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戯曲『バルバ』

<オープニング>

●奏でる音
 下層の放棄領域。危険すぎるため放棄され、ゆえにダンジョンと化しますます危険性を増した領域付近には、実は決して少なくはない人々が身を寄せ合うようにして暮らしている。いわゆるスラムだ。危険と隣り合わせにも関わらず、生きることを諦めず、生に縋りつき、強かに……。
 そんなスラムの夜闇を裂くような悲鳴が、突如響き渡った。
「バルバだあああ!!」
 身の丈3メートルにも及ぶ大柄のバルバ。ジャガーの頭部を持つそれは、ジャグランツと呼ばれている。
 逃げ惑う人々を下卑た笑みで追い、三日月形の剣を振るう。脚をもつれさせた老人の首がごとりと転がった。夜の中で鮮血はどす黒い血溜りとなり、染みのように広がっていく。五を超え十も超えようかというバルバは決壊した堰から溢れる水が如く、スラムへと溢れ出す。逃げ惑う人々の中、悠然と歩いてきた一際体格の良いジャグランツは、絶望の表情のまま事切れた頭部を邪魔だと蹴り上げた。跳ねた頭部は崩れた建物の影に飛び込み──
「ひっ!」
 小さく息を飲んだ声を、ジャグランツは聞き逃さなかった。崩れかけた壁は蹴り上げればいとも簡単に崩れ、潜んでいた女性は身を隠す場所を奪われた。恐怖ゆえに立ち上がることすらできぬ女の姿に獲物としての価値など見出さなかったのだろう、退屈そうにサーベルを掲げるジャグランツ。女性にできたことは、唯一。
「や、いや……いやああああああ!!!」
 悲鳴を上げることだけ。それが、更なる悲劇を招くとは思いもせずに。
 つんざくような悲鳴は、ジャグランツは頬を歪めた。腕を削ぎ、腹を浅く割き、眼窩を抉り、その悲鳴が溢れなくなるまで弄び。
 にたり。
 仮面に隠れぬ口元に楽しげな笑みを浮かべて、異形のバルバは次の楽器を探し始めた。
 率いる者に感化され、ジャグランツの群れは甲高い音を奏でていく……邪魔立てする男共など、無造作に切り捨てて。
 
●袖幕
 エンドブレイカーたちを前にした剣の城塞騎士・フローラ(cn0008)の表情は険しい。
「太刀の魔法剣士・レイ(c02945)さん、ハルバードの城塞騎士・エルンスト(c03127)さん、大剣のデモニスタ・イトカ(c03441)さん、大剣の城塞騎士・クロミア(c04585)さんたちが憂慮していた事態が起こってしまったようなのです」
 忌避すべきエンディングを見たのはフローラだけではない。ここアクスヘイムの下層、ダンジョンと化した廃墟周辺のスラム地域を悲劇の舞台とし、ジャグランツマスカレイドに率いられたジャグランツの群れが襲撃事件を多発させるエンディング──見たエンディングによって襲撃が行われる場所や時間は異なるのだが。
「皆さんにならご理解いただけると思いますが、できる限り被害を減らす必要があります」
 そう告げるとフローラは垣間見たエンディングを語り始めた。
「ジャグランツの群れは、夜、スラムの一角に現れます。その数は12、いえ、リーダーのジャグランツマスカレイドを含めれば13体。とても多いわ」
 身の丈3メートルに及ぶジャグランツは、その体格に見合うだけの戦闘力を有した強力なバルバ。スラムの男性陣は棒切れを武器に共闘してくれるだろうが、バルバの群れを蹴散らせるほどの戦力にはなるまい。対するバルバの扱う武器は色々と確認されているが、今回襲撃してくるバルバは主に三日月形の剣、サーベルを所持している。
「サーベルだけではありません。群れのバルバのうち3体は弓を所持しています」
 距離を取ったとしても安全とは言い切れない、ということか。エンドブレイカーたちは互いに顔を見合わせた。フローラの表情が険しい理由は、被害の大きさばかりではなかったのだろう。
「リーダーのマスカレイドを倒せば、ジャグランツは戦意を喪失して逃げだすはずよ。その辺りも踏まえると、倒す順番が戦局を大きく動かすことは間違いないでしょうね」
 今からでは、どれだけ急いでも数名の犠牲は免れない。事実を告げる城塞騎士は、胸を抑え、切なげに柳眉を寄せる。しかし、いつまでもそうしてはいられない。きっと唇を結ぶと姿勢を正し、凛と一同を見据えた。
「ジャグランツの目的は解りませんが、女性の悲鳴を楽しんでいることだけは事実です。目に触れた女性は、命が果てるまで悲鳴を奏でる楽器とされてしまう……お願いします。この戯曲を、終焉を、打ち壊してきてください」


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参加者
爪の魔獣戦士・フク(c01617)
ハルバードの城塞騎士・メイフェリア(c01621)
剣の城塞騎士・アセリナ(c01898)
太刀の群竜士・ソウガ(c02044)
エアシューズの群竜士・ナギ(c02610)
大鎌の魔獣戦士・オルカ(c04237)
剣の魔法剣士・キサラ(c05188)
アイスレイピアの魔法剣士・デディリア(c05291)

<リプレイ>

●第一幕『暴徒』
 薄暗い放棄地域周辺に満ちる埃の臭い、血の臭い。静寂を許さぬ怒号と悲鳴。
「ぐあああああ!」
 棒切れを振り上げ果敢にジャグランツへと挑む壮年の青年、二人の男。壮年の身体に深紅の亀裂が生まれた。背後に庇われていた、どこか壮年の男と面立ちの似た少女は目を見開き、口を開いて──背後から、その口を塞がれた。
「静かに。もう少しだけ我慢して黙って……」
 悲鳴を塞がれ動転した少女の耳に、剣の魔法剣士・キサラ(c05188)が囁く。その左右をアイスレイピアの魔法剣士・デディリア(c05291)とハルバードの城塞騎士・メイフェリア(c01621)がすり抜けたのと、口を塞いだのがバルバではないと少女が理解したのは、ほぼ同時。
 ギィン!
 金属がぶつかり合う鈍い音を耳に残しながら幼さを色濃く残したメイフェリアのハルバードがサーベルの攻撃を弾き、がら空きになった胴を薙ぎながらデディリアが駆け抜ける。唐突に傷を負ったバルバは突然の闖入者を睨めつけた。視線など物ともせず、剣の城塞騎士・アセリナ(c01898)も横薙ぎに切りつける!
「くそ、バルバめ!!」
 形勢は逆転した。後に続けとばかりに棒切れを振り上げる青年の腕は、しかし後方にぐいと力強く引かれた。
「なっ!?」
「大きな声は出さないで、他のバルバが気付きます。出来る限りのことをしますから、だから、終わるまでは悲しむより目の前の事です」
「無理に戦おうとせず生きる事を優先して下さい。あちらの方も今ならまだ助かる」
 攻撃を阻止した爪の魔獣戦士・フク(c01617)が冷静に言葉を投げかけ、太刀の群竜士・ソウガ(c02044)が忠告を発した。なおも攻撃を諦めようとしない青年へ、僅かに遅れた大鎌の魔獣戦士・オルカ(c04237)が低く告げる。
「生き抜いてこそ見える明日も在る。任せよ、主の想いは必ずや奴らの命にとどかせよう」
 素顔を隠す男の異様な迫力に気おされて青年は頷いた。確かに壮年の男は手当てをすれば助かる傷、ここは戦慣れした増援たちに任せるべきだと、幾分冷静になった青年は壮年の男に腕を貸した。
「ボク達が来た方は安全だよ! バルバはボク達が相手をするから慌てずに避難してね!」
「このバルバたちは女性の悲鳴に執着してるんだ。女性は声を出したらいけない。守って!」
 メイフェリアとキサラの指示に少女は何度も頷いた。
「途中で誰かに会ったら、女の子は叫んだらダメだよって忠告してあげてねぇ」
 裾を翻し、空に優雅な弧を描いたエアシューズの群竜士・ナギ(c02610)はウィンクひとつ。3人の姿が見えなくなって程なく、バルバは地に伏した。悪趣味が過ぎると震えを殺して吐き棄てたデディリアに1つ頷いてアセリナは剣を収めたが、住人の多さに瞳を翳らせた。
「こうも放棄領域に人が住んでるなんて……」
「しかも、襲撃されてるのにかなり残ってるよねぇ」
「バルバの数も多いですから、逃げ損ねている方も多いのかもしれませんね」
「ふむ、何故バルバはスラムを襲うのか? ……理由がわかれば対処もできるのかもしれませんが」
 ナギの言葉に憂いを浮かべたキサラへソウガは冷静にそう返したのだが、考えたところで理由は解らない。つまり、彼等に今できることをすることこそが最善であり、一人でも多くを助ける結果を導くことになる。表情を隠したフクも、そう信じて……怪我人を住民へと託したのだ。気持ちを押し込めるようにゴーグルを掛け直し、仲間を振り返った。
「まだ倒したバルバはたったの2体よ。行きましょう」

●第二幕『齟齬』
 住民へ避難を促しながら更に放棄地域に近付いていく。そんな彼らは一塊となって動くと認識していたが、おびき寄せる為に前面に進んだ者や若干の距離を置き追随する者と、気付けば長く間延びした陣形になっていた。
 メイフェリアはまだ幼い面立ちに若干の不安を滲ませ隣を行くアセリナを振り仰ぐ。
「ねぇ、アセリナ。このままだと側面からの攻撃に対応できないよね?」
「ええ、私もそんな気がしてきたところです」
 同じ懸念を抱いたのだろうか、振り返るとナギとフクの表情にも懸念が見て取れた。彼女達の考えることは同じ。
 姿が見えぬ敵を誘き寄せるよう、デディリアもキサラも共に甲高い悲鳴を上げた!
「「「きゃぁぁぁぁっ!」」」
「皆ー、バルバが来たんだよー! 逃げて〜!」
 そして誘われたバルバが3体……先行する女性ばかりが目に付いたのだろう、狩猟動物の顔を愉しげに歪め血塗れのサーベルを見せ付けるように掲げた。紅が、照明を受けて妖しく照り輝く。
「マスカレイドではありませんね」
 アセリナの見る限り仮面をつけた者はいない。ならばいつまでも足止めを喰らうわけにはいかない。鳥類の脚で瓦礫を踏みしめ距離を詰めてくるバルバ。それはエンドブレイカーたちの望む展開。
 舞う剣の中、太刀を佩いたソウガは身体を低くし、重心を傾けるように加速する。
「けれど、仲間を呼ばれても面倒ですからね」
 抜刀した太刀を薙ぎ勢いを削がずに袈裟懸けに切り伏せる。しかし長身のバルバの喉笛は狙うには遠く、一刀で仕留めるには強靭すぎた。困ったように肩を竦め、円舞のようにするりと間合いを抜ける。
「ふむ……やはり一筋縄ではいきませんね」
 そう一人ごちるソウガは、けれど余裕を失わない。負けるなど微塵も考えていないかのように。或いは、その余裕こそ彼の自信の表れなのだろう。余裕に触発されるように、後方でナギが優雅に舞う。翻る裾から時折り覗く脚は鋭い衝撃波を放ち、優美な動きからは想像もつかぬ一撃と化してバルバを襲う。オルカの黒き旋風とキサラの残像は隣に立つバルバをも巻き込んでいく。フクがジャグランツの背に飛び乗って鋭い爪を奮えば、傷口から徐々に毒々しい紫へと変色してゆく。集中攻撃は功を奏し、狙われたバルバは膝を折る。しかし、しぶとく振るった一撃でメイフェリアの脚を斬る!
「……っ、こんな一撃に負けないよ!」
 砕かれたかの如き衝撃に脚が痺れ、いつもの動きは望めそうもないが──メイフェリアは身の丈よりも大きなハルバードを振り回し、急所を串刺した! 滴るジャグランツの血が、柄を伝い、メイフェリアの手を濡らす。
「貴様の好きにはさせない!」
 振るったレイピアは運良くバルバの腕を貫いた! 冷気で腕の自由が阻害されるのを確認し、デディリアは視線を走らせる。残る1体は集中砲火を浴び始め──望んでいた状況だと、視線を受けてフクが頷き。
「「きゃぁぁぁぁぁっ!」」
 絹を裂くような悲鳴が、怒号を切り裂き戦場へ広がった!!
 驚いたキサラとアセリナ、2人の剣先がほんの僅か、揺れる──悲鳴を上げるのは周囲にバルバが居ない時だけではなかったのか。各々の認識の違いは僅かなもの。しかし、バルバをおびき寄せることを主軸として立てられた作戦ゆえに、根幹を揺るがす差だった。
「後方、弓持ちがいます。ご注意を」
 喧騒故に風切り音に気付くのが遅れた。辛うじて直撃を免れたソウガが声を張る。言葉どおり、弓を持つバルバと、サーベルを持つバルバが愉悦に表情を歪めながら駆け込んで──オルカとソウガが迎え撃つ!
 挟撃される可能性は考えていたし、だからこそデディリアは自身の立ち位置に気をつけてもいた。けれど、基本陣形の統一を図らず訪れたため各々が思い描く陣形に齟齬があるようだ。陣形にしろ、悲鳴にしろ、それぞれの齟齬はとても小さなものだったかもしれない。けれど、重なれば作戦に綻びが生じるのも当然。そして戦闘に長けたジャグランツは、齟齬を理解するだけの知能はなくとも、察知し隙に付け入るに足る戦闘的な感覚を有している。
「ガアアアアアアア!!」
 高らかにジャグランツが吼えた。愉悦の表情は、求める楽器が多く在るがゆえ。
 ──臍を噛んだのは誰だったか。
 攻撃を凌ぐことで手一杯の一同にとって不幸なことに、咆哮に招かれたジャグランツが2体、前方に姿を現した。小さな幸運は、弓持つジャグランツの隣に立つバルバが仮面を被っていること──リーダーでマスカレイド、標的が姿を現したこと。
 けれど、前方にサーベル持ちが2体とマスカレイド。弓持ちは前後に1体ずつ、後方にもサーベル持ちが1体。状況は、限りなく、悪い。

●第三幕『憤激』
「流石に、大きいですね」
 一際体格の良いリーダーへ呆れたように呟くソウガだが、その服の下では背筋を冷たい汗が滑り落ちていた。1体ずつ狙う戦法が有効だったとはいえ、度重なる戦闘で疲弊している事実は否めない。無傷の者など、新手の増援だけなのだ。そして、戦ってきた今だからこそ、6体のジャグランツという脅威は嫌が応にも圧し掛かる。
 しかし、震える声でメイフェリアが呟いた。
「こんなの、全然たいしたことないよ」
 その表情は笑顔。強がっているのが解る表情だったが──笑顔は勇気を湧出させた。まだ負けない、大丈夫。握り締めた小さな拳は輝く大きな拳となって兇刃に晒されたデディリアを癒す。
「ボクたちはこのエンディングを壊しに来たんだからねぇ〜」
 ナギの舞は爛漫の花吹雪を巻き起こしてアセリナとオルカを撫ぜてゆく。
 姿勢を変えず移動するソウガの太刀が帯びる赤き滑りはバルバのものか自身のものかの判別も難いが、確かな手応えと共に弓持つバルバへと新たなる真紅を生む。それを見たオルカは魔獣化させた腕で、バルバを刻んでゆく──!
「主ら自身が甘露な調べとなれば良かろうに。奏でさせはしないがの」
 しかと、喉笛を掻き斬る事も忘れず。事切れるのを確認し、フードの陰で次の獲物を探るオルカの双眸は、前方3体を一手に引き受けたアセリナが盾に身を隠しつつ渾身の力を込めた一撃で瀕死のバルバを仕留める姿を捉えた。次いで、アイスレイピアと雷光がマスカレイドを襲った。
「剣と魔法の二重奏♪ どう? この旋律、いいと思わない?」
 にこり笑んだキサラは、表情を歪めた。近接していたバルバの曲刀が傷だらけの身体を貫いていた。ぐるりと、体内でサーベルが回される。誰の耳からも、戦場の喧騒が……刹那、消えた。
「──!!」
 堪らず崩れたキサラが悲鳴を発さなかったのは、マスカレイドへの意地。鼻白んだバルバは崩れた身体を蹴り、音色の良い楽器を物色する。そして獲物に選ばれてしまったのは、
「キサラ!」
 広がる血溜まりに驚き思わず名を呼んだ、気の弱いデディリア。弓使いが放った一撃が身体を貫き……癒されたばかりの身体を奏でるように、黒銀の軌跡が乱舞する。目を見開いて、魔法剣士は膝をついた。
「悲鳴を聞きたいなら聞かせてあげるよ、自分の悲鳴をね」
 倒れた仲間を守るためにも。悲しみを隠したフクの腕はこれでもかと引き裂いて。大鎌と太刀が加われば、弓使いに自由など殆ど残されていない。数度弓を引き絞ったバルバが力尽きた時。
 どさ……。
 もう1つ、倒れる音が重なった。メイフェリアやナギの回復も、攻撃を一点に集中されれば追いつかない。混沌は根から絶たねばならんが、今は全力で枝葉を薙ぎ払う──そう決めたからこそ仲間の背を守るため防御に徹し、ナギと入れ替わりながら複数のジャグランツを抑え続けていたアセリナが押し切られたのも道理。むしろ、今まで抑えていたのだ、メイフェリアやナギとの連携を褒めるべきだろう。
 止めを刺そうと血塗れのサーベルを振り上げたマスカレイドへ、幾筋もの赤い筋を刻んだ円みを帯びた肢体が抱きついた。ナギだ。
「それだけは、させないんだよ〜!」
 巨体の首は脚を絡めるには遠すぎたが、些細な事。重心をずらし、力任せに叩き付ける!!
「諦めないで! マスカレイドを倒そう!」
 ハルバードを振り回し、幼い檄が飛ぶ。残るはサーベル持ちが2体とマスカレイド。攻撃を集中すれば押し切れる!
「さて、続けていきますよ」
 芯に衝撃を与え中から揺さぶる方が効果的かと攻撃方法を切り替え、言葉どおり、正拳突きから肘打ちへ流麗に繋いだソウガの構えに隙はない。意識がソウガに向けば、死角から魔獣と化したオルカの腕が痛烈な攻撃を加えていく。小さく柔かそうな少女は似合わぬ得物を振り回して串刺しにせんと捻り突いてくる。
 手下の攻撃は確かに小さくはない打撃を与えているはずなのに、回復は後回しで攻撃を繰り返す相手に、今さら身の危険を感じたのだろう。遠方から駆け寄る増援を待たず、吼えた!!
「ガアアアアア!!」
「かはっ!」
 そして力強く振るったサーベルがフクを切り裂いた! サーベルがなぞった軌跡を熱い衝撃が追う。鮮血を吐き崩れかけたフクは、けれど倒れず立ち上がった!
「人語を理解してるなら、言うことはひとつ」
 狂戦士へと覚醒する血は、オルカをも呼び覚ました。倒れた仲間達に血生臭いスラム、立ち上る火の手。幸せの欠片すら存在しない、このままの終焉など認めない──その思いを籠めた最後の攻撃が、
「うせろ!」
 フクの言葉を合図に一斉にマスカレイドを襲った。
「冥府への駄賃じゃ、愉しんだ分、苦しみもがいて逝け」
 オルカの言葉は、微動だにせぬ骸と化したマスカレイドへと届いたのだろうか……。

●終幕
「皆〜、お疲れ様だよぅ。大変だったけど撃退できてよかったんだよぅ」
 デディリアに水を手渡しながら、ナギは精一杯の笑顔を仲間へと振り撒いた。満身創痍とはまさにこのことだろう。
 住人たちの避難を多少なりとも行えたことは、戦場に住人の介入を防ぐという点で大きな意味があった。守りながら戦うことになっていたらと思うとゾッとする。
「あぅあぅ、被害少しでも抑えられたかなぁ」
「ま、こんなものでしょう」
 帽子を直しながらソウガは変わらぬ微笑みで頷いた。
 リーダーが倒れた後の群れはあっというまに瓦解した。戦意を喪失し敗走を始めるジャグランツを追い傷ついたままの身体で走った彼は、確かに全てのジャグランツが逃亡したことを確認した。
「例え1体でもスラムに残ってしまっては、戦渦が収まろうともまた新たなる被害者が生まれてしまいますからね」
 手当てを受けていたキサラも、知人の憂いを少しでも晴らせただろうかと、穏やかな笑みを浮かべた。
 癒しを与えるには自身の疲弊が大きいが、メイフェリアも傷を洗い布を巻き、仲間のみならずスラムの住民たちへも、精一杯の治療を施していく。失われた命もあったが……甲斐甲斐しく立ち回る幼い姿に、希望を抱いたように瞳に輝きを取り戻していた。
 崩れた建物、周囲に満ちる血臭、バルバの死体もそのまま放置はしておきたくない。事後処理も手伝えることは山のようにあるだろうけれど……。
「とりあえず、一休みしたいです」
 日の出までまだ時間を残す深夜、ソウガの言葉に異論を唱える者は誰一人として存在しなかった。
「あ」
 その夜闇の中、決して爽やかではない風に、踏まれず残った白い花が揺れていた。
 平和の言葉を与えられた白い花が。



マスター:柚科梁 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/04/16
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  • カッコいい13 
冒険結果:成功!
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