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空の鳥姫

<オープニング>

●空の鳥姫と魔法使い
 遥かな空を見上げれば、咲き初める勿忘草みたいな青が高く高く澄み渡る。
 風に乗れば何処までも翔けていけそうな青のなか、真白な翼を広げて優雅に飛ぶのは純粋な白を全身に纏った一羽の鳥。街のひとびとは皆空を翔けるその姿を眺めるのが大好きで、その鳥のことを空の鳥姫と呼んで愛していた。
 けれど意地悪な魔法使いが空飛ぶ鳥の姫ごと空の一部を切り取って、魔法で空色の翡翠に変えてしまったからさあ大変。街のひとびとは魔法使いを怖がって、誰も何も言えやしない。
 さあ行こうよ鳥の乙女達。
 街のひとびとは誰もあてにならないし、ひょっとすると魔法使いの手下も混じっているのかも。
 さあ行こうよ鳥の乙女達。
 空の鳥姫を救い出せるのは、まっすぐな勇気と純真な心を持った僕らだけ。

 水神祭都アクエリオのとある地方では、魔法使いの物語が子供達の人気をあつめている。
 空の鳥姫と魔法使いの物語もそのひとつ。勿論それは他愛のないおとぎばなしのひとつで、誰かが創作した作り話なのだけど、物語のモチーフとなった空色翡翠は実在する宝石だ。
 澄み渡る青空そのものが凝ったような美しい空色の中央に、翼を広げて飛翔する優美な鳥の姿を思わす優しい白の模様が入った翡翠。その名もそのまま『空の鳥姫』と呼ばれている空色の翡翠は、ある名家に代々伝わる家宝であり、そして――。
「……うちの一族だけじゃなくって、街のひとたちにも愛されてる宝石なんだよね〜」
 だから何としても取り返さなきゃと呟いて、手にした地図に目を落としていた青年は再び岩山を登り始めた。家宝の空色翡翠を取り戻すのは跡取りである自分の務めだと思ったし、何より、魔法使いの物語を愛するのと同じくらい『空の鳥姫』を愛してくれている街のひとびとに、再び鳥姫の姿を見せてあげたかった。子供らしい冒険心を掻き立ててくれる物語は、実のところ大人達も大好きなのだ。
 乾いた榛色の岩肌を登るたび、澄みきった青空が少しずつ、少しずつ近づいてくる。
 本物の空ではなく、山よりも遥か高みに広がる星霊建築の天蓋に映る空だけど、その澄んだ青と翔けぬける風に感じる爽快感は本物だ。
 宝石の在り処は頂近くの洞窟だと記されている。辺りの様子と地図を照らし合わせていた青年は、目当てのものを見つけて顔を輝かせた。
「あった! あの洞窟だ……!」
 けれど青年が駆け寄ろうとしたその瞬間、洞窟の前に三つの影が飛び降りる。
 あどけなさを残した少女の姿のホワイトハーピーが三体、通せんぼをするように翼を広げてみせた。
「来たわね魔法使いの手下! 鳥姫を攫っていこうったってそうはいかないんだからね!」
「いかないんだからね!」
「だからねー!」
 突如現れたホワイトハーピーたちは、空の鳥姫を奪っていった怪盗が置いた番人なのだろう。だが言っていることが何かおかしい。
「ちょっと待ってよ、魔法使いの手下って何の話だよ!」
「うるさい! 私達は騙されないんだからね……!」
 更に言い募ろうとした青年の言葉を遮って、ホワイトハーピーたちは一斉に彼へと襲いかかった。

●さきぶれ
「魔法使いの物語はね、おとぎばなしなの。みんなに夢を与えるために誰かが創った物語。んでもね怪盗は――それを『真実』としてホワイトハーピーたちに語ったんだよ」
 意地悪な魔法使いが君達の同族をこの宝石に閉じ込めてしまった。
 自分は『空の鳥姫』を救うための準備をしてくるから、それまで彼女を護っていて欲しい。
 もし自分や自分の仲間以外の誰かがやって来るなら、それは、魔法使いの手下だ。
 ――ってな感じ、と扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)は語る。
 彼女が視たエンディングは、『怪盗』ファルケインが残した地図を手掛かりにして、怪盗に盗まれた空色翡翠を取り戻しに行った青年がホワイトハーピーたちに殺されるという終焉だ。
 地図に記されているのは怪盗が盗んだ宝石の隠し場所。
 けれどそこには、他の者に宝石を奪われないよう番人も用意されていたというわけだ。
「殺されちゃうってわかったからには放っておけないの」
 どうかお願い、力を貸して、と金の瞳の娘がエンドブレイカーたちに願う。
「彼の代わりに――『空の鳥姫』を取り戻してきて欲しいの」

 美しい空色を湛えた翡翠には、ふわりと棚引く薄雲のような白い模様が入っていることがある。
「けれど盗まれた空色翡翠にはね、空飛ぶ白い鳥の姿みたいな模様が浮かびあがってるの。偶然に現れた、奇跡みたいに綺麗な模様」
 空を翔ける鳥姫ごと空を切り取って、宝石に変えた――なんて話を、ホワイトハーピーたちが心から信じてしまうほど。
 青年から託された地図をテーブルに広げ、記された岩山の頂近くにある洞窟をアンジュが示す。
「小さな小さな洞窟なの。入ればすぐ『空の鳥姫』を見つけられるはずなのね。けど洞窟に近づけば、ホワイトハーピーたちが黙っちゃいない」
 恐らく彼女らは姉妹なのだろう。
 長姉と思しき一体は、翼を震わせて生み出した音を激しい真空波として放ち、翼から抜いた羽毛を様々な形に変えて攻撃してくるという。妹達は姉を護るように前に立ち、スカイランナーめいた体術で襲いかかってくるとアンジュは説明した。
「逃げないの。宝石に閉じ込められちゃった同族を救わなきゃ、魔法使いの手下から護らなきゃって固く決意してるから、どんな劣勢になってもね、絶対に彼女達は逃げない」
 後顧の憂いを断つためには倒してしまうのが一番だ。
 説得は――恐らく、かなり難しい。
 彼女たちは怪盗の仲間を見分けられるらしく、自分達は怪盗の仲間だと言って騙すのは不可能。
 怪盗が話したのはただの作り話だとか、それはただの宝石で、鳥姫が閉じ込められているわけじゃないといった話も彼女たちは信じない。ホワイトハーピーたちにとって、『魔法使いが空を飛ぶ鳥姫を閉じ込めた』というのは、最早真実以外の何者でもないのだ。
 ならば、怪盗ではなく自分達が鳥姫を救い出す――という説得の方向が考えられるけど。
「上辺だけの、心のこもらない言葉は彼女達の心に届かない。……けれどね、必ず鳥姫を救い出してみせるよって心からの想いを乗せて語るのは、きっと、あなたたちもすごく、すごく辛いと思う」
 だって、それは――。

 説得は難しい。その上、説得するとしても戦いながらの説得となるだろう。
 どうするかはあなたたちに任せるね、と金の瞳の娘はほんの少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「あのね、また逢おうね」
 皆が無事に帰ってきたその後に。
 空の鳥姫とあなたたちの物語を、聴かせて欲しいと思うから。


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参加者
終着駅を探す涼風・レヴィア(c00515)
空の宅急便・カナタ(c01429)
翠狼・ネモ(c01893)
柘榴の燈火・ミステル(c01987)
戯咲歌・ハルネス(c02136)
フェイバーフッド・クリスティーナ(c03482)
スナーク・ミカギ(c05325)
歌の目・アエラ(c07470)
花凪ぐ白夜叉・スバル(c14069)
無翼の鳥・セラ(c26034)

<リプレイ>

●空の鳥姫
 翔ける風は乾いた榛色の岩肌を撫でて遥か彼方へ舞い上がる。
 振り仰いだ遥かな高みには星霊建築の天蓋に映し出された青い空。澄み渡る蒼穹へ手を伸ばす心地で登った岩山の頂近くへ至れば、地図に記されていた洞窟が姿を現した。
 途端、澄んだ陽射しの逆光を背に純白の翼持つ鳥の乙女達が舞い降りる。
「来たわね魔法使いの手下! 鳥姫を攫っていこうったってそうはいかないんだからね!」
「違うよ! 鳥姫を救う準備ができたの、助けに来たんだよ!!」
 洞窟の前に立ち塞がったのは、ホワイトハーピーの少女達。固い決意を瞳に湛えた彼女らの心に届くよう願い、フェイバーフッド・クリスティーナ(c03482)が訴える。
 ただ倒して宝石を取り戻すのでなく、説得する道を皆で選んだ。
「なんで魔法使いの手下が鳥姫を助けるの!? 嘘つき!!」
「嘘つき!」
「嘘つき!!」
 けれど鳥乙女達は叩きつけるように叫び返す。姉らしき乙女が翼を翻した瞬間、宙に舞った羽毛が彼女を護り、純白の竜と化した羽毛がクリスティーナへ襲いかかった。
 だが此方とて容易く説得が成るなどとは思っていない。
「嘘ではありません、僕らは鳥姫を閉じ込めた意地悪な魔法使いとは別の魔法使いです!」
 跳躍した妹ハーピーの一撃を仕込み杖で受けたのは花凪ぐ白夜叉・スバル(c14069)、受けとめたまっすぐな心に応えるように放つのは強大な魔力の球、けれど岩肌を削って駆けた力は姉の羽毛の護りに弾かれ霧散する。頑なな心を示すようなその光景に森色の双眸僅かに薄め、宙返りを打った鳥乙女の突撃を堪えた翠狼・ネモ(c01893)は、迷わず地を蹴り彼女らを越える高みから、妹二人の項に鋭い蹴撃を見舞った。
「わしらが其奴の手下なら、とっくにおぬし達を石に変えている」
「え。じゃあ……」
 地に叩きつけられた妹達が戸惑いを見せる。
「ばか! 騙されちゃダメなんだからね!」
 だが即座に姉の叱咤が飛び、風を打った翼が震えて耳を劈く不協和音を響き渡らせた。
 襲い来る真空波と不協和音を一身に受けたのは癒し手を護らんとしたネモ、ヒューくん、と呼べば宙に現れたクリスティーナの星霊スピカが星を撒きつつ彼に抱きついた。
 誰も倒させやしない。
 誰の言葉が、誰の想いが欠けても、鳥乙女達の心にはきっと届かないから。
 余程『怪盗』が巧みに言い含めていたのか、ハーピー達は聞く耳持たぬといった風情で絶え間ない猛攻を仕掛けてくる。宙に舞う妹達は捨て身とも思える突撃を繰り返して、姉はまるで此方の言葉を遮るかのように翼を震わせ激しい音を撃ちだしてきた。
 けれど、岩肌に反響する不協和音や翔けめぐる真空波を貫き響いた声がある。
「さあさ、お聞きになって! かの物語の続き、幸福へ至るべき最終章を!」
 紡がれるべきは誰の悲劇でもなくて、皆に幸福を齎す物語。
 芝居がかった口調で鳥乙女の気を惹いたのはスナーク・ミカギ(c05325)、大きな魔道書を手繰り語る言葉は皆で編んだ物語。封じられた鳥姫を救うためには多くのひとびとの愛と祈りが必要と説く言葉とともに迸った力が、姉の羽毛の護りを破砕する。
 純白の羽毛が散る様は頑なな心の殻に罅が入る様を思わせた。
 ――が、放たれた術はストーンカース。蛇影の姿を成した魔力が姉を捉え、その脚を石化させる。
「やっぱり!」
「やっぱり石にするんだ!」
 途端に響いた妹達の悲痛な叫びにミカギは苦い思いを飲み下す。この術で倒してしまうことのないよう注意はしていたが、腕や脚の動きを鈍らせる石化にまでは気が回らなかった。
「よくも!」
「よくも姉さまを!」
「違うの! お願い話を聴いて!!」
 声を震わせた妹達が跳躍する。瞬間、榛色の岩肌が薄氷に覆われ、淡い青藤色に透ける水紋が閃いた。ミカギを目掛けて突撃してきた妹は氷上を滑走した終着駅を探す涼風・レヴィア(c00515)が迎え撃ち、宙から急降下を仕掛けたもう一体を、水の煌き渡る仕込み杖から抜き放った刃の斬撃で戯咲歌・ハルネス(c02136)が押しとどめる。
「私達は街から来たの。鳥姫を護ってる貴女達の噂を聞いて、私達街の人間も立ち上がれたのよ。けれど鳥姫を救うにはひとと翼持つ者、両方の想いが必要なの。だから鳥姫を、空を私達に貸して」
 欺瞞だ。
 純真なハーピー達を騙すのだと思えば針のような何かがレヴィアの胸をちくりと刺したが、彼女らの想いを無にせぬためなら悪い嘘ではないはずだと己に言い聞かせる。
 誰もが幸せになれる結末を願う心は――真実のもの。
「絶対に鳥姫を解き放ち、本当の空を貴方達にお返しするわ」
 良心の呵責を呑み込み、毅然と告げれば、瞳を揺らした妹ハーピーが「姉さま」と意見を仰ぐように振り返った。ダメよと姉はかぶりを振る。
 けれど。
「意地悪な魔法使いを怖がってた弱虫のくせに! あんた達に鳥姫を渡したら、意地悪な魔法使いが簡単に鳥姫を攫っちゃえるじゃない!!」
 その叫びに姉の心の揺れも知れた。
 魔法使いの物語が彼女らを縛りつける。
 星降る森で、朝靄の草原で。様々な形で語られる幾つもの物語は皆に夢を与えるために生まれたはずのもの。――その物語を、その想い出を護りたいと願うことが、何故こんなにもままならない。
「強くなくては鳥姫を救えない。その点には同意しよう。――私達にその力があるか否か、自分達の目で確かめるといい」
 鳥乙女達の主導権を握るのは間違いなく姉だ。
 示すのは力と想いの強さ。まずは姉を、そして妹達を見据えてハルネスが告げれば、微かに頷いたスバルも仕込み杖から刃を引き抜いた。
「力を示す必要があるならばそうしましょう。しかし僕らが真に望むものはあくまで、貴女がたを含む『幸せな結末』なのです」
 眼差し交わし、二人は一斉に地を蹴った。
 対成すような月光の斬撃が妹達を抑えこんだ瞬間、まっすぐ姉を見つめた歌の目・アエラ(c07470)が魔力を乗せた歌声を揮う。
「大丈夫よ。私達はもう――意地悪な魔法使いを怖れたりしない」
 純真な鳥乙女達を慈しむような微笑み湛え、優しい子守唄を繰り返せば、姉の瞼が重たげに降りていく。けれど鳥乙女は激しくかぶりを振って、僅かに動きの鈍った翼を翻した。

●空の虜囚
 純白の翼から放たれた羽毛が優美な鶴となって空に舞う。
 斬撃で肌を翼を裂かれた鳥乙女達が大きく跳躍する。
 振り仰げば澄みきった勿忘草色の青空を、翼持つ者達が翔けていた。
「……空を飛べるあなた達が、すっごく羨ましい。ねぇ、ボクは飛べないから、青空を見上げるたびに狂おしいくらい焦がれるの。だから囚われちゃった鳥姫の辛さが解るの。助けてあげたいんだよ!」
 語るのは空色翡翠に閉じ込められた鳥姫の話、だが空の宅急便・カナタ(c01429)の胸にあるのは物語の鳥姫でなく、今眼の前にいるハーピー達のこと。『怪盗』の語った物語が彼女達をこの岩山に縛りつけている。彼女らの待つ『怪盗』が此処を訪れる日はもう来ない。
 このままでは何処にも行けない鳥乙女達。
 何者にも縛られず空を翔けることが許されない――彼女達こそが、閉じ込められた『空の鳥姫』だ。
 天蓋の星々繋ぐ絵筆には杖の魔力が凝る。放たれた力の源は今眼の前にいる鳥姫を救いたいと願う心。矛盾を抱えているかにも思える力は大きく膨れあがり、真正面から鳥乙女を捉えて爆ぜた。
 彼の言葉に僅かに眦緩め、地に落ちた妹目掛けてレヴィアが氷上を駆ける。
 純真なのは何もハーピー達だけではないから、万一の時には――自分が汚れ役を引き受ける。
 けれどぎりぎりまでは、心を尽くして。
「行って!」
「……わかった!」
 柘榴の瞳に一瞬苦いものが過ぎる。偽りが心を軋ませる。だが柘榴の燈火・ミステル(c01987)はそれを堪えて雷撃を放った。レヴィアの極光を貫いた雷光が幾重にも分かたれ拡散する。
 雷鳴が響いた瞬間、大地から立ち上がった雷の網が妹達を捕らえてその身に痺れを奔らせた。
「街には鳥姫の帰りを待つひと達がいるんだ。鳥姫だってきっと、待ってるひとの許へ還りたいはず」
「貴女達も鳥姫を大切に思っているのね。けれど街の皆も鳥姫を愛しているの、信じて!」
 彼女達の情の深さには心動かされるけど、空色翡翠をあるべき場所へ還すことだけは、譲れない。そんなミステルの意を汲んで無翼の鳥・セラ(c26034)が続けて語る。
 架空の物語の登場人物として鳥姫を愛するひとびとと、鳥姫を実在の存在と信じる鳥乙女達の心は同じではないけれど、大切に想う心はきっと、どちらも真実。
 宙へ跳躍したハーピーが雷の痺れを振り払う。マキビシを放ちトラバサミで彼女を捕らえて、真実を語るわ、とセラは言を継ぐ。
「鳥姫を救い出すには、沢山のひとが長い間お祈りしなければならないの」
 声が震えないように。真摯な口調で、出来うる限り誠実に。
 だって、それは――。

 嘘なのだ。

 誠実でなければ相手に心は伝わらず、けれど肝心要の処では嘘をつかねばならない。だからこそ、辛いと思う、と暁色の娘も告げたのだ。
 そんなに長い間あんた達で鳥姫を護れるの、と鳥乙女が叫ぶ。
 語る言葉で示すのが困難ならば、この身で示す。
「――それだけの力が、私達にはある」
 譲れないもののためには、その羽根を斬り捨ててでも往かせてもらう。唯一揺らがぬ己の『誠実』を証し立てるよう、ハルネスは魔道書を手に一片の迷いもない力を撃ちだした。不可視の衝撃が迸り、純粋な力となって鳥乙女の妹を打ち据える。翼を弾き彼女の体勢を崩した力が路をつくる。
 宙を翔けたネモが身を捻り、降下の威を乗せた蹴撃を叩き込めば――妹ハーピーが地に伏した。

●空の解放
 跳躍を重ねた彼の攻撃を堪えたもう一人の妹が負けじと宙に舞う。繰りだされるのは激しい回転を重ねた捨て身の突撃。前衛を薙ぎ倒す勢いのそれを追い越すようにして、姉ハーピーの撃ちだした真空波が荒れ狂う。
 流れる血を押しとどめたのはアエラ。皆の折れぬ心を鼓舞し支えるようあでやかに高らかに戦歌を唄いあげ、更には鳥乙女達への想いも乗せる。
「願いは貴方達も私達も同じでしょ、どれだけの想いが詰まってるかだって、もう解ったはずよ!」
「まだよ、まだ解んない!」
「解んない!」
「――いえ、貴女がたならきっと解るはずです」
 清かな月光で弦月の軌跡を描くようにスバルが重ねて斬撃を刻む。裂けた翼から鳥乙女の迷いが伝わってきた気がする。仲間のため命を張る彼女らに敬意すら抱いているのだと――どうか、此方の気持ちも伝わりますように。
 姉さま、と妹が再び戸惑いの表情で振り返る。
 畳み掛けるなら今だ、とクリスティーナが地を蹴った。戦いの間は後衛に下がっていたけれど、より強く心を伝えたくて前に出る。鳥姫を救い出すにはひとと翼持つ者の力が必要なのだから、貴女達の想いは無駄にならないと訴えた。彼女達の想いに意味がないなんて、絶対言いたくない。
「街に戻さなきゃ鳥姫は救えないんだよ。だからこれからは、空から貴女達の想いを届けて」
「そんなの……!」
 叫んだ姉の翼から羽毛が迸る。
 重ねた麻痺のためか羽毛は一度その形を崩したが、鶴の形を成した真っ白な羽がまっすぐ翔けて、クリスティーナの腹部を貫いた。
「お願い、助けてきてあげて……!」
 即座にカナタが星霊スピカを飛ばす。スピカはクリスティーナを、クリスティーナはハーピー達を。
 助けてあげて。
 歯を喰いしばる。膝が崩れかけたけれどスピカの力を借りて踏みとどまる。たとえ胸を貫かれたって絶対諦めない。諦めたらきっと「その程度の気持ちなんだ」って思われる。
 だからクリスティーナは、彼女達から瞳を逸らさなかった。
「ねえ、一緒に! 一緒に鳥姫を助けようよ!!」
「……っ!」
 石化された脚を引きずり、気圧されたように姉が後退る。
「頑張ったね。助けようって、必死になってくれたんだよね」
 誰もが幸せに至る物語、一緒に紡いでみませんか。
 謳うような口振りでミカギが手を伸べれば、姉の唇が微かに震えた。
 恐らく鳥乙女達はもう此方の言葉を信じかけている。だからミステルは武器を捨てた。
「――どうか、僕達に鳥姫を任せてほしい」
「……通さないんだから!!」
 姉が洞窟を背に隠すように翼を広げた。最早意地なのか、それとも、試しているのか。
 どちらでも構わなかった。ただ心を尽くして、伝えるだけ。
「ねぇ、その場所に閉じ込めて護ってるだけでは、君達の救いたいものは救えないよ」
「……空も見えん暗い洞窟に閉じ込めたままなら、鳥姫から翼を奪い封じるのと同じじゃろう」
 少し困ったような笑みでミステルが語り、静かにネモが告げたなら、あっと声をあげた姉が翼で口を押さえた。そんなつもりじゃと声を震わせる彼女に、翼を奪われる辛さは解るじゃろう、と畳み掛ける。
「ならばいっそ還してやればいい。――空へ」
 双方の戦意が消え、脚の石化も解けた。
 身を翻して洞窟へ飛び込んだ姉が持ち出してきたのは小さな宝箱。翼で器用に箱を開けて空色の翡翠を掴みとり、閉じ込めるつもりじゃなかったのと語りかけて空へと放り投げる。弧の軌跡を描いた空色の宝石が岩山の外へ飛んでいったから、駆けたネモも躊躇わずに地を蹴った。
「何するの!?」
 姉ハーピーの悲鳴を背に聴きつつ宙に跳ぶ。
 吹き上げる風の冷たさに瞳を眇めつつ手を伸ばし、落ちゆく空色の煌きをその手に掴んだ。足元に生みだした空気の塊を蹴りつける。元の場所に手は届くかと危ぶんだが――。
「……まったく、若いっていいね」
 身を乗り出したハルネスがネモの手を掴んで引きあげた。
 開いた掌の中には、美しい空色の中に白の鳥飛ぶ、空色翡翠。
「……人間って、飛べないんだよね?」
「うん。あなた達みたいには飛べない」
「…………わかった」
 姉ハーピーが訊けばカナタが頷いたから、彼女もまた頷いた。
 自分達が命を懸けたように、この人間達も命を懸けるほど鳥姫を思っているのだと理解する。
「貴女達翼持つ者が想いを注いでくれたから、今度は私達人間の番よ」
 長い長い時間がかかるの。
 けれどきっと、とレヴィアが請合い、アエラも穏やかに瞳を緩めた。
「唄に乗せて伝えるわ。広めるわ。そうしてたくさんの祈りを集めて、必ず鳥姫を救いだす」
「鳥姫を心から思う、貴女達が護り手でよかったわ」
 心からの想いをセラが語れば、鳥乙女達もぎこちない笑みを返したから、倒れた妹ハーピーに薬草治療を施していたミカギも破顔した。頑張ったね、と彼女の額を撫でてやって、魔道書から抜き出した一頁を見せてやる。

 それは優しい色彩で描かれた、街の人々に愛される鳥姫の挿絵。

 鳥乙女達に『怪盗』が語った物語には幸せな結末が贈られて、宝石の『空の鳥姫』は元の在り処へ還る。そして、『怪盗』の言葉に囚われていた鳥乙女達は解き放たれた。
 空の鳥姫はもう――何処へでも翔けて行ける。



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参加者:10人
作成日:2011/10/23
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