ステータス画面

常闇ロマネスク

<オープニング>

「あー、飲みすぎたぜ……」
 とある酒場から出てきた男。酒をどのくらい飲んだだろう。ズキンと鈍い痛みが頭を襲い、眉間に皺を寄せる。額を押さえながらふらふらと覚束無い足取りで、十数分歩くと共同墓地の横を通る事になる薄暗い路地裏を歩いている。暗くなってからこの路地裏を通る者は滅多に居ない。薄暗さと共同墓地の存在が薄気味悪さを醸し出しているからだろう。
 突然、人の気配を感じた。自分以外の足音など聞こえなかったのに……。男は気配のする方へ視線を向けた。すると、小さな子供が2人とその傍に女が佇んでいる姿が在った。
「ひゅー。いい身体してんじゃねぇか。良けりゃ、俺と一杯どう?」
 深くスリットが入った黒のロングドレスを纏う女は出る所は出、締まる所は締まっているとても魅力的な体付きをしている。女の姿に男は頭の鈍痛の事などすっかり忘れていた。男の視界に入るのは女の身体だけ。男の表情はだらしなく緩み、足元から舐めるようにゆっくりと女を見ながら本音と一緒に誘いの言葉を向ける。
『この子達の……パパ』
「いや、流石に出会ってすぐにパパは……ッ!」
 言葉に男は顔を上げると、女を見た。生きていたら綺麗だったであろう面影を残しているが、瞳孔が開き、青白い肌に扱けた頬と死した者の顔をしていた。男は腰を抜かし、地面にへたり込んだ。低くなった男の視界に映ったのは子供の姿。その子供は身体の一部が腐敗し、所々骨が見える状態だった。
 子供達と女は微笑みを浮かべ、一歩、一歩と男に向かい近付いてくる。
「こ、こっちに来るな! う、うわああああ!!」
 男は恐怖に怯え、情けない声を上げながら這うように後ずさると、死に物狂いで逃げて行く。
 男が逃げると、女と子供達は闇に溶け入るようにその場から去っていった。――腐敗した残り香を残して。

「男の人はどうしてこうなのかしら」
 どこか呆れた様子で口を開いたのは剣の城塞騎士・フローラだった。そんなフローラに、集まってきたエンドブレイカー達の視線が集中する。
「はっ、私ったら、御免なさい。……とある歓楽街近辺にある路地裏を通りかかった男性が襲われたみたいよ」
 向けられた視線に気付いたフローラは小さく咳払いをして仕切り直した。フローラはエンドブレイカー達の顔を一人一人見つめながら、真剣に語り始める。
「幸い、怪我は無かったわ。襲われた男性が、この出来事を後日訪れた酒場で話すのだけど、信じる人は居なかったみたい。でも、男性は『すげぇ良い身体した女が居たから声を掛けたんだ。そしたら、この子達のパパがどうのって言うから顔を見たら、どう見ても死人の顔してたんだよ。あ、それと骨見えてる子供が2人だから全部で3人。ありゃ動く死体だ』なんて言っていて……話が具体的だわ」
 フローラは2人、3人と人数を指で示す動作をしながら説明する。
「私は男性が酒の肴に嘘を話しているとは思わないわ。それと、ただのゾンビの類では無いと思うの。言葉を発している事と、3人揃って現れたみたいだから少なからず知性がある。アンデッドマスカレイドだと思うわ。倒してきてくれないかしら。この男性は無事だったけれど、次に彼女達と遭遇してしまった人は……襲われ、殺されてしまうわ」
 双眸を伏せ、穏やかな口調でフローラは言う。言い終えると、ゆっくりと目を開き、澄んだ青い瞳でエンドブレイカー達を見つめた。
 路地裏に男性が一人で歩いていると、女達はどこからともなく姿を現したと言う。今の所、この男性以外の人は遭遇していないらしい。だからこそ、早急の対処が必要だ。男性の話を信じる人が多ければ、怖がり、路地裏へ近付く者は居ないだろう。だが、生憎、男性の話を信じる者は誰一人居ない。
「アンデッドマスカレイド達を倒したら、近くの酒場でお酒を楽しめる事が出来るみたいよ。男性が『俺の話が本当だって言ってくれたら、酒でも何でも奢る!』なんて言ってるみたいだから、お言葉に甘えるのもいいと思うわ」
 お酒などの飲食が楽しめるのは、入り口に赤い大判の布が括りつけられた歓楽街にある一軒の酒場だ。
 歓楽街へ向かうのは夜がいいだろう。勿論、20歳未満の人はお酒を飲む事が出来ない。その代わり果実の飲物や店主の料理が迎えてくれるはずだ。
「くれぐれも、お酒の席では羽目を外しすぎないようにね。良識の範囲で楽しんでくればいいと思うわ。楽しみが待っているけれど、アンデッドマスカレイド達を倒す事が疎かにならないようにね」
 目の前に居るエンドブレイカー達を見回しながら、フローラは優しい微笑みを浮かべた。


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参加者
爪の群竜士・アリア(c00724)
アックスソードの群竜士・アニカ(c01042)
暗殺シューズの群竜士・セレス(c01242)
剣の魔獣戦士・アスラ(c02268)
鞭のデモニスタ・マキヤ(c04166)
扇の魔曲使い・アアク(c04512)
太刀の魔法剣士・エリオス(c07140)
ハルバードの魔獣戦士・ヤミー(c07173)

<リプレイ>

●常闇での逢瀬
 仄かに光が入り込む程度の薄暗い路地裏にエンドブレイカー達がたどり着いた。
 歓楽街から少し逸れただけにも関わらず、とても静かな場所だった。
 マスカレイドを誘き出すため、囮の役目を担った剣の魔獣戦士・アスラ(c02268)が奥へ奥へと夜道を歩いて行く。
「親子でああなっちまったって事は、何か居た堪れない事情でもあるんだろう。分からんが」
 手にしたランプの灯りで周囲を照らしながら呟いたアスラは更に進む。
 路地裏の様子を確認出来る場所で、囮以外のエンドブレイカー達が都市の人間が訪れないようにと見張りながら待機している。
 爪の群竜士・アリア(c00724)はびくびくとしながら薄暗い周辺を澄んだ青の瞳で見ていた。アリアの手は自然と隣に居たアックスソードの群竜士・アニカ(c01042)の服の裾を摘んでいた。
 アニカはマスカレイドの出現を待つ間、起伏が無く平坦な心持で煙草を吸っていた。紫煙を吐き出すと、空いた手でアリアの肩を優しく宥めるようにポンポンと叩いた。
(「んな〜……やらなきゃいけないのは判るんだけど、お父さんを探して徘徊してる様な相手はやり難いんだよ〜」)
 死人が出る前にと思えば戦えるけど、と路地裏の様子を確認しながら難しそうな顔で心の中で呟いているのは暗殺シューズの群竜士・セレス(c01242)だった。
 大きな青の瞳を瞬かせつつ、合図が見えない可能性も考えてしっかりと聞き耳を立てている。
 ハルバードの魔獣戦士・ヤミー(c07173)は意識を集中させ気配を探っていた。
「被害者が子の骨まで見えたってんだから、視界が効く事を期待してぇですぜ」
 眼を夜目に慣らしておこうと緑に染まる双眸を瞬きながら路地裏を見据えている。
 各々の想いを胸に待機している仲間達に背を預けるように歩み続けるアスラ。
 すると視線の先に3つの影が現れた。
『パパ……』
 か細い声で告げられた言葉。アスラは目を細め、3つの影を見た。視界に入るのは聞いていたものと同じ姿形をした女性と小さな子供の二人だった。
「現れたぜ。ちゃんと合図、気付いてくれよ」
 アスラは用意していた布でランプを覆い、灯りを消した。
 それがマスカレイド出現の合図だった。
「合図だよっ!」
 合図に気付いたセレスが声を上げる。
 セレスは手にしていたランプをもう一度しっかりと握り直した。
 それと同時に待機していたエンドブレイカー達が、アスラと現れた親子達の元へ駆け出した。

●欲するは縋る場所
『あなたが……パパ』
 アスラと対峙した女性が仮面ごしに言うと、ゆっくりと歩み寄り腕を伸ばす。
「親子の魂が囚われ続けちまうんでね……土に還って貰おうか」
 目の前の女性の体には目もくれず、アスラは仮面を見据えてそう告げた。
 伸びてくる女性の腕。アスラは剣を構え一閃すると纏うドレスと共に胴が横に切り裂かれた。
 その瞬間、女性の傍に居た2人の子供達がはしゃぎながら路地裏を駆け回り始める。
「さあ、始めようか……」
 太刀の魔法剣士・エリオス(c07140)は待機していた場所で軽く後ろを振り返り、自分達以外の誰かの姿が無い事を確認すると子供の所へと駆け出す。
 同じく子供を抑える役を担う扇の魔曲使い・アアク(c04512)が全力で走り戦場にやってきた。
 ヤミーと共に2人の子供の内の男の子の位置を確認した鞭のデモニスタ・マキヤ(c04166)は咥えていた煙草の火を消した。
「俺もねぇ、同じ歳くらいの息子がおるんですわぁ」
 男の子の姿を見るなりマキヤは複雑そうな表情を浮かべる。
 だが、敵は敵、手にした鞭をしっかりと握り構えた。
 そんなエンドブレイカー達を子供達は気に留める事無く、路地裏を縦横無尽に駆けていた。

 一撃を受けた女性は後退し、路地裏に落ちている割れた酒瓶を掴むと狙いを定めている。
 セレスは手にしたランプを道の端に光源になるように置いた。
「さっさと女を倒しきらないとねぇ」
 二人の子供を任せるため、その負担を考えたアニカが女性を見据えながら呟く。アニカの手にはアックスソードが握り締められていた。
「にゃはは〜、ボクから行くよ♪」
 地面を蹴り、飛び上がったセレスは1回転し、身に纏う服がバサバサと音を立たせる。そのまま回し蹴りをすると、左足から衝撃波を女性に向けて放つ。
『お前じゃない……!』
 衝撃波を体に受けた女性がその箇所を押さえながらセレスを睨みつける。
 それと同時に女性に向けて金の髪を靡かせながらアリアが特攻してきた。
「死してもなお、夫を、父を求めてさ迷う。深い愛情があったのでしょう」
 待機していた時とは違うアリアの姿がそこにはあった。
 凛々しさが感じられるアリアは慈悲に満ちた言葉を女性に向ける。
 纏うスリットが入った服をひらひらと揺れ動かしながら、アリアが竜を帯びた拳を正拳で女性に向けて突き放った。
「死んでとり憑かれてってのは不憫なもんだが。きっちり葬ってやらなきゃねぇ」
 アニカが手にした斧と剣が組み合わされた刃が縦に振り落とされる。
 切り裂かれた女性は反撃の余地も与えられず、見る見る内に消耗していく。それでも鋭い爪を振りかざし攻撃を仕掛けて来た。
『誰でもいい、子供に、父親を』
「あなたの考えは間違いだから」
 アリアを見据えて静かにそう告げると、4人全員で連携を取った攻撃が炸裂する。
「ごめんね、諦めて…なんて言いたくないけど、せめて良い夢を見てね」
 小さな呻き声と共に道に倒れこむ女性。
 女性の顔を覆っていた仮面が消え、そこに残った女性の亡骸に向けてセレスが告げた。

●純真無垢な心
 薄明かりで照らされる路地裏。
 路地裏に響くのは小さな足音。そして、鬼ごっこをするかのように駆け回る二つの影。
『パパとあそぶ!』
『パパとママ、なかよし!』
 きゃっきゃと笑う声は母親と共に居た子供達のものだった。
 右手に太刀、左手に鞘を持ったエリオスが女の子を見据える。
「何か訳ありな感じだが、災いの種なら消えてもらうしかないな」
 地面を蹴り上げたエリオスは女の子に向かって行く。走り抜け様に水平に刃が走り、女の子の胴が斬り付けられ、足の動きを止めた。
「こんな所迷ってないで墓場でおとなしくしときや」
 声の主はアアク。女の子から少し離れた位置に居るアアクからさざ波が押し寄せる、女の子は逃れようと駆け出すが、水流に押し流された。
『……水!』
「水だけじゃないよ」
 押し流された先に立っていたのは武器を構えたアニカの姿。
 母親を倒し、駆けつけたアニカの刃が女の子の体を十字に切り裂いた。
「よっしゃ、このまま行こか!」
「そうだな」
 女の子の注意を引き付けたエリオスと、波を再び招いたアアクが連携を取り合い女の子を仕留めた。二人の攻撃により小さな女の子の体が宙に一瞬浮き、地に落ちた。
 エリオスは静かに太刀を鞘へと納めたのだった。
 時を同じくして、女の子とは反対に向かって駆けているのは男の子。
 地面に鞭を打ち付けたマキヤが男の子の前に立ち塞がる。
『パパ……?』
 男の子は問い掛けるように呟いた。マキヤはその言葉に首を左右に振る。
「お前さんの相手はあたしですぜ」
 男の子の意識を自分へと向けさせようと、駆けつけたヤミーが愛用の重量級ハルバードを見事に使いこなし男の子の体を串刺しにした。
 男の子の体が大きく揺らぐ。すると男の子は口を大きく開き、目の前にあるマキヤの足に噛み付いた。
「悪い子やねぇ? 人を噛んだらアカンって、お母さんに教えてもらわへんかったん?」
 足に鈍く重苦しい痛みが走るが、その痛みを堪えながら男の子に語りかける。
「マキヤの旦那、大丈夫ですかい?」
 ヤミーは疾風の如き速さで男の子の急所を突き引き離そうと試みる。
 大丈夫と言うように片手を上げたマキヤが体勢を整えるために後退した。
「終わりにしましょか」
 マキヤの拳から禍々しい黒い炎が放たれ、男の子の体を包み込む。黒炎を纏った男の子を早い速度で踏み込んだヤミーのハルバードが突き刺さった。
 ヤミーは幼子に攻撃することに良心に責めさいなまれながら、倒れて行く男の子の姿を見ていた。
 黒炎が消え、二度と駆ける事の無い男の子。
 騒がしかった路地裏が、再び静寂に包み込まれた。 

●真実の招宴
 戦闘を終え、マキヤが煙草に火をつけた。細く紫煙を吐き出すと横たわる親子に視線を向ける。
「側にいぃひん男は忘れて、親子で静かに眠りやぁ……」
 そう声を掛けたマキヤはもう一度煙草を咥えた。
 歓楽街に向かうと赤い大判の布が括りつけられた酒場を見つける事が出来た。
 酒場に入ると、アスラが店主に女と子供の話を切り出す。その言葉に相槌を打つ仲間達。
 被害にあった男性から話を聞いてた店主は『ガッハッハ。本当だったのか、それじゃこっちに来な』と豪快に笑いながら一行を一つの席に案内した。
「仕事の達成と、なにより、今回のこの皆との出会いにカンパーイ!……なんてな」
 エリオスの音頭で乾杯。勢いで音頭を取ってしまったエリオスは、言い終えた後に苦笑いを浮かべた。グラスを掲げ、グラス同士を軽く触れ合わせると各々飲み始める。
 テーブルには様々な料理と酒、果実の飲物が並ぶ。
「いい仕事だったな」
 酒場にある小さな舞台へ上がったアアクは一人漫談を披露し、酒場が笑いに包まれた事に満足した様子で皆の元へ戻ってきた。
「甘くて美味しいのです♪」
 アリアは甘い果実の飲物が入ったグラスを両手で可愛らしく持ち、微笑んでいる。アリアの目の前にはフルーツの盛り合わせもあり、瞳を輝かせ嬉しそうにしていた。
「おじさ〜ん! ボク、ホットミルクに砂糖とアーモンドエッセンス入れた奴〜」
 肉料理に舌鼓を打っていたセレスが、口に含んでいた料理をごくんと飲むと片手をひらひらと振って店主に合図を送りながら注文した。
 椅子に座っているセレスは料理を堪能しながら足を振りながら終始ご機嫌だった。

「その日暮らしの俺にゃタダ飯タダ酒にありつけるってのは有り難いな」
 騒ぐまではいかなくとも、アスラはその場の雰囲気を楽しみながら料理と酒を堪能している。
 マキヤは煙草を片手に酒を適当に頼み、腹八分目程度に飲んでいた。
「すいませーん、お茶おかわり」
 店主の方を見て注文を終えたエリオスは、仲間にお酌したり料理を取り分けたりと動いていた。
「ヤミーも飲むか?」
「実を言うと酒は呑めねぇんですがね」
 あまり減っていないグラス。ヤミーは折角だからとエリオスに酒を少しだけ注いで貰うと、ちびりと舐めるように飲む。
「まあ、この安寧なひと時にあたしも拠り所を求めてんでしょうなぁ」
 笑い声と笑顔が絶えない仲間の様子を見たヤミーはそう言って笑顔を浮かべた。
「よっしゃ、この喝采を待ってたんや!」
 いつの間にかアアクが再び舞台に立っていた。お客さんに好評だったらしく、アアクは盛り上がりながら一人漫談を披露し続けていた。
 アニカは背凭れに身を預け、脚を組みながら仲間の会話に耳を傾け蒸留酒をチビチビと自分が好むペースで嗜んでいる。
「不憫な親子に弔い酒って事でもないが」
 あの世へ、来世へ、その旅路の幸運を祈って――。
 静かに双眸を伏せたアニカは、そう心の中で呟いた。



マスター:星影しずく 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/03/05
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  • ハートフル2 
  • せつない27 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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