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『黒鳥』コゼットの挑戦:湖上タレイア

<オープニング>

●そのエンディング
 アクエリオ水神祭当日――人々が集い賑わう会場に、突如巨大な空間の裂け目が現れ、水路に乗り上げる波乗りバルバや黒いゴンドラ乗りの軍勢。
 そのようなエンディングを見たのだと、葬唄の城塞騎士・ヘーゼル(cn0021)は告げる。
「この空間の裂け目とは、空虚なアガルタ・クロノ(c15837)から報告のあった『怪盗』の能力であろうな」
 幸いというべきだろうか――その空間の裂け目は巨大であったがゆえに、エンディングに『やってくる向こう側の風景』を見る事ができた。
 つまり敵が空間の裂け目から水神祭会場する前、準備の為に集結している所をゴンドラで奇襲して、彼らの目論見を叩き潰す――其れが今回の作戦である、と。

 彼らが集結している場所は、代々の『アクエリオの星』が眠ると言われる霊廟。この霊廟は、湖の中央にある島に作られており、美しい城のような外観をしている。『黒鳥』勢力はこの霊廟を改装して城砦化しており、『空間の避け目』が現れると共に残る全戦力を投入して水神祭に乗り込もうとしている。
 アントマン塚の戦いで多くの配下マスカレイドと集積していたゴンドラの木の全てを失った『黒鳥』コゼットにとって、この作戦は最後の賭け。
 彼女にはもう後がないため、恐らく死にものぐるいで迎撃してくる――激しい戦いとなるだろうが、多くのエンドブレイカー達が協力して戦えば、勝機は充分にある。
 この大きな悲劇の終焉をなんとしても破壊する事。それがエンドブレイカーの務めである。

●湖の霊廟
 『黒鳥』コゼットの最後の拠点――湖の霊廟に集結するマスカレイドは、バグラバグラやアントマンらバルバのマスカレイド、黒いゴンドラ乗りのマスカレイド達、そして彼らが殺害したゴンドラ乗りや霊廟に眠っていたゴンドラ乗りがアンデッド化したものと思われる、アンデッドマスカレイド達だ。
 決戦前ということで、主力部隊は霊廟の中に集まっているようだが、湖の島の周囲には波乗りの練習をするマスカレイドバルバや、ゴンドラの調整をするマスカレイドが数十体残っている。まずはこのマスカレイド達を制圧する必要があるだろう。
 そして、島の上にある霊廟は城砦化されている為、攻め込むには城門をこじあけなければならない。
 内部の様子までは良くわからないが、決戦直前である事から、多数のマスカレイド達が臨戦態勢で待機しているのは間違い無い。その中に突入して城門を開けるというのは、並大抵では無いだろう。
 また、霊廟内部の構造は複雑になっているらしく、霊廟に入った後の戦いでも気を抜くことは出来ない。
 『黒鳥』コゼットは、霊廟の最奥にある歴代のアクエリオの星達が眠る聖域に居ると見られているが――状況が不利になれば逃走を図る可能性もあるので、逃さないような工夫が必要かもしれない。
 この戦いはアクエリオでも指折りの力を持つという上位のマスカレイド、『黒鳥』コゼットを討ち取る千載一遇のチャンス。
 彼女を討つ事で、アクエリオに広がるマスカレイドの闇の一端が払われる事を期待する。

「アクエリオ水神祭の安寧と平穏の為にも――確りと片付けてこい。お前達の無事と、武運を祈っている」
 エンドブレイカーを一瞥すると、その一言をもって、ヘーゼルは彼らを送り出した。


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参加者
黒騎士・メリーヌ(c00153)
遊悠月・ルゥ(c00315)
駆け出し鍛工・ナッツ(c00948)
宵咲花・クオリス(c01208)
奏燿花・ルィン(c01263)
韻律の継承詩・ルセラ(c02718)
藤弦の楽師・シリル(c03560)
夜藍・ビョルン(c05208)
砂海を渡る風・ルーイッヒ(c10234)
彩風輪舞・フェルネス(c16239)

<リプレイ>

●序
 もしこの状況を鳥瞰できるならば、マスカレイドとエンドブレイカーが織りなす大きな渦が三つ見えただろう。
 霊廟のいくつにも分岐した深層のひとつに潜り込んだ彼ら、最初に突撃した部隊が破壊した大きなうねりを、次の部隊がくっきりと仕切った。其処に更に別の部隊が流れ込み、幾つかの戦場が織りなす壁の隙間を真っ先に夜藍・ビョルン(c05208)が駆け抜けた。

「この手でブン殴ってやりてえとこだが、そっちは任したぜ」

「任せるっす!」
 既に戦いの最中から聞こえた声に、駆け出し鍛工・ナッツ(c00948)が力強く応じた。目配せするでもない、擦れ違い様のやりとり。それに鼓舞されながら、進路を導くように軌跡を描く黒髪を追いかける。
 前行く彼が隣に並んだ彼をちらりと横目で確認すると、もうひとつの誓いを立てる。
「ま、精々倒れないように気をつけようぜ。倒れても前のめりな」
「おっす!」
 活き活きとした青い瞳は既に獲物を捉え、戦場の狭間をただ駆け抜ける。その道の先で待つ者は――。
 前置きなく鯉口を切り、躊躇いなくビョルンは躍りかかった。黒鞘から放たれた白刃は雷光を纏い、薄暗い霊廟に輝く。彼にやや遅れるように調整し、ナッツがアックスソードを横薙ぎに振りかぶる。
 ひとつめの斬撃は其れの腕に当たって硬質な音を立てたが、刃が纏う雷撃を打ち消しても尚、傷一つ無く。
 ふたつめの薙ぐ一撃は其れの無防備な腹を捉えたが、纏う鎧に綻び一つ与えない。
 襲撃者に向けられた大剣の強大さに今更驚くことはない。其れが柄を握り直し力任せに振り下ろした瞬間、炎が噴き上がる。その熱は触れずとも痛みを感じる程――二人が炎を纏わぬよう転がりながら飛び退くのと入れ替わりに、奏燿花・ルィン(c01263)の右の掌と其れとを雷撃が結ぶ。
「よぅ、御相手してくれや」
 攻撃の機を逸した其れと視線を交わし、ルィンがにっと笑みを浮かべた。サンダーボルトは既に振り払われたが籠手纏う手を下げず、そのまま牽制を続ける。
「信じているけど……あんまり無茶をしないように」
 二人の傷の具合をざっと見た砂海を渡る風・ルーイッヒ(c10234)が軽く注意を促す。応と答えるも恐らく無意識に笑みを浮かべているビョルンの意識は既に其れに向かっており、ナッツも憤然と構え直す。
「さあ、開演だ!」
 朗々と唄い、韻律の継承詩・ルセラ(c02718)が其れの傍まで一気に駆ける。分割したソードハープの竪琴部分を抱え、其れの耳元に歌いかける。
 ふ、と不可解な笑みを其れは零した。
「笑止……コゼット様の歌に勝るものなど無いわ!」
 かっと目を見開き、其れは大剣を横薙ぎにルセラを追いやる。藤の装飾が美しい竪琴を構えた藤弦の楽師・シリル(c03560)は穏やかながら苦笑を浮かべた。
 改めて認識する――部下は全て他の部隊と戦闘中で、孤立させられた状態でありながら、この空間の最奥に堂々と構える金髪碧眼の偉丈夫。
 其れは身の丈ほどもある大剣を構え、鎧を身につけた姿を丸ごと鋼鉄に変じ、あらゆる攻撃に耐えた。それは今の一撃だけを受けての効果ではない。其れは既にエンドブレイカーの一部隊を退け乍ら、その疲労も傷も微塵も感じさせぬ――親衛隊長・シャルル。
「黒騎士メリーヌ・ベケット、推して参りますっ!」
 高らかに名乗りを上げた黒騎士・メリーヌ(c00153)が、騎士の幻影とともに構えた。
 彼女が名乗ったからであろうか、其れは不敵な表情でエンドブレイカー達に向けて大剣を振り上げ応える。
「我が名はシャルル。コゼット様に忠義と愛を捧げる者! コゼット様のため、貴様等には此処で死んで貰う!」
「悪いけど、死んでやるわけにはいかない」
 いらえを求める言葉でないと知りつつ、決心を言葉に載せ遊悠月・ルゥ(c00315)はシャルルへと炎を放つ。火の飛礫を正面に受けようと、其れは燃える事も焦げる事もなく、ただ悠然と構え――力を溜めているように見えた。
「ミール、力を貸してください」
 宵咲花・クオリス(c01208)は妖精を両手で送り出す。軽やかに空を舞う妖精の影で、完成した紋章が突風を叩きつける。
 其れは魅了されることも、揺らぐこともなく、不敵に笑う。
 少し嬉しそうに彩風輪舞・フェルネス(c16239)は微笑んだ。華麗なる勝利に花を添える強者は、こうでなければ。
「美しい仮面ですね。ですが……その仮面、此処で砕かせて頂きます!」

●親衛隊長シャルル
 其れの名は本人が名乗ったとおりシャルルといい、一介のゴンドラ乗りであった頃から、やはり一介のゴンドラ乗りであったコゼットを応援していた。ゆえに、彼女に対する愛情は並ならぬ。それが親衛隊長である所以。
「そういや、獣王って知ってるか?」
 剣戟のやりとりに混ぜたルィンの問い掛けに、
「知るか! 我はコゼット様しか目に映らぬ!」
 あまりにも堂々と言い切られてしまったので、シリルは秘めていた質問を諦める――投げかけても良かったが、真っ当な答えは期待できそうにもなく、またその判断は正しかった。彼は口を開けばコゼットを褒め称え、愛を吐き出す。愛しているのは結構なことではあるが、正直なところ彼らは既に辟易していた。
 短い気合いと共に、メリーヌが騎士の幻影を纏って太刀を振るう。しかし幻影の拳も斬撃も、シャルルの身体に如何ほどの傷を残すこともなかった。
 声を掛け合ってナッツとルセラが左右に分かれた。その背後にそれぞれビョルンとルィンがついて、更にクオリス、ルゥが仕掛けようとタイミングを計る。
 ラピスラズリの彫刻が美しいソードハープを手に歌うルーイッヒに合わせて、女王騎士の紋章を描ききったフェルネスが風槍を放つ。其れがそちらに意識を向けたタイミングでナッツがまず距離を詰め、アックスソードを唸らせる。その背後からルセラが歌い、頭上には鋭い雷撃が走る。
 ルィンのサンダーボルトに合わせ跳躍したビョルンが垂直に太刀を振り下ろす。
 だが、やや首を逸らし避けられる。真っ直ぐ落ちた太刀筋はそれでも彼の首に叩きつけられたが、血が流れる事はなかった。シャルルは鋼鉄の肉体を盲信しており、守りを考える事もなくエンドブレイカー達を遊ばせていた。
 至近距離でみたシャルルの余裕に満ちた表情にビョルンは不機嫌を隠さぬも、ルゥのファイアーボールが着弾する前にシャルル自身を蹴りつけるようにして離れる。
 ずっと大剣を振り上げ上段に構えていた其れは此処で動いた。動作は非常にゆったりと見えたが、それは誤りで、次の瞬間には振り下ろされている、怖ろしい速度の斬撃だった。
「いけません!」
 シリルが思わず声をあげるが、間に合わない。
 ブォン、彼らが耳にした音は鋭い音の塊。重い壁が急に迫り出し、全身を撲ったかのような衝撃がクオリスとフェルネスを襲った。壁のように感じたそれは解け、激しい突風となって二人を蹂躙する。
 崩れ落ちた二人は膝をついて堪えたが、霊廟の冷たい床に広がる鮮血は止められない。
「これが我が愛!」
 愛剣を大きく振るい構え直し、其れは笑った。その様に滲む余裕はどうだ。
「てめぇ」
「回復は俺が。攻撃の手を休めるな!」
 低く唸ったのはルィンだったか。ルーイッヒの珍しい叱咤に「わかってる」と頷くとすかさず右手にカードを作り出し、投げつける。爆ぜたカードはやはりシャルルに碌なダメージを与えたように見えなかったが、仲間を鼓舞する力は問題無く発動する。
 歌い始めたルーイッヒに二人を任せ、メリーヌが庇うように立ち敵を睨め付け、言い放つ。
「負けません……絶対に」

●報われる事なき愛
 刻まれる剣戟の重さに腕全体に痺れを感じる。武器を取り落とさぬよう確りと握り込め、ナッツは歯を食いしばる。
(「まだまだ未熟ですけど、おいらだって……皆さんを守りたい」)
「辛そうだな、引いたらどうだ?」
「いいえ、おいらが相手っす!」
 力の強さは兎も角、隠しきれぬ少年の幼さを嗤ったシャルルに、ナッツは食い下がる。その赤い髪と同じ色で全身を染めていようとも、攻撃の手は止めず、攻め続ける。そんな彼を守るように、美しくも荒々しい音色が力持ち嵐となり吹きつける。
「風巻け……藤嵐」
 シリルの柔らかなアルトが不穏な歌を奏でる傍で、少し音色の異なる爪弾きと低く力強い歌声が重なり膝をつくメリーヌを鼓舞する。ルーイッヒの祈りを込めた歌声に答え立ち上がった彼女の傍で、ルィンが何かを叫ぶ。
 広がった炎を赤い飛沫を散らしながらひとりの男が斬り裂いて、倒れかけたナッツを支える。
「前のめりにって言っただろっ!」
 苛立ち混じりに叫んで雷光の一撃を一合結ぶと、彼は大剣の鋒を掠めるように躱す。前に伸ばした腕にシルバーコヨーテが食らいつき、
「今の内に!」
 短い指示はルゥからクオリスへ。ミール、お願いします、祈りの言葉に応じて輝く妖精は少年の周りに光る円を描いた。
「貴方たちだけには……絶対、負けません」
 舞い落ちる光を確認してクオリスは強い視線でシャルルを見つめる。
 その鎧にうっすらと皸が走っているという事に気付いていた者はいなかった。エンドブレイカー達には戦場を冷静に窺う余裕を――そう見えていたとしても――失っており、己の力を盲信するシャルルには些細な綻びの自覚などできるはずもない。
 落ちた帽子の埃を丁寧に払い、フェルネスはそれを被り直す。戦闘で乱れた衣類も同じく、可能な限り整え直し、真っ直ぐに銀のサーベルをシャルルへと向ける。その姿は凛然と、しかし穏やかな動作であくまで優雅に。
「窮した時こそ、華やかに参りましょう」
「同意する……暑苦しい親衛隊長殿には、そろそろご退場願おうか!」
 ルセラと二人、剣を構えて床を蹴る。
 軽やかなステップを刻むように、二つの掛ける音が響き、左右から強烈な剣戟が鋼鉄の肌を撲つ。深くなった皸に漸く気付いたルィンが「畳みかけろ」と叫び、彼もまた雷撃で穿つべく右手を伸ばす。
 二人を乱暴に振り払った大剣の下に踏み込んだのはメリーヌ。シャルルが放った炎の巻き添えを食らいながらも、月をなぞるように刃を構える。
「私の太刀が、必ず道を切り拓いてみせるっ!」
 放たれた彼女一撃は鎧に深い傷を与え――そこから一気に皸が全身に広がった。
 毀れたのは鋼鉄の肉体ばかりではない。鎧の隙間から、落ちた小さなお守り。コゼットの横顔、コゼットの笑顔、コゼットの操舵姿――を描いた絵の数々。
「ああああ、我が愛が!」
 叫んで必死に逃さぬよう手を伸ばした彼に、メリーヌの容赦ない二撃目が打ち込まれ、それが腹部を貫き男は崩れ落ちる。
 追撃にルゥの炎が彼を包んだ。彼が守りたかったものも含めて炎は高く霊廟を照らす。低い唸るような悲鳴が響いた。

 燃えながら蹲る巨大な人影に終わった、と誰もが思った――しかし。
「コゼット様ぁぁああっ」
 男は叫ぶと立ち上がり、がむしゃらに大剣を振り回して炎を振り払った。焼けた肌は再び鋼鉄に変じ、
「コゼット様は歌が上手でゴンドラを動かす横顔が素敵で、ちょっとツンデレだが、本当は可愛い人なんだあっ!」
 叫ぶなり駆け出す。
 ちっ、舌打ちしたビョルンが迎え撃つ。刃に稲妻を走らせ彼も前へと跳んだ。
 雷光と炎が交錯する。片方は斬り下ろし、片方は斬り上げ、両の剣戟はぶつかることはなかった。ざっくりと肉を斬り裂く感触を覚えて、創痍の男は片頬に笑みを浮かべる。その目が驚愕に見開かれるのは、すぐのこと。
 限りなく鈍い痛覚が教える取り返しのつかぬ傷――鋼鉄だったはずの肉体を、下から心臓を抉るように太刀が貫いていた。片腕が炎に包まれたままのビョルンは弐の太刀でがら空きの懐に最後の一撃を放ったのだ。
「同情はしないぜ」
 高い音が響いて白い輝きは黒鞘に収められる。血にまみれた白い貌は笑い掛けたか。
 ごほ、と詰まった咳と共に血塊を零し、顎の下を血に染めた凄絶な微笑みをシャルルは返す。それでも尚、大剣を大きく振り上げる。
 身構えるエンドブレイカー達、再び柄に手を掛けたものの、蹌踉めいたビョルンを咄嗟に支えたのはルィンだった。
「コゼット様のために! それだけが我が存在理由!」
 シャルルは叫ぶなり再び多量の血を吐き、剣を振り下ろすことも無い儘、二度と動く事はなかった。
 最後の力を振り絞ったがそのまま力尽きた――意味はないと知りながら奧へ繋がる通路の前に立ち塞がった――そんな男に、ルィンは目を細める。
「悪いな……アンタの愛、コゼットに届くと良いな」
 一応これは本音だぜ、飄々とした声音が風のように通り抜けた。

●凱旋
「引き時ですね」
 フェルネスが服の埃を払いながら告げる。多少の差はあれ皆傷を負っていたが、手当をすればすぐ立ち回れるであろう。しかしそれはあくまで撤退のための力で、これ以上奧に向かう事は叶わぬ――だが、十分な戦功は上げた。
「後は皆に任せましょう」
 クオリスが妖精を労いながら振り返る。穏やかな微笑みで、ルゥが頷く。
「そうだね……みんな、お疲れ様」
 無事で良かった――心の奥から安堵した声音で告げる。
 そういえば、とシリルがルーイッヒに向き合う。
「帰りは私が操舵しましょうか」
「そうか、またゴンドラ乗るのか」
 往路にて初めてゴンドラに乗った「微妙な」感覚を思い出して、ビョルンは小さく呟いた――つもりだったのだが、静まりかえった一瞬にその声は響き渡ってしまった。
 考えてみれば、肩を借りているルィンなどに聞こえないはずもない。
「びびったわけじゃない! ただの感想――」
「大丈夫、帰りは敵も減ってるだろうし」
 声を荒げた彼をルーイッヒが宥めるも「断じてびびってなどいない」と頑なに言い返す。
 笑うべきか否かナッツは判断に困って視線を向けた先のルィンは、容赦なく笑い飛ばしていた。次に視線を向けられたルゥはすぐにそっぽを向いて俯く――見間違えようもなく、肩は震えていた。
「ん、良い風が吹いてきたな」
 僅かながら仲間内に笑い声が響く。ひとしきり笑ってから、ルィンはそっと呟いた。
 また戻るために気を張らねばならないが、このひとときばかりは良いだろう。
「愛……か」
 戦闘中、散々聴いた言葉をルセラは己の声で重ねる。小さな吐息をついて、脳裡に思い浮かべる面影。
 彼女の為に彼はこの場に赴いたといってもいい。直接その剣をコゼットに向けることはできなかったがすべき事は成した。後は仲間達を信じるのみ。
「さあ、帰りましょう」
 再びクオリスが笑顔で呼びかけた。
 少しだけ、皆に声を掛けると、霊廟に相応しい祈りをメリーヌは紡ぐ。
「どうか安らかにお眠り下さい……」
 きっと良い水神祭になるだろう、否、せねば。彼らは強い思いをもって、霊廟を去るべく歩み始める。
 曾て祭で星と呼ばれ讃えられた者達が再び名誉を守って静かに眠れるように――。
 再び、戦場の中に身を投じるのだ。



マスター:神崎無月 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/08/07
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