ステータス画面

あの峠を越えて

<オープニング>

「はぁっ、はぁっ……」
 緑豊かな峠道を一人の少女が駆け抜けていく。よっぽど急いでいるのだろう、すっかりあがっている息を整えることすらせず、走り続けている。
「あと、あと少しで」
 少女の名はベルニー。麓の村の食堂で看板娘として働く娘であった。そんな彼女が一心に峠道を走り続けているのには、一つの理由があった。
「やっと、やっと許してもらえたのよ、ケインス!」
 ケインス、と言葉に出した時のベルニーの花が咲くような笑顔。それは普段接客の時に浮かべている商売用の笑顔とは全く違う、晴れやかで幸福に満ちたものであった。
 ケインスとはベルニーの住む村と峠を挟んだ場所にある村に住む青年であり、ベルニーの恋人であった。そんなケインスが「お義父さん、娘さんをください!」とベルニーの父に告げたのは一週間前であり、「お前なぞに娘はやらんっ!」と突き返されたのも一週間前。
 それからというもの、恋人2人はほぼ毎日のようにベルニー父を説得していたのである。そして丁度ケインスが仕事のために村に戻っていた時、遂にベルニーの説得に父が折れたのだった。
「早く、伝えなくちゃ」
 長い髪をなびかせ走り続けるベルニー。
 ぐるぅっ、ぐるるるる。
 ――これからの幸せのことばかり考えていたベルニーは、近くで唸り声を上げる狼にすら気づくことはなかった。

「ちょっと急ぎの用なんだが――手の空いてるやつはいるか?」
 無精ひげを撫でつつ声を上げる一人の男。皺だらけのジャケットを羽織り、エンドブレイカー達を呼びつけた男――爪の魔獣戦士・ルディ(cn0018)は、急いでいるという割にはゆっくりと話し始める。
「マスカレイドとはちと無関係なんだが、このままだと悲惨な最期を迎えそうなヤツが居てな。放っておくわけにもいかねえし、助けに行こうぜってわけだ」
 お前等もそういうの放っておけない口だろ? とニヤリと笑みを浮かべるルディ。
「とある村に住んでる美女――いや、美少女、いやいや……まあいいや、そういう感じのヤツがだな、結婚の許しが出たことを恋人に伝えるために峠道を進んでるんだが――どうやら運悪く腹をすかせた狼と出くわしちまうらしい。このままじゃ折角許しが出たってのに、恋人に会うこともできずに逝っちまうだろうよ。でだ」
 身を乗り出しまるで内緒話をするように声を落とすルディ。その表情は悪戯を計画している子供のそれだ。
「俺たちが先回りして狼を追い払っちまえばいいわけだ。簡単だろ?」
 まあそれが妥当だろう、というようなエンドブレイカー達の顔を満足げに眺めたルディは、テーブルに置かれた水を一息で飲み干す。
「肝心の狼だがな、数は3匹で峠道の途中にある茂みに身を隠しているらしい。ただ空腹で気がたってるからかは知らんが、見つけてくれとばかりに常に唸り声をあげてるらしいな。見つけたあとは倒すなり追い払うなりすりゃ問題ない。ま、あとは茂みにでも隠れて女が通り過ぎるのでも見守りゃ今回の仕事は終わり。ちゃんと村に着けるか心配なら後ろをつけて行きゃあいい」
 手をたたき、話の終了を告げるルディ。そろそろ行かねばならない、ということだろう。
「さーて、ちょっくら気合い入れて行こうぜ!」


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参加者
アイスレイピアの魔法剣士・ラズネル(c00050)
シールドスピアの魔法剣士・ベル(c00107)
大剣の魔獣戦士・ルミーク(c01269)
鞭の魔法剣士・ア(c01635)
大鎌のデモニスタ・ヘクセ(c02441)
竪琴の魔曲使い・カイジュ(c03908)
鞭の魔曲使い・フォートゥ(c08561)
槍のスカイランナー・オノノ(c08703)
NPC:爪の魔獣戦士・ルディ(cn0018)

<リプレイ>

●先回り
「はぁっ、はぁっ……」
「おいおい、大丈夫かよ」
「だ、大丈夫です!」
 峠道を先行していた爪の魔獣戦士・ルディ(cn0018)が振り返り、後方を走る――というよりは競歩、といった状態で何とかついてきている大鎌のデモニスタ・ヘクセ(c02441)の息も絶え絶えな様子にペースを落とそうとする。しかし歯を食いしばり前方を睨みつけたヘクセは、これぐらいで根をあげるものか、とスピードを上げ仲間達に追いつく。
「ところで、途中道をはずれて茂みを突っ切っていったりしてますけど、本当にこの進路で大丈夫なんですか?」
「ん……? ああ、そのことなんだが――」
 大剣の魔獣戦士・ルミーク(c01269)の問いに、ルディは要領を得ない様子で頭を掻き唸る。仲間達の間を「まさかこのオッサン適当に走ってたんじゃ……」という不安が走りぬけ、ルディに白い目が集中する。当のルディはといえば、気にした様子もなく言葉を継ぐ。
「なんか酒場での話を聞いてた奴が居たみたいでな、わざわざこの周辺の近道とかを教えてくれたんだよ」
 少なくともこの道程には根拠はあるらしい。あからさまに安堵の吐息を漏らす仲間達。
「世話焼きな人も居るんだねー。……どうせなら、山菜とかの情報も欲しかったかな」
「違いねぇ。――そういや、酒はちゃんと持ってきたんだろうな?」
「ウィスキー系なら適当に。……まあアレだ、これだけありゃ足りるっしょ」
 鞭の魔法剣士・ア(c01635)がウィスキーを取り出した瞬間、槍のスカイランナー・オノノ(c08703)とルディが歓声を上げ目を輝かせる。酒瓶という実物が出たことで興が乗ったか、走ったまま持参した酒を見せ合い盛り上がっていく3人。
「もう、まだやることは残ってるんですよ」
 そんな酒飲み達の会話を、苦笑とも呆れとも取れるような顔で見ていたシールドスピアの魔法剣士・ベル(c00107)が釘を刺すように言うと、3人は酒瓶を仕舞い込み怒る親から逃げる子供のように走る速度を上げる。
「余裕があるのはいいことすね。まあ流石に今からお酒を持ち出すのはどうかと思うすけど」
「うっ、なかなか耳が痛ぇな」
 鞭の魔曲使い・フォートゥ(c08561)の言葉を受けた3人は、目を逸らしたり口笛を吹いたり、とこれ以上の追求はしてくれるなとでもいった様子で速度を上げ続ける。
「まあまあその辺で……とと。そろそろついてもいい頃では?」
「おっと、いけねえいけねえ。丁度この辺のはずだ」
 話を変える意図があったのかどうかは不明だが、竪琴の魔曲使い・カイジュ(c03908)の声を受けてルディが足を止める。辺りは一見すると何の変哲もない峠道だが――。
 グル、グルルルルゥ。
「――いますね。そこの茂みにいち、にい……3匹とも揃っているみたいです。予定通り、狼達には少し怖い目を見てもらいましょう」
 レイピアに手をかけながら、茂みを睨みつけるアイスレイピアの魔法剣士・ラズネル(c00050)。
 そしてエンドブレイカー達が見つめる中、腹を空かせた獣達が飢えを満たさんと茂みを飛び出して来たのを合図に、戦いの火蓋が落とされたのだった。

●飢えたモノ
「ひぃぃ……狼でたー! みみみ、皆がんばって!」
「はいはい、一緒に頑張りましょうねー」
「うわわわっ! うぅ……ベルニーさんのためだもんね」
 へっぴり腰で人影に隠れるようにしているオノノの背を押し、自身も前に立つベル。峠道での元気はどこへやら、といったオノノであったが、既にやる気満々といった仲間達や狼達の様子に溜息をつきながら得物を構える。
「ええいっ!」
 狼のどてっ腹に、ルミークが小柄な体躯に似合わぬ程の大剣を振り抜き叩き込む。弾き飛ばされる狼の姿に思わず会心の笑みを浮かべるルミークであるが、その狼の影に隠れるようにして接近していたもう1匹の強襲に頬が引きつるのを感じる。
 グルアッ!
「危ないっ!」
 叫びながらヘクサが黒炎を打ち込むが、その黒炎を突っ切るようにして姿を現した狼がルミークの腕に食らいつく! 肉を裂く痛みに歯を食いしばったルミークの口から、搾り出すような苦悶の声が漏れる。流れ落ちる鮮血に狼の口が一瞬で染まり、このまま腕を食い千切ろうとした瞬間――慌てた様子で飛びずさり距離をとる狼。
「それ以上はさせません」
 手にした竪琴をかき鳴らし険しい表情で狼を睨み据えるカイジュ。せつないメロディも、魔曲として奏でられれば敵対する者への攻撃にも変わるのである。
「今治してあげるすよ」
 軽やかに、そして楽しげにステップを踏み始めるフォートゥ。すると牙によって穿たれたルミークの傷が、見る見るうちに癒えていく!
「さあ反撃といきましょう。――君らには悪いが、これからお腹を満たすことは出来ませんよ!」
「ヒュー、いいねいいね。こりゃあ俺も負けちゃいられねぇな」
「おじさんは負けてもい――いや冗談、冗談よ? うん、まあアレだ頑張るか」
 レイピアを抜き放ち狼達へと駆けるラズネルの姿に歓声を送るルディ。一方やる気のなさそうな発言をしたアはといえば、仲間達の白い目を感じると誤魔化すように咳払いをし雷撃を放っていく。
 飢えた勢いでエンドブレイカー達と互角に戦っていた狼達。しかしそんな両者の拮抗も、元々数の上で有利であったエンドブレイカー達が押し切るようにして破られていく。さらにその状況を後押しするように――。
「いっだだだ、噛むんじゃねえ馬鹿ヤロウ――って、ありゃ?」
 噛み付かれた足を押さえるルディであったが、一瞬のうちに血は止まり傷は塞がる。何が起こったのかと周囲を見渡してみれば、少し離れた場所に人だかりがありその中の1人が頑張れとでもいうかのように笑顔で親指を立てている。
「一体、何が……?」
 仲間達の中から呆然とした声が漏れる。そんな声も聞こえているのか聞こえていないのか、人だかりからは攻撃や回復がポンポンと飛び交っている。
「と、とりあえずチャンスですね!」
 気を取り直すように狼に向き直るヘクセ。あの人だかりが何かはよくはわからないが、加勢してくれているのだから問題はない、ということなのだろう。
「世話焼きな人達がいる……ってことすね」
「あり難いことですね。これで攻撃に専念できます」
 カイジュの言う通り、わざわざ回復をしなくとも勝手に飛んでくるため、段々と攻撃に精彩を欠いていく狼達に比べエンドブレイカー達はほとんど無傷のまま戦闘をこなすことが出来たのであった。
「いやー、何か悪ぃな。でもま、それでもおじさん手加減とかメンドくせーコトはヤなんだわ」
 アの放つ電光が狼の足を打ち抜く。すると既に怯み及び腰になっていた狼達が、しきりに背後を気にし始める――それは逃げる算段のようにエンドブレイカー達には思えた。
 だから。
「これで、終わりにしますよ!」
 後はそっと背を押してやればいい。残像を纏ったラズネルのレイピアが狼達を襲ったとき、狼達は一も二もなく茂みに姿を隠すようにして逃げ出したのであった。
「もう人里に降りてくるなんてやめるんですよ!」
 逃げ去る狼達の背に叫ぶラズネルが、数度空を切りレイピアを鞘に収める。逃げ出した狼達を無理に追う必要はない、そういうことなのだろう。

●ベルニーとケインス
「ご結婚ですか? おめでとうございます。幸せになってくださいね」
「ふふ、ありがとうボク。でも、これからは狼退治なんて無茶しちゃダメよ?」
 頭をくしゃくしゃと撫でられるルミーク。狼退治に来た駆け出し冒険者としてやってきたベルニーに同行を申し出たルミークであったが、どうもベルニーは小さな男の子がそういう設定で遊んでいるものだと解釈してしまっているらしい。本来無茶していたのはベルニーの方なのだが、何故か逆に窘められてしまうルミークであった。
「あ、あはは……では村に着いたようなので、僕はこの辺で。あっ、そうそう。これをどうぞ」
 小さな木彫りのお守りをベルニーに渡し去っていくルミーク。目を細め微笑ましいものを見るようにルミークを見送ったベルニーは、お守りを仕舞うと迷いなく村を進んでいく。目的地は村の広場――この時間ならば、仕事は中休みに入り広場で休憩しているはずだからである。
「ケインス!」
「うわっ、どうしたんだいベルニー。急に訪ねてきて」
 自らの名を呼びながら駆けてくる恋人に、驚き目を丸くしているケインス。何時もであれば彼女は食堂で働いている時間であり、自分の村に居ることなどありえないからである。まして――彼女の父に結婚を反対されてからというもの、外出にも厳しくなったようで専ら自分が会いに行くのが常になっていたからである。
「これからは、ずっと一緒なのよ。ケインス」
「ずっとって……もしかして」
「ええっ、そのもしかしてよ」
 わざともったいぶる様な言い回しをするベルニーであったが、それの意味するものは一つであり、ケインスも既に喜色を顔中に浮かべている。
「父さんがようやく折れたのよ! 好きにしなさいって!」
「本当かい!? 本当に……許してもらえたのかい!」
「ええ、ええ」
 ひしっ、と抱き合い口付けを交わす恋人達。真昼間の広場には多くの人がおり、囃し立てるような声がそこら中からあがる。
「ども……なんかいいことでもありましたか?」
 実は峠から今まで一部始終見ていたフォートゥが、しれっと通りすがりを装い2人に話しかける。そして2人からお腹いっぱいになるほどに惚気話を聞くと、まだまだ話したそうにしている2人を手で制する。
「まあ、通りがかったのも何かの縁でしょうし、お祝いだけでも言わせてください。おめでとうございます! それじゃ、お幸せに!」
 そうしてそそくさと立ち去るフォートゥ。これ以上惚気を聞かされれば胸焼けがしてしまいそうなため、逃げたのであった。広場にいた人々も、これ以上聞かされずに済む、とほっとしている様子であった。
「ふふっ、2人の愛に祝福のあらんことを」
 そんな人々に混ざり、2人への祝福を祈っているのはベルである。そんな彼女の視界の先では、またもや恋人達が口付けを交わさんとするところであった。
「お二人共、お幸せに」
 辺りから起こる歓声に被さるようにして、カイジュの歌が広場に響き始める。幸せを歌ったその調に耳をすませるように、人々の声が静かに引いていく。昼間にも関わらず歌以外は静寂が支配する広場の中心に、幸せそうに抱き合っている2人が確かに存在した。
「幸せになれそうで良いですねぇ。わたくしもいつか――」
 そこまで考えて、自分がとんでもない事を口走っている事に気付いたヘクセは、ぶんぶん、と赤くなった顔を振ってなかったことにしようとする。もっともそんな程度では自分を誤魔化すことも出来ず、頬を手で覆い隠すと恥ずかしげにうぅ、と唸り声を上げる。
「……それにしても、ラズネルさんも最後まで見ていけばよかったのに」

●宴じゃ!
「『風呂を覗けるのなら覗いてみたい』なんて! そんなこと言ってるから独り者なんだよルディさん!」
「うるせぇ! 覗けるもんなら覗いて見たいって思うのが男だろうが!?」
「ルディにーさんはもうちょっとオブラートに包んだほうがよくね?」
「そう言いながらアさんもさっきからアタシの胸ばっかり凝視してるけどね!」
 山菜鍋をつつきながら、ほろ酔い気分で盛り上がっている3人組。「山の幸お楽しみツアーのヒトはコッチー」「ベルニーさん達の幸せ願ってかんぱーい♪」と宴を始めたのもつい先ほどであるが……既にいい感じに出来上がりつつある。
「いやはや、もうすっかり酔っ払ってます?」
「おっ、ラズネルじゃねえか。どうだったよやっこさん等は」
 赤ら顔の酔っ払い達の質問に、満面の笑みで返すラズネル。ベルニーとケインスが無事に会い抱き合った時点で戻ってきていたのである。
「ハッピーエンドの味は、誰のものでも格別ですね」
「そうか、格別か! がっはは、上手いこと言いやがる。ほらっ、お前も飲め!」
「勿論。――まあ、それにそのお酒は私が持ってきたものですしね」
 差し出された杯を受け取り、ルディの持つ酒瓶を見る。それは確かに山菜組用に、とラズネルが渡した酒であった。
「ちょっ、オノノ、ソレはやば、ウィスキーの一気飲がばがばがば」
「あっはははは! アタシの酒を飲めー!」
 オノノの絡み酒に撃沈寸前のア。そんなアの様子何ぞ知ったことか、と真剣にオノノの胸の大きさを目算しているルディ。あまりにも自由すぎる現状に、下手に巻き込まれぬよう酒を嚥下しながら傍観することに徹しているラズネルが、そっと口を開く。
「そのうち皆も帰ってきますね」
「それじゃあ飲めるのももう少しじゃねえか、よーっしペースあげるぞ!」
「おー!」
「……お、おー」
 もう少しと言いながらも、結局皆が帰ってきても騒ぎは続くだろう。
 なぜなら宴はまだ、始まったばかりなのだから。



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参加者:8人
作成日:2010/04/22
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