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ラーラマーレ・シャイニー

<オープニング>

●夏空の街ラーラマーレ
 眩い陽射しに瞳を射られ、思わず瞬きをすれば、その瞳に飛び込んでくるのは鮮やかな夏空の青。
 夏の輝きをぎゅっと凝縮したような青空のもとには、夏空の青をそのまま映しとって輝く大きな湖が広がっている。マーレと呼ばれるこの湖のほとりに抱かれた街の名はラーラマーレ、滴るような緑の街路樹と夏空の青に映える白い街並み、そして夏空の青そのまま透きとおらせたような煌き湛えて流れる運河に彩られたこの街は、夏空の街ラーラマーレと呼ばれていた。
 夏の陽のように陽気なラーラマーレのひとびとと、夏空の街の街中に暮らすマーレペンギンたちは、今日も朝から元気いっぱい。毎日を陽気に楽しく暮らす彼らの街で朝のこの時間から特に賑わっているのは、夏空の街が面する湖、マーレの港に程近い通りに立つ朝市だ。
 滴るような緑鮮やかな街路樹の梢には、鮮やかな珊瑚色に咲き誇る柘榴の花や、眩い夕陽色に熟したオレンジの果実が見える。きらめく木漏れ日とくっきり色濃い影で街を彩る柘榴やオレンジの街路樹の通りを駆け抜けたなら、鮮烈な夏の陽射しをきらきら反射する氷のかけらが舞い散る様が瞳に飛び込んできた。
 眺めるだけでも涼しげな氷塊を豪快に砕いてみせるのは氷売り、冷たいきらめきのかけらは硝子杯いっぱいに詰められて、競うようにそれを買い求めたひとびとは街路樹からもいだばかりのオレンジをぎゅうっとひと搾り。きりりと冷えたもぎたてオレンジの滴をくーっと飲み干すのは、住人でも旅人でも誰でも街路樹のオレンジを採っていいというラーラマーレならではの楽しみだ。
 とんがり帽子みたいな蓋のある土鍋に小さな氷屑をいっぱい貰って行くひとの目当てはマーレから水揚げされたばかりの新鮮な魚介類。瑞々しいオレンジとレモンの薄切りで彩られた魚介を吟味するひとびとの足元では、野良猫とマーレペンギンが小魚のおこぼれを狙って微笑ましくも熱いバトルを繰り広げている。
 夏空の街の住人だけでなく観光客でも賑わうこの朝市では雑貨も豊富だ。
 空色ほんのり映したような硝子瓶に詰められているのは化粧水がわりにたっぷり使えるオレンジの花の蒸留水、オレンジオイルとオリーブをぎゅっと詰め込んだソープと合わせて買うのが人気で、隣の店には陶器のモザイクで可愛いマーレペンギンを描いたソープディッシュが置いてあるのが心憎い。
 澄んだ渓流で磨かれた石みたいにごろごろとした大きめ硝子ビーズを繋いだアクセサリーはとても涼しげで、淡い金色きらめく黄銅を薄く延ばし、繊細な紋様を浮かして連ねた装身具は、しゃらしゃら鳴る音が耳に心地好い。好奇心旺盛で人懐っこいマーレペンギンが覗き込んでくるのに笑みを零し、視線をめぐらせれば、瞳にとまったのは柔らかそうな生成り色のラタンで編まれたサンダルだ。
 触れればさらりと肌触りもよく、透明にきらめく雫型のビーズが花の形に飾られているのが可愛い。
 早速買い求めて履いてみれば、爪先と踵を覆う形のそれは意外に歩き心地がよく、見た目以上に涼しく快適だ。胸が浮き立つままに再び朝市をそぞろ歩けば、あちこちをぽてぽて歩いているマーレペンギンと野良猫のバトルが勃発する場面に再び出くわした。
 街に住むひとによれば、野良猫とマーレペンギンの勝負は大体互角――らしいのだけど。
『フニャアアアァッ!』
『く、くえええっ!?』
 この日ペンギンを襲った茶トラの野良猫は、賑わう朝市の只中で、いきなり虎並みに巨大化した。

●さきぶれ
「も、当然朝市は阿鼻叫喚なんだよ! このままだとひともペンギンもいっぱい食い殺されて大惨事になっちゃうの……!」
 夏空の街ラーラマーレで視たエンディングを一息に語り、扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)は白桃の果汁を落とした炭酸水をくーっと飲み干した。
 突如巨大化したという茶トラの野良猫は、当然マスカレイドだ。
 どうかお願い、力を貸して、と金の瞳の狩猟者は同胞達に願う。
「ひとりじゃ無理なの。だから、アンジュと一緒に――この野良猫マスカレイドを、狩りに行こう?」

 虎並みの大きさになるという野良猫マスカレイドの武器は、スカイランナーを思わす体術と、魔法の炎を纏いフレイムソードのそれに似た強力な技を繰り出してくる爪だという。
「一瞬でも隙を作れればマーレペンギン達は速攻運河に逃げ込んじゃうから、ペンギン達のことはね気にしなくても大丈夫。んでも朝市にいるひと達はそうもいかないし、虎並みの子が飛んだり跳ねたりするわけだから、朝市で戦い続けるのはちょっとアレかなぁって」
 何とかひとびとは護れたとしても、朝市に並ぶ店や商品まで護りきれるとは思えない。
「あのね、朝市を真直ぐ通り抜けたらマーレの港に出るの。そこならかなり開けた広い空間があるし、でっかくなっても猫だもん、野良猫マスカレイドが湖に飛び込んで逃げるようなこともない」
 だから――朝市から港まで相手を追い込んで、そこで思いっきり戦おう?
 彼女はそう告げて、金の瞳で改めて同胞達を見つめた。
「巨大化して眼も大きくなるからかな、何だかその野良猫にはきらきらするものがもっときらきら眩しく見えるようになるみたいなのね。だから巨大化した時に不意討ちで何かきらきらしたもの投げつけてやれば、反射的に逆方向に逃げると思うんだよ」
 幸い、この朝市にはきらきらしたものが溢れている。
 何か良さそうなものを予め見繕って購入しておいて、港の方へ逃げるように投げつけて、そのまま追い詰めればいい。もしかすると途中で路地に逸れたりするかもしれないが、
「そこはね、アンジュが手の空いてるひとにお手伝い頼んでみるね」
 たとえば路地から誰かが氷を投げつけたり、硝子ビーズのアクセサリーを大きく振り回して見せたりすれば、野良猫マスカレイドがそこに逃げ込んだりするようなこともないだろう。
 幸いそれほど耐久力はないようだから、戦い方次第では早々に決着をつけることができるはず。
 だが、攻撃の威力――特に魔法の炎を纏った爪の攻撃の威力が高いため、油断は禁物だ。
「がっつり全力で挑もうね。んでね、無事マスカレイドを倒せたらね、ちょっと朝市を楽しんでいけたらいいなぁって思うんだよ」
 微かに首を傾げるように笑んで、金の瞳の娘がそう続ける。
 夏の陽のように陽気なラーラマーレのひとびとは、思いきり楽しまなければ夏はすぐに終わってしまうものだということを識っている。だから、ちょっと騒ぎがあったって、それが過ぎ去ればすぐに陽気で楽しい日常を取り戻すのだ。
「あのね、そうやって夏空の街を楽しめたら、また逢おうね」

 もしも楽しい思い出の場所になったなら――夏空の街で、また。


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参加者
天舞白凰華・ミコト(c00826)
空の宅急便・カナタ(c01429)
戯咲歌・ハルネス(c02136)
漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)
フェイバーフッド・クリスティーナ(c03482)
影冴ゆる・ヴィレム(c04539)
夜想の花弓・フェルスフィア(c04711)
虚月・レヴィン(c19560)
誓約者・リーベリーナ(c23192)

NPC:扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●ラーラマーレ・シャイニー
 夏空の青からは眩く透きとおる朝の陽射しが降りそそぎ、湖から吹き渡る朝風に舞う氷のかけらが煌いた。涼しげな氷を豪快に砕くのは氷売り、熟れたオレンジを手にした人々で賑わうそこを抜けた先には湖で水揚げされたばかりの新鮮な魚介が並び、威勢のよい声飛び交う先には彩り鮮やかな雑貨を扱う店がずらりと並ぶ。
 目移りしてしまうような雑貨溢れる通りで始まったのは、茶トラの野良猫とペンギンの喧嘩だ。
 本来ならそれは夏空の街では馴染みの、微笑ましい光景だったはずなのだけど。
『フニャアアアァッ!』
『く、くえええっ!?』
 賑わう朝市の只中で、野良猫がいきなり虎並みの大きさに変化した。
「でも! 巨大化は敗北フラグなんだからね!!」
「いいこと言うねカナタ君!」
 迷わず硝子瓶を投げつけたのは空の宅急便・カナタ(c01429)、宙に舞った硝子瓶が眩く陽射しを反射した瞬間、戯咲歌・ハルネス(c02136)の放った黄銅細工の丸盆がそれを叩き割る。
 派手な音とともに散ったのはきらきら輝く水飛沫と硝子のかけら、淡くかかった虹の中、明るい金に煌きながらくるくる回った丸盆が石畳に落ちるより早く、フギャッと悲鳴をあげた猫が逃げ出した。
「上手くあちらに逃げましたね!」
「ああ、行こう!」
 湖の方角へ向かった猫を真っ先に追ったのは煌く装身具を手にした天舞白凰華・ミコト(c00826)、装身具はマントに絡めて使うつもりだったけど、肝心のマントが手許になければ仕方がない。あっと言う間に逃げ出したマーレペンギンたちが次々運河に飛び込む水音に安堵の笑みを小さく浮かべ、影冴ゆる・ヴィレム(c04539)も石畳を蹴って駆けだした。
 突如現れた巨大な獣に悲鳴をあげる人々の間を抜け、時には飛び越え、猫が朝市を駆けていく。巨大猫が振り返った途端に投げつけられたのは大振りの硝子を連ねたヴィレムのビーズ飾り、再び駆けだした猫は路地に逃げ込もうとしたが、淡いミントグリーンの髪の娘が振りかざした硝子ビーズの蝶が羽ばたく髪飾りの煌きを嫌って通りへ舞い戻る。
 即座に夜想の花弓・フェルスフィア(c04711)が氷を投げつければ、強く陽射しを弾いた氷が石畳に跳ねると同時、巨大な猫は反射的に飛び退って湖の方角を目指した。路地に逸れないよう皆で囲い込みながら港まで追い込めれば最上、けれど――。
「速い、速いよ猫さん……!」
 スカイランナーめいた体術を使うというだけあって、茶トラの野良猫は虎並みの体躯となってもなお身軽で敏捷だ。囲い込んでしまうのはなかなか難しい。だが、巨大な猫が路地へ視線を走らせれば搾りたてのオレンジ果汁を飲み干した深い紅茶色の瞳の少女がほんのりオレンジの香り残した氷を投げつけて、反対側の路地では揚羽を思わす少女が扇を翻す。眩い煌き踊らせたのは銀箔抱いた夏空色の硝子連なる武器飾り。
 更にはとんがり帽子みたいな鍋蓋いっぱいに氷を溜めた青年が、猫を追い立てるようその足元へと透明な光の塊を投げつけた。
「囲い込まなくてもいけそうかな!?」
「……みたいだな。なら、俺は俺の仕事をするか」
 顔を綻ばせたフェルスフィアに頷いたのは虚月・レヴィン(c19560)、清冽な朝の陽射しに深い青の瞳を眇め、彼が放つのは標的の行方を知るための透明な印、万一の際の保険だ。
 駆けていた猫が不意に立ちどまって辺りを見回せば、フェイバーフッド・クリスティーナ(c03482)がすかさず硝子ビーズ細工のアクセサリーを振りかざす。
「ペンギンの出番だよっ!」
 黒と白に夏空色のきらめき振りまきながら揺れるのはマーレペンギンを模った髪飾り、きらりと光が奔れば猫が思いきり石畳を蹴って跳んだ。影になった路地へ逃げ込もうとするけどそこにあったのも硝子の煌き、くるり振り回された首飾りの先に閃いたものにクリスティーナが声をあげる。
「あ、あれも可愛いっ!」
「きゃー!?」
 硝子ビーズの先に揺れる貝細工のペンギンに扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)の歓声もあがれば、後でやるからと喉を鳴らして青年が笑う。通りに戻った巨大猫は大きく跳躍し、その先にあるひときわ賑わう一角へと躍り込んだ。
「逃ーげーてー!」
「その獣、港まで追い込んで退治するから、離れて!!」
 力いっぱい叫んだカナタが人垣の割れたところへ硝子瓶を投げ込んだ。逃げ遅れた女性を路地へ押し込んだのはオレンジを齧っていた雪色の髪の娘、果実を冷やしていたらしい氷を彼女が振りまく様に瞳を緩め、皆に避難を呼びかけたハルネスも丸盆を投擲する。後ろ肢すれすれを狙ったそれは石畳に綺麗に跳ね、シンバルを鳴らしたような音を響かせ大いに猫を驚かせた。流石はピッチング、これはかなり気持ちいい。
 薄ら汗ばみ始めた額に眩い光孕んだ涼風が吹きつける。見遣れば鮮やかな夏空の青を映す湖がもう近い。後少し、と手許に残った氷すべてぶちまけて、誓約者・リーベリーナ(c23192)はそのまま足を緩めず猫を追った。が。
「きゃあ!?」
「危ない、リーベリーナ殿!」
 硝子のさざれ石を思わす大きなビーズを放った漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)が、水混じりの氷に足を滑らせたリーベリーナを助け起こす。巨大猫はその隙に路地へ逃げ込もうとしたが、そこに白い街並みの上から東方風の装束の男が飛び降りた。
 放たれたのは純白に塗られた針金づくりの綺麗な鳥籠。
 鞠を少し潰したような形のそれは、夏空にくるくる回って真白に煌き、猫を元の通りへ押し返した。

●ラーラマーレ・ポルト
 鮮やかに開けた視界いっぱいに広がったのは夏空の青。心まで染め抜くかのような鮮麗な青が、遥かな天蓋の空に眼の前の湖に満ちている。巨大化したマスカレイドといえど猫、流石にこの大きな湖へ飛び込む気にはなれないようで、水際で一瞬立ちすくんだところを囲まれた獣は、湖を背にして飛びかかってきた。
「体術で負ける訳にはいかないな!」
 真っ向勝負は望むところとばかりに跳躍したのはヴィレム、虎並みの猫が跳んだのを更なる高みで飛び越し、延髄に強烈な一撃を叩き込む。石畳に打ちつけられた茶トラの毛並みに襲いかかるのは撓る蔓の先に牙持つ蔓草、ハルネスの放った緑の蔦が猫に喰らいつくと同時に紅の房飾りを翻し、夜色の刃に輝き纏わせたリューウェンが袈裟懸けに斬りかかった。
 猫の背にちらりと見えたのは白い仮面。
 二振りの太刀に稲妻凝らせたミコトが仮面を狙って駆けたが、巨大な猫は前肢でその一撃を払い退ける。攻撃を当てるだけなら容易いが、特定部位を狙うにはそれに見合った技でなければ難しい。
「冬の嵐、行くよ!」
 出来るだけ苦しませないようと祈りながらクリスティーナが掲げたのは冴ゆる月白きらめく氷の刃、夏の朝に招来された吹雪が白い煌きとともに猫を包み込み、その足を氷結させる。だが巨大な猫が軽やかに跳躍すれば縛めの氷は砕け散り、くるりと宙返りを打った獣はレヴィンの胸元に骨をも砕く蹴撃を喰らわせた。空中殺法と同様のこの技は、状態異常を払う力をも備えている。
「ああ〜! これじゃ麻痺も意味ないかな!?」
「いえ、炎の爪を使わせないだけでも十分意味があるはずです……!」
 悔しげな声をあげたクリスティーナを励ますように応えたのはリーベリーナ、躊躇うことなく揮われたその手の魔鍵からは純粋な癒しの呪力がレヴィンへ注がれる。猫が麻痺を嫌がりそれを払うために体術を使おうとするなら、麻痺の付与は魔法の炎を伴う爪攻撃を封じることにも繋がるのだ。
 砕けた骨が再生するのを感じながら、荒い息の下で成程なとレヴィンは笑んだ。この体術だけでも体力の半分近くを削られた。これより強力だという爪を封じられるなら、それに越したことはない。
「これもひとつの戦い方か……!」
 翳した掌に凝るのは稲妻の輝き。
 眩く収束した雷光を放ち、レヴィンは巨大な猫に稲妻の痺れを奔らせた。僅かに動きの鈍った猫に襲いかかるのはカナタの招いた星霊ジェナス、体当たりを喰らわせた白い鮫が鋭い牙を立てれば、猫の口から苦悶の声が洩れる。
 爪に一度も炎を纏わせることのないまま、巨大な猫は幾度も幾度も体術を仕掛けてきた。
 呪いの蛇影による石化はリーベリーナの魔道書から放たれた力、前肢の自由を跳躍で取り戻し、猫は宙で身を捻ってミコトの首元に蹴りを放つ。息が詰まるような衝撃に少女は顔を顰めたが、すぐクリスティーナの星霊スピカが飛んできた。
「ヒューくん、お願いね!」
『すぴきゅ!』
 名を呼ばれた星霊が張りきってミコトに抱きつく様に安堵しつつ、フェルスフィアは睡蓮と胡蝶草に彩られた愛弓に意識を凝らせる。倒してしまうのは可哀想、なんて思わないでもないけれど、きっと、本当の猫の心は――この街に悲劇を齎すことを、望まないと思うから。
「……行くね!」
 銀の狗を憑依させたフェルスフィアの指先にまで力が満ちる。
 生命の輝き宿して放たれた矢は運命の糸に結ばれて、猫の胸を心を其々に射抜いた。
 夏空の青を背に光の鷹が翔ける。
「カナタくん、ジェナスのおなか見せてね!」
「任せて! どどーんと行っちゃうよ〜!!」
 茶トラの毛並みを裂いた翼を翻したアンジュの鷹がカナタを貫いた。溢れる力を星霊にかさね、彼は再び真白な鮫を解き放つ。上空に踊り激しい体当たりを二度重ねた鮫は猫の尾に噛みついて、更に大きな津波を呼び寄せた。後衛のアンジュの鷹が貫いたのは一番近くにいたカナタ。だが後衛ながら前衛の隙間を埋めるよう位置取っていた彼と最も距離が近いのはアンジュではない。
 白く輝き砕ける波は石畳の上を翔け、
「成程、俺に来るわけね」
「そーゆーこと!」
 前衛のハルネスへと押しよせる。
 満ちる潮のようにさざめく力を意のまま揮えば、爆ぜる勢いで地から溢れだした蔓草が猛然と敵へ襲いかかった。草の牙が猫の毛並みを幾重にも喰らって、しゅるりと伸びた蔓葉が猫の胴と肢を縛り上げる。――その寸前、リューウェンとヴィレムが石畳を蹴っていた。
 敵に隙が生まれる一瞬が、駆けるべき瞬間が考えるまでもなく解る。
 それは互いに心を繋ぎ、連携を意識しているからこそ。
「……やはり随分と戦いやすいな」
「同感だ」
 縦に打ち下ろされたリューウェンの刃が次の瞬間には横へ一閃され、猫の脚を砕いた。僅かに猫の体勢が低くなると同時に頭上を飛び越して、ヴィレムが頭蓋を突き延髄を打ち据える。更に揮われた槍が鼓膜をも打ち破った。
 護りが崩れた、今が好機。
 双の太刀に稲妻を纏わせたミコトが漆黒の髪を翻して飛翔する。
 雷の金に輝く刃を叩きつければ、猫の背の仮面に罅が奔った。
 無論仮面を狙ったからではなく、単純に猫の体力に限界が近づいてきたからではあるが、ともかく、戦いの終焉が見えてきた。
「さて、終わりにしようぜ」
 意識を研ぎ澄まし、レヴィンが太刀の柄に手をかける。
 一瞬で距離を殺し鋭く抜き放った刃で斬り伏せれば、高い音を響かせ白き仮面が砕け散った。
 砕けた仮面のかけらが霧散すれば――虎並みに大きかった獣も、元の小さな猫に戻る。
 この街で弔ってあげたいなと呟いて、フェルスフィアがそっと茶トラの猫を抱き上げた。

 命がめぐるものならば、この猫もまた。
 夏空の街に生まれて来られればいいなと思うから。

●ラーラマーレ・スーク
 滴るような緑の合間に、眩い夏色を映した果実が実る。
 色鮮やかで甘酸っぱく香るオレンジを皆の分までもいで、暁色の娘と一緒に抱えて朝市へと戻る。朝の陽射しに変わらず煌くのは氷売りが豪快に砕いた氷のかけら。眩く涼やかに煌くそれを硝子杯いっぱいに満たし、もぎたてオレンジをぎゅっと搾って皆で乾杯したいから、朝市に散っていこうとする仲間達を呼びとめた。路地から氷やアクセサリーや鳥籠やらで援護してくれた仲間も呼んでくれば、行き交う人々も流石に何か気づいたよう。
「あんた達、さっきでっかいの追っかけてたひとだよね?」
「もう退治してきたんだ!? うわあお疲れ様、なんだ早く言ってよ氷サービスするよ!!」
 気がつけば皆の杯には硝子よりも透きとおった曇りひとつない氷で満たされ、これ使ってよと冷えた炭酸水の瓶が差し出される。銀色ナイフで切った果実をぎゅっと搾れば、硝子杯が明るいオレンジの煌きで満ちた。何時の間にやら瑞々しい朝摘みミントまで飾られていたのに皆で笑って、夏空に輝く陽の光に揃って杯を掲げて。
 ――ラーラマーレに、乾杯!
 杯を鳴らしてぐっと呷れば。
 濃厚な甘酸っぱさはそのままに、きゅうっと冷えたオレンジの滴が爽快に喉を滑り落ちていった。
 賑やかさに惹かれてか、運河に潜っていたペンギン達も次々朝市へと戻ってくる。ぷるぷるぷるっと頭を振って滴を散らす様がなんとも可愛くて、
「……なぁアンジュ、このペンギンって餌やってもいいのか?」
「うん、みんな好きなように海老やお魚あげて遊んでるよ」
 訊けばこくりと頷かれたから、レヴィンはこっそり買った魚をほれほれとペンギンの頭の上で振ってみる。つぶらな瞳でそれを見つめていたペンギンは、ぽんっと跳ねてぱくりと魚に食いついた。
「か、可愛い……!」
 感激の声をあげたミコトもいそいそ海老を買いに行き、その後をぽてぽて着いていくペンギンの姿に笑みを零したリーベリーナも、傍らのペンギンに問いかけてみる。
「ペンギンさん、ご一緒しても宜しいですか?」
『くえっ!』
「私も、私も一緒したい……!」
 ぴっと片翼をあげたペンギンがあんまり可愛くて、思わずクリスティーナも手をあげた。
 こっちだよと蝶の髪飾りを飾った娘に手を振られ、ヴィレムとリューウェンは彼女に案内されながら、明るいきらめき満ちた硝子細工の店へと向かう。
「ヴィレム殿はセンスが良さそうなので、是非グラスを見立ててもらえれば」
「俺も手伝うけど、リズの方が俺よりもずっとセンスが良いよな」
 笑いかければ、一緒に見立てれば間違いないよ、と弾んだ声が返ってきた。
 光を湛えて並ぶのは、明るく透きとおった彩で飾られた硝子の器たち。青も碧も、明るいオレンジも綺麗で、心のままに魅入っていれば、てててっと走ってきたペンギンの雛が足に飛び乗ってくる。
 見覚えあるその姿に、リューウェンは思わず口元を綻ばせた。

「ね、これ何処で買ったの?」
「織物雑貨の店があったんだけどね、その隣で」
 精緻な彫金の丸盆を興味深げに眺めるアンジュに応えれば、やっぱり商売上手だと娘が破顔した。織物を敷いた上で食事する習慣のある辺りで食卓として使うものなのだ。
 細密な幾何学模様の敷物や手編みレースも飾られてたよとハルネスが続ければ、すごく見たいと瞳を輝かせて彼女が願う。
「――じゃあ」
 また一緒に、見に行こうね。
 小指を絡ませ、約束をひとつ重ねて。
 眩くきらめきながら過ぎゆく夏を、幾つもの幸せと楽しみで埋めていく。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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いまいち
参加者:9人
作成日:2011/08/27
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