかい表情で微笑みながら構えをとる。
「はいはい、君はこっちねぇ」
 へらりと笑って、自分の前にいるボアヘッドの首を下から棍で突き上げたアルヴィンは、そのまま襟を棍の先に巻き付けて、ボアヘッドを地面に叩きつけた。
 前衛である彼らの役目は、ボスであるキノコつむりを集中攻撃する間、盾になることだ。
 ヴルムグンは、対峙するボアヘッドに超高速の剣を繰り出した。思わぬ攻撃に後ずさり、距離をとったボアヘッドを通り越して、彼の目はまだ俯いたままのキノコつむりを睨み付ける。
 ふ、と笑って。ヴルムグンは嬉しそうに言った。
「おいキノコ。こんくらいで終わるわけはないよな」
「………ふふふ」
 キノコつむりが起きあがる。
 白いレースのワンピースを泥で汚して、口を耳まで裂いた彼女は狂ったように笑い出した。
「あはははははははは! 邪魔は入るかなと思っていましたわ。でも、嬉しい。こんなに、栄養が来てくれて」
 自分の傷をみるみるうちに回復したキノコつむりは、ゆらりと一歩前に出た。
「……この冬虫夏草はなんですか?」
 通常ではありえない大きさと、その苗床を見ながら、クレアが言う。キノコつむりはそこで、裂けた口をそのままに可愛らしく首をかしげた。
「あら、簡単な話ですわ」
 彼女は愛おしそうにキノコを見上げた。
「あなたたちは植物を食べるでしょう? だから、わたくしたちも動物を食べることにしたんですの」
 なにかおかしいところがありまして? と、キノコつむり微笑む。その前を固めるように、ボアヘッドが斧を手に、立ちふさがった。
 持久戦であるならば、数に勝るこちらにとっては有利とも考えられる。けれども、すでに冬虫夏草の餌食となっているジョバンニに危険が及ぶ可能性が、高い。
 そう考えて、ファンランはロックギターを構える。
 彼女の指の動きに合わせて弦が震え、そこから美しいメロディが奏でられた。
 歌うのは、美しい調べと悲しい旋律。それに思わず耳を塞いだキノコつむりに、レンが振るった剣から炎を飛ばす。
 ボスを護ろうと突進してくるボアヘッドを、前衛が押さえている間に後衛がキノコつむりを集中的に狙った。
「あなたたち……っしつこいですわ!」


 キノコつむりが叫んで、再び回復を行う。
 そんな一進一退の攻防がどれくらい続いただろうか。タイムリミットまでの焦りと、怪我と疲労で身体が悲鳴をあげる。
 それでも、徐々に終わりは見えてきた。
「私に出来る事は限られています……今は、迷わずに行動するだけです」
 クレアのヒュプノスが大きく膨らんで、キノコつむりを閉じこめる。もうボロボロになったキノコつむりは、その衝撃で腐葉土の上を転がった。
「……っく!」
 起きあがろうとした彼女の前に、妖精が降り立つ。ふわりと笑みをこぼした妖精のダンスに、キノコつむりは金縛りにあったように動きを止めた。
「次は、お前が狩られる番だな」
 レノールが冷たく言い放った。恐怖の表情でこちらを見るキノコつむりに、レンが轟々と燃える刀剣の切っ先を向ける。
「……燃え尽きろ」
 短く、しかし圧倒的な言葉を放ち、レンは剣を振り抜く。
 吐き出された炎はキノコつむりを包み込み。彼女は大きな悲鳴を上げながら、その場に崩れ落ちた。

 それを見て、打ち合っていたボアヘッドをカロクが押し戻す。
「まだ、やるかい?」
 ボスが倒されたというのに、ボアヘッドの殺気は消えない。
 彼は手を前に出して、電光を打ち出した。至近距離から雷に打たれたボアヘッドが、うなり声を上げながらその場に倒れる。
 ほっと息を吐いた後、受けたダメージに彼は顔をしかめた。その周りに、ふわりと青い獣が踊る。
「スー、頼んだよ」
 リーレンがスピカの名を呼ぶ。それに応えるように、短く鳴き声を上げながら、スピカはくるくると仲間の間で流星の軌跡を描いた。
「さあ、もう少し」
 ファンランがその場で軽くステップを踏みながら、熱唱する。その鼓舞を促すリズムが、戦闘の間に受けた傷を癒していく。
「術式展開……ほら、支援は任せたまえ」
 レンが魔導書を開いて、笑った。
「悲しみと痛みを癒す輝きを」
 クレアもスピカを飛ばす。
「耀赫く熱は不滅の飛翔…フェニックス!」
 レノールの呼びかけに、輝く不死鳥が舞い降りる。足元にヒーリングサークルを出現させたバシルが、ボアヘッドと闘っていた4人に微笑んだ。
「有り難いな」
 ヴルムグンは頼もしい治療手たちに短く礼を言って。軽くなった身体で戦場を駆けた。
 黒いロングコートが風でひるがえる。
 残像が残るほどのスピードで移動した彼は、そのまま刀を閃かせ、ボアヘッドを切り刻んだ。ヴルムグンが剣を収めた数秒後に、傷口から血を吹き出したボアヘッドが倒れた。
「後は任せるなぁ〜ん」
 くるくると愛用のハンマーを頭の上で振り回したシヴィアルが、目の前のボアヘッドを地面に叩きつけた。地面半分まで埋まったボアヘッドは、しばらくジタバタしていたが、やがて動かなくなった。
「ブオオぉおオ!!」
「おっ……と」
 1体だけ残ったボアヘッドが、アルヴィンに向かって勢いよく斧を振り回す。避けきれず、斬られた腕を押さえながら、アルヴィンが苦笑いを浮かべた。
「力任せの攻撃は感心しないねぇ」
 短く呟いて、彼が虚空から呼び出したのは恐竜のスピリット。
 大きな咆吼を上げるその上に飛び乗って、アルヴィンがそのボアヘッドに突撃する。
 耐えきれず、突き飛ばされたボアヘッドを追いかけたスピリットが、その強力な顎でボアヘッドをかみ砕いた。
「おつかれさん」
 仕事を終えたスピリットの首をよしよしと撫でるアルヴィンを見て、一番力任せだ、と誰かが小さく呟いた。


「う、うわぁああああっ」
 目が覚めて、美女が目の前にいたのでジョバンニはびっくりして後ずさりした。
 冬虫夏草に同化しかけていたジョバンニに、頬にキスで治療をしたレノールは、冷たい氷蒼色の視線を彼になげかけた。
「我は治療しただけだ」
 なにをおおげさな、と彼女は美しい眉をしかめる。
「さて、痛いところはないかね?」
「無事でなによりだ」
 ぽん、と両肩をレンとカロクに叩かれて、ジョバンニはさらに驚いた。
 変なキノコを見て、捕まって目が覚めたら冒険者風のヒトが沢山いるのだから、混乱するのも当然だ。
 カロクは彼に、それなりに嘘と真実を混ぜ合わせて状況を説明した。もちろんマスカレイドや、その他不気味な冬虫夏草のことも、適度に伏せつつ……。
「と、いうわけ」
「へ、へぇ……そうですか! なんかどうも、ありがとうございました!」
 カロクが純朴な青年に嘘を信じ込ませることに成功していた頃、他のメンバーは、冬虫夏草の犠牲者や、キノコつむりやボアヘッドの亡骸を埋める作業を行っていた。
 地面に膝を着いて、胞子と欠片を採取していたアルヴィン。彼は容器の蓋を締めた後、改めて冬虫夏草を見上げた。
「栽培ノウハウもできてるっぽいかなぁ」
 他の畑があっても変じゃないよねぇ、と目の前に持ち上げた容器を振る。中では、冬虫夏草の欠片がコロコロと転がった。
 周りをつぶさに探索していたリーレンが帰ってくる。何か、収穫があればと思ったが、めぼしい物は見つからなかった。
「……これ、人に寄生して育った植物なんよね」
 しょんぼりと、冬虫夏草に手を当てながらシヴィアルが言う。
「その意味からも、食べるのはまずい気がしてきたのなぁ〜ん」
「まぁ、やめておいた方が賢明だな」
 しょんぼりしたシヴィアルの頭に、なぐさめるようにヴルムグンが手を置いた。
「燃やしてしまうのが、一番だと思います」
 バシルがそう提案した。
 燃え広がらないように気をつけながら、人ほどの大きさの冬虫夏草はあっという間に燃え尽きた。
「どうぞ安らかに眠ってください」
 クレアが今までの犠牲者と、キノコつむりたちに謝罪と弔いの祈りを捧げる。この周囲に類似のものがないかはチェックした。もう同じような犠牲がでないように、それだけを願いつつ……。
「無縁塚になってしまうが、安らかに眠ってくれ……」
 レンも、備えものとしてタバコを地面に差した。
 その傍らで、ファンランが鎮魂の歌を歌う。
 森の中を響き渡る透き通った声は、きっと犠牲者達を慰めてくれたことだろう。



マスター:猿渡サトル 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/06/29
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  • ハートフル1 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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