ステータス画面

<オープニング>

●筋肉魅了
 すらりと伸びた手足、しなやかなラインを描く顎。涼やかな目元は、麗しの女性さながら。
 物語の中の王子もかくや、と道行く女性たちの熱い視線を集める青年にも悩みはある。しかも、誰もが羨むその端麗な容姿で。
「どうせなら、僕も貴方のような男に生まれたかった」
「はっはっは。嬉しい事を仰って下さる」
 自室に招き入れた男の体格は、見事な逆三角形。仕立ての良い白のスーツを嫌味なく着こなし、口元にだらしなくならない程度に蓄えた無精ひげがこの上なく似合っている。
「それにしても……」
 青年の視線は、男の腕の辺りをそろりと滑った。
 衣服を纏っていても分かる、隆々とした筋肉。華奢なティーカップを口元へ運ぶだけで、上腕二頭筋がぴくりと跳ねる。
「ん、どうしましたかね?」
「あ、いえ。見事な体躯だなぁ、と改めて。どうやったらそれほど鍛え上げられるのでしょう?」
 男の視線に促され、青年は素直な問いを口にした。
 途端、男は得たりと口元に弓形月を描く。
「ご覧になりますか?」
「え?」
 あくまでも優雅に。
「そこまで褒めて頂いたのですから、御礼ですよ」
 丁寧な所作でティーカップをソーサーに戻し、ジャケットをするりと脱ぎ落とすと、きっちりと絞められたタイの結び目を緩めてシュッと軽やかに抜き取る。
「あ、あのっ」
「筋肉とは、直に見てこそ美しいものですから」
 青年のものとは比べ物にならない節くれだった男の指が、丁寧に一つ一つシャツのボタンを上から外していけば、胸元に銀のドッグタグがキラリと姿を現す。そしてその下には、青年が思い描いた以上に美しく鍛え上げられた見事な筋肉がむっちり、みっちり。
「せっかくです。触ってみられますか?」
 たくましさの象徴とも言える大胸筋が、ぴくぴくぴくり。
「あ……あの、出来れば広背筋を……」
 何故か頬を薄紅に染めた青年は、男の美しい肉体に魅了されたように白魚の如き指を慎ましやかに、されど大胆に伸ばす。
「構いませんよ、存分に。何でしたら、一緒にトレーニングしますか?」
「はっ、はい。是非!」
 感極まった青年は気付かない。
 超美筋肉に魅入った後の、男の的確な指示を受けての筋力トレーニング。泥臭さとは無縁の額に、真珠さえも恥じ入るような光る汗を浮かべている間に、書棚の抽斗に仕舞っておいた鮮やかな赤色の大粒な宝石が忽然と姿を消したことに。
 彼がその事実に気付くのは、教えられた鍛錬に少し飽いた数日後。
 部屋を訪れた母に所在を問われた、その直後。

●怪盗、漢
「あのね、怪盗が出たんだよ!」
 酒場のテーブルにずずいと身を乗り出し、アイスレイピアの魔法剣士・リコッタ(cn0109)はキラキラと輝く瞳で居合わせた面々の顔を覗き込む。
「ハルナさんが聞きつけてきた宝石ばっかりを盗んで行くっていう例の怪盗たち。みんなも知ってると思うけどさ」
 ハンマーの天誓騎士・ハルナ(c20456)が耳にした話に始まった怪盗がまた出たんだよ〜と、リコッタは長く尖った耳先を興奮気味にぴくりと揺らす。
「ボクが見つけて来た今回の被害者さんは、大きな通りに面したお屋敷の跡取り息子さん!」
 繊細な美貌の持ち主の彼の名は、エイデル。誰もが羨む秀麗な面立ちや、すらりとした体格に実はコンプレックスを持っているらしい。
「お父さん、お母さんがお留守のときに、街で見かけたマッチョな人をお屋敷に招いてるって、ちょっとした噂になってるみたいだよ」
 そんなエイデルが、次の日曜に自宅へ招き入れる相手が怪盗だった、というのがリコッタの視たエンディングだ。
「と〜ぜん、この怪盗はマスカレイド。となったらボク等の出番、そうだよね?」
 ぐっと握り締めた拳から紅蓮の炎が上がりそうなくらいに、使命感に燃える少女は熱い。
「この怪盗はこれまでのマスカレイドと同じように、狙うのは宝石だけで、人的被害はゼロ。もちろん、屋敷の前で待ち構えちゃったりしたら、戦闘は配下に任せて自分はすたこらさっさと姿を消しちゃうに決まってる」
 屋敷は大きな通りに面している。相手を怪盗と知らずに伴った青年を巻き込んで、人目につきまくる場所で大乱闘を繰り広げれば――結果は夢を見るよりなお容易く想像がつく。
「だから、この事件を解決するには! 怪盗より先にお宝をゲットして、挑戦状を叩きつける〜っ!」
 ずびし、とリコッタが何処とも知れぬ中空に指先を突きつけた。
 どうやら、この「挑戦状を叩きつける」というシチュエーションが、昂ぶる少女の心の妙なスイッチを押したらしい。
「宝石のあったところに挑戦状を置いておけば、怪盗は間違いなくこっちの誘いに乗ってくると思うんだ。だって、彼らが欲しいのは『宝石』だからね」
 宝石を怪盗より先んじて盗み出す方法は、みんなで考えてもらってOKだよ、とリコッタははち切れんばかりの笑顔で立てた親指を突出しパチリとウィンク。
 難しい事を自分で考えるのは面倒だから、丸投げお任せなどとは流石に口にはしない。
「一応参考までにの情報だけど、日曜日の前日、土曜日もエイデルさんのお父さん、お母さんはお留守らしいよ」
 とは言え、屋敷にはたくさんの使用人たちもいる。
 人通りの多い通りに面した大きな屋敷、忍び込んで目的の物を気付かれず掠め取って来るにはそれなりの策が必要だろう。
 となれば、あまり愉快ではないけれど、マスカレイドの真似をしてエイデルの興味を惹くのは、確実かつ有効な手段である事は間違いない。
 いずれにせよ、上手く宝石を盗み出せさえすれば、後は挑戦状に認めたままに怪盗マスカレイドを誘き寄せて戦いを挑むところまでは上手く行く。
「ん〜っとね、肝心のマスカレイドだけど。渋いおじ様風のマッチョメンだったから」
 かなり体を鍛えてたし、武器らしい武器を持ってる様子もなかったから、使う能力的には群竜士さんたちと似てるんじゃないかな、と告げてリコッタは話を締め括りに入る。
「今までの事件同様に、戦闘になったら配下も現れると思うけど。そこはみんなの力が一つになれば、ばばんっと片付けられちゃうと思うし」
 あとあと。失敬しちゃった宝石は、『元の場所に返す』か、『拾得物として城塞騎士団に届ける』などすれば問題ないよ。
 からり、きらりと会心の笑顔を浮かべたエルフの少女は、期待に満ち満ちた瞳に自分の話を最後まで聞いてくれた者たちの顔を映す。
 そんな目で見つめられれば、早々に「一抜けた〜」と出来なくなるのが人の性。
 そして仮面の齎す不幸なエンディングを打破したくなるのが、エンドブレイカーの性。
「みんな、むっきむきに頑張ってね!」
 実はそれにも惹かれてたの!? そのツッコミは、敢えて口にせぬまま飲み込むエンドブレイカーたちだった。


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参加者
緑風の守護騎士・ステラ(c01833)
ポスタルデュード・パトリック(c02456)
全身鋼鉄の全身全霊・サークル(c03518)
暁天の武侠・タダシ(c04307)
はんなり・キサラ(c05188)
ハンマーの魔獣戦士・ゴルドバトス(c11489)
紅き閃光・リゼット(c12222)
寂寞の唄・アニス(c14190)
流焔の黒騎士・ブレイズ(c14643)
幻朧燭灯・ファウナ(c22864)

<リプレイ>


「いずれの筋肉にも無駄がなく美しい」
 ほぅっと熱い視線を送ってくるエイデルに、暁天の武侠・タダシ(c04307)はむず痒いような感覚に襲われる。
 上半身はタンクトップ一枚。少ない布地から溢れ出る筋肉は、実戦で鍛え上げて手に入れたもの。あくまで『実用品』と考えるタダシにとって、『美しい』という感覚はない。
「そんなにコレが欲しいなら、相談に乗るのはやぶさかじゃないぞ? ただし、誰かを殴り飛ばすための筋肉だけどな」
 それでもいいのか? と今にも折れそうな美青年を覗き込むタダシの視界に、「あぁら、ちょっと待ってヨ」とハンマーの魔獣戦士・ゴルドバトス(c11489)がフェードイン。
 居並ぶ巨躯を誇る男達の中にあってなお目立つ長身。口元に蓄えた髭は、ダンディに、そしてお洒落にツンと先端が上を向く――の、だが。
「ふふ、こっちもどう? これが鍛え抜いた上腕二頭筋ヨ」
 ご希望とあらば、お触りも存分にOKヨ、と親しげに話す口調は優雅におネェ。流れるように、スタイリッシュに、ついでにちょいと影を背負ってムッキリ筋肉アピールしても、喋りは立派なおネェ様。
 けれど筋肉に魅了されているエイデルには、そんなの関係ないらしい。
 エクササイズ仲間に、そのトレーナーと銘打った筋肉集団プラス可憐な女性2名の一行は、迎え出た使用人には思いっきり訝しがられたのだが、それを上回ってなお余りあるエイデルの強烈な熱意により屋敷に招き入れられていた。
「はい、タオル! あ、こっちにはドリンクもあるからねっ」
 緑の瞳を輝かせ、男たちの間をかいがいしく駆け回っていた緑風の守護騎士・ステラ(c01833)は、一息入れてエイデルの傍らでチョコンと姿勢を正す。
「みんな、凄い筋肉でしょ。鍛えてる男の人って、やっぱりカッコいいよね。筋肉と言えば、努力と鍛錬の証!」
 ステラの言葉に、エイデルは無言で物凄い頷きを返す。筋肉ファンの気持ちが、妙な所で繋がった。
「ところで、あの方は?」
「あぁ、ちょっと待っててね」
 アピールこの上ない男たちの中にあって、ただ静かに佇むだけだった全身鋼鉄の全身全霊・サークル(c03518)にエイデルの興味が向かう。すかさず彼の下に走ったステラは、サングラスの男の耳に背伸びして小さく耳打ち。
「……これまた美しい!」
 羽織ったコートを寛げれば、浅黒い肌が露わになると共にバランスよく育った筋肉が顔を出す。
「どうやって鍛えたらこんな筋肉になるのでしょう?」
「鍛えるのに必要なのは心です。要はどうなりたいか、ですね」
 純粋に紡がれた青年の問い。それに対しサークルは持論でもって実直な答を返した。
「心、ですか。なるほど、それなら僕にも見込みはあるって事ですか?」
「そうだぜ。健全な精神には健全な肉体を生み出す力があるんだ。何だったらお前専用のトレーニングプログラムを組んでやってもいいぜ?」
 後日改めて出直す事になるけどな、と身を乗り出した流焔の黒騎士・ブレイズ(c14643)の申し出に、エイデルの瞳にお星さまキラリ。
「え? 本当に!?」
「あぁ、任せておけ。俺的お勧めは剣の素振りだが、他も含めて色々検討してきてやるよ」
(「ブレイズさん、ナイスだよっ!」)
 ブレイズの身体を盾にして、ススっと壁際に寄ったはんなり・キサラ(c05188)は内心ガッツポーズ。マネージャー兼食事指導担当が名目の彼女の本当の役目は、宝石が隠された書棚を探すこと。
 隠れマッチョ好き、しかもダンディ&ナイスミドルがストライクゾーンのキサラ。うっかり皆に見惚れて仕事放棄にならないように、と気を張っていたが、それっぽい書棚が通されたエイデルの私室にあったので、筋肉堪能できるは、仕事も捗るはで一粒で二度美味しいことこの上ない。
 抽斗に指先を引っ掻ければ、鍵がかかっている様子もなく静かに開く。
(「見つけた」)
 歓喜は心の内に留め、キサラはポスタルデュード・パトリック(c02456)にパチリと合図。自分で失敬しないのは、安全性を増すため。
(「大きな声では言わないが、一度盗むという手段しか本当になかったのか――やるけど」)
 心の煩悶とは裏腹に、やる気は十分。逆説的心情の男、パトリックは巨体を仲間たちの陰に器用に隠す。そして、華麗に図太く――。
「とにかく、一番大事なことは続けることだ。体を作り変えるにゃ、どうしても時間が必要だからな」
 たった今、真紅の宝石と怪盗への挑戦状をすり替えた男とは思えぬ堂々とした口ぶりに、エイデルは至極真面目な顔で「そうですよね、続けることですよね」と反芻した。

「上手く行ってるかね?」
 幻朧燭灯・ファウナ(c22864)の呟きに、フットプリントで布をかけて作った隠れ場所の目印を残す寂寞の唄・アニス(c14190)は「大丈夫でしょう」と応えを返す。
「無事に戦闘出来そうな路地もラシェスタさんが見つけてくれたし、案内図もシャルトリューズさんが描いてくれたから完璧。それにあの筋肉さんたちなら、被害者さんも食いつき間違いなしですから安心して待ちましょう……でも」
 紅き閃光・リゼット(c12222)の力強い太鼓判。だが、その後に続いた思いつきは、想像を絶するモノだった。
「筋肉怪盗って動きにくくないんですかね? ここが細い路地だったら、あっと今に詰まって動けなくなりそうです」
「……」
「……」
 暫しの無言。
 むっきむきのマッチョメンが壁と壁の間に挟まって動けない。その図をストレートに脳裏に思い描いたファウナとアニスは片や爆笑を必死に堪え、片や自身の理性と格闘するのだった。


「お待ちしておりました」
 全身を覆う暗緑色の鎧を纏ったサークルは、泰然と構えたまま社交辞令を口にする。
「遅かったな! 怪盗ともあろうヤツが迷子になってんじゃないかって心配したぜ」
 夜陰に満ちた暗がり。堂々と仁王立ちするタダシの肉体を、カンテラの淡い光がより立体的に浮かび上がらせた。
「貴方たちですか、横取りしたのは。全く、このグゥイ様を出し抜くとは何事……」
 対峙するのは40代半ばのマッチョダンディ。タダシの肉体に対抗してか、流暢な口上を垂れながら何故か筋肉アピールポーズに余念がない。
(「闇に心を呑まれたって割には、随分と口が達者じゃないか。元から詐欺師の類か何かか? っていうか、キサラ見えるっ!」)
 袋小路の入り口付近に身を顰めたパトリックは、怪盗グゥイの行動にそんな感想を抱きつつ、それ以上に趣味どストライクな筋肉ダンディの登場に、隠れ場所から身を乗り出しかけているキサラの様子に肝を冷やす。
 そんな外野の動向など露知らず、舞台中央に立つ筋肉たちの会話は、今まさに戦いの火ぶたを切って落とそうとしていた。
「ならばっ、筋力づくで奪うまでです」
「やれるものなら、ご随意に」
 グゥイの指先がタダシへ突きつけられたのを切っ掛けに、サークルが右手を上げる。
 その、直後。
「素敵な筋肉さん! あなたの悪事もここまでだよっ」
 被っていた布を勢いよく脱ぎ去り、ステラがいの一番に袋小路に飛び出した。それに続く、この時を待ちわび隠れていたエンドブレイカーたち。
「怪盗さん、この手裏剣であなたを止めてみせます」
「えぇぇ!? いきなりですかっ」
 言うが早いか、というよりむしろ「この手裏剣で」の辺りでリゼットが投じた手裏剣が空を奔る。そこは全員揃ってポーズを決めてからじゃないのですか? と自慢の肉体に手裏剣をぷすりと刺したグゥイが愚痴を零す。
「あぁ、もうポーズとかいいから。やるの? やらないのかい? まぁ、そっちはやらなくとも、こっちはやるけどさ」
 一度聞けば耳に記憶が残りそうな印象的な声で、ファウナがすぱっとグゥイの拘りを斬って捨てれば、「それは勿論、やるに決まっていますけどね」と怪盗はいずこからか配下のマッスルを3人呼び寄せた。
 キサラが四方を走り、事前に設えておいたカンテラに火を灯せば、袋小路は立派な戦場に早変わり。
「それじゃぁ、改めて始めまショ? 肉体自慢の紳士さン」
 かなりな重量のあるはずのハンマーを風切る勢いで振り回し、肩に担いだゴルドバトスはクツリと笑ってグゥイをねめつける。
「前3人、厄介ですね」
 最前線に立つアニスが、赤い瞳を僅かに曇らせた。初撃と定めた星霊術士、しかしその前にセオリー通り陣取る群竜士のおかげで目的の姿を狙いに捕えられない。
「それなら前からぶっ潰すまで! とっとと終わらせて酒場で一杯引っかけようぜ」
 戦場の雰囲気を楽しむように爽快に笑ったブレイズに、それがベストですねとアニスは魔道書を下げソードハープを構えた。


「さっさとぶっ潰れろ、筋肉野郎!」
 割れた額からダラダラと血を流し、元来の血筋の良さをどこかに置き忘れた勢いのブレイズが筋肉達磨に勝利のVサインを叩き込む。
「充分な広さがある場所を確保したはずなんだけどね……なんだろう、この人口密度のえっらい高さは」
 先端に大きな赤柱石をはめ込んだ、杖と言うにはいささかごつい代物を構えたファウナはぽそりと呟く。戦場を渡るのは涼やかな夜風、のはずなのに。無駄に暑く感じるのは、仄かな明かりにキラキラと輝く汗の粒のせいか。
 前衛に立った者たちの息は、かなり上がっている。仮面側の回復役が上手い仕事をしてくれているせいで、存外に戦闘に時間がかかっていた。
 だが、それももうすぐ終わり。
「ほら、みんなしっかりするんだよ!」
 力技での使用にも十分に耐えそうな杖を掲げ、ファウナは淡い青に輝く魔方陣を地面に描き上げる。
 敵陣営にそれを気に掛ける者はもういない。グゥイに付き従う配下、前衛に立つ一体は既に仕留めた。開けた視界は後衛を捉え、サークルの放った火炎弾がマスカレイドの癒し手の狙い定める理性を奪っていたから。
「良い筋肉だけど、騎士として負けるわけには行かないんだよ!」
「行きます」
 垂涎もののグゥイの筋肉めがけ斬り掛るステラの横を、リゼットの放った手裏剣がするりと抜け、狙いを違わず前衛筋肉の喉を刺し貫く。
「これで、終いだっ」
 倒れた仮面を踏み潰し、パトリックが一息にグゥイ最後の配下に肉薄する。そして、一撃。蛇と黒い亀が意匠された左右それぞれのトンファーが唸り、より確実な手ごたえをパトリックに齎す。
 顎を砕かれたマスカレイドは、ふがふがと情けない音を発した後に息絶えた。
「さァ、残りは貴方だけヨ!」
 ゴルドバトス、胸筋を突き上げ美しいサイドチェストを決めてグゥイにズビシ。
「この筋肉勝負、負けるわけには参りませんっ」
 仮面怪盗、熱いモストマスキュラーで応えた。戦いの主旨が反れている気がしないでもないが、当人たちが大真面目なのには変わりはない。
 エンドブレイカー対マスカレイド。熱い暑い漢たちの最後の戦いの幕が上がる。
「って、危ない危ない。思わず魅入っちゃったよ」
 脳内でステキなナレーションを再生していたキサラは我に返ると、ニヤつく頬を摘み上げて気合を入れ直し軽やかにステップ。
「さぁ〜、一緒に踊るんだよ〜」
 主の陽気な声に、呼ばれた妖精は愛らしいダンスを披露。
「その筋肉、動きにくくはないですか?」
 そう問いかけ、リゼットは紅の扇で起こした颶風に乗ると、赤茶の髪をなびかせグゥイに突撃した。軽やかな少女と、むっきむきマッチョダンディの激突。
「筋肉は自然界最強の鎧なのです」
 勝敗は五分と五分。グゥイの肌に裂傷を刻んだのと引き換えに、リゼットは漲る筋肉パワーに弾き飛ばされる。
「さぁ、貴女もご一緒に」
 グゥイの瞳がアニスを捕えた。ずずずずぃっと接近する筋肉に対し、アニスの手は半ば脊髄反射で動く。
「――近づかないで下さい」
 ズバァ、と勢いで振り下ろした切っ先が、グゥイ自慢の胸筋を抉る。世界には色々な人がいるから面白いとアニスは思う。だから、女は寛容に振る舞える――自分が巻き込まれさえしなければ。
「怪盗サンの言い分には同意するケド、乙女を怖がらせないスマートさってのが大事とアタシは思うわァ」
 薄く血管が浮かび上がる腕を獣化させたゴルドバトスの一撃が、怪盗の上腕二頭筋を削ぐ。ぷるんと跳ねた口髭が華麗だが、アニスにとってはどっちもどっちに映ったに違いない。
「筋肉最高! でも倒さなきゃいけないんだよ、騎士として」
 家に伝わる剣でグゥイの筋肉を薙げば、ステラの胸も痛んだ。
「結局はただの窃盗犯、小物ってことだろっ」
「ふんむっ」
 身を翻しかけたグゥイの進路を先取りし、タダシが立ち塞がって同じ肉体を武器とする者同士、拳と拳で語り合う。
「何を企んでいようとも、押し通すまで!」
 全身を覆う鎧の重量をまったく感じさせない軽やかさで、サークルは暗緑色のガントレットで覆った腕を突き出す。仕込まれた杭打機は、的確にグゥイの左肩を貫いた。
「あ゛あ゛っ、私の宝石が……私の筋肉がぁっ」
「所詮、お前の筋肉などその程度ということだ」
「お飾りには用はなんだよっ」
 パトリックが両手のトンファーをワイルドに撓らせ、ブレイズの闘気が蒼き獅子となって吼える。
「殺しをしないからって、お前らを『怪盗』って持てはやすむきもあるけどさ」
 ファウナの指が虚空を指す。
「人を利用して欺いて。善意や好意を平気で踏み躙る、お前らみたいなのが私は一番嫌いだ」
 虚無より生まれ出る、邪剣の群れ。嵐の如く逆巻き空を駆けたそれらは、グゥイの筋肉を微塵に裂き、仮面の命を消し去った。


 パトリックの祈りと共に、筋肉達磨――もとい、怪盗たちの遺骸が消えて逝く。
(「墓荒らしに殺人が数件、今度は窃盗。まるっきり犯罪者、ですね」)
 流れゆく水のせせらぎを聞きつつ、サークルは胸の内を水底に沈めた。仮面を打ち倒す為ならば、これからも同じ事を続けて行く覚悟は出来ている。そんなサークルの物憂い鎧の背中を、キサラは何となくな気分でパシリと弾いた。
「この宝石、どうします?」
「勿論、返すに決まってる……勿体ないけど」
 リゼットの問いにパトリックが微妙な心理を漏らせば、笑いの輪が広がる。
「さぁさ、もう一仕事頑張ってもらおうかね」
「私は……その役目、謹んで辞退するわね」
 ファウナの激励に、そろりとアニスだけ視線を反らす。叶うなら、早々に帰宅してシャワーを浴びたかった。理由は敢えて言わないけれど。
「特別メニュー組んでやるって約束したしな。肉食と普段から動く事も伝えないといけないし」
「はいは〜い、私も行っきま〜す」
 ブレイズが袖を捲れば、ぴょんぴょん跳ねてステラも追随を自己主張。
「筋肉の約束は守ってやらないとな」
「そうですネ。もう一頑張りしまショ」
 頷くタダシに、ゴルドバトスは口髭を整えながらフフリと笑う。

 かくして、漢たちの戦い――一部素敵女子――は夜に沈み、闇に消えた。
 彼らの迎える新たな明日も、きっと華麗な筋肉に彩られているに違いない。多分。きっと。



マスター:七凪臣 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2011/09/13
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冒険結果:成功!
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