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『黒鳥』コゼットの挑戦:『ビジョンズ』フェスタ/マウソレウム

<オープニング>

●ビジョンズ
 突然、空間が割れた。
 水瓶に住まうという水神を祀る、アクエリオ水神祭。その只中に突如として現れた、板切れに乗って水面を進むバルバの群れ、そして黒い装束に身を包んだゴンドラ乗り。
 平和な祝祭は、血涙の悲劇へと変わる。
 『黒鳥』コゼットの軍勢は、水神祭を謳歌していた住民達を飲み込んでいく――。

●エンドブレイカーたち 1
 それが起こるのはアクエリオ水神祭の日です、と彩紡ぎの狩猟者・リディア(cn0039)は言って、集まったエンドブレイカー達を見回した。
 にわかには信じがたい話だった。水神祭の会場に発生した空間の裂け目から、コゼットの大勢力が現れるなどということは。だが、彼らは既に、それが示す意味を知っている。
 ――空虚なアガルタ・クロノ(c15837)が見た、『怪盗』の能力。
 なるほど、神出鬼没の振る舞いを可能にした『怪盗』ならば、大軍を瞬時に送り込むことが出来ても不思議ではない。
「でも、希望は有るんです。巨大な裂け目、その向こう側に見えた風景が」
 それは、代々の『アクエリオの星』、つまりこれまでのゴンドラレース優勝者が眠る霊廟だった。湖の中央の小島に建てられた、美しい城のような墓所。だが今は、コゼットの手勢によって改装が施され、堅い城砦と化している。
「コゼットは、この霊廟に残存戦力を集めました。そして、空間の裂け目が現れると同時に、その全てを水神祭に送り込もうとしています」
 ならば話は早い。先にゴンドラで小島に乗りつけ、準備を整えようとしている敵を奇襲してしまえばいいのだ。その理解に至ったエンドブレイカー達に、リディアも頷きを返す。
「アントマン塚の戦いで、コゼットは配下の多くと、集積していたゴンドラの木を失いました。だから、彼女にとっては、これが最後の賭けなのかもしれません」
 誰かが息を呑む音がする。予想されるのは、死に物狂いの強烈な抵抗。それでも、エンドブレイカーたちが力を合わせれば、必ず勝機があるはずだ。
「はい、ですから――壊しましょう、この悲劇の終焉を」

●エンドブレイカーたち 2
「湖の霊廟に集結していると見られるマスカレイドは、大きく分けて三種類です」
 一つ、バグラバグラやアントマンといった、バルバのマスカレイド。
 二つ、黒いゴンドラ乗りのマスカレイド。
 そして三つ、彼らに命を奪われたゴンドラ乗りや、霊廟に眠っていた『アクエリオの星』達がアンデッド化したマスカレイドだ。
「主力は霊廟の中で突入の時に備えています。けれど、島の周囲には、波乗りの練習をしているバルバや、ゴンドラの調整をしているマスカレイドもいるようです。まずは、これらを逃さないようにしないといけませんね」
 その先に進めば、臨戦態勢の多数のマスカレイドとの激戦が待っているのは疑う余地がない。そして、強化された城門をこじ開けて侵入しても、複雑な造りの廟の構造は、エンドブレイカー達に気の休まる時間を与えまい。
「『黒鳥』コゼットは、霊廟の最奥にある、歴代の『アクエリオの星』達が眠る聖域に居ると思われます。そこまで、どれだけのチームが辿り着けるかはわかりませんけれど――」
 これは、有力な上位マスカレイドであるコゼットを討つ、またとない機会。彼女の逃走を防ぎ、討ち取ってアクエリオの闇の一端を払う、千載一遇の機会なのだ。
「もちろん、コゼットの襲撃が成功すれば、お祭どころではありません。だから、勝ちましょう。勝って、水神祭を楽しみましょうね」
 一礼して、リディアはエンドブレイカー達を送り出し――彼らが去って、はじめて彼女は不安げな顔を見せる。
 勇気ある仲間達が勝利を掴むように。そして、誰一人欠けずに無事に帰ってくるように。どれだけ祈っても、十分だなんて思えなかったから。


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参加者
藍棘・フィル(c00044)
黒炎使い・ナナイン(c00084)
陥穽の錬金術師・フェーラァ(c00764)
蒼のカプリス・アイザック(c01072)
那由他刀・ルーン(c01799)
幸運の旋律・リーリア(c02014)
耀変天目の空・アルシュ(c03069)
盈月の咆哮・ゼルアーク(c03348)
オーバーオーバードライヴ・キューブ(c04912)
秘めたる闘争心・エイニス(c10373)

<リプレイ>


 本来なら静謐な空気に満たされているこの巨大なる白亜の墓所に、今は血の匂いと戦いの咆哮が色濃く満ちている。
「消耗は避けるに限るが、そうも言ってはいられんか」
 鮮やかに燃える髪。それよりもなお昏い炎を纏う剣を握り、黒炎使い・ナナイン(c00084)は一人ごちた。
 周囲に倒れているのは、黒いゴンドラ乗りの衣装を着た男達。出会い頭の乱戦、先頭を進んでいた彼も、少なからぬ傷を負っている。
「ゆっくり出来れば良いんだがなぁ」
 ボサボサの髪を一つ掻き、のっそりと歩み寄る蒼のカプリス・アイザック(c01072)。ここは敵地、完全に力を抜いて休息することは出来ない。けれど、草原を、海原を思い念じれば、迷宮の深部でも癒しの風が巻き起こり、ナナインを包む。微かに混じる煙草の匂いは、ご愛嬌というところか。
(「この霊廟にどんな秘密があるかは知らねぇが」)
 大切な仲間達、そして胸に焼き付いて彼を放さない、人懐っこい笑顔のために。眼前の屍は彼の心をかき乱すけれど、あくまでも飄々とした態度を保ったまま。
 枝分かれを幾度通過しただろう。コゼット達によって複雑に造り変えられた通路。一緒に進んでいた他班が別の道に姿を消し、いつしか彼らは十人だけで先へ進んでいた。
 向かう先は、アクエリオの星の寝所――棺が並ぶ玄室。
「俺達は俺達の役目を果たす――それが一番の貢献になるはずだ」
 そう決然として語る盈月の咆哮・ゼルアーク(c03348)に、彼らは一斉に頷く。『黒鳥』に放つ必殺の矢、ぎりぎりまで戦力を温存して進む仲間達のため、一行は戦いを避けない胆を固めていた。

「ここまで小娘臭が漂っている相手も珍しいですわね……」
 どうしてこうなったのかしら、と陥穽の錬金術師・フェーラァ(c00764)は溜息をつく。彼女はコゼットに会ったことがある訳ではない。だが、伝え聞く話だけでも判ることがある。
(「守ってあげたいとでも言うのかしらね……」)
 視線を向けた先は、彼女の前を歩く姉貴分。秘めたる闘争心・エイニス(c10373)を遥か高いところから見下ろしながら、こっちはそんなに可愛らしくはありませんけれど、とまた溜息。
「何か言いましたか?」
「いいえ、何でもありませんわ」
 おそるべき直感で振り向いたエイニスをしれっとかわすフェーラァ。それを目にして幸運の旋律・リーリア(c02014)はくすくすと笑う。
「でも、楽しみにしているお祭りを邪魔するなんて許せないですー」
 水着もちゃんと準備してるんですよー。今度はぷくぅと膨れてみせるリーリア。その表情の切り替えの早さに、一行の雰囲気が僅かに和らいだ。
「そのためにも、気を引き締めて進まないといけませんね」
 宥めるのは旧知の那由他刀・ルーン(c01799)。子供をあやすように、ぽんぽんと頭を叩き――けれど、リーリアの実力をこの場の誰よりも知る彼だから、その目には強い信頼が宿る。

「ここが……」
 照明は灯されていたものの、ほの暗く見通しが悪い。藍棘・フィル(c00044)が掲げたランタンが、階段を下った先に広がる玄室を照らした。
 歴代のアクエリオの星が眠る、ここは霊廟の最奥。途中で別れた他のチームもほぼ同時に辿り着いたか、足音がばたばたと鳴る。
 その時、彼らの視線が同じ方向を向いた。がら、と軽い音。ゴンドラ乗りの骸骨を先頭にしたアンデッドの一群が現れ、先行した友軍に襲い掛かったのだ。
「今助けるっ……」
「待って!」
 逸る仲間達を抑えたのは、油断なく周囲を警戒していたフィル。
「何か来る。人の足音じゃない……!」
 硬質の声が焦りを含む。そして皆にも聞こえる、リズミカルな音。まるで、何かが駆けて来るような――。

「オオォォォォォォ!」

 突然奥から躍り出た『それ』は、強く床を蹴って飛び上がり、棺の上に佇立した。
 彼らの前に現れたのは、豪奢な紫の髪を振り乱した美女。だが、半ばを仮面に隠したその目は、狂気に囚われたかのように見開かれ――。
「なんてことを……!」
 そして何よりも、その下半身は断ち切られ、獅子らしき獣の胴と繋ぎ合わされていたのだ。表情を殺しながらも、おぞましい光景に呻くエイニス。
 彼らは知らない。目の前に居るのは、かつてその美貌を『麗しの』と称えられながらも早世した、アクエリオの星の一人――セラフィーネ。
 それでも。
「星を……」
 ぎり、と歯噛みする。耀変天目の空・アルシュ(c03069)は理解していた。この玄室に現れるゴンドラ乗りのアンデッド、それが何を意味するのか。
「眠ってる星を、起こすんじゃねぇよ……!」
 始まろうとする第二の戦い。アルシュと、友軍の只中で棍を振るう銀髪の少年の視線が瞬時絡まった。抑えた表情に秘めた決意に、彼は頷きを返す。
「そちらは任せるぞ」
 ゼルアークの低い声が、騒然とする玄室を圧した。――ならば、これが互いの役目だ。
「やぁやぁはじめましてお嬢様!」
 その時、後方から歩み出た男が奇矯な大声を上げる。ジャン、とギターの音。
「楽しいお祭に乗り込んでお祭り騒ぎの大暴れ。そんなお約束の展開などぶっ潰す、無粋なエンドブレイカーめでございます!」
 オーバーオーバードライヴ・キューブ(c04912)、集まる視線を意にも介さない彼は、両手を広げ恍惚とした表情で言い放つ。
「さあ皆さん、ショウタイムの始まりでこざいますよぉ!」


「援護は頼みましたよ!」
 キューブの開幕宣言と同時に飛び出した緋色の髪。背丈に倍するエイニスの剛剣が、半人半獣の美女へと振るわれる。手応えある一閃。アズライトの煌きが描いた紫の半円が、一瞬遅れて炎の刃となり、セラフィーネを襲う。
「さて、敵の足止めを……って!」
 慌ててマキビシを捲くフェーラァ。これはセラフィーネを狙ったものではなく、どこからか現れ、エイニスの後ろに忍び寄っていた数体の骸骨を牽制するためのものだ。
「護衛まで……! エイニスさん、突っ込むのが早すぎですわよ!?」
 先んじて仕掛けたトラバサミが骸骨の足に喰らいつく。冷や汗を流すフェーラァに、姉貴分は涼しい顔で言ってのける。
「今日はあなたがいますからね」
 ぐ、と言葉に詰まる妹分。その脇の空間を、突然雨霰の光線が埋め尽くす。たちまち骸骨の群れに降り注ぐ熱量。違う意味で噴き出す冷たいもの。おそるおそる振り返ったフェーラァが見たのは、無表情に正面を睨み据える、翼を広げたナナインの姿だった。
「死してなお使役されるのは辛いだろう。――焼き尽くしてやるさ」

 吸殻は吐き捨てた。目が、僅かに細められる。
「ああ、本当に仮面付きのやる事なんざ、碌な結果にならねぇな」
 相手が何であれ、手にかけた命の重みを知るアイザックだからこそ判る。この女にせよ、取り巻きの骸骨にせよ、死してなお誰かに弄ばれた被害者だ。
「これ以上、命で遊ばせたりしない。終わらせてやるさ」
 立て続けに放ったエナジーの矢が骸骨に降り注ぎ、傷ついていたその多くを容赦なく打ち砕く。
「行くぞアリオン、お前の力を見せてみろ」
 現れた軍馬、気高きパートナーにひらりと跨り、ゼルアークは手綱を引いた。応じて嘶き一つ、アリオンと呼ばれた星霊は半獣の美女へと駆ける。
 抜き放つ大剣の重みを通して伝わる、この場にはいない相棒、空を舞う銀色の鳥の存在。それは何より力強い守護となってゼルアークを奮わせる。
(「悪しき目論見は砕いてやる――歪んだ仮面と同じ様にな 」)
 飛び掛って蹴り一つ。だがセラフィーネも黙ってはいない。その髪と同じ、美しい絹張りの紫。扇をばさりと舞わせれば、鎌颶の如く渦巻く旋風が彼女を包み、その愛馬ごとゼルアークを叩き落す。
「やめろよ、あんた……!」
 さらに追撃の様子を見せた彼女に、天頂からアルシュが迫る。錐揉みをするように回転。両腕に煌く星が、帰りを待つ女達の思いを乗せ、彼に力を与える。
「アクエリオの星に会いたかったんだ、俺は――」
 痛烈なる一突き。けれど、ペリドットの瞳はどこか哀しげで。
「――会えば判るって思ってた」
 愛する人達の、あの輝きの意味が。

「さぁお望み通り、頭から尻尾の先まで、真っ黒焦げにして差し上げましょうぜぇええ!」
 キューブが釣瓶撃つ闘気の弾丸。その一つが眩く弾け、骸骨の空ろな眼窩をも引き付ける。その隙を逃さず、青薔薇を銜えた白い翼がはためいた。
「あっちは十分かしらね」
 いや、翼と見えたのは、フィルの纏う羽根のコート。透き通った刃を幾重にも閃かせ、氷の薔薇を描く。その勢いに抗しきれず、崩れ落ちる骸骨。セラフィーネを十分に足止めできていると、彼女は僅かの間に見て取っていた。
「それじゃ、ルーンさん、行きますよー」
 リーリアが助走し、高く飛び上がる。手にした大盾の輝きは夜空の星のように静かで――けれど流星のように、それは地上へと降り注ぐ。
「潰れちゃってくださいー」
 大盾が骸骨を頭から押し潰す。押さえつけられ、身動きの取れないアンデッドに止めを刺すべく迫るのは、彼女がその名を呼ばわったルーン。
「悪しき輩よ、変幻自在の我が太刀を受け、その錆となれ」
 縞の波紋をその身に映す刃は、おそるべきしなやかさをもって地を這うように敵を凪ぐ。脚を断ち切られ、また一体が動きを止めた。
 艶やかな桜と淡い虹をはためかせ、二人は残る骸骨へと向かっていく。全ての骸骨が動きを止めるまで、さしたる間も要らないに違いない。


 天を仰いでも目に入るのは視界を塗りつぶす天井だけ。星の寝所ならせめて瑠璃の空を見せるべきだ――そんなことが、戦いの最中に頭をよぎる。
「けれど、俺には星が見えるんだ」
 迫る半獣を反射的に殴りつけるアルシュ。握り締めるは太陽と星。くるり回したトンファーが、鮮やかな輝きをその面に描く盾となる。
「オォォ、グアァァァァァ!」
 その美しい半身にすら、人の心は宿らない。セラフィーネが力任せに投げつけた扇が、強かにフィルを打つ。
「つっ……!」
「下がってな、フィルちゃん」
 こういうのは三十路以上に任せるもんだ、と軽口を叩くアイザック。だが、その目は笑っていない。危険は十分すぎるほど判っている。
「馬鹿にしないで。戦場に立つ以上、私も戦士よ」
 だから、思いがけずフィルが放った硬質の声に、彼は片方の眉を上げた。一歩も退かず氷の剣を構える蒼薔薇の少女。喚ばれた氷嵐が、たちまちのうちに周囲を凍りつかせていく。
「落とし前くらい自分でつけるわ。……私の所為で誰かが倒れるなんて、嫌だ」
 瞬間、アイザックの背筋が震えた。そうだ、遥かなる故郷では、このくらいの少女とて、誇り高きハンターではなかったか――。
「……おじさんも耄碌したかねぇ」
 ふっと笑って、無造作に矢を放つ。言葉とは裏腹のエネルギッシュな生気を込めた一矢が、セラフィーネの左目を迷いなく射抜いた。

 猛る半人半獣のマスカレイドは、雨霰と注がれる攻撃をものともせずに扇を振るい、エンドブレイカー達を薙ぎ倒す。だが、彼らもまた怯むことはない。
「黒炎使いが命じる」
 この美しくおぞましいアンデッドに、ナナインはただ一言で運命を与えた。すなわち、燃えろ、と。
 掌から溢れ出る異界の炎。紫にあるいは黒く染まり、それは触れるもの全てを飲み込んでセラフィーネを包んだ。グォォォ、と獣の声が響き渡る。
「――その終焉ごと消し炭だ!」
 業炎の火柱が敵を呑む。後には、あちこち焼け焦げた身体を晒す半獣の女。
「右側に寄せてくださいませ……そう、そこです!」
 猛攻をかける姉貴分へとフェーラァが叫ぶ。飛びすさるエイニス、追うセラフィーネ。獅子の四足が並ぶ棺の間を走り抜けようとしたとき、異変は起こった。
「ひっかかりましたわね!」
 牙を剥く鉄鋏。そこは彼女が十重二十重に罠を仕掛けた死地、連鎖的に発動し喰らいつくトラップが、獣の脚をずたずたに引き裂く。
「やるじゃないですか、フェーラァさん」
 逆襲に転じるエイニス。その頬には獣の血で彩った戦化粧。祖霊宿る大剣を全身を使って振りかぶり、身体ごと叩きつける。
「さあ、一気に燃やし尽くしますよ!」
 渾身の一撃。炎に包まれた刃が肉を裂く。一瞬遅れ、傷口から噴き出した業火が火柱となってセラフィーネを包んだ。

「素晴らしいですねぇ! 澄ましたお人形よりよっぽど美しいですよぉ!」
 眼鏡に映る炎が瞳を隠す。傷つき焼け爛れた上半身を晒すセラフィーネを称えるキューブは、半ば本心であるようにも見えて。
「それでは心ばかりのご歓待、どうぞお楽しみくださいませぇ!」
 手甲に開いた穴から迸る竜の息吹。催涙弾混ざりの火炎球が次々と吐き出され、凄まじい臭いを立てて彼女の肉を焼く。
 長い戦いの末、形勢ははっきりとエンドブレイカー達に傾いていた。傷と火傷だらけとなり、それでも彼女は止まらない。
「気は抜かん。油断は簡単に足元を掬う――戦いは此処からだ」
 穿ち貫く大槍と、月の光のように凛と輝く大剣。二振りの得物を構え、黒い狼は戦場を駆ける。纏う炎。ゼルアークの襟元に刺さる真鍮の獅子が、照らされて赤く輝く。
「焼き尽くす。全てだ」
 轟、と振り切った斬撃。紅蓮の焔が舞う。そして、響く獣の悲鳴。だが、セラフィーネの絶叫は、切なる歌声に覆い隠されていく。
(「みんなで水神祭を楽しむんですよー。だから」)
 こんなところで負けてなんていられないのですー。リーリアが手にするは幸運の銘の竪琴、ならばそこから奏でられる音色もまた、祝祭を招くもの。
 頭につけた狐耳を揺らしながら、一心に彼女は歌う。その歌声は、アンデッドと化したアクエリオの星すら闘志を奪われ――。
「氣は十分に練れた。これで止めだ」
 棍の間合いへと下がったルーン。勢いをつけて低く掃った一撃が、獅子の前脚を叩き折る。
「人々の楽しみを、笑顔を奪うことなど許さん!」
 続けて縦に跳ね上げた一撃が、セラフィーネの胴を抉る。それが、決定的な一撃となった。小さく声をあげ、半人半獣の暴威が崩れ落ちる。砕け散る、仮面。
 そして。

「……そう、やっと……」

 獣の咆哮とは違う、理性ある声だった。駆け寄ってくるエンドブレイカー達を弱々しく見つめるのは、美しい黒曜の瞳。その姿に、彼らは一つの言葉を思い出す。
 ――拒絶体。
 無理やりに蘇らされ、マスカレイドへと堕とされたアクエリオの星。真にこの都市を愛した彼女らだからこそ、不条理に抗う気持ちを少しでも残せたのだろう。
「……皆の希望になるなら、腐らない身体で保存されてもよかったわ。けど、こんなおぞましい姿になって生き続けるなんて、御免よ」
 ありがとう。これでやっと、また眠れるわ……。
 二十の瞳に見守られ、セラフィーネは瞼を閉じた。アクエリオをお願いね、と掠れた吐息で残して。
「……星、か」
 ぽつり呟くアルシュ。しばらく目を伏せていた彼の視線が、きっ、と前を向いた。
「行こうぜ、まだ戦っている連中もいるだろうしな」



マスター:弓月可染 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/08/07
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  • 泣ける3 
  • カッコいい5 
  • せつない19 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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