ステータス画面

瞳の略奪者

<オープニング>

 きらきらと光る一対の光。
 色は様々。ときに幸せそうな輝きを放ち、ときに悲しげな色に沈む。
 どんな宝石よりも素敵な輝石。まぁるくて、とっても綺麗。
 欲しいわけじゃないの。ただ見られれば、私はそれで幸せ。
 舌なめずりをしながら、少女は街をふわふわと歩く。賑やかな繁華街も、夜も更け――いや、夜が明けるのもそう遠くは無い時間か。そろそろ酒場なども静かになってきている。その場所に、少女の姿は場違いだ。そのような時間にそのような場所を、お酒も飲めないような娘が歩いているはずが、本来は無いのだから。けれども、人気もまばらになってきたし、歩いているのは酔っ払いばかり。誰も少女を咎める事もない。だから、少女も気にせずに道を進む。
 ふと、立ち止まって一本の路地裏に入る。噎せ返るような嘔吐物の臭いが漂った。視線を落とすと、酔い過ぎて吐いてしまったらしい男が一人、壁にもたれて座っている。
「お兄さん、大丈夫?」
 身を屈ませて、少女が男の顔を覗き込んだ。
「……ああ、ちょいと飲みすぎちまってね……どこの誰だか知らねぇが、ちょっと水でもくれねぇか」
 ぼんやりと視線を上げた男と、少女の視線がぶつかる。男の瞳は、酔いに多少曇っているけれども、とても綺麗な緑色をしていた。五月の新緑のような、瑞々しい色合い。それを見て、少女はうっとりとした表情を浮かべる。
「……お兄さんの目、とっても綺麗ね」
 少女の言葉に、男は訝しげに眉を寄せる。その様子を気にする事もなく、少女は続けた。
「私、綺麗な目の人って好きよ。……だから、ね」
 ――お兄さんの目も、私にちょうだい?
 その言葉について、何かを返す暇もなく――男の両目に、少女の細い指が差し込まれる。
 視界から光が奪われる。熱い。痛い。けれども、それを感じていられたのもほんの数秒。すぐに、自分の心臓に突き刺さる熱を感じて――男は、息絶えた。
 男にはもう見えなかったけれども、そのとき少女の両の手は、槍の穂先のような形状へと変化を遂げていた。血のついた両手の刃が、小さな白い手へと戻っていく。引き抜かれ、ごろりと落ちた二つの眼球を見下ろして、少女は満足げに微笑んだ。
「……明日も、綺麗な目の人に会えるといいな」
 
「自分の欲しいものが、人を殺さないと手に入らないとしたら、みんなはどうする?」
 集まったエンドブレイカーたちに、呼び出した少女――鞭のデモニスタ・アイシャ(cn0044)が問いかけた。反応に困った様子のエンドブレイカーたちに向けて、怯えるかのように震えてみせながら、アイシャが続ける。
「……そう、そういうことをするマスカレイドがいるの。瞳にすごい執着しててね、人を殺して……その目玉を抜いちゃうの……!」
 アイシャが見たエンディングはこうだ。夜明けの繁華街に、マスカレイドの少女がうろついているらしい。彼女は、あまり人気の無い路地裏に倒れている酔っ払いなどに声をかけ、その人の瞳を気に入ると、眼球をくり抜き、次に心臓を貫いて殺してしまうらしい。
「両手の先を槍のような形にして攻撃してくるみたい。二本分だから威力は大きいし、その手で突いてきたり、その手を回して竜巻を起こしたりしてくるの」
 自分が見たエンディングを書き込んだのか、メモ帳を見ながら、アイシャが説明する。
 マスカレイドになる少女は、昼間は普段どおりに生活し、夜中…酒におぼれて倒れる者も出てくる夜更け以降になってから、繁華街へと繰り出すらしい。そして、路地裏で倒れているような人を狙い、その瞳を奪って殺してしまう。
 誘き寄せること自体は、さほど難しくはない。酔っ払って倒れたフリを誰かがしていれば、向こうから寄って来るだろう。ただし、倒せばもちろん死体が残る。犯罪者として追われることのないよう、倒したらすぐに脱出をはからなくてはならない。
「……すごく痛そうだし、酷い事するよね。わたしも、放っておけない。だから、みんなと一緒に行きたいの」
 双眸をくり抜かれる痛みを想像して一度身震いしてから、アイシャはエンドブレイカーたちを再度見渡し、頭を下げた。面を上げたときには、にっこりとした笑顔。エンドブレイカーたちを励ますように、アイシャはこう続けた。
「これ以上痛いことさせないようにしなきゃ、ね。がんばろう!」


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参加者
杖のデモニスタ・アイシア(c00666)
ナイフのスカイランナー・ユースティリア(c01222)
槍の魔法剣士・ラゼルド(c02282)
大剣の魔獣戦士・ユイ(c03108)
鞭の魔曲使い・アリス(c03143)
斧の魔獣戦士・ブル(c03843)
杖の星霊術士・ロルカ(c08219)
杖のデモニスタ・ボーン(c10145)
NPC:鞭のデモニスタ・アイシャ(cn0044)

<リプレイ>


 人々が日々の疲れを癒すべく酒を飲み、語り合う――そんな繁華街。そろそろ人気もまばらになってきた頃、ふらりと一人の酔っ払いが、建物の壁伝いによろよろと歩いていた。手に持ったランプも、おぼつかない足取りに合わせてふわふわと揺れている。
「よ〜っぱらっちゃったなぁ〜」
 実際に酒を飲み、演技にリアリティを持たせた斧の魔獣戦士・ブル(c03843)だ。歩いていくブルとすれ違い、作戦が始まったことを理解し、槍の魔法剣士・ラゼルド(c02282)が小さく息を吐いた。
(「人の瞳を奪うとはずいぶんと良い趣味をしているな」)
 これから現れるだろうマスカレイドの所業を思い、呆れたように肩をすくめる。それを見て、マントとフードで得物を隠した、大剣の魔獣戦士・ユイ(c03108)が頷いた。
「かつて人だった者もただの敵と考えれば、話は単純なのかも知れないわね」
 本心では恐怖も感じる。それを押し殺すように、彼女は強気に笑ってみせた。
 ブルと、托鉢を行う修行僧とがすれ違う。杖のデモニスタ・ボーン(c10145)だ。二人はちらりと視線を一度かわすのみで、また離れていく。
 ボーンと、そして近くに隠れる、杖の星霊術士・ロルカ(c08219)が辺りに視線をやる。仲間たちが、他の酔っ払いたちを安全なところへと退避させている。他の路地を見張る仲間もいる。……ブル一人が狙われるように、と。
(「女の子は……どうして、マスカレイドに……なっちゃったのかな……。可哀想……だよ」)
 少女もまた、敵のことを考え哀しみを覚える。けれども――戦うしか、ないのだ。

 一方、人二人が入ってもそれなりに余裕のある路地裏には、杖のデモニスタ・アイシア(c00666)、鞭の魔曲使い・アリス(c03143)、鞭のデモニスタ・アイシャ(cn0044)、そしてもう数名のエンドブレイカーたちが隠れていた。事前に仲間より渡された黒布を被り、樽の陰に隠れ、夜の闇に溶け込んでいる。
「あまりこの雰囲気……好きじゃない」
 漂う酒の匂いにアイシアが眉を寄せる。その不快感を紛らわそうと、アイシャの脇腹をこそりとくすぐった。
「わ、わわわ」
「くすぐったい?」
「もう、びっくりしちゃった……思わず立ち上がりそうになっちゃった」
 身をすくめたアイシャが立ち上がりかけるように腰を浮かす。危ない危ない、と慌ててまた身を隠した。
「こういうのって、なんだかかくれんぼみたいでわくわくしますよねっ♪」
 アリスが二人に笑顔を向けた。その心中は、マスカレイドについて、瞳というものについて、色々と……考えていたのだけれども。
(「だってその瞳は、その人が持っているからこそ美しく輝くんだって、私はそう思うから」)
 だからこそ許される行為ではないのだ。アリスたちが意識を集中させるうちに、ブルの手にしたランプの灯りが見えてきた。

 屋根の上から、繁華街の路地を眺める姿ひとつ。ナイフのスカイランナー・ユースティリア(c01222)だ。灯りを持たず、目立たぬようにと身を潜めた彼女は、それらしき少女の姿を見つけた。ふらふらと路地裏に入るブルの後を追いかける足取りは至って静かで迷いが無い。獲物を見つけた獣のようである。ユースティリアが、ごくりと唾を飲み込んだ。
(「……来たっ」)


「おじさん、大丈夫?」
 しゃがみ込み目線をあわせ、座り込んだブルに、少女が近寄った。ややくすんだ茶の髪に同色の茶の瞳。その視線が、ブルの赤茶色の瞳と交わる。ブルが、曖昧な返事を返す。あまり大丈夫ではない、と装うように。
「……飲みすぎちゃったのね、たいへん」
 心配そうな表情を少女が浮かべた。ブルが少女の顔を見上げる。すると、少女の顔には、晴れやかなほどの笑顔が浮かんだ。その笑顔がかすんでいく。仮面が覆っていく。少女が、手を伸ばす。その手が徐々にかたちを変えていく。
「……おじさんの目、ジルコンみたいで綺麗ね。わたし、欲しくなっちゃうなぁ――」
 槍の穂先のようにその手が鋭く尖ったそのとき、それまで酔っ払ってへべれけの様子であったブルが立ち上がり、声を張り上げた。その手には斧を構えている。
「さて、戦らかすかいな!」
 それが、合図だった。とんっと屋根を蹴り、ユースティリアが宙を舞う。軽々とした身のこなしで舞い降りたユースティリアは、くるり後方に縦回転しながら蹴りを放った。みぞおちに直撃したその一撃に、少女がくの字に身体を折り曲げる。
「……っ、痛いじゃない……!」
 よろけながらも体勢を立て直し、逃げるべきかと辺りを見回すと――そこにはもう、彼女の逃げ場は無かった。 樽を蹴り布を捲り上げ、進路を阻むエンドブレイカーたち。そして、退路を阻むエンドブレイカーたち。
 ユースティリアが、壁を蹴って再び屋根へと飛び上がる。彼女が離れるタイミングにあわせて、アイシアが黒き炎をマスカレイドへと向けて放った。その攻撃を身に受け、口元を歪ませながらも、少女がその腕を振り回す。巻き起こる竜巻が、反撃とばかりにアイシアへ向けて放たれた。それを庇うように立ちはだかったのはブル。その強靭な肉体を切り裂くかのような衝撃に、口元は――いっそ笑みを浮かべるかのように歪んだ。
「やぁ、まだまだえぇ女を見つけたいからなぁ。めん玉はやれへぇんでぇ」
 にやりと笑うブルに、マスカレイドが苦々しげに舌打ちする。
「……随分と不恰好だが、それで槍のつもりか。……俺が本物の槍技というものを見せてやる」
 表情は変わらず、その動きは流れるように。ラゼルドが槍を構え、素早く前に踏み込んでその手の得物を少女へ向ける。高速の踏み込みは、寸分違わずにマスカレイドの右肩へと刺さった。その隙にと、ボーンが杖を掲げる。
「哀れな罪人よ…これより神罰を代行する…! 裁きを……!」
 杖が魔方陣を描き、無数の矢が生み出される。アーチの軌跡を描くように鋭く闇を裂いて敵に迫ったそれは、5連の矢束となって少女に突き刺さる。少女が苦しげにたたらを踏んだ。その様子に鼓舞されたように、アリスも声を張り上げて歌を歌う。魅惑的なその響きが、さらに少女を苦しめた。仮面の下の表情を窺い知ることは出来ないけれども、その肩が大きく揺れる。
「……痛いよね、でも……ごめん、ね……!」
 アイシャも鞭を持つ手を掲げ、黒炎を生み出す。一瞬の躊躇も、仲間たちのアドバイスに心を強く持ち、鞭を振り下ろす。押し出されるような形でびゅんと黒炎が少女に迫り、その身を焼いてゆく。黒き炎の向こうで、少女の体が揺れた。それでもまだ倒れない。少女がその両手を高く上げた。己を高めていくように。
「さぁ、キアイ入れて行くよ!」
 少女の腕の動きを見、僅かな隙を感じ取ったユイが体験を振り上げる。細身の体からは想像もつかぬ膂力で振るわれる大剣が、少女の胴体へと迫りかけ――がきん。少女の左腕の槍に止められ、それは決定打とはならなかった。
「……わたしの楽しみの邪魔をする人達は、ゆるさない!」


 少女が叫ぶ。そしてその両手を振り回し、竜巻を生み出した。狙ったのは宙を舞うユースティリア。彼女の動きを煩わしいと判断してのことだろう、そしてちょうど壁を蹴ったばかりだった彼女に、竜巻が迫った。だん、と壁に押し付けられて、ユースティリアが小さくうめく。
「スピカ、みんなを……守って……!」
 素早く動いたのはロルカ。優しき星霊スピカへの懇願は、すぐに愛らしき獣へと届く。スピカの抱擁に、苦痛に眉を寄せていたユースティリアの表情が和らいでいく。ありがと、と告げてアイシアとアリスの前衛に立った。前衛が増えたのを確かめて、ブルが前へと出た。仲間たる少女たちを庇うように。
「……そう、おじさん、そんなに目を取って欲しいのね」
 少女がくすくすと笑った。槍をブルへと向けて突き出す――。
「まぁ、ワシが倒れるんは問題無いしなぁ」
 飄々と告げながら、ブルがビーストクラッシュを繰り出す。ガキィン―――! 耳をつんざくような音とともに、少女の槍を、ブルの斧が交差する。鍔迫り合いの状態から、徐々に少女が押す体勢になっていく。その力はどこから生み出されるのか、槍の穂先が、ブルの肩へとじわりじわりと埋まっていく。
 アイシアが戦況を変えるべく、魔法の矢を少女に向けて放ち、ラゼルドの槍もそれに続いた。
「…気に入らんな。相手が俺の槍では不足か」
 ぶっきらぼうに告げる口調に、少女がラゼルドへと意識を向ける。そのとき、矢と槍と、前後から繰り出される鋭い二撃に、少女の攻撃が緩む。その隙にブルの斧が少女を押し切り、少女が吹き飛ばされた。解放されたブルは、大きく肩で息をつく。アリスが軽やかに地面を蹴って、幸せそうな舞を舞う。その朗らかなステップは、傷を和らげ元気にさせてくれる。
「ありがとな、アリスはん」
「いえっ」
 吹き飛ばされた少女は、表班の方へと倒れこんだ。素早く立ち上がった少女は、くるりと向きを変え、その槍をラゼルドへと向けようとする。けれども、それよりも先に杖を突き出したボーンの技が早かった。ボーンの生み出す黒炎が、ゆらゆらとゆらめきながらも、空気を鋭く裂いて少女へと迫った。立ち上がった少女は辛うじて直撃を避けるようにかわすも、左腕を炎が焼いていく。さらに、ロルカも魔法の矢を少女へ向けて撃ち放った。
「――わたしは、ただ……きれいな目にあこがれてた、だけ」
 大きく肩で息をしながら、少女が思いを吐き出す。
「それでも。奪うという事は、奪われるという事。覚悟、ですよ」
 アリスが真剣な表情で告げる。そして、ユイが駆けた。
「ごめんね、どうしても私達は貴方を殺さなきゃなんない!」
 恐怖に打ち勝った女の一撃は重い。振り上げた一撃は粗野ながら鋭く、薙ぎ払わんとするその一閃は、少女の胴体へとめり込んでいく。
 少女が口を開いた。何事かを呟くように。それと同時に、仮面が割れる。どさり、と少女の体がくずおれ、路地裏に転がった。


 倒れた少女の身体がもう動かない事を確かめ――ロルカがそっと花を手向ける。ちょうど、すぐ近くの花壇に咲いていた花だ。……一輪くらい失敬しても、酔っ払いの行いとみなされるだけだろう。
 ボーンは、祈りを捧げる。左から右、下から上――逆向きに着られた十字は死者への手向け。
「その魂、我が神の下で悦びと共に眠らん事を……」
 死者を手厚く弔う時間は無い。簡素ながらも祈りを捧げる。ラゼルドは、辺りの痕跡を確かめた。ただの酔っ払いの喧嘩の果てとでも思わせられるよう、怪しき痕跡は隠しておく。
「じゃ、後で落ち合おうっ!」
 ユースティリアが、そう皆に告げて、とん、と地面を蹴り上げ、屋根の上へとジャンプして登る。そのまま屋根伝いに逃走すれば、彼女の姿は目立たないだろう。そして、他のメンバーもそれぞれ走り出す。纏まって行動するよりは散らばった方が良いだろう、各々走り出した。
「マスカレイドの女の子じゃないけど、私も瞳の綺麗な人って好きだな。特に青い瞳って綺麗だよね」 
 アイシアが小さな声で仲間に語りかけた。マスカレイドとなった少女も、もとは――そのような、ちょっとした憧れを抱いただけだったのだろう。羨望が形を歪めて、いびつな蒐集癖へと変わる。変えたのは、棘(ソーン)。彼らにできることは、一つずつ、こうしてエンディングを防ぎ、マスカレイドを死を与える事になろうとも解放すること。エンドブレイカーたちは、決意新たに――じきに夜も明けるだろう、闇の中を駆けていく。



マスター:雨山滋 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/04/25
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