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ラッドシティ大飛蝗:秋空駆る残響

<オープニング>

●それは嵐にも似て
 射し込める黄金色の陽に、畑の土の状態を確認していた男は手を止めて空を仰いだ。吹き抜ける風は秋めいて涼しさを感じるようになったが、農作業に身を投じていれば未だ汗ばむ程だ。深く息を吐いて、彼は額を伝った一筋の雫を拭う。
 ――今年の秋も、例年に劣らず満足できる収穫となりそうだ。
 一面に広がる畑に実る南瓜や力強い甘藷の蔓に頬を綻ばせていた彼の視界に、空に浮かぶ澱んだ緑色の塊が微かに入ってきた。目を凝らし瞬けば、其れは更に増殖したように見え――僅かに聞こえ始めたブォンブォンと耳障りな低音が、其の塊が接近するにつれ大きくなってきた。
「な、何――」
 緑の塊の正体は、見るからに硬質そうな殻を持つ――飛蝗のバルバ達、インセクテアだ。飛翔していた其れらは、男が立つ畑に次々と降り立つと、手当たり次第に南瓜の実を毟り齧っていった。
「サァ、喰イ尽クセ! 全テ、我ラノタメニ実ッタ物ダ」
 群れを成したインセクテアの中心、一際大きい体格のインセクテアが刺々しい鞭を撓らせて叫ぶ。そのインセクテアの腹部に、歪んだ笑みの仮面が憑いていることなど、気付く者はその場にいない。其れの声に応えるようにして南瓜を貪るインセクテアの口許には鮮やかな黄金色が飛び散り、広大な畑が粗暴に掘り起こされる。
「や、止めてく――」
 突然の事態に暫く呆然としていた男がはっと我に返って阻止に向かうも、制止の声は最後まで発せられなかった。先程命令していた指揮官らしきインセクテアが、ギン、と紅い不気味な双眸を向けて哮ると、男は足元から猛る炎に包まれたのだ。異変に気付いた村人達が畑へとやって来たが、インセクテア達の様子に恐れを成して逃げ惑う。
「カナリ満腹ダ……喰イ過ギタ」
「人間ドモを追ッカケテ遊ベバ、少シハ運動ニナルゾ」
 もはや炭となった物体と食べ滓しか残されていない畑には、インセクテア達はもう見向きもしない。逃げてゆく村人達を見て、ただケタケタと嗤う。そして再び群れを成して、低い羽音を奏でながら飛び立ち始めた。

●大飛蝗殲滅作戦
「アクエリオに蔓延っていた棘(ソーン)が消え去り、わたくし達エンドブレイカーがこの都市から旅立つ日もそう遠くなくなってきましたね」
 建造物と水が織り成すこの美しい都市を離れるのは、名残り惜しいですけれど。
 温かい紅茶を淹れたカップを手に、眩しそうにして窓の外を見遣っていた、天つ風の狩猟者・ナターリア(cn0011)だったが。そういえば、と席を同じくする同志へと声を掛ける。
「紫煙群塔ラッドシティの話は、もうお聞きになりましたか?」
 話によると、棘(ソーン)に覆われ、マスカレイドが出現し始めているという。そして、その都市へ一足先に向かっていたエンドブレイカー達から、重大な報せが届いたのだ。
 数週間後に開催される収穫祭に向けた準備の最中、マスカレイドインセクテアに率いられた千体以上のインセクテアが、農村の食料を喰い尽す。――彼らが視た情報だ。
 幸い、まだ少し先の事態で、現在のところインセクテア達はアクエリオとラッドシティの間に広がる森の中で戦力を整えており、ラッドシティへの移動の準備をしているところらしい。
 ――ならば最悪の事態となる前に森に向かい、集結しているインセクテア達を撃ち果たすだけ。
 誰からともなく零した想いに、ナターリアは「ええ」と瞳に強さを宿して頷いた。

 情報によると、インセクテアの数は多いもののマスカレイド自体は少ないようだ。数体いる指揮官マスカレイドが、70体程度のインセクテアを配下に率いており、群れ毎に戦闘訓練をおこなっているらしい。この群れが多数集まって、千体以上にも上るインセクテアの集団を作っているようだ。
「そのため、今回は、エンドブレイカーでこの群れひとつずつに対して一斉に攻撃を仕掛け、インセクテアの集団を壊滅させる作戦を取ることになりました」
 この作戦ならば、襲撃を察知したマスカレイドが逃亡したり、或いは、群れを統合して反撃に出たり、といった事態を防ぐことが出来ると思われるからだ。
 戦闘が始まると、マスカレイドはまず配下のインセクテアを迎撃に向かわせるだろう。
「最初は、これらとの集団戦が発生すると思われます」
 ふと考えるように口許に手をやり、ナターリアは続ける。とはいえ、通常のインセクテアならば知れた相手であり、エンドブレイカー側もある程度纏まった戦力で挑めば勝利出来るだろう。
 しかしマスカレイド化した指揮官インセクテアとその直属が相手となれば、侮る事はできない。始めの集団戦で戦線離脱してしまうエンドブレイカーの数が多い場合はかなりの苦戦を強いられる可能性がある為、マスカレイド相手でないからといって前哨戦での油断も禁物だ。
「皆さんが対峙する指揮官マスカレイドは、鞭と灼熱の炎を自在に操るインセクテアのようです」
 強く鞭を巻き付けられると、それに着いた刺々しい突起が身に喰い込み、身体の自由を奪われるだろう。鮮血に似た双眸が接近する敵を捕らえると、一面に炎を撒き散らす性質も持つようだ。更に、指揮官の周囲を固める直属のインセクテアには精鋭が揃っており、マスカレイドに接近戦を持ち込むには困難が伴うだろう。
「それにしても――」
 声音を落として、ナターリアが一瞬言葉を切る。集ったインセクテア達がラッドシティに集結し、農村を次々と襲撃する事態は偶然であるとは言い難い。彼の都市内部に其れらを手引きする者が存在している可能性が零であるとは限らない。
「杞憂であれば良いのですが」
 やや苦笑を滲ませた表情で呟いた彼女だったが、集った同志達の姿を瞳に映すと、信頼を寄せるようにゆるく微笑んだ。
 ――いってらっしゃい。御武運を。


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<リプレイ>

●荒れる翅音
 遠目で判別できる程に色付き始めた葉が飾る森を更に分け入るように、遊悠月・ルゥ(c00315)が鷹の目を飛ばす。聴覚を研ぎ澄ませていた、遊剣・ユカラ(c03945)の感じた耳障りな翅音の位置を、ルゥの瞳が捉えた。
「――見つけた」
 彼の呟きに、スカーレットの魔音切り貼り人・フィル(c00260)が鍔広の赤い帽子へ手を掛けた。新しく向かう場所に手を出させはしない――彼女は自信に満ちた眼差しを森へと向ける。
 棘に覆われた『紫煙群塔ラッドシティ』もこの時期、収穫祭を目前に控えている。それに向けた収穫物を喰い尽そうと準備を整えている飛蝗の群れを野放しにするエンドブレイカー達ではない。射程に収めるなり仕掛けた彼らの攻撃に、インセクテア達は浮足になる。
「わるいむしさんは、たいじちゃうのです」
 迎撃態勢に入ろうとするインセクテアを、ふわふわ眠り姫・ロゼリア(c00690)が喚んだ羊の星霊が眠りの世界へと陥らせた。人々が汗水流して働き育てた農作物を好きにはさせないと、星の詠み手・アスタル(c03694)が続く。次々と崩れ落ちる其れらを一瞥して駆けた、凛の風・ツバキ(c05161)が荒らぶる気を籠めて刀を振り下ろせば、梟爪闇翼・フェイ(c03258)を乗せた小型恐竜が獰猛な牙でインセクテアの足を噛み千切った。
「まずは敵数を減らすことが優先じゃ」
 天つ獣・ジジャ(c25840)が巻き起こした竜巻は宣言通りに複数のインセクテアを襲ってゆくが、繰り出されるエンドブレイカー達の攻撃に彼らも黙ったままではいない。
「敵ダ! 敵襲ダ!」
 騒めく群を成す個々が発し鞭を撓らせて迎撃へと転じ始めるが、突然のことに、統制が行き届く筈もなく。永誓の蒼き隼・ミュルス(c04654)が行く手を示せば、楽しい狩りの時間の開始に喉を鳴らした銀狼が疾走する。銀月・アルジェン(c02363)が叩き付けた大剣の衝撃音に混じるように、眠れる灰色熊・アレクセイ(c01422)が騎乗するグランスティードが蹄を立てた。「悪ぃな」と彼が口にした言葉とは裏腹に、インセクテア達の進行を阻むようにしてグランスティードが容赦なくインセクテアを踏み潰すと、陽下藍玉・レイナ(c02871)が疾風のように槍を舞わせた。
「また誰かに扇動されたのかしら?」
 反応を伺うように彼女はちらりと視線を巡らすも、見当たらない仮面の存在に再び槍で風を斬れば、矛先で外皮を抉り剥がされたインセクテア数体が痛みに耐え切れずに意識を失った。
 星の名を持つ銀の双剣へ輝く光を集中させた、黒焔・グレン(c09850)がインセクテアの肩から胴へ斬り込めば、彼の後方で、彩歌・ノア(c10055)が歌を紡いだ。愛しい世界への祈りを乗せた彼の歌声は森へ響き渡り、インセクテア達の警戒心を奪ってゆく。
 インセクテア達の迎撃により増え始めた仲間の傷は、星を探す娘・ナージャ(c02152)の解錠した楽園の門からの光が塞いでゆく。
 集った軍勢を裏で操る存在が誰なのか突き止めたいと思うのは、妖眼の斑猫・パーフ(c10803)だけではない。けれども。
「まずは、不幸な終焉の回避、だ」
 彼女が向かわせた邪剣に追随し、タイガーアイの宝玉獣・レイ(c11161)が大地へと打ち付けた重量感のあるハンマーから波紋した震動が、インセクテア達の平衡感覚を崩す。そこへ、先程鞭に縛られた足元を庇いながらも、ロイヤルガード・トーティス(c01218)は纏ったオーラの獅子を向かわせた。
 濡羽の髪を風に踊らせてユカラが奏で始めた魔曲の旋律に、フィルの紡ぐ魔曲が重なる。すると、現れた幻獣達は群を成してインセクテア達を呑みこんでゆく。
 共に戦場に立つ傍の者へ向けるのは、憂いと誇りが混ざる感情。電流を操り拡散させてゆく、月杜の翡翠・シャラ(c19613)と同様の想いを抱いて、海底ノ束縛・ブルー(c20065)も毒の刃を投げ付ける。
 頭数では自分達より多いインセクテアに対峙していたエンドブレイカー達であったが、所詮仮面憑きではない相手。一行は次々と蹴散らしてゆき、瞬く間に数は逆転する。
 魔獣の血が滾る腕を巨大化させて、銅色斧鉞・ジーク(c03342)は狙った躯を握り潰す。飛び散る肉片を目の当たりにした別のインセクテア達から報復のように鞭を向けられるが、前線を選び取った者として彼は進む足を止めない。幸運の旋律・リーリア(c02014)が張り巡らせた炎の結界が、気分はもう休憩・エリアル(c22430)が放った呪いの蛇影が、次々と動きを封じて前線を行く者達を手助けする。
「どちらが集団戦として優れているのでしょうね?」
 緩やかな仕草で半月の軌跡を描いて外殻を斬り付けた、花凪ぐ白夜叉・スバル(c14069)が皮肉混じりに口にした問いに対する答えは、今や戦場を一目すれば明らかだ。
「突破口を開くぞ!」
 鞭を身に受けながら攻防を繰り返していた、白き狼の守護者・ネス(c06480)の号令に頷き、コスモスの花びら・シアリズ(c02856)が援護する。白き闇の彷徨者・ヴァネッサ(c15466)が魔法と刃の風圧が織り成す衝撃波を仕掛ければ、旋風の呼び手・レーセンティア(c21317)も妖精達を向かわせ、弓の狩猟者・アルレッキーノ(c23554)が狙いを定めた矢はインセクテアの瞳を撃ち抜いた。
 前線を担う者達に蓄積してゆく傷の痛みは、花紺青・レラジェ(c22265)の妖精が描く恵みの輪により和らげられる。途切れぬ路の先へ・リーフィルーナ(c04055)の喚んだスピカが鞭に傷を抉られたアレクセイの腕を抱き締めれば、ひゅぅと口笛を吹いて彼は感謝を示した。
 星呼び・シャルル(c00340)の喚んだヒュプノスが、この一群を成す最後のインセクテアを眠りの世界へ迷い込ませ、群を指揮する仮面憑きのインセクテアとその親衛隊へと繋がるだろう道を完全に切り拓いた。
「インセクテアという事は、カーニバルとやらに関係がある筈」
 達観したような視線でシャルルは先を見遣った。立ち止まる瞬間すら惜しんで、一行は駆ける。森の更なる奥へと――。

●森のさわめき
 茂みを増した森の奥へと足を踏み入れた、燻る焔・ハルク(c01816)が異変を察知して赤褐色の外套で身を庇う。すぐ傍で感じる熱に、「漸く」と安堵と昂揚を唇の端に滲ませながら墨色の瞳で先を睨んだ。魔獣化させた腕で殴りかからんと地を蹴った兄の背に、花渫う風・モニカ(c01400)は「無茶しないでよ!」と叫び見送る。先程よりも頑丈そうな外殻のインセクテア数体の後方に垣間見えた白い仮面に気付いたのは、彼女達だけではない。
「俺達も行くぞ」
 くるりと棍を構え直して、獅子星・ウセル(c00535)が駆け出す。「背中は任せる」との言葉は竪琴の深い藍色の弦へと手を添えた、蒼風詩篇・キウ(c06943)へ告げて、縦横無尽に棍を操ってインセクテア達の躰を強かに薙ぎ倒した。先鋒となって斬り込んでゆくウセルの背に、共に立ち向かう信頼する仲間の姿に心強さを感じて、鵬狩・イド(c02478)も後に続く。彼が繰り出す棍の回転に巻き込まれ躰を捩らせるインセクテア達へ、デイブリンガー・アスラ(c02268)が更に一撃を重ねた。足元を払われて一瞬バランスを崩した其れらだがすぐに態勢を整え、次に迫り来る、暁烏・キーツ(c06089)の影が形成する巨大魔人の拳を、その堅い殻で以って受け止めた。拳で外殻を減り込ませたまま腕を震わせた魔人が漲らせる力が、キーツの身へと流れ込む。
「……ちょっとは楽しませてくれるみてぇだな」
 咥えた煙草から燻る紫煙の先で蠢くインセクテア達を一瞥し、彼は口端を僅かに吊り上げた。
 流石マスカレイド化したインセクテアの取り巻きと謂うべきか。精鋭部隊と表現するに相応しい強靭な肉体の手応えは、乱舞させた魔獣の爪を其の肉体へと喰い込ませるまでの感触で解る。それでも自身の倍の背丈はあろうかという目前の敵へとジジャは怯まずに立ち向かってゆく。
「邪魔ナ人間ドモメ。排除シロ!」
 マスカレイドが撓らせた鞭が周囲の枝へ衝突して、葉や小枝が散り散りに零れ落ちる。それを合図とするかのように「排除ダ!」と口々に繰り返しながら数多の強靭な鞭が森の中で乱れた。
「秋嵐……で済ますにゃ程度が酷ぇな」
 広く取った視界に収めた姿以上に煩わしい翅音へ、鞭を撓らせる音へ、空即・カンロ(c03786)が不快感を露にして槍を振るった。カンロの魅せる鮮やかな槍捌きは幾本にも分裂する鞭を弾き返しても休むことなく、流れるように穂先は大地へと突き刺さる。次いで彼を中心にして鋭く突き上がった槍山は、周囲のインセクテア達の細い脚を穿ち、血溜まりが広がってゆく。
 育てた実りを掠め取り、徒に生命を狩る――彼らの其の行為が許せないと静かな怒りを胸に秘めた、ナジュムの霧・レサト(c02802)の召喚した黒霊剣がインセクテアの躯を地へと沈ませれば、勿忘草・ヴリーズィ(c10269)が戦況を把握しようと巡らせていた深いブラウンの双眸がそれにより生じた僅かな空間を捉えた。
「その隙、閉じさせはしないよ……!」
 ふわりと宙へ掲げた彼女の指先付近に集結した妖精達が広範囲に布陣するや、鋭い針を手にして指揮官へと突撃する。それだけでは収まらず、隣接するインセクテアにも向かう妖精達の煌きに混じって、黄金色が舞った。揺華・ルナ(c15311)が創り出した蝶の群だ。森を飛翔しながら散らした毒鱗粉が外殻へ付着し、眩すぎる輝きを直視したインセクテアは精神を乱される。
「向かう新しい都市……憂いは少しでも晴らして行きたいものだ」
「それに収穫祭、楽しみたいんだから」
 斧剣からオーラの刃を放っていた、水琉・ファルク(c08807)が頃合いを計って木々の隙間を潜り抜け、仮面の憑いた指揮官に張り付いた。その彼とは対照的に、碧天ドロップ・ボリス(c02797)は木々の枝を足場に身軽に飛び移り、指揮官の頭部を着地点に選ぶ。ブーツに仕込んだ羽に似た短刀を捻じり込ませると、其れは低く呻いて息を吸い込んだ。
「オノレ!」
 マスカレイドの叫び声と同時に、一面に炎が翔け廻る。マスカレイドの意識を惹く為に間近で対峙するファルクだけでなく、距離を置いたエンドブレイカー達の身を、容赦なく熱した。炎が収束をみせると、緑風を抱く・ヘイゼル(c05936)はすぐさま穏やかな癒しの風を森へと導かせた。水色を帯びた薄灰の瞳は、普段の柔らかな物腰の彼女からは想像できない程に鋭く仮面を射貫く。蒼い扇で薙ぎ、蒼空奏想・パルティナ(c03293)もまた風を呼んで仲間の痛みを鎮めようと試みるが、それでも足りないと手を求めれば、琴弦を強く弾くことでキウが応えた。エンドブレイカー達も含め、収穫祭を待ち望む人々の心を弾ませるような明るく躍動感のある旋律は、先程まで聞こえていた不快な翅音を一瞬にして掻き消した。
 お祭りの前だもの――怪我なんて、させない。

●風のささやき
 大樹へ叩き付けられたインセクテアがそのままずるずると崩れ落ちる。鬼綱・ライデン(c04776)が大きく振るったハンマーが指揮官を囲う対象を排除すれば、その綻びを埋めようと別の個体が割り入ろうとする。
「邪魔者を喰い止める」
 魔犬の猟兵・エン(c00652)が周囲へ協力を仰ぐ。狂気に彩られた笑みで誤魔化そうとするのは、心の奥底に見え隠れする戦いへの恐怖。敵の進攻を抑えようと篭手に仕込んだ刀でインセクテアの躯を分断すれば、混沌のデモニスタ・アムゥレファル(c04347)が具現化させた翼から破壊光線を放って彼に応じた。これで運動不足も少しは解消されるだろうか――「なぁ?」と最早動かないインセクテアの躯を見下すように、薄く笑む。動きを鈍らせたインセクテア達を、黒鋼の守護獅子・アルヴァード(c04639)の撃ち出した刃のオーラが完全に摘み取った。
「ラッドシティの人々が育てた実りは、お前達のものではないよ」
 どさり、と重力に逆らうことなく倒れてゆく姿を、彼は黒い双眸で静かに見つめる。数多のエンドブレイカーの猛攻により、残されたインセクテアはもはや指揮官のみ。
「お前達だけで、こんなことをしているの?」
 脳裏を過ぎった疑問をヘイゼルは口にする。白銀の長剣を手に疾駆する彼女の攻撃を防ごうと咄嗟に構えた鞭を、ヘイゼルは絡め取るように刀身で捻じり上げ弾き、力を蓄えていた腕を痺れさせた。
「我々ハ、喰イ尽スダケダ」
「――君等には釣り合わないディナーだと、思わないかい?」
 食欲の塊としての返答しかないマスカレイド化したインセクテアへ、棺中諧謔曲・アリスティド(c11138)は倍増させた力で以って迫る。追い詰めてしまえば、彼らを手引きした人物等といった何らかの情報を引き出すことが出来ると考えていたが――。
 群を率いる指揮官とはいえ、その群も数多いうちのひとつ。所詮飛蝗のバルバに仮面が憑いた程度では有力な情報を持ち合わせていないようだった。
 ならば。
「終焉を変えてみせよう……!」
 宵闇の月を抱く駒鳥・ムルムクス(c15826)が風を切るように魔鍵を振るれば、見えない衝撃により指揮官の躰が波打った。どんな思惑があるにしろ、被害を出すのは胸が悪い――「残らず駆逐させてもらうわよ」とヴァネッサが口にした言葉の通り、木々の隙間から繰り出された彼女の多重射撃は指揮官を逃がすまいと狙い撃つ。
 イドが指した方向へと疾駆する犬のスピリットが、指揮官の脚を狙った。
「そういえば」
 蝗って、甘辛く煮付ける料理法があると聞いた気がしますが。
 今し方噛み千切ったインセクテアの躰の一部を加えたスピリットの姿に、イドが思い出したように呟くと、
「……俺は喰わんぞ」
 薙ぎ払う際に付着したインセクテアの血肉の汚れを払うように棍を強く振りながら、ウセルが肩を竦めた。苦笑を滲ませる彼らの表情を気にしながらも、キウは伸ばした掌から白銀の鎖を創り上げて、指揮官の身へ向かわせる。大人数のエンドブレイカーからの攻撃を受け、既に気力を消耗していた其れへ、鎖は容易に追い付いて、強い力を持って絡み付いた。
 指揮官へ肉薄してからというもの、素早い動きを伴って蒼刃の太刀で弧を描きつつ応戦していたミュルスの傍から突然、銀色のコヨーテが跳び出した。
「刃と銀狼の協奏――お代の代わりに、貴方が苦しみ消える様を見せてくれないかしら」
 首を噛み付かれて指揮官は一度大きく躰を振るわせ、そのまま動かなくなった。
 先程までのざわついていた音が嘘のように、辺りは静けさに満ちる。飛蝗の頭部がぽとりと落ちた音が、異様に響いた。
 ラッドシティへ集ってゆくインセクテア達による農村への強襲――その終焉は破壊したけれども、胸に残るのは嫌な予感。それが杞憂であるようにパルティナは祈る。
 それでも森を駆け抜ける風にはもう、畑が荒れる予兆に対する憂えを感じない。動かなくなったインセクテア達へ向けていた無表情な視線を外して、ミュルスは緩やかに瞼を閉じ、穏やかな風に髪を靡かせた。



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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:54人
作成日:2011/10/19
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 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
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<戦闘結果>

●Battle1(勝利!)


順位戦功点名前
1382永誓の蒼き隼・ミュルス(c04654)
2306幸運の旋律・リーリア(c02014)
3294獅子星・ウセル(c00535)
4274星呼び・シャルル(c00340)
5258天つ獣・ジジャ(c25840)
6241陽下藍玉・レイナ(c02871)
7212眠れる灰色熊・アレクセイ(c01422)
8207ふわふわ眠り姫・ロゼリア(c00690)
9196星の詠み手・アスタル(c03694)
10193白き闇の彷徨者・ヴァネッサ(c15466)
11188空即・カンロ(c03786)
12164蒼空奏想・パルティナ(c03293)
13156蒼風詩篇・キウ(c06943)
14146緑風を抱く・ヘイゼル(c05936)
15143コスモスの花びら・シアリズ(c02856)
16134鬼綱・ライデン(c04776)
17133暁烏・キーツ(c06089)
18131鵬狩・イド(c02478)
19121黒鋼の守護獅子・アルヴァード(c04639)
20116銅色斧鉞・ジーク(c03342)
21115白き狼の守護者・ネス(c06480)
22107勿忘草・ヴリーズィ(c10269)
22107宵闇の月を抱く駒鳥・ムルムクス(c15826)
24100碧天ドロップ・ボリス(c02797)
2597スカーレットの魔音切り貼り人・フィル(c00260)
2695遊悠月・ルゥ(c00315)
2792海底ノ束縛・ブルー(c20065)
2889ナジュムの霧・レサト(c02802)
2988花紺青・レラジェ(c22265)
3087魔犬の猟兵・エン(c00652)
3185旋風の呼び手・レーセンティア(c21317)
3284黒焔・グレン(c09850)
3380梟爪闇翼・フェイ(c03258)
3479混沌のデモニスタ・アムゥレファル(c04347)
3479水琉・ファルク(c08807)
3678気分はもう休憩・エリアル(c22430)
3772揺華・ルナ(c15311)
3870妖眼の斑猫・パーフ(c10803)
3968タイガーアイの宝玉獣・レイ(c11161)
4064銀月・アルジェン(c02363)
4162デイブリンガー・アスラ(c02268)
4261遊剣・ユカラ(c03945)
4351途切れぬ路の先へ・リーフィルーナ(c04055)
4446棺中諧謔曲・アリスティド(c11138)
4545弓の狩猟者・アルレッキーノ(c23554)
4644花渫う風・モニカ(c01400)
4743月杜の翡翠・シャラ(c19613)
4743トオノ・ルルーノ(c03337)
4939凛の風・ツバキ(c05161)
5036ロイヤルガード・トーティス(c01218)
5135彩歌・ノア(c10055)
5227花凪ぐ白夜叉・スバル(c14069)
5322星を探す娘・ナージャ(c02152)
5419燻る焔・ハルク(c01816)