ステータス画面

今も……、探している

<オープニング>

「こんなに遅くなちゃった……、大丈夫かな」
 夜の道を一人の女性が急ぐ。その辺りは、あまり良くない噂があるので心配だったのだ。
 いわく、夜の一人歩きは危ない。
 いわく、年頃の女を狙う魔物が現れる。
 いわく、水路で死んだ男が、誰かを探している。
「お嬢さん、夜に走っては危険ですよ?」
「え、あ、はい。お邪魔して申し訳ありません、直ぐに通り過ぎますので……」
 前方のカップルから声を投げられ、驚きつつも少しだけ安心した。一人じゃなければ大丈夫、逢引を邪魔したのは悪いけれど、あそこを過ぎれば明るい場所に出てるのだと、自分を納得させた。
 ところで……、彼に抱きついている女性は、なぜ恥ずかしがりも、怒りもしないのだろうか?
「この人も違いました、愛するあの人ではなかった。貴女は、どうですか?」
 早く再会したいのに、残念でならない……。そう言って女を捨てると男はこちらに歩きだした。
 後ずさりした女が、ドンと誰かにぶつかって振り向くと、そこには同じ姿の男が自分を抱きしめ始めたではないか。
「……っ!」
 一息に血を吸い殺された女には、あの仮面に気がつく余地も無かったのだけれども。
 
「ごめん、お願いできるかな? 女の人が、マスカレイドに襲われる事になるんだけど……」
 狩猟者・セラ(cn0120)が、周囲を確認しながらそう切り出してきた。
「ちょっと面倒な相手なんだよね、良かったら倒してあげてくれれば嬉しいな」
 なんだが微妙な表現である、敵は敵でも訳ありの相手なのだろうか?
「噂も考慮すると、恋の逃避行中に水路で死んだ人が、マスカレイド化したみたい。恋人を探して似たような女性を襲っているんだ……。『どっちの』場所も判ってるよ」
 自警団ではマスカレイドは本当の意味で倒すことはできないから、ほうって置けないのだが、別の意味でもほうっておけなくてね……。と悲しそうに言葉を添える。
 
「能力はデモニスタになるのかな? 魔眼と、魔髪に似てるけど血を吸う能力があるよ」
 ただ自分が死んだ水路は苦手なのか、渡ろうとはしないので、向こう側の対面から遠距離攻撃すれば白兵攻撃を受けることはないのだと、情報をくれる。
「強い相手ではないけれど、部下として自分にそっくりな姿を呼びだすから、気を付けてね」
 そう言いながら、現れる場所や時間帯を記載した地図を渡してくれる。
「今からなら、十分に間に合うから。それとね、探している相手の人は水路の向こう側の墓地にいるって、教えてあげてくれるかな?」
 伴侶の顔を忘れ、相手の場所も判らないほどの狂気。倒すしかないけれど、できれば合わせてあげたいんだ……。そう言って深々と頭を下げると、皆を送り出した。


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参加者
アヴァロンの蒼騎士・ガウェイン(c00230)
カノープス・クルセル(c00623)
紅衣の報復者・クウィル(c03503)
銀月の・ラクシュ(c05710)
蒼焔花の継承者・フォルシュリア(c09611)
あなたに愛を・カエコ(c12550)
漢魂・ガイ(c13360)
ジェーンドゥ・チェロ(c20761)
蒼の貴姫・レノール(c21020)
流浪の紅煉・レン(c22646)

<リプレイ>

●月が顔を出す前に
「この辺りに留めるけど、大丈夫なのかい?」
「ああ、話によるとここらで見つかったらしいからな」
 紅衣の報復者・クウィル(c03503)の確認に、流浪の紅煉・レン(c22646)が応える。
 夕闇が過ぎぬ間に少しばかり噂……と、もう一つを仕入れて事前に場所の確認を行っているのだ。
「では俺たちはこっち側に居るよ。あまり多くても隠れるところがないだろうし……、それにまあコレがな」
「いざとなったらゴンドラを出して合流に行きますけど、無理は禁物ですよ?」
 あそこが良いだろうとカノープス・クルセル(c00623)が、声を上げる後ろの声に苦笑いを浮かべながら少々遠めの草むらを示した。見るには難しいが、聞くには十分な位置である。
 あなたに愛を・カエコ(c12550)が顔をしかめたのは、近くでの喫煙であったかもしれないし囮組の戦力分断であったかもしれない。レンを含め対岸組の3人はともかく、実際にぶつかる囮組は危険が増すばかりなのであるから、彼女が懸念するのも無理はなかった。そんな彼女に、もういいだろう? と宥めながら新しい煙草に火を付ける。
「そういえば、名前は判ったのであるか?」
「女はミーナ、男はアルカディウス。詳細は不明だが、互いの名前を刻んだ指輪が控えめに供えてあった」
 蒼の貴姫・レノール(c21020)の質問に、後で返さないとな……。と言いつつレンが煙草に火を付ける、クルセルに触発されて一服つきたくなったのであろう。判り難い場所とはいえ女だけ発見され、供えられた指輪も目立たぬように……。想像するに楽しい様子では無いのだから。
「死してなお愛する人を探し求める……か。罪の無い人を手にかけるのを許すわけにはいかないけれど」
 せめて、安らかに眠れるようにしてやりたいな。と蒼焔花の継承者・フォルシュリア(c09611)が溜息をつくと、一同が頷いた。マスカレイドとしての悪事を許せないが、その事については皆の思いは共通していたのだ。
「求めるものが分からなくなる、悲しいことだ。あまり考えたい事態だと、思わないがね」
「私だったら……、耐えられそうにないな」
 らしくもない事を言った……、とクルセルが紫煙を燻らせつけたばかりの煙草を揉み消すと、大切な人を絶対に忘れたくない……。とカエコが相談が終わったことを確認してゴンドラを出していく。
「愛した女の顔も忘れてる、か……。早く、眠ってる場所に連れて行ってやらないと、だナ?」
「誰よそのオンナー! ……なんて言ってもダメかな、ダメかな?」
 対岸に去りゆく3人を見届けつつアヴァロンの蒼騎士・ガウェイン(c00230)がそう呟くと、ジェーンドゥ・チェロ(c20761)が付け毛を見せびらかしながらクルクルと回った。空気を読んで待ちはしたが、しんみりする前にやっておけば良かったと、前向きに思う。こういう空気はジョークが救うと、良く知っていたから。
「まあ、有効だろ? 区別つかないらしいしな。俺らは向こうから駆け付けるから、安心してくれな」
「……どうせなら、二人が幸せになる手伝いをしたかったです、でもこのうえは一刻も早く一緒にさせてあげましょうね」
 漢魂・ガイ(c13360)がチェロに、俺一人でも十分なのになあ? と言いながら歩いて行くと、銀月の・ラクシュ(c05710)が引き返す者たちと共にしみじみと口にする。星の巡りでそんな運命もあったであろうと、姿を見せ始めた月を見上げながら。
 深々と、深々と夜が来る。
 天には星が昇り始め、草木の多いこの辺りを薄暗く照らし始める。
 一同を月と戦いが、待つ。

●月は、星と共にやってくる
「ああ、やっと会えたね愛しい人よ。それとも貴女もまた違うのだろうか? 確かめさせてっ……」
「違いますよアルカディウスさん……。彼女も彼女も死んでいるのです、此処に囚われて、自らの死を認められないだけなのです」
 男は、言葉を最後まで言い切ることが出来なかった。
 ラクシュの思いが突き刺さる。より痛みを感じたのは、剣かそれとも言葉であったろうか?
 真実は時に刃よりも人を傷つける……。剣を中心に炎をあげて大剣を形造るブラウフラムには、主の放った言葉の威力を理解できたであろう。
「ち、違う。私達は死んでなど居ない……。私も、彼女も……っ、ええぃ!」
「ならば聞こう!君の愛する者の瞳と肌は何色だった? 髪の長さは? そして……彼女の名前を言ってみろ!」
 邂逅と共にラクシュと見つめ合い、威力と威力を交わし合った男に、クウィルが横薙ぎに叩きつける。それは覆い被さろうとしていた幻体を吹き飛ばし、彼女の危機を救った。
「いつまでもそんな所に居らずに、奥さんのところにでも行ってしまえ」
「お姉ちゃん、頑張るね私……。送ってあげてくる」
 対岸に小さな火が灯る。小さく小さく動いて陣を敷くと、クルセルの頭上と水面に鮮やかな対象図と作り上げる。それはカエコの呼んだ真夏の雪景色と共に、雪月花を作り上げていった。クルセルが呼ぶ霊剣の雨は道を切り開き、カエコの呼ぶ雪が男の手足を凝らせる。その力は幻体ではなく、本体をガッチリと掴み恐るべき力の一端を奪っていった。
「どいつも髪型や服装は勿論、何だか顔つきまで違いやがる。んな根性だからよう……」
 てめえが死んだことや、惚れた女の事さえ忘れちまうんだろうが!
 新たな影が、増援として現れたクウィル達に向かった隙に、ガイが背後に立って呼びかける。振り向き理解したのを待ってから、豪快に投げ飛ばす。不意打ちなぞ要らぬとばかりに叩きこむ大技は、熱い思いが傷よりもなお深い一撃を与えていく。
「汝の思い人は、汝が彷徨い、人を殺めることを対岸で嘆いているはずだ。今からその棘を消し去り、想い人の待つ岸に届けてやろう」
 その岸の銘をな、彼岸と言う。
 レノールの呼ぶ妖精の軍勢は、男にまとわりついて視界を奪う。言葉と共にユルユルと男の活力を奪って行くのが判る。男の心にもまた、嵐が駆けて抜けていた。
「此処で君が無関係な人を殺める事を、君の想い人は望むか!?」
 叩きつけた言葉と剣が、明確に男を削り取っていく。幻体たちは男と心根が繋がっているのであろうか? フォルシュリアが巨大な炎剣を創りだし、次々と巻き込んで行く過程で、彼らは蛍のように明暗を繰り返していった。
 『バトルトーク』は本来、説得に向いた技では無い。
 だが……、彼らは言葉と共に思いを重ねた。言葉が真実であると、嘘ではないと伝える手段としては最適であろう。
「それで後悔しないのなら、私も……、恋人だよ?」
 明暗を繰り返す男に、チェロが最後の宣告を叩きつけた。
 普段のチェロを知る者からは、想像もつかない真摯な姿。アクエリオにふさわしい水着の装い、付け毛も合わせた長い銀の髪、そして心配そうに見上げる潤んだ瞳が……。雷神の宣告を持って、男の何かを決定的に破壊する。
「辛そうだな。さァて……、これ以上恋人の面影を追い続けないよう……。俺達が終焉らせる……!」
「……なるほど、あれでは対岸が見えんはずだ。思い出せ、貴様の伴侶ミーナへの思い出を! 思い出があるからこそここに彷徨っているんだろう!」
 明滅を繰り返した幻体は、既に形を為しているだけの、攻撃を行う何かになり下がる。その脇で、本体と思われた男もまた……、草むらから伸びた金の髪となって正体を現した。
 ガウェインの一撃が彷徨い狂う髪を刈り取るべく、彼へ仲間へ向ける三日月のサインを作り上げると、レンは愛用の煙草が消えるのも構わず、指輪と指先掲げて『魔女の一撃』を放つ。指された相手は、次々と消えていった。
「今解放します、再び会わせてあげますから」
 集った星たちと共に、月のラクシュが告げる。
 ここから先は戦いではない、一方的な救済であると。
 届かぬ壁を終焉を……、今打ち砕く。

●銘状し難き、ソーン
「まるで月の様な金髪だな……。水に誘われたかな。送ってやるが……、あぁ大丈夫。水はもう怖くない」
「イマージュ、ほとんど色も形も残ってない……、あれってソーンなの?」
 忌まわしき何かに向けて再び魔剣が鮫の如く食らいつき、氷の花は乱れる髪を凝らせていく。答えはないが、倒すべき何かであると雄弁に語っているのだから。
「いつまでもトチ狂ってねえで、とっとと成仏して女の所に行ってやれ!」
「支援するとしよう。……グウィネス、あの棘を滅ぼし尽くせ」
 ガイの熱い拳が敵を打つ。痛みよりも心の熱さが駆け抜ける、詐術は知らぬ男は拳一本あれば良い……。時にはこんな漢が映えても良い日がきっとある、それが今日この日であったのかもしれない。漢の拳が、何より熱く敵を打ちすえた。
 そんな男に、好ましいと思ったのか、逆についていけないと思ったのか判らないが、レノールは一息ついて自らの妖精へと一命を与えた。それは残り少ない敵をさんざんに打ち砕いていく。
「想い人の墓はこの水路の向こう側の墓地だ、此処で探したって想い人は見つからない!」
「フォルシュリア君、手伝うよ……。雑魚を方つけてくれ」
 チェロの放つ気弾を打って、フォルシュリアの火閃が薙ぎ払う。それはのたうつ、虫の息で転がる何かを焼き払い、片端から浄化して行った。
「ここからはもう終焉の旅だ……。恋人の所へ連れて行ってやる……!」
「傷は……、いや押し切った方が早いな。術式展開……、支援は任せたまえ」
 ラッシュラッシュ!
 あとは本体を残すのみ、ウネリ狂う黄金の髪に向けて、ガウェインの鉄拳から刃が伸びて轟音を上げる。その威力のほどに、考えを改めてレンは今一度指先を向けた。先ほど叩きこまれていたのは衝撃波であったかと、髪の乱れる様にて定かになった。
「早く行ってあげて、あなたの恋人はきっと寂しがってます」
「この一撃は……君への応報と、君が殺めた者達への弔いの一撃だ!」
 終わりの見えたマスカレイドに、ラクシュとクウィルが迫る。彷徨う髪を巨大な拳が逃がしはせぬと纏め上げ、全身の体重を預ける渾身の一撃を持って最後のトドメが届く。
 届いたのは殺意ではあるまい、きっと救済の手であると……、誰もが噛みしめ戦いは終わった。

●かくして彼岸を渡り
「傷は後でいいよ。場所を覚えてる間に、一潜りしてくらあ」
 漢心の塊、ガイはそう言うや否や、傷の治療も放り捨てて冷たい水の中に飛び込んで行った。
「……恋人の墓の場所はあっちだっけ? ……コイツは俺が連れて行くヨ?」
「反対側は私が持つのである……、ああ忘れて居たな。耀赫く熱は不滅、比翼の翼……フェニックス!」
 ガウェインとレノールが駆けよると、汚れるのも構わずに見つかった遺骸を抱えてゴンドラの上に登って行った。彼女が呼んだ火の鳥は、傷を癒しは無しなかったが温かく迎え入れた。そういう気がしただけだ、と人は言うであろうが今は関係あるまい。
「そういえば東方のフェニックスは、夫婦一組でしたっけ。どうか安らかに、せめてあの世で、お二人の未来に幸せがありますように……」
「もう誰も、君らの仲は裂かない。安らかに……」
 ラクシュとフォルシュリアが、用意した花を無名墓地へ捧げる。家を捨てた当てつけのつもりか、ほとぼりが冷めてから埋葬するつもりであったのか、彼女はそこに葬られていたのだ。
「形だけでも共に、せめて来世は幸せに」
「……せめて私達に出来る最後の手向けだ。……彼女の傍で安らかに眠れ」
 レンがタバコに火を付けて、東方で言う線香代わりにすると、今までとは違って怒ることも無くカエコが手を合わせる。自分もこんな風に、愛した人と一緒に眠れたら……。そんな最後は幸せであろうと思いながら。
「もう、恋人の事……これで忘れないか、ナ?」
「ああ、そうだな。強い相手だったよ、説得のおかげでイマージュを蹴散らせたのに、私達をあんなに手こずらせた」
 ガウェインの言葉に、クウィルが応えて苦笑を浮かべる。さっと来て、ぱぱっと方つけていくつもりであったが、終わってみれば分断されたり途中の治療もあって、結構な時間がかかってしまった。勝てばそれで良いという仲間ばかりであれば、どうなっていたかと肝が冷える。
「安らかに。この眠りは最後の安寧……、想い人が待っていよう」
「安らかな眠りが訪れん事を」
 クルセルとレノール、喪服の二人が最後に弔うと、一行は帰還の為に短い旅路につく。ゴンドラの舳先に先駆けた少女が一人、朝焼けと共に一行を出迎えた。
「想いも捨てられず死に損なうか、そんな奴は私一人で十分だ。もう迷うなよ」
 ダークエルフの少女が何を言ったのか、小さすぎて一行には届かなかったけれども。
 何時ものチェロからは程遠い、寂しそうな寂しそうな横顔が何かを告げる。
「あ、雨……。今日は晴れると思ってたのに」
 帰り際……、雨が降って、誰かの代わりに涙を流した。



マスター:baron 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/08/11
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冒険結果:成功!
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