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綺麗な花にはトゲ団子

<オープニング>

●ある寒い日に
 都市国家の片隅に、小規模な庭園がある。最初は、ある裕福な家が大事な一人娘の為に作ったものだったが、娘が嫁いでからは一般の人々にも開放され、憩いの場となっていた。
「もう大分芽吹いて来たなぁ。直にいい季節になるぞ」
「そうですね親方。そしたらまたあのお嬢さんも……おっと、何でもありません!」
 今は花も少なく人の気配も薄いが、管理を怠る事は出来ない。庭師の二人は、今日も花の生育状況の確認と掃除の為に庭園を訪れていた。そんな中、ふと庭師の一人が庭園に奇妙なものを見付ける。
「あれ? 親方、いつのまにこんなものなんて」
「ん? 俺は何もしてないぞ」
 それは蔓で出来た球形の造形物。直径は身の丈ほどもあり、薔薇に似た花が一面に咲いている。不審に思って近付いたその時、不意にそれは蔓を伸ばし、庭師達に襲いかかって来た――!

●綺麗な花には……
「……で、庭師さん達は命からがら逃げ出したそうなんですが、蔓の怪物は庭園に居着いてしまったらしくて」
 竪琴の魔曲使い・ミラは、そう言って哀しそうに眉尻を下げた。庭園には花開く時を待っている小さな蕾も、この時期に気を付けてあげないと弱ってしまう植物も、残されたままなのだ。
「人が近付かないように庭園は封鎖してありますが、このままでは庭園が破壊されてしまうでしょう。そうなる前に、皆さんに退治してもらいたいんです」
 マスカレイドは関与していないが、庭師や花の季節を楽しみにしている人々の為にも、放っておくことは出来ない。それに、いつ庭園の外に出て来て人を襲うかも解らないのだ。真摯な眼差しが幾つか返って来るのを見て、ミラは説明を始めた。
「大きさは身の丈程。トゲのある長い蔓を振り回したり、体当たりしたり、といった攻撃をしてくるようです。」
 毒などは心配しなくていいが、トゲは鋭く、のしかかられた日には痛いどころでは済まされない。それから、見た目はほぼ同じで大きさだけが半分になった小さな蔓怪物も2体、お供として引き連れているようである。
 そして何より気にしなくてはいけないのは『庭園を酷く壊さない事』だ。敵の現在地は庭園中央の芝生広場。好き勝手にごろんごろんと転がって行くから、どうにか進路を限定させないと植物が巻き添えになってしまう。
「大きな音に惹かれるようなので、上手く誘導して下さいね。宜しくお願いします」
 それからお気を付けて。ミラは祈るように両手を組むと、そう付け足して話を締めくくった。


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参加者
アイスレイピアの星霊術士・ユリカ(c00339)
弓の魔法剣士・ラーナシェイラ(c00343)
杖の星霊術士・ヴィース(c01301)
鞭の星霊術士・ハサン(c01623)
トンファーの群竜士・リィ(c01846)
エアシューズのスカイランナー・ジンク(c03680)
扇の魔曲使い・カイジュ(c03908)
杖の星霊術士・ライク(c05242)

<リプレイ>

●庭園の主の座を
 未だ冷たい空気が庭園には満ちていた。しかし春の気配は少しずつ近づいて来ているのも確かで、これを乗り切れば様々な命が咲き誇る鮮やかな季節がやってくる。大事に育てられ、その生命の最盛を迎えようとしていた花々は、今、為す術も無く踏み潰される運命に晒されようとしていた。
「こいつら、どっから紛れこんだんだよ……」
 生垣からそっと芝生広場を覗き込んだエアシューズのスカイランナー・ジンク(c03680)は、とてもこっそりやって来れるようには思えない、堂々たる球体を見て思わず呟きを零した。元々活発に動くタイプではないのか、それとも日向ぼっこでもしているのか。時折暇そうに一転がりするぐらいで、トゲ団子達はその辺りから移動する様子は無い。
 時を同じくして、広場に設けられた反対側の入口からアイスレイピアの星霊術士・ユリカ(c00339)も顔を覗かせる。戦闘しても被害が増えそうにない場所を手分けして探していたが、壁際や道の両側には花壇か生垣が並んでいて、結局の所この広場を戦場に定めるしか無い、という結論を持ってだ。
 ジンクが地面を指し示す動作を見て、予めサインを定めていた訳では無いが、その言わんとする事を察せばユリカは頷きを返す。それを見たジンクは、待機している本隊にこの事を伝えるべく、静かにその場を離れた。

 一方こちらは待機中の本隊である。庭園の入口付近で待ちながら、偵察隊が戻って来るのを待っていた。
(「随分とまたはた迷惑なトゲ球ね」)
 弓の魔法剣士・ラーナシェイラ(c00343)は、辺りを見回して思う。庭園は、花の殆ど無いこの時期でさえ整然とした美しさを持っていて、庭師達がどれだけ心を砕いているのかよく解った。その努力の成果が表れる季節を前にして壊されてしまうのは、きっと悲しい事だ。早急に解決をと、心に決める。
「身の丈って言うと、結構大きいよねぇ。ほんとどこから紛れこんだのかな」
「何処かに親株があって、なんて事でなければいいんですが」
 ミラから伝え聞いた大きさの蔓団子を想像しつつトンファーの群竜士・リィ(c01846)が首を傾げれば、鞭の星霊術士・ハサン(c01623)は少し難しい顔をして考え込む。余裕があるならそこまで調べられればいいが、と思いながら、偵察隊の行った通路の向こう側を見遣った。
 待つばかりの時間というのはどうにも落ち着かないもの。逸る気持ちを抑える為に、杖の星霊術士・ライク(c05242)は、祈るように胸元に揺れるペンダントを握った。
「焦って事を進めても上手く行く事は絶対に無いだ」
 自分に言い聞かせるようにそう言って、気を落ち着かせる。流れを見極めそこに乗るように進められたのなら、きっと上手く行く。顔を上げたライクの視線の先に、駆け来るジンクの姿が映った。伝えられた戦場にエンドブレイカー達は頷き合うと、静かに奥へと進んで行く。

●気取った花弁
「あれ、……案外、可愛い」
 そして、全員が芝生広場へと集まった。杖の星霊術士・ヴィース(c01301)は、でっぷりごろんと広場の中央へ鎮座するトゲ団子親子を見てぽつりと声を落とす。瑞々しい蔓は如何にも柔軟性がありそうで、つついてみたら案外むにむにしているかもしれない。が、これは退治依頼。はたと気を取り直して、杖を握り直した。
「はいはいこっちですよ〜」
「お前さん達の相手はこっちだ!」
 扇の魔曲使い・カイジュ(c03908)が声高く歌い、また違う方向からはライクが叫ぶ。大した動きを見せていなかった団子達が、それに反応して蠢いた。一度はカイジュの方へ、しかし次いで聞こえたライクの声の方へ。更に別方向からハサンが叫べば、またそちらに。そうやって転がる方向を定めさせないでいる間に、エンドブレイカー達は団子達じりじりと取り囲んで行く。
 そして高らかに打ち鳴らされるは勇猛な太鼓の音、ではなく焦げた鍋を殴る賑やかな音である。杖でヴィースがガンガン打ち鳴らすと、親団子より身が軽いらしい子団子が先にそちらへごろごろ転がり始めた。その背中らしき方向へとマジックミサイルを撃ち出した。アビリティの弾数を気にする必要も無ければ、容赦の無い魔法の矢が団子に突き刺さる。
「単純ね、隙だらけ」
 ラーナシェイラの残像剣は、さながら舞踏でもしているかのような流麗な動きと共に子団子を捉えて切り刻む。団子が振り返ったような気がしたが、結局は大きな音の方へと惹かれて転がっていった。その前に立ち塞がったのがリィだ。
「荒ぶる竜を喰らえ!」
 すっと呼吸して狙いを定めれば、真っ直ぐな拳がその柔らかいのか硬いのか解らない子団子の身へ吸い込まれて行く。芝生を削りながら少し後退する子団子。負けじとごろごろ――向かう先は大きな音の発生源、ヴィースだ。手前の地面でびょんと跳ね、その顔面目掛けた捨て身の体当たりをしかけた。
「……っ!」
 咄嗟に翳したその腕にトゲが食い込んだ。重量も加わったその痛みは生半可なものではなく、零れそうな声を噛み殺す。更に痛むこと覚悟で振り払えば、あっけなく離れてぼてんと転がった。
「うふふふっ。いきますわ」
 転がった子団子にユリカが斬り付ける。冷気を纏った一撃が、蔓を何本か斬り落とした。
「さびしいですね。私とも遊んでくださいよ」
 そこにハサンの鞭が飛ぶ。きつく締め上げられた子団子は暫くもがいていたが、鞭から解放されて地面に叩きつけられる頃には、その動きを止めていた。

●災禍の花を切り裂いて
 残り二体ともなれば包囲もし易い。無事に取り囲むと、それを崩されない内にとエンドブレイカー達は更に攻撃を重ねていく。
「逃がしません! おイタはここまでです!」
 カイジュが高らかに歌い上げる切なげなメロディに、きゅんとなってしまった団子達の動きが鈍る。そこへ高く飛び上がったジンクが、真上から叩き付ける踵落としにも似たエアシューズの一撃は、ギロチンの如き勢いを持って多少では済まないダメージを与えた。
「はいはいはい! これは、オ・マ・ケ!!」
 ぐらぐらと危うげに揺れる子団子へ、リィがとどめとばかりに繰り出す怒涛のトンファーコンボ。鋭い蹴りに仰向けっぽい感じで引っくり返った子団子は、ほんの少し蔓を蠢かせて、それぎり身動ぎしなくなった。
「後はあなただけですよー?」
 ユリカのスピカによって、囮をしていた間に受けた傷を癒され、ヴィースがマジックミサイルを撃ち出す。標的は、動きが鈍過ぎていまいち何をやっているか解らない親団子だ。しかし流石の貫録と言うべきか、その一撃を喰らっただけでは大して利いている気がしない。ハサンの鞭が唸り、強かに打ち付ける。それにお返しとでも言うように、親団子の蔓がハサンへと伸びた。
「くっ!?」
「あっこら、離すだよ!」
 腕を絡め取られ、そのまません断でもしようかという勢いで締め上げられる。――しかしそこにライクがマジックミサイルを打ち込んだ。緩んだ隙にハサンはそこから抜け出す。
 その事に親団子が怒った、のかどうかは解らないが、じたばたと蔓を適当に振り回し始めた。それを避けてエンドブレイカー達が後退すると、そこに出来た距離で助走をつけるように、勢い付けて転がり始めた。行く先はリィ、その後背には蕾の多い生垣。ぐっと歯を食い縛り、その体当たりを受ける。
「さ……流石に、洒落になんない……よ」
 体が軋んで悲鳴を上げるようだった。それでも、守り切る。抵抗する術もなく踏み潰されるだけだった筈の、芽吹き待つ花々を。
「これで終わりにさせて貰うわっ」
 ラーナシェイラが、親団子の体の真ん中へ残像剣を叩き込む。獲物を狙う鋭き鷹の目の如く視線で見定めたそこは、まさに敵の急所。その舞いにも似た苛烈なる攻撃が止むと同時。巨体は崩れて、残るのはその外側を覆っていた蔓と、鮮やか過ぎる赤い花弁だけだった。

●笑顔、花開くように
「うふっ、よくやりましたわ、パイム」
 ユリカはスピカの頭を撫でてやる。静寂と平穏の訪れた庭園。エンドブレイカー達は、ついに勝利を勝ち取った。幸いにして荒れたのは芝生広場の一部のみで、酷く抉れた箇所がぽつりとあるぐらい。他は芝生本来の生命力で覆い隠せるぐらいのものだった。成果は上々と言えるだろう。
「一仕事でした……。今度は花を楽しみに来たいですね」
 きっと美しい筈だ。風の噂に遠く聞いた話でも、今こうして見ているだけでも、その情景が浮かぶようで、ヴィースは柔らかく目を細める。ハサンは少し苦労しつつも一部の蔓と花弁を採取する事に成功していた。挿し木ならぬ挿し蔓で生える気はしないが、標本にする為だ、と意味もなく言い訳を足してみたりして。
「なんとかなった、かな? 疲れたー、これを直すのは庭師さんに任せて帰ろう?」
 ぐるぐる腕を回しながらリィが提案すれば、辺りからばらばらと頷きが返った。そして一行は庭園を後にする。朗報を聞いてすっ飛んできた庭師達の感謝の言葉を背中で聞きながら、帰路を辿る。
 奇妙な侵入者の居なくなった庭園は安寧を取り戻す。そして寒さに耐え、鮮やかに世界を色づける季節を待ち始めるのだ。



マスター:播磨橋紅 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/03/12
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  • カッコいい12 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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